Another-Days of The Lust Demon's Castle




※          ※          ※ 

 

 沙亜羅はアステーラとかいう淫魔に引き立てられ、ノイエンドルフ城の廊下を進んでいた。

 後ろ手に手枷をはめられ、後方には剣を持った守衛のサキュバスが二人。

 そしてこのアステーラは、ノイエンドルフ城でも結構な立場を持つサキュバスのようだ。

 これから自分は、城主であるマルガレーテの元に連れて行かれるらしい。

 

「ふふ、こちらよ……大丈夫、乱暴なことはしないから」

 黙りこくっている沙亜羅を怯えていると解釈したのか、アステーラはくるりとこちらを振り向いた。

 その舌が伸び、ぬるり……と沙亜羅の頬を愛おしげに這う。

 その動作は、まるで無警戒なものだった。

「貴女ほどの獲物、私の一存で処遇を決めるわけにもいかないから。

 あ……怖がらなくてもいいわよ。処遇といっても、気持ちいいことばっかりだから。

 オチンチン生やしてもらってイイことされたり、もしかしたら私達の仲間になるってことも――」

「……」

 ベラベラと喋り続けるアステーラを尻目に、沙亜羅は手枷の強度を確認する。

 余りにも緩い拘束、こんなものは束縛のうちに入らない。

 それに、サキュバス連中の油断しきった態度――

 

「貴女ほどの獲物ならば、マルガレーテ様にもさぞかし喜んで頂けるわ。

 私も、面白い趣向を考えついたし……うふふ」

 手枷を壊し、このアステーラの舌を引きちぎるのに1秒。

 二人の守衛から剣を奪い、すぐさま撫で斬るのにもう1秒。

 そして、このアステーラの喉元に剣先を叩き込むのにさらに1秒。

 3秒あれば、この場の全員を肉塊にできる――が、それは得策ではない。

 こいつらは、せっかく敵の大ボスの元へと招待してくれるというのだ。

 手っ取り早くそいつの元に向かい、マルガレーテとやらを片付けるのも悪くはない。

 沙亜羅がそんなことを考えていた時だった――

 

「――そうそう。ちょっとした保険は掛けさせてもらうわね」

 アステーラの声が聞こえ、彼女と目が合った瞬間。

彼女が手に持っていた一輪の花が目に入った。

 桃色の花びらが美しい、百合に似た綺麗な花――

「綺麗な花でしょ? これはね、アラウネ・ブルームの変種……忘却と恍惚の中で、素直な性格になってしまう、ちょっとした催眠効果のある花なのよ……?」

 アステーラはくすくすと小さく笑う。



 沙亜羅は内心、鼻で笑っていた。

 この程度の物で、自分を操れるとでも思っているのか。自慢したくもないが、魔力に対する抵抗力の強い沙亜羅に下手な催眠術など通じるはずがない。

 そう高を括っていたのだが――



「…………ぇ」

なぜか、それから目を逸らすことができない……

美しい花びらと、甘い甘い香りが沙亜羅の心に浸透していく……

 それと引き換えに、自分の中から大切なものが少しずつ消えていくような、静かな不安を感じ始める……!!



「ふふっ……確かに素質は強いみたいだけれど、完全に覚醒していないのが仇になったみたいね? 私たちが何も考えずに貴方を確保しに来たと思った?」

アステーラのバカにしたような声が聞こえる。

「安心して。全部の記憶を消すわけではないわ。貴方には私たちと敵対する理由、忌まわしい過去……そして、貴方の心の支えになっている彼のことだけを消してあげる……いくら身体能力が高くても、精神が弱まれば対処は容易いもの。ね?」

「そ、そんな――っ!」

 沙亜羅は心を強くもって抵抗しようとする。

 だが花の芳香の力なのか、自分の大切な物がどんどんと薄れ、精神を強く持つ為の要素が消え去っていく……



「――そうそう。貴方のパートナーだったオトコのコ。

あの子は私の妹分のおっぱいに搾り取られて、完全な虜になってしまったわよ? 

あの子はもうメイのことで頭がいっぱい……貴方と再会しても、顔どころか名前も思い出せないでしょうね」

アステーラはくすくすと嘲笑うように言った。

「でも寂しがることはないわ。貴方も彼のことを忘れて、それからまた会わせてあげる。ま、どちらもお互いのことを覚えていないでしょうけど」



「う……ぅう……」

 すぐ近くにいる、アステーラの声すら聞こえなくなってくる……

 音声としては認識できても、その言葉の意味が分からなくなってくる……



「あらあら、ちょっと効きすぎたかしら?

 ごめんなさいね、ここまでするつもりはなかったんだけど……ま、しばらくすれば元に戻るわよ」

 もはや沙亜羅には聞こえているようでいて、聞こえていない。

 ただの雑音として感じているだけだった……



「さて、メイの話が本当なら進入者は四人。残りはあと二人……」

 ふとそこで、アステーラの声に心配が含まれる。

「……マイ一人で大丈夫かしら」



※          ※          ※



「大丈夫じゃないですぅ……」

 双子の淫魔メイドの一人、マイはとてつもなく不安そうに呟いていた。

 広く豪壮な廊下――いつもならメイと二人で歩いている道もたった一人だと不安で仕方がなかった。

「ううっ……怖いですぅ……寂しいですぅ……」

 メイは捕らえた人間の男性に夢中で、今も精液を搾り取っていることだろう。

本来 仕事をサボったりできる娘ではないが、一つのことに集中すると他のものが見えなくなるところがある。

 もちろんマイが呼びかければ快く応えるし、一緒に警護もするだろう。

 ただ何と言うか――

あまりに幸せそうに精を吸い取っているメイを見ていると邪魔するのも悪い気がするし、命がけで助けてくれるような人間さんを独り占めしている彼女を見ていると、ふつふつと嫉妬の気持ちが湧き上がってしまう。

多分 今なら、一緒に警護していても黒い気持ちが湧き上がってしまうだろう。だったら、頭を冷やす意味も込めて一人で行動した方が良い。

そう思って一人で警護に回っているのだが――

「ううっ……やめておけば良かったですぅ……」

今更ながらに後悔の気持ちが湧き上がってきた。

今もメイと人間さんはイチャイチャしているのだろう。

 今の時間ならきっと――



お風呂場でイチャイチャしている

コスプレルームでイチャイチャしている



(まだまだ色んなことするかもしれないですぅ……ぶうう)




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