淫魔の海のオデュッセイア




恐るべき魔女、キルケに対して、僕は堂々と胸を張って言った。



人を食べるくらいなら、死んだ方がマシだ。この卑劣な悪魔め!



キルケは静かに言った。



「私の言うことを聞かないなら、私に何をされても構わないはずよね」



ああ、そうだ、何でもしろ、煮るなり焼くなり、好きなようにすればいいさ。もはや開き直っている。



「心は私の言うことを聞かなくても、体は何でも私の言うことを聞いてしまいそうね」



え・・・?

どういうことだろう?



突然、キルケが脱ぎ始める。

もの凄い体だ。

見ているだけで射精してしまいそうなほど・・・



「私で自慰していいのよ」



全裸になったキルケがおもむろに胸を揉み始める。自らの股間にも手を這わせ、体をうねらせ始めたのである。

何が起っているのかを落ち着いて考えようとする頭とは裏腹に、僕はズボンを降ろし始めてしまう。

既に先から透明の液体が溢れ始めている自分の一物に手をやらずにいられない。

そして・・・キルケの体を見ながら僕は自分の手で自分を射精に導いてしまったのである。

未だかつて見たことのないほどの魅力的な体を前に、1分も持たなかった。

まるで、精子たちが、先を競っているかのごとくこみ上げてほとばしっていく感覚に、ある種の絶望感を感じた。



「ほんとはあなたと晩ご飯を食べてから、あなたと交わりたかったの。でも、あなたが言うことを聞かないみたいだから、ちょっと予定変更ね。たとえば・・・」



キルケはここで一瞬間を置いて、指先をペロリと舐める。

つぅっと唾液が糸を引くのが見えた。

それを見て、僕の股間はまた熱くなって来てしまう。



「たとえば、あなたと交わってから、あなたを晩ご飯として食べてあげる、なんてのはどうかしら」



勝手にしろ!お前の体になんて興味はない!食うなら勝手に食え!

と、頭の中では必死に性欲を否定しようとしているが、既に僕はペニスを擦り始めている。



「口の中に出していいのよ」



キルケが膝立ちになって口を半開きにする。



だめだ!堪えなければ!あれは絶対にヤバい!



しかし、僕の足が勝手にキルケの方に向かって歩き始めてしまう。



30センチ・・・20センチ・・・10センチ・・・



もう自分の動きが止められない。

頭の中では、悪い予感が渦巻いているのだ。あの口の中に入れたら、大変なことになってしまうに違いない、と。

それなのに、それなのに、・・・



3センチ・・・2センチ・・・1センチ・・・



キルケの口が近付けば近付くほど、オルガスムが近付いてくる。

透明な液体だけでなく、もう既にだらだらと白い液体が漏れてしまっている。

もうだめだ!銜えられてしまう!



・・・ぱくっ



とうとう僕はキルケのフェラチオを味わうこととなる。

射精に導かれるまでは一瞬だった。

が、射精してからが長かった。

止まらないのだ。

興奮のあまり、立っていられなくなり、へなへなと座り込んでしまう。

そんな僕を容赦なく舐め続けるキルケ。

そして、座っていることすらできなくなり、ぐったりと仰向けに倒れてしまう僕。

こうなってしまえば、もうされたい放題だ。

キルケは僕の体の上で四つん這いになり、胸や尻、股間部などをこすりつけてくる。

僕のペニスは、緩んだ水道の蛇口のようにぽたぽたと精液を垂らし続ける。

意識が朦朧としてきた僕に、キルケは陰部を見せつけてきた。



「してあげる」



幾分勢いが弱まっていた蛇口が、その言葉を聞いてピクンと反応し、臨戦態勢に入る。

キルケが自らの陰部に入れようと掴んだ瞬間、僕はまた絶頂に至る。



「あらあら」



困ったように微笑んだキルケは、また射精が止まらなくなった僕のペニスを、射精させたまま自らの体に挿れてしまった。

快感も、度を過ぎると恐ろしいものになるようだ。目からは涙が際限なくぼろぼろとこぼれ、口からはだらだらと涎が垂れる。

射精する以上の反応。絶頂以上の快感。



「これくらいにしておかないと、死んじゃうわね」



キルケが突然性交をやめる。



「お腹がすいてきたわ。あなたの故郷では、どんな料理がおいしいのかしら?」



何だろう?刺身かな?

キルケが指を鳴らすと、僕の体は突然巨大な魚に変わった。いや、しかし、何かがおかしい。



「これがあなたの姿よ。かわいいでしょ」



鏡を見せられ、愕然とした。

首から上は僕のまま。首から下は魚の胴体。僕の「魚部分」が勝手に飛び跳ねている。どうやら、首から上と首から下は神経が繋がっていないらしい。



「こんな感じで調理すればいいのかしら?」



キルケは包丁を取り出し、・・・



やめてくれ!!!



生きたまま切り刻まれる痛みを想像し、僕は絶叫する。が・・・



「痛くないでしょ?もうあなたの首から下は、あなたとは別の生き物になってしまっているの。人間の神経と魚の神経が一本で繋がるわけがないでしょ」



そりゃそうだ。しかし、・・・



「とはいっても、魚になってしまった部分もあなた。あなたは私に食べられてしまうの」



いくら神経が繋がっていないからといって、やはり調理されているのは僕なのだ。

キルケは器用に僕を刺身にした。刺身をナイフとフォークで食べるというのはおかしいし、醤油もわさびも無いのではおいしくないだろう。

そんな心配をよそに、僕の体の一部がキルケの口に運ばれる。キルケは、わざわざ僕に見せつけるように、ペロリと舐めてから口の中に入れる。

残酷なほど美しい口元。深紅の唇。ぬらぬらと濡れる舌・・・



食べられているんだ・・・僕は・・・この美しい魔女に・・・食べられているんだ・・・



もの凄い興奮が僕を襲ってきた。

僕の息が荒くなってきたことに気付いたキルケは、僕の頬に口づけをする。

次々に食べられていく僕の体。この美しい悪魔は、僕の全てを食べようとしていた。



「首から上と、首から下。違う生き物になったとはいっても、命はひとつ。もうお別れね」



ん?何を言っているのだろう?意味が分からない。



あれ・・・



突然、さーーーっと血の気が引き、意識がくらくらとしてきた。





☆ ☆ ☆






気がつくと僕は冥界にいた。

オデュッセウスも旅の途中で一度は冥界を訪れている。可能ならいつかここから抜け出して、旅の続きをしてみたいものだ。というより、今冥界にいるのも、旅の一場面に過ぎないと思っている。

冥界でもいろいろな体験ができるだろう。それについても、そのうち報告したい。

では、その日まで。





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