淫魔の海のオデュッセイア




次の瞬間、僕は舟をセイレーンの島に向かって漕ぎ始めたのだ。

かすかに耳に入ってきたような気がする甘い歌声に誘われるように・・・



・・・



僕はぼーっと白い海岸を歩いていた。

足下に広がる一面の白骨がジャリジャリと音を立てた。

ふらふらと、どこかに向かっていた。

どこに向かっているのだろう。

おそらく・・・歌声の聞こえる方に向かっているのだろう。

右手に見える海は、夕日で真っ赤に染まっていた。

左手には・・・セイレーンがバサバサと猛禽の羽をばたつかせながら、ヒトの肉をついばんでいた。

鳴り響く歌声が、次第に大きくなってきているような気がする。

波の音も、自分の足音も、遠ざかっていくようだ。

目の前の山も、右手の海も、足下の白い海岸も、だんだんと遠ざかっていくようだ。



ふわり



僕は浮かんでいるのだろうか。

下を見下ろすと、僕が歩いている。

次第に、眼下の僕の足取りは覚束なくなり、ばったりと倒れ込む。

うつぶせになった僕の体に、1羽、また1羽とセイレーンたちが群がってきた。



・・・僕が食べられ始めた。



じゃあ、この僕は何なんだろう。

浮かんでいるような気がするのは、魂だろうか。

魂だけになってしまったのだろうか。

僕の魂は、どこに向かっているのだろうか。

やはり、歌声の聞こえる方へ?



風に吹かれるままに漂う僕。

山を越え、谷を越え、森を越え。

歌声はますます大きくなる。

山も谷も森も、とろけ始める。

海も夕日も白い海岸も、その中に混ざっていく。

景色が混ざって、渦を巻く。

肌色のクリームになって、渦を巻く。

その渦の中心に、僕は引き寄せられていく。



場面は切り替わり、僕は肌色の世界にいる。

歌声はすぐ近くから聞こえる。

僕はどこにいるのだろう。

肌色の世界の空がゆっくりと開く。

歌声はもっと大きくなる。



・・・



歌声が途切れた。

肌色の世界が開いた。

それは誰かの手のひらの上だった。

誰だろう。

歌声の主なのだろうか。

きっとそう。



一糸まとわぬ歌姫の姿に、僕は見とれていた。

歌姫は僕の魂を口元によせ、くちびるを近づけた。

僕は甘い香りに包まれた。

軽い口づけを、僕は全身で感じた。

柔らかいくちびるを、僕は全身で感じた。

歌姫は、そっと両手を開き始めた。

僕の魂は、その両手の間から、ゆっくりと、ゆっくりと、落下し始める。

歌姫の美しい首筋が見えた。

胸の谷間にそっと着地した。

胸の丸みに沿って、歌姫の体を、ゆっくりと、ゆっくりと、滑り降り始める。

歌姫のゆるやかなカーブを、僕は全身で感じた。

柔らかいお腹を、僕は全身で感じた。

歌姫の、もっと下の部分が見えてきた。

歌姫の扉が、うっすらと開き始めた。

僕の魂は、その中に向かっていった。

ゆっくりと、ゆっくりと、歌姫に包まれていくのを、全身で感じながら。



ゆっくりと、ゆっくりと。



・・・





☆ ☆ ☆






気がつくと僕は冥界にいた。

オデュッセウスも旅の途中で一度は冥界を訪れている。可能ならいつかここから抜け出して、旅の続きをしてみたいものだ。というより、今冥界にいるのも、旅の一場面に過ぎないと思っている。

冥界でもいろいろな体験ができるだろう。それについても、そのうち報告したい。

では、その日まで。





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