ジン・ジェインの要求




この孤島に流れ着いてもう何十日経ったろうか。

観光船の座礁により、海に投げ出された僕は丸一日の漂流の後にこの島に流れ着いた。

島の大きさは一周10キロぐらい。島の中央には密林が生い茂っていて、真水の湧き出る泉があった。

大きな動物はおらず、気候は温暖。

水の心配の必要はなく、食料も泉や海の魚で補える。

全く、漂流生活になんて適した島だろう。

いつものように砂浜を散策し、打ち上げられた海草や流木を拾い集めて薪や焚き付け用にと、岩場に広げて乾燥させる。

その間に岩場を回り、岩のくぼみに取り残された魚を捕まえて、昼飯用に家代わりの洞穴まで持ち帰る。

僕がその漂着物に気が付いたのは、二度目の散策のときのことだった。





「ん?」

ぶらぶらと砂浜を歩いていると、砂の間から何かが顔をのぞかせていた。

「何だこれ?」

言葉を忘れぬよう身に着けた、わざと独り言を言う癖に従い、思ったことを口から発しながら、僕は波打ち際に歩み寄った。

砂浜から突き出していたのは、ちょうど急須の注ぎ口にも似た形の、金属製の物体だった。

手を伸ばしてつまみ、砂の中から引き上げる。

現れたのは、カレーを入れる器にも似た形の照明器具。つまり、

「・・・ランプか」

濡れた砂にまみれているが装飾はしっかりとしており、ずっしりとした重さは貴重な金属を使われていると思わせる。

「ちょっと砂を落とすか」

そういうと僕は、装飾をよく見るために手のひらで軽く砂を払った。

と、突然ランプからまばゆい光が放たれる。

「!!」

とっさの出来事に僕は思わずランプを放り出した。

砂の上にランプが落ちるが、光は放たれ続ける。

それどころかランプの先端、先ほどまで砂の中から突き出ていた部分からもくもくと煙があふれ出し始めた。

褐色の煙は見る見るうちに立ち上り、見上げるほどの高さになった。

そして何かの形をとるようにわだかまり、唐突に吹き払われた。

煙の下から現れたのは、見上げるほど巨大な女だった。

褐色の肌に、一本に結われた黒髪のお下げ。下半身はゆったりとした白いズボンのようなものに包まれ、豊かな胸には布が巻きつけてあるだけだった。

しばしの間を挟み、褐色の女が目を見開く。

「オレの名はジェイン。オレを出してくれたのは、お前か?」

女がかがみ、青い瞳を僕にむけながら僕に問いかける。

僕はあまりの事態に、ただ首を上下に振るしか出来なかった。

「そうか、それはありがとう」

女はにやり、と笑いながら言い、続けた。

「ではお前を食べることにしようか」

「ちょ、ちょっと待て!」

彼女の言葉に、停止していた思考が回転を始めた。

「食べるっておかしいだろ!?普通『礼に願いを三つだけかなえてやろう』とかそーいうもんじゃないの!?」

「ああ、そうだったさ」

彼女は手のひらを握り、開きながら続ける。

「そのランプに閉じ込められて、最初の百年は出してくれた者に巨万の富を与えると誓った。次の百年には一国の主にしてやると誓った。三百年経つころにはどんな願いでも三つだけかなえてやると天と地に誓った。でも!」

ジェインが立ち上がり、両腕を振り上げて天を仰ぐ。

「誰も、助けてくれなかった!そのうちオレはこう思うようになった。

『こんな理不尽な目にあうのは道理に反している。ならば、オレを出してくれたやつを食ってやっても問題は無かろう』とな」

再び青い目が僕のほうに向けられる。

「それでは、いただくとしようか。悪く思うなよ」

そう言いながら、その僕の身の丈よりもはるかに大きい手のひらが、僕めがけて下ろされてきた。

その時、僕は―





1.ハンサムな僕は突如としてこのピンチを打開するアイデアをひらめく

2.誰かが来て助けてくれる

3.かわせない。現実は非情である






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