カードデュエリスト渚


 

 「あ、あぐ……うっ……!」

 僕は、まだまだこんなところで負けるわけにはいかない――

 『深紅の女騎士ヴァルキリアス』を実力でラサイアさんから取り返すまでは、負けるわけにはいかないのだ。

 その一念で、なんとか僕は『吸精の蛸』の狂おしい精液吸引を耐え抜いていた。

 「はぁ、はぁ……」

 腰に貼り付いている生物の肉穴の蠢きは収まり、沸き上がっていた絶頂の渦が退いていく。

 それでも動きがなくなっただけで、『吸精の蛸』は僕の股間に貼り付いたまま。

 次のダリアのターンで、またあの狂おしい吸引が始まるのだ。

 

 「すごいね……お兄さん。でも、次に吸われたらアウトかな?」

 「……ッ」

 認めたくはないが、ダリアの言う通りだ。

 この三十秒は気合いで耐え抜いたが、もうこれ以上は絶対に無理。

 なんとか回ってきた僕のターンで勝負を決めてしまわないことには、もはや敗北は避けられない。

 「ドローだ!」

 そして引いたカードは『オクトパスレディ』だった。

 場に出ている僕のカードは『ねこまた』、ダリアのカードは『純潔のプリースト』。

 手札には『光の封陣』があるが、『純潔のプリースト』の動きを封じても意味はないし、『吸精の蛸』には通じない。

 このターンで勝負を決めるなら、『オクトパスレディ』と『ねこまた』の連携攻撃はダメだ。

 『純潔のプリースト』を撃破しただけで、ダリアにターンを回してしまう――そうなれば、次の吸引には耐えられない。

 ……とすると、『オクトパスレディ』か『ねこまた』のどちらかで『純潔のプリースト』を崩す。

 そして、残った一方でダリアを直接攻撃――ということになるが、そう上手く行くはずがない。

 間違いなく、このレベルのカードでは『純潔のプリースト』は崩せない。

 正直なところ、『オクトパスレディ』と『ねこまた』の連携攻撃でも怪しいのだ。

 もはや、勝機はなくなった――これまで培ったデュエリストとしての勘は、そんな解答を導き出していた。

 どう足掻いても、これでは勝ちはない――

 

 「勝ち目はなくなったのかな? 絶望したみたいだね……」

 ダリアは僕の表情を読み取り、あどけない笑みを浮かべた。

 「でも、降参はナシだよ。負けを認めて、『吸精の蛸』に精液を吸ってもらってね」

 「くっ……!」

 もう、僕には負け決定の上でデュエルを続けるしか道はないのだ。

 僕は『オクトパスレディ』のカードを手に取り、場に出す――

 「召喚だ、『オクトパスレディ』――!」

 カードから現れたのは、下半身がタコとなっている綺麗な女性。

 『何に絡み付けばよいのですか、マスター?』

 オクトパスレディは、艶やかな笑みを浮かべながら指示を請う――

 が、このモンスターが何をしようとも、もう勝ち目はないのだ。

 「『オクトパスレディ』、『純潔のプリースト』に――」

 ほとんど投げ槍で放った、そんな僕の指示――それを途中で掻き消したのは、鋭い女性の声だった。

 

 「ここで、何をしているのかしら……!?」

 

 不意に響いたそんな声が、場の空気を硬直させた。

 同時にデュエルフィールドが歪み、時空に直径三メートルほどの大きな穴が開く。

 そこから姿を見せたのは――なんと、ラサイアさんだった。

 「そんな、デュエルフィールドに横合いから割り込むなんて……」

 驚きの表情で、そう呟くダリア。

 それはマナー云々の問題ではなく、そんな事ができる人間がいるなんて聞いたこともない。

 いったいラサイアさんは、どうやってこの穴を開けたのだ……?

 ともかく突然の彼女の登場に、デュエル――いや、僕の負け勝負はストップしてしまった。

 「……アイリス姉さん、このお姉さんはどうやってデュエルフィールドに入ってきたの?」

 時空の穴の向こうは元の世界――つまり、カードショップ前の通り。

 アイリスもそこで、呆然と立ちすくんでいた。

 「いえ……分かりません。何か、カードを使ったようなのですが……」

 彼女もさっぱり分からない様子で、そう呟くしかなかった。

 「ちょっとしたレアカードの効力よ、気にしないで。

  ともかく……渚君。その少女は、初心者の君が相手にするには厄介過ぎるんじゃないかしら?」

 「……」

 「分かっていたはずよね、自分よりも遙かに格上の相手だと――

  それを承知で挑むのは勇気じゃない、ただの蛮勇よ」

 ラサイアさんの言葉に対し、僕は黙り込むしかなかった。

 初実戦の相手としては、あまりに強すぎた――それは、最初から分かっていた。

 それでも、僕はデュエルに応じてしまったのだ。

 

 「お姉さん、邪魔しないでもらえる? もうすぐ、勝負が着くからね」

 ようやく気を取り直したダリアは、突然に乱入してきたラサイアに向かって告げた。

 「……その通りです。これは僕の勝負ですから、手出し無用です――」

 僕とて、そう言うしかなかった。

 ここにラサイアさんが現れたからと言って、状況が変わるわけでもない。

 僕の敗北は、ほぼ決定しているのだ――

 しかしラサイアさんは、姉のアイリスの方へと視線を向けていた。

 「暇そうね、お嬢ちゃん。私とデュエルしない? いっそこの二人もまとめて、タッグデュエルで――」

 「そう来ましたか、お姉さん……その方を助けるため、頭を使いましたね」

 アイリスも気を取り直した後、ダリアそっくりの顔でくすくすと笑った。

 タッグデュエル――変則デュエルの一つで、二体二のタッグ方式である。

 つまりラサイアさんは僕と組んで、アイリスとダリアの双子を相手にする――そういうことだ。

 「それは面白そうですけど……この状態からの飛び入りになりますよ?」

 「お兄さんはギリギリだけど、それでもいいの?」

 そう告げる双子に対しても、ラサイアさんは涼やかな雰囲気を崩さない。

 「構わないわ。この私が相手をするんだから――ちょうど良いハンデよ」

 そして彼女はデッキからカードを抜き、時空の穴からデュエルフィールド内に入ってきた。

 そのままデッキをデュエルテーブルに置き、アイリスに視線を向ける。

 「お嬢ちゃんもどうぞ。その穴はすぐに閉じるわ」

 「不思議なカードを持ってるいるのですね、お姉さん。他人のデュエルに割り込めるカードなど、初耳です」

 感心したように呟きながら、アイリスもフィールド内に足を運び――デッキをデュエルテーブルに置いた。

 時空の穴はみるみる塞がり、周囲にはひたすら草原の光景。

 そんな中で、四人の男女はデュエルテーブルを囲むこととなったのである。

 

 「先行は、デュエルを持ちかけられたお嬢ちゃんの方からでいいわ」

 ラサイアさんは、おもむろに言った。

 「分かりました。まず先行は私、次にお姉さん。

  そして、今ターンが回ってきていたお兄さん、それからダリアという順番でよろしいですか?」

 「ええ、問題ないわ……それともう一つ、提案があるの」

 ラサイアさんは、軽く人差し指を立てる。

 「勝利後に、敗者は勝者に一枚カードを譲るというアンティルール――これを、特別レートで二枚にしない?」

 「……二枚ですか?」

 「そんな事したら、タッグデュエルだから――」

 流石の双子も、そして僕も――思わず、驚愕の表情を浮かべていた。

 通常のタッグデュエルでは、負けた側は勝った二人にカードをそれぞれ一枚ずつ渡さなければいけない。

 つまり勝者側は二人とも二枚のカードを得、敗者側は二人とも二枚のカードを失うということなのである。

 それを二枚レートにするならば――勝者の二人はそれぞれ四枚のカードを獲得し、敗者の二人はそれぞれ四枚のカードを失うということ。

 とてつもなく過酷なアンティであることは、言うまでもない。

 「そういうわけで、いいかしら?」

 「構いませんが……そちらこそ、良いのですか?」

 「お兄さんの方は、すでに負けそうなんだよ? プレイヤーの一人がイけば、二人とも負けになるんだよ?」

 「さっきも言ったわ……あなた達程度の相手なら、ちょうど良いハンデよ」

 「そ、そんな――!」

 この中で唯一異論を唱えたのは、僕だった。

 「ダメです、そんな……!」

 「渚君、四枚のカードが惜しいのかしら?」

 「そういうわけじゃありませんけど……このままじゃ、僕が足を引っ張ることに……」

 「私のことなら心配いらないわ。もし負けたとしても、カードなんて捨てるほどあるから。

  この状況であんな相手に勝てないようじゃ、私から『深紅の女騎士ヴァルキリアス』を取り返すのは一生掛かっても無理よ」

 「……」

 そうまで言われたら、僕だって引き下がることはできなかった。

 これで、話は決まった――ラサイアさんも巻き込んでしまった以上、絶対に負けることはできない!

 

 「デッキに残った枚数に差があるのはどうしますか? お兄さんは二枚、ダリアは一枚しか残っていませんが――」

 「タッグルール第七条第二項。途中参加で枚数差がある場合、デッキが尽きた者の山札は再構築される――よ」

 ラサイアさんは、そんなマイナーなルールを暗唱する。

 僕は知らなかったし、双子も同様に初耳のようだ。

 「なるほど……ボクがこの最後のカードを引いた後は、ここまでのデュエルで失ったカードがデッキに戻るわけだね」

 思考を巡らせながら、ダリアは頷いた。

 つまり彼が残る一枚を引き終えた後は、『泡魔女レイリーン』や『お散歩ハーピー』などが再びダリアのデッキに復活するのだ。

 かく言う僕もデッキが尽きた後は、『風刃のシルフ』や『いたずらピクシー』がデッキに戻るということ。

 問題は、そこまでターンが回るかどうかなのだが――

 「あの……」

 僕は声のトーンを落とし、ラサイアさんに話し掛けた。

 「無理です、もう耐えられません。次のダリアのターンで、僕は――」

 「……あと一ターン、耐え抜いて。それなら、私が何とかする」

 「そ、そんな……!」

 「根性見せなさい、デュエリストならね――」

 そしてラサイアさんは、ダリアの方に向き直る。

 「私とアイリスちゃん……だっけ? その二人は簡易デュエルの六枚じゃなく、標準ルールの十三枚でいいわね?」

 「ええ……じっくり楽しみましょう。その余裕があるのならば」

 そして、アイリスとラサイアさんはファーストドローを行った。

 新規参入した二人は標準ルールの十三枚使用なので、最初に引くカードは三枚だ。

 「召喚よ、『マザークラーケン』――残る二枚は手札に」

 なんと二枚を手許に残し、ラサイアさんは一体だけモンスターを召喚していた。

 そのカードから現れたのは、かなり強力そうな大型妖女。そのサイズは人の背丈の三倍はありそうだ。

 下半身はクラーケン――イカを巨大化させたような体躯を持ち、上半身は艶めかしい美女。

 『マザークラーケン』は無数の触手を周囲に這わせながら、妖艶な笑みを浮かべていた。

 「で、でも……いくら強そうだといっても……」

 ファーストドロー時のモンスターは、全て召喚してしまうのがセオリー。

 なんらかの戦略があるのか、もしくは残る二枚は魔法カードだったのか。

 ラサイアさんは、心配そうな僕の視線を察したようだ。

 「……私のデッキは、渚君と戦った時と全く同じ。この意味が分かるわね?」

 「え……?」

 あの時と、全く同じデッキ構成ということは――

 

 「では、私のファーストドローからは……」

 アイリスは一枚を手許に控え、場に二枚のカードを出した。

 「『月夜のレディバンパイア』と『リトルフェアリー』を召喚しましょう」

 アイリスのカードから出現したのは、漆黒のマントを羽織った妖艶な女吸血鬼。

 そしてもう一体は、掌サイズの可愛らしい妖精少女。

 彼女はあどけない微笑を浮かべ、蝶のような羽をはためかせながら宙に舞っている。

 かたやいかにも妖艶な女吸血鬼、かたや愛くるしいフェアリー。

 妖艶な笑みとあどけない笑顔が、二つ並んでいたのだった。

 「そして最初は、私のターンですね」

 アイリスはデッキからカードをドローし――それを、おもむろに場に出した。

 「さっそく引き当ててしまいました。このデュエル、運気は私達に向いていますね……『陶酔のウツボカズラ』、召喚です」

 「なんだ、あいつは……?」

 そして場に現れたのは、緑色のツボ状植物――食虫植物で有名な、ウツボカズラ。

 そのサイズは小さく、ちょうど握り拳を二つ合わせたぐらいだろうか。

 不気味な壷状ボディの中には、琥珀色の粘液が満たされているようだが――

 この奇妙なカードが、アイリスの切り札だという。

 こんな小さなサイズで、いったいどういった攻撃を繰り出してくるのだろうか。

 続けてアイリスの放った指示は、更に僕を仰天させた。

 「では『陶酔のウツボカズラ』、『リトルフェアリー』を攻撃です――」

 「な、なんだって……!?」

 なんとアイリスは、自分のモンスターに対して攻撃命令を出したのだ。

 そのウツボカズラはしゅるしゅると複数のツタを延ばし、仲間のはずの『リトルフェアリー』を絡め取っていた。

 そのままあどけない妖精少女は、粘液の満たされたツボの中に引き込まれていったのだ。

 それは、なんともおぞましい光景。ツボの中に引きずり込まれたフェアリーは、もがく様子さえ見せていないのだ。

 そして妖精少女は、ウツボカズラの中に沈んでいく――そのまま、再び姿を現わすことはなかった。

 あっという間に、フェアリーはウツボカズラに呑み込まれてしまったのだ。

 あれは、いったい――

 「『陶酔のウツボカズラ』は他のモンスターを捕え、溶かして養分にしてしまう厄介なモンスターよ。

  あんな悪趣味なモンスターを飼ってるなんて……使い手の精神を疑うわ」

 ラサイアさんは、ため息混じりに告げた。

 「そして、他のモンスターを捕食するごとに巨大化、強化していくの。

  最初はあのフェアリーみたいに、小型サイズのモンスターしか捕食できない。でも――」

 不意にウツボカズラの体が、ぐにょぐにょと蠢き始めた。

 まるで、中に閉じこめたフェアリーを咀嚼しているかのように――

 「そ、そんな……!?」

 そして蠢きが収まった次の瞬間、ウツボカズラは一回り肥大していた。

 さっきまでは握り拳二つ分の大きさだったのが、人間の胴体ほどに膨らんでしまったのだ。

 その余りのおぞましさに、身の毛がよだつ思いだった。

 ああして他のモンスターを捕え、養分にして大きくなっていくのか……?

 

 「ああなれば、中型のモンスターでも捕えることが可能になるわ」

 「……」

 その恐ろしいモンスターを前に、僕は戦慄していた。

 アイリスと戦っていたら、この不気味なモンスターを相手にしなければならなかったわけだ。

 「『月夜のレディバンパイア』は――『ねこまた』を攻撃」

 そしてアイリスは、残る女吸血鬼にも指示を出す。

 『了解した、マスター。あの妖猫を吸い尽くせばいいのだな』

 『……ふにぃ?』

 『月夜のレディバンパイア』は疾風のごとく『ねこまた』に接近し、そのマントを軽く翻した。

 俊敏な『ねこまた』でも避けられないほど身軽な動きで、相手の体をマントで包み込んでしまったのだ。

 そのままねこまたはマントにくるみこまれ。じたばたともがく――

 「そ、そんな……!」

 マントの中での動きはみるみる緩慢になり、そして動きはなくなり――

 ふっと、マントの中に包まれていた『ねこまた』の姿が消失した。

 マントにくるまれたままイかされ、撃破されてしまったのだ。

 『ふふ……精気に溢れたあやかしだ、美味しく吸わせてもらったぞ』

 敏捷性と反撃能力に優れているはずの『ねこまた』でさえ、何もできないままに葬られた――

 この女吸血鬼、かなりの強敵だ。

 

 「――これで、ターンエンドです」

 アイリスはそう宣言し、自ターンを終えた。

 向こうのチームが場に出しているモンスターは三体。

 二段階目まで成長した『陶酔のウツボカズラ』と『月夜のレディバンパイア』、そしてダリアの『純潔のプリースト』。

 それに対してこっちは、ラサイアさんの『マザークラーケン』と僕の『オクトパスレディ』。

 『マザークラーケン』はなかなか強そうで、かつ反撃能力も高そうだが――

 それでも向こうが連携攻撃で来たら、その守りは鉄壁とは言えない。

 「では、私のターンね――」

 『マザークラーケン』を場に出し、手札は二枚。その状態で、ラサイアさんはカードをドローする。

 そして、それを手札に控えてしまった。

 「……それも召喚しないのですか? 大した自信ですね。

  『マザークラーケン』の撃破は面倒そうですが、『陶酔のウツボカズラ』が第四段階まで成長すれば――」

 「いや、魔法カードを使用するわ」

 アイリスの言葉を遮り、ラサイアさんは一枚のカードを場に出した。

 「『触手の呼び声』を使用――」

 「……!?」

 次の瞬間、アイリスとダリアの表情が硬直する。

 「まさか、『呼び声』シリーズの一枚……?」

 「レアリティAのカードを、お姉さんは――」

 「知ってるみたいね……お二人とも」

 ラサイアさんは指先でカードを弾き、場の中央にそのカードを飛ばす。

 それは空中で弾け、山彦のような呻き声が周囲に響き渡った。

 「『呼び声』シリーズは、大きな効力を秘めたレアな魔法カード。

  デッキに入っている特定タイプのモンスターを、全て場に召喚する――」

 「まさか、こんなレアカードをラサイアさんが――」

 これは他のタウンでも有名な凶悪カードなので、僕も知っている。

 かつて『ドラゴンの呼び声』で六体のドラゴン系モンスターを呼び出され、大苦戦したことがあったのだ。

 そして『触手の呼び声』は、その名からして触手系モンスターを――

 「私のデッキから、触手系モンスターが全て召喚されるわ」

 『マザークラーケン』に並び、新たに場へと現れたのは三体。

 ラサイアさんとのデュエルで見た『ダークスキュラ』に『レディローパー』。

 そして僕の持っているものと同じ『オクトパスレディ』――決して上級ではなさそうな三体だ。

 この中では、おそらく『マザークラーケン』が最も強いだろう。

 

 「どんな強力なモンスターが出てくるかと思えば……お姉さん、モンスターカードの収集はサボったみたいだね」

 「『触手の呼び声』などというレアカードを持っていながら……そのモンスター陣は、なんともお粗末です」

 ダリアとアイリスは、揃ってそっくりな笑みを浮かべる。

 「この状況を見て笑えるのなら、三流ね。大会出場クラスのデュエリストならば、顔色を青くしているわ――」

 ラサイアさんは涼やかに応じた後、敵モンスターを見定めた。

 場に出ている敵モンスターは、『月夜のレディバンパイア』、『陶酔のウツボカズラ』、『純潔のプリースト』の三体。

 「じゃあ――『オクトパスレディ』、『月夜のレディバンパイア』を攻撃」

 『では、あの者を絡め取りましょう……』

 ラサイアさんの指示を受け、『オクトパスレディ』は『月夜のレディバンパイア』に攻撃を仕掛けていた。

 八本の触手を、女吸血に向かって伸ばす――

 『……遅い。我がそのようなものに絡め取られるか』

 それを『月夜のレディバンパイア』は華麗なステップで潜り抜け、『オクトパスレディ』の上半身にマントを絡めていた。

 『そんな……あ、あぁぁぁぁぁ――!!』

 そのまま一気に『オクトパスレディ』を絶頂に導き、逆に撃破してしまったのだ。

 その身のこなしを一見しただけで思い知る、恐ろしいまでの反撃能力。

 うかつな攻撃は余りにも危険すぎる相手――『月夜のレディバンパイア』。

 このモンスターが場にいるだけで、敵プレイヤーを守る強力な壁となる。

 「ふふ、見ての通りです。『月夜のレディバンパイア』にうかつに手を出すと、逆に吸われてしまいますよ?」

 アイリスはくすくす笑い――

 「あら、それは怖いわね。じゃあ、残りは全員防御、ターンエンドよ」

 ラサイアさんは、それを意に介さずあっさりと告げたのだった。

 

 「……」

 そして、僕のターンだ。

 今のラサイアさんの行動は、わざと『オクトパスレディ』を撃破させたようにしか見えない。

 そうだとすると、これは――

 「デッキは僕と戦った時と変わっていないって……そう言いましたね」

 「ええ……その通りよ」

 「なら――」

 僕は、デッキから最後のカードを引いた。

 『癒しと安らぎのアルラウネ』――絵柄を見ずとも分かっている。

 「『癒しと安らぎのアルラウネ』を召喚! そして――」

 カードから現われたのは、下半身が大きな薔薇に包まれた花の精。

 そしてさっきのラサイアさんの行動は、僕へのメッセージだ。

 彼女の持っている『あのカード』を、有効に使うために支援しろ、と――

 「『オクトパスレディ』、『月夜のレディバンパイア』を攻撃!」

 「……?」

 目を丸くする双子の前で、下半身がタコの美女は俊敏なる女吸血鬼に挑み掛かる。

 しかし先程のラサイアさんの時と同様、あっという間にマントにくるまれて返り討ちに遭ってしまった――

 「……ふふっ」

 その光景を前に、ラサイアさんは軽く微笑んでいた。

 やはり、これで良かったのだ――

 「……『癒しと安らぎのアルラウネ』は防御、これでターンエンドだ」

 場に出ているこちらのカードは『癒しと安らぎのアルラウネ』、『マザークラーケン』、『ダークスキュラ』、『レディーローパー』の四体。

 そしてラサイアさんは、二枚のカードを手札として控えている。

 対する敵モンスターは、『純潔のプリースト』、『月夜のレディバンパイア』、『陶酔のウツボカズラ』の三体。

 いずれも、かなり強力なモンスター達だ。

 

 「……ダリア」

 「うん、分かってるよ――」

 この幼い姉弟とて、熟練のデュエリスト。こちらが醸し出す不気味な気配は、感じ取っているはずだ。

 「うかつに動きたくはないけど――そうも言っていられないみたいだね」

 そう言いながら、ダリアはカードを引く。

 最後の一枚だから、絵柄を見ずともどのカードか分かっているだろう――彼は即座にそのカードを場に出した。

 「『ねちょねちょスライム』、召喚――」

 カードから現れたのは、スライム状の粘体で形成された可愛らしい少女の姿。

 その体を形作るスライムの粘度は非常に高く、ネバネバと粘液の糸を引いている――

 「そして……『泡魔女レイリーン』と『ねちょねちょスライム』の連携で、『ダークスキュラ』を攻撃――」

 やはり、向こうはかなり慎重に来ているらしい。

 二体一で、確実に撃破できるように攻撃を仕掛けてくるのだ。

 『ふふ……私の泡にまみれ、昇天しなさい』

 レイリーンが杖を振ると同時に、褐色のスキュラの陰部が泡に包まれた。

 それと同時に、スライム少女はスキュラへと飛び掛かり――そのまま、グチョグチョとまとわりつく。

 『あ、ううぅぅ――』

 全身をスライムに嫐られ、触手を振り乱して喘ぐスキュラ。

 人間の女性器にあたる部分には繊細な泡がしゅわしゅわと絡み、おそらく強烈な快感を与えられているのだ。

 スライムの中に沈み込むように、スキュラの体は倒れ――そのまま微かに痙攣した後、消滅してしまった。

 

 「さてと、『吸精の蛸』は――」

 「……来るなら来い! 次も耐えてやる!」

 ラサイアさんまで巻き込んでしまった以上、絶対に負けるわけにはいかない。

 次の三十秒――この命に替えても、耐え抜いてやる!

 「……お兄さん、次もガマンしちゃいそうな雰囲気だね。じゃあこっちも、柔軟にいこうかな」

 ダリアはため息を吐くと、意外な指示を出した。

 「『吸精の蛸』、敵プレイヤーを解放。そして『レディローパー』に攻撃――」

 「えっ……?」

 次の瞬間、僕の股間から異形のタコは離れ、『レディローパー』の下半身へと食い付いていた。

 なんと、攻撃対象を途中で変更することもできるのか――

 さっきの気迫が、そのまま僕を攻撃し続けるというダリアの判断を覆したのだ。

 実際のところ耐えきれるかどうかは怪しかっただけに、これは嬉しい誤算だった――

 「……でも、これは……!」

 そんな悠長なことも言っていられないようだ。

 股間部分に『吸精の蛸』が貼り付いた『レディローパー』の顔は、みるみる愉悦に歪んでいく。

 そして――二十秒ほどで、『レディローパー』の体はふっと消失してしまった。

 女性モンスターに対しても、『吸精の蛸』は高い攻撃力を発揮するのだ――

 「はい、撃破〜♪」

 少女そのものの顔をほころばせ、微笑みを見せるダリア。

 まずい――場に残るは、『マザークラーケン』と『癒しと安らぎのアルラウネ』の二体のみ。

 向こうには『純潔のプリースト』、『月夜のレディバンパイア』、『陶酔のウツボカズラ』、さらに『吸精の蛸』もいる。

 ラサイアさんが『あのカード』を引くまでにこちらが全滅してしまえば、元も子もないのだ。

 これでは、いかにラサイアさんと言えども――

 

 「じゃあ、私のターンね……」

 ラサイアさんはデッキからカードを引き、手札に加えた。

 そして、僕の方へと視線をやる。

 「心配しないで、渚君。これで、私達の勝ちよ――」

 「えっ……!?」

 「魔法カード使用、『失われし触手の継承』――」

 ラサイアさんが場に出したカードは、僕とのデュエルでも使用したカード。

 そのデュエルにおいて撃破された触手系モンスターの力を、全て継承してしまう強力な魔法カードである――

 「そ、そんな……」

 「まさか、そんなカードが……」

 ダリアとアイリスも、そう呟くしかなかった。

 そのカードの効力で、『マザークラーケン』の体に無数の触手が備わっていく。

 これまで撃破された『レディローパー』、『ダークスキュラ』、そして『オクトパスレディ』二体――全部で、四体分の触手。

 『マザークラーケン』はその巨体の下半身と両腕に恐ろしい量の触手を渦巻かせ、もはや別物のモンスターと化していた。

 「さらに魔法カード――」

 なんとラサイアさんは、その上で魔法カードを場に出す。

 「『大地を埋める触手』――触手系モンスターの攻撃を、全体化させるカードよ」

 攻撃の全体化――たった一度の攻撃が、この場にいる敵モンスター全てに届くということか?

 対象となる種族が限定されているとはいえ、それは非常に恐ろしいカードだ。

 ここまで強化された『マザークラーケン』の攻撃を、さらに全体化してしまうなんて――

 

 「全体化なんてカードが……まさか……!」

 「反則だよ、こんなの――」

 この強力すぎるコンボの前に、双子も呆然とするしかなかった。

 かくいう僕も、口を開けたまま硬直してしまっている。

 「じゃあ、行くわよ。『マザークラーケン』、攻撃――対象は敵全部」

 『ふふ……、あはははははは……!』

 哄笑とともに、『マザークラーケン』は下半身と両腕に渦巻く触手を蠢動させた。

 それは前方一面に対し、まるで津波のような触手の濁流となって襲い掛かる。

 『月夜のレディバンパイア』も、『陶酔のウツボカズラ』も、『純潔のプリースト』も――

 まとめて触手の波に呑み込んでしまい、慈悲も容赦もなく凄まじい渦に巻き込んでしまったのだ。

 触手の波が引いた後には、二人の双子が呆然とたたずむのみだった。

 ほんの一ターンで、五体ものモンスターがまとめて葬られる――二人にとっては、悪夢そのものだろう。

 「あ、ああ……」

 「私の……ウツボカズラが……」

 二人は放心した様子で、そう呟くしかなかった。

 

 「さて、私はターンエンド。渚君のターンよ」

 「えっ……? あっ、はい!」

 あまりにも凄まじいラサイアさんのカードコンボの前に、僕まで呆然としていた。

 前のターンで最後のカードを引いてしまったが、タッグデュエルにもつれ込んだことにより戦いは続行。

 使い切ったデッキは、再生して引き直せるのがルールなのだという。

 よってテーブルの上には、六枚のカードデッキが復活していた。

 「よし、ドローだ!」

 引いたカードは、『光の封陣』。

 しかし場には『癒しと安らぎのアルラウネ』が残っているので、もはや『光の封陣』を使う必要はない。

 そしてアイリスとダリアには、もはや守ってくれるモンスターはいない――

 つまり『癒しと安らぎのアルラウネ』で、直接二人を攻撃できるのだ。

 さて、どちらを狙うか――

 『癒しと安らぎのアルラウネ』の攻撃力は高く、プレイヤー――すなわち人間ならばまず耐えられないはず。

 どちらを絶頂させても、タッグデュエルは僕達の勝ちとなるのである。

 

 「じゃあ『癒しと安らぎのアルラウネ』……敵プレイヤー、ダリアを攻撃――」

 僕は少し悩んだ後、ダリア攻撃の指示を出していた。

 彼を選んだ理由は単純――最初に戦っていた相手が、ダリアの方だったからだ。

 「あ、やだよぉぉ……」

 目の前に立ちはだかるアルラウネを前に、彼は恐怖そのものの表情を浮かべる。

 ダリアにとどめを刺すのが、心優しい『癒しと安らぎのアルラウネ』で幸い。

 これが『オクトパスレディ』などだったら、妙な罪悪感を抱いてしまうところだ。

 『大丈夫、怖がる必要はありません。私が優しく、癒して差し上げましょう――』

 ゴスロリの衣服に包まれたダリアの体に、しゅるしゅるとアルラウネのツタが絡んでいく。

 それはスカートを引き裂き、下着を引きずり下ろして――たちまち、下半身を露出させていた。

 その白い肌の太腿と、股間――そこには、小さなソーセージのようなペニスが備わっている。

 正直なところ、今の今まで疑っていたが――やはり、男だったのだ。

 「あら、可愛いおちんちん。触手で嫐ってあげたかったわ……」

 妖艶な笑みを浮かべ、ラサイアさんはそう呟いていた。

 

 『ふふ……ここを慰めて差し上げますね』

 アルラウネは優しく微笑みながら、ダリアの体を背中側から抱き締めた。

 そして少年の股間に、ゆっくりと薔薇のような花が近付いていく。

 「やだ、やだよぉ……」

 じたばたともがくダリアだが、アルラウネのツタの前ではビクともしない。

 そしてアルラウネの花が、まるで軽くキスするかのようにペニスの先端へと接触した。

 「ふぁ……」

 その感触に、ダリアの表情はみるみる緩んでいく。

 とろんとした表情で足をもじもじと動かし、快楽に抗わなくなってしまった。

 同時にペニスがむくむくと膨らみ、小さいながらも自己主張を見せる――

 『このような可愛らしいおちんちんでも、白い液体を迸らせることができるのでしょうか……?

  私が試して差し上げますね……』

 その皮に包まれた先端に、花の中央部が密着し――

 花弁が一枚一枚閉じていって、ペニス全体を包むようになってしまった。

 ペニスを覆い込んだ花弁はくちゅくちゅと蠢き、幼い肉棒を淫らに嫐る。

 それは優しく少年の股間を責め抜き、じっくりと快楽の世界へ押し上げていった――

 「出ちゃう、出ちゃうよぉ……」

 ダリアは涙を浮かべながら、その小さな体をガクガクと揺さぶっていた。

 『はい、ちゃんと出ましたね。うふふ……』

 「ふぁぁぁぁ……」

 『癒しと安らぎのアルラウネ』の穏やかな責めで、ダリアはあっけなく白濁を漏らしてしまったのだ。

 彼がイった事により、タッグデュエルは僕とラサイアさんの勝利となった――

 

 「……やったわね」

 「ええ……」

 僕は、ラサイアさんに対して頷いていた。

 勝敗は決し、そしてデュエルフィールドは解除され――僕達四人は、カードショップ前の通りに戻されていた。

 ダリアの破れたスカートも元通りになり、アイリスに抱き留められて荒い息を吐いている。

 「大丈夫、お嬢ちゃん……じゃなくて、ダリア君?」

 「はい……すごく、気持ちよかったです」

 微かに頬を紅潮させながら、ダリアは頷いたのだった。

 ともかくこれで、僕達の勝利だ――

 

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