妖魔の城


 

 

            ※            ※            ※

 

 

 地下の遊戯室の真ん中に、高級そうなベッドが置かれていた。

 その上に寝かされている青年――彼は全裸にされ、四肢を大の字に広げたまま手足を拘束されている。

 彼の手首手足を固定している錠は、ベッドの四隅から伸びているのだ。

 つまりこのベッドは、元からそういう用途の構造になっているということ。

 さらにベッドの両側面には、用途不明の10cmほどの穴が、十個ほど並んで開いていた。

 

 「ふふ……」

 部屋の隅で笑みを浮かべ、ベッドに横たわる青年の怯え顔を見守る貴族令嬢。

 青年はこれから行われるという拷問に怯え、ぶるぶると震えて萎縮しきっている。

 今から凄まじい苦痛を浴びせられる――と、思い込んでいるのだろう。

 「……では、始めましょう」

 そして令嬢は、ぱちんと指を鳴らした。

 同時にベッド側面に並んだ穴から、しゅるしゅると触手のようなものが無数に這い出てくる。

 長細くうねり、粘液をだらだらと分泌しながら伸縮する――それは、ピンク色の舌だった。

 異様なまでに長く伸びた舌が何本も、ベッドの中から這い伸びてきたのだ。

 

 「な、なにこれ……!?」

 思わず顔をしかめ、その場から逃げようと体を揺する青年。

 しかし彼の四肢は完全に固定され、じゃらじゃらと錠の音が響くのみ。

 そうしている間にも十本以上の舌は蛇のようにベッドの上へと這い上がり、青年の体に迫る。

 長く伸びている以外、その外見は人間の舌と同じ。

 淫らなピンク色で、柔らかそうな表面は唾液でぬめっているようだ。

 「あ、あ、ああぁぁ――ッ!!」

 ねろり……と、舌が青年の胸板を舐める。

 たっぷりと唾液をにじませ、舌独特のザラついた感触を青年に与えたのだ。

 「ひぃ……! や、やめ……!!」

 その感触により、青年の全身に悪寒が走る。

 さらに無数の舌がベッド上の青年に迫り、ぬるぬると這い回り始めた。

 上半身や脚部をべろべろに舐め回し、唾液を塗りつける――性感帯の集中している、下腹部を除いて。

 ねろり、くちゅくちゅと、青年の手足や胴、内股に舌が巻き付いて刺激しているのだ。

 脇の下も乳首も柔らかい舌で舐め回され、くすぐったさにも似た甘い感触を与える。

 

 「はぅ……うぁぁぁ……!」

 嫌悪感を帯びていた青年の悲鳴が、次第に快感の色を帯びていった。

 そんな彼の様子を、この城の主である令嬢は目を細めて見守っている。

 ぬるぬるの舌に這い回られ、青年は全身愛撫と同様の快感を受けていた。

 彼のペニスはたちまち隆起し、肉の柱と化してしまう。

 「あらあら、そんなにしてしまって……可愛そうに、そこも嫐られてしまうのに」

 くすりと笑いながら、貴族令嬢は目を細めた。

 同時に、数本の舌がしゅるしゅるとペニスの根元に絡みついていく。

 まるで、大蛇が獲物に巻き付いていくかのように――

 「ああ、や、やめ……! あああぁぁ……!」

 舌はゆっくりと根元を締め付け、緩め、変幻自在にいたぶりながら幹を這い上がってきた。

 ねっとりを唾液をまぶされながら、サオを嫐られる――その快感に、青年は息を荒げて喘ぎ続ける。

 刺激を待ち望むように張り詰めた亀頭からは、たらりと先走り汁が垂れた。

 「あぐ、うう……!!」

 そして巻き付きながら這い上がってきた舌は、くびれの部分の少し下で止まる。

 サオの部分を舌に巻き付かれ、うにょうにょと揉み込まれて悶える青年。

 しかし無数の舌は、それより上――敏感な先端には触れようとしてこない。

 「あああ……そ、そんな……!」

 青年は、思わず懇願の声を漏らしていた。

 カリの下までは柔らかい舌にみっちりと巻き付かれて締め上げられているが、亀頭部は露出したまま。

 ピンクの傘がぴくぴくと震え、尿道口からはカウパーがたらたらと溢れているのだ。

 「さ、先……先も……!」

 サオに絡み付いて、うにうにと揉み立ててくる舌。

 しかし、カリや亀頭には意図的に触れようともしない――その行為は、焦らしそのものだった。

 「ふふ……してほしい? 貴方の可愛い亀頭も、巻き付かれて、舐められて、ぐちゅぐちゅにされたいのかしら?」

 「あ、ああ……されたい、です……して……」

 青年は、瞳をうるませながら懇願している。

 「そう。先っぽをいっぱいの舌でベロベロに弄り回されて、嫐られながら射精したいの?」

 「し、したいです! ど、どうか……!」

 余りに早い青年の陥落に、貴族令嬢は僅かな物足りなさを感じていた――が、たまにはこういうのも一興。

 射精を懇願する相手を、精一杯じらしてみるのも面白いかもしれない。

 「私が次に指を鳴らせば、貴方の亀頭に舌が絡み付くのだけれど――鳴らしてほしい?」

 「な、鳴らして……! お、お願いだから……!」

 「ふふふ、どうしようかしら――」

 「――マルガレーテ様」

 青年を焦らして愉しむ貴族令嬢に対し、忠実な使用人が横から声を掛けてきた。

 主の愉しみに横槍を入れるほど無粋な使用人など、貴族令嬢マルガレーテの配下にはいない――

 つまりは急を要する事態が発生し、この地下室に駆けつけてきたということだ。

 「どうしたのかしら、エミリア?」

 射精を懇願する青年を尻目に、マルガレーテは忠実な使用人に呼び掛けた。

 「何者かの侵入があったようです。男が二人に、女が二人――いつものように、ベルミンク姉妹が迎撃に向かいましたが」

 「あら、そう。素敵な方達かしら?」

 マルガレーテは、無邪気ともとれる笑みを浮かべる。

 「まだ、敵の詳細は不明ですが――ベルミンク姉妹には、なんと指令を下しましょうか」

 「好きなようになさい。捕らえて飼うもよし、その場で吸い尽くすもよし」

 「了解致しました。では、そのように――」

 主人の指示を受け、エミリアは迅速に姿を消す。

 地下室には、マルガレーテと喘ぎ混じりに射精を懇願し続ける青年が残された。

 「だ、出させて……! お願いだから、出させて……!!」

 サオに舌が這い回り、絡み付き、刺激され続けている青年。

 その尿道からは、先走り液がだらだらと垂れ流しになっていた。

 もう少し焦らすつもりだったが、マルガレーテの気分が変化する。

 「そうね。では、射精を許しましょう――」

 ぱちん、とマルガレーテは指を鳴らした。

 ぎゅるるるるるる……!!

 その瞬間、青年の亀頭へと一気に舌が巻き付いていく。

 ぐにゅぐにゅに絡みつき、くびれを擦り上げ、敏感な先端を締め付け、甘い刺激を与える――

 「ひあ……! あああああぁぁぁぁッ!!」

 ほんの数秒ももたず、青年は待ち望んだ刺激に包まれて射精していた。

 彼のペニスは隙間なく舌に巻き付かれ、外部からでは精を放っているところなど見えない。

 そして、射精の最中にある青年に対しても舌の責めは執拗だった。

 「あぐ……ああぁ……!」

 ぐちゅぐちゅ……れろ、ねろねろ……

 精をどくどくと溢れさせるペニスを嫐り回され、青年は悶えながら身をよじる。

 敏感な部分をいたぶり尽くされる感覚に、彼の全身はビクビクと痙攣していた。

 そんな刺激に耐えられず、二度三度と精を漏らしているのだ。

 「このベッドは……拷問機としては使い辛いわね。快楽責めには最適だけれど……」

 そんな青年の様子を眺め、物足りなさそうに呟くマルガレーテ。

 「あ、ひあ……! あああぁぁぁぁ……!!」

 青年は悲鳴を上げ、延々と無数の舌に嫐られて精を漏らし続けていた。

 

 

            ※            ※            ※

 

 

 「……ずいぶんと豪華だな。これが、サキュバスのお偉方の住む城か?」

 「妖魔貴族が贅を凝らした城だ。この程度で何を驚くか」

 赤い絨毯の敷かれた広い廊下、その両脇にはいかにも高そうな調度品が並んでいる――

 そんなノイエンドルフ城内を進みながら、俺とウェステンラは会話を交わしていた。

 外観から無骨な城を想像していたが、これではまるで宮廷そのもの。

 不気味なことに、正面から堂々と侵入したにもかかわらず、城内にも見える限りはまるで人影がない。

 俺達はひたすらに、きらびやかな無人の城内を進んでいるのだ。

 

 「どういうことなんだ……? 全く人影がないっていうのは……」

 「警備兵などという、美しい景観を崩すようなものは配置しないということだ。

  我らの侵入は察知されておる可能性が高い。ゆめゆめ気を抜くでないぞ」

 「……敵地で気を抜くような、生温い生き方をしてきたわけじゃないさ」

 俺はいつでも発砲できるようにM4カービンを構えながら、四方を警戒しつつ歩を進める。

 一方で、すたすたと歩くウェステンラには警戒心の欠片も見られない。

 気を抜くなと言っておいて、自分はこれだ――いや、魔力か何かで周囲を探っているのかもしれない。

 こいつはこう見えて、かなり上位のサキュバスなのだから。

 

 5分ほど進むと、ホールのような広い場所に出た。

 中央には噴水があり、その脇にはベンチが置いてある。

 城内だというのに、まるで公園のようだ。

 この噴水周辺は城内の休憩所らしく、ベンチの周りには花壇もあった。

 ここまで誰にも会わないというのは、明らかに奇妙――意図的に人を下げているとしか思えない。

 非戦闘員は下げ、精鋭だけを送ってくるということか。

 

 「ふむ、ちょうど歩き疲れたところだ。一休みするか」

 なんとウェステンラは、おもむろにベンチへと歩み寄る。

 こいつ、まさか――

 「我の身体はデリケートなのだ。野蛮人たる貴様と同列に扱うでない」

 「馬鹿、座るんじゃない!!」

 「誰か馬鹿だ、貴様――」

 文句を言いながら腰を下ろすウェステンラ――その尻がベンチに沈んだ瞬間、かちりと音がした。

 「むぅ……? こ、これは……罠か!?」

 ウェステンラが表情を強張らせると同時に、そのベンチの下の床にぽっかりと穴が開く。

 そのままウェステンラの体は、ベンチごと床の落とし穴に沈んでいった。

 「くっ、ぬかったわ……! 我としたことが、こんな罠に……!!」

 そう言い残して、ウェステンラは落とし穴の奥深くに落下していく――

 その場には、ぽっかりと開いた落とし穴が残るのみ。

 「何やってんだ、あの馬鹿……!」

 俺は身を乗り出して、落とし穴の中を覗き込む――が、穴の底が見えないほどに深いようだ。

 あいつの後を追って、うかつに飛び込むのは危険この上ない。

 「おい、ウェステンラ! 大丈夫か!?」

 俺は身を乗り出しながら、穴の奥底に呼び掛けた。

 『……心配は無用。単なる搾精トラップだったようだ』

 唐突に、頭の中に響いてくる声――ウェステンラの念話。

 どうやら無事だったようだ。搾精トラップの類なら、上級淫魔であるウェステンラには効かないだろう。

 『特に怪我もない――が、すぐに合流するのは難しいな。この地下から脱出するのはホネかもしれん』

 どうやら落とし穴から這い上がるのは不可能のようで、別のルートから階上を目指すようだ。

 そうなると、なかなか面倒な話になってくる。

 しばらくの間、俺は単独行動を余儀なくされるのだ。

 『ふぅむ……我がいなければ、敵の淫気を中和することもできまい。ただちに合流を急ぐゆえ、貴様はそこから動くな。

  今、淫魔に遭遇したら非常に危険なのは言うまでもあるまい』

 「……いや、この状況だと一箇所にとどまる方が危険だ。互いに移動しつつ合流した方がいい」

 『なるほど。戦闘やら潜入のことは貴様の方が専門、その判断に任せるとするか』

 非常時ゆえか、ウェステンラは文句を挟むこともなく俺の意見に同意した。

 『ただし、念話はそう何度も使えん。敵にこちらの居場所を教えるようなものだからな』

 「了解、重要な連絡のみで十分だ。お前はとりあえず地下から脱出してくれ」

 そしてその間、俺は城内を動き回りながら敵の追撃を避けるしかない。

 『いいか、くれぐれも淫魔の誘いには乗るな。殺すか逃げろ。絶対に情欲に流されるなよ』

 「……ああ、分かってるさ」

 そんなやり取りの後、ウェステンラとの念話は切れた。

 合流するまで、単独行動。俺は銃に手を掛けながら、広い廊下をゆっくりと歩き出す。

 豪華な内装の、まるで宮殿のごとき城内――いつまでも侵入者を放置しておくわけがない。

 ウェステンラが傍にいない今、敵との遭遇には注意を払わなければ。

 

 

 5分ほど廊下を進んだだろうか。

 赤い絨毯の敷き詰められた廊下の真ん中に、一人の妖艶な女性が立っていた。

 おそらく20代の、赤毛の美女。

 まるで道を塞ぐように、俺を待ち構えていたかのように――不意打ちの様子もなく、馬鹿正直に。

 その女性は、いわゆるメイド服に身を包んでいる。

 ヘッドドレスに黒のワンピース、フリル付きのエプロンドレス――

 そのスタイルはそこらのコスプレとは異なり、非常に洗練された上品なもの。

 このきらびやかな城に恥じるものではなく、一流の使用人を思わせる。

 

 「……!!」

 俺はすかさず、M4カービンを正面の女に向けて構えていた。

 そのメイド服の女性は、妖艶にして淫靡。

 ふわりとした赤毛に艶のある唇、ぱっちりとした瞳――なんともいえない色気を漂わせている。

 そんな妖艶な色気と清楚なメイド服は、ミスマッチどころか絶妙に融合していた。

 「あら……そんな無粋なもの向けないで。もっと別の方法で戦いましょう?」

 「……何者だ、お前は?」

 女の言葉を無視し、俺はそいつ――サキュバスに銃口を向ける。

 敵、であることは分かりきっている。淫魔であることも当然だ。

 「私はアルメール・ベルミンク……妹と二人で、このノイエンドルフ城に侵入した方を出迎える役を承っているの」

 「妹、だと……!?」

 敵は二人……!? 俺は、素早く周囲に視線を這わせていた。

 「あら、妹のアルビーネはここにはいないわ。裏門から侵入したお客様を出迎えに向かったから……」

 アルメールとやらは口元を歪め、淫猥な笑みを浮かべた。

 「ふふ……もしかして、姉妹二人に責められたかったのかしら?」

 「なるほどな、よく分かったよ……」

 これだけの会話で、こいつは貴重な情報を二つも漏らした。

 まず、こちらの侵入は当然のようにバレているということ。

 そして、裏門側から入り込んだ深山優達の侵入も気付かれているということ。

 こんなことを簡単に侵入者に悟らせてしまう辺り、目の前の淫魔は大したヤツとも思えないが――

 しかし、こいつはサキュバス。極めて特殊な戦い方をしてくる、非常に厄介な相手でもあるのだ。

 

 「で、お前はただのサキュバスか……?」

 俺は、銃口をアルメールに向けたまま質問を投げ掛ける。

 サキュバスには、植物や他生物などと結合した亜種も多いという。

 純正のサキュバスは翼と尻尾を持った人型だが、蜘蛛型や蛇型など多種多様な亜種サキュバスも存在しているらしい。

 俺の知っているあの植物型サキュバスがツタや花を武器にしたように、こいつも亜種ならば相応の攻撃手段を持っているのだ。

 「あら……私は純正のサキュバスよ」

 そう言いながら、アルメールはフリルで飾られたスカートの中に両手を入れる。

 そして、するり……と、彼女の黒いパンツが足を伝わって床へと落ちた。

 「ふふ、どう……?」

 そのままアルメールはスカートをたくし上げ、俺の眼前に自らの陰部をさらした。

 さらに右手を伸ばし、彼女は両指で膣口をむにぃと開く。

 男の陰茎を咥え込み、精を吸い尽くしてしまう器官――その内部を、俺に見せ付けるように。

 「どう、良さそうでしょう? これだけ広がるからって、締まりがないって勘違いしないでね。

  サキュバスは膣内を自在に動かせるんだから、ギュウギュウに締め付けていじめ尽くしてあげる」

 彼女の内壁はびっしりとヒダに覆われ、その柔らかそうなヒダの一つ一つがうにうにと蠢いていた。

 その淫らな入り口から、愛液が唾液のようにたらりと垂れる。

 「ふふ……お姉さんとセックスバトルしない?」

 とてつもなく淫靡な笑みを浮かべながら、そう告げるアルメール。

 俺の視線は、彼女の陰部に吸い寄せられていた。

 そして、俺は――

 

 セックスバトルを挑む

 アルメールを始末する

 


『妖魔の城』ホームへ