ゾンビ娘


 

 「うわっ、遅刻だ遅刻ー!!」

 そう叫びながら、僕――深山優はパンを咥えて走っていた。

 走るといっても、車。

 さらに僕は、学生ではなく警察官なのである。

 ただし、今日この日から――

 

 「配属初日なのに、こんなに遅刻するなんて……!」

 そう。僕はこの楽裏(らくうら)市警察署に配備されたばかりなのだ。

 なんと、時計は午後の4時を回っている。

 初日からこんなに遅刻、では怪しまれるだろう。

 幸い道路は空いているので、制限速度を越えて車を飛ばす僕。

 まあ一応は警官である以上、余りスピードを出し過ぎるのも……

 

 ――妙だ。

 こんな時間なのに、道路はガラガラ。

 と言うよりも、走っている車はいない。

 いくらなんでも、これはおかしくないか――?

 

 「あの、もしもし……」

 不安になった僕は、署に電話をかけてみた。

 しかし、呼び出しコールがただ延々と鳴るばかり。

 いくら田舎の警察とはいえ、誰も応答に出ないという事がありえるのか?

 「くそ、どうなってんだ……!?」

 不安になってきた僕は、ひたすらに車を走らせた。

 空までがどんよりと曇り、不吉さを象徴している。

 一体、警察署に――いや、町に何が起きているのだろうか。

 

 

 僕は駐車場に車を止めると、署内に駆け込んだ。

 そこには、誰もいない。

 受付の人も、来客も、嘘のように誰も――

 そして、床のあちこちには血痕のようなものが付着していた。

 

 「ったく、どういう事なんだ……!?」

 事務の机の上には書類が散乱している。その上には、なんと拳銃もあった。

 ベレッタM92F、日本の警察で使用されていない銃である事は内緒だ。

 僕はその拳銃を手に取って、同様に散乱していた銃弾を込めた。

 幸い、腕っ節は弱いが射撃は大の得意である。

 

 「ん、これは……?」

 机の上には、メモのようなものが置いてあった。

 乱雑な文字で、短い文章が走り書きされている。

 


 『畜生、こんなことになるなんて。同僚はほとんどヤツラにやられちまった。
  このままじゃ、俺もヤツラの仲間入りだ。ここは、応接室に立てこもる事にするぜ。
                                            山田ひろし』

 

 非常事態によくこんなもん書く余裕があったな、とか、もっとはっきり状況を書けとかはいちいちツッコまない。

 ただ、日本人名だと雰囲気ブチ壊しだよな。

 

 「さて――」

 これは明らかに、応接室に来いということだろう。

 この警察署は、何度か下見に来た事がある。

 僕はメモをファイルに挟み、応接室へ急いだ。

 

 「や、山田ひろし先輩……?」

 彼のいるという応接室には、カギが掛かっていなかった。

 拳銃を構え、警戒しながら応接室へ侵入する僕。

 床は血の海。そして20代後半と思われる男が、血を流しながら壁にもたれていた。

 彼が、山田ひろし……!?

 

 「や、山田ひろし先輩ですか!?」

 「ああ…… お前は確か、新任の深山――」

 息も絶え絶えに告げる山田ひろし先輩。

 僕は彼に駆け寄った。幸い、傷はそんなに深くないようだ。

 「どうしたんです!? 何があったんですか、山田ひろし先輩!?」

 「なんでいちいちフルネームで呼ぶんだ……?」

 そう言いつつ、彼はポケットに手を入れた。

 「うう、これを……」

 そして山田ひろし先輩は、僕にカードキーを差し出す。

 「これがあれば、この署のかなりの場所に行けるはず……」

 「田舎の警察なのに、いちいちこんなので施錠されているんですか?」

 多分、それだけじゃないだろう。

 どうせ署内には石像を動かさないと通れない扉とか、変な仕掛けがいっぱいあるのだ。

 こんな摩訶不思議な警察署で通常の業務をこなしてきた警官達に、僕は追悼の意を示した。

 

 「……っと! それより山田ひろし先輩、いったい何があったんですか!?」

 「うう…… 俺はヤツラにはなりたくない……」

 「聞けよ、話」

 「深山…… 早くここから離れるんだ。もう、俺は……」

 もう、助かる見込みはないというのか?

 その割には、致命傷という訳ではないような――

 

 「あああ…… ぐぁぁぁぁ……」

 奇怪な表情、そして奇怪な唸り声。

 山田ひろし先輩は、先程までの衰弱が嘘のように立ち上がる。

 「や、山田ひろし先輩……!?」

 会話イベントが終了してゾンビ化、襲ってきた山田ひろし先輩を容赦なく撃退し、僕は応接間を出た。

 

 「とりあえず、このカードキーで……」

 やはり、こういう場合は署長室を物色すべきだろう。

 どうせ律儀にメモを残しているだろうし、強力な武器が手に入る可能性も高い。

 署長室は、確か2階――

 

 「……ん?」

 僕は、壁に吊るしてあった掲示板を見つけた。

 

 『今日、署長室に用事があったのだが、俺一人しかいなかったので入れなかったぜ。
  後で同僚の田中といっしょに行って、やっと入ることができたよ。
  二人で行かないと開かないなんて、厄介なドアだよな。やれやれ……
                                            森下トンヌラ』

 

 「なるほど……」

 やはり、署長室には変な仕掛けがあるらしい。

 しかも、どう見ても通常の業務に支障が出てそうだ。

 

 ずり、ずりずりずり……

 「な、なんだ……!?」

 引きずるような足音が、徐々に近付いてきた。

 それも、一人や二人ではない。

 

 「こいつは……!」

 廊下の曲がり角から、制服を着た警官のゾンビが姿を現した。

 両手を突き出し、無表情で足を引き摺りながら――

 僕は拳銃を構え、その頭部を正確に撃ち抜く。

 「よし……!」

 足音からして、ゾンビはまだまだいるだろう。気は抜けない――

 次に姿を現したゾンビにも弾丸をブチ込み、次々と現れるゾンビに拳銃弾を浴びせかけた。

 彼等は脳を破壊され、ばたばたとその場に崩れ落ちていく。

 

 「……」

 続けて姿を現したのは、3人の女性ゾンビ。

 3人とも若い女性で、うち2人は婦警の制服、1人は事務のスーツを着ている。

 ゾンビの体の崩れ具合には個人差があるが、この3人は比較的キレイな方。

 明らかに生気の無い顔はほとんど崩れておらず、体のあちこちから体組織が露出している程度。

 女性だからといって、遠慮は無用。彼女達はすでに死んでいるのだから。

 僕は素早く拳銃を構えた――

 

 「しまった弾切れだぁ!」

 構えたばかりの拳銃から、カチャリとマガジンが飛び出す。

 その間にも、ゾンビ娘達はにじり寄ってきて――

 

 「く、来るなッ……!」

 僕は背後に退がろうとして――背中が壁に当たった。

 ポニーテールの可愛らしいゾンビ娘が僕の肩を凄まじい力で掴み、押し倒してくる。

 「うわぁぁぁッ!!」

 僕はそのまま床に突き倒された。

 ゾンビ娘は、そんな僕の上にのしかかってくる。

 彼女の顔は青褪め、あどけない顔には全く表情がない。

 このまま、僕はゾンビ娘に肉を貪られて――

 

 ビリビリッ……!

 ゾンビ娘は、凄まじい力で僕の服を引き裂いた。

 なぜか上着ではなく、ズボンを―― さらにトランクスまで引き裂かれ、たちまち僕の下半身が露出する。

 

 「……」

 ポニーテールの可愛いゾンビ娘は、生気のない瞳で僕のペニスを見下ろしてきた。

 「な、何を……!?」

 そしてなんと、ゾンビ娘は僕の股間にまたがってきたのだ。

 まるで、騎乗位のような体勢で――

 その瞬間、僕はゾンビ娘がパンツを履いていない事に気付いた。

 ぬちゅ……と、僕のペニスと彼女の秘部が接する。

 しかし、挿入はされていない。

 僕のペニスは、柔らかいままだったからだ。

 

 「……」

 挿入されていないまま、ゾンビ娘は腰を上下させてくる。

 僕のペニスは、彼女の秘部でぺったんぺったんと押し潰される形になった。

 ゾンビ娘の体は冷たく、少し強張っている。

 そして僕の体と接して圧力が掛かるたび、彼女の膣内から粘液がドロドロと垂れた。

 僕のペニスに、ねっとりと粘液が絡み付く。

 

 「ああ……」

 その余りにエロチックな光景に、僕のペニスは隆起し始めていた。

 固くなり始めた肉棒に彼女は腰を何度も下ろしてきて、ますます刺激は強まっていく。

 相手は死体なのに、こんなの……

 

 「……」

 ゾンビ娘はおもむろに腰の動きを止めると、完全に固くなってしまった僕のペニスを右手で掴んだ。

 そして、自らの腐敗した膣にあてがう。

 「や、やめろぉぉぉッ!!」

 死体に犯される――

 僕は、その余りの背徳感に絶叫した。

 彼女は、もう死んでいる。

 おそらく、人間としての意思なんてない。

 そんな彼女の抜け殻に犯されるなんて――

 

 ぐじゅ、ぐじゅぐじゅぐじゅ……

 

 彼女のぬめった膣内に、僕のペニスは一気にはまり込んでいった。

 「ああ…… 中がぐじゅぐじゅだぁぁ……!」

 その余りの感触に、僕は一気に体を弛緩させた。

 まるで、ねっとりと絡み付くぬかるみにペニスを突っ込んだような感覚。

 死んだといっても、女が持っている男を悦ばせる機能は少しも衰えていなかった。

 いや、むしろ快感は増している。

 ゾンビ娘の膣はねちゃねちゃに粘りつき、壮絶な快感を僕に与えたのだ。

 

 「ああぁぁ……! ああぁぁぁぁ――ッ!!」

 僕は彼女の下で、体をのけぞらせて悶えた。

 「……」

 ゾンビ娘は、そのまま腰を振りたててくる。

 ぐちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅ……

 ねちゃねちゃにぬめった彼女の膣内で、僕のペニスは激しくシェイクされた。

 こんなの、我慢できるわけがない――!!

 

 「あッ……! イくッ! イく――っ!!」

 僕は絶叫し、彼女の膣を下から思いっきり突き上げた。

 どく、どく、どく、どく……

 同時に、ゾンビ娘の体内で白濁液が迸る――

 「うぁぁぁ…… ああぁぁぁ……!」

 射精している間にも彼女は腰をぐちゅぐちゅと揺さぶり、僕を徹底的に悦ばせた。

 死体の中に射精した――

 いや、死体に搾り出されたのだ。

 

 「……」

 彼女は、ゆっくりと僕の体から離れた。

 その股の間から、精液と粘液の混ざった液体がポタポタと垂れる。

 そうだ、すっかり忘れていた。

 他にも、2人のゾンビ娘が――

 

 「……」

 今度はショートカットのゾンビ娘が、僕にのしかかってきた。

 そして、まるで萎えないペニスを跨いでくる。

 そのまま彼女は、一気に自らの膣に挿入してきた。

 

 「うぁぁぁぁ――ッ!!」

 やはり、中はぐちょぐちょに粘っている。

 僕のペニスはその中を泳がされ、彼女の腰の動きに翻弄された。

 さっきのゾンビ娘は上下に腰を振っていただけなのに、今度の娘は違う。

 腰を前後左右に振り立て、様々な刺激を僕に伝えてきたのだ。

 ぐちゅねちゅぐちゅにちゅぐちゅぐちゅねちゅ……

 

 「うぁぁぁッ!! やめてぇぇ! また出るぅぅ……!」

 彼女の上半身が、喘ぐ僕の上にゆっくりと倒れてきた。

 僕の胸の上に彼女の大きなおっぱいが押し付けられ、無表情な顔が僕の眼前に迫る。

 ショートカットの良く似合う、非常に勝ち気そうな娘――

 彼女からは完全に生気が失われ、独特の淫靡さが漂っていた。

 僕にのしかかったまま全く動かない上半身。それに対し、下半身は僕の精を搾り取るべく振り立てられている。

 もうダメだ。このまま、彼女の中に――

 

 気合で抵抗する

 快感に屈する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「や、やめろぉぉぉぉぉッ!!」

 僕は、大声を張り上げた。

 当然ながら、そんな事がなんの抑止になるだろうか。

 暴れ叫ぶ僕を、ゾンビ娘は容赦なく責め立ててくる。

 ぐちゅ、ぬちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅ……

 

 「ああぁぁぁぁっ……!! で、出るぅぅぅぅ……!!」

 どくん、どく、どく、どく……

 ゾンビ娘から逃げるように体をよじらせながらも、僕はそのまま精液を吐き出した。

 「ああぁぁぁ…… 気持ちいいよぉ……」

 そのまま体を震わせ、彼女の体内にたっぷりと精液を送り込んでいく。

 生殖なんてできない、死んだ女性の体内へ――

 

 「……」

 次に動き出したのは、三人いたゾンビ娘の最後の一体だった。

 いかにも優しそうな事務のお姉さんが、無表情のまま僕にのしかかってくる。

 僕はこのまま、ゾンビ娘に輪姦され続けるのか――

 

 ――タタタタタタタタ!

 その瞬間、タイプライターのような銃声が響いた。

 同時に、僕の上で腰を振っていたゾンビ娘の頭部がスイカのように弾け飛ぶ。

 

 「な……!?」

 突然の出来事に、僕は凍りついた。

 廊下の向こうから颯爽と躍り出る人影。

 そいつが、マシンガンをゾンビ娘の顔面に食らわしたのだ。

 そして、その人物はなんと小柄で華奢な少女だった。

 年齢的には高校を卒業したばかりの僕よりも、少し下――16歳くらいだろうか。

 どうでもいいが、かなり可愛い。

 

 「……」

 「……」

 残る二人のゾンビ娘が、緩慢に動き出した。

 「プロトタイプか……面倒臭いなぁ」

 少女はうんざりした風に言うと、ゾンビ娘の一人にサブマシンガンでの掃射を食らわせた。

 タタタタタタ……という射撃音が周囲に響く。

 

 ――あれは、HK社のMP5。非常に優れた性能を持つサブマシンガンだ。

 従来の、『サブマシンガンは弾丸をバラ撒くだけでマトモに当たらない』という認識を覆した一品である。

 そんな弾丸のシャワーを受けたゾンビ娘は、たちまち全身をズタズタにされて倒れ伏した。

 その体が盾となり、もう一体のゾンビ娘は無傷。

 そいつは両手を突き出し、謎の少女に襲い掛かる――

 

 その瞬間、ゾンビ娘の体がぐるりと回転した。

 少女が流れるような動作で投げ飛ばし、そのまま床に叩きつけたのだ。

 そして地面を這うゾンビ娘の頭に、少女は何発か拳銃弾を撃ち込む。

 脳を破壊され、たちまちゾンビ娘は動かなくなった。

 

 ――あれは、FN社のファイブセブン。

 ライフル弾に性質が近い特殊な弾丸を用いた、非常に強力な拳銃である。

 ハンマーが露出しているモデル……すなわち、民間用ではなく公用のモデルだ。

 この少女は一体……!?

 おまけに僕は、もはや単なる銃器解説役に成り下がっている。

 

 「ありがとう、助かったよ……」

 僕は体を起こし、少女に礼を言った。

 厳密に言えば僕の下半身は丸裸なのだが、非常時ゆえに仕方がない。

 「いえいえ、むしろ邪魔だったかしら」

 少女は無造作に銃のマガジンを入れ替え、服の中に収めた。

 「あの、君は……!?」

 「私? ただの通りすがりの者よ」

 少女はそう言いながら、二階への階段の方へ歩き去っていった。

 そうか。通りすがりじゃ仕方ないな――

 

 ――っと、ゾンビ娘に減らされた分の体力を回復しておかないと。

 僕はヨロけながら、廊下の隅に鉢植えで置いてあった緑のハーブを手に取った。

 そして、念のために持ち歩いている赤のハーブと混ぜ合わせる。

 「よし、これで……」

 僕は、完成したハーブをもしゃもしゃと貪り食った。

 ギュギュギュギュン……という音がして体力が回復していく。

 これでよし。では、署長室へ向かうか――

 

 

 署長室への扉の前では、さっきの少女がたたずんでいた。

 確かこの扉は、二人でないと開けられない――まあ、完全に予想できた展開だ。

 「どうしたんだい、お嬢さん」

 僕は格好を付けながら少女に話し掛けた。

 当然、下半身は露出したままで――

 

 「……ん? さっきゾンビにマワされてアンアン言ってた人ね」

 少女は大して興味なさそうに言った。

 「アンアンは言ってないぞ!」

 僕は厳重かつ丁重に抗議する。

 「別に、何て喘いでたかは問題じゃないでしょ。あんなゾンビも倒せないような人は邪魔」

 そう言いながら、少女は再びドアを見上げる。

 「あれは弾丸が切れたのと、相手が女性だったから――」

 抗議する僕を尻目に、少女はすちゃっとショットガンを取り出した。

 ベネリM4、かなり最近のオートマチック散弾銃だ。

 

 「――ちょっと離れてて。このドアぶっ飛ばすから」

 「ちょ……! 待てよ!」

 すかさず、僕は少女の行動を制した。

 「開かないドアを銃器でぶっ飛ばしてたら、必死で鍵を探したり、仕掛けを解いたりする楽しみはどうなるんだ?

  この仕掛けを作った人はどんな思いをするか、考えても見ろよ」

 「こんな馬鹿な仕掛けを作ったヤツなんかの気持ち、考えたくもないわ」

 非常にもっともな事を言いながら、少女は署長室のドアノブを銃撃して吹っ飛ばした。

 「おいおい、なんてルールを無視した行為を…… こいつは素敵だ、ぜんぶ台無しだ」

 「ルールって何よ。非常時でしょ? ドアが開かないからって、こじ開けるのはなんでダメなのよ?」

 「ほら、物語に内包される世界観とかいろいろ都合があるだろ。格式ってのは大切にしなきゃいけない」

 「分かったから、貴方はゾンビとエッチでもしてきなさい」

 毒舌を叩きつけながら、少女は署長室に入っていった。

 なんてヤツだ。まるでルール無視。謎を解く気なんてハナからない。

 こんな女とは一緒に行動できないな。可愛いけど――

 

 微妙に後ろ髪を引かれる思いだが、僕はその場を後にした。

 とりあえず署長室は後に回して、二階の他に入れる部屋を探索しておくとするか。

 

 

 署長室から離れ、二階廊下をスタスタと歩く僕。

 ……ぽたり。

 唾液のような液体が、ぽたぽたと床に垂れる。

 

 「……!?」

 僕は、すかさず天井に拳銃を向けた。

 頭上には、ゾンビとは異なる異形の化け物――

 人間の皮を剥いだように、全身の筋肉はムキ出しだ。

 頭部は奇妙な構造で、脳が頭蓋から露出している。

 その奇怪な顔からはダラリと舌が垂れ、唾液をポタポタと垂らしていた――

 

 「このッ!」

 そのまま、僕は頭上に発砲した。

 怪物は素早く天井を這って弾丸を避け、長い舌をムチのように伸ばして攻撃してくる。

 「……ッ!」

 僕は、顔面目掛けて飛んできた舌をかわす――

 と同時に、その舌を左手で掴んでぐいと引っ張った。

 怪物は体勢が崩れて天井から床に飛び移り、驚異的な敏捷性でこちらに飛び掛ってくる。

 その顔面に銃口を向け、何度も発砲した。

 2発や3発じゃひるまないようだが――

 

 「この……ッ!」

 5発以上の弾丸を浴びせかけ、ようやく怪物はヨロける。

 僕は掴んだままの舌を引っ張って怪物を引き倒した。

 そして、もがく怪物の頭部に10発近くもの銃弾を叩き込む。

 流石に、怪物も動かなくなった。

 

 「やれやれ…… ゾンビだけじゃなく、こんなのまでいるのか……」

 怪物を倒して安堵した瞬間、僕は頭上から異様な気配を感じた。

 まだ、もう1匹いたのか――

 僕はすかさず銃口を天井に向けた。

 

 ――そいつは、さっきのとは違った。

 体つきがふくよかで女性的――とういか、色気すら漂っている。

 さっきの脳が露出したような気持ち悪いヤツとは、おそらく同種でありながら全く外見が異なっているのだ。

 綺麗な髪も生え、人間と変わらない女性の顔を持っていた――それも、なかなかの美人。

 ただ、その舌はさっきのヤツと同じくだらりと垂れて唾液がしたたっていた。

 こいつも、相当手ごわいはず……!

 

 「しまった弾切れだぁ!」

 そこで、僕の手にしている拳銃にはすでに残弾が無いことに気付いた。

 さっきのヤツとの戦いで、使い切ったんだ……!

 マガジンを入れ替えようとした瞬間、女の舌がムチのように伸びてきて拳銃を叩き落す。

 さらに舌は、僕の喉に向かって一直線に――

 

 「え……?」

 僕が死を覚悟した瞬間、奇妙な事態が起きた。

 喉を貫くと思い込んでいた舌先は、なんと僕の襟元から服の中へ潜り込んだのだ。

 「な、何を……」

 にやり、と舌を伸ばしたまま女は笑う。

 その瞬間、余りにも甘美な感覚が僕の上半身を襲った。

 唾液まみれの舌が、僕の胸をにゅるにゅると這い回ったのだ。

 

 「あ、あぁぁぁぁぁぁ……」

 その甘い感触に、僕は身悶える。

 それだけではない。

 彼女の舌は服の中を縦横無尽に這い回り、あちこちを舐め回してくる。

 れろれろ…… じゅるるるる…… れろれろ……

 

 「やめ…… やめて……」

 快感とくすぐったさで、もう立っていられない。

 僕はそのまま床にへたり込み、仰向けに倒れた。

 それでも容赦なく、彼女の舌はれろれろと全身を舐め回してくる。

 乳首をくりくりといじり、わき腹にぬとぬとと這い……

 まるで、全身にくまなく唾液を塗り付けるように。

 

 「うあぁぁぁぁぁ……!! や、やめ……!」

 全身を這い回る快感に、僕は身をよじって悶えた。

 僕の上半身は、彼女の甘い唾液によってべとべとにされている。

 だが、完全に屹立したペニスには舌はまるで触れてこない。

 僕のペニスは、刺激を待ちわびながらぴくぴくと震えている。

 それにもかかわらず、彼女は僕の上半身を丹念に味わうように舐め尽くした。

 

 「……」

 女性は舌を這わせながら、勝者の目で僕を見下ろしていた。

 完全に勝ち誇り、舌一本で屈服させた優越の目――

 

 彼女の舌が、いよいよ下半身に向かった。

 まるで蛇が這うようにゆっくりと下腹を通り、途中のおへそをれろれろと舐め回す。

 おなかをたっぷりと舐めてもらったあと、彼女の舌はいよいよ陰毛に分け入って肉棒に伸びていった。

 僕のペニスは、これから存分に舌で舐め回されるのだ――

 

 なんとか抗う

 たっぷりと舐め回してもらう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「くっ、このぉ……!」

 僕は床に転がったまま、観葉植物の鉢を投げつける。

 彼女はあっさりとそれをかわし、目標物を失った鉢は壁に当たって粉々になった。

 そして、僕のペニスに彼女の舌が迫る。

 「あ、ああぁぁぁぁぁ…… やめて、やめてぇぇ……!」

 

 ――れろり。

 彼女の舌は、根元から先端までを一気に舐め上げた。

 「あ、ああぁぁぁぁ……!」

 その感触に、僕は身悶える。

 さらに二度三度、長い舌はペニスをねろねろと舐め上げた。

 「あぁ……」

 その感触に酔う僕――だが次の瞬間、静かな快感は壮絶な快感に変わった。

 彼女の舌が、凄まじい勢いでペニスに絡み付きながら舐め回してきたのだ。

 「うぁ……! ああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 しゅるしゅるにゅるにゅると、舌が高速でペニスの表面を這い回る。

 まるで、手でしごかれているかのようなスピード。

 そんな容赦のない速度でペニスが舐め回されているのだ。

 根元、サオ、亀頭、尿道口…… 彼女の舌は、変幻自在にあちこちを這う。

 べちゃ、にゅるにゅる…… しゅるしゅる、ぬちゃぬちゃぬちゃ……!

 

 「おぁぁぁぁッ!! あああッ!! もっと、ゆっくり……! 出ちゃうよぉ……」

 その余りにも素早い舌技に翻弄され、僕は悶えた。

 ペニスが、どんな責めを受けているのかも分からない。

 亀頭を舐め回されているのかと思ったら、カリに舌が這い……

 カリを責められているのかと思ったら、尿道口をちろちろと舐め回され……

 まるで、ペニスが溶けそうなほどに気持ちがいい。

 変幻自在の責めに、僕はたちまち昇天した。

 

 「ああああ…… うあぁぁぁぁぁッ!!」

 どくん、どく、どくどく……

 ペニスから精液がドクドクと吐き出される。

 彼女の舌は亀頭への責めに移行し、溢れ出る精液を舐め取ってきた。

 精液がぺろりと舐め回されるごとに亀頭にも舌が這い、たまらない快感を味わう。

 射精中のペニスを責め嫐られ、僕は身をよじらせた。

 

 「はぁ、はぁ……」

 余りに壮絶な射精に、僕は肩で息をする。

 しかし、僕のペニスにはまだ舌が絡み付いていた。

 今度はくるくるとペニスに巻き付き、ぎっちりと締め上げてくる。

 「う、あぁぁぁぁ……」

 隙間なくペニスをぬるぬるの舌でくるまれ、容赦のない蠕動を受ける。

 このままじゃ、二回目の射精もすぐ――

 

 ――その瞬間、彼女の口から僕のペニスへ伸びている舌が切断された。

 さっきの少女だ。

 あの生意気な少女が飛び込んできて、ナイフで舌を断ち切ったのだ。

 

 「……!」

 舌女は目の色を変え、獣じみた身のこなしで少女に飛び掛かる。

 少女は素早く姿勢を屈めながら、ナイフを逆手に持ち替えた。

 そして舌女の一撃を避けつつ、すれ違いざまにナイフで斬りつける。

 少女自身はほぼ動いておらず、舌女の驚異的な跳躍速度を利用して――

 

 周囲に血が飛び散った。

 自身の跳躍力で切り裂かれた舌女のダメージは深く、着地しきれずに壁に激突する。

 少女はすかさずサブマシンガンの銃口を舌女に向け、そのままトリガーを引いた。

 銃声が周囲に轟き、舌女は弾丸のシャワーを浴びる。

 手足をじたばたさせてもがいていた舌女も、すぐに動かなくなった。

 数十発もの銃弾をフルオートで受け、さすがの怪物も絶命してしまったのだ。

 

 「派手な音が聞こえたから助けに来たんだけど…… また、邪魔したかしら」

 そう言って、少女はため息をついた。

 「いや、いい所に来てくれたよ」

 僕はよろよろと立ち上がった。

 かなり体力を消費したようだ。ハーブで回復しないと……

 「それにしても、本気でクリーチャーとエッチしてるなんて…… 美人だったらなんでもいいわけ?」

 少女は、自らが倒した舌女の死体を見下ろした。

 その屍骸には、綺麗な顔の面影が残っている。

 

 「リッカー(舐める者)までいるなんて…… やっぱり女性型ね。どうも、より高等に進化したヤツは女性型みたい……」

 少女は、リッカーと言うらしい舌女の屍骸をまじまじと観察した。

 「さっき、僕が倒したヤツはオスみたいだけどな」

 「倒した……? 貴方、クリーチャーとエッチしてるだけじゃなかったの?」

 「そんな訳あるか! ほら、あれ見ろ! 僕だってきっちり片付けてるぞ!」

 僕は、さっき倒した同種のオスの死体を指差した。

 「あら、ホントだ…… でも、これ出来損ないって感じね」

 少女はその死体に近寄り、同様に観察する。

 「やっぱりH-ウィルスに適合するのは、ほとんど女性のみなのね……」

 「H-ウィルス?」

 「貴方には関係ないわ」

 僕の質問をあっさりと拒絶し、少女はその場から去ろうとする。

 「あ、ちょっと待って。署長室には何があった?」

 「特に何も」

 「何も無いわけがないだろ。イベント上、署長室は重要なポイントのはずだ。僕も調べてみるよ」

 「イベント……? まあいいわ。あの辺の化け物はだいたい潰したけど、狩り残しがいるかもしれないから注意して。

  蜘蛛型のクリーチャー、ブラックウィドウの巣も見掛けたし」

 「忠告ありがと。そのお礼といってはなんだけど――」

 去ろうとする少女に、僕は忠告し返した。

 「――君、フルオートで撃ちまくるのはやめた方がいい。弾丸が無駄っていう意味じゃなくて、跳弾が危ないんだ」

 「へぇ…… まともなこと言うじゃない」

 そう言い残し、少女は一階の階段の方に消えていった。

 そして僕は、彼女が探索を終えたという署長室へ向かう。

 

 

 謎の少女が、ショットガンで吹き飛ばした署長室のドア――

 そこを通って、僕は室内に侵入した。

 中は、まるで金持ちの書斎。署長の肖像画やら高そうな調度品やらがひしめいている。

 これ、税金で作ったんだよなぁ……

 こんなのがマスコミに嗅ぎつけられたら、署長の首は飛んでいただろう。

 

 「どれどれ……」

 僕は机の引き出しなどを物色したが、特に鍵などの類は見当たらない。

 その代わり、部屋の隅にハーブを見つけたのでモシャモシャと食べておく。

 これで、さっきの舌女との戦いによって減った体力が回復したはずだ。

 さらに、探索を続行する僕――

 

 「……ん?」

 本棚にあった『社会主義はメイドスキー』という本の間から、僕は一枚のメモを見つけた。

 『我が瞳が光を取り戻した時、道は開かれるであろう』という短い文章が書かれているのみ。

 これは――

 

 かさかさっ……

 後方から奇妙な音がした。

 「……!?」

 拳銃を構え、すかさず振り返る僕。

 壁には、巨大な蜘蛛が貼り付いていた。

 その蜘蛛には、女性の胸や顔、腕を持っている。

 こいつも、さっきの少女が言った通り女性型……!

 

 「しまった弾切れだぁ!」

 その瞬間、僕の構えている拳銃には残弾が無いことに気付いた。

 さっき使い切ったまま、リロードしていない――

 

 蜘蛛女は、ぶわっと口から糸の束を吐いた。

 その直撃を受け、僕の体は後方に弾き飛ばされる。

 そのまま壁にブチ当たり、僕の体は糸によって粘着した。

 体のあちこちに白い糸が絡み付き、壁にねっとりと貼り付けられる。

 さらに、蜘蛛女は身動きできない僕に飛び掛ってきた。

 

 「う、うわぁぁぁぁぁッ!!」

 眼前に、蜘蛛女の妖艶な顔が迫る。

 彼女は、壁に貼り付いている僕を八本足で跨ぐようにしてきた。

 彼女の顔と剥き出しのふくよかな胸が迫り、僕は手足をじたばたさせて抗う――

 が、糸は強靭でどうにもならない。

 

 「あ、ああぁぁぁ……」

 蜘蛛女の口が、僕の首に迫る。

 このままかじりつかれて、肉を貪られる――

 

 れろれろっ。

 しかし、彼女は僕の首筋を舐め回してきた。

 首筋から肩、そして唇をれろーりと舐められる。

 さらに、彼女の舌先が僕の唇にぐいっと押し当てられた。

 僕はやわやわと唇に込めた力を緩めると、蜘蛛女の舌先がぬるりと口内に侵入してくる。

 

 「……ん、んんんんッ……!」

 口内は彼女の舌で舐め回され、さらに僕の上唇を蜘蛛女の柔らかい唇が挟み込んできた。

 まるで唇をフェラするかのように、蜘蛛女は僕の震える唇をしゃぶり回す。

 さらに、一気に唇を重ねてきた。

 貪るかのように彼女の唇は蠢き、僕の唇や周りの皮膚を味わいつくす。

 舌は口内を這いずり回り、僕の口は彼女に犯され尽くした。

 こんないやらしいキス、初めてだ――

 

 糸の中で、僕のペニスは完全に隆起していた。

 それを察したのか、蜘蛛女は八本の腕のうちの一本で股間を覆っている糸を切り裂く。

 たちまち、勃起したペニスが露出した。

 蜘蛛女は僕の口を吸いながら、股間に視線をやってにィ……と笑う。

 

 「ん…… んん……!?」

 蜘蛛女の、大きく膨らんだ下腹部が動き出した。

 僕のペニスに狙いをつけ、ゆっくりと迫ってくる。

 その下腹部の先端には、ひくひくと蠢いている穴が。

 まさか、あの穴で――

 

 「んんん……! んんんんんん――ッ!!」

 僕は抗おうとしたが、その瞬間に彼女の舌がねっとりと口内をねぶり回した。

 その感触に喘ぐ僕のペニスに、蜘蛛女の下腹部が――

 

 ずちゅずちゅずちゅ……

 「ん……! んんんんんんんんん――ッ!!」

 彼女の生殖孔内に、僕のペニスがずぶずぶと挿入された。

 その中は余りにも温かく、余りにも気持ちいい。

 何層ものヒダがペニスに密着し、イボのような突起が何重にも亀頭に密着してくる。

 「ん…… んんんん……」

 その甘美な感触に、たちまち僕は抵抗の意思を失った。

 蜘蛛女は大きく膨らんだ下腹部を僕の股間に押し当てているだけで、まるで動いていない。

 にもかかわらず、この気持ち良さ――

 早くも、射精感が込み上げてきた。

 

 「ん……! んんん……!」

 快楽で悶える僕の口を、蜘蛛女は容赦なく舐めしゃぶり続ける。

 もう、出そうだ……

 まるで動かされていないのに、中に詰まったヒダやイボの感触だけで出してしまいそうだ……!

 射精感がじわじわと込み上がってきて、くすぐったさにも似た感覚が股間を麻痺させていく。

 ああ、もう――!!

 

 「……んッ!! んんんんんんん――ッ!!」

 そして、限界は訪れた。

 僕は腰を突き出し、蜘蛛女の下腹部にドクドクと精を放ってしまったのだ。

 異形の女の中で果てた――その快感と屈辱感で、僕は弛緩する。

 

 「……」

 体内に迸る精液を感じたのだろうか、蜘蛛女は目を細めた。

 全く腰を動かさずに、射精まで追い込んだという満足感。

 そして、獲物を完全に屈服させたという優越感が見て取れる。

 だから、愚かにも彼女は気付かなかった。

 さっき身をよじった瞬間、僕の右腕の拘束が解けてしまったことに――

 

 蜘蛛女の下腹部に呑み込まれたままのペニスは、絶え間ない快感を伝えてきていた。

 みっしりと詰まったヒダやイボに優しく包まれ、じわじわと高められていく。

 僕の中では、二つの感情が交錯していた。

 このまま彼女に身を任せてしまいたいという欲求と、何としてもここから逃げようという気持ち。

 そして、僕は――

 

 それでも抵抗する

 彼女に身を任せる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んん…… んんんんんッ!」

 渾身の力を込めて、僕は右腕で調度品のランプを掴んだ。

 そのまま、蜘蛛女に叩きつけようとする。

 

 「……!?」

 蜘蛛女は僕の唇から口を離し、その腕で素早くランプを払い飛ばした。

 後方へ飛んでいったランプは机に当たり、めらめらと書類に火をつける。

 ぶすぶすと燃える机をちらりと見た後、蜘蛛女は僕に視線を戻して妖艶に笑った。

 同時に、再び唇を重ねて吸い立ててくる。

 その下腹部では、今も僕のペニスがぐっぽりと咥え込まれているのだ。

 

 今の一撃で、僕は限界だった。

 もう、これ以上抵抗する力は残されていない――

 

 抵抗する力が失われたのを悟ったのか、蜘蛛女はきゅっ……と生殖孔内を締め付けてきた。

 包まれているだけでも射精に追い込まれるほどのヒダやイボが、みっちりとペニスに密着してくる。

 その感触に、僕の全身は総毛だった。

 このまま、二度目の精液を搾り上げられてしまう――

 

 その瞬間、蜘蛛女が首だけでくるりと背後を向いた。

 いきなり、僕の眼前にさらされる彼女の後頭部。

 蜘蛛女の頭部が180度回転し、その首からは大量の血が迸った。

 一体、何が――

 

 「やれやれ、何やってるのよ……」

 すたん、と蜘蛛女の背中から飛び退くさっきの少女。

 いつの間にか、蜘蛛女の背後に密着して――

 彼女は一瞬の隙を突いて蜘蛛女の背後を取り、そのまま首にナイフを突き入れながら頭を180度ねじったのだ。

 蜘蛛女は奇声を上げながら僕から離れる――同時に、ちゅぽんと下腹部からペニスが抜けた。

 

 そのまま蜘蛛女は少女に飛び掛る――

 すかさず少女はショットガンを構え、迫る妖女に散弾を食らわせた。

 蜘蛛女は弾き飛ばされ、床に転がる。

 「しぶといわね、こいつ……」

 少女はそのまま蜘蛛女の胸部を踏みつけ、そのまま眼下に何度も散弾を叩き込んだ。

 5発以上の弾丸をブチ込まれ、たちまち蜘蛛女は絶命する。

 ジタバタともがいていた八本の腕も、そのまま動くのをやめた。

 

 「ありがとう、助かったよ」

 「貴方って本当、いつ見てもクリーチャーとエッチしてるわね」

 少女は呆れた風に言った。

 「たまたま近そうだったから来てあげたけど、もう次からは助けないわよ」

 「ああ、面目ない……」

 僕は、緑色のハーブ2つを混ぜながら恐縮した。

 「ちょっと貴方、何してるのそれ……?」

 「ん? ハーブの調合だけど」

 そう言いながら、僕は完成した緑×2のハーブをモシャモシャと食べた。

 「いやそれ、部屋の隅にあった観葉植物でしょ? そんなモノ食べたら、お腹壊すわよ……?」

 「そんな事ないぞ。さっきの戦いで体力が100ほど減ったから、緑×2でちょうど良いんだ」

 「体力が100減ったって…… 貴方の体力、数値化できるの……?」

 少女は不審そうな表情を浮かべる。

 「普通できるだろ。君はできないのか?」

 「普通、できないわよ!」

 少女はきっぱりと言った。

 

 そうなのか……? 確かに、モシャモシャとハーブを食べている自分に少し違和感を感じた。

 ギュギュギュギュンという音と共に、体力が回復していく。

 「何、今の変な音…… 貴方の体、おかしいんじゃない……?」

 少女は僕をまじまじと眺める。

 どうでもいいが、僕の下半身はずっと前から露出したままだ。

 

 「そうだ、謎解きの途中だった」

 僕はファイルを開け、さっき手に入れたメモを見た。

 『我が瞳が光を取り戻した時、道は開かれるであろう』という内容だ。

 「謎解きも何も、ここにはもう何もないわよ。調べたんだから」

 少女は自信満々に言うと、懐から赤く輝く宝石を取り出す。

 「せいぜい、金庫の中にこの宝石があったくらいね」

 

 そこで僕はピンと来た。

 署長室の豪華な椅子と机の後ろには、いかにも偉そうな署長の肖像画。

 「ちょっと、その宝石貸して」

 「いいけど…… 高く売れそうだから、盗まないでね」

 少女は、訝しげながらも僕に宝石を渡す。

 「多分、ここに……」

 僕は署長の肖像画の右目の部分に、赤い宝石を押し当てた。

 やはり、僅かに窪みがある。

 「よしよし、ふふふ……」

 「……」

 少女は、まるで狂人を見るような目で僕の行動を眺めていた。

 

 「よっと……」

 ――かちっ。

 赤い宝石は、ぴったりと肖像画の目の部分にはまる。

 「え、ええっ……!?」

 少女は、一転して驚きの表情を浮かべた。

 「『我が瞳が光を取り戻した時』ってのは、こういう事さ。こんなの初歩中の初歩じゃないか」

 僕は驚く少女に対し、得意満面に告げる。

 「いや、こんなのおかしいでしょ……?」

 そう言いながら、少女は肖像画をまじまじと観察した。

 不敵に笑う署長の右目は、赤く輝いている。

 「ホントだ、ぴったりはまってる……」

 「後は、もう一つの宝石だな」

 この赤い宝石は、署長室にあったと言う。

 もう片方のカギとなる宝石が同じ場所にあるというのは常識的に考えられない。

 それを探すのは、かなり面倒かもしれないな――

 

 「この部屋にはなかったけど……」

 少女は、ごそごそと懐に手を突っ込んだ。

 そして、青く輝く宝石を取り出す。

 「これ、庭の池の中にあったの。金目になりそうだったから拾ったんだけど、同じモノじゃない?」

 「どれどれ……」

 僕は少女から青い宝石を受け取り、署長の肖像画の左目に押し当てた。

 宝石はぴったりと嵌り、署長の肖像画の目が赤と青に輝く。

 

 「見ろ、署長の瞳に光が戻ったぞ――」

 僕がそう言うと同時に、部屋全体がずずずと揺れ動いた。

 『我が瞳が光を取り戻した時、道は開かれるであろう』

 そのメモ通り、部屋の左側に隠し扉が開いたのだ。

 中は土の壁がムキ出しで、洞窟のような通路になっている。

 おそらく、地下への通路――

 

 「まあ、こういう事だな」

 得意満面になって、少女の方を見る僕。

 彼女は呆然と立ち尽くしていた。

 「こういうセンス、私ついていけないかも……」

 「気付かなかったのか? どう考えてもベタな仕掛けじゃないか」

 僕は両腰に手を当て、下半身を露出したままふぅとため息をつく。

 「いや、絶対おかしいでしょ! 自分の肖像画の目の部分にわざわざ穴開けて、こんな仕掛けを作ったっていうの?

  そこに、宝石はめて喜ぶって……! ここの署長、感覚狂ってるわよ、絶対……!」

 少女は食い下がった。

 肖像画の中の署長は目を赤と青に輝かせながら、不敵な笑みを浮かべている。

 まあ、冷静に見れば凄いセンスだと言えんこともない。

 

 「とりあえず…… 僕と一緒に行かないか?」

 僕は、少女を仲間に誘った。

 「誰が、貴方みたいな変人と…… この仕掛け作ったヤツと同類よ、貴方も」

 少女はにべもなく拒絶する。

 どうも、仕掛けを解けなかった苛立ちまでぶつけられてるみたいだ。

 「まあ論理的に考えてみてくれ。ここから先にも、君が言うところの変な仕掛けはあるはずだ。

  でも、僕はその仕掛けを作ったヤツと同類。君が解けない仕掛けでも解けるはずだろう?」

 「確かに、そうなんだけど……」

 少女は、顎に手を当てて考え込んだ。

 「貴方、目を離せばクリーチャーとエッチしてそうだし……」

 正直、それは否定できない。

 女性型クリーチャーと出会えば、あの謎の弾切れがやってくるのだから。

 いや、逆に考えるんだ。「男クリーチャーの時に弾切れしなくて良かった」と考えるんだ。

 

 「まあ……いいか。あんまり足手まといにならないでね」

 少女は、同行を了承してくれた。

 すなわち、先の仕掛けは自分一人では解けそうにないと判断したのだ。

 「だから、普通(男)のクリーチャー相手なら十分に戦えるって…… 僕、銃さえあれば強いんだぜ」

 そう言いながら、僕は署長室を見回った。

 ロッカーの中に、なぜかショットガンが入っている。

 レミントンM870、世界中の警察で使われている(日本警察では採用されていないが)散弾銃だ。

 「これ、取らなかったのか――まあ、君はいらないよな」

 少女に問おうとして、僕はすぐに答えを出した。

 彼女は、ベネリM4という最新鋭のショットガンを持っているのだ。

 僕は、新たに獲得したショットガンを道具ケースにしまい込む。

 

 「でも、なんでロッカーの中に散弾銃が……」

 少女は腕を組んで呟いた。

 「私的にショットガンなんて保有してたら、懲戒免職じゃ済まないんじゃないの?」

 「そんなこと言い出したら、問題山積みだろ。建築基準法とかどうなるんだ……」

 僕は部屋中を物色しながら言った。

 だから、そういう類の言葉は禁句なのだ。

 「だいたい、地下への扉ってのも変じゃない。ここ二階でしょう?

  なんで、直接地下へ続く隠し扉なんてあるのよ。この辺の地形、どうなってるの?」

 「そんな事、言わなきゃ誰も気付かないんだから――」

 

 部屋の捜索を終えて、僕は少女の前に立った。

 「それで、君の名前は?」

 「沙亜羅よ。本名かどうかは秘密」

 そう言って、少女はプイと横を向いた。

 という事は、本名は別にあるのだろう。これで本名だったら間抜け過ぎる。

 「で、貴方は?」

 「優だよ。深山優。この楽裏署に勤めている警察官さ」

 まあ、実際は微妙に違うんだけど……面倒なんで、説明しない。

 

 「ふ〜ん、警官ねぇ…… そんな弱そうで、警官なんか務まるの?」

 沙亜羅は失礼な事を言いながら、僕の顔を覗き込んだ。

 クールっぽい少女だと思ったが、意外と人懐っこくもあるようだ。

 「……で、何か私に聞きたい事はある?」

 少女は軽く髪をなびかせながらそっぽを向く。

 そりゃ、沢山あるだろう。どうせ、まともに答えてくれるわけがないが――

 

 「じゃあ、現在の日本の内閣総理大臣は誰?」

 「はぁ? それ、質問……?」

 意図を理解しかねる、と言った風に沙亜羅は顔をしかめた。

 「小泉純一郎でしょう。日本人なら誰でも知ってるわ」

 軽く肩をすくめ、馬鹿馬鹿しそうに答える沙亜羅。

 僕は質問を続ける。

 「じゃあ、ドラえもんの妹は?」

 「え……? ド、ドラ……?」

 たちまち沙亜羅は困惑する。

 「それじゃ、サザエさんの父親は?」

 「サザエ……、さん……? 誰、それ……?」

 「そういう事は、訓練所で教えて貰わなかったみたいだな。日本人なら誰でも知ってるぞ」

 僕は軽くため息をついた。

 やはり彼女は、日本で育った訳ではないようだ。

 それでいて、日本の生活や風土に順応できるだけの訓練は受けている。

 おそらく、外国の公的機関の人間――

 

 「なかなか鋭いじゃない。ただの馬鹿だと思ったのに」

 沙亜羅はふふっ、と笑った。

 「さあ、地下に行くわよ。この町は完全に封鎖されてるから、上か下からしか脱出できないんだから」

 「封鎖……? 一体、何があったんだ?」

 「歩きながら教えてあげるわ。教えられる事はね」

 そう言いながら、少女は地下への扉をくぐった。

 僕も、慌ててその後をついていく。

 こうして僕と沙亜羅は、地下への通路に足を踏み入れた。

 

 

 地下通路へ

 

 

 


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