ジン・ジェインの要求




迫り来る手のひらを、ただ僕は呆然と見つめていた。

そして僕の胴ほどはあろうかという太さの指が、僕を摘み上げ、彼女の顔のところまで持ち上げる。

「それじゃあ、いただきます」

そういうと彼女は大きく口を開き、僕を放りこんだ。

柔らかな舌の上に倒れこむと同時に、唇が閉じられ、辺りが完全な闇に包まれる。

生温かく、湿気に富んだ空気が僕の全身を包み込んだ。

「うわ、ああ・・・」

巨大な舌が波打ち、僕の体を転がし始めた。

舌が蠢き、僕の体が翻弄されるのに合わせ、どこからともなく溢れ出してきた唾が、僕の全身に絡みつき始める。

「うぷ・・・ぷはっ・・・!」

独特な臭いのする唾液にまみれ、呼吸が詰まりそうになる。

だというのに、生温かく柔らかな肉に全身を弄ばれているためか、僕の股間はいつの間にか硬くなっていた。

強い臭いに包まれ、粘液にまみれながら、舌が翻弄するままに転がされているうちに、僕の意識が次第に遠のいていく。

やがて、ジェインが飽きたのか、舌が持ち上がり僕の体が口の奥、喉のほうへと移動し始めた。

朦朧とする意識の中、本能的に飲み込まれるという事実を察知し、僕は全力で舌に抗い、何か掴まる場所はないかと手足を滅茶苦茶に伸ばした。

しかし彼女の口内に掴まる場所などなく、抵抗の甲斐なく僕はのどのほうへ送られていった。

足の先が食道に入り、温かな粘膜が足を締め付け、蠕動を始める。

重力と粘膜の蠕動により、僕の身体は食道へと引き込まれていく。

強烈な締め付けが足、腿、腰、腹、胸、と等間隔に僕を襲い、緩むのにあわせて体が奥へと引き込まれる。

「あう・・・く・・・」

強烈な締め付けと息苦しさに、意識が遠のいてくる。

全身を締め上げ、緩ませながら移動させる。

締め上げにより食道の粘膜が僕の股間をズボン越しに圧迫し、移動させることで粘膜が布越しにペニスを擦っていく。

「・・・ぁぅ・・・ぅぅ・・・」

朦朧とする意識のせいか、生温かな粘膜と唾液のせいか、僕のペニスは全身を締め付けられるたびに硬く、膨張していく。

弾力のある粘膜が締め付けと共にペニスに押し当てられ、蠕動により擦り上げられていく。

「・・・・・・ぅ・・・・・・・」

ズボンの中で、ペニスが大きく脈打ちながら精液を噴出した。

ズボンにしみこんでいたジェインの唾液と、漏れ出した白濁液が混ざり合う。

やがて足の先が締め付けから開放され、膝、太もも、腰の順に自由になっていく。

そして、急に広がった空間へと投げ出された。

「ぷはっ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・」

呼吸が戻り、生温かく湿った生臭い空気を、肺いっぱいに吸い込む。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

息苦しさは残るものの、呼吸がだんだんと落ち着いてきて、僕は徐々に周囲の状況を理解し始めていた。

口に放り込まれ、食道を通り、たどり着いたここは・・・

「胃か・・・」

強い弾力を持った、粘膜の内壁に触れつつつぶやく。

粘膜の表面には襞のように皺が寄っており、胃袋全体が縮んでいるようであった。

「ん・・・?」

不意に指先に触れていた胃粘膜が、汗を掻くように湿った。

とっさに手を離し、指先についてしまった粘液を、軽く指で擦ってみる。

ぬるぬるとしている。

「・・・あーあ・・・」

次第に足元に溜まり始めた粘液の中に座り込みながら、僕は続けた。

「もう、終わりか・・・」

足元の粘膜が大きく波打ち、胃袋の中を転がる。

横倒しに転がし、前転させ、上下を入れ替え、左右に裏返す。

まるで、というかその通りなのだろうが、粘液を僕に少しでも塗りこもうという意思が、粘膜の執拗な動きから感じた。

胃液の作用によるものか、身に着けている衣服の結び目が急速に解れ、体から脱げ落ちていく。

「ああっ・・・あっ・・・」

肌にじかに触れる胃粘膜が、大きく波打って僕をくすぐる。

背中を、しりを、腕を、腹を、足の裏を、股間を、顔を、

粘膜保護のための分泌液と、次第に溶かされつつある僕の皮膚との混合した粘液が、粘膜との接触をより滑らかなものにしていた。

「うぁ・・・あう・・・」

萎縮していた胃袋は大きく広がり、皺のよった内壁は滑らかなものに変わっていた。

粘膜の動きもダイナミックなものになり、いつの間にか波打つ粘膜と粘膜の間に挟まれ、転がされていた。

「ああ・・・ああっ・・・!」

勃起していたペニスが腹に押し付けられ、裏筋と亀頭が押し付けられた粘膜により擦りたてられる。

消化液が神経まで達したのか、粘膜によるものなのか、痺れるような感覚が全身から押し寄せ、僕はそれに快感を覚えていた。

「うぅ・・・あぅっ・・・!」

全身を苛む異様かつ、初めての感覚に堪え切れず、精液が尿道口から飛び出る。

二度、三度とペニスの脈動にあわせて射精は続き、やがて止まった。

しかし射精したからといって、胃粘膜の動きが止まるわけではない。

より執拗に、消化液を僕に塗りこむだけだ。

「ちょ、ちょっとまっ・・・あうっ!」

股間を通り過ぎた粘膜の波により、再び絶頂に押し上げられる。

二度目の射精は、神経がより外部に露出してしまったせいか一層激しいものだった。

全身をくすぐる粘膜の感覚も、時と共に加速度的に敏感になっていく。

「うわぁあうっ・・・!うう・・・!」

暗闇のため見えないが、僕の体から皮膚はなくなり、むき出しの健と筋肉が見えているだろう。

そんな状態になっても、射精は続いていた。

手足の指先から感覚が消えていく。溶け崩れたのだろう。

しっかりつぶっていたはずの瞼に、力を感じない。溶けて流れていったのだろう。

ペニスを擦っていた粘膜の感覚が消え、じかに下腹部に粘膜が触れている。溶けてなくなったのだろう。

全身から届く全ての感覚が、次第に消えていく。

しかし僕の脳はそれでも快感を感じ、射精していた。

体を上下に転がす動きが、痛覚を刺激するはずの痛みが、次第に失われていく思考が、快感を生み出す。

そして脳が、与えられる快感と興奮に、必死になくなってしまったペニスに射精を命じ、返ってくるはずのない開放感を待ち望みながら、絶頂に止まり続ける。

「・・・・・・!!」

声が出ない。もはやのども溶けてしまった。

いや、胸郭にまで消化液が達したのだろうか?

しかし、もうどうでもいい。

「・・・・・・・・・・・・・!」

眼窩からか、耳からか、血管からか、どこからか入り込んできた消化液が脳を満たしていく。

思考が溢れ出し、意識が流れ落ちていく。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

絶頂に達し続けているのか、冷静になっているのか

思考があるのか、ないのか

生きているのか

それすらも、分からない

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

いや、一つだけ分かった。

死んだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

















「・・・」

「おい、起きろ、目を覚ませ」

頬を軽く叩かれる痛みと声により、意識が浮かび上がってくる。

目を開くと、二人の老人が身をかがめて僕の顔を覗き込んでいた。

「やっと目を覚ましたか若人よ」

「え・・・あの・・・ここは・・・?」

確か僕はついさっき、ランプから現れた大女に食われ、そのまま消化されてしまったはずだ。

「ここは何者かの腹の中だよ」

長い白髭の老人がそういい、もう片方の長い白髪の老人が自分の背後を示す。

するとそこには、粘液にまみれ蠢動する消化器の内壁があった。

「そして君は死んでしまい、所謂魂だけがここに残ったんだ」

白髪の老人がそう言いながら僕の手を取り、立ち上がらせる。

足の裏には脈打ち、蠢く粘膜があるはずだが、足の裏からは何の変哲もない床の感触しか伝わらなかった。

「ところで若人よ、聞きたいことが一つあるんだが」

「はあ・・・なんでしょう?」

白髭の老人は続けた。

「この内臓の持ち主は、何なのかね?」

「わたしが思うに、肉の偶像セブンインワンではないかと思うのだが」

「いや、きっとこいつは彷徨する生きた海賊船、ヘパストシュレレイムだ」

途中で乱入してきた白髪の老人に、白髭が言い返す。

「何を言っとるか、海賊船ならなぜ揺れんのだ」

「それはおぬしの言う偶像にしたってそうだ。歩き回るのになぜ揺れん」

互いに掴みかからんばかりの勢いで、議論を繰り広げ始めた。

そして互いに互いの主張の矛盾点を、適度につつきあったところで、白髭が顔をこちらに向けた。

「とまあ、こんな感じで議論が終わらんのだ」

「何せ我々は、海岸でうっかり寝ているところを何者かに食われたのでな、なんに喰われたのか分からなかったのだよ」

「そこでここに来てからずっと、この内臓の持ち主が誰か討論しとったわけだ」

「そして若人よ、今ここに君が現れた」

「どうか教えてくれないか、ここが、何なのかを」

「ええと、その・・・ランプに封じ込められていた、魔神らしいです」

「なんと、魔神か!」

「これは盲点だった」

「確かにランプに封じ込められていたのでは、歩けんはずだ」

「揺れんはずだ」

深く納得したように、首を上下に振る二人。

「それでは若人よ、礼に我らが生きていたころの話をしてやろう」

「なに、時間はかかるが気にするな」

「なんせこの中にいる限り、魂は外へは出られんらしいからの」

「時間はたっぷりある」

「たっぷり語り合おうではないか」

そういって、笑い出す老人二人。

僕は二人の姿を見ながら、深く、深くため息をついた。



先生、成仏がしたいです・・・





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