カードデュエリスト渚
「よし……まずは『光の封陣』を使用、対象は『陶酔のウツボカズラ』!!」
ウツボカズラの足元に魔法陣が出現し、その動きが止まった。
よし、これで一ターンの間は動けないはず――念には念だ、これで撃破に失敗しても一ターンは持つ。
そして、次に――
「『ねこまた』、『陶酔のウツボカズラ』を攻撃だ――」
『ふにゃ!』
ねこまたは勇ましい鳴き声を上げ、不気味なウツボカズラに飛び掛かっていた。
そして、その表面にペロペロと舌を這わせる――そもそも植物相手に、イかせることができるのか?
……いや、出来るはずだ。無敵のカードなどが存在したら、デュエルなど成り立たない。
あの不気味なウツボカズラさえ、ここで召喚できるモンスターということは女性型。
それなら、絶頂させることは出来るはずである。だが――
「くっ、駄目か……」
結局ねこまたはウツボカズラの壷状ボディを舐め続けたが、撃破することはできなかった。
「くっ――!」
とりあえず『陶酔のウツボカズラ』の動きを封じているとはいえ、大ピンチには違いない。
この厄介なウツボカズラが撃破できなければ、敗北ターンを先延ばしにしただけの話なのだ。
何ターンも先延ばしにして引き分けに持ち込むのなら話は別だが、そんな効力を持つカードはもうない。
「読み違えましたね、お兄さん。第二段階まで成長した『陶酔のウツボカズラ』は、その程度の攻撃では撃破できません――」
……と言うことは、より強いカードだったならば撃破できたのだ。
『ねこまた』は、単に力不足だったまで――
「では、私のターンですね。ドローです……」
アイリスはカードを引き、それを召喚しようとせず手札に控えた。
「『陶酔のウツボカズラ』は動けませんね。『月夜のレディバンパイア』は――防御です。これでターンエンド」
「……」
やはり、予想通りだ。
僕が場に出している『ねこまた』は、『陶酔のウツボカズラ』の大事なエサ。
『月夜のレディバンパイア』で、攻撃を仕掛けてくるはずがない事は予想済み。だが――
「よし、ドローだ!」
デッキは残り二枚――引いたカードは、『オクトパスレディ』。
すると僕の次のターンで引くカードは、『癒しと安らぎのアルラウネ』ということになる。
「召喚だ、『オクトパスレディ』――!」
カードから現れたのは、下半身がタコとなっている綺麗な女性。
『何に絡み付けばよいのですか、マスター?』
オクトパスレディは、僕に指示を仰いだが――が、すぐには答えられなかった。
場に出ている僕のモンスターは、『ねこまた』と『オクトパスレディ』。
それに対し、アイリスのカードは『月夜のレディバンパイア』と『陶酔のウツボカズラ』。
また彼女は手札として一枚を控え、次のターンでさらにドローするのである。
『ねこまた』と『オクトパスレディ』の連携攻撃でどちらかの敵を潰したところで、次のターンでは二体召喚。
仮に手札が魔法カードだったとしたら、余計に面倒だ。
どう足掻いても次のアイリスのターンで集中攻撃を食らい、『ねこまた』と『オクトパスレディ』は撃破。
次のターンで僕が引くのは『癒しと安らぎのアルラウネ』、それに対し場の敵は三体。
なんとか『癒しと安らぎのアルラウネ』がうち一体を撃破したとして、次のターンでアイリスがドロー、敵は三体に。
三体いれば、『癒しと安らぎのアルラウネ』を撃破した上で、僕を攻撃するのに十分――こういう流れで、最終ターンにおいて決着。
仮にアイリスのカードに魔法カードが混じっていたとしても、それが役に立たないカードであるはずがない。
結局のところ、最も理想的に、こちらに都合良くデュエルが進んだところで、最終ターンで敗北は避けられないのだ。
アイリスが控えている手札が強力なカードならば、もはや次のターンで勝負は決まる――
……絶望、だった。
もはや、勝機はない。
「その様子だと……デッキに残った一枚も、大して強力なカードではないようですね。
だとすると……最終ターンで、私の勝ち。次に私がドローするカードによっては、ただちに勝負が決まりますけれど」
「くっ……」
見事に、読まれている。
「降参はなしですよ。お兄さんがウツボカズラに溶かされるまで、デュエルをやめてはあげませんから……」
アイリスは、くすくすと笑う。
「……」
もう、僕には負け決定の上でデュエルを続けるしか道はないのだ。
「『ねこまた』と『オクトパスレディ』、『月夜のレディバンパイア』に――」
ほとんど投げ槍で放った、そんな僕の指示――それを途中で掻き消したのは、鋭い女性の声だった。
「ここで、何をしているのかしら……!?」
不意に響いたそんな声が、場の空気を硬直させた。
同時にデュエルフィールドが歪み、時空に直径三メートルほどの大きな穴が開く。
そこから姿を見せたのは――なんと、ラサイアさんだった。
「そんな、デュエルフィールドに横合いから割り込むなんて……」
驚きの表情で、そう呟くアイリス。
それはマナー云々の問題ではなく、そんな事ができる人間がいるなんて聞いたこともない。
いったいラサイアさんは、どうやってこの穴を開けたのだ……?
ともかく突然の彼女の登場に、デュエル――いや、僕の負け勝負はストップしてしまった。
「……ダリア、このお姉さんは何をしたのです?」
時空の穴の向こうは元の世界――つまり、カードショップ前の通り。
ダリアもそこで、呆然と立ちすくんでいた。
「分からないよ……何か、カードを使ったようなんだけど……」
彼もさっぱり分からない様子で、そう呟くしかなかった。
「ちょっとしたレアカードの効力よ、気にしないで。
ともかく……渚君。その少女は、初心者の君が相手にするには厄介過ぎるんじゃないかしら?」
「……」
「分かっていたはずよね、自分よりも遙かに格上の相手だと――
それを承知で挑むのは勇気じゃない、ただの蛮勇よ」
ラサイアさんの言葉に対し、僕は黙り込むしかなかった。
初実戦の相手としては、あまりに強すぎた――それは、最初から分かっていた。
それでも、僕はデュエルに応じてしまったのだ。
「お姉さん、邪魔しないでもらえますか? もうデュエルも佳境だというのに――」
ようやく気を取り直したアイリスは、突然に乱入してきたラサイアに向かって告げた。
「……その通りです。これは僕の勝負ですから、手出し無用です――」
僕とて、そう言うしかなかった。
ここにラサイアさんが現れたからと言って、状況が変わるわけでもない。
僕の敗北は、ほぼ決定しているのだ――
しかしラサイアさんは、弟のダリアの方へと視線を向けていた。
「暇そうね、お嬢ちゃん。私とデュエルしない? いっそこの二人もまとめて、タッグデュエルで――」
「なるほど、そう来たか……上手だね、お姉さん。ただしボクは男だよ」
ダリアも気を取り直した後、アイリスそっくりの顔でくすくすと笑った。
タッグデュエル――変則デュエルの一つで、二体二のタッグ方式である。
つまりラサイアさんは僕と組んで、アイリスとダリアの双子を相手にする――そういうことだ。
「確かに面白そうだけど……この状態からの飛び入りになるんだよ?」
「場は相当不利な状況にありますが、それでもよろしいのですか?」
そう告げる双子に対しても、ラサイアさんは涼やかな雰囲気を崩さない。
「構わないわ。この私が相手をするんだから――ちょうど良いハンデよ」
そして彼女はデッキからカードを抜き、時空の穴からデュエルフィールド内に入ってきた。
そのままデッキをデュエルテーブルに置き、ダリアに視線を向ける。
「お嬢ちゃん――じゃなかった、キミもどうぞ。その穴はすぐに閉じるわ」
「不思議なカードを持ってるんだね、お姉さん。他人のデュエルに割り込めるカードなんて、聞いたこともないよ」
感心したように呟きながら、ダリアもフィールド内に足を運び――デッキをデュエルテーブルに置いた。
時空の穴はみるみる塞がり、周囲にはひたすら草原の光景。
そんな中で、四人の男女はデュエルテーブルを囲むこととなったのである。
「先行は、デュエルを持ちかけられたダリア君の方からでいいわ」
ラサイアさんは、おもむろに言った。
「うん、分かった。まず先行はボク、次にお姉さん。
そして、今ターンが回ってきていたお兄さん、それからアイリス姉さんという順番でいいね?」
「ええ、問題ないわ……それともう一つ、提案があるの」
ラサイアさんは、軽く人差し指を立てる。
「勝利後に、敗者は勝者に一枚カードを譲るというアンティルール――これを、特別レートで二枚にしない?」
「……二枚ですか?」
「そんな事したら、タッグデュエルだから――」
流石の双子も、そして僕も――思わず、驚愕の表情を浮かべていた。
通常のタッグデュエルでは、負けた側は勝った二人にカードをそれぞれ一枚ずつ渡さなければいけない。
つまり勝者側は二人とも二枚のカードを得、敗者側は二人とも二枚のカードを失うということなのである。
それを二枚レートにするならば――勝者の二人はそれぞれ四枚のカードを獲得し、敗者の二人はそれぞれ四枚のカードを失うということ。
とてつもなく過酷なアンティであることは、言うまでもない。
「そういうわけで、いいかしら?」
「構わないけど……そちらこそ、それでいいの?」
「お兄さんの方は、すでに敗北も間近。プレイヤーの一人が絶頂すれば、二人とも負けになるのですよ?」
「さっきも言ったわ……あなた達程度の相手なら、ちょうど良いハンデよ」
「そ、そんな――!」
この中で唯一異論を唱えたのは、僕だった。
「ダメです、そんな……!」
「渚君、四枚のカードが惜しいのかしら?」
「そういうわけじゃありませんけど……このままじゃ、僕が足を引っ張ることに……」
「私のことなら心配いらないわ。もし負けたとしても、カードなんて捨てるほどあるから。
この状況であんな相手に勝てないようじゃ、私から『深紅の女騎士ヴァルキリアス』を取り返すのは一生掛かっても無理よ」
「……」
そうまで言われたら、僕だって引き下がることはできなかった。
これで、話は決まった――ラサイアさんも巻き込んでしまった以上、絶対に負けることはできない!
「デッキに残った枚数に差があるのはどうするの? お兄さんは一枚、アイリス姉さんは二枚しか残っていないけど――」
「タッグルール第七条第二項。途中参加で枚数差がある場合、デッキが尽きた者の山札は再構築される――よ」
ラサイアさんは、そんなマイナーなルールを暗唱する。
僕は知らなかったし、双子も同様に初耳のようだ。
「なるほど。お兄さんが残る一枚のカードを引いた後は、ここまでのデュエルで失ったカードがデッキに戻るわけですね」
思考を巡らせながら、アイリスは頷いた。
つまり残る一枚を引き終えた後は、『風刃のシルフ』や『いたずらピクシー』などがデッキに戻るということ。
そしてアイリスの方もデッキが尽きた後は、『さまよう貴婦人の屍』などが復活する。
問題は、そこまでターンが回るかどうかなのだが――
「あの……」
僕は声のトーンを落とし、ラサイアさんに話し掛けた。
もっとも僕が口出しするまでもなく、場に出ている『陶酔のウツボカズラ』の脅威には気付いているだろうが。
「ええ、分かっているわ。あれを何とかしないと、面倒そうね――」
とは言え、なんら物怖じした様子はない。
そしてラサイアさんは、ダリアの方に向き直った。
「私とダリア君は簡易デュエルの六枚じゃなく、標準ルールの十三枚でいいわね?」
「……うん、構わないよ。その方が、よりデュエリスト本来の実力を発揮できるしね」
そして、ダリアとラサイアさんはファーストドローを行った。
新規参入した二人は標準ルールの十三枚使用なので、最初に引くカードは三枚だ。
「召喚よ、『マザークラーケン』――残る二枚は手札に」
なんと二枚を手許に残し、ラサイアさんは一体だけモンスターを召喚していた。
そのカードから現れたのは、かなり強力そうな大型妖女。そのサイズは人の背丈の三倍はありそうだ。
下半身はクラーケン――イカを巨大化させたような体躯を持ち、上半身は艶めかしい美女。
『マザークラーケン』は無数の触手を周囲に這わせながら、妖艶な笑みを浮かべていた。
「で、でも……いくら強そうだといっても……」
ファーストドロー時のモンスターは、全て召喚してしまうのがセオリー。
なんらかの戦略があるのか、もしくは残る二枚は魔法カードだったのか。
ラサイアさんは、心配そうな僕の視線を察したようだ。
「……私のデッキは、渚君と戦った時と全く同じ。この意味が分かるわね?」
「え……?」
あの時と、全く同じデッキ構成ということは――
「じゃあ、ボクのファーストドローからは……」
ダリアは一枚を手許に控え、場に二枚のカードを出した。
「『泡魔女レイリーン』と『ラブリーラミア』を召喚しようか」
ダリアのカードから出現したのは、黒衣に杖を携えた艶やかな美女と――そして、愛らしい蛇少女。
かたやいかにも妖艶な魔女、かたや尻尾にピンクのリボンを付けたちびっこラミア。
妖艶な笑みとあどけない笑顔が、二つ並んでいたのだった。
「そして最初はボクのターン、ドローするよ」
ダリアはカードを抜いたが、それを場に出さなかった――手札に温存したのか、魔法カードか。
場に出ているダリアのモンスターは二体、アイリスの『月夜のレディバンパイア』と『陶酔のウツボカズラ』を合わせれば四体だ。
一方こちらは、ラサイアさんの『マザークラーケン』、そして僕の『ねこまた』と『オクトパスレディ』。
僕がダリアの立場だとしても、多分召喚は控えて手許に残しておく。
一体しかモンスターを呼び出さなかったラサイアさんは、何を狙っているのか分からないからだ。
「う〜ん……タッグデュエルは判断が難しいね。とりあえず『マザークラーケン』とやらの力量を見ておこうか。
『ラブリーラミア』、『マザークラーケン』を攻撃」
ダリアは、おそらく撃破されても構わないモンスターで未知の敵に攻撃命令を出していた。
『〜♪』
尻尾をぴこぴこさせながら、『マザークラーケン』のイカ状下半身を這い登ろうとする可愛らしいラミア。
彼女が攻撃を仕掛ける前に、イカそのものの巨大触手がラミアの全身を絡め取る。
『……!!』
そのまま『ラブリーラミア』は触手のとぐろに捕われ、姿が見えないほどに絡み込まれ――
そのとぐろが解かれた時、ラミアの姿はすでにそこにはなかった。
全身を苛む触手愛撫で、たちまち絶頂させられたのだ。
「ふーん。反撃能力もかなり高いみたいだね……」
この展開は予想していた、といった態度でダリアは呟く。
「それでも……第二段階まで成長したアイリス姉さんの『陶酔のウツボカズラ』を撃破するのは、無理そうだね」
「ええ……そのようですね。ありがとう、ダリア。『マザークラーケン』の力量が分かりました。
おそらく、レアリティB――ノーマル上位相当といったところでしょうか」
アイリスは、くすくすと笑みを浮かべる――これも、コンビプレイということか。
どうやら、『マザークラーケン』では『陶酔のウツボカズラ』は撃破できないというのはフェイクではなさそうだ。
すると、やはり面倒な事態に違いはない。
「次に、『泡魔女レイリーン』は――」
ダリアは、こちらのモンスタ――『マザークラーケン』、『ねこまた』、『オクトパスレディ』を見回す。
「反撃の厄介そうな、『ねこまた』をまず潰しておこうか――『泡魔女レイリーン』、『ねこまた』を攻撃」
『ふふっ……分かりました、マスター。では、この可愛らしい子猫ちゃんを昇天させてあげましょう』
黒衣の魔女は艶やかな笑みを浮かべ、そして軽く杖を振った。
同時に、ねこまたの股間にしゅわっと泡が溢れ出てしまう。
まるで、スプレーで泡を吹き付けられたかのように――
『……ふみぃ!?』
ビクッと体を震わせ、ぶくぶくの泡にまみれた股間に両手を伸ばすねこまた。
その泡を振り落とそうと抵抗するものの、両手が白い泡にまみれていくだけ――その表情は、みるみる恍惚に染まっていく
『ふにゃぁぁ……』
そうしているうちに、ねこまたは心地よさそうな顔で寝転がってしまった。
小刻みにビクビクと震えていた体が、たちまち消失していく――
レイリーンとやらが繰り出した泡魔術の愛撫で、絶頂させられてしまったのだ。
あの魔術的な攻撃には、ねこまたの反撃も通用しなかったらしい。
『泡魔女レイリーン』とやらは、かなり厄介な攻撃能力を持つ相手のようだ。
「……これで、ボクのターンは終わりだよ」
『陶酔のウツボカズラ』のエサになりうるモンスターが複数いる以上、『ねこまた』を生かしておく意味はないということか。
やはり『ねこまた』の高い反撃能力は、向こうにとっても厄介だったのだ。
「では、私のターンね――」
『マザークラーケン』を場に出し、手札は二枚。その状態で、ラサイアさんはカードをドローする。
そして、それを手札に控えてしまった。
「……それも召喚しないのですか? 大した自信ですね。
『マザークラーケン』の撃破は面倒そうですが、『陶酔のウツボカズラ』が第四段階まで成長すれば――」
「いや、魔法カードを使用するわ」
アイリスの言葉を遮り、ラサイアさんは一枚のカードを場に出した。
「『触手の呼び声』を使用――」
「……!?」
次の瞬間、アイリスとダリアの表情が硬直する。
「まさか、『呼び声』シリーズの一枚……?」
「レアリティAのカードを、お姉さんは――」
「知ってるみたいね……お二人とも」
ラサイアさんは指先でカードを弾き、場の中央にそのカードを飛ばす。
それは空中で弾け、山彦のような呻き声が周囲に響き渡った。
「『呼び声』シリーズは、大きな効力を秘めたレアな魔法カード。
デッキに入っている特定タイプのモンスターを、全て場に召喚する――」
「まさか、こんなレアカードをラサイアさんが――」
これは他のタウンでも有名な凶悪カードなので、僕も知っている。
かつて『ドラゴンの呼び声』で六体のドラゴン系モンスターを呼び出され、大苦戦したことがあったのだ。
そして『触手の呼び声』は、その名からして触手系モンスターを――
「私のデッキから、触手系モンスターが全て召喚されるわ」
『マザークラーケン』に並び、新たに場へと現れたのは三体。
ラサイアさんとのデュエルで見た『ダークスキュラ』に『レディローパー』。
そして僕の持っているものと同じ『オクトパスレディ』――決して上級ではなさそうな三体だ。
この中では、おそらく『マザークラーケン』が最も強いだろう。
「どんな強力なモンスターが出てくるかと思えば……お姉さん、モンスターカードの収集はサボったみたいだね」
「『触手の呼び声』などというレアカードを持っていながら……そのモンスター陣は、なんともお粗末です」
ダリアとアイリスは、揃ってそっくりな笑みを浮かべる。
「この状況を見て笑えるのなら、三流ね。大会出場クラスのデュエリストならば、顔色を青くしているわ――」
ラサイアさんは涼やかに応じた後、敵モンスターを見定めた。
場に出ている敵モンスターは、『泡魔女レイリーン』、『月夜のレディバンパイア』、『陶酔のウツボカズラ』の三体。
「じゃあ――『オクトパスレディ』、『月夜のレディバンパイア』を攻撃」
「ダメだ、それじゃ――!」
『では、あの者を絡め取りましょう……』
僕の制止も虚しく、『オクトパスレディ』は『月夜のレディバンパイア』に攻撃を仕掛けていた。
八本の触手を、女吸血に向かって伸ばす――
『……遅い。我がそのようなものに絡め取られるか』
それを『月夜のレディバンパイア』は華麗なステップで潜り抜け、『オクトパスレディ』の上半身にマントを絡めていた。
『そんな……あ、あぁぁぁぁぁ――!!』
そのまま一気に『オクトパスレディ』を絶頂に導き、逆に撃破してしまったのだ。
やはり、恐ろしいまでの反撃能力。
うかつな攻撃は余りにも危険すぎる相手――『月夜のレディバンパイア』。
このモンスターが場にいるだけで、敵プレイヤーを守る強力な壁となる。
「ふふ、見ての通りです。『月夜のレディバンパイア』にうかつに手を出すと、逆に吸われてしまいますよ?」
アイリスはくすくす笑い――
「あら、それは怖いわね。じゃあ、残りは全員防御、ターンエンドよ」
ラサイアさんは、それを意に介さずあっさりと告げたのだった。
「……」
そして、僕のターンだ。
今のラサイアさんの行動は、わざと『オクトパスレディ』を撃破させたようにしか見えない。
そうだとすると、これは――
「デッキは僕と戦った時と変わっていないって……そう言いましたね」
「ええ……その通りよ」
「なら――」
僕は、デッキから最後のカードを引いた。
『癒しと安らぎのアルラウネ』――絵柄を見ずとも分かっている。
「『癒しと安らぎのアルラウネ』を召喚! そして――」
さっきのラサイアさんの行動は、僕へのメッセージだ。
彼女の持っている『あのカード』を、有効に使うために支援しろ、と――
「『オクトパスレディ』、『月夜のレディバンパイア』を攻撃!」
「……?」
目を丸くする双子の前で、下半身がタコの美女は俊敏なる女吸血鬼に挑み掛かる。
しかし先程のラサイアさんの時と同様、あっという間にマントにくるまれて返り討ちに遭ってしまった――
「……ふふっ」
その光景を前に、ラサイアさんは軽く微笑んでいた。
やはり、これで良かったのだ――
「『癒しと安らぎのアルラウネ』は防御、これでターンエンドだ」
場に出ているこちらのカードは、『癒しと安らぎのアルラウネ』に『マザークラーケン』、『ダークスキュラ』、『レディローパー』の四体。
そしてラサイアさんは、二枚のカードを手札として控えている。
対する敵モンスターは、『泡魔女レイリーン』、『月夜のレディバンパイア』、『陶酔のウツボカズラ』の三体。
数はこちらより少ないものの、かなり強力なモンスター達だ。
「……アイリス姉さん」
「ええ、分かっています――」
この幼い姉弟とて、熟練のデュエリスト。こちらが醸し出す不気味な気配は、感じ取っているはずだ。
「うかつに動きたくはありません――が、そうも言っていられないようですね」
そう言いながら、アイリスはカードを引く。
「召喚です、『哀しみの雪女』――」
カードから現れたのは、凍気を全身に纏った和服の美女。
「まずは『陶酔のウツボカズラ』、『レディローパー』を攻撃――」
人の胴体ほどのサイズのウツボカズラから、しゅるしゅるとツタが伸びた。
それは、『レディローパー』の体へと絡み付いていく。
『……?』
『レディローパー』は両腕の触手を振り乱してもがくものの、ツタに絡め取られ――
ウツボカズラ本体に引き寄せられるにつれ、その顔がぼんやりとしていった。
あれは――匂いのせいか。
ウツボカズラの中から放たれる芳香が、獲物を陶酔に浸らせるのだ。
そうして無抵抗になった獲物を中に閉じこめ、溶かしてしまう――
「噂には聞いてたけど……実際に見ると、つくづく悪趣味なモンスターね。使い手の精神が伺えるわ」
その光景を見据え、ため息混じりに呟くラサイアさん。
『レディローパー』は恍惚の表情のままウツボカズラに引き摺り込まれ、その小柄な体がぐっぽりと呑み込まれてしまった。
蓋の部分が閉まり、『陶酔のウツボカズラ』は『レディローパー』を閉じこめてしまう――
あのまま絶頂させられた上で溶かされ、中で撃破されてしまうのだ。
そして――
「本当に悪趣味なモンスターね。小さい頃からこんなのに馴染んでいたら、精神がねじ曲がるわよ」
むくむくと、再び肥大していく『陶酔のウツボカズラ』。
もはや、人間大のサイズまで呑み込めるほどの大きさになってしまっている。
「次に『月夜のレディバンパイア』と『哀しみの雪女』は、『癒しと安らぎのアルラウネ』へ連携攻撃――」
『了解した……もっとも、二人もいらぬとは思うが。慎重だな、マスター』
『……感じて下さい。私の哀しみを――』
そう囁きながら雪女はアルラウネの体に密着し――ひんやりとした感触を味わわせてきた。
『あぁ……』
単にしがみつかれているようにも思えるが、それは相当に心地よいらしい。
冷気の愛撫が気持ちいいのか、アルラウネはうっとりとした表情を浮かべ――そこに、女吸血鬼はマントを被せた。
『あ、あぁぁぁ……』
冷気とマントの愛撫が合わさり、『癒しと安らぎのアルラウネ』はたちまち絶頂してしまう――
花の精は、女吸血鬼のマントの中で姿を消してしまったのだ。
「……以上、ターンエンドです」
きっぱりと告げるアイリス。
このターンで二体が撃破され、場に残ったのこちらのモンスターは『マザークラーケン』と『ダークスキュラ』。
向こうは、アイリスの『月夜のレディバンパイア』に『陶酔のウツボカズラ』、『哀しみの雪女』、そしてダリアの『泡魔女レイリーン』。
『マザークラーケン』はかなり強そうだとはいえ、この猛攻を耐え抜けるものだろうか――
「じゃあ、僕のターンだね……」
ダリアはカードをドローし、即座に引いたモンスターを場に出す。
「『ねちょねちょスライム』、召喚――」
カードから現れたのは、スライム状の粘体で形成された可愛らしい少女の姿。
その体を形作るスライムの粘度は非常に高く、ネバネバと粘液の糸を引いている――
「そして……『泡魔女レイリーン』と『ねちょねちょスライム』の連携で、『ダークスキュラ』を攻撃――」
やはり、向こうはかなり慎重に来ているらしい。
二体一で、確実に撃破できるように攻撃を仕掛けてくるのだ。
『ふふ……私の泡にまみれ、昇天しなさい』
レイリーンが杖を振ると同時に、褐色のスキュラの陰部が泡に包まれた。
それと同時に、スライム少女はスキュラへと飛び掛かり――そのまま、グチョグチョとまとわりつく。
『あ、ううぅぅ――』
全身をスライムに嫐られ、触手を振り乱して喘ぐスキュラ。
人間の女性器にあたる部分には繊細な泡がしゅわしゅわと絡み、おそらく強烈な快感を与えられているのだ。
スライムの中に沈み込むように、スキュラの体は倒れ――そのまま微かに痙攣した後、消滅してしまった。
「……これで、ターンエンド」
そしてダリアは、ターンの終了を宣言する。
場に残ったこちらのモンスターは、もはや『マザークラーケン』のみ。
それに対し相手のモンスターは、アイリス有する『月夜のレディバンパイア』に『陶酔のウツボカズラ』、『哀しみの雪女』。
そしてダリアの有する『泡魔女レイリーン』と『ねちょねちょスライム』――総勢五体。
これでは、いかにラサイアさんと言えども――
「じゃあ、私のターンね……」
ラサイアさんはデッキからカードを引き、手札に加えた。
そして、僕の方へと視線をやる。
「心配しないで、渚君。これで、私達の勝ちよ――」
「えっ……!?」
「魔法カード使用、『失われし触手の継承』――」
ラサイアさんが場に出したカードは、僕とのデュエルでも使用したカード。
そのデュエルにおいて撃破された触手系モンスターの力を、全て継承してしまう強力な魔法カードである――
「そ、そんな……」
「まさか、そんなカードが……」
ダリアとアイリスも、そう呟くしかなかった。
そのカードの効力で、『マザークラーケン』の体に無数の触手が備わっていく。
これまで撃破された『レディローパー』、『ダークスキュラ』、そして『オクトパスレディ』二体――全部で、四体分の触手。
『マザークラーケン』はその巨体の下半身と両腕に恐ろしい量の触手を渦巻かせ、もはや別物のモンスターと化していた。
「さらに魔法カード――」
なんとラサイアさんは、その上で魔法カードを場に出す。
「『大地を埋める触手』――触手系モンスターの攻撃を、全体化させるカードよ」
攻撃の全体化――たった一度の攻撃が、この場にいる敵モンスター全てに届くということか?
対象となる種族が限定されているとはいえ、それは非常に恐ろしいカードだ。
ここまで強化された『マザークラーケン』の攻撃を、さらに全体化してしまうなんて――
「全体化なんてカードが……まさか……!」
「反則だよ、こんなの――」
この強力すぎるコンボの前に、双子も呆然とするしかなかった。
かくいう僕も、口を開けたまま硬直してしまっている。
「じゃあ、行くわよ。『マザークラーケン』、攻撃――対象は敵全部」
『ふふ……、あはははははは……!』
哄笑とともに、『マザークラーケン』は下半身と両腕に渦巻く触手を蠢動させた。
それは前方一面に対し、まるで津波のような触手の大濁流となって襲い掛かる。
『月夜のレディバンパイア』も、『陶酔のウツボカズラ』も、『哀しみの雪女』も、『泡魔女レイリーン』も――
まとめて触手の波に呑み込んでしまい、慈悲も容赦もなく凄まじい渦に巻き込んでしまったのだ。
『ねちょねちょスライム』の体も、口を開けた触手でぱっくりと呑み込んでしまい――
触手の波が引いた後には、二人の双子が呆然とたたずむのみだった。
ほんの一ターンで、五体ものモンスターがまとめて葬られる――二人にとっては、悪夢そのものだろう。
「あ、ああ……」
「私の……ウツボカズラが……」
二人は放心した様子で、そう呟くしかなかった。
「さて、私はターンエンド。渚君のターンよ」
「えっ……? あっ、はい!」
あまりにも凄まじいラサイアさんのカードコンボの前に、僕まで呆然としていた。
前のターンで最後のカードを引いてしまったが、タッグデュエルにもつれ込んだことにより戦いは続行。
使い切ったデッキは、再生して引き直せるのがルールなのだという。
よってテーブルの上には、六枚のカードデッキが復活していた。
「よし、ドローだ!」
引いたカードは、『癒しと安らぎのアルラウネ』。
「召喚、『癒しと安らぎのアルラウネ』――!」
たちまちカードから現出される、美しい花の精。
そしてアイリスとダリアには、もはや守ってくれるモンスターはいない――
つまり『癒しと安らぎのアルラウネ』で、直接二人を攻撃できるのだ。
さて、どちらを狙うか――
『癒しと安らぎのアルラウネ』の攻撃力は高く、プレイヤー――すなわち人間ならばまず耐えられないはず。
どちらを絶頂させても、タッグデュエルは僕達の勝ちとなるのである。
「じゃあ『癒しと安らぎのアルラウネ』……敵プレイヤー、アイリスを攻撃――」
僕は少し悩んだ後、アイリス攻撃の指示を出していた。
彼女を選んだ理由は単純――最初に戦っていた相手が、アイリスの方だったからだ。
「あ、あぁぁぁぁ……」
目の前に立ちはだかるアルラウネを前に、少女は恐怖そのものの表情を浮かべる。
アイリスにとどめを刺すのが、心優しい『癒しと安らぎのアルラウネ』で幸い。
これが『オクトパスレディ』などだったら、妙な罪悪感を抱いてしまうところだ。
『大丈夫、怖がる必要はありません。私が優しく、癒して差し上げましょう――』
ゴスロリの衣服に包まれたアイリスの体に、しゅるしゅるとアルラウネのツタが絡んでいく。
それはスカートを引き裂き、下着を引きずり下ろして――たちまち、下半身を露出させていた。
その白い肌の太腿と、股間――そこには、縦筋のような可愛らしいワレメが見える。
『ふふ……ここを慰めて差し上げますね』
アルラウネは優しく微笑みながら、アイリスの体を背中側から抱き締めた。
そして少女の股間に、ゆっくりと薔薇のような花が近付いていく。
「や、やめてぇ……」
じたばたともがくアイリスだが、アルラウネのツタの前ではビクともしない。
そしてアルラウネの花が、まるで軽くキスするかのようにワレメへと接触した。
「あ……」
その感触に、アイリスの表情はみるみる緩んでいく。
とろんとした表情で足をもじもじと動かし、快楽に抗わなくなっていったのだ。
『そう……そのまま素直に、癒されて下さい』
アルラウネの花は鮮やかな花弁を広げ、少女の股間全体を包むように覆い込んでいた。
そのままくちゅくちゅと蠢き、幼い膣へと淫らに吸い付く花弁。
それは優しく少女の股間を責め抜き、じっくりと快楽の世界へ押し上げていった――
「あ……だめ、だめぇぇぇ……」
アイリスは涙を浮かべながら、その小さな体をガクガクと揺さぶっていた。
『癒しと安らぎのアルラウネ』の穏やかな責めで、ゆるやかに絶頂してしまったのだ。
アイリスがイった事により、タッグデュエルは僕とラサイアさんの勝利となった――
「……やったわね」
「ええ……」
僕は、ラサイアさんに対して頷いていた。
勝敗は決し、そしてデュエルフィールドは解除され――僕達四人は、カードショップ前の通りに戻されていた。
アイリスの破れたスカートも元通りになり、ダリアに抱き留められて荒い息を吐いている。
「大丈夫かしら、お嬢ちゃん……?」
「はい……すごく、気持ちよかったです」
微かに頬を紅潮させながら、アイリスは頷いたのだった。
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