グランドール事件


目を覚ますと、松田はどこかの広い部屋に寝かされていた。

天井には幾つもの蛍光灯が光っており、白く塗られた天井を照らしていた。

天井が妙に近いことを考えると、台のような物に寝かされているらしい。

「ここは・・・」

身を起こそうとするが、両手両脚、そして腹にかけられたベルト状の拘束具が、彼の動きを封じている。

手足を動かし拘束具の具合を確認すると、どうやら生半可な縄抜け程度ではどうにもならないことが分かった。

「・・・糞・・・」

最小限ながらも完璧な拘束に、松田は短く毒づいた。

と、その時、彼の視界の上部から女性の顔が覗いた。

短めの茶色の髪に、そこそこ整った顔立ちをしている。

「お目覚めですか」

「・・・まあな・・・」

やたら平坦な女性の声に、彼はうんざりしながら応じる。

「わたくしは事務用人形97-6型の、通称マリーです」

彼女は人形らしい平坦な口調で続けた。

「貴方は侵入者として『人形工房』により身柄を拘束されており、現在執行準備中です」

「『大図書館』の捕虜に対する人権規約に基づき、不当な拘束の解除を求める」

だめ元で、松田は手足の拘束を解除するよう求めた。

「それは出来ません」

「・・・だろうな・・・」

回答は、松田の予想していたものだった。

だが、それに続く言葉は彼の予想を大きく裏切るものだった。

「現在『人形工房』は緊急事態ケース2につき、団長を一とする管理者の権限、及び通常規定が全て停止されています」

「何だと・・・?」

『人形工房』の職員達の権限が全て凍結されているとの言葉に、松田は驚きの声を漏らした。

「なら、今誰が施設全体の制御を・・・」

「施設の制御権は現在・・・対話を中断。侵入者に対する処遇の執行が完了」

回答が打ち切られ、しばしの間をおいてマリーは淡々と言葉を連ねた。

「貴方は現在、処遇内容について聞く権利があります。どうなさいますか?」

「・・・それより、誰が施設を掌握しているのかを・・・」

「質問への回答は現在出来ません。貴方は現在、処遇内容について聞く権利があります。どうなさいますか?」

「・・・・・・」

人形らしい融通の利かない問答に、彼はしばし沈黙した。

「・・・聞こう・・・」

「了解しました」

松田の返答に、マリーは一つ頷いた。

「貴方への処遇は、新開発された人形による搾精パターンプログラムや、人形の装着器具の最終テストです」

「え・・・?」

「全ての器具やプログラムの基本動作チェックは完了しております。よって貴方を傷害、殺害する可能性はありませんので、どうかご安心下さい」

呆けた声を上げる彼に解説しながら、彼女は松田が横たえられている台を回り、彼の横に着いた。

「それでは手始めに、手淫プログラムver.12.5.4を5パターンテストさせていただきます」

ズボンのチャックを下ろすと、下着をずらしてペニスを露出させた。

緊張のせいで彼のペニスは勃起しておらず、ふにゃふにゃと柔らかいままだ。

「パターン1開始いたします」

マリーは優しくペニスを握ると、むにむにと揉み始めた。

指を波打たせるようにタイミングをずらして握り、緩め、マッサージする。

人形であるはずの彼女の掌はすべすべで、しっとりと吸い付くような肌触りをしていた。

「うぅ・・・」

ぼんやりとした心地よさに、ペニスに血液が集まっていく。

亀頭が膨張し、エラが張り出し、裏筋が膨らんでいく。

「勃起を確認、パターン2へ移行します」

彼女は屹立したペニスを握りなおした。

裏筋を四本の指の腹で押さえ、亀頭に親指を添えた形だ。

そしてそのまま、親指の腹で亀頭を擦り始めた。

「うぐ・・・!」

乾いた皮膚が敏感な粘膜を擦り、疼痛が亀頭に生じる。

心地よさよりもむず痒さが大きく、松田は腰を動かして逃れようとした。

だがマリーは彼の動きに柔軟に対応し、ペニスを離すことなく亀頭を擦り続けた。

「カウパー氏腺液の分泌を確認」

疼痛から逃れるためか、鈴口から先走りが滲み出し始めていた。

彼女は親指を亀頭の先端にこすり付けると、そのまま先走りを塗り広げ始めた。

「ぐぉ・・・!」

打って変わって、亀頭を甘い快感が襲う。

乾いた皮膚に擦られ敏感になっていた亀頭が、粘液による愛撫を受けたのだ。

その心地よさは、最初からローションを使っての愛撫より遥かに大きい。

松田は、腰から這い登る快感に歯を食いしばって耐えた。

「カウパー氏腺液の十分な分泌を確認。パターン3へ移行します」

溢れ出した先走りが彼女の掌まで届いた頃、マリーは不意にそう告げた。

そして、亀頭に掌をこすりつけて先走りを塗り広げると、ペニスを掴みなおし上下に動かし始めた。

「おぉ・・・!」

ただでさえ柔らかな掌が、粘液にまみれて滑りが良くなっている。

彼女の掌はペニスの表面の血管や、亀頭から張り出したエラなどの凹凸に柔軟に対応し、粘液を擦り込むように動いていく。

その刺激に、彼は耐え難いほどの快感を感じた。

「・・・くっ・・・!」

歯を食いしばり、目を思い切り瞑って快感をシャットアウトする。

同時に、これまでの訓練や任務で受けた傷の痛みを思い返した。

一方的に追い詰められていた意識が、どうにか踏み止まる。

「・・・っく・・・はっ・・・」

「・・・パターン3タイムオーバー、パターン4に移行します」

短く息を吐きながら、断続的に襲い掛かる快感を受け流していた彼の耳朶を、マリーの単調な声が打った。

直後、むき出しの亀頭に彼女の左手が被せられた。

掌をお椀型にへこませ、露出した亀頭を包み込むと、彼女は先走りを掌に塗り広げながら手淫を続けた。

「ぐぉお・・・!」

亀頭にもたらされた予想外に大きな快感に、彼は身悶えした。

あふれ出る先走りが彼女の手の中で空気と混ざり、淫靡な音を立てる。

そして手の中では、彼の分泌した先走りがあたかも彼女の手の内側を粘膜のようにぐちょぐちょにしていた。

マリーの掌に浮かんだ小さな皺や、人工皮膚の盛り上がりが亀頭の所々に触れ、擦っていく。

「おぉ・・・!」

擬似膣とも言うべきマリーの両手の内部が、凄まじい快感をもたらす。

必死に築いた痛みの回想という快感への防波堤を、マリーの擬似膣は易々と乗り越えていった。

右手が竿と裏筋を扱きあげ、左手が亀頭を撫で回す。

その一つ一つが彼の興奮を押し上げていった。

「・・・ペニスの脈動が規定値に到達、前立腺の収縮を確認」

ビクビクと激しく脈打ち始めたペニスの感触に、彼女の両手が止まった。

射精寸前だったペニスが、不意に快感から解放された。

気を抜けば射精しかねない状況に変わりは無いが、それでも彼に微かな余裕が生まれる。

「パターン5に移行します」

だが、余裕を味わうことなくマリーは短く告げた。

次の瞬間、彼女の両掌が蠢動した。

筋肉や骨格を無視した、皮膚一枚隔てて無数の指で突付くかのような、でたらめな動きだ。

先走りにまみれたペニスが、強烈な愛撫に晒される。

それはほぼでたらめな刺激に過ぎなかったが、ペニス全体を覆っているため必然的に彼の敏感な箇所も刺激された。

一瞬で、彼の意識が弾けた。

「うぉぉぉっ!?」

脈動と共に尿道が押し開かれ、勢い良く精液が噴出する。

丸められたマリーの左掌がそれを受け止め、熱くどろどろとした液体が竿の方へ垂れていった。

「・・・射精を確認、パターン5を終了、手淫プログラムver.12.5.4を終了いたします」

精液の噴出が終わったところで、マリーはそっと両手をペニスから離した。

精液と先走りの混合物が、ねっとりと糸を引いていた。

「はぁ、はぁ・・・」

「お疲れ様でした。これで手淫プログラムver.12.5.4の有効性が確認されました」

脱力し、荒い呼吸を重ねる松田に向け、マリーはにっこりと微笑んで見せた。

だが、もちろんのこと彼には応える余裕は無かった。

「それでは引き続き、手淫プログラムver.12.5.4を用いた、通常表皮と粘体素体による搾性性能の差について検証いたします」

ぶしゅっ、と空気の抜けるような音がすると同時に、彼女の粘液にまみれた両手が手袋のように抜け落ちた。

すると、金属フレームによって構成された骨格と、手の形を構成するように纏わりつく青い粘液が現れた。

「ま、待て・・・!」

「それでは、手淫プログラムver.12.5.4を起動します」

青い掌を見せつけながら、彼女は待つだのペニスに手を寄せていった。

「パターン1開始」

「っ!」

生温かな青い粘体が肉棒を包み込み、短い言葉と同時に金属フレームが動き始める。

金属フレームの動きは先ほどの手の動きそのままであったが、ぷるぷると弾力のある柔らかな粘体が、リズミカルにペニスを刺激していく。

滲み出す粘液が、彼の竿や亀頭に纏わりついていった。

粘体の独特の感触に、彼の背筋を快感が這い登っていく。

「っがぁぁ!」

短い絶叫と共に、松田は達してしまった。

白く濁った粘液が、弧を描きながら飛んでいく。

「射精を確認、パターン1を終了。引き続きパターン2に移行します」

射精の余韻に震える彼に、マリーは淡々と継げた。

ペニスを固定するように金属フレームが動きを止め、亀頭に当てられた親指がぐるぐると擦り始める。

「ぐぉ・・・!」

射精直後で敏感な亀頭に、優しく粘液がまぶされていく。

先ほどのような乾いた人工皮膚などではなく、粘液に塗れた粘体による愛撫ではあったが、敏感な粘膜には刺激が強すぎた。

微かな痛みが混ざった快感が、亀頭を擦られるたびに生じる。

「ぐ・・・!」

「カウパー氏腺液の分泌を確認」

粘液塗れの亀頭の先端に親指が移動し、鈴口を粘体が擦る。

そしてそのまま、亀頭全体へと愛撫の範囲が広がる。

「ぐぁぁぁ・・・!」

拘束された身体を捻り、身悶えする。

だが、亀頭への刺激は止まらなかった。

高まる興奮にペニスの脈動が始まり、屹立を掴む粘体を押し返す。

粘液に塗れた柔らかな掌の表面が、竿に浮かんだ血管や裏筋を擦っていく。

亀頭への愛撫と、脈動による摩擦。

この二つが、再び彼を押し上げた。

「っが・・・!」

「射精の予兆を確認」

鈴口から精液が迸る寸前、マリーの親指が尿道を押さえた。

拘束された腰が申し訳程度に跳ね上がり、射精が始まる。

「ぐぁぁ!」

親指と亀頭の隙間から精液が迸る、なんてことは無く、射精の圧力は親指の粘体表面を引き裂き、粘体の中に入り込んでいった。

亀頭を押さえる粘体の中に、彼はたっぷりと精液を注ぎ込んでいく。

「・・・射精を確認、パターン3を終了」

射精の開放感に浸る彼の耳に、平坦な声が届いた。

「パターン4に移行します」

親指の位置を修正すると、彼女は右手を上下に動かし始めた。

ずじゅずじゅ、という粘着質な音と共に親指が亀頭の側面を、揃えられた指が竿を擦っていく。

「うぉ・・・お・・・」

動きこそ単純な手淫であったが、掌が粘体となっているため、あたかも効果なオナホールに挿入しているかのような感触だ。

指や掌の皺の凹凸が、裏筋や血管にあわせて波うち、柔らかな刺激を与える。

「あ・・・あぁ・・・!」

「・・・・・・」

快感に歪む彼の表情を、マリーは見下ろしていた。

そこには侮蔑も嗜虐も何も無い、無機質な微笑だけが浮かんでいた。

不意に、彼女の右手の金属骨格が動き、彼のペニスを握る力を増した。

優しく柔らかな刺激を与えていた粘体の感触が、変化する。

「っ!?」

圧力を増し、粘体表面に浮かび上がった襞が彼のペニスに纏わりついた。

突然の刺激の変化に、彼の意識は限界に達した。

「ぐぁ・・・!」

「射精を確認」

変わらぬ勢いで迸り始めた精液を、マリーは左手で受け止めながら続ける。

「パターン3を終了し、パターン4に移行」

そしていまだ精液を迸らせる亀頭に、左手を被せてきた。

青い粘体がペニスを完全に包み込み、擬似膣が完成した。

 

じゅぶ・・・ぶぢゅ・・・

 

空気の混ざりこんだ粘液が、ペニスと擦れて淫猥な音を立てた。

竿や裏筋を締め上げる、襞の浮かんだ右掌。

亀頭を包み込み吸い上げる、中央をへこませた左掌。

自在に動く青い粘体と、精密に動作する金属骨格が織り成す擬似膣は、もはや本物と勘違いするほどの完成度だった。

「おぉ・・・!」

視界の端に時折入り込むマリーの笑顔と相まって、松田は彼女の膣に挿入しているかのような錯覚を覚えた。

無論、それが錯覚に過ぎないことは今にも掻き消えそうな理性では承知していた。

だが、錯覚は否応なしに彼の快感を高め、興奮を昂ぶらせていく。

やがて、限界が訪れた。

「うぁあ・・・!」

間抜けな声と共に、もはや何度目か分からない絶頂に彼は押し上げられた。

浮遊感が身体を襲い、射精の開放感が送れて脳に届く。

どくんどくん、と心臓の鼓動にあわせてペニスが脈打ち、精液が迸っていく。

「射精を確認」

笑顔のまま、マリーは続けた。

「パターン4終了、パターン5に移行」

(この次は・・・)

絶頂に朦朧とする彼の意識が、耳朶を打った彼女の言葉に反応した。

だが、彼の意識に予測が生じるよりも早く、刺激が叩き込まれた。

 

ぶじゅぐちゅぢゅくぼちゅぐしゅ

 

彼のペニスを包む粘体の表面が一斉に粟立ち、細かく震え始めたのだ。

「・・・っ!?」

射精の勢いも収まりつつあったペニスが、細かな突起の蠢動により脈動を復活させ、再び精液を迸らせ始める。

「がぁぁぁぁっ!?」

終わりかけていた射精を無理矢理再開させられ、松田の意識を苦痛に匹敵する快感が襲った。

許容量を上回る快楽に、彼は顔を左右に振り手足をばたつかせて逃れようとした。

だが、彼の身体を縛る拘束具はそれをよしとしなかった。

掌に浮かんだ粒々が裏筋を根元から先端へ幾度も撫で上げ、太く短い突起が竿からカリ首までを覆ってもぞもぞと蠢く。

亀頭には幾つもの小さな吸盤が吸い付き、尿道を覆う一際大きな吸盤が精液を啜り上げていた。

「あぁぁぁぁぁぁっ!!」

ペニスの脈動は変わらなかったが、既に精液は量も少なく、白い濁りの混ざった透明な液体を漏らす程度になっていた。

だが、それでも絶頂は終わらない。

睾丸から未熟な精子を搾り出し、それさえもなくなればビクビクと空撃ちさせながら、マリーの両手は彼を絶頂に留めていた。

尿道が痛い、ペニスが痛い、睾丸が痛い、性器全体が痛い。

だが、苦痛を上回る快感が彼の意識を塗りつぶし、絶頂に留まらせ続けていた。

「・・・パターン5タイムオーバー」

平坦な声と共に、ペニスへの刺激が一切止まる。

快感の余韻にペニスが数度脈動し、射精が止んだ。

「あっ・・・」

あっけない絶頂の終わりに、彼は空気が抜けるような声を漏らし、全身を弛緩させた。

「お疲れ様でした。これで二つの場合による手淫プログラムver.12.5.4のテストは終了です」

脱力し、空気を貪るように呼吸する松田に向けて、マリーはにこやかに礼を述べた。

「それではこのまま、当初の予定通り貴方の身柄を第一魔力供給室へお送りさせていただきます」

彼女は屈みこむと、台の足元でいくつかの操作をし、固定されていたキャスターを解放した。

そして、松田の頭側にある取っ手を握ると、台ごと移動させ始めた。

「テストへのご協力、誠にありがとうございました」

 

 

 

続く






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