辰飼牧場での牧畜体験
その大牧場の主は、意外にも可憐な令嬢だった。
僕の所属するゼミの教授、その亡き恩師の一人娘――辰飼七葉という女性は、膨大な敷地を誇る牧場を相続したのである。
日本でも五本の指に入るという畜産学教授の愛娘だけあり、その知識も腕前も一流だとか。
大学二年生の僕と同い年でありながら、彼女は一流の牧場主として活躍していたのである。
とある畜産大学に通う僕は、そんな辰飼牧場へと見学に向かうことになったのだ。
せっかくの日曜日なのに、ゼミの繋がりなんかで潰さなければいけないなんて――憂鬱だ、と考えていた。
あんな体験をするとは、想像もしなかったのである。
「あの、すみません。みんな、体調を崩してしまったみたいで――」
ぽかぽかと日差しの温かい日曜日。
僕は恐縮しながら、七葉にそう言い訳をせざるを得なかった。
彼女と面識のある教授が風邪を引いたのは事実だが、他のゼミ生7人は全員サボり。
せっかくの日曜に、正式な実習というわけでもない牧場見学会など行っていられるか――つまりは、そういうことらしい。
律儀にも牧場に足を運んだのは、なんと僕一人だったのである。
おかげで、なぜか僕が初対面の牧場主に頭を下げるハメになってしまったのだ。
「いえ……どうぞ、お気になさらず。体の調子を崩しやすい季節ですからね」
こんな失礼な事態にもかかわらず、七葉はおしとやかな笑みを見せた。
「……」
僕は、思わず彼女の容姿に見とれてしまう。
いかにも学者めいた、非常に理知的な目。
才色兼備、眉目秀麗――そんな言葉をいくら並べても足りない、端整な顔。
その体を包むのは、きらびやかな服装などではなくカーキ色の酪農服。
綺麗な黒髪は、作業の邪魔にならないよう頭の後ろでくくられている。
酪農服に身を包んだ令嬢――その姿は、意外なほどに堂に入っていた。
こんな女性が講師になってくれることを事前に知っていたら、誰もサボりはしなかっただろう。
真面目に足を運んだご褒美なのだろうか――そう思うほどに、七葉は魅力的な女性だった。
「では、こちらが第一牧舎になります」
七葉が導いた先は、いかにもノスタルジックな牧舎。
木製の敷居で仕切られ、牛が十頭ほど並んでいる。
少し奥には鶏小屋も見え、木枠で隔たれたところに数羽が放たれているようだ。
様々な鳴き声が入り交じり、やや騒がしくもある。
「小学生や中学生の牧場見学なら、餌やりや乳搾りなどを実体験してもらうのですが……
相手が名門畜産大学の学生ともなれば、子供騙しというわけにもいきませんね」
「あ……そんな、恐縮です」
そこまで、自分は大層なものでもない――それこそ、餌やりや乳搾りで十分なのに。
「では……家畜の人工授精について、実演込みでレクチャーしましょうか。大学で、人工授精に関する講義を受けたことは?」
「えっと……家畜人工授精論IとIIで、『優』を取っています」
「まあ……それでは、多くを語るまでもありませんね。
現代の牧畜において、人工授精技術は欠かせない――それは、すでに教わったと思います。
ここでは、具体的な方法について見ていきましょう」
「どうも……学ばせていただきます」
家畜の人工授精――滅多に見られるものではない、貴重な体験だ。
この道に進もうと思っている僕にとっては、非常に興味深い。
「まずは、牡から精液を採取する作業が必要です。そこから実演していくとしましょう。
ちょうど、今日のうちに搾ってしまうつもりだった子がいますしね。ふふっ……」
「精液採取ですか……」
「ええ、少し待っていて下さい。種牛を連れてきますね」
人工授精を行うため、家畜の精液を搾る――それは別に、現代においては特別なことではない。
しかし七葉のように可憐なお嬢様がそれを行うとなると、相手が家畜とは言え淫靡さを感じてしまう僕だった。
そして彼女は、立派な体格をした一頭の牡牛を牛舎から導いてくる。
これが、種牛――良い血統の牛なのだろう。
その血統の良さゆえに、散々に精液を搾り取られる運命の牡牛。
それはとても哀れな存在のように思えるが、搾られる相手が七葉だったとしたら――
僕の思考が妙な方向に行っている間に、七葉は牛を僕の近くにまで連れてきた。
「どうです? 大人しそうな、いい子でしょう。それでいてたくましくて、雄々しくて……」
くすり……と、七葉は艶やかな笑みを見せる。
牡牛は七葉が立ち止まると同時に、その場で大人しくなっていた。
彼女に対して、完全に恭順の意を示しているかのようだ。
「次に、採精の道具ですね……」
七葉がその場から離れても、牡牛はその場に大人しく待機したまま。
まるで、しつけの行き届いた犬のようだ。
「まずは、この台……すみません、そちらを持って下さいませんか?」
「あ……はい」
七葉が牧舎隅から引きずり出そうとしている台――それに手を添え、運ぶのを手伝う。
「すみません。普段は、近くの女子大の学生達をバイトに雇っているのです」
「そうなんですか……」
やはり、一人では仕事に限界があるようだ。
七葉と二人で牧舎中央に運んできた台は、ちょうど牛ほどのサイズ。
首のない木馬のような、跳び箱のような見慣れない器具だ。
「これが、擬牝台。その名の通り、牝牛を模した台ですね。
牡牛はこれを牝牛だと思い込み、交尾の姿勢に入ってしまうわけです」
「なるほど……」
なにやら、随分と間抜けな話に思えなくもない。
さらに七葉は、40cmほどの長さの筒のようなものを取り出した。
「これが、人工膣筒。この中に牡牛のペニスを挿入させ、射精させて精液を採取する道具です」
「……」
七葉の口から、「射精」とか「精液」といった言葉が上る度に妙な気持ちになってしまう。
そんな僕のよこしまな心を知るよしもなく、七葉の解説は続いた。
「家畜が射精に至る刺激は、その種類によって違います。
例えば、豚は圧迫刺激による射精。牛は、基本的に温度刺激による射精ですね。
この人工膣の外筒の中は、ゴム外筒とゴム内筒の二重構造になっているのですよ。
その間にお湯を注ぐことで、内部の温度を調整することができます」
七葉は側にあったポットから、その器具の中へとお湯を注いでいく。
「だいたい、膣内の温度……摂氏40度から45度程度が理想ですね。
またゴム内圧に空気層が残り、それが圧力の刺激となります。
この温もりと圧力に心地よさを感じ、牡牛は射精に至るわけですね」
七葉の顔に浮かぶ、やけに艶やかな微笑。
家畜を射精させるための器具を片手に、にっこりと微笑む酪農服姿の令嬢――
その姿は、下半身に響くほど魅惑的だった。
「では、さっそく作業に移りましょうか。
ほらほら、こっち。とっても気持ちいいですよ……」
七葉に導かれ、種牡牛は従順に擬牝台の方へと進む。
あのような人工膣で陰茎を刺激され、精液を搾り取られる――それだけの役割。
その唯一の役割を今、行使されようとしているのだ。
「ほら、よしよし……」
擬牝台の前に辿り着いた牡牛の腰を、優しく撫で回す七葉。
まるで、ああして発情させているかのようだ。
七葉の愛撫に促されるように、牡牛は擬牝台へとのしかかっていた。
「ふふ……この子は、いわゆる童貞です。
一度でも交尾を体験してしまうと、この擬牝台など見向きもしなくなってしまうのですよ。
だから……種牛は、死ぬまで童貞なんです」
そう言いながら、七葉は右手の人工膣を牡牛の腰へと伸ばしていた。
そして、人間のものよりはるかに長いペニスへと人口膣筒を被せてしまう。
ガクガクと、牡牛は腰を揺さぶり始めた。
しかし、七葉はその荒々しい動きに翻弄される様子はない――むしろ、七葉の方が翻弄しきっているように見える。
「牛の一突き――という言葉があります。牛の交尾は驚くほど短く、交接するのはほんの一瞬なのですよ。
人工膣の場合でも、その内温や圧力が合えば、一瞬で終わらせることができます」
そんな七葉の言葉を証明するように――挿入して数秒も経たないうちに、牡牛の前足がじたばたと動いた。
「ふふ、射精していますね……人工膣の中は、ずいぶんと心地よかったようです」
涼やかに微笑む七葉に人工膣をあてがわれ、その中へと精液を注ぎ込む牡牛。
射精が終わる頃合いを見計らい、七葉は人工膣を牡牛のペニスから離した。
たったこれだけで、もう精液採取は終了。職人じみた七葉の手腕で、あっという間に終わってしまったのだ。
牡牛もどこか満足げな動作で、擬牝台から離れたのだった。
「気持ちよかったですか? また来週、搾ってあげますからね……」
仕事を終えた種牛に優しく話し掛けながら、柵の内側へと導いていく七葉。
そこへ牡牛を放し、すぐに七葉はこちらへ戻ってきた。
僕はというと、生理的理由で若干ながら前屈み気味になってしまっている。
「種牛の寿命は、そう長くはないのです。何度も何度も精液を搾り取られてしまうのですからね――」
七葉によって、何度も精を搾り取ってもらえるなら――寿命が短くても、種牛になってみたい気さえする。
そんなことを考えている僕に、七葉の顔が間近まで近付いてきた。
「あら、体調でも悪いのですか……?」
不自然に前屈みの僕は、腹痛で苦しんでいるように見えるのだろう。
「いえ……ちょっとお腹を壊したみたいで。でも、大丈夫です」
「それは良かった。ではもう少し、人工授精のレクチャーを続けましょう。辛ければいつでも言って下さいね。
ちょうど、この子からも精液を採取しなければいけないので……」
次に七葉が連れてきたのは、一羽の牡鶏。
トサカも羽振りも元気がよい、さぞかし立派な遺伝子を持つと思われる鶏だ。
いつの間にか七葉は、薄手の手袋をはめていた。
「鶏の精液を採取する場合は、このようにします。
一人では難しい作業なので、通常は二人で行うのですが――まあ、私は一人で出来るもので」
驚くほど手慣れた様子で、鶏を胸の中へと抱え込んでしまう七葉。
腰を落として、鶏のじたばた動く両足を膝で抱え込み――いともあっさりと鶏の動きを封じてしまった。
簡単に見えるが、暴れ回るであろう鶏をああもあっさり抱え込んでしまうとは並のテクニックではない。
さっきの牡牛の精液採取でも、暴れる牛によって大怪我をする事故は数多いと聞いたことがある。
それを、ああまであっさり行うとは――七葉の手腕は、やはり卓越したもののようだ。
「さて……こういう風に鶏を押さえ込み、動きを封じてから射精させます」
七葉のしなやかな右手が、鶏の尾部へと伸びる。
「この小突起が、鶏の退化交尾器。鶏にペニスは存在せず、精管が開口しているのです。
この部分を、優しく撫でるようにマッサージしてあげれば――その刺激で、射精に至ります」
「……」
思わず僕は、唾を呑み込んでしまった。
あんな風に抱き込まれて動きを封じられ、鶏は陰部を撫で回されてしまうのだ。
なんて羨ましい――
「では、始めましょうか。これも、あまり時間は掛かりません……」
七葉の右手――中指の腹が、優しく鶏の下腹部をまさぐり始めた。
ゆっくりと撫で回し、さすり、いたわるように――いかにも優しく、そして練達した手付き。
それを受ける鶏の表情も、こころなしか心地よさそうにさえ見えた。
「ふふ……」
鶏の陰部をマッサージしながら、七葉は艶やかな笑みをこぼしていた。
「こうしてあげたら、この子……すぐ大人しくなってしまって……」
「……」
それはまるで、入念な性的愛撫そのもの。
七葉のような美女に抱え込まれ、射精するまで陰部をマッサージされる――なんて幸せな鶏なんだろうか。
僕は眼前の光景に、なんとも妖しげな性的興奮を覚えていた。
鶏が目を見開き、体をわななかせるまで、ほとんど時間は掛からなかった。
「ん……射精しましたね」
その変化を感じ取り、七葉は僅かに目を瞬かせる。
わずか数撫での刺激で、七葉は鶏をあっけなく射精させてしまったのだ。
こうまであっさりイかされてしまったら、人間の男性なら屈辱の極みだろう。
「鶏に射精の反応が見られたら、退化交尾器をつまむような刺激に変えます。
こうやって、精液を搾り出すように――」
七葉は三本の指で鶏の退化交尾器をつまみ、搾るような動きを見せる。
そのまま、ぎゅっぎゅっ……と軽やかな刺激を与え始めたのだ。
開口部から染み出してきた白濁液を採取するのは、いつの間にか七葉の左手にあった計量カップ。
まさに搾られるがまま溢れてきた精液を、七葉は計量カップで受けていた。
「こうして、精液を最後の一滴まで搾り取ってしまいます……はい、終わりですね」
精液が出なくなるまでマッサージを続け、ようやく七葉は鶏を解放した。
計量カップの底に、少しばかり溜まった鶏の精液。
七葉があっという間に搾り出した、家畜の白濁液だ。
「こういう風に、牡鶏の精液採取は腰部マッサージを用いるのが一般的です。
鶏に限らず、鳥類の精液採取はマッサージ法が使われる場合がほとんどですね。
……あら? 大丈夫ですか?」
「いえ、その……」
恥ずかしいことに、僕はまたしても前屈みになってしまっていた。
いかに相手が家畜とはいえ、あんなに淫靡な光景を見せられたら――
健康な男性なら、色々と余計なことを妄想してしまっても仕方がないだろう。
「……どうしましょう。少しばかり、横になりますか?」
「いえ、あの……すみません、トイレを借りていいですか?」
「お腹の調子が悪いのですね。トイレは、牧舎から出た右手にありますので……」
心配したような顔付きながら、優しく微笑む七葉。
その目に宿った怪しげな光に、その時の僕は気付かなかった。
「はぁ、はぁ……」
牧舎の脇にある簡素なトイレにて、僕は夢中で自慰に浸っていた。
自分が牛になって、七葉に人工膣を被せてもらい――そのまま、精液を搾り取られてしまう妄想。
自分が鶏になって、七葉に抱え込まれ――そのまま、陰部を優しくマッサージしてもらう妄想。
「な、七葉さん……!」
そんなアブノーマルな妄想にふけりながら、僕は欲望の液体を便器へとぶち撒けたのである。
……これで、しばらくは大丈夫なはずだ。
「すみません、もう大丈夫です……」
恐縮しながら、僕は牧舎に戻ってきた。
とりあえず出しておいたので、前屈みになって困るということはないはず。
「不思議ですねぇ。これまで何度か、精液採取をレクチャーしたことがあるのですが……
ほとんどの男の人は、なぜか前屈みになってしまうのですよ」
「え……?」
くすり……と笑い、目を細める七葉。
それは不思議に思っている顔ではなく、明らかに全てを見越している顔だ。
「トイレで処理してきたようですね。ひとこと言ってもらえたら、私が搾り出してあげましたのに――」
「――!?」
思いもしない一言に、僕は硬直してしまう。
まずは呆然とし、そして思考が追い付いてきた。
搾り出すというのは当然、僕のモノを七葉が――
「そんな……何を言っているんです?」
困惑とは裏腹に、下半身は反応を始めてしまう。
トイレで一回ヌいた甲斐もなく、またしてもペニスが大きくなってきたのだ。
それを隠すように、僕はまたしても前屈みになってしまった。
「あらあら、またですか……いっぱい溜まっているようですね」
僕の醜態を楽しむように、七葉は目を細める。
「貴方の精液……採取してあげましょうか?」
「え……?」
その一言に、僕は硬直し――
「は、はい……」
そして、魅入られたかのように頷いた。
七葉によって、精液を採取されてしまう――先程から頭をよぎっていた妄想が、現実になろうとしているのだ。
僕の脳を支配していた驚きは、徐々に興奮と期待へとすり替わっていく。
さっきの家畜たちのように、僕もしてもらえるのだ――
「では、その身で精液採取を実体験してもらいましょうか。どのように搾り取られたいですか?
牛のように人工膣を使用されたいか、鶏のように陰部をマッサージしてもらいたいか――さて、どうします?」
「え、っと……」
どんな風にして、精液を搾り取ってもらえるのか。それを、僕自身が決めろということらしい。
僕は少しだけ悩み、そして決断した――