フェイスハガー娘


 

 「やれやれ、いきなりの歓迎だな……」

 「この程度なら、想定の範囲内です」

 吹き抜けのエントランスホールに足を踏み入れ、俺とロゼットは軽く言葉を交わしていた。

 粘液や軟肉に包まれ、奴等の巣と化したホール――

 そこで出迎えるように姿を現したのは、群れを成したシスティリアン達。

 くすくすと耳障りな笑い声を漏らしながら、ぞろぞろとその姿を見せる。

 その数、全部で三十匹以上――

 

 「ちっ……」

 ブランデンと一緒ならば、この数の三倍は軽く片付けられたろうに――

 そんなことを考えながらパルスライフルを構える俺。

 「私ではパートナーとして不服だと――そう考えておられるのでしょうか」

 そんな俺の表情を読み取ったのか、不意にロゼットは言った。

 そして、そのか細い右腕を群れ寄るシスティリアン達に向ける。

 その手首からは砲口が覗き、さらに五本の指先それぞれが機関銃の銃口と化した――

 「私は拠点制圧タイプとして開発された、新式のロゼット。

  原始的な肉弾戦が主体の異星人などに、断じて遅れなど取りません――」

 「ロゼット、お前……」

 その肘や膝からも、マイクロミサイルランチャーが覗いている。

 見たこともない武装に、初めて聞く開発コンセプト。

 彼女の全身は、まさしく武器庫だった。

 ここまで重武装のロゼットなど、見たことも聞いたこともない――

 

 「対象三十七、同時ロック完了――これより殲滅します」

 ロゼットは俺を差し置いて一歩踏み込むと、連なった銃口と化している右手を大きく薙いだ。

 その軌道上で弾丸が乱射される――いや、その一発一発が狙いすました精密射撃。

 続けて、四方へと小型ミサイルが乱舞する――そして、ホールのあちこちで爆発が巻き起こった。

 ほんの一瞬の間に、炸裂する弾丸とミサイルの嵐。

 周囲を吹き荒れる、爆炎と爆風。

 そして――

 

 「回避対象はなし。生体反応消失――」

 その白煙が引いた後に広がっていたのは、システィリアンの死骸の山。

 ただの一匹も、生き残りはいなかった。

 ほんの数秒で、数十匹のシスティリアンをまとめて葬ったのである――

 俺は、それを後ろから呆然と見ているしかなかった。

 

 「――以上です。あのような異星人に遅れなど取らないことを理解していただけたでしょうか?」

 くるりと振り返り、ロゼットはそう宣言する。

 「おい、上――」

 そんな彼女に対し、俺は頭上を指し示すしかなかった。

 「あ……!」

 周囲への被害を度外視した派手な攻撃で、天井にはみしみしとヒビが入っていたのだ。

 そして建造物に与えたダメージによって自重に耐えきれなくなくなり、ガラガラと崩れ始める――

 「ちっ、こっちだ……!」

 俺はロゼットの腕を掴み、ホールを一直線に駆けていた。

 そして、ターミナル隅の事務管理室に飛び込む。

 「よし、ここなら……!」

 ここは構造上、最も崩れにくい場所に設置されている部屋。

 室内には事務用の机が並び、部屋の隅には繭の残骸も残っている。

 この部屋で、なんとかやり過ごすしかない。

 ここが崩れるほどならば、もうどの場所にいても同じだ――

 

 ガラガラと派手な音が外から響いていたが、やがて静かになった。

 どうやらあの付近の天井が崩れただけで、ターミナルが全壊などという事態は免れたようだ。

 「やり過ぎだ、ロゼット――」

 「申し訳ありません……」

 しゅんと肩を落とすロゼット――

 前々から思っていたが、このロゼットはやけに感情表現が豊かに見える。

 これも、新タイプの特徴なのだろうか。

 そもそも、なぜいきなり派手に暴れたのかも不可解だ。

 まさか、ブランデンに対抗意識を持ったというわけでもあるまいし――

 

 「……ロゼット。お前、ブランデンを知ってるのか?」

 「この市街のあちこちに備わっている監視カメラにアクセスしました。

  スドウ大尉が単独行動中、異星人と接触したことも確認しています――」

 それを聞き、どん、と俺は机に拳を叩き付けていた。

 「ずっと監視していた……そういうわけだな?」

 「……」

 ロゼットは黙り込み、そして――

 「……その通りです」

 そう、小声で答えたのだった。

 「お前の行動は、さっぱり分からん! いったい、何を考えている……!?」

 いや、ロゼットはアンドロイド。

 決して、自分で何かを考えているわけではないのだが――

 「……」

 まるで責められた人間のように、ロゼットは黙り込んでしまった。

 こうしていると、どうにもロゼットを苛めているようで座りが悪い。

 「まあ、機械相手に愚痴っても仕方ないんだけどな。ともかく、あまり妙な行いは――」

 そうぶつくさ言いながら、パルスライフルの弾丸を詰め替える俺。

 以後は屋内戦が続くことを考えると、榴弾よりも徹甲弾の方が良い――

 「……ん?」

 弾の入れ替えを行っていると、ポケットの中に見慣れない小型器具があったのに気付いた。

 これは――ブランデンから受け取った、あのロックキャンセラー。

 確か地球人の施設や機器に対する電子ロックやパスワードを問答無用で解除する機械である。

 そう言えば、返すのをすっかり忘れていたようだ――

 

 「……待てよ、これを――」

 俺の中に、閃くものがあった。

 この機器は、UE端子を介して接続するもの。

 これを用いれば、もしかしてロゼットを――

 

 「……ロゼット、メンテナンスモードだ」

 「了解しました……」

 ロゼットは椅子に座り、髪を掻き上げて首筋を示す。

 俺は首部のカバーを外し、そこに備わっているUE端子にロックキャンセラーを接続していた。

 そして、じっと様子を伺う――

 

 「・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 最上級システム管理者のアクセスを確認しました」

 「よし、やった!」

 最上級システム管理者として認識されている――つまり、全ての情報にアクセスできる状態。

 これで、ロゼットが秘匿していたデータも引き出せるはずだ。

 まずは――

 

 「なぜ、この星にシスティリアンが発生した? 黒幕は軍上層部か?」

 「いいえ、軍はむしろ従属的な役割。全ての糸を引いているのは――ヴェロニカ・ユカワ社」

 「なん、だと……!?」

 俺は、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けていた。

 オリファー少佐の残した文章に、積み荷のリストがあったはず。

 その中に――確かに、ヴェロニカ・ユカワ社からの積み荷もあったはずだ。

 そうであるなら、積み荷を陸揚げする時のスキャンぐらい簡単にごまかせる。

 ヴェロニカ・ユカワ社の技術力なら、スキャンを通しても荷物の中が読み取れないようにするくらい朝飯前だろう。

 そんな風にして、積み荷の中にフェイスハガー娘を紛れ込ませたのだ。

 

 「ヴェロニカ・ユカワ社が、こんな実験を……」

 ヴェロニカ・ユカワ社とは、ヴェロニカ生化学研究所とユカワ重工業が合併して出来た複合企業。

 その代表は、ミス・ヴェロニカなる若き令嬢――CMで良く顔を見るが、その素性は不明である。

 また重工業という分野ではトップクラスの業績を誇り、軍との関係もかなり深いはず。

 そしてロゼットも、ヴェロニカ・ユカワ社製のアンドロイドなのである。

 そのような企業が、軍を片棒に担ぎ、ここまでの大事を引き起こすとは――

 

 「なぜ、そいつらはこんなことをした? どうせ、下らない実験だろうが……」

 だいたいのところ、見当は付いている。

 生物兵器として、システィリアンがどの程度使えるか――

 それを、意図的に閉鎖状況でばらまくことでテストしようとしたのだろう。

 さらに軍の部隊を送り込み、戦闘をモニターしようとした――いかにもありがちな話だ。

 

 「……いいえ、そのような実験段階はとうの昔にクリアしています」

 しかしロゼットは、俺の想像をあっさりと否定していた。

 続けて彼女の口から出たのは、思いもしなかった事実――

 「この計画の最重要目的は、ケージ・スドウとシスティリアンとの交配。

  ケージ・スドウの有するノイエンドルフ遺伝子を、システィリアンに受け継がせること――」

 「なん、だと……!?」

 唐突に、脈絡もなく出て来た俺の名前。

 最初から、俺一人がターゲットだった……?

 そして、ノイエンドルフ遺伝子とはなんだ……?

 衝撃というよりも、全く意味が分からない。

 

 「どういうことなんだ! なぜ、そこで俺の名前が出てくる!?」

 「ケージ・スドウは、極めて強力な最上級淫魔の血を引いている人間。

  その淫魔の遺伝子を、システィリアンに引き継がせた究極の生物――それを、人為的に生み出すため」

 「い、淫魔……?」

 ロゼットの口から出て来た思いもしない単語に、俺は呆気にとられるしかなかった。

 サキュバス――とでも言うのだろうか?

 そんなもの、想像上の生物に過ぎないはずだ。

 いや、システィリアンの主食が人間の精液というのなら、どこか似ているとも言えるが――

 

 「淫魔とは、地球に古来から生息していた古代種であり、ヒトの上位種。

  女性体のみが存在し、現在も多数が人間社会に潜伏していおります」

 「それは、何の冗談――」

 いや、機械は嘘も冗談も言わない。

 そもそもあのシスティリアンとて、淫魔のようなものではないか。

 今さら、驚くべきにはあたらないのかもしれない。

 しかし俺自身がその淫魔とやらに関わっているとなると、話は別だ。

 

 「俺が、そんな連中の血を……?」

 ショックを隠しながら、俺は極めて冷静な思考をつとめた。

 ここは敵地、次の瞬間に敵が襲い掛かってきてもおかしくはないのだ。

 しかし――さすがに自分が化け物の血を引いているという話は、あまり信じたくない。

 「淫魔の遺伝子は、女性にのみ作用します。

  ゆえに男性であるケージ・スドウは、純粋な人間と全く違いはありません。

  ただケージ・スドウの子孫が女性であった場合、眠っていた淫魔の遺伝子が目覚めてしまうのです」

 「……つまり俺は、紛れもなく普通の人間ということでいいんだな?」

 「ええ。ケージ・スドウ自身は純粋な人間そのものです。しかしその娘は、淫魔として生を受けるでしょう。

  息子だったならば、普通の人間であるはずです」

 「なるほど――」

 俺の中に眠っているという、そのろくでもない淫魔の遺伝子。

 それは女のみに作用し、男である場合には何の影響もないらしい。

 俺自身は普通の人間だが、次世代にその淫魔の遺伝子を伝えてしまうという点で特別――ということか。

 それが本当なら、うかつに子作りもできなくなってしまうようだ。

 

 「それで……俺のご先祖様の中に、その淫魔という種族がいたのか?」

 「ええ。ケージ・スドウの十三代前の祖先に、最高位の淫魔が存在しています。

  ノイエンドルフ家――女王七淫魔の一人を代々輩出し続けた最上位級の淫魔一族。

  その娘の遺伝子が、ケージ・スドウの遺伝子にも脈々と受け継がれているのです」

 「ノイエンドルフ家とやらの娘が、十三代前に……」

 俺の祖母の祖母の祖母の祖母のこれまた祖母の祖母に、そのノイエンドルフ家の娘がいるという計算になる。

 そんな上の世代から、そのノイエンドルフ遺伝子というのが受け継がれてきたのだ。

 「ケージ・スドウの家系には、ノイエンドルフ遺伝子が混じって以来、男児しか生まれておりません。

  まるで強大な力の出現を恐れ、神が隠匿し続けるように――

  女王七淫魔級の存在がそう簡単に生まれたら、森羅万象のバランスにも影響が出るとされておりますので」

 「もし俺に娘ができたなら、そいつはシャレにならない化け物ってことか……?」

 こくり、とロゼットは頷いた。

 「ただし、母親――つまり、ケージ・スドウの生殖相手にも相応の器が要求されます。

  普通の人間ならば、ノイエンドルフ遺伝子を受け継いだ娘を産むのは無理でしょう。

  そうしたわけで、男児しか生まれなくなるのです」

 「なるほど……」

 その「娘」を人為的に造り出すために、ヴェロニカ・ユカワ社はこんな大それた計画を実行したのだ。

 システィリアンとの強制的な交配――そんな、身の毛もよだつようなことを行わせるために。

 

 「どうでもいいが……なぜ、ケージ・スドウと呼び捨てなんだ?」

 なぜか、そんな細かいことが気に掛かってしまう。

 ロゼットは俺を、スドウ大尉と呼んでいたはずだが――

 「貴方の軍歴はすでに抹消されています。戸籍にも、いかなる公的記録にもその名がないため、名に冠する肩書きは存在しません」

 「畜生……!」

 俺は思わず、怒りの言葉を吐き捨てていた。

 もう、すでに軍歴を抹消されている――ここから帰ってくるな、そういうことだ。

 

 「それでロゼット、お前の任務は?」

 「……」

 ロゼットは、急に黙り込んでしまった。

 まさか、まだ何らかのロックが掛かっているのか――?

 いや、そんなはずはない。

 管理者権限でアクセスしているはずなのに、答えないというのはおかしい。

 「どういうことだ? なぜ自らの任務を説明できない!」

 「存在しません。存在しないものの説明は不可能です」

 「なんだと……!?」

 何の任務も与えられていない――そんな馬鹿な話はありえない。

 だとしたら、これは何かの情報ガード機能か?

 最重要の機密にアクセスしようとした場合、そのデータを抹消してしまうような――

 そうでも考えない限り、与えられた任務が存在しないなどありえない。

 

 「どういうことなんだ、答えろ! お前は何だ!? どんな命令を受けている!?」

 「私はロゼットXR-7000――『今現在』、いかなる任務も設定されておりません」

 「くそ……!」

 俺は舌を打ち、そして追求を諦めるしかなかった。

 とりあえずロゼット自身のこと以外、知りたいことは分かったのだ。

 

 「もういい、ロゼット。メンテナンスモード終了だ」

 「はい――」

 通常状態に戻ったロゼットは、なんとも居辛そうな表情をしていた。

 メンテナンス中であっても、ロゼットは俺との会話を認識しているのだ。

 「スドウ大尉……これらの事実は、貴方に伝えたくありませんでした」

 「何をぬけぬけと……」

 苛立ち紛れに、俺は呟く。

 「それに、もう大尉じゃない。俺の軍歴は抹消された」

 「ですが、スドウ大尉――」

 「ちょっと黙っててくれ! 考えることが多すぎる……!」

 いや、本当は考えることなど特にない。

 ただ、苛立ちが頂点に達しているだけなのだ。

 

 「……」

 不意にロゼットは立ち上がり、つかつかと入り口に歩み寄っていく。

 「……ロゼット、どこへ行く気だ?」

 「今の私は、スドウ大尉に過度の不信感と苛立ちを与えています。

  これは戦闘意欲にも影響するため、私は距離を置いた方が良いと判断しました」

 無表情のまま、ロゼットは言う。

 「何を言っている……?」

 確かにその通りかもしれないが、それはとてもアンドロイドの提案ではない。

 いや、そんな発想ができる奴をアンドロイドと呼べるのか……?

 ロゼットの言葉に嘘はないならば、人間並みの気の遣いようだ。

 「私が派手に暴れ、全ての敵を陽動します。その隙に、貴方だけでも発着口へ向かい、この星から脱出を。

  今の私にできることは、その程度ですので――」

 いったい、何を言い出すんだ……?

 しかも、俺一人で脱出しろとは――

 「おいロゼット、言ってることが支離滅裂だ。捕まっている部下達の救出は……?」

 「そんなもの、いません――」

 謎の言葉を残し、ロゼットは事務室から駆け出していく。

 「おい、待て! ロゼット――!!」

 俺の静止は何の効力もなく、足音はここから遠ざかっていった。

 そして、少し離れた位置で銃声と爆音、システィリアンの笑い声や悲鳴が響き始める。

 彼女が一方的に提案した陽動作戦が、もう始まってしまったらしい。

 

 「どういうことだ……? ロゼット、お前は一体……」

 困惑しつつも、今さらロゼットを追うわけにもいかない。

 ロゼットが敵を引き付けているということは、クィーンのいる動力ブロックの守りは薄くなっているはず。

 ともかく部下を助け、可能ならクィーンを滅ぼし、発着口から小型艇で脱出する――

 かなりヘビーな任務だが、やるしかない。

 

 「仕方ない、行くか……」

 こうなってしまった今になって、ロゼットに対する罪悪感が沸き上がってくる。

 俺のヒステリックな言動が、ロゼットを追い詰めてしまったのではないか――

 いや、相手は機械。そんなナーバスな存在ではない――はず。

 ともかく、もう迷っている暇はない。

 事態は動き出してしまったのだから――

 今は、やるべき事だけを考えるのみ。

 俺は戦闘態勢を整え、事務室の扉を開けたのだった。

 

 

 

 エントランスホールはあちこちが崩れ、悲惨な有様になっていた。

 ここを正面に抜けると、地上発着口。そこに、出航準備の整った小型艇があるらしいが――

 そこに向かうのは、部下達を助け出した後だ。

 ノイエンドルフ遺伝子がどうたらという計画が裏にあったのなら、彼らは俺が巻き込んでしまったようなもの。

 何をおいても助け出さねばならない――

 俺は素早く非常階段を降り、階下へと足を踏み入れる。

 地下には、宇宙港従業員しか足を運ばないような作業施設が存在しているのだ。

 そして、動力炉のある中央ブロックにクィーンはいる――

 

 ただでさえ殺風景な地下通路は、システィリアンの巣と化した今ではもはや異界。

 軟肉や粘液は完全に壁面や床、天井を覆い包んでしまい、通路は気色の悪い肉洞と化している。

 まるで、不気味な生物の腸の中を進んでいるかのようだ。

 ロゼットが敵を陽動しているからか、システィリアンに出くわす気配はない――

 と、廊下の両端にドアのようなものが並んでいるのが分かる。

 おそらく、従業員の控え室――そこだけは付着物が薄く、ドアの開閉は可能のようだ。

 つまり、システィリアン達もこれらの部屋を使っているということの証左。

 俺は、無数の男が塗り込められて餌庫と化していた公舎の一室を思い出す――

 

 「……」

 俺はそのうちの、ドアの一つをゆっくりと押し開けた。

 部下達はクィーンの元まで運ばれたことは推察できても、具体的にどこにいるのかは分からない。

 餌庫と見られる場所を、一つ一つ総当たりで行くしかないのである――

 

 そこはやはり、システィリアン達の餌庫だった。

 十人くらいの男が、その狭い部屋の壁一面に塗り込められている。

 いや、中には若い女も混じっているところを見ると――餌庫ではなく、生殖庫も兼ねているのか。

 「うう……」

 「あが……」

 男達は生殖に使われる前に餌としても扱われたらしく、すでに壊れてしまった様子だ。

 彼らはみな普段着で、部下達の姿はここにはない。

 「たすけて……ここから、出して……」

 そう言ってすすり泣いているのは、小柄であどけない少女。

 全身を軟肉で固められたまま、か細い声を漏らしている。

 まだ中学生くらいだろうか、子供っぽいツインテールの髪型が印象的だ。

 「くっ――」

 俺達は、赤十字などではない。

 救える人間と、救えない人間との間にきっちりと線を引かねばやっていけない稼業。

 この弱った少女を助け、連れ回しつつ目的を達成できるほどの余裕は皆無なのだ。

 「すまない、許してくれ……」

 とりあえず部下を助け、そして余裕があったらできるだけの生存者を連れて脱出する――

 ゆえに、いったんは見捨てるしかないのである。

 

 ……かさかさ。

 

 不意に、物陰で何かが動く物音がした。

 「……ッ!」

 とっさに音の方向に銃を向ける俺。

 そこに潜んでいた生物――フェイスハガー娘は、ひゅんと跳ねていた。

 銃を構えた俺ではなく、壁に塗り込められたツインテールの少女に向かって――

 

 「い、いやぁぁぁ……!!」

 べちゃり、とフェイスハガー娘は剥き出しになっている少女の股間に貼り付く。

 「やだぁぁ……! あ、あぁぁぁぁ……」

 嫌悪に歪んでいた少女の顔が、みるみる緩んでいった。

 陰部に取り付いたフェイスハガー娘がぐむぐむと蠢き、少女は恍惚に浸り始める。

 くちゅくちゅくちゅと、異形の生物は少女の蜜壷を責めているのだ。

 男だけではなく、女も悦ばせることができるらしい――

 

 「あ、あ……」

 微笑んだように半開きになった少女の口から、唾液がたらりと垂れる。

 「あ、あぁぁぁぁぁ……」

 続けて、たらららららら……とフェイスハガー娘と下腹の隙間から尿が零れ出ていた。

 快感のあまり絶頂し、放尿したのか――琥珀色の液体は、びちゃびちゃと床や少女の脚を汚してしまう。

 「……!?」

 すると、少女を昇天させたフェイスハガー娘の体に変化が起こっていた。

 その甲殻類めいた体がぐずぐずと崩れ、液状になって少女の陰部に潜り込んでいく。

 「あぁぁぁぁぁ……ふふ、うふふ……くすくす……」

 ずるずると、液状化したフェイスハガー娘は膣内に消え――

 そして恍惚に浸っていた少女の顔に、淫靡な色が差した。

 恍惚から正気――いや、もはや狂気か。

 

 「あはは……」

 全身を拘束していた粘液や軟肉を、ぶちぶちと引き千切っていくツインテールの少女。

 そのまま壁から這い出し、すらりとした二本の足で床に立つ。

 その背中や肩が、昆虫の外殻のごとく硬質化していく――そして、お尻からにゅるりと生えてくる尻尾。

 人間であった時の面影を色濃く残したシスティリアンの少女は、正面に立つ俺を見据えてにっこり笑った。

 「あはは……ひどいんですね、お兄さん。

  私を見捨てようとするなんて。それに、おもらしするところまで見られちゃって――」

 「喋れるのか、お前……?」

 こいつは、もはや人間ではない――

 生まれたてのシスティリアンを前にして、俺はパルスライフルを構えていた。

 「あは、喋れますよぉ。人間だった頃の記憶だって、ちゃんとありますし。

  でも今は……とっても、お兄さんを弄びたいなぁ……」

 あどけない顔に、とろんとした表情を浮かべ、少女は俺を睨め付けた。

 そのツインテールの髪が、唐突にしゅるしゅると伸び始める。

 それはぶわっと広がり、まるで一房一房が意志を持っているかのように俺へと襲い掛かってきたのだ――

 

 髪を避けながら反撃する

 髪に巻き取られ、弄んでもらう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちっ……人間じゃないなら、遠慮はいらんな」

 俺はその髪の攻撃を避けつつ、生まれたばかりのシスティリアンに接近していた。

 ほんの前まで人間だからと言って、躊躇する気持ちなど全くない。

 さっきの言動からして、こいつはもう心まで怪物と化しているのだから――

 

 「えっ……?」

 自慢のツインテールによる攻撃を容易く避けられ、目を丸くする少女。

 その隙だらけの胸に、俺は弾丸を叩き込んでいた。

 はっきり言って、大した相手じゃない――惑わされさえしなければ。

 「そ、そんな……せっかく、人間以上の存在に進化したのに……」

 新しい肉体を手に入れたばかりの少女は、そう呟いて倒れ伏した。

 ところどころが異形と化した小さな体がどさりと横たわり、そのまま絶命してしまう。

 しかし銃声は周囲一帯に轟き――そして、大勢の足音が近付いてきた。

 「くすくす……」

 「あはは……」

 「ちっ、嗅ぎつけてきやがったか――!」

 部屋に飛び込んでくるシスティリアン達――その体に弾丸を叩き込みつつ、俺は部屋から滑り出る。

 通路の両側から駆け寄ってくる数匹のシスティリアン――おそらく弱い個体で、隙だらけ。

 俺はそいつらを薙ぎ倒しながら、廊下を一直線に駆けた。

 

 ――おかしい。

 敵の追撃が、あまりに手ぬるい。

 ロゼットが上で暴れているからか、それとも――

 

 「うふふ……」

 「くすくす……」

 とは言え、一度に相手をするには流石に多すぎる。

 とっさに俺は、目に付いたドアを開けて部屋の中に飛び込んでいた。

 「あは……」

 何も考えず追いすがり、部屋に飛び込んできたシスティリアン達――

 そこはちょうど、死角の多いロッカールームだった。

 追う側は不利だが、追われる側なら有利な環境――

 ドアの死角から銃撃を叩き込み、そいつらを片付けていく俺。

 続けて飛び込んでくるシスティリアンに対し、ロッカーの陰から陰へと移動しながら弾丸を食らわせる――

 死角から飛んでくる銃弾に引き千切られ、たちまち奴等は絶命していった。

 「これで、追っ手はだいたい片付けたか……」

 しぶとく追撃してきた一団を全滅させ、とりあえず一息。

 他の奴等に、ここを発見されるまでしばらく時間の余裕があるだろう。

 少しの間でも、体を休めておくか――

 

 「ッ――!?」

 ――次の瞬間、背筋にぞっと寒気が通り抜けていた。

 部屋の隅に、まるで静かに爪を研いでいる猛獣のような存在が居たのだ。

 そいつは俺より以前にここに潜み、しばらく傷を癒していたのだろう。

 この部屋で会ったのは、決して偶然ではない。

 少しでも戦いに慣れた者ならば、一対多数の状況においてこの部屋は最適。

 思考が近い者同士が、同じ状況下で同じ場所に踏み込んだというわけだ。

 

 「ブランデン……」

 「――――」

 壁にもたれてうずくまっていた狩人の少女は、僅かに視線を上げてこちらを見た。

 何度か遭遇し、一度は互いに背中を預けて戦ったことさえある可憐な狩人――

 その鎧はかなりのダメージを受け、肩当ての片側は消失。

 胸甲も半分ほど砕け、かなりの激戦を繰り広げたことが伺える。

 敵本拠地に正面から殴り込んだにもかかわらず、システィリアン達の追撃が緩かった理由は明らか。

 俺達より先にブランデンが侵入し、腕利きのシスティリアンはあらかた狩り尽くしたからなのだ。

 そして今、ブランデンはクィーンの居場所に切り込む直前で体を休めていたのである。

 

 「……お前、ずっと戦ってたのか?」

 「――――」

 ブランデンは視線だけで俺を見上げ、無表情のまま静かに頷いた。

 その次の瞬間――壁に設置された通風口で、何かがしゅるりと蠢く。

 あれは、奇襲を仕掛けようとしているシスティリアン――!

 

 「後ろだ、ブランデン――!」

 俺がパルスライフルを構えるよりも、ブランデンの反応の方が速かった。

 素早く腰を上げ、奇襲を仕掛けようとしていたシスティリアンの頭部をかぎ爪で一閃する――

 ぶじゅり、と敵の頭部は切断されていた。

 しかし、やはりブランデンはかなり疲れていたらしい。

 敵が攻撃を繰り出す前に、相手の命を奪う一撃を叩き込むことは出来た。

 しかし溢れ出る血液――催淫性を帯びた粘液を避けることはできなかったのだ。

 びちゃり、とブランデンはグリーンの粘液をその半身で受けてしまった――

 

 「――――」

 それを浴びたブランデンは、その場にぺたりとしゃがみ込む。

 「大丈夫か、ブランデン!?」

 慌てて駆け寄る俺――少女は、どこかぼーっとした表情を浮かべていた。

 普段から無表情だが、どこか上の空のような、熱に浮かされたような――

 「――――」

 そしてブランデンは、しゃがみ込んだまま俺の腰にしがみついてきたのである。

 まるで、泥酔した人間が体を預けてくるように――

 

 「おい、何を……!」

 戸惑う俺を無視し、そのままブランデンはズボンを強引に引き下ろしてきた。

 熱に浮かされたような顔で、息を荒げながら――そのまま、下着までずり下ろされてしまう。

 その際に彼女の爪が擦れ、俺の膝に傷が出来てしまうほどの強引さ。

 そして剥き出しになった俺のモノが、ブランデンの眼前でぶら下がった。

 「お、おい……」

 「――――」

 ブランデンは、まるでエサに食い付く魚のように肉棒を口に含んでしまう。

 その口の中は驚くほど温かく、そしてぬめった唾液で満ちていた。

 「あ、う……」

 じんわりと肉棒に浴びせられる温もりに、俺は腰を震わせてしまう――

 唾液のヌルヌル感も相まって、肉棒はむくむくと固さを増していった。

 こんな綺麗な少女に、自分のペニスを咥えられている――その興奮だけでも、絶頂してしまいそうだ。

 

 「――――」

 れろり……と、ブランデンの厚めの舌が裏筋付近を這う。

 固くなったペニスを、少女はじんわりと舌でくすぐってきたのだ。

 唾液が亀頭にぬるぬると塗りたくられ、口内粘膜がペニス全体にまとわりついてきた。

 「うぐ……や、やめ……」

 思わず腰を引こうとしたが、ブランデンの両腕は俺の腰にしっかりと巻き付いている。

 腰にしがみつかれたままペニスをしゃぶられ、それは逃げられない快感そのもの。

 少女はぼんやりした様子とは裏腹に、その口は情熱的に俺を責め続ける――

 

 ぐっちゅ、ちゅぶ、ちゅぱ……

 

 「お、おぉぉぉぉぉ……!」

 亀頭を柔らかな舌でベロベロと舐め回し、そしてその口が上下に動き始めた。

 ヌルヌルと唾液をまぶされながら、唇がペニスをしっかりと締め付け、上下に擦られる刺激を受ける。

 裏筋は舌の表面を滑らされ、ぬるりとした感触が腰をぞわぞわと走り抜ける。

 さらに吸い付くように口内が狭まり、頬肉がきつく密着してきて――

 その状態で、じゅぽじゅぽちゅぽちゅぽと追い詰めていくように上下運動を繰り返す。

 天国のような少女の口淫を味わい、いつまでも我慢できるはずがなかった。

 

 「や、やめろ……、ブランデン……」

 このままでは、ブランデンの口の中で射精してしまう――

 しかし少女は、明らかに俺を追い詰める意図でラストスパートを繰り出していた。

 唾液を口内にまぶしながら、舌や唇でペニスを舐め、擦り回す。

 ずるずると口から引き抜いては、カリの部分を唇できゅうきゅうに締め付ける。

 深く口内に迎え入れては、口の中を真空状態にして頬肉や舌を密着させてくる――

 そんな技を交互に、リズミカルに繰り出され、俺はあっという間に達していた。

 

 「あう……! ブ、ブランデン……!」

 少女の名を呼びながら、その口の中で果てる快感。

 精液は彼女の口内にたっぷりと溢れ、その口内を汚していく。

 ブランデンはうっとりした顔でそれを飲み干し――

 最後の一滴まで吸い尽くすと、ペニスからちゅぽんと口を離していた。

 そして、上気した表情で俺の顔を見上げ――

 

 「――――」

 不意に、少女の眼に理性が戻ってきた。

 その視線は俺の顔から剥き出しになっている股間、そして床へと降りていく。

 ブランデンはそのまま床に視線を落とし、ぴたりと動かなくなった。

 俺を射精させた口が横一文字にきゅっと閉じ、その肩は僅かに震えているような気がする――

 

 「あ、これは……」

 なぜか俺の方が動転し、慌てて下着とズボンを履いていた。

 ブランデンは俺と視線を合わせないまま、静かにハンドシグナルを繰り出す。

 『すまない』――少女は、俺にそう伝えてきた。

 システィリアンの粘液を浴びて一時的に理性を失っていたブランデンは、ようやく我に返ったのである。

 しかし後に残った空気は、非常に重々しく気まずいものだった――

 

 しばらく休息する

 



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