ミイラ娘


 

 「なんだ、このスイッチ……?」

 僕はその石造りの古代建造物の中で、奇妙なスイッチを発見していた。

 こういうものに、勝手に手を触れるのは論外であることなど百も承知――

 そのはずなのに、僕は何故かスイッチに指を伸ばしていた。

 魔が差した、としか言いようがない。

 自分でも意識しないうちに、その奇妙なスイッチを押してしまったのだ。

 「え……?」

 不意に、足元の床がかぱっと開く。

 なんてクラシカルな仕掛け――いや、このピラミッドを建てたのは約四千五百年前の人間。

 クラシカルで、何がおかしいのだろうか。

 そんな馬鹿なことを考えながら、僕の体は足元に開いた闇の深奥へと落下していった。

 

 

 

 一介の高校生に過ぎない僕がこの調査隊に参加できたのは、叔父のはからいによるものである。

 叔父は大学で教授職をしており、エジプトへ何度も調査隊を率いて向かったことがあるのだ。

 コネとツテ、という余り褒められない手段で同行を願い出たのも、ひとえに僕の探求心。

 幼い時からピラミッドという神秘に魅せられていた僕は、いつしか考古学研究家を志していた。

 そしてとうとう調査隊の下働きという身分ながら、ネフェルシェプス女王のピラミッドに入ったのである。

 古代の空気を存分に吸い、感慨に震える僕の前に姿を見せたのが、あの奇妙なスイッチだった。

 中にあるモノに勝手に触ってはいけないなど、この道を志す者にとっては常識以前。

 しかしあのスイッチにはまるで魔法でも掛かっているかのように、押してしまいたくなる引力があったのだ。

 そして僕は、深い深い闇の中に投げ込まれていた――

 

 

 

 「こ、ここは……?」

 しばらく気を失った後、僕はようやく覚醒していた。

 かなりの距離を落下したと思ったが、体に怪我はないようだ。

 それより、ここはどこだ――?

 「え……!? なんだこれ……!?」

 僕は周囲の光景を見回し、思わず絶句する。

 そこは、ピラミッドの内部とは思えないほど広い大空間。

 中世の城で、王と客人が謁見する部屋――それが最も近いかもしれない。

 足元には色あせた絨毯、左右には燭台とカーテン、そして正面には玉座。

 ただしカーテンは腐食して千切れ、隣の部屋への扉が露出している。

 壁や床は磨き抜かれた石材で、まるで黄金のような輝きを放っていた。

 そこはまさに、嘆息する他にないほど優雅な広間だった。

 しかし、当然ながら広間はがらりとしていて人気は全くない。

 かつての有り余る栄華が伺えるだけに、この広間から受ける寂寥感は大きなもの。

 そこはもはや、過去の遺物の一角に過ぎなかった。

 

 「これ、エジプトの建築様式じゃないぞ……!?」

 僕は慌てて腰を上げ、きょろきょろと周囲を見回す。

 「ローマ――いや、ビザンティン風に近いような……どうなってるんだ、これ!?」

 これは、大発見なんてレベルじゃない。

 古代エジプトにこのような建築物があったとすれば、歴史が一気に書き換わってしまうのだ。

 トロイアの遺跡発見、ハンムラビ法典を記した碑文の発見――それらの大偉業に肩を並べる発見なのである。

 「しかもこの絨毯、文様や色調がアケメネス朝ペルシアのものにそっくり――」

 「――我が世界へようこそ、外界からの来訪者よ」

 不意に、広間全体に凛とした女性の声が響いた。

 それを合図にしたかのように、この広間にとんでもない変化が起きていた。

 「え……!?」

 あまりに不可思議な事態に、言葉が続かない。

 居並ぶ燭台に、一斉に明かりが点る。腐食したカーテンは、まるで時間が巻き戻るかのように再生していく。

 埃の積もっていた絨毯は、たちまち手入れの行き届いた様相に。

 何より一変したのは、空気。

 先程までのカビくさい感じは消え、まるで高山のごとくに澄んだ空気となっていた。

 文字通り過去の遺物であったはずのこの場所は、ほんの一瞬でみずみずしい王宮に変貌したのだった。

 そして、玉座にはいつの間にか人の姿が――

 

 「な、なんだお前……!?」

 玉座には、奇妙な人物が足を組んで腰掛けていた。

 あれは、ミイラ――いや、全身がぴっちりと包帯にくるまれた人間。

 くびれたウェストに豊満な胸を携え、そのスタイルは明らかに女性のもの。

 足先から頭部までぐるぐると包帯を何重にも巻き付け、その隙間から両眼だけが覗いている。

 「あ、う――」

 その包帯の人物の目は、まるで深い湖面のよう。

 眺めているだけで吸い寄せられそうになり、心が奪われてしまう。

 それと同時に受けるのは、圧倒的な威圧感。

 触れる者全てを怯ませる圧迫感とでも表現するべきか。

 そんな神々しい感覚が、気流のように僕の全身を圧迫してきたのだ。

 彼女の瞳の輝きは、深い慈愛と、壮烈な威厳と、とろけてしまいそうな官能と、凍り付くような迫力が入り交じっていた。

 ただ、確かなことは一つ。

 この包帯の女性は、人間などではない――いや、ありえない。

 自分のような下賤な人間とは、全く格の違う存在――そんな卑屈な考えすら浮かんでしまうほど。

 いつの間にか彼女の玉座の背後には、きらびやかな装束を着用した4人の女官達が控えていた。

 エジプトの女官風の装束をしたオリエンタル風の美女達、その髪は首ほどの長さで綺麗に切り揃えられている。

 高貴な人間に仕えるのに相応しく、彼女達はイヤリングやネックレスなど美しい装身具を身につけていた。

 そんな女官達は、美しい顔に涼やかな表情を浮かべつつ静かに控えている。

 この人物達は、何者なのか。自分は、いったいどこに足を踏み入れてしまったのか。

 

 「我は、女王ネフェルシェプス。帝都を統べる者である」

 玉座に君臨する包帯の女性は、僕に対してそう宣言した。

 「……!!」

 思わず、彼女に対して平伏してしまう僕。

 訳の分からないことを言う、おかしな女――そんなことは、毛ほどにも思えなかった。

 ここまで圧倒的な威光、全身から漂う気品。女王でなかったら何なのだろう。

 この女性は女王以外の何者でもなく、そして女王そのものであることを僕は容易に理解していた。

 「汝は何者だ? 旅人か? 学者か? それとも、盗掘者か?」

 「が、学者です――」

 正確には、学者を志すタマゴ。

 しかし女王の威圧感の前では舌がもつれ、満足に喋れなくなる。

 全身を包帯で覆っているのにも関わらず、この神々しい威光。

 包帯を全て外したら、どうなってしまうのだろうか。

 「ふむ、学者か……汝は、自身が生まれ育った地とは別の空間に足を踏み入れている」

 女王はその視線を僕に向けたまま、凛とした口調で言葉を紡いだ。

 「ここは、我が築きし箱庭。汝の世界とは全く違う空間――帝都ピレリウム」

 「ピレ……リウム?」

 僕は絨毯の上でひざまづきながら、目だけで女王を見上げていた。

 強制されずとも、その威光と威厳の前ではこのようなポーズを取らざるをえない。

 「繰り返すが、我は女王ネフェルシェプス。汝も学を志す者ならば、我が名は知っていよう」

 「は、はい……」

 当然ながら、その名前は知っている――約四千五百年前に存在した歴史上の人物として。

 目の前の女性は、そんな昔にエジプトに君臨した女王と同一人物とでも言うのだろうか。

 当然というか常識だが、人間は四千五百年も生きられるはずがない。

 女王は、そんな僕の心中の疑念を読んだようだ。

 「約四千五百年前――エジプトを治めていた時、我はただの人間に過ぎなかった。

  しかし人間としての死を迎えた後、淫魔として覚醒してな。

  生命活動は停止しているものの、数千年の時を経てまだ若い肉体を保っているぞ……?」

 微かに、女王は目を細めていた。

 あの包帯の下には、若くみずみずしい肉体が隠されているのだという。

 淫魔というのは――良く分からないが、人間以外の存在であるというニュアンスは理解できた。

 そして、女王が人間でないことについてもむしろ納得がいく。

 彼女の威圧感や威光は、そこまで強烈なのだ。

 「死後に淫魔として覚醒した我だが、淫魔界に行く気も起こらんでな。

  さりとて、人外の我が人間界に留まるのも気が引ける――よって我は、一から世界を創世してみようと試みたのだ。

  汝達が住まう人間界よりは格段に狭いが、四千五百年をかけてなかなかのものを築いたつもりでいる」

 「は、はぁ……」

 何と相槌を打っていいのか分からない、雲の上の話。

 神様が世界を造った時の話をされて、僕はどんな感想を抱けばよいのだろう。

 女王の全身からひしひしと放たれる威圧感にさらされているのもあり、僕はもはや抜け殻のようだ。

 「……やれやれ、まだ呆けておるか。

  我の楽しみは人間界からの客人との会話だというに、これでは張り合いがないではないか」

 女王ネフェルシェプスは、軽くため息を吐く。

 「ここは、人間界から我が世界へ足を踏み入れた者と謁見するための間。

  以前にこの間を用いてから、汝は八百年振りの客人となる。

  正確にはここはまだ帝都ではなく、人間界と帝都ピレリウムの間にある通路のようなものだな」

 「帝都ピレリウム……?」

 それは、さっきも聞いた都市の名前。

 この女王が、四千五百年をかけて築いた都だという。

 「我の築きし、永遠の都。その広さは……人間界でいう、ロンドンと同等といったところか。

  人口は一千万人、自由市民階級の者が四百万人に対して奴隷階級の者が六百万人。

  その人口比は健全とは言えぬが、社会の維持には適正といったところか」

 「ど、奴隷――?」

 僕はもともと考古学研究家志願。

 この女王が築いた世界やその社会システムにも、興味は抑えきれない。

 「汝、学者と言ったな。深い知的好奇心を備えていると認める」

 そう言うと、女王はぱちんと指を鳴らした。

 すると、玉座の背後に控えていた美しい女官の一人がしずしずと前へ出る。

 さらにカーテンの裏からは、長髪の女性が姿を現した。

 ブルーの目を要し、肌はやや浅黒い。

 いかにも清楚そうな美女で、その服装は実に質素。

 決して粗末ではないものの、金銀細工の施された女官の装束に比べて、その女性の服装は明らかに質素だった。

 おかっぱ髪と高級な装束の女官、そして長髪の質素な女性――二人の美女は、僕の前に並んでいた。

 「どちらが自由市民階級の者で、どちらが奴隷階級の者か説明するまでもあるまい。

  帝都ピレリウムには、厳格な身分階級制が存在しているのだ」

 「身分階級……、奴隷……」

 「奴隷」という概念はかなり曖昧で、地域によってその趣は異なる。

 現代の日本人が「奴隷」という言葉を聞くと、大多数の人間が想像するのはプランテーションに従事した黒人奴隷だろう。

 しかしそれも、奴隷システムの一つの形に過ぎない。

 奴隷が最下級身分に固定されている社会もあれば、別階層に成り上がることが可能な社会も存在する。

 黒人奴隷、農奴、マムルーク……訳語が同じというだけで、全く意味合いが異なってくる場合も多いのだ。

 ネフェルシェプスが築いた世界での奴隷というのは、どうなのだろうか。

 一見した限り、そこまで非人道的な扱いを受けているわけではないようだ――そう思ったのが僕の第一印象。

 

 「キリスト教における唯一神は、自身を模して『男性』を造り、その『男性』から『女性』を造ったという――しかし、我は違う。

  我はまず自身を模して『奴隷』を造り、そこにあるモノを加えて『市民』を造ったのだ」

 そう言って、再びぱちんと指を鳴らす女王。

 すると目の前の女官と奴隷が、二人揃って自らのスカートをまくり上げ始めた。

 「な、何を――!?」

 動揺しつつも、僕の視線はスカートの下に吸い込まれてしまう。

 彼女達は二人とも、下着を着用していなかった。

 奴隷の女性の股間は、何の変哲もない女性そのもの。

 足はぴっちり閉じているので秘部はほとんど伺えず、僅かばかりの陰毛が見える。

 しかし女官の股間には、非常に見慣れた驚くべきものがぶら下がっていた。

 あれは、男性器――!?

 「そう、見ての通り両性具有。自由市民は男性器と女性器の両方を宿し、奴隷は女性器のみを持つのだ」

 つまり、奴隷は純粋な女性。

 そして、自由市民はいわゆるふたなり――そういうことになる。

 僕は、美女の股間からぶら下がった小振りな男性器に目を奪われていた。

 陰嚢は見当たらず、その位置周辺には女性器があるのだろう。

 その醜悪なはずの器官は、なぜか女官のしなやかな体付きに驚くほど調和していた――

 「……」

 女官は僕に股間を凝視され、僅かに顔を赤らめていた。

 「あ……すみません!」

 彼女の羞恥に気付き、僕は慌てて視線を逸らす。

 「もう良いぞ。シェルミュフレ、フェミア」

 「はっ」

 「はい……」

 女王の言葉に従い、二人はスカートを元の位置に戻す。

 女官の名はシェルミュフレ、奴隷の名はフェミア――二人の美女は、そのまま隅に控えてしまった。

 「じゃあ、男は……?」

 「帝都ピレリウムに男性などおらぬ。連中は、争いの種になることが多いからな」

 僕の質問に対して女王はそう断じ、話を続けた。

 「自由市民と奴隷の、肉体的差異は理解したであろう。

  女性器を備えて生まれてきた者は奴隷、男性器と女性器の両方を備えて生まれた者は自由市民となるのだ」

 「……」

 すると、女王の築いた社会において階級の移動は行われないことになる。

 奴隷に生まれついた者は死ぬまで奴隷、自由市民に生まれついた者は死ぬまで自由市民。

 それは決して健全ではない――が、現在の倫理を適用して異論を挟むほど僕は傲慢ではない。

 女王は僕の理解を待ち、そして解説を続ける。

 その様子からは、よっぽど話し相手に飢えていたことが伺えた。

 「そして奴隷階級の者は、自由市民に対する性的奉仕が義務づけられているのだ」

 「せ、性的奉仕……?」

 つまりは、性奴隷ということか?

 「帝都において、食料や生活必需品は無償で支給される――自由市民、奴隷の区別なくな。

  よって、奴隷も含めた全人民に労働の必要はいっさいない。

  市民も奴隷も飢えから解放され、ただ性的奉仕を与える側と受ける側という関係のみがあるのだ。

  こうなると市民どもは、余暇に任せて享楽や退廃の限りを尽くすものよ」

 そう言って、女王は可笑しそうな笑い声を漏らす。

 「奴隷に性技を仕込み、より深い快楽を得るための器具を用い、下等搾精生物に精を啜らせ――

  市民どもはひたすらに自らを慰め、快楽にふけり、快感の深さを追求する……実に退廃的だと思わんか?」

 「……」

 僕に、返す言葉はない。

 とにかく、帝都の市民達は退廃の限りを尽くしていることは良く分かった。

 労働の必要のない社会――それが退廃を生み出すのは、かつてのローマでも同様。

 人類は、より効率的に食物を得るために集団化して社会を築いた。

 そしてより多くの食物を、より少ない労働で得ることができるように、社会を発展させた。

 つまり、人類は労働を少なくするために社会システムを洗練させてきたとも言えるだろう。

 しかし労働の必要性がなくなってしまえば、社会システムは退廃化する――

 これを順当と言うべきか、矛盾と言うべきかは僕には分からない。

 

 「さて……次は我が質問する側だ」

 女王の言葉は、僕を思考から現実へと引き戻していた。

 「え……? 僕に……?」

 「さよう。我は決してこの世界に引きこもっていたわけではないゆえ、人間界に関する知識も持っている。

  さりとて、知識だけではどうにも不満。時に、人間界に生きる者の声が直に聞いてみたくなるものよ」

 つまりは、女王は今まで僕の質問や好奇心に応えてくれた。

 次は、僕が女王の知的好奇心に応えろと――そういうことらしい。

 「あ、はい……どうぞ」

 「ふむ、ではこれより汝に質問を提示することにする。

  答えられない、もしくは我を満足させる解答ではなかった場合――さて、どんな罰を課すとしようか」

 「ば、罰……?」

 「当然のことよ。女王の問いに答えられぬ者が、何の咎めもないと思うたか?

  とは言え、くびり殺しても面白く無し、苦痛を与えるのも好かん――」

 何やら、とんでもないこといなってきたようだ。

 僕は、軽い気持ちで女王の言葉に応じたことを心から後悔していた。

 今さら逃げられるものではないということも明らか。

 もはや僕は、カゴの中の鳥に過ぎないのだ。

 「やはり、辱めるのが妥当か……ならば決まりだ。これより、五つの問いを順に示す。

  その質問に一つでも答えることが出来た時点で、汝を客人として遇しよう。

  しかし我を満足させない答えを返せば、その度に屈辱を味あわせる。

  五つの問い全てに答えられなかった場合は――ふふ、どうしてくれようか」

 いつしか、女王による座興のルールが組み上がっていた。

 正解した時点でゲームは終わり、僕は解放される。

 しかし間違える度に屈辱を与えられ、五問全てを間違えた時には想像もできない罰ゲームが待っている――

 「ふふ、趣向を理解したようだな。第一の質問を出そう。これに答えられなかった場合は――」

 おもむろに、女王はぱちんと指を鳴らす。

 すると、さっきの奴隷――フェミアがカーテンの裏側の扉にいったん引っ込んだ。

 そして十数秒ほどで再び姿を現した彼女は、ヘルメット大の壷を抱えていた。

 「あれは……?」

 その壷に、なみなみと満たされた水飴のような液体。

 フェミアは白魚のような手を壷の中に漬け、ゆっくりとかき混ぜる。

 それはねっとりと糸を引き、かなり粘度が高いようだ。

 あの粘液は、一体――

 

 「あれは、最高級の催淫粘液。男性器に絡み、まとわりつき、天にも昇る快感を味あわせる。

  第一の質問に我の満足する解答を示せなかった場合、この液を汝の性器にたっぷりと塗ってやろうぞ」

 「そ、そんな……!」

 奴隷の掌に、その粘液はねっとりとまとわりつき、糸を引いている。

 あれを、股間に塗りたくられるだって――!?

 「フェミアは最高位の女官に奉仕する役目の奴隷、その手技も練達している。

  この娘に男性器をまさぐられたならば、どれだけの時間を耐えることができような?」

 「……」

 フェミアは、僕の困惑の視線に対し、恥ずかしがるようなもじもじした表情を返していた。

 あの女性のしなやかな掌で、ペニスを愛撫される――僕は思わず、その感触を想像してしまった。

 「汝では、たちまち果てるであろうな。そのような屈辱を味わいたくなければ、我が問いに見事答えてみせよ。

  よもや、快楽を得たい余りにわざと間違えたりはすまい。では、準備はいいな?」

 「は、はい……」

 このネフェルシェプス女王の確たる口ぶりからして、その趣向に変更はないだろう。

 僕がどれだけ反論しても、ルールが覆されることはありえない。

 つまり、こんなゲームはやりたくないなどと言っても聞く耳を持ってはくれないのだ。

 僕は身構え、第一の質問を待った。

 

 「では問おう。朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足――この奇異なる生物とはいかに?」

 「え……? ええっ!?」

 僕は当然ながら、人間界の風習や習俗に関する質問が来るものと思っていた。

 しかし、これはまるで謎々。しかも、この問題は――

 「どうした、答えてみせよ。この種の座興に、これほど相応しい問い掛けもあるまい?」

 女王は、微かに目を細めていた。

 こんな問題は、子供でも知っている。

 スフィンクスが旅人に提示し、答えられなかった者を食らったという有名な逸話だ。

 そして、その答えは――

 

 「……」

 僕は覚悟を決め、おずおずと口を開いた。

 

 人間

 分かりません

 


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