ラミア


 

 そこには、近隣の住民は決して寄り付かない山がそびえていた。

 その山は、決して険しいという訳ではない。

 ただ、蛇の怪物がたぶらかしてくる――そう昔から言い伝えられてきた山なのである。

 現に、この山では男ばかりが何人も行方不明になっているのだ。

 ここに住む怪物を、カメラに収めてやる――そう思い立った、十代後半の青年が一人。

 彼は大学の休みを利用して、その山に足を踏み入れてしまったのである。

 世にも恐ろしい運命が待ち受けていることを、まだ彼は知るよしもなかった。

 

 

 

 

 

 近隣の人間が怯える蛇の化け物。

 しかも、そいつは人をたぶらかす――そんなの、下らない迷信だと思っていた。

 しかし色々と調べるにつれ、一笑に付すことのできる話ではないことが分かってくる。

 この山で失踪した男の数は、尋常ではないのである。

 その事実を知った俺が抱いたのは、恐怖ではなく興味。

 こうして俺は、カメラ片手にその山へと入ったのである。

 所属する部活は登山部、そんな俺にとって、そう厳しい山ではなかった。

 探索も、容易に進むはず――

 

 「……ん?」

 俺は、獣道を静かに歩く一人の女性に目を留めていた。

 スタイルの整った若く綺麗な女性が、山中の獣道をゆっくりと進んでいるのである。

 確かこの山は、怪物を恐れて誰も入らないんじゃなかったか――?

 「おーい!」

 思わず、俺は女性を呼び止めていた。

 こんな山中に女性が一人。あまり、放っておいても良い予感はしない。

 女性は俺に気付いたようで、ゆっくりとこちらに振り向いて――そして、笑った。

 

 「……!?」

 思わず、動きを止めてしまうような――いや、身が竦むほど人間離れした妖艶さ。

 俺は、まるで魂を抜かれたかのように立ち竦んでしまったのである。

 「あ、え……!?」

 しかし次の瞬間、俺はさらなる驚愕に襲われていた。

 なんとその女性は、俺に艶かしい視線を送ったまま上着を脱ぎ始めたのだ。

 しかも、その下は裸。シャツどころかブラすら付けていない――

 

 ――なんだ?

 一体、どうなってるんだ? 夢でも見てるのか?

 戸惑う俺を尻目に、女性は脱ぎ終えた上着を妖しい仕草でスルリと地面に落とした。

 立ち竦む俺に、ねっとりと視線を絡めたままで――

 そして上半身が裸になった女性は大きな乳房を隠そうとしないどころか、両腕を広げたのだ。

 艶かしい視線を送り、まるで俺を誘うようかのに。

 

 ちろり……と、彼女の唇の間から舌が這う。

 柔らかそうな、ピンク色の舌。

 艶めかしく唇を舐めながら、彼女はこう言ったのだ。

 「おいで、坊や」と――

 

 

 「あ、あぁ……」

 そして――

 気付いた時には、彼女の豊満な胸に顔を埋めていた。

 柔らかく、全てを包み込んでくれるような乳房。

 その谷間に頭を挟みこまれ、俺はまさに夢見心地だった。

 そんな俺の頭に、女性は優しく両手を添えてギュッと抱き締めてくる。

 蕩かすように甘く暖かい、夢のような抱擁――

 

 「ふふ……もっと抱き締めてあげる」

 女性は、甘い声でそう囁いた。

 その瞬間――俺の背中に、何かが被さってきたのだ。

 「な、なんだ……!」

 俺は、たちまちにして現実に引き戻される。

 それは、大蛇の胴だった。どこからか現れた蛇が、俺と女性に襲い掛かって――!!

 

 「……!?」

 違う。

 俺は、即座に自分の間違いに気付いた。

 蛇が急に現れたんじゃない。この女性こそが――

 

 ぎゅるぎゅるぎゅる……!

 

 「あ……! が……!」

 俺の胴体に、しゅるしゅると巻きついてくる大蛇。

 その尾の太さは、人間の胴体ほどもある。

 そして蛇の体は、目の前の女性に繋がっていた。

 彼女の上半身は美しい女性だが、その下半身は大蛇――

 

 「が……! おぁぁぁぁぁぁ!!」

 彼女の尻尾が、俺の胴をミシミシと締め上げてきた。

 胸の谷間に顔をうずめたまま、悶絶する俺。

 猛烈な圧力が俺の体を絞り上げ、きつく圧迫してくるのだ。

 蛇に……いや、女性に締め付けられている……!

 

 「ラミアの抱擁、お気に召されて……?」

 女性は妖艶な微笑を浮かべながら、そう囁いてきた。

 「ラ、ラミア――!?」

 ラミアとは確か、ギリシア神話に出てくる蛇妖。

 彼女こそが、この山に現れるという蛇の怪物……!!

 

 「もっと、体中をみっちり抱き締めてあげる……ふふっ」

 俺の胴を締め上げていたラミアの尾が、肩や足にまでぐるぐると巻き付いてきた。

 ぎゅっ……、ぎしぎし……

 俺の身体は、たちまちラミアの尾が形作るとぐろの中に覆い込まれてしまう。

 その拘束力や圧迫力は凄まじく、とても逃げられるような状況ではなかった。

 

 「蛇に絡みつかれたネズミは、どうなるか知ってるわよね……?」

 くすり……と、ラミアは艶めかしく微笑む。

 そんなの、問われるまでもない。

 蛇はネズミの身体を締め上げ、全身の骨を砕いてからゆっくりと丸呑みにしてしまうのだ。

 俺も、このラミアに――

 

 「ふふ……自分の運命を悟ったのかしら?」

 ラミアの微笑には、サディスティックな色が濃く滲んでいた。

 冷酷、残忍、執念深い――そんな蛇に対するイメージを、体現したかのように。

 「その怯えた目、素敵よ。もっと強く抱き締めてあげる……」

 ぎしぎし……、みちみち……

 肩から足の先まで、俺の全身に巻き付いているラミアの尻尾がぎりぎりと締まり始めた。

 「あ、ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 全身をじわじわと絞り上げられる苦痛。

 俺は彼女のとぐろの中に捕らわれ、苦悶の叫びを上げていた。

 それはまさに、嫐られる獲物そのもの。

 捕食者のなすがままにいたぶられ、弄ばれる――そんな自分の運命を、苦痛の中で思い知っていた。

 蛇体にきつく締め上げられ、俺は叫びながら身をよじらせるしかなかったのである。

 

 「私の抱擁を直に感じたいでしょ? こんな邪魔なもの、剥ぎ取ってあげるわ……」

 さらにラミアは、俺の衣服をびりびりと引き裂き始めた。

 シャツを裂き、ジーパンやトランクスをも紙切れのように千切り……

 「あが、あぐぅぅ……!」

 俺はラミアのとぐろの中で全裸にされ、彼女の尾の肌触りを素肌で味わった。

 普通の蛇は冷血動物だというが、ラミアの尾は温かい。

 彼女の温もりの中で、俺はぎりぎりと締め上げられているのだ――

 

 「ふふふ……獲物に巻き付いて、きつく締め上げるのが私の至上の喜び。貴方ももっといい声で悶えなさい……」

 「が、ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ぎりぎりと、俺を追い込むように締め上げてくるラミアの尾。

 彼女の蛇体に巻き取られ、強靭な筋肉で締め上げられ、最後に丸呑みにされる――

 これが、ラミアによる死の抱擁なのだ。

 彼女に巻き付かれている俺は、いつしか自らの死の運命をも覚悟していた。

 もう、逃げようがない。ラミアは捕食者であり、人間は被食者なのだから――

 

 「私の抱擁、たっぷり味わった?」

 どれだけの時間、締め上げられただろうか。ラミアの尻尾による圧迫が微かに緩まった。

 「う、うぅ……」

 それでも、逃がしてくれる訳がない。

 ラミアの嗜虐的な目は、そんなことを微塵も言っていないのだ。

 「ねぇ、貴方。私の抱擁奴隷にならない……?」

 「え……?」

 唐突にラミアから投げ掛けられた質問――その意味を、推し量ることもできない。

 「抱擁奴隷……蛇の宿り木みたいに、ずっとラミアに巻き付かれ続ける人間のことよ。

  人間が『家』というものに定住するように、ラミアは気に入った人間に対して、宿り木替わりに巻き付き続けるの。

  私に巻き付かれたまま、永遠の毎日を過ごす――素敵なことだと思わない?」

 「あぐ、う……」

 妖女の瞳が、俺の目を射竦めた。

 その赤い瞳には、なにか不思議な魔力が込められているような気さえする。

 「手にも、足にも、胴体にも、おちんちんにも……思う存分、たっぷりと巻き付いてあげる。

  貴方が泣いて悦ぶまで、ギュウギュウに締め付けてあげる。色んな巻き付き方で、悦ばせてあげる。

  朝から晩まで、私に巻き付かれるために存在する人間……どう? 抱擁奴隷になりたい?」

 「そ、そんなの……」

 「選びなさい――抱擁奴隷になるか、ならないか」

 俺の全身を強靱なとぐろでしっかりと捕らえたまま、ラミアは綺麗な顔を寄せて尋ねてきた。

 もし、断ってしまったなら――この状態の獲物が歩む運命など、たった一つ。

 捕食――それ以外に道はない、絶望的な二択なのである。

 そして、俺の答えは――

 

 なりたい

 イヤだ!

 

 

 



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