カードデュエリスト渚


 

 「僕のターン! ドローだ!」

 敵の熾烈な攻撃を耐え抜き、ようやく僕にターンが巡ってきた。

 ここは異空間であるデュエルフィールド。

 自身と対戦相手のみが隔絶される、純粋な対戦だけの空間。

 周囲には、草原の光景が地平線の彼方まで広がっている。

 そこで僕と対戦者は睨み合い、カードデュエルで火花を散らしているのだ。

 

 「……よし!」

 デュエルデーブルに置いてある自身のデッキからドローする――そこで引いたカードは、まさに切り札だった。

 ここ一番で引き当てた最高のカードを、僕はすかさず場に出す。

 「『深紅の女騎士ヴァルキリアス』召喚!」

 「なっ……!」

 思わぬ逆転劇に、一瞬ながら呆然とする対戦相手。

 僕が場に出した『深紅の女騎士ヴァルキリアス』のカードからは、可憐なる女騎士のヴィジョンが実体化していた。

 深紅の鎧を身に纏い、輝く剣を手にした女騎士――その姿は、敵ですらみとれてしまうほどに美しい。

 レアリティ(稀少度)はS、攻撃力は3000――世界でも一枚しかない、レア中のレアカードだ。

 

 「しかし、俺の『神甲の玄武』がガード状態! これなら、太刀打ちできまい!!」

 さすが歴戦のデュエリストだけあり、すぐに平静を取り戻す対戦相手。

 そんな彼の身を守るように、巨大な神亀が立ちはだかっている。

 攻撃力は全く脅威ではないが、防御力3000を誇るレアリティAのカード――『神甲の玄武』。

 確かに彼の言う通り、『神甲の玄武』の異常な防御力の前では『深紅の女騎士ヴァルキリアス』とて太刀打ちできない。

 だが――

 

 「『風刃のシルフ』、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』の攻撃を補佐しろ!」

 あらかじめ場に出されたカードから実体化していた無数のシルフ――

 彼女達が風と共にひらひらと舞い、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』の剣へと宿っていく。

 これで、女騎士の刃は威力を増した――敵の神亀すら打ち破れるほどに。

 「よし! 『深紅の女騎士ヴァルキリアス』、『神甲の玄武』を攻撃!」

 「しまった、こんな――!」

 『深紅の女騎士ヴァルキリアス』は可憐な動作で踏み込み、その刃を『神甲の玄武』に見舞っていた。

 縦一文字に刻まれる必殺の一撃、これに耐えられるモンスターは同格のレアリティS級のみ。

 堅固な甲羅は真っ二つに割れ、『神甲の玄武』は撃破された――カードから現出されていたヴィジョンは、霧のように消失する。

 「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!」

 対戦相手の体にも剣の断裂が刻まれ――服がすっぱりと裂けて、血がぶしゅりと噴き出した。

 彼の残りライフポイントは300、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』の攻撃はそのポイントもゼロに削ってしまったのだ――

 その一撃のショックで彼は後方に吹っ飛び、デュエルフィールドの地面に転がってしまった。

 かなり大量の出血、現実世界ならば死は免れない――が、彼とて歴戦のデュエリスト。こうした苦痛も覚悟の上だろう。

 とにかく――僕の勝利だ。

 

 

 

 「ふぅ……実にきわどい勝負だったね」

 勝敗が決したので、デュエルフィールドは解除され――周囲は田舎町の風景に戻っていた。

 デュエルが終わった今、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』のヴィジョンも消えている。

 対戦者が追った瀕死の傷も嘘のように消え、裂けた服さえ元に戻っていた――

 デュエルフィールドで受けた傷やダメージは、デュエル後には全て元に戻るのである。

 

 「……俺の負けだよ。さすがは二つの大会で優勝したチャンピオン、その年齢にして大した腕だ……」

 そう言いながら、清々しい表情で対戦者は『神甲の玄武』のカードを差し出していた。

 そのレアリティはA、世界に数えるほどしか存在しないレアカードである。

 「これが、俺の持っている最高のレアカードだ。このカードで、今後の戦いも勝ち抜いてくれ」

 「ああ……分かった。大切にするよ」

 僕は彼から受け取ったカードを自身のデッキに納め、その場を後にしたのだった。

 もうこのカードタウンにも敵はいないようだ。そろそろ、次のタウンへ行くとするか――

 

 

 

 カードデュエル――この競技に、特別な固有名称はない。

 そんな名前などなくても、カードとかデュエルとかの意味は世界の誰もが知っているからだ。

 そしてカードに生涯を捧げる決意をした者達を、デュエリストと呼ぶのである。

 秋雨渚(あきさめ なぎさ)――かく言う僕も、そんなデュエリストの一人だった。

 年齢は十五歳、家を飛び出してあちこちをさすらい、ひたすらにデュエルを重ねている身。

 自分で言うのもなんだが、デュエリストとしては最上位。

 ソードナイト・タウンやハイディフェンス・タウンでは、大会優勝経験さえある――それなりの有名人なのである。

 

 このカードデュエルは、どれほど昔に誰が造って誰がやり始めたのか全く分からない。

 これらカードは単なる紙片ではなく、不思議な力がこもっている。

 デュエル時にはフィールドが形成され、カードに描かれたモンスターが実体化するのだ。

 そしてモンスター同士の戦いは、自身や対戦者の肉体にさえダメージが及ぶのである。

 どこかの魔術師が造ったとか、神々の遊びだとか、別世界からもたらされたとか――様々な説があるが、真相は分からない。

 確かな事は、カードを用いたデュエルやカード収集に魅せられた者は極めて多いということだけなのである。

 

 

 

 

 

 「……やぁ、久しぶり」

 さっきのデュエルの後、僕は馴染みのカードショップに足を運んでいた。

 カード専門店――どこの誰が造ったのか分からないカードとて、大量に流通していれば商売は成り立つのだ。

 ここでカードを買うこともできるが、当然ながら売ることもできる。

 レアリティB以上のカードは驚くほど高く売れるので、腕の良いデュエリストはそれだけで食べていけるというわけだ。

 「あら……渚じゃない。今日は、どんなレアカードを仕入れてきたの?」

 店主の女性はすっかり顔なじみ、僕はこの店で大量のカードを売りさばいているお得意様なのだ。

 「買い取りをお願いするよ。『影騎士デラシャドウ』に『野剣士スミダラ』、『ダークドルイド』も――」

 僕はデッキをガラスケースの上に広げ、不要なカードを見繕っていく。

 ここ数日はデュエルを繰り返したおかげで、結構たまったものだ。

 「毎度あり、いずれもレアリティはBね。あら……? 『神甲の玄武』もゲットしたんだ」

 「これは売らないよ。大切にするって約束したからね」

 そう言いながら、僕は売り払ったカードの代金を受け取った。

 7万ペラ――これだけあれば、次の目的地までの旅費としては十分だ。

 

 「そろそろ、別のタウンに行くって言ってたわね。ほら、例の――」

 「うん、さっそく今晩から出発するよ」

 カードタウンとは、それぞれ独特のカードルールが適用された地域。

 例えば、ここハイディフェンス・タウンでは防御力のみ倍になるという特別ルールとなっている。

 先月に足を踏み入れたドラゴン・タウンは、龍型のモンスターしか召喚できないという厄介な町だった。

 こんな風にカードタウンによってルールは異なり、そのルールが性にあったデュエリストはそこに住み着く事もある。

 僕は故郷であるハイディフェンス・タウンにちょくちょく戻りながら、様々なカードタウンを流浪している身。

 世界各地のカードを収集しつつ、腕を磨くための武者修行である。

 各タウンで行われている大会にも出場し、何回か優勝さえしていた。

 そしていよいよ、F-タウンという危険極まるタウンへと向かおうとしているのである。

 

 「F-タウン――こんな仕事をしている私でも、全く噂を聞かない町よ」

 女店主は眉を寄せ、真剣な表情を浮かべていた。

 人の口に戸は立てられない――ゆえに、どのカードタウンでどんなルールが採用されているかはほとんど周知。

 しかしF-タウンは、そのいっさいが謎に包まれているのだ。

 「かなり変わったルールが採用されているという話程度しか聞かない……上級者でも、油断はできないわよ」

 「……ああ、分かってるよ」

 「それにあそこは、はっきり言って普通じゃないわ――」

 F-タウンの情報が極めて少ない理由――それは、そこに足を踏み込んで戻ってきた者がほとんどいないからだ。

 さすがに命を落としたというわけではないだろうから、みんなそこに住み着いているのだろう。

 そして、帰ってきた少数の者も――ひたすら口を閉ざし、みなデュエリストを廃業していく。

 有名なデュエリストが、カードを全て失い、誇りまで失ってしまったという噂を聞くのも一度や二度ではない。

 中には、廃人と化したものまでいるという――そして、恐怖と憶測ばかりが広まっていく。

 F-タウンは畏怖の対象であり、初心者のデュエリストは心から避けたがる場所。

 そして――我こそはと自負する強豪デュエリストが、最後に足を踏み入れるタウンでもあったのだ。

 

 「あなたは驚くほど強い……私の知っている中でも、三本の指に入るわ」

 ため息を吐きながら、女店主は言った。

 「そこまで腕を極めた者は、みんな最後はF-タウンに向かうのよ。

  その三本指のうち、一人はまだ戻ってこない。一人は廃人になった。貴方は……どうなのかしら」

 「……じゃあ僕が、F-タウンを制する最初の一人となるよ」

 そう言いながら、僕は微笑んだのだった。

 幾つものカードタウンで、激戦を勝ち抜いてきたデッキ――それと、自身の腕を信じるのみだ。

 

 

 

 

 

 それから、三日後――

 船に乗り、馬車に揺られ――あらゆる交通手段を駆使し、僕はF-タウンの入り口に立っていた。

 どんなおどろおどろしい場所かと思ってみれば、タウンを囲う大城壁の向こうはごく普通の城下町。

 大通りには、桶で水を撒いている若い女性の姿があり、商人や通行人が行き交っているのどかな風景。

 ――よく考えれば、それも当然。

 いかに奇抜なカードルールが採用されているとはいえ、大多数の住人の生活には関係ないのだ。

 カードタウンには多くのデュエリストが集うものの、それでもほとんどの住人はデュエルとは無関係なのである。

 「まあ、当たり前だよな……」

 僕は通行証をタウン入り口の門番に見せながら、妙な肩すかし感を抱いたのだった。

 

 「ふむ……秋雨渚、十五歳。職業はデュエリスト――大会優勝経験二回、そいつは凄い」

 僕が提示した通行証に視線を這わせ、門番は頷いた。

 「でも、注意するんだな。俺はデュエリストじゃないから良く知らないが、この町ではルールが全く違うらしい。

  外での強豪デュエリストでさえ、この町じゃカモって話だぜ」

 「ええ、承知しています……」

 門番の言葉を受け止めながらも、僕はF-タウンに足を踏み入れたのだった。

 通りには民家や雑貨屋が建ち、住人達はごく普通に生活している。

 何より僕が心配すべきは、金銭的なこと。所持金のほとんどは、ここに来るまでの旅費で使い果たしてしまったのである。

 これでは、満足な宿さえ確保できない――なんとかデュエルに勝ち、得たカードを換金して当座の生活費にしないと。

 

 「やっぱり、多いな……」

 通りを行き交う人の中には、多くのデュエリストが見受けられる。

 一般人との見分け方は簡単、デュエリストは腰のホルスターにデッキを収納しているのである。

 それはまさに、拳銃をホルスターに下げたガンマン。いつでも決闘に応じるという証だ。

 ただ――妙に、女性が多い気がする。目に付くデュエリストのうち、三分の二以上が女性なのだ。

 女性デュエリストとて特に珍しい存在ではないが、この数は異常だ。

 一般的にはデュエリストの男女比は二対一程度、ここではちょうど逆転しているという計算になる。

 「なぜだろう、珍しいな……」

 もしかしたら、女性デュエリスト限定の小さな大会でもあるのだろうか。

 首を捻りながら通りを歩いていると、いかにも腕の立ちそうな男性デュエリストと出くわした。

 その視線が、空中で交差する。

 お互いに、目を見れば分かる――こいつは、なかなか出来る。

 「あんた、僕とデュエルしないか?」

 「いや――」

 しかし男は、デュエリストには珍しく対戦を拒否していた。

 デュエルは両者の同意があって始めて成立するものであり、一方が断れば成り立たない。

 「男同士のデュエルなど勘弁願いたい。お前はそういう趣味でもあるのか、このタウンに来て間がないのか――」

 「え……どういうことなんだ?」

 男の謎めいた言葉に、僕は目をぱちくりさせていた。

 「どうやら後者か。なら忠告する、デュエルを重ねてルールを掴もうとは思うな。

  まず情報収集に専念するがいい。さもないと……悲惨なことになるぞ」

 「は、はぁ……」

 男はそんな忠告を残し、僕の横をすり抜けて雑踏に姿を消してしまう。

 僕はぽかんとしたまま、その場にたたずんでいたのだった――

 

 

 

 「君、デュエリストね……?」

 気を取り直して通りを進む僕に声を掛けてきたのは、とても綺麗で気が強そうなお姉さん。

 年齢はちょうど二十代中程だろうか、いかにも姉御肌なタイプだ。

 長い赤髪をゴムで束ねた、酒場で働くお姉さん――といった風貌。

 「そうだけど――」

 どうやら、そんな彼女もデュエリストらしい。

 それも、かなり腕の立つ強者――多数のデュエルで培った僕の勘は、そう訴えていた。

 おそらく、向こうも僕に対して同様の直感を抱いたのだろう。

 「君、相当の強者と見たわ。一戦、お願いできないかしら?」

 「ああ、受けて立つよ――」

 お姉さんの挑戦を受け、僕は腰のカード入れからデッキを抜いていた。

 それは、まさに拳銃のホルスター。そこから互いに武器を抜き、デュエルは始まるのだ。

 

 「私はラサイア、ちょっとは名の通った者よ。君は……?」

 「僕は秋雨渚――各地を渡り歩いて武者修行している」

 「へぇ、それは楽しみね。ではデュエル――!」

 そして、ラサイアと名乗ったお姉さんも腰のホルスターからカードを抜いた。

 両者の同意が成立し、互いのカードにこもった魔力が共鳴する――そして、デュエルフィールドが展開された。

 その次の瞬間には、僕とラサイアは対面した状態で草原に立っている。

 対戦者同士の間にはデュエルテーブルがあるのみで、他には何もない――延々と、見渡す限り草原が広がっているのみ。

 この草原フィールドは、対戦者の周囲にのみ展開される異空間。

 大会など特別な例外を除き、周囲から覗き見されることもないのである。

 これも、カードに込められた魔力によるものだった。

 

 「準備はいいわ……」

 「ああ、こっちも」

 僕とラサイアは、デュエルテーブルの上にお互いのデッキを置いた。

 この上に置くだけで、カードは自動的にシャッフルされるのである。

 「先行は譲るわ、仕掛けてたのは私の方だから」

 「じゃあ、僕が先行で……」

 明文化されたルールではないが、仕掛けた側が後攻で仕掛けられた側が先行。これは慣習のようなものだ。

 ほとんどの場合、先行がほんの若干ながら有利なのである。

 「では、ファーストドロー!」

 僕とラサイアは、まず最初にそれぞれ自分のデッキからカードを三枚引いた。

 互いに手札を三枚控え、引いたモンスターカードを召喚した状態でデュエルが始まるのである。

 いちおう召喚せず手札として温存しておいても構わないが、ファーストドローで引いたモンスターは召喚しておくのがセオリーだ。

 そして、僕の引いた手札は――『牛神ミノタウルス』に『邪神サダラー』、『暗黒騎士ベノム』。

 いずれも、序盤戦を戦い抜くに相応しい強力なモンスター達だ。

 「よし、召喚だ! 『牛神ミノタウルス』、『邪神サダラー』、並びに『暗黒騎士ベノム』!」

 場に出された三枚のカードからは、勇壮な牛神や邪神のヴィジョンが現れ――

 ――そして、三体ともみるみる消えていったのである。

 まるで、風の前の霧のように――

 

 「あ、あれ……?」

 カードは三枚とも効果を失い、場に出された瞬間に消失した状態となってしまった。

 この現象は、過去に経験がある。

 そのタウンでは使えないカードを、場に出してしまった場合――

 例えばドラゴン・タウンではドラゴン系のカードしか使えず、それ以外のカードは出した瞬間に消失してしまうのだ。

 それと全く同じ事が、このF-タウンで起きてしまったのである。

 つまり、『牛神ミノタウルス』も『邪神サダラー』も『暗黒騎士ベノム』もこのタウンでは使えない――

 F-タウンは、特定の種族のモンスターカードしか使用できないルールだったのだ。

 

 「君……まさか、初めてなの?」

 ラサイアは呆気にとられた顔で、その目をぱちくりさせていた。

 このあんまりな惨状では、F-タウンでのデュエル経験がないことも明らかだろう。

 そしてラサイアの前には、彼女の召喚した二体の女性型モンスターが実体化していた。

 腰から下が触手の渦となった美しい女性モンスター、スキュラ系――その風格からして、なかなかの上位種。

 その肌は褐色で、ピンクの髪が良く映える。艶やかな唇は、いかにも悪女風な雰囲気を醸し出していた。

 そしてもう一体は、ローパー系の軟体モンスターだろうか。

 ただしそっちも女性型で、綺麗な女性の頭部やしなやかな胴体を有している。

 ただし女性型を保っているのは頭部から肩、胸、へその辺りまでで、そこ以外は捕食クリーチャーであるローパーそのもの。

 怪物部分のボディは緑色の軟体で形成され、女の肩の先にある両腕部分は不気味な無数の触手。

 腰から下はまるでイソギンチャクのように広がり、地面にくっついているのである。

 その二体が、ラサイアの召喚したモンスター。残る一枚は予備モンスターか魔法カードか、手札に控えたままだった。

 

 「なんだ、どうなってるんだ……?」

 その二体のモンスターを前に、そう呟いてしまった理由。

 それは、モンスターの数値情報がどこにも表示されていないという不可解な状況にあった。

 「攻撃力は……? 防御力も不明なのか……?」

 本来ならデュエルフィールドに表示されるはずであるモンスターの数値情報は、どこにも見られない。

 さらに、ラサイアや僕自身――プレイヤーのライフポイントすら表示されていないことに気付いた。

 このライフポイントを互いに削っていくことでデュエルが展開し、先にゼロになった方が敗者。

 しかし相手や自分の残りライフポイントが分からないと、非常に厄介だ。

 それらの重要な数値がプレイヤーに提示されないのも、このF-タウンのルールの一つなのか……?

 

 「まずは僕の先行、ドローだ!」

 動揺を抑え、僕は自分のデッキからカードを引いた。

 引き当てたカードは、『月の戦士ナハルト』。

 ノーマルカードでは最上位の、レアリティBを誇るモンスターだが――

 「行くぞ、『月の戦士ナハルト』を召喚――!」

 これで無事に召喚できても、場に現れているモンスターは一体きり。

 次のラサイアのフェイズで、二体の女性モンスター相手に苦戦を強いられるだろう。

 それどころか、召喚さえされなかった場合――

 場にこちらのモンスターがいない場合は、プレイヤー自身が直接敵モンスターの攻撃を受けることになる。

 そうなれば敵モンスターの攻撃力をそのままライフポイントに受けるため、数発でも危険なのだ。

 頼む、召喚に成功してくれ――

 「あ――」

 しかし祈りも虚しく、『月の戦士ナハルト』は、場に出るなり消失してしまった。

 やはりこのカードも、このタウンでのルールでは使えないのだ。

 本来ならば自身のモンスターを召喚した後、場に出ているモンスター達に指示を出すことになる。

 しかし場には僕のモンスターなど一体もいないので、これで僕のターンは終了。

 全く無防備な状態で、ラサイアにターンを回してしまったのだ。

 

 「本当に初めてのようね。これじゃ、初心者狩りじゃない……そんな趣味、私にはないわ」

 そう言いながら、ラサイアは自身のデッキからカードをドローする。

 しかしそれを手札に控え、召喚しようとはしなかった。

 「全員、防御――これで私のターン終了。君のターンよ」

 「え……?」

 不思議なことに、ラサイアは自身のターンで一切の攻撃を行わなかった。

 二体のモンスターにプレイヤーである僕への攻撃指示を出せば、半分以上のライフポイントが一気に削られていただろう。

 これは何らかの作戦ではなく――あまりにも不利な状況にある僕への温情だったようだ。

 「くっ……!」

 それは当然ながら、正当な勝負にこだわるデュエリストにとって屈辱そのもの。

 しかし、それに文句を挟むいわれはない。

 最初にとてつもない醜態を見せ付けたのは、紛れもなく僕の方なのだから。

 

 「ドローだ……!」

 そして僕が引いたカードは――『癒しと安らぎのアルラウネ』。

 本来なら回復魔術用に用いていたカードだが、この状況では召喚するより他に仕方がない。

 「僕のフェイズ! 『癒しと安らぎのアルラウネ』を召喚する――!」

 またも召喚が無効になったら、どうすれば良いのか――

 そしてカードから現出したのは、安らかな雰囲気を有した美しい花の精。

 大きな薔薇の花を、腰から下に履いたような姿――その下半身は、無数の花弁に包まれているのだ。

 その髪は流れるような緑色の長髪、美しい顔には落ち着いた微笑みをたたえている。

 そんなアルラウネは現出した後も消滅せず、その場に姿を保ち続けた――

 「よし……!」

 どうやら『癒しと安らぎのアルラウネ』は、このF-タウンでも有効なカードだったらしい。

 『……さて、誰を癒せばよろしいのでしょう』

 鈴を転がしたような声で、アルラウネは囁いた。

 知性のあるモンスターは、デュエリストとの会話も可能なのだ。

 「いや――『癒しと安らぎのアルラウネ』、今は防御だ。これで僕のターンを終了する!」

 下半身に広がる妖花を備えた美女モンスター――そう戦闘力は高くないが、この状況ではまさに一筋の光明。

 そんなアルラウネに防御を命令し、僕は堅実にターンを終了させていた。

 向こうの攻撃力や防御力が分からない以上、うかつに攻撃を仕掛けるのは危険である。

 なお、僕のカードである『癒しと安らぎのアルラウネ』にも能力数値が表示されていなかった。

 やはり、数値を提示しない特殊ルールらしい――

 

 「じゃあ、私のターンね……」

 ラサイアは自分のデッキからカードを一枚ドローし、こちらに視線をやった。

 その流し目には、独特の色気があった――が、今はデュエル中。それどころではない。

 「そちらが三体揃うまで、待ってあげようか?」

 「……断る。こうなったのは僕のミスだ。手心なんて加えてほしくない」

 「よく言ったわね。じゃあ――『ダークスキュラ』は防御、『レディローパー』は『癒しと安らぎのアルラウネ』に攻撃――」

 ラサイアの攻撃命令と共に、ローパー型女性モンスターの両腕に備わった触手がしゅるしゅると伸びる。

 無数の触手が襲い掛かった先は、ラサイアの指示通り『癒しと安らぎのアルラウネ』。

 『これは……!? あぁぁぁぁ……』

 アルラウネの全身にしゅるしゅると触手が絡み付き、彼女は甘い声を漏らしていた。

 たちまち触手に全身を巻き付かれてしまったアルラウネ――その顔に浮かんだのは、なんと苦悶ではなく恍惚。

 彼女はローパーの触手を全身に絡め取られ、いかにも気持ちよさそうに身をよじっていたのだ。

 「な、どういうことだ……?」

 女性型ローパーが繰り出していたのは通常の締め付け攻撃ではなく、明らかに淫らな意図を持った触手愛撫。

 無数の触手が花の精の全身をじゅるじゅると這い回り、ねっとりといじくり回し――

 そして、無数の花弁で防護されているアルラウネの下半身――股間部にも触手が集まっていった。

 花弁の隙間から無数の触手が潜り込み、中をぐねぐねと掻き回しているようだ。

 アルラウネの清らかな体は、まるで不気味な触手生物に捕われてしまったかのよう。

 無数の触手に絡み付かれ、捕食される小動物のようにもがくアルラウネ――

 『ん、んんん……』

 その穏やかだった顔は泣き笑いのような表情で歪み、涙と唾液を垂れ流している。

 最初は体をよじって抗っていたが、徐々にその動きも鈍っていった。

 そして今、腰を突き出すようにして触手での責めを受けているのである――

 「そ、そんな……な、何をしてるんだ?」

 「私の『レディローパー』より、君のアルラウネの方が上位のようだけれど――相性的にはこちらが有利だったようね。

  もうアルラウネは快楽を受け入れ、その身で甘んじて愉しんでいるようね」

 目の前のデュエル展開も、ラサイアの言葉も、僕にはまるで理解できなかった。

 そして――

 『あ、あぁぁぁぁぁぁぁ――!!』

 びくびくと身をわななかせ、触手に絡め取られたアルラウネは艶やかな声を漏らしていた。

 唾液を垂れ流し、恍惚の表情で弛緩していく体――

 「え……?」

 なんと、みるみるアルラウネの姿が消失していく。

 まるで、ダメージを受けて撃破された時のように――場から、完全に消えてしまったのである。

 

 「『癒しと安らぎのアルラウネ』を撃破したわ。覚えておきなさい、絶頂すると負けなのよ――」

 目にしたものの意味を量りかねる僕に対し、ラサイアはそう語りかけてきた。

 その言葉の意味さえも、にわかには理解できない。

 「そんな、まさか……」

 ――絶頂すると負け?

 確かにラサイアの言う通り、アルラウネは触手による責めで絶頂したように見えた。

 その直後、『癒しと安らぎのアルラウネ』が撃破判定を受けたかのように消失してしまったのだ。

 それが、『レディローパー』の攻撃。

 いや、このF-タウンにおけるモンスターの攻撃方法。

 これこそが、攻撃力や防御力の表示されていない意味。

 ――表示されていないのではない、そういう概念が存在しないのだ。

 相手を絶頂に導く――イかせることが、このタウンにおけるモンスター同士の戦い。

 F-タウンにおいて、モンスターの戦いは全く別の概念で行われる――ともかく、僕にターンが回ってきた。

 

 「くっ……! ドローだ!!」

 このタウンでのデュエルは、僕がこれまで戦ってきたルールとはまるで違う――

 イかせ合いという、明らかに未知の領域でのバトル。

 それを理解した僕はというと――さっきの痴態を目の当たりにして、情けなくも股間を隆起させていた。

 明らかに平常心を失いながら、僕はデッキからカードを引いたのである。

 「これは――!」

 ようやく引き当てたカードは、レアリティSである切札『深紅の女騎士ヴァルキリアス』。

 そしてここに至り、僕は女性型モンスターしか召喚されない事実に気付いていた。

 間違いない、このF-タウンにおけるデュエルは女性型モンスターオンリールール。

 この『深紅の女騎士ヴァルキリアス』ならば、かなりの力を発揮できるはずだ――

 

 「『深紅の女騎士ヴァルキリアス』、召喚だ!!」

 場に出したカードから現れたのは、息を呑むほどに綺麗な女騎士だった。

 真紅の鎧を細身の体に纏い、その兜から覗くのは可憐かつ端整な顔立ち。

 大きな羽根飾りの付いた兜からは長い黒髪がこぼれ、黒と赤のコントラストをなしている。

 まるで、女神が武装したかのよう――そんな壮麗な姿が、目の前にあった。

 「レアリティS……そんなのを持っているってことは、やはり相当のデュエリストね」

 ラサイアは、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』を眼前にして呟く。

 彼女でさえ、その姿を目の当たりにして驚いたようだ。

 それも当然、レアリティSのカードなど、デュエリストでも一生に一度見れるか見れないかというレベルなのだ。

 「でも、このF-タウンでは外のデュエル経験なんて役に立たない――」

 「くっ、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』、『レディローパー』を攻撃だ!」

 『了解した、マスター。敵を撃破する――』

 僕の攻撃命令に従い、ヴァルキリアスはレディローパーへと攻撃を仕掛けていた。

 ただし鞘から剣を抜かず、素早い身のこなしで背後から軟体のボディに組み付いたのである。

 壮麗なる女騎士はレディローパーのナメクジ状下半身へと腕を伸ばし、その辺りを指で撫でさすったのだ。

 「やはり、そうなのか……」

 ラサイアの言った通り、このF-タウンでは攻撃の概念そのものが違うらしい。

 しかし攻撃力や防御力の概念はなくても、レアリティの高さに応じた技能は備わっていたようだ。

 ヴァルキリアスはしなやかな指使いでレディローパーの股間部を愛撫し、あっという間に絶頂させてしまったのである。

 『はぁ、あぁぁぁぁぁぁ……』

 レディローパーは恍惚の表情を浮かべ、そのまま消失してしまった。

 生殖器が備わっているのかいないのか良く分からない相手を、指でイかせてしまったのだ。

 さすがは『深紅の女騎士ヴァルキリアス』、戦闘ルールが異なろうとも、その圧倒的実力は健在らしい。

 「――これで、ターンエンドだ!」

 場に残った敵モンスターは、『ダークスキュラ』なる女性型モンスターのみ。

 だが、ラサイアは手札に三枚ものカードを控えているのが気に掛かる――

 そんな思考を巡らせながら、僕はターン終了を宣告していた。

 

 「君が事前にルールを理解して、それなりの戦略を手にしていたら、手に汗握るデュエルになっていたんだろうけど――

  いかに強力なカードでも、作戦もなく単体で出された相手ならばどうにでもなるわ」

 ラサイアはそう言いながら、自身のデッキからカードをドローした。

 それを静かに手札へ納め、彼女の手札はもはや四枚。

 「魔法カード使用、『貞淑者の堕落』――」

 ラサイアは、手札から魔法カードを場に出していた。

 そこから紫色の霧が噴き出し、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』の周囲にまとわりつく。

 『……ッ!』

 すると、凛々しかった女騎士の様子は一変してしまった。

 まるでオシッコを我慢しているかのように足をもじもじさせ、その頬は微かに紅潮している。

 自身の中から沸き上がってきた情欲を抑えきれなくなったかのような様子で、切なそうな表情を浮かべていたのだ。

 その様子を見ているだけでも、なんとも悩ましい――

 「『貞淑者の堕落』は、対象の性的攻撃力を増加させるかわりに快楽耐性を極端に下げるカード。

  また、反撃能力も封じてしまう――これで、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』の快楽耐性は低下したわ」

 ラサイアは、軽く髪を掻き上げながら呟いた。

 『貞淑者の堕落』――まるで、『バーサク化』のような魔法カード。

 攻撃力を上げる代わりに防御力を下げるこのカードは、味方の強化にも敵の弱体化にも使える便利なカード。

 このS-タウンにおける『バーサク化』のカードが、『貞淑者の堕落』というわけか。

 「ここまで快楽耐性を下げても、まだ面倒な相手のようね――脅威ではなく、面倒なだけなのだけど」

 ラサイアはそう呟きながら、またも手札から一枚のカードを場に出した。

 「魔法カード使用、『失われし触手の継承』よ――」

 「なんだ、そのカードは……?」

 ラサイアがそのカードを出すと同時に、場に現れていたダークスキュラに変化が起きた。

 そのしなやかな両腕がみるみる変化し、たちまち無数の触手状になったのだ。

 まるで、さっき倒したレディローパーの触手を受け継いだように――

 「触手の継承……そういうことか……」

 おそらく『失われし触手の継承』というのは、撃破された触手モンスターの特性を受け継がせるタイプの魔法カード。

 あのダークスキュラとやらは、以前よりも強化されてしまったのだ。

 いかにも悪女めいた美しい褐色スキュラは、その両腕をローパーの触手に変えて艶やかな笑みを浮かべていた。

 

 「『ダークスキュラ』、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』に攻撃――」

 しゅるしゅるしゅる……!

 ラサイアの指示と共に、ダークスキュラの下半身や腕に渦巻く触手がヴァルキリアスへと伸びる。

 それに対して女騎士は避けようとも抗おうともせず、ただ期待の眼差しで迫り来る触手を眺めていた。

 その口許には、快楽への期待を込めた笑みが浮かぶ――『貞淑者の堕落』の効力で、もはや快楽に堕ちているのだ。

 『あぁぁぁ……』

 ヴァルキリアスの凛々しい顔は快楽に染まり、全身を這う触手を嬉しそうに受け入れていた。

 たちまち触手の渦に絡め取られ、艶めかしく全身を愛撫される女騎士。

 彼女は一切の抵抗を見せず、その鎧の隙間にまで触手は侵入し――

 ヴァルキリアスは股間にも触手愛撫を受け、細身の体をびくびくと跳ね上がらせる。

 その端正な顔は快楽一色に染まり、もはや快感を味わうことしか考えられないようだ――

 「くっ……!」

 そして僕は、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』が絶頂へ導かれていくのを眺めることしかできなかった。

 その痴態を目の当たりにし、股間にテントを作りながら――

 『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!』

 女騎士はひときわ大きく悶え、その体を震わせた。

 全身を責め嫐る触手に悦びを感じながら、絶頂へと追い詰められてしまったのだ。

 同時に、ヴァルキリアスは姿を消していく――僕の切り札は、いとも簡単に撃破されていた。

 「そ、そんな……」

 目の前が真っ暗になったような、絶望的な気分。

 レアリティSの女騎士は、快楽耐性を下げられた上で、強化されたダークスキュラにイかされてしまった。

 こうして再び、僕のモンスターは場に一体もいなくなってしまったのである。

 

 「これで私のターン終了、君のターンよ」

 「くっ、まずい……! ドローだ!」

 願いを込めながら、僕はデッキからカードを引いていた。

 自分のデッキに、何のカードが入っているかは当然ながら覚えている。

 『癒しと安らぎのアルラウネ』、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』、そして残る女性型モンスターは――

 後は、補助用として入れていた『風刃のシルフ』一枚のみ。

 デッキの既定枚数は十三枚、うち三枚を最初に引く。

 その後に三枚のカードを引いたから――残り七枚、引き当てることができるか?

 「くっ……! 頼むぞ……!」

 しかし僕が引き当てたのは、『神甲の玄武』のカードだった。

 凄まじい防御力を誇るカードであり、劣勢においては逆境の力となる――通常ルールならば。

 しかしこのモンスターさえ、おそらく召喚できないだろう――

 「『神甲の玄武』、召喚だ……!」

 念のために召喚してみたものの、やはり『神甲の玄武』は一瞬で消失してしまった。

 このF-タウンでは、女性型モンスターしか召喚さえできない――これは冷徹たるルール。

 またも無駄にターンを費やし、場に一体のモンスターもいないまま、ラサイアにターンを回してしまった……!

 

 「ご愁傷様……じゃあ、私のターンね」

 まずラサイアはデッキからカードをドローし、それを手札に加える。

 そして――

 「『ダークスキュラ』、敵プレイヤーに攻撃――」

 ラサイアはいともあっさりと、そう命令していた。

 「え……?」

 呆気にとられる僕に向かって、ダークスキュラの体に備わった無数の触手が伸びてくる。

 その下半身と両腕にに渦巻く触手が、じゅるじゅるとうねりながら地を這い、襲い掛かってきたのである。

 まさか、プレイヤーである僕にさえ――

 「さっきも言ったように、絶頂したら撃破と判定される。プレイヤーの貴方が絶頂してしまえば、すなわちデュエルは敗北。

  負けるのが嫌なら、耐えてみなさい――無理でしょうけど」

 「あ……! うわぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 たちまち、僕の全身をダークスキュラの無数の触手が絡め取ってしまった。

 それは非常に柔らかく、粘液でぬめってネバネバしている。

 それが手足や胴にじっくりと絡み付き、衣服を引き裂きながらねっとりと這い回り――

 限界まで勃起した肉棒が、たちまち露わになっていた。

 

 「もう大きくしていたのね。自分の手札がイかされる姿を見て、興奮したのかしら?

  それとも、自分も触手で嫐られることに興奮した……?」

 そう呟くラサイアは、息を呑むほどに妖艶だった。

 そんな彼女の眼前で触手なんかにみっともなく絡め取られ、イかされようとしている――

 その屈辱感や背徳感が異様なほどの興奮をもたらし、触手で全身を愛撫される快感は一挙に増した。

 「あ、あうぅぅぅ……ひぃ……」

 体中をぬめらかな触手に這い回られ、僕は身をよじって喘ぐ。

 そのヌルヌルの愛撫は、今まで想像もしたことがないような快楽だった。

 しかもそれを行っているのは、あの綺麗なダークスキュラ――

 彼女に全身をまさぐられていることを実感し、興奮はどんどん高まっていく。

 僕は抗うことを忘れ、その快感を受け入れ始めていた。

 ちょうど、さっきの『深紅の女騎士ヴァルキリアス』のように――

 

 「もう堕ちてしまったの? まだ、オチンチンには何もされていないのに――」

 そんな僕の痴態を眺めながら、ラサイアは呟く。

 「じゃあ、君のオチンチンにも攻撃してあげるわ。

  初めてなら、耐えられっこないわね。せめて気持ちよく――イきなさい」

 「はぁ……! あ、うあぁぁぁぁぁぁ……!」

 ラサイアの宣告と同時に、じゅるじゅる蠢く触手はペニスまでも螺旋状に巻き付いてきた。

 その表面のぬめぬめした感触が肉棒に這い、とろけそうな感触を味わう――

 「あ、あぅぅ……だ、だめ……」

 じゅくじゅくじゅく……

 肉棒に巻き付いた触手がうねうねと収縮し、ペニスをじっくりと締め上げてくる。

 触手に揉み嫐られ、締め付けられる快感――さらに全身にも、無数の触手が這い回っているのだ。

 ダークスキュラは僕の全身を触手で絡め取りながら、妖艶な笑みを浮かべていた。

 このまま、スキュラにイかされてしまう――

 絶頂すれば負けなのに、このまま射精させられてしまう――

 

 「だめ……だ、もう……!」

 カリの溝の部分にちょうど触手が巻き付き、食い込むようにしてうねっている――その感触に腰の力は緩む一方。

 射精すれば敗北なのが分かっていても、僕は込み上げてくる快感を抑えることは出来なかった。

 「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 触手に巻き付かれたペニスから、ドクドクと白濁液が溢れ出させてしまう――

 その放出感は驚くほど心地よく、僕は触手に射精させられる快感に溺れてしまった。

 「き、きもちいぃぃ……」

 触手は射精中のペニスを締め付け続け、最高の絶頂感を味わわせてくれる。

 ラサイアの眼前で敗北にまみれた射精を体験させられながら、最後の一滴まで精液を搾り出されてしまったのである。

 こうして、僕は無惨な敗北を体験させられたのだ――

 

 「あう……」

 存分に屈服の液体を搾り出された後、ダークスキュラは触手拘束を解いていた。

 恍惚感と疲労感で、その場に崩れてしまう僕――同時にデュエルフィールドも解除されていく。

 気付けば僕は、F-タウンの路上に横たわっていた。

 服は魔力で再生したようだが、射精の放出感と快感の残滓はそのまま。

 そんな僕の眼前には、勝者であるラサイアが腕を組んだまま立っていた。

 彼女は険しい表情を浮かべていて、勝利の喜びなど全く伺えない。

 

 「……まるで勝った気がしないわ。君はルールをまるで理解していなかった」

 ラサイアは深くため息を吐き、そう呟いていた。

 「私、初心者狩りなんて趣味じゃないの。今のデュエルは無効にしてあげてもいいわ――」

 勝者は、敗者のデッキの中から好きなカードを一枚貰うことができる――ほとんどの場合、最もレアリティの高いカードの譲渡。

 デュエル無効とは、その勝敗後のカードのやり取りを行わないということだ。

 『深紅の女騎士ヴァルキリアス』を手に入れる最大のチャンスを、なんとラサイアは自ら不意にしてしまうのだという。

 カードに執着がないのか、今のデュエルがよほど不服だったのか――

 「……」

 僕は敗者だが、そんな申し出は断じて受け入れることはできない。

 勝敗後のアンティカードの受け渡しは、デュエルに伴う当然の礼儀。自身の反省と、そして勝者への敬服の表れ。

 向こうから言い出したからといって、これ幸いとカード譲渡を破棄するのは、デュエリスト失格である。

 『深紅の女騎士ヴァルキリアス』が惜しいなど、敗者の言い分ではないのだ。

 断じて、この申し出を受け入れるわけにはいかない――これは、デュエリストとしての魂の問題なのだから。

 

 敗北を認め、ラサイアに『深紅の女騎士ヴァルキリアス』を譲る

 それでも、『深紅の女騎士ヴァルキリアス』はやっぱり惜しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「いや――気持ちは嬉しいけど、デュエリストとしての魂を踏みにじる訳にはいかない。

  敗北を受け入れ、この『深紅の女騎士ヴァルキリアス』を託すよ」

 「……君なら、そう言うと思ったわ」

 ため息を吐きながらも、ラサイアは『深紅の女騎士ヴァルキリアス』のカードを受け取った。

 当然ながら、惜しいものの……仕方がない。

 敗者は勝者に最高のカードを譲る――このルールを破ったら、デュエリストは何のために戦っているか分からないのだ。

 あまりにも高い授業料だったが、これでいい。

 「……託されても、困るわ。私、このカードに何の思い入れもないの。

  互いに全力を尽くしてデュエルしたのならともかく、こんな勝利は拾ったも同然だわ」

 不服そうに呟き、ラサイアはくるりと背を向けた。

 「このカードは、ずっと私の手許に置いておいてあげる。

  いつか必ず、取り返しに来なさい――私は、いつでもこのタウンにいるわ」

 「……ああ、必ず」

 ラサイアの言葉に応じ、僕は頷く。

 そして背後を一瞥もせず、彼女はそのまま雑踏に姿を消してしまった。

 こうして僕は、手持ちで最もレア度の高い『深紅の女騎士ヴァルキリアス』を失ってしまったのである。

 

 「いきなり、とんでもない事になったな……」

 それでも――おそらく、ラサイアの言葉に嘘はない。

 このF-タウンでデュエルの腕を磨き、必ず彼女の手からカードを取り戻す――そう、心に誓ったのである。

 通りの雑踏を歩く僕の足取りは、悲痛でも重々しくもなく、むしろ闘志にみなぎっていた。

 

 

 第二話「まさかの再会」へ

 



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