ジェラ 耳掻き編


 

「しかし…暇だ…」

灼熱の路上で、俺はひとり愚痴た。

日本で、いや世界で唯一の耳掻き屋。それが俺だ。

元々耳掻きの腕には自信があったし、最初こそは話題になりマスコミにも取り上げられた。

しかしまあ、一年も経てばこの様だ。いくら気持ちよかろうと自分で簡単に出来ることをわざわざ路上の俺んとこまできてカネだしてやってもらうなんて物好きで贅沢なヤツは、滅多にいないってわけだ。

だが貯金も底を尽きつつある。これから一体どうしようか、あの糞みたいな職場に戻ろうか…

下を向き、そんなことを呆然と考えていたときだった。

「すいません」

女性の声に俺は頭を上げた。

 

メイド…?

彼女の着ている黒地に白のエプロンドレスを見て、俺はフィクションに出てくる職業を連想した。

しかし…思わず見惚れるやさしい笑顔。

エメラルドグリーンの瞳がやわらかく輝き、膝あたりまである赤い二股の三つ編みがまたかわいらしい。しかし足は地面スレスレまであるロングスカートに阻まれて見えないな。この糞暑い中、あんなスカートでよく平気だな。ん、胸は大きいというほどではないが、強調する服のデザインがまた…

「あの、耳掻き屋さん、ですか?」

「あ、はい、いらっしゃい……ませ。」

思わず舐め回すように見ていた俺は、すぐさま頭を接客モードに切りかえる。

「耳掻きですか?普通コースなら一回なな……」

「あ、いえ。私ではないのです。主人に頼まれまして…」

…主人?

ピンとこない。が、それを察知したのか彼女が続ける。

「はい…私がお仕えしている方です」

なんと。と、…驚いたが意外ではなかった。

妙に気品漂うこの感じ、笑顔ではあるが媚びたようには感じられない。これが本物のメイドの空気だとすれば納得する。

しかしこんな美人さんを雇うとはなんとうらやましい…

「あ、あの、そういうわけなので屋敷まで少しご足労願いたいのですが…よろしいでしょうか?」

「あ。ああ、いいですよ。行きましょう」

どうせここに行ても客なんて来ないのだから…と言いかけてやめた。

出張料とか言って少しふんだくれるだろう。なにせメイドを雇うほどの人物、さぞかし持っているに違いない…

思わずほくそ笑みながら、俺は彼女の後に付いて歩き出した。


案内されながら、俺は不安になっていた。

どんどんと細い路地に入ってゆく。Tシャツでおっさんが平気で歩いているような生活の匂い漂う道。

この先に屋敷なんてものは無い。あるのはたしか錆びたトタンで出来たボロい長屋ぐらいだったはず。

ん? 俺は何故そんな長屋のことを知っているんだ…?

疑問に思っている間に辿りついたのは、まさに長屋だった。

地震が来たら確実に崩れそうなここ?

心配になった俺に向かい、彼女はその一室を指差した。

「こちらです」

嫌な汗が背中を流れた。

 

彼女がノブを回すと、がちゃりとドアが開く。

ボロ長屋には相応しくない、一見してわかるほどに丁寧に掃除された和室。

そこにひとりの少年が座っていた。

「ご主人様、お連れいたしました。」

「…ありがとう、ジェラ」

…いや、本当に少年だろうか。

高い声に少々の丸みをおびた肩と、中性的なかわいらしい顔。

着ていたのが制服の夏服でなければ少女にも見える容姿だ。以前はもっと男性的だったような…?

いや、以前ってなんだ?

さっきからどうも変だ。

そもそも主人がこんな中学生ぐらいの少年だってのもおかしいのに、どこか頭の隅で理解出来てしまったのだ。なんなんだ、この変な違和感は…

「では、お願いいたします」

彼女の声に俺は我に返る。

考えてもしかたがない。俺は仕事を始めることにした。


「…ああ、やっぱりプロだよ。ジェラより断然うまかった。」

「ははは、当然です。」

少年の率直な感想に、俺は胸を張る。

「ジェラもやってもらいなよ」

「いえ、私は必要ありませんので…。」

「ああ、そりゃそうか。でもさ、必要はなくてもきもちいいんだよこれが…」

なにやらごちゃごちゃと話しはじめる二人。なにやら不穏な空気を感じる。

「あの、お代を…」

誤魔化されないうちに口を挟む。

たまったものではない。

俺は腐ってもプロなのだ。明日のマンマの為に金を貰われば話にならない。

「…そうですね。」

女は少年に向かい、なにやらサインを送る

「ああ、ジェラ、『教えて』もらうんだね。わかった、ちょっと散歩してくる」

がちゃりとドアを開け、少年は出ていった。

 

俺はどかんと座り、ちゃぶ台を平手で叩く。乗っていた茶が揺れる。

「…俺は金を払わないヤツにこの技術を使うつもりはないし、ましてや教えるつもりもないのだが。」

流石に未成年のいる場では強くは言えなかった。

が、彼も出ていったことだ。俺は態度を硬化させる。

「もちろん代価はお支払いします。ただ…」

「ただ?金は無いっていうのか?」

「はい。」

ドカン

俺はもう一度ちゃぶ台を叩く。

「アンタ、馬鹿にしてんのか。なんだ、身体で払うとでも言うつもりか?」

ちゃらけた冗談のつもりだったが、しかし女は間髪入れずに答えたのだ。

「はい、そのとおりです。」

すっくと、女が立ちあがる。

「…それでは駄目でしょうか?」

メイドの目がきっちりとこちらを見据える。

…本気、なのか?

綺麗なメイドが体で払うなんて、こんな夢のようなことがあるのか?

「…ふ、ふん。無いってんなら仕方ないな。」

とは言ったものの、内心では喜び転げ回りたい気分だ。

こんな美人の女性に奉仕してもらえる。据え膳食わねば男の恥、男なら誰もがそう言って飛びつくはずだ。

「では、あちらへ…」

くすり、と女は笑いながら、奥の部屋へと案内した。

 

「こちらが私の部屋でございます」

そこは小さな部屋に不釣り合いなダブルベッドが真ん中を占拠しているだけの質素な洋室だった。

「…おおきなベッドだな。」

「主人と添い寝させていただくこともありますので」

……まったくもって、うらやましい話だ。

だがしかし、今だけはそのうらやましい環境を俺も味わうことが出来るのだ。そう、存分に。

 

「そこにお立ちください。…お口でさせていただきます。」

俺の股間へ彼女の腕がすらりと伸び、ゆっくりとチャックを降ろすと、手慣れた手付きで俺のものをやさしく取り出す。

「…よく、やっているのか?」

思わず野暮なことを聞いてしまう俺。

「……」

彼女はなにも答えず、挨拶がわりのキスのように頭の先をぺろりと舐める。

そして彼女の口が俺のふぐり側の根本へと移動し、ちょんと舌を当てそのまま裏を蛞蝓のように登ってゆく。

軽い刺激だが、期待している分とメイドというシチュエーションが心臓を強く打ち鳴らしてゆく。

ぬるぬるとした粘膜が亀頭へと差しかかる瞬間にはおもわず歯を喰いしばる。

そして蛞蝓が頂点へと辿りついたとき、はんむりと、亀頭が彼女の口内へ飲みこまる。

「くっ…!」

暖かい粘液へと包まれる刺激に、思わず声を上げてしまう。

そのまま女は男の頭を転がすように舐めはじめる。

「ぬ、くぉっ…」

俺は抑え切れず声を出す。

敏感なカリ口をやわらかい肉が撫で回し、みるみるうちに男根が固くなってゆく。

 

固く勃ちきったところで、女はさらに根本まで貪欲にくわえこみ始める。

奥へ、奥へと先が進み、ずるり、ずるりと敏感な部分が口内の粘膜で刺激される。

本来なら先端が喉を刺激するはずの状況だが、女は苦しみ嗚咽する素振りも見せない。

それどころか飲まれるにつれ、俺のモノが伝えてくる感覚がどんどんと変化してゆく。

唾液の量と粘性が上がり、つるつるとすべる刺激が強くなる。

平らなはずの口蓋に、細かくやわらかなヒダが大量に発生する。

いつの間にか邪魔な歯が消え、さらに口全体がやわらかく変化し隙間なくぴっちりと俺のものを包みこむ。

奥に進むたびに、どろどろとした粘液を潤滑剤に細かなヒダがさらさらと俺のものを刺激するようになる。

よく出来たオナホにでも入れたかのようなこの感覚。

「ふっ…は…あは…あああ…」

気を抜けば射精しそうな快感にあられもなく声を上げる。

しかし一体俺はどこに入れているのか…

同時に恐怖も湧きあがり、俺は女の顔を掴み思いっきり腰を引く。

じゅるり

恐怖から起こした行動は、俺に強烈な快感を与える。

無限とも思える細かいヒダが俺のカリを撫でてゆく。

その刺激は限界を突破させた。

「ぐあ、あぁぁぁああ!」

びくん、びくん、びくん

女の口から逃がれた瞬間、彼女の顔に向かい盛大に白濁液を噴射していた。

 

「たくさん、出していただけましたね」

あまりのことにへたんと座りこんだ俺に、女はにこやかに告げながら、顔に付いた白濁液を指で掬いとり口の中に入れる。

「くす、美味しいです。」

>恐怖はどこへやら、その笑顔がたまらないほどにかわいらしかった。

「…ありがとう。」

ピントのズレた返事をしてしまう。

「って、違う! な、なんなんだ今のは! どうなってるんだよアンタの口!」

我に返り、立ちあがって詰め寄る俺。

しかし女はあっさりとこう返した。

「…ああ、わたくし、人間ではありませんから。」

…ぞっと、冷たいものが背筋を走った。

 

「…ど、どういうことだ。」

「そのままの意味です。」

「…もも、目的は!お、おおお、俺をどうしちまうつもりなんだ!」

「そんなに怯えないでくださいませ。貴方に危害を加えるつもりはありませんから。だいたいもし貴方に危害を加えるつもりなら、先程噛み切ってしまうことだって出来たではありませんか。」

「………」

確かにその通りだ。

それにこの女から敵意を感じたことは一度もない。

しかし言ってみて気付いたが、このやり取り、いつかどこかで同じことを…

思慮に入りそうな俺に、彼女は続ける。

「しかし、もし私のようなものとこれ以上関わりたくないと申されるのであれば、どうぞこのまま立ち去ってください。」

「…なにも、しないのか。」

「ええ。」

笑顔で答える彼女に安心を感じる。

「ですが…私としてはまだ十分な対価を支払っていないと考えております。もし続きを楽しみたいのでしたら、この身体で満足いただけるまで楽しんでいただきます。」

『続き』の言葉に思わず生唾を飲む。

「先程のように口がよろしいでしょうか? それとも…ふふふ。」

女は、右手でスカートの上から股間を撫でながら言う。

「こちらの方が宜しいのでしたら、そうさせていただきます。ヒトとは構造が違いますがお口以上に楽しんでいただけるでしょう」

精子にまみれたままの顔で妖艶に笑う女。

俺は思わずごくり、と唾を飲み、そしてすぐに恐ろしくなり首を振る。

…相手は化け物だってのに、なにを考えているんだ俺は。

 

「さあ、どうなさいますか?」

 

1. もう帰る

2. 口で

3. 下の口で

4. 「もちろん他の手段でもかまいません。どんなことでもやらせていただきます。準備に時間がかかるかもしれませんが…。私に不可能はあんまりありませんから。」

 


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