ゾンビ娘


 

 僕と沙亜羅は、地下への通路をこつこつと進んでいった。

 中には微かな明かりがあり、一応周囲は見える。

 

 「――この町にはね、とある研究施設があるの」

 おもむろに、沙亜羅は口を開いた。

 「研究施設って、楽裏生化学研究所か?」

 僕は、この街にある巨大な製薬工場の名を挙げた。

 「そう。そこよ、実際は生物兵器の研究所なの」

 沙亜羅はあっさりと告げる。

 「詳しい説明は省略するけど、設立は1946年――終戦直後。朝鮮戦争のさなかに研究は本格化するの。

  アメリカから出向してきた科学者を中心に、日本側からも石井部隊やら九研やらの残党を客員に加えてね」

 「つまりは、日本とアメリカの共同研究所って事か?」

 「そうよ。朝鮮戦争において、その研究成果が実際に使われたかどうかは分からない――というのは名目。

  38度線付近や鴨緑江でコレラ・ペストなどが不自然に流行した事を考えれば、明白よね」

 「生物兵器か……」

 それでも、もう50年以上も昔のことになる。

 そんな研究所が、今まで存続し続けたというのは驚きだ。

 

 「そして1952年、GHQによる占領が終わった後も研究所は活動を続けた。

  元々極秘裏に創られた施設だったから、進駐が終了した後も表沙汰にはならなかったのよ。

  結局のところ、日米両政府はこの研究所に触れたくなかった――そうこうしてるうちに、有耶無耶になっちゃったってわけ」

 「いかにも、って感じだな……」

 「研究所の予算は、日本政府から出てたみたい。思いやり予算の一環なのかしらね。

  名目は良く分からないけど、おそらく財務官僚も実情を知らなかったはず……

  任期以前から枠が設けられていた予算だろうから、どの責任者もホイホイ素通ししたんでしょ」

 「ホントに、ため息の出る話だな……」

 そう呟きながら、僕は実際に大きなため息をついた。

 

 「そして、研究所は亡霊のように生き続けた。もう、生物兵器なんてのがもてはやされた時代じゃないのに――

  1969年にはニクソン大統領が攻撃的生物戦計画の全面破棄を宣言、でも研究所は本国のコントロールすら届かなかった。

  研究所の連中はひたすら実験を重ねたのよ。ときには意図的にウィルスを散布し、一般人をモルモットにしながらね。

  1975年、韓国…… 1978年、南アフリカのローデシア…… 1979年、ソ連のスベルドロスフク……」

 「約30年前か……冷戦も佳境だった時期だな」

 「もう、その頃には手段と目的が入れ替わっていたわ。

  戦争に勝つため、もしくは他国の生物兵器を抑止するために研究してたんじゃない。

  ただ、強力な生物兵器を開発することだけが目的だった――」

 「良くあることだろ。目的は手段に転嫁されるもんだ。個人の目標だろうが、国家プロジェクトだろうがね――」

 僕の言葉に反応したのだろうか、沙亜羅は黙り込む。

 こつこつという靴音が、ただ地下道に響いた。

 いちおう確認しておくが、僕は下半身を露出したままだ。

 

 少しの沈黙の後、沙亜羅は話を再開した。

 「――そして、研究所は最悪のウィルスを作り上げてしまったのよ。それが『H-ウィルス』。

  人体の代謝を狂わせ、命を奪う。でも、その屍は活動し続ける。

  さらに、他の生物との有機的結合をも誘発する――まともに適合できるのは、大部分が女性みたいだけど」

 それが、この町を地獄に変えたウィルスの正体。

 そのH-ウィルスが、なんらかの原因で洩れてしまい――

 

 「という訳で、私の任務はH-ウィルスの散布源の根絶なの」

 少女は、きっぱりと断言した。

 「自然に洩れたとは考えられない。きっと、研究員の誰かが意図的に撒いたのよ」

 「いいのか……?」

 僕は、少女の不用意な発言を咎める。

 「アメリカから派遣された、と白状してるみたいなもんじゃないか」

 「問題ないわ。それより、前――」

 「……ああ」

 僕と沙亜羅は立ち止まり、前方に拳銃を構えた。

 ゾンビらしき連中の足音が、ずるずると大量に響いてきたのだ。

 たちまち前方に、十数人ほどのゾンビが現れた。

 全員、男――問題はない。

 

 「優は引っ込んでて!」

 「大丈夫だって、あいつらが相手なら……」

 僕は銃を構えると、一発一発精密に拳銃弾を叩き込んだ。

 頭部に次々と直撃を受け、鈍重なゾンビ達はどさどさと折り重なって倒れていく。

 この距離なら、ほとんどマトと変わらない。

 

 弾切れ――素早くマガジンを入れ替え、僕はゾンビの群れに弾丸を撃ち続けた。

 たちまち、十数人ほどのゾンビの群れは地面に這う。

 「なかなかやるじゃない。いつもクリーチャーに犯されてるのは何なのよ。シュミ?」

 「だから、弾切れさえなかったら――」

 落ち込む僕を尻目に、沙亜羅はスタスタと歩いていく。

 ここから先は、どうやら下水処理施設のようだ。

 

 「ところで優…… ブラ下げてるおちんちん、隠す気はないの?」

 僕の露出している下半身に視線をやり、沙亜羅は咎める。

 「レディの前で、何考えてるのよ……」

 「濡れ場への移行の際に面倒はないからな。これでいいよ」

 そんな会話を交わしながら、僕達は先を進んだ。

 いったい、この通路はどこに繋がっているのか――

 

 「……妙じゃない?」

 「ああ、これ下水道じゃないな」

 僕と沙亜羅の意見は一致した。

 下水特有の、嫌な匂いが全くないのだ。

 「ここ、下水処理施設に見せ掛けた別の施設ね」

 「なんで、こんなところにそんな施設が……」

 そう言い掛けた僕と沙亜羅は、ぴたりと足を止めた。

 前方には大量の水が滝のように落ち、壁の役割を果たして先に進めないのだ。

 普通に見れば、完全に通行止めである。

 

 「……行き止まり?」

 「いや、こういう場合は水流を止めるんだ」

 そう言って、僕はこれまでの道を思い返す。

 「さっき通ったところに、小部屋っぽいドアがなかったか?」

 「ああ、あったわね。でも関係ないでしょ……?」

 「いや、こういうところの小部屋は重要ポイントなんだよ」

 僕は、その小部屋に戻る事を主張する。

 沙亜羅もすぐに納得し、僕達はその小部屋に向かった。

 

 

 錆びたドアを開けると、中は小型の事務室だった。

 部屋の中央には机があり、例によって書類が散乱している。

 そして部屋の奥には、いかにも怪しげな操作パネルが――

 「あれで、水流を操作するんじゃない?」

 沙亜羅は言った。

 「多分、そうだろうな。でも、もう一手間くらいある気がするなぁ……」

 僕は机の上の書類を物色しながら、操作パネルをかちゃかちゃといじる沙亜羅に視線をやる。

 「……ん?」

 いかにも意味ありげなメモを見つける僕。

 そのメモには、以下の内容が書かれていた。

 

 『赤のカギと青のカギがないと、この施設の水門は閉じやしない。面倒くさい作りだぜ、全く――
  おまけに、さとしは青のカギを持って西側通路に行ってしまいやがった。
  せっかくだから、俺は赤のカギを持って東側通路へ向かうぜ』

 

 「なるほど……」

 「やっぱり、動かないわね」

 僕がメモを読み終わるのと同時に、沙亜羅は操作パネルから離れた。

 「だいたい分かったよ。西側通路と東側通路に、それぞれ赤と青のカギがある。それがないと水門は閉じないみたいだ」

 「なによそれ。面倒くさい……」

 沙亜羅は文句を言いながら、並んでいるロッカーを物色し始める。

 それにしても青のカギを持っていったというのは、よりにもよってさとしか……

 もう名前からして、女性クリーチャーの餌食になってるような気がするな。

 

 「ねぇ、これ何……?」

 ロッカーを開けたまま、沙亜羅が途方に暮れていた。

 そのロッカーの中には、鉢植えの赤いハーブがある。

 「なんだ、レッドハーブじゃないか。これがどうしたんだ?」

 僕はそう言いながら、レッドハーブを鉢ごと道具ケースにしまい込んだ。

 「いや、おかしいでしょ!? 普通、ロッカーの中に唐突に鉢植えの植物なんて置いておく?」

 「まあ、そう言うなって……」

 ロッカーの中には、ハーブの他に手記があった。

 

 『生態研究12
  ハンターγ:カエルがベースとなった二足歩行の生命体。肉食で獲物を丸呑みにする。男性型と女性型が混在。
  ヒル:30〜40cmほどの大型化したヒル。女性型のみが存在し、その生態は不明』

 

 「なるほど…… この施設に出てくる敵の解説だな」

 僕は、その文面に目を這わせた。

 さらに手記には続きがある。

 

 『H-ウィルスに感染し、他種と融合した女性は男の精を渇望する。
  ただし、精のみを求めるか、その肉まで食らうかは個々の性質に依存するのだ。
  H-ウィルスに感染した女性と何度も体液交換を行うことにより、男にもウィルスが感染する。
  そうなってしまえば男は死なない肉体になり、永遠に精を搾られる事になるのである。
  また彼女達は本能的に、男に対する独特の縄張り意識を持っている。
  一人の女が男を搾っている場合、他の女はそれを決して邪魔しないのである』

 

 「なぁ沙亜羅。H-ウィルスに感染した女性と体液交換すると、伝染するってあるけど……」

 ちなみに、僕はもう何度も彼女達に犯されている。

 「自分の体を心配してるのなら大丈夫よ。だいたい3日3晩、ヤリっぱなしくらいじゃないと伝染らないから」

 沙亜羅は露骨な言い方をした。

 とにかく、それなら大丈夫だな……

 「じゃあ、僕は西側通路に行こう。沙亜羅は、東側通路に行ってくれないか?」

 「いいけど…… 優、一人で大丈夫なの?」

 沙亜羅は、珍しく心配そうな表情を浮かべる。

 「大丈夫だって、女性型クリーチャーさえいなければ。僕、銃さえあれば結構強いんだぜ」

 僕は胸を張った。むろん、下半身は露出したままで。

 沙亜羅はプイと横を向いた。

 「別に貴方の心配をしてる訳じゃないけど、優がそっちで死なれたらカギ取りが二度手間じゃない。それだけなんだからね」

 「うはwww ツンデレ、キタコレ」

 「何、意味の分からないこと言ってるの。じゃあ、西側通路は任せたわよ!」

 そう言って沙亜羅は小部屋を出ると、素早く東側通路の方向に向かった。

 僕は拳銃とショットガンに銃弾が込められている事を確認し、西側通路に向かうのである。

 

 

 びちゃ、びちゃ、びちゃ……

 腰までの水位の中、ひたすら水路を前方に進む僕。

 「うわっ…… ズボン履いてなくて、ある意味良かったよな」

 そう呟きながら、僕は先を急いだ。

 「……!?」

 その瞬間、前方に奇妙な水泡を発見する。

 危機を感じた僕は、とっさに背後へ飛び退いた。

 

 ――しゃっ。

 その瞬間、突然に水中から現れた化け物の腕が横に薙いだ。

 飛び退くのが一瞬でも遅れたら、直撃を受けていただろう。

 僕はすかさず化け物にショットガンを構えた。

 

 のっぺりとした大きい顔に、大きく割れた口。まるで二足歩行しているカエルだ。

 おそらく、あの手記に載っていたハンターγ。

 色気も何もない、ただ不気味なだけの怪物。

 ――男型だ、問題ない。

 

 「食らえッ!」

 僕がショットガンを発砲した瞬間、ハンターγは驚異的な脚力でジャンプした。

 散弾を避けつつ10m以上の高さまで飛び上がり、落下しながら腕での一撃を食らわせてくる。

 「うわッ……!」

 僕は後方に転がってかわすと同時に、着地間際のハンターγに素早く銃口を向けた。

 しかし、またしてもハンターγは人間離れした跳躍でそれを避ける。

 まずい、普通に戦ったら勝ち目はない――

 僕はハンターγに背を向けて走り出した。

 

 「はぁはぁ、はぁはぁ……」

 腰まである水位の中、僕は一直線に駆けた。

 ハンターγはぴょんぴょんと跳躍しながら、一目散に逃げる僕に攻撃を仕掛けてくる。

 横薙ぎの一撃が僕の背中をかすり、鋭い爪でシャツがすっぱりと裂けた。

 確か、この辺にあったはず――

 

 さらに、ハンターγの第二撃。

 まっすぐに突き出された爪の攻撃を、右側に飛び退いてかわす。

 その瞬間、右後方に狭い通路が見えた。

 あった、あれだ――

 

 僕は第三撃を姿勢をかがめて避けながら、その狭い通路に飛び込む。

 当然、ハンターγも僕を追ってきた。『ハンター』と名が付くからには、獲物を追うのはもはや本能。

 そして愚かにも、この頭上まで2mもない通路に入り込む――

 「自慢の脚力を見せてみろよ、化け物――」

 僕はショットガンを構え、跳躍ができない状況でひるむハンターγに銃口を向けた。

 

 銃声が轟き、散弾を腹に受けたハンターγは後方に吹き飛ぶ。

 ばしゃりとヤツは水面に落ち、周囲はみるみる血で染まっていった。

 「うぉぉぉぉッ!!」

 さらに間合いを詰めながら、転倒したハンターγに何度も発砲する。

 散弾を5発近く浴びたハンターγは手足を痙攣させ、ショットガン全弾を撃ち込んだ時点で動かなくなった。

 どうやら、完全に倒したようだ。

 

 「ふぅ……」

 激しい戦いが終わり、僕は安堵の息をつく。

 こんな強力な怪物が、あと何体ぐらいいるんだ――?

 

 ざばぁぁぁぁっ!!

 息をついたのも束の間、眼前にもう一体のハンターγが現れた。

 僕は素早くショットガンを構える。

 

 ――いや、こいつはさっきのヤツとは違う。

 頭頂部に、なんと女性の上半身がくっついている。

 まるで巨大カエルに乗っかったまま、同化してしまったかのように――

 これで、一つの生物。

 これが、ハンターγの女性型なのか――

 ハンター娘は、くすりと妖艶な笑みを見せた。

 

 「しまった弾切れだぁ!」

 そこで、僕の手にしているショットガンにはすでに残弾が無いことに気付いた。

 なんで、撃ち尽くした後にすぐ弾込めしないかなぁ……

 

 そんな事を考えている間に、ハンター娘は僕の眼前まで接近してきた。

 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 ――ばくっ!

 ハンター娘は、なんとカエル部分で僕に噛み付いてきた。

 いや、違う。

 僕を丸呑みにしようとしてきたのだ。

 カエルの巨大な口が迫り、僕は膝の部分まで咥え込まれてしまった。

 さらにハンター娘は僕の体をずるずると啜り込み、腰の部分までを口内に収める。

 僕の下半身は、ハンター娘の下半身――カエル部分に咥え込まれたのだ。

 

 「くそっ、離せ……!!」

 僕は、体をよじって抗う。

 そんな僕の眼前に、ハンター娘の上半身が迫った。

 カエル部分は仰向けになっていた僕の下半身を咥え込み、そのまま僕が直立しているような形に持ち上げてきたのだ。

 あどけない、可愛らしい顔。ちょっと小さめの胸。

 彼女は、悪戯っ子の表情で僕に顔を寄せてくる。

 「う……! あ……!!」

 恐怖に歪む僕の顔――

 その瞬間、ハンター娘の顔がサディスティックな色を帯びてきた。

 このまま、食い殺される――!!

 

 ――ぐぷっ、ぐぷっ……

 「え……? うわぁぁぁぁぁッ!!」

 たちまち、僕は悲鳴を上げた。

 ハタから見れば、下半身を食い千切られそうになっている姿に見えただろう。

 しかし、実際は全く違った。

 口内がぐぷぐぷと蠢き、僕の下半身を吸い上げてきたのだ。

 足や太腿などはもちろん、ペニスもその感触にさらされる。

 それは明らかに口による愛撫で、僕はカエルの口内でペニスを隆起させてしまった。

 

 さらに、口内のヌルヌルの感触が僕を悦ばせた。

 口の中はグニュグニュと蠢いて、まるで下半身全体を淫らにマッサージしているかのような刺激を与えてくる。

 そしてペニスは、口内の感触と舌での責めを同時に受けていた。

 こんなカエルなんかに、無理やり口淫されるなんて――

 

 ハンター娘の女性部分はあどけない顔に淫らな笑みを浮かばせながら、僕の上半身に抱きついてくる。

 そうだ。このカエル部分での口淫も、このハンター娘がしてくれているんだ。

 「あ、ああぁぁぁぁ……!」

 そう意識してしまった瞬間、快感がますます強まった。

 この可愛らしい女性に、僕は下半身を丸ごとしゃぶられているのだ。

 

 「……」

 僕が感じ始めたのを見て、ハンター娘はにやりと笑った。

 カエルの口内で、何か柔らかいものがしゅるしゅると足に絡み付いてくる。

 舌だ。カエルの舌が、僕を――

 ハンター娘の舌はそのままぎゅるぎゅると僕の脚部に絡み付き、締め上げながら登ってくる。

 「あ、うぁぁぁぁぁぁ……」

 唾液がねっとりと絡み付き、その異様な感触がたまらない。

 さらに口内でじゅるじゅると啜られ、下半身全体を甘く刺激し続けているのだ。

 

 「うぁ……! ああああぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 お尻に舌が割って入り、そのまま肛門をれろれろと舐め回す。

 未知の快感に悶え、体をよじる僕――

 そんな僕の上半身を、ハンター娘の女性部分ががっしりと抱き締めてきた。

 僕は動きを封じられ、彼女の温かさに溺れてしまう。

 

 ――しゅるしゅる……

 カエルの口内にある僕のペニスに、とうとう柔らかな舌が巻き付いてきた。

 舌はきゅっきゅっとカリを締め上げ、先っぽをペロペロと舐め回す。

 舌は執拗に蠢き、僕のペニスを嫐り続けた。

 

 「あ、ああ……! いい……! 気持ち、いい……!」

 カエルの口内はぬめり、僕の下半身をずるずると啜り上げる。

 その舌は下半身をぐるぐるに巻き上げ、優しく締め付ける。

 そして舌先は、ペニスをじゅるじゅると舐め回している。

 下半身全体を包み込む余りにも甘美な刺激に、僕は身を震わせた。

 もう、我慢できそうにない。

 このまま、ハンター娘の口の中に――

 

 「あああ…… あああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 僕は体をよじらせながら、ドクドクと射精していた。

 カエルの口の中で、舌によって散々に嫐られてイかされる――

 まさに屈辱であったが、目の前のハンター娘の顔を見ているとどうでも良くなった。

 僕は上半身を彼女に抱き締められ、下半身を咥え込まれながら最後の一滴まで精液を搾り上げられた。

 

 じゅる、じゅる、じゅる……

 奇妙な感触が、下半身に湧き上がってくる。

 徐々に口内の感触が変わり始めた。

 一体、何を――

 

 温かい粘液が、足にねっとりと絡み付いてくる。

 これは、唾液だ。

 僕の下半身を捕らえている口内に、唾液を溜め始めたのだ。

 たちまち僕の太腿までが唾液に浸され、さらにカエルの口内はむぐむぐと唾液を溜め続ける。

 

 一方、僕の眼前の女性部分も口をはむっと閉じてしまった。

 もしかして、彼女も――

 少しむぐむぐした後、ハンター娘はくぱっと口を開けた。

 その中には、ねっとりと唾液が溜まっている。

 ぐじゅぐじゅの唾液がねっとりと糸を引き、淫靡すぎる口内。

 口の中に大量の唾液を溜めながら、ハンター娘は目だけでにぱっと笑った。

 

 そのまま、ハンター娘は僕に唇を寄せてきた。

 甘い唾液が、一気に僕の口内に流れ込んでくる。

 その甘い味に酔い、たちまち僕は夢心地になった。

 それだけではない。

 カエル部分の口内にも完全に唾液が溜まり、僕のペニスはその中を泳がされている。

 そのねっとりとした感触は絶品で、そこに浸っているだけでも射精してしまいそうだ。

 

 なぜ、唾液を溜める必要がある?

 単純に、僕を悦ばせるため?

 唾液は、消化の補助の役割だ。

 すなわち、ハンター娘は僕を今から――

 

 にゅるにゅるにゅる……

 「……ん、んんんん――ッ!!」

 その感触に僕は喘ぎ、送り込まれた唾液を口の端からだらだらとこぼす。

 下半身を浸すぐちゅぐちゅの唾液の中で、舌が再びペニスに絡み付いてきたのだ。

 唾液がネバつき、舌が這い回って僕の射精を促す。

 余りの気持ちよさに、僕はハンター娘の腕の中で身悶えた。

 僕は、このままハンター娘に食べられてしまうのか――

 

 気合で抵抗する

 じっくり食べてもらう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このまま、食べられてたまるか――!

 僕は懐から拳銃を抜き、女性部分へ発砲した。

 

 「……!?」

 彼女はとっさに頭部をかばい、その弾丸を掌で受ける。

 同時に、舌がペニスにぎゅるぎゅるに絡み付いて嫐り上げた。

 たちまち力が抜け、僕は拳銃を取り落としてしまう。

 

 「ああ…… あああぁぁぁぁッ……!」

 抵抗する気力を失くす僕を見て、ハンター娘はにやりと笑った。

 捕食者と被食者が、ここに決定したのだ。

 彼女は、一気に僕のペニスを責め嫐ってきた。

 唾液がねちょねちょに絡み、舌がぎゅるぎゅるに締め上げてくる。

 

 「ああ…… 気持ちいい……」

 僕は放心したまま、ドクドクと精液を吐き出した。

 腰をガクガクと揺らし、その快感を全身で味わう。

 

 その瞬間、頭上で何かが煌いた。

 天井から何かが一直線に落下してきて、ハンター娘の女性部分を刺し貫く。

 ――沙亜羅だ。

 彼女が、落下の勢いでハンター娘の頭部にナイフを突き立てたのだ。

 

 華麗に着地した沙亜羅と、よろりとよろけるハンター娘。

 沙亜羅は身を翻すと、ハンター娘の首に刺さったままのナイフを掴んだ。

 そのまま、力を込めて一気に引き抜く。

 首の半分を斬り裂かれ、ハンター娘はそのまま転倒した。

 僕の体はカエルの口から吐き出され、ばしゃりと水路に転がる。

 

 そのまま沙亜羅はサブマシンガンを構え、ありったけの銃弾をぴくぴくと痙攣するハンター娘に叩き込んだ。

 至近距離からのフルオート連射をモロに受け、ハンター娘はたちまち絶命する。

 沙亜羅はハンター娘の屍骸を足で蹴って、完全に息絶えている事を確認した。

 

 「ありがとう、沙亜羅。助かったよ」

 「別に助けた訳じゃないんだけどね。優が死のうが生きようが、知ったこっちゃないし」

 沙亜羅は平然と言った。

 「でもエッチはしてなかったのね。拒絶されて食べられそうになったの?」

 あの口の中で、色んな事をされていたとは言えない。

 僕は緑と赤のハーブを調合し、モシャモシャと食べた。

 沙亜羅は、そんな僕の様子を呆れたように眺めている。

 

 「それにしても、なんで西側通路に? 赤のカギはどうしたんだ?」

 「ふふ〜ん、もう取ってきたよ」

 彼女は懐から赤いカギを取り出して、自慢げにチャラチャラと音を立てた。

 流石に早いな。

 東側通路でとっととカギをゲットして、西側通路に向かった僕に追いついてくるなんて――

 「待ってるのも退屈だから、ヒマ潰しに様子を見に来てあげたら銃声が聞こえて、駆けつけてみたらあれだもの」

 沙亜羅は再びカギを懐に仕舞い、腕を組んだ。

 「青いカギも私が手っ取り早く取ってくるから、優はあの小部屋に戻ってて」

 「いいのか、そんな……?」

 「優に任せたって同じことの繰り返しだし、二人で行ったら時間の浪費よ」

 確かに僕と沙亜羅の二人で行くより、沙亜羅一人の方が断然早いだろう。

 「じゃあ任せた。気をつけてな」

 「優こそ、気をつけてよね。いちいち助けるの、面倒だから」

 そう言い残して、沙亜羅は前方に駆けていく。

 僕は、情けなくもあの部屋に戻るべく引き返し始めた。

 

 

 じゃぶ、じゃぶじゃぶじゃぶ……

 相変わらず水位が腰まである水路を進みながら、例の小部屋の入口まで辿り着いた。

 

 階段を上がり、やっと水から上がる――

 その瞬間、僕は自らの股間に異様なものを発見した。

 30〜40cmはある大きなヒルが、ぐっぷりと僕のペニスを咥え込んでいたのだ。

 今まで違和感は全くなく、僕はこの目で見るまで気付かなかった。

 いったい、これは――

 

 ぷじゅ…… じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ……

 「え……!? うわぁぁぁぁッ!!」

 水から上がった途端、いきなりヒルは激しくペニスを搾り始めた。

 内部がぐちゅぐちゅと絡み付き、締まったり緩まったりを繰り返す。

 ペニスのあちこちが揉み立てられ、ヒダヒダの内壁に嫐り上げられる。

 

 「うわぁぁ……! これ、気持ちいい……!」

 ちゅぶちゅぶとペニスを嫐るヒル。

 余りの快感に、立っていられない。

 僕は、へなへなとその場にへたり込んだ。

 無理やりペニスから引き剥がそうとするが、責めが強烈過ぎて力が入らない。

 

 「あ、あ、あぁ……」

 腰をヒクつかせ唾液を垂らしながら、僕はそのヒルの軟体の感触を存分に味わう。

 あのファイルには、ヒルは女性型しかいないと書かれていた。

 そしてこのヒル娘の構造は、明らかに男性器に極度の快感を与えるようになっている。

 こいつの主食は、やはり――

 

 「ああぁぁ…… もう……! ダメだぁ……」

 ちゅぽん、ちゅぽんとペニスが吸い上げられ、ぐじゅぐじゅのヒダで執拗にカリが擦り立てられる。

 その甘美な刺激に、僕はたちまち精液を漏らしてしまった。

 どく、どく、どくどく……

 ヒル娘は、ドクドクと吐き出された僕の精液をちゅぷちゅぷと吸い取っていく。

 僕は倒れたまま腰をガクガクと振り上げ、最後の一滴までをヒル娘の中に注ぎ込んだ。

 沙亜羅に見られたら何と罵られるか分からない、無様な格好で――

 

 「え……!? あぁ…… 何これぇぇぇ……!」

 ペニスの先端に、何かが優しく密着してきた。

 まるで、唇のような器官。

 それが、揉みしだかれる僕のペニスの先端に吸い付いてくる。

 そして、無造作にちゅぱちゅぱと吸い立ててくる。

 

 「気持ちいい…… 気持ちいいよぉ……」

 その余りに甘く切ない感触に、僕は悶え狂った。

 快感で、ペニスがどろどろに溶けてしまいそうだ。

 このヒル娘は、どこまで僕を気持ちよくしてくれるのか――

 早くも、二度目の限界が訪れようとしていた。

 

 快感に屈しない

 このままイかせてもらう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんなヤツのいいようにされてたまるか――!

 僕はずるずると体を引きずり、なんとか小部屋の中に入っていった。

 ここで待っていたら、沙亜羅が戻ってくるはず――

 

 ぶちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅぐちゅ……

 「あぁぁぁッ! あ――ッ!!」

 ヒル娘はその体をぐにゅぐにゅと収縮させ、全身を使ってペニスを嫐り尽くす。

 そして唇のような器官が亀頭に密着し、ちゅぱちゅぱと吸い立てられる。

 まるで女性器への挿入とフェラを同時に味わい、その快感を何十倍にも高められているような快感。

 「気持ちいいぃぃ…… ああああぁぁぁぁ――ッ!!」

 僕はそのまま、ヒル娘の中に大量の精液を吐き出した。

 ちゅぷちゅぷと吸い上げる刺激を味わいながら、僕は快感に抗い続ける。

 このまま、沙亜羅を待てば――

 

 「……優、何してるの?」

 ガチャリと扉が開き、沙亜羅が戻ってきた。

 「あ…… う…… ああぁぁぁ……!」

 余りの快感に、僕は喋ることすらままならない。

 その滑稽な姿とは裏腹に、非常事態であると察したようだ。

 沙亜羅はナイフを取り出し、僕の股間を覗き込んだ。

 

 「これだと、やっぱり中身ごと切っちゃうわね…… どうしよう……」

 僕は、快感とは別の理由で背筋がぞわぞわした。

 中身って、僕のペニスの事か――!?

 「やっぱ、ヒルにはこれかな」

 彼女は煙草を取り出して口に咥え、ライターで火をつけた。

 「これだけ大きいのに、これで大丈夫かなぁ……」

 沙亜羅は、ヒル娘に煙草の火を押し当てる。

 ヒル娘はたちまち、ぐにゅぐにゅと激しい収縮を始めた。

 

 「あああぁぁぁぁッ!! ああぁぁぁぁぁ――!!」

 余りの感触に、悲鳴を上げる僕。

 「どうしたの!? 痛かった!?」

 ぐにゅぐにゅと収縮するヒル娘と歪む僕の顔を交互に見て、沙亜羅は慌てる。

 「いや、ちが……! うぁぁぁぁぁぁッ!!」

 痛いんじゃない。

 余りにも、気持ちいい。

 僕のペニスは内壁で嫐り尽くされて、もう――

 「で、出る……!」

 

 その瞬間、ヒル娘はちゅぽんとペニスから離れた。

 「――やった!」

 すかさず沙亜羅は懐から拳銃を抜き出し、地面に転がるヒル娘を撃ち抜く。

 たちまち、脆弱なヒル娘は絶命した。

 

 「はぁ、はぁ……」

 ようやくヒル娘から解放され、僕は息を乱す。

 露出したままのペニスは全く小さくならない。

 それどころか、先走り液を垂れ流してピクピクしている。

 なにしろ、射精寸前に離されたのだから――

 

 「で、何してたの? 何で優はちょっと目を離した隙に、ヒルなんかとエッチしてるの?」

 沙亜羅は、やはり蔑みの視線を送ってきた。

 「……ってか、いい加減おちんちん小さくしなさいよ」

 「無理だって、一度出してしまわないと……」

 「仕方ないなぁ…… ん」

 沙亜羅はプイと横を向き、右掌を開いてすっと差し出した。

 「何、この手……?」

 「だって、そのままじゃ小さくならないんでしょ。手でヌいてあげるから、この上に乗っけて」

 「え、いいの……!?」

 僕は大いに動転した。

 この小さくて柔らかそうな手で、僕のペニスを――

 

 「私だって恥ずかしいんだから、早くしなさい!」

 他方に顔をやりながら、沙亜羅は言葉を荒げる。

 「あ、ああ……」

 僕はゆっくりと立ち上がり、彼女の右手にペニスを乗せた。

 「うわっ…… あったかいんだ……」

 そう言いながら、沙亜羅はきゅっとペニスを握ってくる。

 そして、指をぐにゅぐにゅと滅茶苦茶に動かしてきた。

 

 くにゅくにゅくにゅ……

 技巧など全くなく、下手の極み。

 さっきのヒル娘が与える快感と比べたら、まさに天と地ほどの差。

 それなのに――

 

 沙亜羅はぷいとそっぽを向きつつも、目だけは興味深げに僕のペニスを凝視している。

 その頬は赤く染まり、逆手で僕のペニスを単調に揉み続けている――

 

 「うぁっ……! 沙亜羅…… 沙亜羅ぁぁ……!」

 僕は彼女の手の感触に酔い、沙亜羅の体を抱き締めた。

 「ちょっと、誰が体に触っていいなんて……!」

 彼女の細い肩にしっかりと手を回し、その温もりと柔らかさを感じる。

 甘い髪の匂いが、僕の興奮を高めていく。

 「……もう。あんまり、服くちゃくちゃにしないでよ……」

 沙亜羅はため息をつきながら、ペニスを揉み立て続けた。

 そして僕は、全身で沙亜羅を感じながら限界を迎える。

 

 「あ、出るよ……! 沙亜羅、出る……ッ!」

 「えっ!? 出るって、精液だよね?」

 どうしていいか分からず、困惑する沙亜羅。

 この角度では、彼女の腰にかかってしまう。

 「うぁ…… 沙亜羅……! ああぁぁぁぁぁッ!!」

 しかし彼女の不慣れすぎる手淫によって興奮しきっていた僕は、射精をこらえる事などできなかった。

 そのまま沙亜羅の手の中で、ドクドクと精液を吐き出してしまう。

 彼女の体をしっかりと抱き締め、甘い髪の匂いを感じながら――

 精液は勢いよく飛び散り、沙亜羅のスカートをたっぷりと汚してしまった。

 

 「あ〜 私のスカート〜!」

 沙亜羅は、白い粘液が付着した自らのスカートを見て僕のペニスをぎゅっと握った。

 「あッ、ああぁぁぁ……」

 その刺激に、僕は尿道に残った精液までも絞り尽くされる。

 沙亜羅の右手は、僕の体液でねとねとになってしまった。

 

 

 「全く、もう……」

 沙亜羅はぶつくさ言いながら、ティッシュで右手とスカートの精液を拭った。

 「何考えてるの? ほんの少しでも、我慢できなかったの?」

 「ごめん……」

 僕はひたすら恐縮する。

 沙亜羅は右手を拭き終え、自らの掌をまじまじと眺めた。

 「私、手で男の人を射精させちゃったんだ……」

 「そういう事するの、初めてなの?」

 「うん……」

 素直に頷く沙亜羅。

 普段は生意気だが、こうして大人しくしていると可愛く見える。

 「優、私に手でイかされちゃったんだ…… ねぇ。同じことされたら、またイっちゃう?」

 「まあ、そりゃぁ……」

 技巧は下手ながら、あの柔らかい手で扱かれるという興奮は並大抵ではない。

 「ふふ、覚えておきなさい。これから変なコトしたら、その罰に手でイかせちゃうからね……」

 変な性癖が目覚めてしまったのか、右手をわきわきと動かして沙亜羅はにやりと笑う。

 それ、まるで罰になってない――

 

 「……っと、体力回復しとかないと。二戦連続だったから、赤ハーブも混ぜとくか……」

 僕はおもむろに赤と緑のハーブを調合し、もしゃもしゃと食べた。

 「二戦って…… ヒルと、私?」

 沙亜羅は複雑な表情を浮かべながら、ぎゅぎゅぎゅぎゅんと体力を回復させる僕を眺めている。

 「で、カギはあった?」

 そんな彼女に、僕は尋ねた。

 「赤と青、両方ゲットしたわよ」

 そう言いながら、彼女は2つのカギを僕に手渡す。

 どうやら沙亜羅は、謎解きの類は完全に放棄して僕任せにするようだ。

 

 赤と青のカギを操作パネルに差し込むと、ディスプレイに配線図のようなものが表示された。

 おそらく、パズルになっているのだ。

 いちいちこんなものを解かなきゃならないなんて、作業員の人達も大変だっただろうな――

 そう思いながら、僕は軽くパズルを解いて水門を動かした。

 

 水門が開くと同時に、かぱっと操作パネルが開いた。

 中には、拳銃のバケモノのような大型銃が入っている。

 IMI社のデザートイーグル、今やマグナムの代名詞的存在だ。

 「デザートイーグルか…… まあ、僕の股間のマグナムには敵わないだろうけど」

 「全然戦況に寄与しないじゃない、そのマグナム」

 僕のお茶目なジョークに対し、沙亜羅は暴言を吐く。

 とにかく、僕はマグナムを道具ケースに入れた。

 

 「……まあ、優がいなけりゃここまでは来れなかったかもね」

 おもむろに、沙亜羅は言った。

 「は、はぁ……」

 何か良からぬことの前触れかと、僕は大いに恐縮する。

 「何よ、褒めてるんだから嬉しそうにしてよ」

 「いや……嬉しいよ、沙亜羅」

 「じ、じゃあ行くわよ。いつまでものんびりしてられないんだから!」

 「ああ、そうだな」

 僕達は、こうして小部屋を出た。

 そして、さっきの滝で妨げられていた道へ向かう。

 

 

 水門を閉じたことにより滝は消失し、先へ行けるようになっていた。

 僕達は、さらに先へ進む。

 下水道同然だった周囲は、みるみる整備された道に変わっていった。

 これは、一体――

 

 「まるで、病院の地下みたいだな……」

 周囲を見回しながら、僕は呟く。

 独特の後ろ暗い雰囲気は、まさに病院の地下そのものだった。

 「ここ、もしかして……」

 彼女は腕時計をチェックしたあと、懐から取り出した地図を広げた。

 「やっぱり、ここは――」

 「どうした、何か分かったのか?」

 「GPSで現在位置をチェックしたの。ここは、楽裏生化学研究所の地下よ」

 「なんだって!? あの施設と、研究所が繋がってたのか?」

 驚きの声をあげる僕とは裏腹に、沙亜羅は平然とした表情を浮かべた。

 「研究所とあのニセ下水処理施設が繋がってたのは、別に不思議じゃないわ。

  たぶんあの処理場も、この研究所の一環だし」

 「じゃあ、処理施設と警察署が繋がってたのは――?」

 「あの変人署長が、研究所と警察のパイプになってたんじゃないかしら。

  研究所にしても、地元警察に根を伸ばしておくのは非常に有益だしね」

 沙亜羅はそう類推した。まあ、それが正解なのだが。

 

 「……じゃあ、この上は研究所なんだな」

 「そう、この町を襲った全ての災厄が始まった場所――」

 そう言って、沙亜羅は天井を見上げる。

 「そして、H-ウィルスの『元』がある場所」

 

 「それで、父親? 母親? それとも、他の肉親?」

 僕は、おもむろに沙亜羅に尋ねた。

 「父と姉よ。研究所で働いていたのは――」

 そう言って、少女は僕の方を睨んだ。

 「――で、なんで分かったの?」

 「君は、本国の指令を受けて動いているわけじゃないだろ? 任務だとしたら、動きにムラや無駄がありすぎる」

 「ええ……そう。ここには私の独断で来たの。上層部が……アメリカが派遣した訳じゃない」

 僕は軽く頷いた。

 「ああ、だからさ。そんな人間がそこまでして首を突っ込む理由は一つ。関係者の中に知人がいるからだ。

  君の年齢だと友人というのはちょっと考えられない。だとすると、肉親しかいないさ。

  父はともかく、姉というのは意外だったけどね」

 

 「で、貴方は何者なの?」

 少女は、ポケットに手を突っ込みながら言った。

 明らかに、その中で拳銃を握っている。

 「どこのエージェント? MI6? モサド? ロシア対外情報庁? それとも、中国――人民解放軍総参謀部第二部?」

 「公安だよ。日本の公安調査庁。あの楽裏警察署の内部調査に派遣されたんだ」

 僕は軽く肩をすくめた。

 重ねて言うが、僕の下半身は警察署内からずっと露出したままだ。

 「単なる内部調査……それも、公費の不正使用っていうケチな調査さ。まさか、こんな事に巻き込まれるなんて……」

 「で、ずっとハーブがどうとか言ってバカを装ってたわけ?」

 いや、ハーブは普通食べるだろう。

 僕なんて、任務中は常に緑ハーブ1枚と赤ハーブ1枚を携帯しているぞ。

 

 「まあ、いいか…… 色々助けてもらったしね」

 沙亜羅はポケットから手を出し、腕を組んだ。

 「本当に、なんでこんなコトに巻き込まれたんだろ……」

 僕は自らの境遇を嘆いた。新人警官として署に派遣された初日にコレというのは、いくらなんでもひどすぎる。

 「どこぞの宗教団体にでも内偵してた方がずっとマシだった……」

 「でも、私と知り合えたじゃない」

 沙亜羅は、歯の浮くような恥ずかしい台詞を平然と言った。

 やはり恥ずかしかったのか、言った後で彼女はプイと顔を背ける。

 

 「じゃあ、そろそろ行くか」

 僕は、天井を見上げて言った。

 「そうね。いつまでものんびりしてられない……」

 研究所には、彼女の父と姉がいるという。

 

 僕と沙亜羅は、階上へのエレベーターに乗り込んだ。

 全てが始まった場所、楽裏生化学研究所へ――

 

 

 研究所へ

 

 

 


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