アルベルティーネの研究室


 

 「という訳で、特設コーナーだ」

 アルベルティーネは、唐突に白衣を翻して言った。

 「は、はぁ……」

 僕は、ただひたすらに恐縮する。

 「突然だが、我がローゼンクロイツ研究所は研究費用の捻出に困っているのだ。

  そこで、人間界におけるアダルトグッズのネット販売を手伝うことにした」

 「は、はぁ…… 要はアファリエイトって事ですか?」

 「何でも流行の言葉で片付けようとするでない、愚か者が――」

 アルベルティーネは軽く肩をすくめる。

 「――とは言え、まあ実際のところアファリエイト以外の何物でもないがな。

  単に広告を貼るだけじゃ忍びないし芸も無いので、いっそ企画にして特設コーナー作ろうかなって」

 「は、はぁ……」

 この気の抜けた返答も、今日で何度目だろうか。

 アルベルティーネは人差し指を立て、軽く左右に振る。

 「ほら…… アファリェイトの代表格である出会い系とか、明らかに当サイトと毛色が違うだろう。

  どうせ出会えるのは、人間の女しかいないんだしな」

 「そうですね。モンスター娘さんと出会える確率は皆無でしょう」

 「あんまり、変な広告をベタベタ貼るつもりもないしな。そこでお勧めしたいのが、オナホールだ」

 「オナホールというと、ペニスを挿入する為の男性用自慰器具ですね」

 「うむうむ、その通り」

 アルベルティーネは、腕を組んで頷いた。

 「とは言え、適当なところを勧めてしまっては我が研究所の責任問題だ。そこで、私が勧めるのはここ!!」

 そして、白衣のすそからスチャッと広告を取り出すアルベルティーネ。

 

 

 

 「は、はぁ…… でもアダルトグッズのネット販売業者って、アヤしい匂いがぷんぷんしませんか?」

 「ふふ、君ならそう言うと思ってな。では教育してやるか」

 アルベルティーネは懐からリモコン(通称:アルベルリモコン)を取り出し、ポチッとスィッチを押した。

 床から、ウィーンと黒板がせり上がってくる。

 「珍しく上手くいきましたね。今回はボケなかったんですか?」

 「毎回ボケにゃならんのか? 関西人か、私は……」

 そう言いながら、白衣の少女は指示棒を取り出して講義スタイルになった。

 ちんちくりんの講師は、偉そうにふんぞり返りながら告げる。

 「では、君が懸念している事を言ってみろ。全て予想済みだがな」

 「じゃあ、お言葉に甘えて遠慮なく……」

 僕は、矢継ぎ早に質問した。

 

 そもそも、そういうネット通販業者って信用できるの? 代金だけ取って、商品送ってこないとか?

 個人情報の流失は大丈夫? アダルトグッズ買ったってのが実名入りで流出したら、目も当てられないんじゃ?

 一度ネット通販で買ってしまうと、次から宣伝のメールが送られてきたりとかしない?

 商品が宅配された時、同居人にバレたりしない?

 

 「――まあ、こんなところか」

 僕の全ての質問に答え、アルベルティーネは軽く一息ついた。

 「何度も言ったが、妙なところを紹介したのでは私の名にキズが付くからな。絶対安心、信頼確実なのは保証しよう。

  まして、風俗運営申請までしているショップだ。いきなりドロンしたりする可能性も皆無」

 「なるほど。で、このコーナーでお勧めするのが……」

 「さっき言った通り、オナホールということだ」

 アルベルティーネは頷いた。

 「では次に、君のオナホに対する質問に答えようか」

 「じゃあ、遠慮なく……」

 僕は先程のように、次々と質問を並べた。

 

 オナホールって、マニアみたいな人しか使わないんじゃないの?

 オナホールって、高いの? 安いの?

 オナホールって、本当に気持ちいいの?

 

 「これで、だいたい分かったか?」

 アルベルティーネは、指示棒をパチンと畳んだ。

 「では、具体的な企画の解説に移ろうか――」

 「ぶっちゃけた話、このページから紹介したショップに飛んでグッズを買えば、その利益がこの研究所にも流れるんですよね」

 「本当にぶっちゃけたな。まぁ、そういうことだ。つまり、諸君のアダルトグッズ購入がこの研究所への投資になる訳だな」

 「投資か…… モノは言いようですよね」

 僕はため息をついた。

 「ええい、黙れ。君、この企画を潰したいのか?」

 アルベルティーネは僕をぎろりと睨む。

 そして彼女はチョークを手にすると、黒板に『とう明性』と大きな文字を書いた。

 「この企画のテーマは、『透明性』!! 月ごとの研究所への投資金額を、毎月しっかり発表していく!! そして――」

 そこで言葉を切り、ニヤリと意味深げに笑うアルベルティーネ。

 「この研究所には、君を搾ろうにも使い捨てのオナカップしかない状態だ。

  しかし投資を得る事で、徐々に研究所は発展していく。搾精施設も豪華になっていくという訳だ!!」

 「あの〜 それで、毎月搾られるのはひょっとして僕……?」

 「当然だろうが。今、助手兼実験体は君しかいないのだからな」

 「や、やっぱり……」

 僕は微かに喜びつつもがっくりと肩を落とす。役得なのだが何なのだか、良く分からない。

 

 「でも、ショップの購入者情報がこの研究所に漏れてしまう事を危惧する人がいるんじゃないですかね?」

 「その心配は無用。私に通達されるのは、この特設コーナーからショップに入店した人達が購入した金額のみ。

  購入者の住所氏名などのプライバシー項目はもちろんのこと、何を買ったかすら告知されないのだ」

 「アファリエイト先にも、絶対に顧客情報は漏らさない…… これは、高い信頼性の逆証明でもありますね」

 僕は大いに納得した。

 結局のところ、この研究所に伝わってくるのは投資金が幾らだったのかだけか。

 その投資金も、毎月必ずこのコーナーで公表する、と。

 

 「――さて、一つだけ注意点がある」

 アルベルティーネは、ビシッと指示棒を僕に向けた。

 「当サイトのトップ、もしくは特設コーナーにあるバナー(看板)からショップに飛んで購入する必要があるという事だ。

  それ以外の手段で該当ショップに行っても、システム上の問題で我が研究所に投資したことにはならない」

 「例えば、いったんショップのアドレスを『お気に入り』に登録してから店を出て、再来店する場合とかはダメなんですね」

 アルベルティーネは腕を組んだままこくこくと頷いた。

 「その通り。当サイトのリンクからショップへ→購入というプロセスでないと、投資が成り立たんのだ」

 「まあ、当然といえば当然ですね」

 僕は納得した。そのプロセスを踏んで初めて、投資が成立する訳か。

 

 「説明は以上。なお、この特設コーナーでの研究所設定と、百覧でのショートストーリーにおける研究所設定は全くの別物だ。

  まあ、あっちも研究費が不足気味には違いないがな」

 「要は、『科学者アルベルティーネ』の項のショートストーリーは、この企画とは関係なく続けていくという事ですか?」

 「うむ、その通り――」

 そう言ってアルベルティーネは懐からカップを取り出すと、にやりと笑った。

 あれはまさか、使い捨てのオナカップ……!?

 「では、6月分の搾精を始めようか。今月は無収入なので、コレだ」

 「え……! ちょっ……!?」

 椅子からするすると皮ベルトが伸びて、僕はたちまち束縛される。

 

 「ふっふっふ…… では、搾ってやるか……」

 オナカップを片手に、僕の前に立つアルベルティーネ。

 彼女は、嗜虐的な笑みを浮かべた――

 

オナカップでの搾精へ

 


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