百鬼夜行:弐(焔)




――11ヶ月前――



白の軽自動車の運転席で、男は苛立たしげに窓からタバコを投げ捨てた。

ただの空き巣のつもりが、住人に見られたせいで殺しに――強盗になってしまった。

これもあのジジイが昼間から居間でゴロゴロしてるせいだ。

俺に何の落ち度もない。

自分勝手なことを考えながら、男は港の空き倉庫に車を止め、凶器となったナイフを海へと捨てた。

かなり雑な処理法ではあるが、犯行現場から2県も離れているため、まず見つからないだろう。

男は足早に車へと戻ると、トランクからバックを取り出し、中身を助手席に広げた。



まず現金が40万。

なかなか貯めこんでいた方だ。



次に通帳やカード。

こちらも結構な額になるが、自分で捌く能力がないため、裏で売却するのが得策だろう。



最後に――金庫から持ち出してきた貴金属や宝石類だ。

金庫の中にしまわれていたため、結構期待したのだが、思ったほど高額な物はない。

これなら裏で売却するより、何年か手元に置き、ほとぼりが冷めた頃に売り捌いた方がいいだろう。

男はそう考えながら、宝石を1つ1つ吟味していき――奇妙なことに気が付いた。

きらびやかな宝石類の中に、何の変哲もない石が混じっているのだ。



――片手で握りこめる程度の大きさの、無骨な形の白い石が――



なぜこんなものが金庫の中に大切そうに置いてあったのか。

さらにじっくりと吟味するも、やはりこれといった特徴のない普通の石だ。

何かの手違いで金庫の中に入り込んだのだろう。

そう判断すると、男は石を窓から投げ捨てようとし――ふと、思い止まった。

もしかすると自分が知らないだけで、この石はとてつもなく貴重で高価な物なのかもしれない。

いや、高価なものに違いない。

思い返してみれば、他の宝石よりもかなり丁寧に保管されていたではないか。

不意に生まれた考えが、男の中で石の価値をどんどん高めていく。

結果、男は捨てるのを止め、石を大事にポケットへとしまい込んだのだった。



――9ヵ月前――



あの石を拾って以来、男の人生に敗北の文字は無くなっていた。

ギャンブルを行えば確実に勝ち、喧嘩をすれば確実に相手を打ち負かした。

その行いのせいで、何度か暴力団に絡まれたこともあった。

だが、それさえも天が味方しているかのような幸運によって乗り越え、逆に相手の暴力団を潰してやった。

もはや男にしがない空き巣だった頃の面影はない。

道を歩けば誰もが男を避け、その道の者は頭を下げる。

男はその道の者なら誰もが知る、一角の人物へとなっていたのだ。

金は山ほどあり、女も手と足の指を使っても数え切れないほどいる。

天国というものが存在するのならば、まさに今の自分の暮らしだと、男は本気で考えていた。

ポケットから石を取り出し、それを強く握り締める。

やはりこれは普通の石ではなかった。

幸運を呼ぶ、本当に素晴らしい石だったのだ。

男は大事そうに石を再びポケットにしまうと、夜の繁華街へ繰り出した。

重ねて言おう、石を拾って以来、男は幸運に包まれていたのだ。



――その夜。

人通りのない路地裏で轢き逃げに遭い、不幸な死を遂げるまでは。





                             ●





『……わかりました』

レイスとの通信が終わり、回線が閉じる。

村の外れ駐車された指揮車。

その中でヴァンピール総司令官、高峰は改めて現状を確認した。



術式設置ポイントは警察署エリアを残すのみ。

ジークが手際よく仕事を行えば、20分後には結界を作動させられるだろう。

そうなれば、後は総力戦だ。

ジークに加え、非常時に備え『アハト』も控えさせている。

勝率は……ほぼ100%と言っていいだろう。



「…………」

だが今回の事件は謎が多い。

主なものとしては――この脈絡のない淫魔の大量発生と、死体の変貌だ。

まずはこれについて調べるのが妥当だろう。

「――佐山」

指揮車にいる女に声を掛けた。

銀縁メガネと淡白な表情が印象的な美女――ヴァンピール副司令官、佐山である。

「この村についての情報を可能な限り集めろ。私は砂を回収する者を手配する」

高峰の命令に、佐山は小さく平坦な声で、

「分かりました」

と短く答えると、備え付けてあるコンピュータを使い、情報を集めだした。

情報収集に関しては彼女の方が上だ、この場は任せておいて問題ないだろう。

そう判断し、高峰は回収班の編成に取り掛かった。



                             ●



血風が舞う。

炎のように波打った長い刀身、十字架のような鍔に埋め込まれた紅い宝石。

魔剣『ダーインスレイヴ』が振るわれるたび、警察署の廊下に淫魔達の断末魔が響いた。

その断末魔に交じり、

「クハハ、ハハ――ヒャーーーーーハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

耳障りな笑い声が響き渡る。

逃げ惑う淫魔達の背後にその姿はあった。



漆黒のタクティカルベストを身に着けた長身痩躯。

顔の半分を覆うゴーグル。

そしてローマ数字の『W』が刻印された銀の篭手。

魔剣の所持者にして、Sランク指定者――『不死者(ノスフェラトゥ)』ジークである。



魔性とはいえ、美しい姿の女達を無残かつ無慈悲に切り裂いていく。

その血に染まった狂笑は、まさに悪鬼さながらであった。

「ああああぁぁぁぁ!」

斜め後ろにあった扉を破り、1人の淫魔がジークへと飛び掛る。

完全に死角を突いた攻撃。

――しかしそれも無意味。

「ヒャハ――」

振り向くと同時に魔剣が一閃し、淫魔の体を両断した。

その動きは斬られた淫魔自身ですら見惚れるほど、鮮やかで自然なものであった。

「何それ、俺様の不意を突いたつもり? 死角突いただけで勝てるとでも思った?

俺様を不意打ちしたけりゃ、5倍ぐらい早く動けないと」

頬に付いた返り血を一舐めし、再び逃げる淫魔達へと振り返る。

残る数は4体、距離は70メートルほど。

意外とスピードは速いが、本気で追いかければ8秒で全員切り刻めるだろう。

だが、それではダメだ。

このエリアにいた淫魔の数を見る限り、リーダー格の者がいるはず。そいつの居場所を聞き出さなくてはならない。

まずは……やつらの足を止めよう。

そう判断し、ジークは手に持った魔剣を逆手に持ち変えた。

瞬間、鍔の宝石が禍々しく輝き、刀身から漆黒の炎が迸る。

「おいおい、そんな本気出すなよ。それじゃ、尋問する前に喰い尽しちまうだろ?」

苦笑しながら宝石を撫でる。

すると炎は勢いを弱め、刀身に揺らめく程度になった。

「よしよし、それでいい。心配すんな、これが終わったらたらふく食わせてやるからよ」

ジークの言葉に答えるように、宝石が点滅する。

それ見届けると、ジークは改めて魔剣を握り締め、腰を落とした。

まるで獲物を狙う猛獣のように獰猛で、洗練された姿。

相手の喉笛に噛み付こうとする獣の如く身を引き絞り、

「喰らい尽くせ――」

間違って殺めぬよう狙いを定め、渾身の一撃を――



「人間ごときを相手に逃げ回るとは何事です」



放とうとした瞬間、新たに響いた声にその場に居た全員の動きが止まった。

立ち止まった淫魔達。

その視線は彼女等の脇にある通路――

ジークからは死角となった場所に釘付けとなり、表情が恐怖に歪む。

「レ、レイア様! い、いえ、違います、これは」

「言い訳は結構」

パチン、と指が鳴る。

瞬間、淫魔達の体が燃え上がった。

1秒すら掛からず、骨も残さず灰へ変わる淫魔達。数秒遅れ、コツコツという足音。

自らの同胞を殺害した新たな淫魔。

鮮やかな真紅のイブニングドレス姿の美女が通路から現れた。

「あー……御宅がこのエリアのリーダー?」

とりあえず聞いてみる。

狙っていた獲物が死んだため、すでに先ほどの構えを解き、魔剣の炎も霧散しているが油断は一切していない。

身に纏う魔力を見る限り、今までの奴らとは別格。

おそらく中級か……下手をすると上級に属する淫魔だ。

「ええ、その通りです。私はこの区画の管理者『レイア』といいます」

どうやら当たりだったようだ

「そっか、じゃあ大人しく死んでくんない? 楽に死なせてあげるからさ」

「ふふ、面白いことを言いますのね。でも、ダメです。私の仕事は貴方のような侵入者の排除ですから」

「ふーん……」

レイアの言葉にジークはつまらなそうに唇を尖らせ、

「じゃあ、苦しみもがいて死んでくれ」

狂笑を再び浮かべると、一足でレイアの懐まで踏み込む。

「ヒャハ――」

切っ先が胴を両断しようと迫る。

しかし、レイアの回避のほうが一瞬早かった。

まるで宙を舞うかのように後方へ跳ぶ。

「せっかちな人ね」

クスリと笑いながら、鮮やかに着地。

数メートルの跳躍にもかかわらず、ドレスをまったく乱さないところは流石だ。

すぐに追撃しようとするジークだが――



「ところで――この国の主流は火葬で宜しいですよね?」

言葉と共に、細い指先がジークに向けられる。

「なに?」

追撃をすぐさま取り止め、ジークは勘に任せるまま後方へ跳んでいた。

瞬間、レイアの指先からバスケットボール大の炎弾が放たれる。

「――ッ!?」

目も眩むほどの赤い炎光。

炎弾は大気を飲み込み膨張、加速しながらジークの顔面へと迫撃し――

「シャ――!」

着地と同時に振るわれた魔剣に切り裂かれ爆散した。

「魔術……、それも詠唱を省略してこの威力かよ……」

「気に入ってもらえましたか?」

にこやかに笑うレイア。

彼女の放った火球は四散したにも拘らず、尚も燃焼物の無い廊下で燃え続けている。

「制御も完璧。恐れ入るね」

出すのは簡単だが、制御の難しい炎の魔術をここまで完璧に制御する魔族を見たのは初めてである。

「お褒めに与り光栄ですわね。さて、これからどうします? 大人しく降参するのでしたら、優しく食べてあげますけど?」

ルージュの引かれた唇を、潤いのある舌で舐める。

並みの男ならそれだけで股間を隆起させてしまうほどの妖艶な仕草だ。

「それは素敵な提案だな」

ジークの口から漏れる肯定の言葉。

しかし、それには続きがあった。

レイアの指先に対抗するかのように、ダーインスレイヴの剣先をレイアへと向け、言い放つ。

「――だが、アンタと殺し合う方が楽しそうだし、殺した後の返り血を浴びた方が気持ちよさそうだ。謹んで断らせてもらうぜ」

流石のレイアも気分を害したのか柳眉がわずかに歪む。

「そう、では消えなさい」

広げられた五指それぞれから火球が生み出され、一斉にジークへと襲い掛かった。



                             ●



手配した隊員の手によって、変貌後の砂と、現場の状況が書き込まれた書類が運び込まれた。

書類に書かれた内容を瞬時に覚えると、高峰はアタッシュケースに詰み込まれた砂を手に取り調べ始める。

砂自体は何の変哲もないものだ。間違っても自然に淫魔と化す物ではない。

となると可能性は1つ。

この事件の首謀者自らが、何らかの術を施して淫魔へと変化させたということだ。

これで砂への変貌の理由は解けた。

淫魔の魂が失われると同時に体を構成する術が崩壊し、魔力を霧散させながら砂に戻る、という仕組みだ。



だがここで新たな謎が生まれる。

なぜ、首謀者はわざわざこんな面倒なことをしたのだろうか?

砂から魔物を創り、さらに高度な思考能力を持たせるなど、魔力の無駄遣い以外の何者でもない。

多少時間は掛かるが、直接魔界から淫魔を呼び出し配下にした方が数倍効率がいい。

一体どういう意図があって――

「やはり淫魔への尋問と砂化する過程の調査も必要だな。――む?」

高峰の指が砂の中に紛れ込んだ異物に触れた。

砂の中から取り出して、付着した砂を払う。

小石ほどの大きさの異物。

それは人間の肌色をしたゴム片であった。

「“サナギ”、“クラマ”」

部下の名前を呼ぶ。

呼ばれた人物、共にDランクの隊員2人がすぐさま高峰いる指揮車に駆けつけた。



ソバカスの残る幼い印象の少女と、逆に背が高く切れ目の大人びた少女。

前者が医療班所属のサナギで、後者は先ほど砂の回収を行った隊員の1人、作戦班所属のクラマである。



「サナギ、3分以内にこのゴム片を元の形に復元しろ」

「3分ですか!? 無理ですよ、せめて5分はもらえないと」

「駄目だ。大まかな形だけでいい、後2分54秒以内に完了しろ」

「……はいはい、わかりましたよ!」

一方的な命令に、もはや折れるしかなかった。

引っ手繰るようにゴム片を取ると、サナギは指揮車を出て行った。

それを見送り、続いてクラマへと向き直る。

「そしてクラマ、君への命令だが……」

高峰はそこで一度言葉を切り、



「大人しく死んでもらおうか」



高峰の手がクラマの細い首筋に絡みつく。

「な、何を!?」

そこまで言うのが精一杯だった。

万力のような力で首が絞められ、クラマの体が片手のみで持ち上げられる。

細身の体からは想像できない、凄まじい力である。

「あ、ぐぅ」

もはや息ができる、できないの問題ではない。

首の骨がミシミシと不快な音を立て、今にもへし折れてしまいそうだ。

死を予感させる苦痛。

しかしそれはすぐに終わった。

突然高峰がクラマの首から手を離したのだ。

「くッ」

地面に体を打ちつけ、鈍痛が走るが、今は気にしている余裕はない。

クラマは体勢を立て直すため立ち上がろうとし――異常に気付いた。

体が動かない。

しかもただ動かないだけでなく、体の節々に鈍痛が響き、肌は床の冷たさ感じている。

つまり自分は――純粋に運動能力だけを無力化されているのだ。

「四肢と首にあるツボに特殊な針を打ち込んだ。誰かが針を抜かぬ限り、動くことは不可能だ」

事も無げに言うと、高峰はクラマの襟首を掴み上げ、投げるようにして椅子に座らせた。

同時にガチャン、という音。

いつの間にそこにいたのか、椅子の背後から佐山が手錠でクラマの手足を椅子に縛り付けていた。

「司令! 一体これはどういうことです!?」

クラマが叫ぶように問う。

しかし高峰のいつも通りの冷淡な表情が変わることはなかった。

「答える必要はあるまい。君自身、すでにその理由を知っているのだから」



クラマの表情が強張った。

「一体何の話を――」

「誤魔化しても無駄だ。入れ替わったのだろう? 砂の回収に行った時に」

「………………」

沈黙するクラマ。

しかし数秒の沈黙の後、重々しく口を開いた。

「いつ気が付いたの?」

変装は完璧、言動も本物のクラマから複写した記憶があるため、ボロは出していないはずだ。

一体いつ、どうやって入れ替わりに気付いたのだろうか?

「貴様が報告書を手渡した時だ。貴様は左手で渡したな?

確かに彼女は左利きだが、書類などを渡す時は右手で渡す癖がある」

おそらく無意識で行う癖などの記憶は複写できなかったのだろう、と付け足す。

「そしてもう1つ、彼女はこの任務の30分ほど前まで、射撃の訓練を行っていた。

そのため微弱ではあるが、髪などに硝煙の臭いが残っていたのだが、任務から帰って来ると臭い消えていた。

以上の2点から、貴様をクラマに化けた淫魔と断定した」

「……よくもまぁ、そんな細かいことまで覚えているわね。貴方この女の恋人か何か?」

「違う。普段から部下の癖などを記憶するようにしているだけだ。

お前達のように入れ替わりを狙う魔物も少なくないのでな」

無論、癖だけではない。

部下全員の身体データや経歴。

皆が知るものから、本人もあずかり知らぬ記録まで、膨大な情報が高峰の脳内に記憶されている。

絶対的な記憶力と、その情報を効率良く利用する頭脳、そして必要に応じて人間を駒として切り捨てる冷徹な判断力。

それこそが高峰がもっとも頼りにしている己の力であった。

だがそれは今回のような場合――敵に対して使われるのは稀だ。

本来これらの知識は、味方である同じ人類に対して使うため蓄えられたものだ。

経歴を調べることで相手の弱みを知り、脅し、利用し、ときには部下として自分に従わせる。

高峰が部下に多くの部下に嫌われ、時に憎悪されている理由である。

「さて、では始めようか。サナギの作業が終わるまでに色々と知っておきたいことがあるのでな」

高峰の言葉にクラマ――に化けた淫魔――の表情が歪む。

「拷問でもする気かしら? でも残念ね、私は命を惜しむつもりはない。

どんな苦痛を与えようと、どんな恐怖を与えようと無駄よ!」

「いや、拷問や尋問は行わない」

「――え?」

意外な言葉に淫魔は思わず唖然とした。

だが、高峰の言葉は続く。

「初めに言っただろう? 『大人しく死んでもらおうか』と。

時間が惜しい今、そんな面倒なことをする必要はないし、貴様を生かす理由もない。

死にながら情報を吐いてもらおう」

言いながら高峰は左手で手前の何もない空間を掴む。

次の瞬間、その手の中に1冊の書が握られていた。

魔方陣が刻まれた皮製の表紙で、かなりの大きさと厚さを持つ書。

それはまさに魔道書そのものであった。

クラマの表情が恐怖に引きつる。

本物のクラマの知識を持つ淫魔は、その書がどういう物なのか知っていたのだ。

書が開かれ、書き込まれた文字、図形が怪しい光を放つ。

それは彼女達、魔に属する者には見慣れた輝き――魔力の光であった。

クラマに化けた淫魔は理解する、

「さて、まずは貴様らの正体から聞かせてもらおうか?」

――自分の命運がここに尽きたことを。



                             ●



それは戦いというにはあまりにも一方的な展開であった。

「逃げ場はもう無いわ。チェックメイトみたいね」

「そうみたいだな。こりゃ困ったもんだぜ」

笑みを浮かべての言葉とは裏腹に、状況は絶望的だった。

床はもちろん、壁から天井に至るまで、辺り一面が炎に包まれていた。

戦いが始まった当初、優勢だったのは驚異的な身体能力で縦横無尽に攻撃を仕掛けるジークであった。

だが、詰め将棋のようなレイアの魔術によって次第に行動範囲を奪われていき、戦況は一変。

もはや炎に侵されていない安全地帯はジークの今立つ、1メートル四方の狭い空間のみだ。

人間を瞬時に灰にする獄炎の檻。

完璧に詰みの状態である。

「素晴らしい動きでした。稀人としての能力は身体能力の強化ですか?

鍛え抜かれた肉体と、歪みはあるものの強固な精神、貴方の精はさぞかし美味でしょうね」

レイアの指先から炎が生まれる。

炎は形を変え、鏃のような円錐形へと変化した。

温度は今までの数倍。

10メートル近い距離があるというのに、ジークの前髪がチリチリと焦げる。

アレを喰らえば……人間など灰も残らず蒸発してしまうだろう。

「最後のチャンスです、大人しく降参してください。貴方ほどの精を持つ人間をただ殺すのは惜しいです。

大人しく降参してくれるのであれば、死ぬ前に天国を見せてあげますから」

焼き殺すのではなく、食い殺したいと言う淫魔。

その言葉はおそらく真実であろう。

そして最後のチャンスというのも。

「さあ、選んでください。炎に焼かれて果てるか、私に精を吸い尽くされて果てるか」

レイアの問い。

それに対しジークは――





A.戦う

B.降参する






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