「ふふ、ボクとデュエルしたいんだ……」

　ダリアはくすくす笑った後、腰のホルスターからデッキを抜いた。

　それに応じ、僕もデッキを取り出す――両者の合意が成立し、周囲にデュエルフィールドが展開され始めた。

　「では、私はここで居残り。頑張って下さいね、ダリア――」

　「強そうなお兄さんだけど――ボクだって、負けないよ」

　姉のアイリスをカードショップ前通りに残し、僕とダリアは隔絶されたデュエルフィールドに立つ。

　デュエルテーブルがあるだけで、周囲には延々と草原が広がる異世界。

　なぜデュエリスト同士が対戦に応じると、この世界に投げ入れられるのか――その理屈は、世界の誰も知らない。

　そしてこのデュエルフィールドで受けた傷は、どれだけ重かろうが、元の世界に戻れば治ってしまう――なぜかは分からない。

　だが、そんな事はどうでもいい。

　この場に足を踏み入れたデュエリストの思いは、ただ一つ。

　相手を倒し、デュエルに勝つことだけだ。

　「六枚の簡易デュエルだと――お互い、戦術には凝れないね」

　「……」

　僕は無言でデッキをデュエルテーブルに置き、ダリアもそれに続いた。

　戦術なんて使えなくて結構、こちらはそんなもの無い――たまたま揃った六枚のカードなのだ。

　「では、ファーストドローだね」

　「ああ、互いに一枚ずつだ」

　僕とダリアは、デッキから同時に一枚の初期カードを引いた。

　六枚使用の簡易デュエルの場合、最初に引くのは一枚のみなのだ。

　そして僕が引いた初期手札は――『ねこまた』だった。

　「よし……召喚だ、『ねこまた』！」

　場に出したカードから現れたのは――ふわふわの毛に体が覆われた、愛くるしい少女の姿。

　猫耳と尻尾を備え、その場にちょこんと座っている。

　『ふぁぁ……』

　召喚されるなり退屈そうにあくびをしているが、これでもレアリティCのカード。

　ノーマル中級に属する以上、それなりの力は秘めているはずだ。

　「じゃあボクも――召喚、『純潔のプリースト』」

　『……』

　ダリアの目の前に、純白のローブを纏った美しい女僧侶が現れた。

　その外観は清純そのもので、目を静かに閉じたまま。

　『純潔のプリースト』とやらが強いのか弱いのか、経験の浅い僕には分からないが――

　強敵というほどではないが、弱者でもないといったところか。

　ともかく、デュエルを持ちかけられた僕の方が先行だ。

　「よし、ドローだ！」

　最初は、僕のターンから――すかさずデッキに手を伸ばし、一番上のカードをドローした。

　そして引いたカードは、『風刃のシルフ』。

　このモンスターも、温存せずに召喚しておくべきだろう。

　「召喚、『風刃のシルフ』！」

　涼やかな風を伴いながら、親指サイズの風の精が無数に姿を現した。

　その数は二十体程度、背中に羽を備えたあどけない少女の姿――

　それを前にして、ダリアはぱちぱちと目を瞬かせていた。

　「シルフ……お兄さん、厄介なカードを持っているね。物理愛撫でそのモンスターをイかせるのは難しいな――」

　「……ふっ」

　いかにも熟練デュエリストのように不敵な笑みを浮かべたものの、心中は全く逆だった。

　……なるほど、『風刃のシルフ』とはそんなに便利なカードだったのか。

　向こうは思ってもみないみたいだが、僕はそんなことも知らない初心者なのだ。

　ともかく、ねこまたとシルフの群れが僕の前に控えている。

　さて、ここは――

　「……『ねこまた』と『風刃のシルフ』、両者とも防御でターンエンドだ」

　僕は、両方に防御指示を出していた。

　対する『純潔のプリースト』の力量も分からない――ともかく最初は、様子見だ。

　「堅実だね、お兄さん……」

　そう言いながら、ダリアはデッキに手を伸ばして一枚を引く。

　「『お散歩ハーピー』、召喚」

　カードから現れたのは、あどけない顔をした半人半鳥の少女モンスター。

　その体のほとんどは人間女性のものだが、両腕は鳥の翼となっている。

　『〜♪』

　どこか呑気な表情を浮かべ、そのハーピーは羽をぱたぱたさせていた。

　あまり強力なモンスターではなさそうだが――

　「まずは……『お散歩ハーピー』、『ねこまた』を攻撃」

　ダリアの指示と同時に、ハーピーは翼をはためかせてねこまたに襲い掛かる。

　背後から組み付き、その翼の両腕で抱え込もうとして――

　『……ふにぃ！』

　ねこまたは俊敏かつ柔軟性に満ちた動きで、するりとその翼から逃れていた。

　そのままハーピーの足を取り、股間に顔を近付けて――そこに、ねこまたは舌を這わせていた。

　れろれろれろ……と、人間より三倍程度長い舌が、驚くほどの早さでハーピーの股間を這い回る――

　ぴちゃぴちゃという淫靡な音が、周囲に響いていた。

　『ふぁ、ふぁぁぁぁぁ……』

　まるで膣口を舐め取られるような舌の動きで、ハーピーは一瞬で果てていた。

　翼をバサバサとはためかせた後、その姿がみるみる消え失せていった――絶頂し、撃破されてしまったのだ。

　「……？」

　どうなっているんだ？

　今はダリアのターンで、『お散歩ハーピー』が攻撃を仕掛けてきたはず。

　『ねこまた』は攻撃を受ける側だったはずなのに、返り討ちにしてしまったのか？

　「ふーん、ずいぶん反撃能力の高いカードみたいだね。

　　じゃあ『純潔のプリースト』は、防御させておこうかな……はい、ターンエンド」

　『……了解しました』

　女僧侶は目を閉じたまま、身じろぎせずにダリアの指示に従う。

　そして、反撃能力――このタウンのルールには、そんなものもあるのか。

　『ねこまた』と『風刃のシルフ』――どちらも、なかなか良好な能力を秘めたカードらしい。

　「よし、僕のターンか……」

　デッキから引いたカードは、『いたずらピクシー』。

　このモンスターも、召喚しない理由はない。

　「『いたずらピクシー』召喚だ！」

　場に出したカードからは、いかにも悪戯好きそうな少女の姿が現れた。

　身長は一メートル程度で、その背からは羽が生え、あどけない笑みを浮かべながら浮遊している。

　かなり可愛らしいが、さほど強そうには見えなかった。

　「さて、どうするか……」

　場に出ている僕のモンスターは三体、『ねこまた』に『風刃のシルフ』、『いたずらピクシー』。

　それに対してダリアのモンスターは『純潔のプリースト』のみ、彼を守るのはこの一体きりだ。

　いかにも清純そうな女僧侶を打ち破れば、ダリアに直接攻撃することができるだろう。

　「よし、『いたずらピクシー』！　『純潔のプリースト』を攻撃だ！」

　ピクシーはふよふよと『純潔のプリースト』に接近し、女僧侶の体に抱き付いていた。

　そしてチュッと女僧侶にキスしながら、その手をローブの下へと滑り込ませる――

　『えへへ……♪』

　指先で秘部をいじくり回すような、ピクシーの愛撫。

　そんな攻撃を受けながら、美貌の女僧侶はぎゅっと目を閉じてこらえていた。

　好奇心満々の目で、ごそごそと女僧侶の女性器をいじくる『いたずらピクシー』――しかし、そのまま数十秒。

　『純潔のプリースト』は微動だにせず、ピクシーの愛撫を耐え抜いたようだ。

　「くっ……！」

　このターンに行動していないのは、『ねこまた』と『風刃のシルフ』。

　ここは『風刃のシルフ』で『純潔のプリースト』を撃破した後、ダリア本体に『ねこまた』で攻撃を仕掛けるか――

　「よし、『風刃のシルフ』！　『純潔のプリースト』に攻撃だ！」

　周囲に吹き付ける風と共に、無数のシルフが『純潔のプリースト』の周囲を舞う。

　そして、その体に次々とまとわりついていった。

　集団で敵の全身にしがみつき、這い回る愛撫――これは強烈なはずだ。

　『……っ！』

　それでも、『純潔のプリースト』はきつく目を閉じたまま快感をこらえている。

　ローブの下にもシルフ達は這い回り、ざわざわと集団で蠢き――女僧侶は身をわななかせながらも、絶頂にまでは至らない。

　そして、『いたずらピクシー』の時よりも長い攻撃時間が過ぎ――『純潔のプリースト』は、シルフの集団愛撫すら耐えきっていた。

　「そんな……！」

　「うわ〜、気持ちよさそう……ボクだったら、ガマンできずにイっちゃうなぁ……」

　シルフの責めを眺めながら、ダリアはそう呟く。

　これで、このターン中に『純潔のプリースト』を撃破して、一気にダリアへ攻撃するという目論見は崩れ去った。

　なら、せめて『純潔のプリースト』だけでも撃破しなければ――

　「『ねこまた』、『純潔のプリースト』を攻撃だ！」

　『ふみぃ！』

　掛け声と共に、ねこまたは女僧侶に飛び掛かる。

　そのローブの下に滑り込み、股間にぴちゃぴちゃと舌を這わせるが――それでも、清純な女僧侶は堕ちなかった。

　彼女はねこまたの愛撫さえ耐えきり、撃破することができなかったのだ。

　こうして、僕のモンスターは三体とも行動終了してしまった――

　「くっ、ターンエンドだ……」

　「残念だったね、お兄さん。三体バラバラの攻撃じゃなくて、連携攻撃だったら危なかったけど――」

　一ターンの内に『純潔のプリースト』を片付け、ダリアにも攻撃を仕掛けようとして、変に温存しようとしたのが失敗。

　結果的に一体一体を単独で、強い精神力を持つ女僧侶に挑ませることになってしまった。

　ここは贅沢を言わずに『純潔のプリースト』の撃破に専念し、連携攻撃を仕掛けるべきだったのだ。

　「……」

　それでも、僕は一つの事実を学んでいた。

　プリースト系はおそらく精神力＝耐久力が高く、絶頂し難いのだ。

　これは種族全体の特質、そして見た限り反撃能力や俊敏性は高くないらしい。

　ともかく、敵を打ち破ることが出来なかったとはいえ、場に出ている僕のモンスターは三体。

　まだまだ、状況は僕に有利はずだ。

　「じゃあ、ボクのターンだね。そろそろ、『あれ』が出てくれないと困るんだけど……」

　不穏な言葉を呟きながら、ダリアはデッキからカードをドローした。

　そして引いたカードを見て、女の子にしか見えない顔にあどけない微笑を浮かべる。

　これが、ダリアの切り札であるカードなのか――？

　「ちょうどいいや、シルフが厄介だったし……『泡魔女レイリーン』、召喚」

　カードから現れたのは、黒衣に杖を携えた艶やかな美女だった。

　『純潔のプリースト』の隣に、なんとも妖艶な雰囲気の若い魔女が並ぶ。

　純白と漆黒、清純と妖艶のコントラストが、僕の前に立ち塞がった。

　『お呼びですね、マスター。ふふ……泡に酔うのはどこのどなたでしょう』

　「『泡魔女レイリーン』、『風刃のシルフ』を攻撃だ――」

　『あら、可愛い精霊達。いかに小さく素早い相手でも、私の前ではこの通り――』

　黒衣の魔女は艶やかな笑みを浮かべ、そして軽く杖を振った。

　同時に、シルフ達の小さな体にしゅわっと泡が溢れ出てしまう。

　まるで、スプレーで泡を吹き付けられたかのように――

　『はぅぅ……』

　ぶくぶくの泡にまみれたシルフ達は恍惚の笑みを浮かべ――そして、次々と消滅していく。

　「そ、そんな……！」

　今のは、明らかに普通の愛撫と違っているようだ。

　複数いるシルフのそれぞれを泡で包み、瞬時にイかせてしまったのだ。

　これは、何らかの特殊攻撃なのか――

　「『泡魔女レイリーン』の攻撃、キモチ良さそうでしょ。お兄さんのおちんちんも、泡まみれでイかせてあげるよ――」

　「ぐっ……！」

　ダリアの言葉に、思わず下半身が反応してしまっている。

　あの泡攻撃を肉棒に浴びせられたら、気持ちよさそうだ――

　「『純潔のプリースト』は……防御させておくよ。もう少しの間、壁になってもらいたいしね――はい、ターンエンド」

　僕の心のぐらつきを見透かしながら、ダリアはターン終了を宣言していた。

　「よし、僕のターンか。ドローだ……」

　状況を分析しながら、僕はデッキに手を伸ばす。

　残りカードは三枚――『癒しと安らぎのアルラウネ』、『オクトパスレディ』、『光の封陣』。

　絶対的に強いカードはないどころか、特に戦略を考えたデッキ構成でもない。

　単に、手持ちのカード六枚でデュエルに臨んだだけなのだ。

　そして、引いたカードは――魔法カード、『光の封陣』だった。

　「……」

　場に出ている僕のモンスターは、『ねこまた』と『いたずらピクシー』。

　それに対して、ダリアのモンスターは『純潔のプリースト』と『泡魔女レイリーン』。

　さらにダリアは、間違いなくデッキの中に切り札となるカードを残している。

　それを引くまで、小競り合いでターンを消費させようという意図が見え見えなのだ。

　ここら辺は、今まで一般ルールを制してきたデュエリストとしての経験が見透かしている。

　「どうしたの？　引いたカード、召喚しないの？」

　ダリアは目をぱちくりさせて尋ねてきた。

　「ああ……手札に控えておくよ」

　まだ、敵単体を一ターンの間行動不能にする『光の封陣』は温存した方が良さそうだ。

　ダリアが切り札を引いた時、このカードが必要になるかもしれないのだから――

　……さて。

　現在場に出ている『ねこまた』と『いたずらピクシー』に、どういう指示を出すか。

　『泡魔女レイリーン』の攻撃力はかなり高いことが予想されるので、早急にこいつを撃破した方が良い。

　レイリーンとプリーストの個別撃破など考えず、『泡魔女レイリーン』に攻撃を集中するべきだろう。

　つまり、『ねこまた』と『いたずらピクシー』の連携攻撃――

　または、この二体に防御を命じるという選択肢もあるか。

　……とは言え、それは下策の下策。

　攻撃力の高い『泡魔女レイリーン』を生かしたまま、ダリアにターンを回してしまうことになるのだ。

　これは直感だが、『泡魔女レイリーン』の攻撃には『ねこまた』も『いたずらピクシー』も耐えることは難しいだろう。

　ここはやはり、攻勢に出るべきなのだ――