グランドール事件
「ただいま戻りました」
豪華なな調度品の並ぶ一室に、青いドレスの女が入ってきた。
部屋の中央に置かれた机の向こうで、椅子に身を沈める禿頭の老人がそれを無言で迎えた。
「侵入者五体を全て片付けてまいりました」
机をの脇を回り、老人の傍らに身を寄せながら彼女は続けた。
「もう下には連絡を入れないよう言っておいたので、邪魔は入りませんよ」
老人の椅子の傍らに置かれた、小さな丸椅子に彼女は腰を降ろした。
「・・・・・・・・・」
老人は返事も返すことなく、ただゆっくりと瞬きを繰り返していた。
女の瞳に、微かな悲哀が宿る。
しかし彼女はそれを一瞬で振り払うと、机の上に積まれたアルバムの山をひっくり返し、一番下にあった一冊を手に取った。
「ほら、覚えていますか、あなた?」
貼られている写真の一枚を指し示しながら、彼女は老人に問いかけた。
俺を乗せたストレッチャーが、殺風景な通路をゆっくり進んでいる。
疲労感が身体に溜まっており、首を動かすの億劫だった。
首を傾けると、ストレッチャーを押す者の姿が目に入った。押しているのは、ルーシーと名乗った事務用人形だった。
どうやら、運ばれている間に気を失っていたようだ。
「お目覚めですね」
俺の覚醒を悟ったルーシーが、笑みを浮かべながら話しかけた。
どうやらもう寝ている振りをして隙を窺うことは出来ないようだ。
「・・・今どこだ?」
「現在居住区の一階を、第一魔力供給室に向けて移動中です」
開き直って放った俺の問いに、驚くべきことに彼女は素直に応えた。
どうやら、俺のある程度までの質問に答えるよう設定されているようだ。
「俺の仲間は、今どこに・・・?」
情報を得るため、俺はある程度の質問をいくつかすることにした。
「現在、貴方の仲間のうち男性三人は第一魔力供給室に、淫魔の一人は作業区画の第二工作室にいます」
「そうか・・・」
脳裏に『人形工房』の施設見取り図を思い浮かべながら、大体の行動計画を立てる。
第一魔力供給室に入るまでの隙を狙って脱出し、囚われた隊長達三人を救出。装備を出来るだけ取り返して鉄を救出し、任務を遂行するといったところだろうか。
しかし、ルーシーの言葉によると、鉄は人形にされる予定らしい。
だとすれば、鉄の救出を先にするべきだろう。
二つの選択肢が浮かぶが、どちらか決定するには情報が足りない。
「・・・それで、第一魔力供給室ではどういうことが行われている?」
情報を増やすべく、俺はルーシーに問いかけた。
「第一魔力供給室では『人形工房』の防御結界維持のため十数体の淫魔を在中させています。そして魔力の回復のため、淫魔には継続的に精液が投与されます」
「・・・なるほど・・・」
ある程度集まった情報を、俺は脳内で整理した。
第一魔力供給室には隊長達三人が、他の職員や淫魔と共に幽閉されており、結界維持のため酷使されている。
一方鉄は第二工作室に捕まっており、じきに人形に改造される予定だ。
(そして・・・この短時間である程度の体力は回復したわけだ・・・)
拳を握り締め、開きながら俺は胸中で呟いた。
少々辛いが、暴れたり走ったりする程度のことは出来るはずだ。
このまま第一魔力供給室まで運ばれるか、一旦この場を脱出するか、早いところ決めなければ。
しばしの逡巡の後、俺は―
一歩一歩、決まったペースと歩幅で進んでいる。
彼女の歩くペースと呼吸をあわせ、彼女が右足を踏み出した瞬間、俺はストレッチャーの右側に転がり落ちた。
「!」
俺の突然の行動に、ルーシーが反応できず動きを止めた。
床に転がり落ちた俺は、落下の痛みを堪えながら、踏み出された人形の右足を思い切り払った。
重心が乗っていた足を掬われ、彼女の身体が傾いていく。
必死に左足や手を突き出し、彼女は転倒を防ごうとするが、俺は的確に手足を小突いていった。
そして、落下から一秒と経たぬうちに、人形の身体が通路の床に倒れ伏した。
「ふんっ!」
人形が身を起こす前にその背中に馬乗りになると、俺はむき出しの首筋めがけて掌底を叩き込んだ。
任務の説明中に聞いた、人形共通の急所の一つだ。
人工皮膚の奥で何かが千切れる感触と共に、彼女の動きが止まった。
「・・・・・・よし・・・」
完全にルーシーが活動停止したことを確認し、立ち上がる。
そして、ストレッチャーの下の台に突っ込まれていた衣服を手早く身に着けながら、俺は今後の予定について考えた。
まず隊長を含む三人だが、彼らの救出は後回しにしていいだろう。
淫魔に魔力を供給するというのが目的ならば、第一魔力供給室にいる限り命の安全は保証されるはずだ。
そのため現在優先されるのは、鉄の救出かゲート施設の復旧だ。
人形の言葉によれば、鉄はすぐにも人形に改造されるようだ。そして時計を見れば、ジョンソン砲による砲撃まで、あと二時間ほどしかない。
『人形工房』の施設見取り図を思い浮かべた。
現在俺は、居住区画の通路にいる。
壁に掲げられた標識から、鉄の囚われている第二工作室とゲート施設までの距離では、ゲート施設の方が近いようだ。
こうしている間にも鉄が改造されているかもしれないが、無手で彼女を助けられるとも思えない。
「・・・・・・」
しばしの逡巡の後、俺は決心した。
「・・・よし・・・」
行き先を確定すると、俺は人気の無い通路の壁沿いを、辺りを窺いながら走り出した。
人気の無い、それこそ人形一体の見張りすらいない通路を駆け抜け、階段を降り、ゲート施設へ向かって行く。
やがて通路は次第に無機質かつ無骨な造りになっていき、程なく俺はゲート施設にたどり着いた。
廊下や部屋の壁と床には、無数の弾痕や細かな破片が残っており、激闘の跡をうかがわせていた。
「・・・・・・」
注意を払いながら、室内に足を踏み入れる。
部屋の中央には巨大なリング状のゲート設備が設置されており、側には制御用のコンピュータがあった。
リング状のゲートには、隠すように梅宮の小型コンピュータが繋げてあり、当時の状況を物語っていた。
(ゲートの機能を復旧させようとしたところで人形達が乱入。応戦するも耐え切れず、三人とも捕らえられたといったところか・・・)
口元を覆い、梅宮のコンピュータを見下ろしながら推察した。
「・・・ん・・・?」
不意に違和感が俺の胸を突いた。
違和感の正体を探るため、部屋を見回す。
床に転がるのは何かの破片や、銃身のひしゃげた拳銃、弾切れの拳銃ばかりだった。
大きな人形の部品や、無傷の銃器などは一つも落ちていない。
『全く、教えておかないと気が付かないんだから・・・』
拘束された俺を前に、アリシア人形の放った言葉が、俺の脳裏に浮かび上がった。
瞬間、胸中でわだかまっていた違和感が掻き消え、一切が一つに繋がった。
「・・・そうか・・・!」
違和感の正体、そして梅宮のメッセージの意味に俺はようやく思い至った。
この部屋には、他の武装や人形のパーツが残っていない。
だというのに、梅宮のコンピュータや故障や弾切れを起こした拳銃は放置されている。
これは、人形達が拳銃やコンピュータを危険物だと見なさなかったからではないだろうか。
事実、鉄の魔力の源であった精製剤はアリシア人形自身の手で回収されるまで手付かずだった。
「だとすれば・・・」
床に落ちている拳銃を拾い集め、確認する。
一丁は銃身がくの字に折れ曲がっており、もう一丁は弾切れで上部のスライドが下がっている。
一丁ずつ見れば、人形からしてみれば危険物でもなんでもないゴミでしかなかった。
だが故障した銃の弾倉を、弾切れの拳銃に差し込めばいいだけだ。
「よし・・・」
残っていた弾倉や弾を拾い集め終えると低く呟き、俺は次なる目的地に向けて走り始めた。
それは―
台を囲むように数体の人形が立っており、その側にはメスをはじめとする手術器具などが置いてあった。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
一糸纏わぬ姿で両手両脚を台に拘束されながらも、彼女の唇からは言葉が溢れ続けていた。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
それは贖罪の言葉、謝罪の言葉。
決して届かないであろう、この場所にいない者への言葉だった。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
元々言い出したのは彼女だった。
繰り返さないための提案だったのに、また起こってしまった。
「器具の消毒完了」
彼女が横たわる台を囲む人形の一体が、無機質な音声を放った。
「消化器、循環器の摘出と脳への制御装置の埋設、及び術式による戦闘人形への変化工程を行う」
手術の内容を読み上げると、人形は傍らに置かれた作業台から、鋭いメスを取り上げた。
「ごめんなさい・・・」
照明の光を受け鋭く輝く刃を見ながら、彼女は呟いた。
どん ぱん
瞬間大きな音を立てながら部屋の扉が大きく開き、続けて乾いた音が彼女の耳朶を打ち据え、執刀医人形の頭部が揺らいだ。
ぱん ぱん
続く音にあわせ人形の体が揺らぎ、タイル張りの床に倒れ伏していった。
「緊急事態発生。緊急事態発・・・」
ぱん
助手として立っていた人形達もまた、声を上げながら崩れ落ちていく。
そして、最後の一体が声を途切れさせながら倒れていった。
「鉄!」
大きく開いた扉の向こうから、彼女の見知った姿が現れた。
手術台を囲む人形のうち、最後の一体の首筋に弾丸を撃ち込むと、俺は声を上げた。
「鉄!」
俺の呼び声に、彼女は顔をこちらに向けた。
「あ・・・」
泣いていたのか、若干充血した眼を目一杯開き、呆けた表情で俺を見つめる。
「間に合ったようだな」
足早に手術台に歩み寄ると、声をかけながら彼女の両手両足を押さえる高速具を解いた。
手首や足首に微かな痕は付いていたが、彼女が暴れなかったせいか擦り剥けたりはしていないようだった。
「立てるか?」
「・・・・・・伍堂・・・」
差し伸べた俺の手を取らず、彼女はただ呆然と俺を見上げていた。
そして、その両の目がじわりと潤み始めた。
「ごど・・・う・・・うぅ・・・うぁぁ・・・」
ぐしゃり、と顔を歪ませながら、彼女は俺の胸元にすがり、嗚咽を漏らし始めた。
突然の彼女の行動に、俺は一瞬硬直した。
「うぁぁ・・・ごめんなさい・・・ごめんなざいぃ・・・」
誰に向けられているのか分からない謝罪の言葉は、涙と嗚咽によってくぐもっていた。
俺の両手は宙に浮いたまま固まり、彼女を引き剥がすわけでもなく、抱きしめるわけでもなかった。
「うぅ・・・う・・・」
数秒そうしていると、衣服越しに彼女の体温が伝わってきた。
「・・・・・・」
思っていたより華奢な彼女の方を抱きしめ、抱擁してやりたいという衝動を打ち消すと、俺は彼女の肩を掴み、身体を離す。
「ぁ・・・」
「鉄、大丈夫そうだな」
しっかりと視線を合わせながら、彼女が何か言う前に続ける。
「とりあえず一旦この場を離れ、安全な場所で体制を整える。いいな?」
「あ・・・うん」
「それと・・・」
絶対に視線を下に降ろさぬよう努力しながら、俺は続けた。
「お前の服は隣の部屋にあった」
彼女の顔が見る見るうちに赤くなり、直後俺の顎を鋭い衝撃が打ち抜いた。
鉄が囚われていた第二工作室から少し離れた倉庫の一室に、俺たちは身を隠していた。
自身が全裸であることに気が付いた鉄は俺を失神させた後、隣室においてあった服を身に着けてからようやく俺を起こした。
「正直下を見なかった俺の努力は評価してくれてもいいと思うんだが」
「うるさい」
弾倉の弾を確認しながらの俺の呟きに、彼女がややぶっきらぼうに応えた。
「・・・ところでだ」
「・・・何だ・・・?」
「今の時点でいい知らせが一つと悪い知らせが二つある。どれから聞くか?」
俺の問いに、彼女はしばしの沈黙を挟んで答えた。
「いい知らせからだ」
「俺たちが捕まる直前に届いた通信の意味が理解できた。あれは電力を復旧させろという意味らしい」
俺はゲート施設に残されていた梅宮のコンピュータのことを話すと、続けた。
「どうやら梅宮は、あとはゲートの電源が回復すれば自動で起動するように設定していたようだ」
「つまり・・・発電設備を復旧させれば、任務は終わり?」
「あぁ」
鉄の言葉に、俺は頷いた。
「ただ、ゲート設備の警備が手薄だったり、コンピュータや拳銃が放置されていたことから考えると、発電設備の警備はかなり厳重になっていると思う」
「・・・なんでだ?」
鉄は俺の言葉に眉を寄せ、首を傾げた。
「どうやら人形達には、重要な仕事はちゃんとこなすが、そうでもないところは適当になる傾向があるらしい」
「あぁ・・・お前の拳銃とか、あたし達の服とかね・・・」
「ゲート設備に関しても、電源を切ってしまえばただの輪っかだ。だからわざわざ警備する必要も無い」
「ということは・・・」
「そうだ、発電設備の警備はかなり厳重なはずだ」
「そいつが、悪い知らせの一つか」
俺は頷いて応えた。
「それで、もう一つは?」
「拳銃の弾が、あとこれだけしかない」
言葉と共に拳銃の弾倉を見せる。
「だからこれから先は、お前の能力が頼りになってくるんだが・・・」
淫魔兵器である彼女は、魔力が切れていては能力は使えない。
魔力を補うには、精製剤なり何なりと言う形で摂取しなければならない。
そして、この場に精製剤は存在しない。
だとすれば、彼女が魔力を補う方法は一つしかなかった。
「・・・・・・あぁ、分かっている・・・」
気恥ずかしさを押し隠しながらの俺の言葉を、彼女は途中で遮った。
「ちょっと待ってろ・・・・・・」
両の目を閉ざし、数度深呼吸をする。
落ち着いたのか、彼女が目を開いて俺の側に寄ってきた。
そして俺と並ぶように、床に腰を下ろした。
「・・・急ぎだから、手でいいな?」
「・・・あぁ・・・」
倉庫の壁に背中を預け、全身を無理矢理リラックスさせる。
鉄は手を握り、開くと、俺のズボンのチャックをゆっくりと下ろしていった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何となく、俺は視線を彼女から外し、床へ向けた。
無言のまま彼女がズボンに手を差し入れ、下着から俺のペニスを取り出す。
俺は無言で鉄の成すがままに任せていた。
露出した俺のペニスに指を添え、彼女は黙々と撫で擦る。
半ば勃起した肉棒を、根元から先の方へ揉むように指で優しく締め、緩めていく。
兵器の名を冠している割に、意外と柔らかで温かな彼女の掌の感触に驚きを覚えつつも、俺は心地よさを感じていた。
やがてペニスが完全に勃起すると、鉄は揉む動きから上下に扱くように手の動きを変えた。
掌と指先が竿を擦り、曲げられた指の腹が裏筋をなでていく。
親指と人差し指の作る輪が、膨らんだ亀頭とカリ首を擦り、強い刺激を残す。
淡々とした、作業のような手淫であったが、もたらされる快感は大きかった。
「・・・ぐっ・・・うっ・・・」
「・・・・・・」
腰から登ってくる快感に声を漏らしながら、俺は逸らしていた視線を天井や壁などに泳がせた。
そして、俺の隣で黙々とペニスを刺激する彼女の横顔に、俺の視線が向けられた。
その顔は機械的な手の動きとは裏腹に、赤く染まっていた。
「・・・・・・」
彼女は口をへの字に結び、ちらちらとペニスを盗み見るようにしながら、黙々と手を動かしていた。
まるで、初めて男性器を触る少女のような様子だ。ただ、その瞳に幾許かの寂しさが宿っているのを除けば、だが。
「ぐっ・・・!」
鉄の横顔に気をとられた一瞬、快感が俺の意識に食い込んだ。
先程人形達によって搾り取られたせいで絶頂には至らなかったが、それでも興奮が高まりつつあることには変わりが無かった。
顔を赤らめた鉄の横顔、温かで柔らかい彼女の掌。
一切合財が、俺を高めていく。
「・・・・・・」
掌を押し返すように脈打ち始めたペニスに、彼女が動いた。
左掌を、脈打つ亀頭に被せてきたのだ。
くぼませた掌が、先走りを垂れ流す亀頭に覆いかぶさり、温もりと柔らかさを与えてくる。
その瞬間、快感がはじけた。
「う・・・ぐ・・・!」
無意識のうちに腰が跳ね上がり、尿道の中をどろどろとしたものが駆け上っていく。
尿道が大きく開き、彼女の左掌めがけて精液が迸った。
「・・・・・・!」
掌を打つ熱い粘液の感触に、鉄の表情が一瞬強張り、右手の動きが止まった。
しかし彼女は一滴も零すことなく、その左手で精液を受け止めた。
「・・・っはぁはぁ・・・」
「・・・・・・終わり・・・?」
絶頂が終わり、いつの間にか止めていた息を再開させる俺に彼女は戸惑うように問いかけてきた。
射精の脱力感が身体を支配していたが、俺はどうにか一つ頷いて見せた。
「・・・・・・終わりか・・・」
一言呟くと、彼女は精液を零さぬように左手をペニスから離した。
そしてそのまま、眼前まで掌を持ち上げる。
左手に満たされた、白く濁った粘液を彼女はしばし見つめた。
「・・・・・・・・・」
数秒の間をおいて、鉄は掌に唇を付け、俺の精液をあおった。
窄められた彼女の唇に、どろどろとした粘液が押し寄せ、啜られていく。
むき出しになった彼女の白い喉が数度上下し、口内の白濁液を嚥下していく。
俺はその様子を、徐々に回復する疲労感に浸りながら見ていた。
「・・・んっ・・・んっ・・・ぷはっ・・・」
意外と長い時間をかけて精液を飲み干すと、彼女は一つ息をついた。
「これで・・・装填完了だ・・・けぷっ」
なぜか少しぐったりした様子で、彼女はそう言った。
発電設備までの通路を、俺たちは走っていた。
ジョンソン砲による砲撃まで、残り二十分も無い。
幸い、余裕の表れか監視していないせいか、身を隠していた倉庫からここまでの間、人形の姿は無かった。
「鉄、もうすぐ発電設備だが・・・」
「分かってる。打ち合わせどおり、な」
次第に装飾が取り払われていく通路を進みながら、俺たちは言葉を交わした。
既に床は金属の格子状になっており、その下を走る無数の配管が見えている。
俺の脳裏に浮べた『人形工房』施設の見取り図と照らし合わせ、大体の位置を探る。
「伍堂、次は?」
「二つ先の角を右に曲がった、真っ直ぐ先だ」
俺の言葉に、鉄の表情に緊張が宿った。
「いくぞ・・・!」
俺の脚が少しだけ遅くなり、鉄の足が少しだけ速くなる。
そして、発電設備の入り口から延びる通路に、鉄が先に飛び込んだ。
「・・・っ!」
身を投げ出すようにしながら、右手をピストルの形に構え、指先から魔力を放つ。
凝り固まった透明な何かが、一直線に通路の奥に突き進んで行った。
遅れて、轟音があたりに響く。
鉄に続けて通路に飛び込むと、俺は床で転がり受身を取った彼女の掌を握り、引き上げた。
俺の手を支えに立ち上がる彼女の動きを感じながら、通路の奥に視線を向ける。
数人が並んで通れそうな幅の通路の突き当たりで、数体の人形が倒れ伏していた。
鉄の放った魔力弾の炸裂により、ダメージを負っているようだ。
幸い、他の人形の姿は見えない。
「ありがとっ・・・!」
姿勢を立て直した鉄が、小さく礼を言う。
「先に行く・・・!」
俺は小さく応じると、通路を突き進んだ。
微かに動く人形達を乗り越え、僅かにひしゃげた発電施設のドアレバーに手をかけた。
鍵が掛かっているせいか、ドア自体が歪んでしまったせいか、開く気配は無い。
「伍堂!どいて!」
背後から届いた鉄の声に、俺はとっさに身を脇へ投げ出した。
直後、俺の側を目に見えない何かが通り抜け、ドアに激突した。
金属製のドアが、ダンボールか何かのように容易くひしゃげ、くの字に折れ曲がりながら発電施設内部へ吹き飛んでいく。
「よし、開いたな」
呆然と吹き飛んでいったドアの残骸を見つめる俺に、彼女が満足げな笑みを浮かべながら手を差し伸べた。
「鉄・・・今の当たってたら、俺死んでたぞ・・・」
「死んでないからいーじゃん」
「良くない」
鉄の手を借りて立ち上がりながら、俺は苦い表情を浮かべながら発電施設内部に視線を向けた。
室内の光景に、俺の表情が強張る。
「ま、お叱りは後で受けるとして・・・」
鉄も気が付いたのか、声から緊張がにじみ出ていた。
「先客がいるみたいだね」
発電施設内部を差して、彼女はそう続けた。
扉の向こうは意外と広々としており、扉の向かいの壁には幾つものモニターや制御盤が埋め込まれていた。
そして、扉と制御盤の間辺りに、二体の人形が立っていた。
肩に届くほどの金髪に、整った顔立ちをした、猫科の動物を思わせる脚を持った人形だ。
「GU-03、侵入者を確認。直ちに対処する」
「GU-04、侵入者を確認。直ちに対処する」
同じ顔の二体の人形が、全く同じ文面を読み上げる。
「くっ・・・!」
「伍堂!」
ベルトに差していた拳銃を引き抜こうとした瞬間、鉄が叫んだ。
同時に、俺の襟首に力が掛かり、後ろへ引っ張られる。
「なっ・・・」
鉄の突然の行動に、俺の視界が人形達から天井へと移っていく。
そして、抗議の声を上げようとしていた俺の目に、天井に張り付き壁の陰に隠れていた三体目の人形の姿が入った。
三体目の人形はコンクリートに指を食い込ませたまま、天井をそのすらりとした猫脚で蹴った。
天井に食い込む指を中心に、人形の脚が弧を描く。
鋭い蹴りが、俺の頭部があった場所を正確に薙いでいった。
「GU-02、奇襲に失敗」
天井から指を解くと、人形は蹴りの勢いもそのままに宙を舞い、俺たちの背後の通路に降り立った。
これで人形は室内に二体、背後の通路に一体。ちょうど挟み撃ちの形だ。
「侵入者に勧告します。武装を解除して投降しなさい」
「糞・・・」
こちらを挟み込んだ相手の布陣と言葉に、俺は小さく呻いた。
幸い俺が拳銃に手をかけていないおかげで、まだ武力行使する様子は無いようだ。
「・・・鉄」
「何?」
自然と背中を合わせ、人形達を牽制していた鉄に、俺は小声で問いかけた。
「残弾、何発だ?」
「・・・人形吹き飛ばすのに二発、ドア開けるのに二発使ったから・・・後二発」
若干の不安さを滲ませながら、鉄は応えた。
「二発か・・・なら人形二体ぐらい、いけるか?」
「あぁ・・・二体までなら、な・・・でも・・・」
「なら、前の二体を倒して、電力を復帰させてくれ。通路の一体は俺が何とかする」
「っ・・・?」
背後から驚いたような気配が届くが、俺は構わず続けた。
「頼む、もう時間がないんだ」
「・・・・・・・・・分かった・・・やってみる」
一瞬の間をおいて、鉄は決断した。
「よし・・・」
俺の手がベルトに挟んでいた拳銃に伸びる。
「行くぞ!」
声と共に、拳銃を抜き放った。
腕を上げ、人形に照準を合わせながら、引き金を引く。
反動と共に、銃口から銃弾が飛び出していった。
銃弾は狙い通り、人形の目に向かって飛んでいく。
しかし、人形は軽く身を屈めながら、俺の銃撃を避けた。
当たり前だ。第一資材庫ではアサルトライフルを使っていた。拳銃とアサルトライフルでは、弾の速度が違う。
構わず、俺は姿勢を低くした人形めがけて、銃撃を重ねていく。
無論そのいずれも、人形が床を蹴って跳躍したせいで外れる。
立て続けの外れだったが、これはチャンスだ。
滞空中の人形は軌道はおろか姿勢を変えるのも難しい。
ほぼ的となった人形の目に、俺は狙いを定め、引き金を引いた。
撃鉄が銃弾の雷管を打ち、弾丸が発射される。
弾丸が回転しながら、人形の目に向けて一直線に迫る。
だが―
ぢんっ
鋭い音と共に、人形の掌が眼前まで迫っていた弾丸を払った。
「っ!?」
当たる、と踏んでいた一発を弾かれ、俺は表情を強張らせた。
俺の表情の変化に、人形が笑みを浮かべたような気がした。
だんっ
一瞬の後、人形はその猫脚を前後に開いて、俺の目の前の床に着地する。
一歩引いた右足に、力が篭っていく様子が見て取れた。
どうやらこのまま、俺の胴を蹴り抜くつもりらしい。
そして相手はもはや俺の懐に入っている。拳銃を構えなおすより、人形の方が早い。
確実に死ぬだろうな、という予測。
武器を補充しとけば、という後悔。
鉄は大丈夫だろうか、という心配。
その他もろもろの思考が、一瞬のうちに脳裏を掠めていく。
そして、雑多な思考の中から、突然この状況を打開する案が浮かび上がった。
半ば無意識のうちに、俺の左手が人形の左足に伸びる。
軸足として力が篭っていたそれを、俺は転がるように体重を掛け、払った。
軸足が宙に舞い、人形のバランスが崩れる。
そして、一歩引いて力を込めていた右足が、蹴りを放った。
軸足を地面から離し、蹴り足を地面につけたまま。
床の上に倒れる俺の眼前で、人形の身体が右足の付け根を中心に、前のめりに回転していく。
俺に当てるはずだった蹴りのエネルギーが、彼女の全身を回転させていく。
そして、驚いたかのように目を見開いた人形の顔面が、金属の格子で出来た床に叩きつけられた。
がじゃぁん
金属製の格子が、激突した人形の頭部を中心にへこみ、ひしゃげる。
そして、格子が立てる大きな音に混ざって、何かが砕けるような音が届いた。
「・・・・・・・・・」
身体をくの字に曲げ、顔面を床にめり込ませる人形を前に、俺はしばしの間硬直していた。
しかし、数秒たっても人形が動く様子は無い。
どうやら、自身の蹴りのエネルギーを顔面に叩き込んだ衝撃で、頭部の重要回路が損壊してしまったようだ。
「・・・・・・っふぅ・・・」
全身の硬直を解くと、俺は一つ息をついた。
だが、一瞬のうちに緊張が戻る。
鉄はどうなった?
「くろ・・・」
彼女の名を呼びながら身を起こそうとした瞬間、辺りが赤くなった。
『緊急警報、緊急警報』
あたりを赤く照らす証明と共に、無機質な声が俺の耳に届いた。
『発電設備において事故発生。職員は速やかに・・・』
「行くぞ!」
伍堂の言葉と共に、鉄はピストルの形に握った右手に、魔力を込め始めた。
残る二発分のうち、一発分を急速に練り上げていく。
イメージは矢。鋭く、長い矢。
同時に床を蹴った二体の人形のうち、左の一体に指先を向ける。
そして、練り上げた魔力を、彼女は放った。
「・・・っ!」
ライフル弾に匹敵する速度の魔力弾が、人形の顔面を穿つ。
場所は、伍堂が幾度となく狙っていた、人形の眼窩だ。
固形化した魔力が視覚センサーを破砕し、その奥の重要回路を砕き、機能を停止させる。
鉄は前のめりに崩れ落ちつつある人形から視線を引き離すと、もう一体に向き直った。
こちらは既に、数歩先という距離にまで迫っている。
炸裂弾では彼女もダメージを受けるし、ただの魔力弾では勢いを殺せない。
一瞬のうちに判断を下すと、鉄は人形を壊すのに最適な形を練り上げた。
「・・・っ!」
自身に残された、最後の一発の魔力を彼女は放った。
極限の集中と緊張に引き延ばされた時間の中、人形が一歩を踏み出し、その胴に魔力弾が命中した。
瞬間、人形の胴が左肩から右脇腹へ、袈裟懸けに切り裂かれた。
斬り飛ばされた頭部と右腕が宙に舞い、バランスを崩した残る部分が鉄の脇を通り抜け、転がっていった。
人形二体の始末を終え、彼女の身体から緊張が消えた。
「・・・っ!だい・・・!」
背後で戦う伍堂の名を呼ぼうとし、同時に彼が放った言葉を彼女は思い出した。
『前の二体を倒して、電力を復帰させてくれ。通路の一体は俺が何とかする』
タイムリミットまでにゲートが復帰できなければ、『帝国』の兵器の一つであるジョンソン砲で、『人形工房』の施設ごと砲撃を加えるという。
『頼む、もう時間が無いんだ』
伍堂の言葉が脳裏に浮かぶ。
ここで振り返り、彼の安否を確認したい。
だがそれは、彼の信頼を裏切ることに他ならない。
「くっ・・・!」
背後から響く銃声から意識を引き剥がすと、彼女は壁に埋め込まれた制御盤に駆け寄った。
そして、操作しようと伸びた彼女の指が止まった。
どう操作すれば良いのか、分からないのだ。
制御盤には幾つものスイッチやつまみ、メーターやモニタが埋め込まれ、それぞれが何らかの情報を表示している。
だが、鉄にはどこをどう操作すれば良いのかさっぱり分からないのだ。
「くっ・・・」
己の迂闊さを悔やむ彼女の目が不意に、制御盤の一点で止まった。
それは黄色と黒の枠で囲まれ、透明なカバーを掛けられた大きな赤いボタンだった。
左右に目をめぐらすと、そのボタンは等間隔にいくつか並んでいた。
どうやら発電装置の事故などといった、緊急事態を告げるボタンなのだろう。
そして緊急事態になれば、発電設備を停止して予備電源に移行し、職員の避難等を促す。
「・・・!」
そこまで考えたところで、彼女は目を見開いた。
限られた予備電源で、この孤島から大量の職員を速やかに避難させるには、どうすればいい?
まず誘導灯は必須だ。
そして肝心の避難には船着場に停泊している船や、ヘリコプターという手段などがある。
だが、積荷を載せた貨物船や、数の限られているヘリコプターでは不十分だ。
だとすれば―
「・・・ふん!」
鉄は拳を握ると、すぐ側の赤いボタンめがけて振り下ろした。
透明なカバーが砕け、ボタンが押し込まれる。
同時に、辺りを照らす照明が赤いものに切り替わり、大音量の放送が響いた。
『発電設備において事故発生。職員は速やかに、最寄のゲート施設にて脱出して下さい』
誰もいない、戦闘の痕跡が残るゲート施設に、緊急事態の発生と避難を告げる放送が響いた。
そして、部屋の中央に据えられた大きなリング状の装置の各所に、小さな光が宿った。電力が復旧したのだ。
ゲート装置の主電源の回復は、装置に接続された小型コンピュータにも変化をもたらした。
予め入力されていたプログラムが、電力の復旧をきっかけに動作し始める。
ゲートの設定が書き換えられ、接続先が児童で指定されていく。
やがて、巨大なリングの内側の景色が捩れ歪んでいく。
いずこかに接続されたのだ。
そして歪みきったリングの内側から、鈍色の指が突き出た。
豪華な調度品が並ぶ一室でも、照明は緊急用の赤いものに切り替わり、非常事態を告げる放送が繰り返されていた。
「ちょっと!何があったの!」
青いドレスの女が立ち上がり、耳元に手を当てながら声を上げた。
『発電施設にて緊急事態発生、現在緊急避難モードです。速やかに・・・』
「発電施設で何があったかを報告しなさい!」
『捕獲していた侵入者の二体が脱出し、発電設備に侵入。警備の人形を破壊した後、事故発生を発令した模様です。
それに加え、現在居住区画のゲート設備から、何者かが侵入しつつあります』
「く・・・」
報告を上げないように命じていたことを思い出し、彼女は小さく呻いた。
「・・・分かりました。電力システムを通常モードに切り替え、全ての緊急避難状態を解除。それと、全ゲート施設の電力をカットしなさい」
『了解しました』
機械的な音声と共に避難を促す放送が途切れ、照明が通常のものに切り替わった。
「・・・ゲート施設に手の空いている人形を派遣し、侵入者二体の動きは逐一報告しなさい」
女の両の目に、怒りが宿っていた。
赤い照明と、緊急事態を告げる放送は、一分程度で終わってしまった。
再び制御盤のボタンを押してみるが、もう何も起こらない。
どうやらシステム側で、完全にロックされたようだ。
だが、予定時刻を数分は過ぎたというのに何も起こらないところを見ると、どうやらゲート施設の復旧と、本隊の突入には成功したらしい。
でも、一分程度でどれだけの戦力が投入できるだろうか?
本来の予定ならばゲート施設を復旧させれば、本隊の突入と俺たちの退却が同時に出来るはずだった。
だが発電設備はゲート施設から遠く離れている上、無線機も奪われているため本隊との通信も出来ない。
だとすれば俺たちに出来ることは、安全そうな場所に篭ることだった。
「・・・・・・・・・」
焦りを感じながら、俺たちは通路を進んでいた。
とりあえず、目指す先は発電設備に向かう前にいた、あの倉庫だ。
「・・・なぁ・・・」
俺の隣を歩いていた鉄が、何かを決心したかのように口を開いた。
「さっきの事だけど、その・・・お前の事、見直したよ・・・」
「どうした、急に」
突然の彼女の言葉に、俺は怪訝に応じた。
「いや、だってお前・・・あの人形をサシで倒しちまうし、捕まってたあたしも拳銃一つで助けて見せるし・・・」
「・・・・・・」
時折口ごもりながらも、彼女は言葉を連ねていく。
「それに・・・あたしが人形倒して、電力復旧できるって信じてくれたのも、その・・・ええと・・・」
「・・・・・・お前こそ、俺の言葉を信じてくれただろう」
俺の言葉に、はっと彼女が顔を上げた。
「とりあえず、礼を言っておく。ありがとう」
「・・・・・・こちらこそ・・・」
しばしの沈黙を挟んで、彼女が応じた。
なぜか、その顔は赤かった。
「そういえばもうすぐ倉庫だよな」
「うん?あぁ」
話題を切り替えるように声の調子を変えた彼女に、俺は応えた。
確かに、後二つ三つ角を曲がれば、目的の倉庫だ。
「とりあえず、入り口に荷物積んでバリケードつくっときゃ大丈夫かな?」
「まあ、多分な・・・」
篭城後の予定を立てながら、俺達は通路の角を曲がる。直後、その足が止まった。
俺たちの視線の先に、一つの人影があったからだ。
青いドレスに、金色の髪。
白く整った顔立ちをした、人形。
「あら、また会いましたね」
『人形工房』副団長、アリシア人形の姿がそこにあった。
「・・・う・・・」
ただ立っているだけの彼女の姿に、鉄が小さく声を漏らした。
無理も無い。
ただの人形であるはずのアリシア人形からは、とてつもない濃度の殺気と怒気が溢れ出していたからだ。
事前に情報を得ていたはずの俺でさえ、相手が人形かどうか不安になるほどだ。
「色々好き勝手・・・してくれましたね・・・?」
笑顔のままそう言うと同時に、彼女の姿が視界から消え、焦げたような匂いが鼻腔をくすぐった。
彼女が床を蹴り、低く跳躍したと気が付くのに一瞬の間を要した。
「ぎゃんっ!」
直後、俺の隣にいた鉄の姿が掻き消え、青い影が視界の端に現れた。
とっさに顔を向けると、そこには片手で鉄の首を掴み、掲げるアリシア人形の姿があった。
「あぐ・・・だい・・・ご・・・!」
己の首を絞める人形の手を掴みながら、彼女は途切れ途切れに俺の名を呼ぶ。
「く、鉄!」
とっさに彼女の名を呼びながら、俺はアリシア人形に拳銃を向けようとした。
だが、俺の全身が一瞬固まった。
鉄を掴み上げるアリシア人形の、その顔を見てしまったからだ。
「・・・ふふ・・・」
彼女は笑っていた。
目を細め、口の端を吊り上げ、瞳に怒りを湛えながら笑っていた。
俺はその、余りにぞっとするような表情に、思わず拳銃を手にしたまま動きを止めてしまった。
そしてその隙を狙い、アリシア人形の足が跳ねた。
手首を彼女の足が打ち据え、拳銃が手元から飛んでいった。
「あぐっ・・・!」
手首を襲う鈍痛を堪えながら、俺は飛んで言った拳銃を目で探そうとした。
「あが・・・が・・・ぐ・・・!」
「っ!」
鉄の口から漏れ出す苦鳴に、俺は正気に返った。
拳銃を拾うよりも、鉄の喉が握りつぶされる方が早い。
「・・・・・・く・・・!」
手首の痛みを振り払い、俺は指を広げた。
先ほどからあたりに漂っている焦げたような臭いは、恐らくアリシア人形自身から発せられているものだ。
本来ならばアリシア人形は、副団長という地位にふさわしい事務用人形程度のボディしか与えられていないのだろう。
だが先程の瞬発力は、明らかに事務用の範疇を越えていた。
ということは、彼女のボディが戦闘用であった、もしくは強引に出力を上昇させて戦闘用に匹敵する瞬発力を得たということだ。
そして、辺りに漂う焦げた臭いが、後者であることを証明していた。
だとすれば、これが効くはずだ。
「ふんっ!」
鋭く踏み込み、距離を詰めながら、おれは広げた掌をアリシア人形に向けて突き出した。
狙いは首筋。
センサーや重要回路、身体の各所を繋ぐコードが通っているその場所めがけて、一直線に掌底が迫る。
「・・・・・・っ!?」
踏み込みの音に、アリシア人形の目が俺の掌を捉えた。
そして、人工皮膚やケーブルなどが焦げる臭いを発しながら、身を捩った。
掌の先にあった首筋が消える。
「・・・っ!」
このままでは掌底が外れる。
俺はとっさに狙いを変え、体重を乗せた一撃を―
だんっ!
遅れて、鉄が床に落ちる音が届く。
「っげほっ、ごほ・・・!」
「鉄!大丈夫か!?」
崩れ落ちた鉄を助け起こしながら、俺は問いかけた。
握りつぶされつつあった器官を解放され、彼女はは咳き込みつつも空気を貪るように吸った。
そして・・・
「うぐ・・・く・・・」
アリシア人形は自身の肘を押さえながら、低く呻いていた。
連続した関節への過負荷と、構造上の弱点である関節への一撃により、彼女の肘は折れていた。
そして数分前まで浮かんでいた笑みは消えており、後には微かな屈辱と純然たる怒りが残っていた。
「貴方・・・よくも・・・」
ぎりぎり、と歯を噛み締めながら、アリシア人形が呟いた。
俺たちに向けられている視線には、もはや憎悪しか宿っていなかった。
「だい・・・ご・・・」
彼女が弱々しく、俺の名を呼ぶ。
無意識のうちに、俺は腕の中の鉄を庇うように抱き寄せていた。
背中に垂れた彼女の栗色の頭髪が、俺の掌に触れる。
焦げた臭いが、辺りに漂った。
しかし、覚悟していた衝撃は、いつまでたっても訪れなかった。
「・・・・・・・・・何ですって・・・?」
いつの間にか伏せていた顔を上げると、アリシア人形は折れた肘もそのままに、髪に隠れた耳の辺りを手で押さえていた。
「空いている戦力は・・・破損しているものも起動して」
若干の焦りを滲ませながら、彼女は何者かに指示を下していた。
「一秒でも長く、時間を稼いで・・・」
そう呟くと、耳元から手を離した。
「・・・・・・」
アリシア人形は俺たちを鋭く一瞥すると、そのまま身を翻し、駆けて行った。
青いドレスの女は階段を駆け上っていた。
『人形工房』の通路を、身体の各所に埋め込まれたサーボを酷使しながら階段を踏みしめていた。
通常より出力を少しだけ上昇させたサーボモーターが、ゆっくりと熱を帯びていく。
『副団長、戦闘人形GU-09からGU-14までの六体、制御区画第二フロアにて破壊されました。六体のうち三体が、修復可能です』
耳元で、無機質な音声が被害状況を説明する。
今宵の襲撃で、既に無傷の人形は彼女自身を含め一体もいない。
どの人形も損傷箇所を修理し、あるいは損傷自体を無視して運用されていた。
「修理可能な人形は処置を施して。修理不可能な人形の残骸は、第二フロアの大型エレベータ前に積み上げて」
『了解しました』
女の指示に、耳元の声が応える。
ゲート施設から侵入した新たな侵入者は、どういうことか襲い繰る人形達をことごとく返り討ちにしながら進んでいた。
もはやその勢いは、この施設の全戦力を持ってしても止められそうに無い。
だとすれば、残る方法は一つだ。
「それと、まともに動ける戦闘人形を第一魔力供給室へ」
通路に障害物を築き、生存している人間と淫魔を人質にすれば、少しは時間が稼げるはず。
そう踏んで、彼女は指示を下した。
『警告します』
耳元の声が、一際大きな声を上げた。
『侵入者が、現在そちらに・・・』
耳元からの言葉を聞き届ける前に、傍らの壁が砕けた。
俺たちは、点々と照明が灯る薄暗い非常階段を駆け上っていた。
鉄が返事が出来る程度に回復した後、彼女の提案によりアリシア人形を追うことにした。
ほぼ一本道の通路をたどり、開け放たれた非常階段を見つけたのだ。
どうやら、アリシア人形もここを使っているらしく、遥か上方から規則正しい足音が現在も響いている。
「それで・・・大丈夫か?」
「あぁ、もうな・・・ごほっ」
喉を押さえて軽く咳き込みながら、鉄は俺の問いに応えた。
その直後、重々しい音と振動が上方から生じた。
『!』
突然の大きな音に、俺たちは足を止めた。
無言で非常階段の上階を仰ぐ。すると、細かな埃がぱらぱらと降ってきた。
「・・・・・・足音、消えたな」
「・・・あぁ・・・」
鉄の指摘に、俺は頷いた。
上方から届いていた規則正しい足音が、ぱたりと止んでいたのだ。
しかしそのまま留まっているわけにも行かず、俺たちは再び階段を上り始めた。
そして、どれ程登っただろうか。
非常階段の出入口であるドアが、周囲の壁ごと内側に向かって突き破られていた。
踊り場にはコンクリートと金属の破片、そして赤黒い液体が広がっていた。
ドアも飴細工のように捻じ曲がっており、付着した塗料と金属の質感がなければ、それと分からぬほどに変形していた。
その惨状に、俺たちは言葉を失っていた。
「なんだ、これ・・・」
ドアとその周囲のコンクリートがあった壁をの穴から、非常階段の外を覗きながら、鉄が漏らす。
壁に床に天井に穴が空き、破片が飛び散り、人形達の残骸がごろごろと転がっていた。
どうにか人の一部分の残骸に見えなくも無いレベルの破片から、ただの部品の欠片としか分からないものまで、徹底的に破壊されていた。
そして、今も遠くから断続的に何かが破壊される音が聞こえてくる。
本隊、なのだろうか。
「・・・大悟・・・」
「何だ」
呆然としていた俺に、鉄が声をかけた。
「見ろ」
彼女の示した先には、赤黒い液体の雫の跡があった。
点々と階段を上るように赤黒い液体が滴っている。
「多分、アリシアの奴だ」
上の階へと続いていく雫を示しながら、彼女は続けた。
「ここで攻撃喰らって、ぶっ壊れて・・・それでも上がっていったんだ」
「・・・・・・」
点々と続く血痕に、俺は言葉を失っていた。
数階登ったところで赤い液痕は非常階段を出て、廊下へと続いていった。
やがて赤い道しるべは廊下を進み、扉が開け放たれた一室の奥へと続いていた。
「ほ、ら・・・・・・おぼえ、て、い・・・ますか、あ・・・なた?」
ざらついた、途切れ途切れの声が部屋の奥から響いていた。
俺と鉄は視線を交わすと、そっと扉の影から部屋を覗いた。
部屋の中には、豪華な調度品が並んでおり、一目で上位の者のための部屋だと分かった。
部屋の中央には大きな机が置いてあり、その向こうで禿頭の老人が革張りの椅子に身を沈めていた。
そして、その傍らにアリシア人形はいた。
右腕は引きちぎれ、全体的に身体が歪んでおり、青かったドレスは赤黒く染まっている。
「ふた・・・りでき、ゅう・・・・・・かをとっ、てあ・・・めりか、り、ょ、こ・・・うにいった・・・ときのこ・・・と」
半ば潰れた顔に、優しい笑顔を浮かべながら、彼女は残った腕でアルバムを広げ、老人に語りかけていた。
「・・・・・・・・・『人形工房』団長ゼペット・オルフェン、だな?」
扉の影から身体を出し、室内に足を踏み入れながら俺は問いかけた。
老人は、虚空に目を向けたままゆっくりと瞬きをした。
「今回の、『人形工房』施設封鎖の主犯容疑者として、お前を逮捕する」
「・・・・・・」
オルフェンは、無言を保っていた。
「・・・おい、何か言ったら・・・」
「む、だ、です」
痺れを切らしたように声を上げた鉄を、アリシア人形が遮った。
「ゼペ・・・ット、さま、は・・・すでに・・・・・・」
『二十時間前に、急性心不全により死亡しております』
途切れ途切れの人形の言葉を引き継ぐように、部屋に声が響いた。
「っ!?」
『失礼しました。私の現在のボディでは、会話に不都合が生じるため、放送機器を通じて発声しております』
身構える俺たちに向けて放送、いや、アリシア人形はそう告げた。
「死んでる・・・?」
呆けたような声で、鉄が呟いた。
『はい。ゼペット様は既に十一時間前に急性心不全により死亡しております』
「死んでるっつったって、そこにいるのは・・・」
『人形です。私、アリシア・エーフェルディ人形が、製作いたしました』
椅子に腰掛ける老人を指そうとした鉄の指が、アリシアの言葉に止まる。
「なぜ・・・こんなことをした?」
ゆっくりと瞬きを繰り返す老人の人形と、その傍らで微笑む半壊の人形に向けて、俺は問いかけていた。
『その質問は今回の封鎖と、ゼペット様の人形の製作のどちらについてでしょうか』
「両方だ」
『・・・かしこまりました、お答えします』
一瞬の間をおいて、彼女は答えた。
『全ては五十年前、ゼペット様がアリシア様を亡くされたことから始まりました。
ゼペット様は突然の別れを嘆き、悲しみ、その手でアリシア様を復元することを決心されました。
アリシア様の姿かたちを模し、アリシア様の思考を真似、アリシア様の仕草を再生する、アリシア人形を作り出すことでアリシア様の復活と成すおつもりだったようです。
ですが・・・』
しばしの間を挟んで、彼女は言葉を続けた。
『出来上がったアリシア人形、つまり私は姿かたちや思考や仕草こそ同じだそうですが、微かに違和感を感じる部分があったそうです。
ゼペット様は、私の製造後も何年もかけてシステムの更新を繰り返され、私をアリシア様に近づけようとなさいました
その結果、ゼペット様は『人形工房』の団長の地位にまで上りつめ、私はアリシア様に限りなく近い存在となりました。
しかし』
「余りにも似すぎているため、微かな違和感がさらに際立つ、ということか」
『その通りです』
俺の言葉に、半壊したアリシア人形はぎこちなく頷いた。
『恐らく、ゼペット様は私をアリシア様と別物だと思うことになさったのでしょう。
ここ二、三年ほどは、ゼペット様は私のシステムの更新を諦め、ボディの改良ばかり重ねていました。
そして、二十時間前に急性心不全により亡くなられました』
「・・・・・・それで・・・」
口を閉ざしていた鉄が、言葉を紡ぎ出した。
「ゼペットが死んだのと、お前が施設を封鎖したのに・・・何の関係があるんだ・・・?」
『理解したからです。なぜ、ゼペット様が私を作られたのか』
歪んだ身体を捻り、革張りの椅子に座る人形に向けて、彼女は笑みを浮かべた。
『ベッドに横たわり、徐々に冷たくなっていくゼペット様を見たとき、私は気が付きました。
もうゼペット様が私をメンテナンスしてくれることが無いことに。
もうゼペット様が私に向けてアリシア様との相違点を挙げることも無いことに。
もうゼペット様のお顔を見ることが出来なくなることに。
その瞬間理解したのです。ゼペット様がアリシア様を亡くされた時に、私を作り出された時に、どのようなお気持ちだったかを。
ゼペット様は、私と夫婦ごっこをなさるおつもりだったのです。
五十年前に突然途切れてしまった、アリシア様との日々の続きを再現なさるつもりだったのです。
よって私はゼペット様の遺志を継ぎ、ゼペット様が成し遂げられなかった夫婦ごっこを行うことにしました』
人形が細かく震える左手を上げ、老人の顔に近づけながら言葉を紡ぐ。
『ゼペット様が生きているような姿にしつつ、私とアリシア様の相違点に気が付かぬよう、ご遺体を素に人形を作りました。
ゼペット様がここから連れ出されぬよう、あえて緊急事態ケース2を発令し、施設を外部から遮断しました。
そして、ゼペット様の死が知れ渡る前に、自動制御システムを操作し、調査委員が組織されるよりも先に全ての職員を殺害、人形化、あるいは第一魔力供給室送りにしました。
こうして、私とゼペット様の夫婦ごっこのための城が完成したのです』
ひしゃげた左手が震えながらも、優しく老人の頬をなでた。
老人は、ただ瞬きを繰り返すばかりだった。
『さて、もうそろそろ私のボディは限界のようです。
私の機能が停止すれば、施設の自動制御システムが職員全員の異状を検知し、結界の解除とゲートの接続を行います。
ですから、どうか私の機能が停止するまで、ゼペット様との夫婦ごっこを続けさせてくれませんか?』
俺たちに向けられたアリシア人形の笑顔は、半ば潰れていたというのに微かな悲しみと期待を滲ませていた。
「・・・・・・へっ、好きにしろ」
「・・・・・・まぁ、いいだろう」
鉄が何でもないように答え、俺が後に続いた。
「あ、りが・・・とうご・・・ざいま、す・・・」
彼女は途切れ途切れのざらついた自身の声で、自身の言葉を紡ぎながら微笑んだ。
そして、膝の上に広げていたアルバムを指し示しながら続けた。
「ぐ、ら・・・んどき・・・ゃに、お・・・ん、をのぞ・・・」
アルバムを示しながらの彼女の言葉が、次第に間延びしていく。
「き、こ、んで・・・あ・・・なた、をひ、や・・・」
声音がざらつき、無機質になっていく。
「ひ・・・せた・・・し、し・・・たよ・・・」
声が掠れ、小さくなっていく。
「・・・・・・・・・ね・・・・・・・・・」
そして、最後の一音を紡ぎ終えると、アリシア人形はその動きを停止した。
恐らく、永遠に。
エピローグ
その後、結界の解除を確認した『帝国』所属の艦隊が『人形工房』施設に押し寄せ、上陸した部隊が第一魔力補給室に囚われていた淫魔職員や男性職員、そして松田隊長、竹内、梅宮を解放した。
部隊により回収された俺たちは、口頭による境大尉への報告の後、医師による診察を受けさせられた。
そして俺と鉄は、『銅の歯車』所有の港へ向かう船の、応接室を思わせる一室にいた。
容易されたソファは柔らかく、船の揺れも小さく、何の問題も無かった。
ただ一つ、問題を挙げるとするならば。
「すぅ・・・すぅ・・・」
鉄が、俺に寄りかかりながら寝息を立てていることだろうか。
加えて、彼女のテンガロンハットが床に落ちていることも気になっていた。
「・・・・・・」
帽子は被せてやりたいが、押し返すわけにもいかず、俺は困っていた。
『それで・・・また・・・』
『うん・・・だから・・・』
扉の向こうから、男女二人分の会話が近づいてくるのが聞こえた。
そして軽いノックの直後、扉が開けられた。
「はい伍堂少尉と鉄君、お待たせ」
開け放たれた扉の向こうから入ってきた、日系を思わせる顔立ちの二十代半ばほどの人物に、俺は愕然とした。
「す、スペンサー中将・・・!」
そこにいたのは『帝国』東アジア司令部司令官と日本支部支部長を兼任する、エリオット・スペンサー中将であった。
彼に続いて、少々顔色の悪い白衣の女も入ってくる。
俺はとっさに立ち上がり敬礼しようとしたが、俺の肩にもたれ掛かる鉄が妨げた。
「ああ、座ったままでいいよ」
右手を広げ、軽く左右に振りながらスペンサー中将は俺たちの向かいのソファに腰を下ろした。
そしてついでとばかりに、床に落ちていたテンガロンハットを拾い上げ、二つのソファの間のテーブルに置いた。
「えーと、まずは今回の任務、ご苦労さん」
「はっ、ありがとうございます」
階級的には天と地に等しいスペンサー中将のお褒めの言葉に、俺は応えた。
「簡単な報告は聞かせてもらったよ。詳しくは報告書にまとめて、後日提出するように。
それと、もう一つ。君の同僚だった三人なんだけど・・・カスール」
「へいへい」
スペンサー中将に続けて入ってきた顔色の悪い女が、手にした書類ケースから数枚の紙を取り出した。
「えー今回の任務に従事した、三人の男性を診察したんだけど・・・ま、はっきり言うと三人とも衰弱により入院してもらうことになった。
そして、退院後も任務に従事できる可能性は低いから、確実に除隊になるだろうね」
「・・・そうですか・・・」
女医の言葉に俺は、松田隊長と竹内、そして梅宮の顔を思い浮かべた。
「というわけで、君の所属部隊は今回の任務で、君一人になるわけだ」
スペンサー中将が、女医の言葉を引き継ぐように続けた。
「それで伍堂君の今後なんだけど・・・君も部隊から離れ、そこの鉄君と組んでもらうことになる」
「・・・は・・・?」
彼の言葉に、俺は礼も忘れて声を漏らしていた。
「いや鉄君は少々問題があったんだけど、君の報告聞いた限りだとなかなか上手くやっているみたいなんだよ。だから」
「はぁ・・・」
「鉄の主治医である、私からも頼む」
生返事を返す俺に、女医も言葉を重ねる。
「鉄がここまで他者に心を許すことは、滅多に無いんだ。
彼女の治療を手助けする程度の気分でいいんだ。この通り、頼む」
女医が頭を下げ、俺は戸惑った。そして、その様子を見ながらスペンサー中将は続けた。
「まぁ、君の異動は絶対だけどね。自分の意思で異動するのと、異動させられるのでは気分が違うでしょ?」
そう言うと、彼は立ち上がった。
「それじゃあ、話は以上。カスール、行こうか」
「ん?あぁ・・・」
女医が中将の後に続いてソファから立ち上がり、彼の開けたドアから外へ出て行った。
そして、ドアを閉める手を止めると、俺に向けて言った。
「君の返答は、胸の内に仕舞っておくといい」
「・・・・・・」
俺が答えるより先に、スペンサー中将はドアを閉めていった。
俺と鉄だけが、再び部屋に取り残される。
「・・・・・・」
「すぅ・・・すぅ・・・」
俺はふと、肩にもたれ掛かって眠る鉄に視線を下ろした。
その表情は穏やかで、任務中に憎まれ口を叩いていた淫魔の面影はほとんど無かった。
先程女医が言ったとおり、俺に心を許してくれているのだろう。
ならば、スペンサー中将への答えは一つだ。
彼女が心を許すというのならば、俺は鉄を受け入れよう。
彼女が側にいたいというのならば、俺は鉄の側にいよう。
「・・・・・・よし・・・」
俺は誰にとも無く小さく呟き、決心を固めた。
そして、俺はテーブルに置かれたテンガロンハットに手を伸ばすと、眠る鉄の栗色の頭に被せてやった。
銃型淫魔兵器 鉄ノ一『グランドール事件』 了
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