ここで焦っても仕方ない。慎重に、慎重に、ちょうど岩と岩の中間地点を通って行くのがより良いに決まっている。
岩が近付いて来た。
左側の海面には渦潮のようなものがある。カリュブディスはあそこに棲んでいるのか。近付いたら、あれが僕を呑み込むに違いない。
近付けば近付くほど渦潮が大きくなってくる。恐ろしいが、今自分が取っている進路が、正確な進路である。少しでも右側に舵をとったら、スキュラに喰われてしまう。慎重に、慎重に・・・
僕は自分に言い聞かせる。行ける、行ける、生きるんだ。
すると、突然・・・
グワッ!!!
右手から巨大な怪物が大きな口を開けて迫ってきたのだ。スキュラだ!
予期はしていたが、さすがに驚いた。
ちょうど真ん中を通っているのだから、その口は僕には届かないはずだった。しかし僕は思わず舟を左寄りに動かしてしまったのだ。
今度は、左手の海面に変化が起こる。渦潮が一気に巨大化し、僕の舟は瞬く間にそれに巻き込まれる。
僕は舟から投げ出され、海中に呑み込まれて行った・・・
もの凄いスピードで回転しながら落ちていくのを感じた。
どこまで落ちるんだろう?
落ちれば落ちるほど、回転が遅くなっていく。落ちる速度が遅くなっていく。
螺旋の半径はだんだん小さくなっていく。一緒に落ちていった舟や食料は既にどこかに消えてしまっている。
この螺旋の一番下はどうなっているんだろう?
突然、螺旋が消え、ストン、と地面に落ちた。
地面?海底?よくわからないが、普通に息を吸うこともできる。というか、海の中ではないようだ。
目の前には女がいる。カリュブディス・・・?。思わず僕はつぶやいていた。
「あら、私のこと、知ってるの?」
この一見華奢な女が、どうやってあの凄まじい渦潮を作ったのだろう。
カリュブディスとはもっと巨大な怪物なのかと思っていた。予想もしていなかった姿に驚いた。
絶世の美女、というわけではないが、どこか妖艶な雰囲気。病的なほど真っ白な肌に、毒々しいほど真っ赤な唇。
一糸まとわぬその裸体をじろじろと眺める僕に、カリュブディスは呆れたような声で言った。
「まあ、いいわ。それより、お腹がすいたの。食べていい?」
どうやらこいつは俺を食べる気らしい。どうやって食べるのかがよくわからないが、どうにかしないと命がない。生きるためには戦って勝つしかない。問題は、どんな動きをする怪物なのか皆目見当がつかない、ということだ。
まずは距離を置こう。ゆっくり迫ってくるカリュブディスを横目で見ながら素早く移動した・・・はずだった。
次の瞬間、カリュブディスが口を大きく開けたのが見えた。そして息を大きく吸うような素振りをすると同時に・・・
うわぁあああああああああああ
僕は、今まで感じたことのないほどの恐怖に襲われた。
カリュブディスの口の中に向かって凄まじい空気の流れが生じ、僕の体も、まるでブラックホールに吸い込まれるかのように口の方へと引き寄せられたのである。逃げようとしても、地面に這いつくばっても、まるで歯が立たない。
僕を足下まで引き寄せたところで、カリュブディスは吸い込むのをやめた。
「私の力を理解していなかったようね・・・この洞窟に来てしまった以上は、もうどこにも逃げられない。どこに行っても、私に吸い込まれてしまうの」
どうやらこの女には勝てないようだ。
しかし、待てよ。いくら吸い込むっていったって、体のサイズは人間と同じ。口のサイズも人間と同じ。人間を吸い込むなんて物理的に不可能だ。
その時・・・
「あら、また獲物が来たようね・・・」
カリュブディスはそう言って大きく深呼吸をして、息を吸い込み始めた。すると、またそのブラックホールのような口の中に向かって逆さの竜巻が生じる。その竜巻はどこまでも上に続いているように見えた。これから何が起るのだろう。
しばらくすると、一匹の人魚が、ストン、と落ちて来た。数日前に見たセイレーンの一味だろうか。
人魚はカリュブディスの姿を認めると、もの凄い目つきで睨みつけ、鋭いサメの歯をかざした。こうなると、カリュブディスも下手に吸い寄せられない。却って自分が切り刻まれてしまう可能性がある。
人魚は自分の優勢を悟ったのか、じりじりと近寄っていく。
カリュブディスは、にたにたと笑いながら言った。
「海中ならともかく、ここであなたがどうやって私に勝つというの?」
人魚はそれに対し、返答する代わりに尾の一撃を繰り出した。カリュブディスは素早く逃げる。間髪を入れずに人魚は、尾とサメの歯を用いて次々に攻撃を繰り出す。カリュブディスは身軽にかわし続ける。
立つことができない人魚の攻撃は、素早いとはいえ単調であり、すっかり読み切られている。カリュブディスは岩に飛び乗り、馬鹿にしたように言う。
「あなたの尻尾はここまで届かないでしょう?お馬鹿さん」
言い終わらないうちに人魚はその岩に尻尾を叩き付ける。たちまち岩は粉々に砕けた。もの凄い力だ。しかし、それよりも一瞬早くカリュブディスは逃げた。
人魚とカリュブディスのおいかけごっこは延々と続いた。激しい攻撃を繰り出す人魚。せせら笑うかのように逃げるカリュブディス。
そして・・・
「あなたも意外と頑張ったわね。でも、もう、力は残っていないはずよ。人魚の力なんて、所詮その程度」
「黙れっ!」
人魚は叫び、最後の力を振り絞るかのように尾の一撃を繰り出した。カリュブディスはそれを片手で防ぐと、尾びれの付け根をつかんで片手で人魚の体を持ち上げて放り投げる。
地面に叩き付けられた人魚は、立ち上がって今度はサメの歯で切り掛かる。しかし、これもカリュブディスに押さえつけられ、サメの歯を取り上げられてしまう。
「可愛い子ね・・・こんなもので勝てると思ってたの?」
人魚は弱々しく尾をカリュブディスの足にぶつけるが、また地面に叩き付けられてしまった。
傷だらけになった人魚は、うずくまりながらも、どうにか両手をついて立ち上がろうとする。
すると・・・
カリュブディスは人魚を蹴って仰向けに転がしてから、人魚の両脇を両手で支えて立ち上がらせた。人魚の豊満な胸が、ぷるん、と揺れる。
「柔らかくておいしそう・・・」
舌なめずりをするカリュブディス。
人魚は諦めたかのように天を仰いだ。
カリュブディスは人魚を抱き寄せ、その美しい首筋に唇を近付ける。
二度、三度と舐めた後、大きく口を開いて首筋に噛み付いた。
その次の瞬間、人魚の、断末魔の叫び声が聞こえた。
カリュブディスのもの凄い吸引力により、人魚の体の柔らかい部分はどんどん口の中に吸い込まれ、一分と経たぬうちに人魚は骨だけになってしまったのである。
ややお腹の大きくなったカリュブディスは、満足そうに舌なめずりをした。そして、次はお前の番だぞ、と言わんばかりに、こっちに向けて口の中を見せつけてきた。
あの口に、吸い込まれて死ぬのか・・・
すっかり腰が抜けてしまった僕は何もすることができない。
「このお口、すごいでしょ。あなたも、今の人魚みたいに、私に食べられてしまうのよ・・・」
カリュブディスは、大きくなったお腹を何度かさすった。みるみるうちにお腹の膨らみは消え、もとの痩せた体に戻った。完全に吸収されてしまったようだ。
「お腹がすいたわ」
え?今食べたばかりじゃないか。
「私は呪われているの。どんなに食べても、お腹がすいたまま。・・・もう我慢できないわ」
いきなりカリュブディスの顔が目の前に来た。
抵抗する間もなく、カリュブディスに唇を奪われる。
逃げようとしたが、がっちりと抱きとめられてしまっているため、どうすることもできない。
僕の唇と重なったカリュブディスの唇がゆっくりと開き始める。
喰われる・・・
このまま食べられてしまうのがわかっていて、何もできないでいる。
恐怖のあまり、僕としたことが、涙がボロボロとこぼれ落ちている。
しかしカリュブディスは、僕を吸い込む代わりに、舌を入れて来た。ディープキスだ。このままどうする気だろう。
その気になれば僕を一気に食べてしまうこともできるこの絶対者に、もう、されるがままになるしかないのである。
・・・こんなキス、はじめてだ。
恐怖の一方で、僕は異常な快感を覚えていた。吸い込まれるようなキス、と言うべきだろうか。それとも、呑み込まれるようなキス、というべきだろうか。カリュブディスは明らかに僕とキスをしながら僕の何かを吸い込んでいる。
このまま喰い殺されてしまうかもしれない。生と死の狭間でのキスは、あまりにも甘美であった。
僕の股間部分に変化が訪れたことに気付くと、カリュブディスは素早く僕のズボンを降ろす。そして、慣れた手つきで堅くなった一物を手に取り、ペロリと舐めてきた。この口でフェラしてあげるの、と言わんばかりに大きく口を開いた。一度に恐怖心と高揚感が襲ってくる。こんな口で舐められたら、どうなってしまうんだろう。
かぷ。
カリュブディスのフェラチオが始まった。
ところが・・・
じゅるじゅるじゅる・・・
え?これはおかしい・・・
カリュブディスの口の中に、僕の精液が、どんどん流れ出ている・・・
まだ絶頂に達していないのに、どんどん吸い出されている・・・
無理矢理に精液が吸い出されることによって快感が生じ、ますます精液が勢いを増す。
まず快感によって射精がもたらされるのではなく、射精によって快感がもたらされる。
その快感によって絶頂に追いつめられ、吸い出される精液の流れがますます激しくなり、快感が増していく。
僕の体から放出される精液の流れは留まるところを知らない。
いや、カリュブディスが吸い出している液体が、本当に精液だけなのかどうかすら怪しいものだ。
僕の体そのものがカリュブディスに吸われているような気がする。
ごくん、ごくん、・・・
カリュブディスはまるでストローからジュースを飲むような調子で、僕のことを飲んでいる。
絶頂がずっと続くようなこの快感。
ごくん、ごくん、・・・
自分の体積が少し減ったような気がする。気のせいではないだろう。さっきまで僕の体の中に流れていたものが、目の前にいる妖女の喉を通って、真っ白なお腹の中に流れ込んでしまっているのだから。
ごくん、ごくん、ぺろり。
カリュブディスは僕のペニスから口を外し、右手で口を拭った。
永遠に続くかと思われた快感が突然終わる。
物足りなさそうな顔をした僕に、カリュブディスは言う。
「もっと飲んで欲しかった?ダメよ。これ以上飲んだら、あなた、死んじゃうわ」
え?じゃあ、殺さないでくれるのか?
「・・・私は、生きたままの新鮮なお肉が食べたいの」
やっぱり助からないんだ。今度こそ食べられるんだ。
逃げなくては、と思ったが、足が立たない。僕はずいぶんと弱ってしまっているようだ。
カリュブディスの口が迫ってくる。
さっき喰われた人魚を思い浮かべた。僕もああいうふうに食べられるんだ。
僕の全身の肉がこの妖艶な怪物に喰いつくされ、あっという間に消化されてしまうんだ。
カリュブディスの口が僕の首筋に触れる。
ああ、もうダメだ・・・
カリュブディスが僕の首筋に歯を立てるのを感じた。
☆ ☆ ☆
気がつくと僕は冥界にいた。
オデュッセウスも旅の途中で一度は冥界を訪れている。可能ならいつかここから抜け出して、旅の続きをしてみたいものだ。というより、今冥界にいるのも、旅の一場面に過ぎないと思っている。
冥界でもいろいろな体験ができるだろう。それについても、そのうち報告したい。
では、その日まで。
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