妖魔の城


 

 

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 沙亜羅はアステーラとかいう淫魔に引き立てられ、ノイエンドルフ城の廊下を進んでいた。

 後ろ手に手枷をはめられ、後方には剣を持った守衛のサキュバスが二人。

 そしてこのアステーラは、ノイエンドルフ城でも結構な立場を持つサキュバスのようだ。

 これから自分は、城主であるマルガレーテの元に連れて行かれるらしい。

 

 「ふふ、こちらよ……大丈夫、乱暴なことはしないから」

 黙りこくっている沙亜羅を怯えていると解釈したのか、アステーラはくるりとこちらを振り向いた。

 その舌が伸び、ぬるり……と沙亜羅の頬を愛おしげに這う。

 その動作は、まるで無警戒なものだった。

 「貴女ほどの獲物、私の一存で処遇を決めるわけにもいかないから。

  あ……怖がらなくてもいいわよ。処遇といっても、気持ちいいことばっかりだから。

  オチンチン生やしてもらってイイことされたり、もしかしたら私達の仲間になるってことも――」

 「……」

 ベラベラと喋り続けるアステーラを尻目に、沙亜羅は手枷の強度を確認する。

 余りにも緩い拘束、こんなものは束縛のうちに入らない。

 それに、サキュバス連中の油断しきった態度――

 

 「素敵ね、貴女……上級、もしくはそれ以上の淫魔になれる資質があるわ。

  貴女ほどの獲物ならば、マルガレーテ様にもさぞかし喜んで頂けるはず。

  私も、面白い趣向を考えついたし……うふふ」

 手枷を壊し、このアステーラの舌を引きちぎるのに1秒。

 二人の守衛から剣を奪い、すぐさま撫で斬るのにもう1秒。

 そして、このアステーラの喉元に剣先を叩き込むのにさらに1秒。

 3秒あれば、この場の全員を肉塊にできる――が、それは得策ではない。

 こいつらは、せっかく敵の大ボスの元へと招待してくれるというのだ。

 手っ取り早くそいつの元に向かい、マルガレーテとやらを片付けるのも悪くはない。

 そんなことを、沙亜羅は考えていた。

 

 無表情のまま、城の奥へと引き立てられていく沙亜羅。

 その向かう先は、マルガレーテの待つ当主の間。

 それにしても、優は大丈夫だろうか――

 沙亜羅は、はぐれてしまったパートナーのことを考えていた。

 

 

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 「許しません……よくも、メイちゃんを……」

 マイは怒りの矛先を理不尽にも僕に向け、そして背後から背中を抱きすくめてきた。

 その小さな体から、温かい体温がじんわりと伝わってくる。

 「ちょっと待て! あいつは、僕達の仲間じゃない……」

 「言い逃れですか? そんなの通じません……!」

 マイは、僕の言葉に全く耳を貸そうとしない様子だ。

 振り払おうと僕は体を揺すったが、それでもマイは僕の背中にぴっとりとしがみついたまま。

 こんなに細い腕ながら、流石は妖魔のはしくれ。僕よりも腕力があるようだ。

 まずい、このままでは――

 

 「サキュバスにとって、己の意志と無関係に与えられる快楽は屈辱そのもの。

  あの変な妖魔は、メイちゃんを食べる前に何をしたか――その屈辱、思い知って貰いますね」

 「や、やめろ……!」

 なんとか抗おうにも、悲しいかな力では歯が立たない。

 そして、少しでも男の急所を愛撫されてしまったら最後だ。

 もはや、反撃する気すら起きない状態にされてしまうのは確実。

 そうなる前に、何とか逃れなければ――

 

 「でも……あなたを犯し尽くす前に、聞いておくことがあります。

  この城に侵入した、仲間の数――私達が聞いた話だと四人だけなのですが、それ以外にもいるのですか?」

 城を守る側にとって、侵入者の数の正確な把握は何よりも重要だ。

 想定している数よりも多く侵入していたら、そいつらを放置しかねないという事態に繋がる。

 向こうは四人と正確に把握しているみたいだが、ネメシアの存在がそれを乱したらしい。

 マイは、あの怪物を僕達の仲間だと思っているのだから――

 「……さあ、5人だったか6人だったか忘れたな」

 そうならば、わざわざ正確な情報を与えるなど愚の骨頂。

 何人侵入したのか分からない状態で、右往左往するがいい――

 僕はとぼけながら、マイを振り払おうと身をよじる。

 両腕は自由に動くものの、やはり少女の細腕を引きはがせそうにない。

 「そうですか。喋ってくれる気はなさそうですね」

 一方、マイのあどけない顔には酷薄な色が浮かんでいた。

 「ところで……このノイエンドルフ城の主であるマルガレーテ様のご趣味は何だか知っていますか?」

 そんなの、知るわけがない。

 僕達がこの城に来たのは、ここでH-ウィルスの取引がなされているから。

 マルガレーテの名前など、城に乗り込む寸前に初めて知ったくらいだ。

 「……それは、拷問です。男性に肉体的快楽を与え、じっくりと責め嫐るのがお好きなんですよ。

  ここは私も、拷問で無理やり口を割らせてあげましょうか?」

 「な――!」

 本格的にまずい事態だ。

 その拷問とは間違いなく苦痛を伴うものではなく、サキュバスならではの快楽拷問。

 それが始まってしまえば、もう絶対に逃げられない――

 

 マイは左手で僕の背にしがみついたまま、右手の人差し指をぴんと立てた。

 「魔女の槌、不朽の鎖、汝なおもて縛を為さん――」

 そして少女は、何やら呪文のようなものを唱え始める。

 「くそっ、離せ……!!」

 ――落ち着け。

 僕の両腕が自由である以上、取り得る手はいくらでもあるはず。

 腕力で歯が立たないならば、ここは――

 

 

 それでも腕力で振り払う

 懐を探り、道具を使う

 


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