フェイスハガー娘


 

 「いや、宇宙港に向かうか……」

 俺は根拠のない直感に従い、行き先を宇宙港に定めた。

 この市内の地図は、すでに到着前から頭に入っているので問題ない。

 そしてバイクの向かう先を、宇宙港へと続く中央道へ改めたのである。

 「これは……」

 町の荒廃は、宇宙港に近付くにつれ激しくなっている様子だ。

 建物のほとんどは粘液や肉で覆われ、すっかり巣と化している。

 あの中には、たくさんの繭が転がっているのだろう。

 公舎で見た少年のように、生きたままエサとして囚われている者もいるかもしれない。

 やはり、宇宙港の方角が奴等の発生源なのだろうか……?

 

 「うふふ……」

 「くすくす……」

 不意に後方から、あの耳障りな笑い声が響いてきた。

 「ちっ、来たか――!」

 バックミラーに映っているのは、四つ這いになって路上を疾走する異形の女達。

 それは猫科の猛獣のような、トカゲのような――なんとも野生めいた動き。

 しかもその数は五体以上、そいつらはたちまちバイクに追い付いてきた。

 「くっ……!」

 すかさずバイク上でパルスライフルを構え、追走してくる怪物に対して乱射する。

 俺の狙いは先頭の一体を確実に捉え、その肉体を飛散させた――

 「あはは……」

 「うふ、うふふ……」

 ――にもかかわらず、さらに三体の新手が現れる。

 数が多すぎる上に、次から次へと新手がやってくるという状況。

 そして一体がバイクと並走しながら、尻尾での攻撃を繰り出してきた。

 「くっ……」

 なんとかハンドルを切って、その攻撃をかわす。

 同時に弾丸を叩き込んで、そいつを絶命させた――が、状況は明らかに不利だ。

 バイクに乗っているという不安定な状態で、こうも大勢に囲まれて立ち回れるはずがない。

 しかもこの状況では、バイクの速度を落としてしまえば即座に餌食。

 やはり、不用意に宇宙港に近付いたのが判断の過ちだったようだ――

 

 「あはっ……」

 敵の一体がジャンプし、人間離れした跳躍力でバイクに飛び乗ってきた。

 「くそ、まずい……!」

 俺は素早くパルスライフルを構え、至近距離から弾丸を叩き込む――

 明らかにまずいと分かっていながら、そうするしかなかったのだ。

 「あは……ああっ!」

 フルオートで発射される銃弾の雨を全身で浴び、爆砕する異形の女。

 飛散した肉片と粘液が飛び散り、バイクや俺の体に粘り着いてしまう。

 「うぐ……」

 甘い芳香がぶわっと押し寄せ、体の力が抜けてしまった。

 さらに粘液がバイクの車輪に絡み、みるみる速度が落ちていく――

 異形の女達はここぞとばかりに、速度の落ちたバイクにわらわらと群れ寄ってきた。

 「く、くそ……!」

 俺の体は女達の手で掴まれ、強引に引きずり下ろされる。

 例の芳香を胸一杯に吸ってしまった俺には、もはやいっさいの抵抗力は残されていない。

 体から力が抜けていき、意識さえ遠ざかっていく――

 そして俺は、そのまま深い意識の闇に落ちてしまった。

 

 

 

 

 

 ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐっちゅ、ぐっちゅ……

 

 「う……」

 股間を包む、夢のように甘い感触。

 なにか管のようなものがみっちりとペニスに密着し、ちゅうちゅうと吸い付いてくる。

 ぐっちゅぐっちゅと管自体が生きているかのように脈動し、肉棒はその収縮にさらされた。

 その感触は、夢のように心地よい――いや、これは夢なのか。

 「あ、いく――」

 とくん、とくん、とくん、と俺は精を放っていた。

 たまらない解放感と、そして安らぎに包まれる――そんな、甘い射精。

 

 「うう……」

 全身は生温く、まるで風呂に浸かっているかのよう。

 俺の全身をぴっちりと包んでいる粘膜はねとねとと粘りを帯び、手足は動かせない――

 「えっ……!?」

 そこで俺は、一気に覚醒していた。

 ここは、どこだ――?

 

 「なんだ、ここは……!?」

 その場所は、あの公社のホールよりも格段に広い地下空間だった。

 巨大な体育館――いや、もっと広い。

 まさか、宇宙港の動力ルーム……?

 広間の中央に位置する、巨大な動力炉。野球場にも似た、ドーム状の空間――

 間違いない、やはりここは宇宙港の動力ブロック。

 この都市の発電所も兼ねており、いわば惑星プロロフィルの心臓である。

 しかしグリーンの粘体や体組織が壁や床一面に包み込み、そこはまるで肉洞のよう。

 この星の最重要区画は、いまや奴等の巨大な巣穴と化していたのである。

 

 「くっ、どうなってる……!?」

 そして俺は、自身が指一本動かせない状態にあるという事実に気付いた。

 俺の首から下は、壷状の不気味な大型器官に咥え込まれていたのだ。

 これ自体も何らかの生体なのか、体温を持っている上にひくひくと蠢いている。

 それは人間サイズのものをぴっちりと包み込む形状になっており、全く身動きが取れない。

 「そんな……!? くそっ!」

 俺に出来たのは、首を動かして周囲を見回すことだけ。

 その器官は周囲の床一面にびっしりと並んでおり、俺同様に多くの人間を取り込んでいるようだ。

 この壷状器官に人間が埋め込まれ、その精を吸い取られている――俺も、そのうちの一人。

 

 「あ、あああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ようやく己の状態を悟り、俺は嫌悪の悲鳴を上げていた。

 肩から下が得体の知れない器官にすっぽりと丸呑みにされ、ぐちゅぐちゅと精液を搾り取られているのだ。

 中がどうなっているのかは見えないが、ペニスにはチューブ状の器官が吸い付いているようだ。

 そして、ぐっちゅぐっちゅと蠕動して精液を吸い出し続けている。

 通常の射精とは違い、生温かい感触と共にずるずると精液が漏れ出ているのだ。

 

 ぐちゅ、ぐちゅぐちゅ……じゅるるっ。

 

 「や、やめろ――! ああああぁぁぁぁ……!!」

 その生理的嫌悪感とは裏腹に、異常なほど安らぎに満ちた快感。

 壷状器官の中はネバネバで、まるでとろけたチーズの中に体を浸しているかのよう。

 そしてペニスに吸い付いたチューブ状器官は、絶えず妖しい快感を与えてくるのだ。

 うねり、締まり、吸い付いて――そして、俺はなすすべなく精を漏らし続けていた。

 「あ、あぅぅぅぅ……!」

 こんな訳の分からない器官に全身を咥え込まれ、精を搾り取られてしまうという屈辱。

 いかに逃げようとしても、指一本すら動かせないという無力感。

 生理的嫌悪よりも、徐々に快感が勝っていくという惨めさ。

 このぶよぶよしたピンク色の壷は、完全に男を拘束して搾精してしまう器官なのだ。

 絶対に逃げることはできず、じわじわ弱らされ、牡のエキスを搾り取られてしまう――

 

 「うぁ……! 出せ、ここから出してくれ……!」

 そんな虚しい叫びも、もはや誰の耳にも届かない。

 少し距離を置いたところで、あの異形の女達が行き来しているのが見えた。

 それも、かなりの人数――間違いない、ここは奴等の拠点なのだ。

 連中は、俺達人間など家畜以下としか思っていない。

 ミルクの代わりに精液を搾り取る、乳牛のような存在――それが、こいつらに捕まった者の運命。

 

 「……あ、あれは……?」

 そして遠方に、異様なほど巨大な女性のシルエットが見えた。

 まるで巨人のような、身の丈は数十メートルに達するであろう巨体。

 その身には巨大なフォーマルドレスのようなものを纏い、そしてこの空間の中央に鎮座している。

 間違いない、あいつこそが怪物共の親玉――

 

 「う、うぁ……! き、きもちいい……!!」

 そんな俺の思考も、股間に渦巻く快楽の中にぼやけていく。

 この生きた壷の中でその身を貪られ、無機質に精液を吸い出されていく快感――

 俺は惨めにもがきながら、延々と射精を強制されるのである。

 甘い、ひたすらに甘い快感を味わわされながら――

 

 「ひぁ、あ……」

 そして俺の精神は、みるみる摩耗していった。

 この中にいれば、空腹も老いもない。ただ、射精に専念しろということ。

 数日も経たないうちに、俺は肉体的刺激を与えられて射精するだけの存在に成り下がった。

 生きたチューブでペニスを吸われて、生温い快感の中で果て続ける――

 それは惨めで、哀れで、無惨で――そして、幸せだった。

 

 

 −BAD END−

 

 



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