カードデュエリスト渚
まあいい、『ねこまた』ならウツボカズラを倒せるだろう――たぶん。
そんな確証のまるでない予感の下、僕は決断した。
「よし……まずは『光の封陣』を使用、対象は『月夜のレディバンパイア』!!」
『封陣か、小癪なことを……』
そう呟く女吸血鬼の足元に魔法陣が出現し、その動きが止まる。
よし、これで一ターンの間は動けないはず。
この間に『ねこまた』が『陶酔のウツボカズラ』を倒してしまえば、一気に大逆転だ。
「『ねこまた』、『陶酔のウツボカズラ』を攻撃だ――」
『ふにゃ!』
ねこまたは勇ましい鳴き声を上げ、不気味なウツボカズラに飛び掛かっていた。
そして、その表面にペロペロと舌を這わせる――そもそも植物相手に、イかせることができるのか?
……いや、出来るはずだ。無敵のカードなどが存在したら、デュエルなど成り立たない。
あの不気味なウツボカズラさえ、ここで召喚できるモンスターということは女性型。
それなら、絶頂させることは出来るはずである。だが――
「くっ、駄目か……」
結局ねこまたはウツボカズラの壷状ボディを舐め続けたが、撃破することはできなかった。
これは一転して、非常にまずい事態である――
「読み違えましたね、お兄さん。第二段階まで成長した『陶酔のウツボカズラ』は、その程度の攻撃では撃破できません――」
……と言うことは、より強いカードだったならば撃破できたのだ。
『ねこまた』は、単に力不足だったまで――
「では、私のターンですね。ドローです……」
アイリスはカードを引き、それを召喚しようとせず手札に控えた。
もはや、そのカードを使う必要もないのだ――
「では『陶酔のウツボカズラ』、『ねこまた』を――溶かしてあげて」
「くっ……!」
人の胴体ほどのサイズのウツボカズラから、しゅるしゅるとツタが伸びた。
それは、ねこまたの体へと絡み付いていく。
『――ふにっ!?』
ねこまたはジタバタともがくものの、ツタに絡め取られ――
ウツボカズラ本体に引き寄せられるにつれ、その顔がぼんやりとしていった。
あれは――匂いのせいか。
ウツボカズラの中から放たれる芳香が、獲物を陶酔に浸らせるのだ。
そうして無抵抗になった獲物を中に閉じこめ、溶かしてしまう――
「次は、お兄さんの番ですからね……」
力なく中に引き込まれていくねこまたを眺めながら、アイリスは微笑を浮かべていた。
そのあどけなさとの裏には、サディスティックな色が隠れている――少女はウツボカズラに餌を与え、愉しんでいるのだ。
「次の私のターンでは、お兄さんがウツボカズラでドロドロに溶かされてしまうんです。
覚悟していて下さいね、とっても気持ちいいんですから……」
「くっ……!」
ねこまたは恍惚の表情のままウツボカズラに引き摺り込まれ、その小柄な体がぐっぽりと呑み込まれてしまった。
蓋の部分が閉まり、『陶酔のウツボカズラ』はねこまたを閉じこめてしまう――
あのまま絶頂させられた上で溶かされ、中で撃破されてしまうのだ。
そして――
「くそ、そんな……!」
むくむくと、再び肥大していく『陶酔のウツボカズラ』。
もはや、人間大のサイズまで呑み込めるほどの大きさになってしまっている。
そして予告通り、次のアイリスのターンに僕を――
恐怖とともに、快感への僅かな期待感が沸き上がってきていた。
「『月夜のレディバンパイア』は、このターンは動けませんね。では、ターンエンドです」
アイリスが自ターンを終了すると同時に、女吸血鬼を封じていた魔法陣が消滅した。
次のターンからは、こいつも動き出してしまうのだ。
「くっ、ドローだ……」
もはや、勝負は決まってしまった――
場に出ている僕のモンスターは存在せず、これから引くカードが召喚できるのみ。
デッキに残されたカードは二枚、『癒しと安らぎのアルラウネ』か『オクトパスレディ』のどちらか――決して強力なモンスターではない。
それに対し、アイリスが場に出しているのは『月夜のレディバンパイア』と『陶酔のウツボカズラ』。
どちらも強力で、僕のカードでは歯が立たない相手――絶望である。
「召喚だ、『オクトパスレディ』……!」
僕の引いたカード――『オクトパスレディ』を、場に出す。
カードから現れたのは、下半身がタコそのものとなっている綺麗な女性。
彼女一人で、『月夜のレディバンパイア』と『陶酔のウツボカズラ』の相手をしなければいけない――
もはや、撃破されるために呼び出されたようなものだ。
『何に絡み付けばよいのですか、マスター?』
「『オクトパスレディ』、『陶酔のウツボカズラ』を攻撃だ――」
『月夜のレディバンパイア』は反撃能力を有している以上、下位のモンスターが攻撃を仕掛けるだけでも危険。
よってどう見ても反撃能力のなさそうな、ウツボカズラを攻撃するより他にない。
『分かりました、マスター。しかしあの敵に、私などの攻撃が通じるかどうか――』
オクトパスレディは八本足をしゅるしゅると伸縮させ、巨大ウツボカズラ全体に絡み付かせる。
そのままぐにょぐにょと蠢かせて愛撫を繰り出すが――やはり、効果はなかった。
「ぐっ……! ダメか……!」
「無駄ですよ、お兄さん。『陶酔のウツボカズラ』のレアリティはA。その程度のカードでは、歯も立ちません」
レアリティSである『深紅の女騎士ヴァルキリアス』があったなら、こんな奴――
そう考えてしまっているのは、間違いなく敗者の思考そのものだった。
もはや絶望――なのである。
おそらく次のターンで『月夜のレディバンパイア』が、『オクトパスレディ』を撃破する。
そして守るモンスターのいなくなった僕を、『陶酔のウツボカズラ』が――
「……ターンエンド、だ」
それでも、僕はターンを終えるしかなかった。
できることなど、もはや何もないのだ。
「では、ドローですね――」
アイリスはカードをドローし、それを手札に控えていた。
彼女の手許にある札は二枚、もはや召喚する必要もないのだろう。
「まず……『月夜のレディバンパイア』、『オクトパスレディ』を攻撃」
『……では、吸わせて頂こうか』
無言でオクトパスレディの眼前まで踏み込んできた女吸血鬼が、軽くマントを翻す。
たちまちオクトパスレディは、マントの中にくるみ込まれてしまった――
『あ、あぁぁぁぁ……!』
そんな悲鳴だけを残し、僕のモンスターはマントの中へと消えてしまう。
数秒ほどもがいていたが、その動きが鈍くなり――やはり、そのまま存在自体が消失してしまった。
「はい、まず一体……」
女吸血鬼のマントの中でオクトパスレディはイかされ、撃破されてしまったのだ。
その様子を眺め、アイリスは酷薄に目を細めていた。
「ふふ……覚悟は出来ましたか、お兄さん?」
「あ、あぁぁ……」
僕を守るモンスターは、もうこの場にいない。
そしていよいよ、『陶酔のウツボカズラ』の攻撃が――
「素敵な顔ですね、お兄さん……怯えと期待が入り交じった顔。
これから、ウツボカズラに溶かされちゃうんですよ? 覚悟はできましたか?」
「い、いやだ……やめてくれ……」
くすくす笑うアイリスに見据えられながら、僕は身を震わせるしかなかった。
こんなに小さい少女に懇願するという屈辱――それよりも、恐怖感の方が勝っている。
「降参なんて駄目ですよ。お兄さんはウツボカズラの中で陵辱され、イかされ、溶かされるのですから――
では――『陶酔のウツボカズラ』、敵プレイヤーに攻撃」
「ひ、ひぃぃぃぃぃ……!!」
アイリスの残酷な指示とともに、ウツボカズラからツタがしゅるしゅると伸びた。
それは、僕の体にじっくりと絡まっていく。
「や、やめてくれぇ……!」
ずるずるとウツボカズラに引き寄せられながら、僕はそう叫ぶしかなかった。
「……嫌がっても無駄ですよ、お兄さん。ウツボカズラの中でとろけて下さい。
最初はみんな怖がりますが、すぐ癖になりますから……」
そう囁くアイリスの目は、どこまでも酷薄だった。
まるで、彼女自身が人を食らう食虫植物のようだ――
「うぁ……いやだぁぁぁ……!」
ツルに絡まれ、引き摺られながらもがく僕――その鼻元に、甘い香りが漂ってきた。
それはなんとも心地よい、陶酔に浸ってしまうような芳香。
ウツボカズラの内部から放たれている、非常に安らかな匂いだ。
「あ、うぅ……」
それを嗅いでいるだけで、体から力が抜けていく――
僕は抵抗することも忘れ、そのまま無抵抗にウツボカズラへと引き寄せられていった。
その植物の壷が、僕を呑み込もうとぱっくり口を開ける――その中に満たされているのは、琥珀色の消化液。
この中で、僕は溶かされてしまう――そう考えただけで、ペニスは最大限にまで勃起していた。
「あ、あぁぁ……」
そのまま僕はツタによって持ち上げられ、足の方からウツボカズラに呑み込まれていく。
足先から膝、太腿と消化液に浸かっていき――さらに、ぶよぶよとした内壁の感触が僕を悦ばせた。
「あうっ……!」
張り詰めたペニスも消化液に浸かり、粘度の高い液体がねっとりと絡み付く。
その中に上半身までがどっぷりと沈み込み、とうとう全身が浸かってしまった。
「き、きもちぃぃ……」
まさに、とろけそうな感覚。
このヌルヌルとドロドロの感触の中で、心地よく溶け出してしまいそうな快楽――
陶酔の中で、ウツボカズラに溶かされる――こんな気持ちいいことがこの世にあったとは、信じられなかった。
「ふふ……中に入ったら、気持ちよくて抵抗する気も失うでしょう?
その中で、何人のデュエリストが果てたことか――お兄さんも、とろけて下さいね」
「あ、あぁぁぁぁぁぁ……」
アイリスは、愉悦の表情で僕を見守っている。
まるで、この少女自身に溶かされているような錯覚――
そのまま、ウツボカズラ全体が緩やかな蠕動を始める。
消化液に浸かった体を、ゆっくりと揉みほぐしてきたのだ。
ペニスにも粘りけに満ちた粘液が絡み、不思議なほどの快楽をもたらした。
身をよじりたくなるような強い快感ではなく、まさに陶酔の桃源郷。
「ふぁ、あぁぁぁ……」
その中で、まず意識がとろけていく。
ヌルヌルのお風呂に浸かりながら、全身を揉みほぐされているような感触。
得体の知れないウツボカズラに呑み込まれているというおぞましさなど嘘のようだ。
「そろそろですね、お兄さん。さあ、そのまま果てて下さい――」
「あ、うぅぅぅぅ……」
夢見心地のまま、僕は体をブルブルと震わせた。
びゅっ、びゅっ、びゅっと、脈打ったペニスから精液が放たれる。
消化液の中に撒き散らされた白濁も、たちまち琥珀色の粘液の中に混ざっていった。
「ふふ、漏らしましたね……顔を見れば分かります」
くす……とアイリスは笑った。
「では、溶かしてあげます。夢のような陶酔、じっくりと味わって下さいね……」
「あ、あぁぁぁぁぁ……」
かぱっ、とウツボカズラの蓋が閉じ、目の前の光景が遮断された。
ここは、もはやウツボカズラの中。
この粘液に浸かりながら、僕の体は溶かされていく。
甘い、甘い快感の中で――
「ああ、いいよぉ……」
ドロドロドロ……と、自身の体が崩れていくのが分かった。
痛くも苦しくもなく、むしろ驚くほど心地よい。
もはやデュエルの勝敗などどうでも良かった。
それは、まさに堕ちていくような悦楽だったのである――
そのまま僕は、アイリスの『陶酔のウツボカズラ』によって溶かされてしまった。
そして、あの敗北から一ヶ月――
アイリスに屈辱の敗北を喫してから、僕は一度たりとも勝つことができなかった。
その戦いで大切なものを失ってしまった僕は、もはやデュエリストの資格を返上していた。
それでは、今もこのF-タウンでデュエルを繰り返している僕は何者なのか――
「うんうん、『魅惑のスライム』に『セクシーエルフ』、『野良ラミア』か……」
カードショップから出て来た僕は、購入した三枚入りパックの中身を確認する。
いずれも平凡なカードだが、これでまたデュエルを行うことはできるのだ。
残りカード十二枚でデュエルを行えなくなっていたが、これで総数十五枚、三回負けても大丈夫なのである――
――こういう風に、働いて稼いだお金を、僕はひたすらカードの補充に費やしていた。
ただ、この町でデュエルを繰り返すためだけに――
「あら……お兄さん。今日もお会いしましたね」
「必死でボク達――いや、アイリスを探し回ってたみたいだね」
僕の姿を見付け、あの双子の姉弟はくすくすと笑っていた。
あのカードショップの前に毎日足を運べば、三日に一度はこの二人に会えるのである。
「デ、デュエルを……」
「分かっていますよ、お兄さん。今日も私のカードテクニックで果てたいのでしょう?」
「あ〜あ。もう、アイリスの虜だね」
僕はこくこくと頷き、期待に胸を膨らませる。
おそらく物欲しそうな視線を、アイリスに送っていただろう。
今日は彼女は、どんなデッキを組んでいるのか。
どんなカードで、僕を嫐ってくれるのか――
「あらあら……お兄さん、すっかり堕ちてしまいましたね」
「ドローンになっちゃったんだ……もう、精液吸われちゃうことしか考えられないんだね」
ドローン――すなわち、「溺れた者」。
このF-タウンにおいて、勝つ気もないのに快楽目当てでデュエルを繰り返す者のことだ。
その数はかなり多く、ひたすらカードを買っては快楽目的のデュエルを繰り返している――僕もその一人。
事実上カードを貢ぐだけの存在であり、まともなデュエリストとしては扱っても貰えないのだ。
「では、デュエルを始めましょう。今日も、ウツボカズラの中でじっくり溶かしてあげますね……」
あの見下したような微笑みを浮かべながら、アイリスはデッキを抜いたのだった。
「『陶酔のウツボカズラ』、プレイヤーを攻撃……ふふ、こうしてほしかったのでしょう?」
「あ、あぁぁぁぁぁぁ……!!」
最初に僕を堕としたモンスターで、アイリスはとどめを刺してきた。
ツタが僕の体を絡め取り、そして人を呑めるサイズにまで成長したウツボカズラに引きずり込まれる――
僕はたちまちウツボカズラの壷に浸かり、陶酔に浸ってしまった。
肩まで消化液に浸かり、まるでご褒美のようにウツボカズラの捕食を受け入れる――それは、たまらない快楽だった。
最近では何をしていても、アイリスに溶かしてもらうことしか考えられないのだ。
「ふぁ、あぁぁぁぁ……」
「お兄さんをこうして溶かしてあげるのも、もう何度目でしょうか……すっかり、虜になってしまいましたね」
くすくすとアイリスの嘲笑を受けながら、ウツボカズラの中でじっくりと溶かされていくのだ。
その興奮に耐えきれずびゅるびゅると精液を漏らしながら、消化液の中でとろけてしまう――
こうして今日も精液を吸われ、その上で溶かされて、屈辱に満ちた敗北を迎えた。
デュエルで敗北し、ウツボカズラのエサにさせられてしまう――僕は、その屈辱感と屈服感の虜になってしまったのである。
ドローン――「溺れた者」と呼ばれる理由が、そこにあった。
――こうして僕は、今日も敗北の味を愉しんだ。
屈服の快楽を味わいたいがためにデュエルを重ね、カードを失っていく。
そのカードがなくなった後は、稼いだお金をカードに変えて、それを奪われていく――快楽の代償として。
僕はもう、奈落の底に堕ちていくしかなかった。
デュエルで犯される快感に身も心も委ね、僕はひたすらF-タウンに溺れていくのである。
−BAD END−
この娘さんに搾られてしまった方は、以下のボタンをどうぞ。
この娘さんに食べられてしまった方は、以下のボタンをどうぞ。