吸血少女の長い夜(第2章)




始まりは去年の8月25日、あの熱い真夏日の夜だった・・・。



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午前0時…、そろそろ食事の時間だ・・・…



布団に入ってからおよそ2時間。有沢明美はベッドを抜け出して行動を起こした。0時という時間には大して意味は無い。 ただ、人外の魔物が活動し始める時間としてはこの時刻が相応しいような気がしたからだ。



明美はクローゼットを開けると、その中から黒いマントを取り出した。

すこし怖い…。でも、こんなチャンスはもう無いかもしれない。



目を閉じて深呼吸……、そして自分に言い聞かせる…。



(私は吸血鬼…、これからあの子の血を吸いにいく……。)





キィ…キィ…と不気味な声を上げて一匹の蝙蝠が通り過ぎた。



窓から射す青い月明かりがカーテンの隙間から差し込み、ベッドの真っ白なシーツの上で交わる二人を照らす…



はぁ……、 はぁ……、



どちらとも取れる荒い息遣い…。

二人の男女がお互いの息が吹きかかるほどに密着しながら指を絡ませあう……。



彼女達の間を遮る物は何も無い。少女と少年はお互いの若く瑞々しい身体を露にし圧し付けあっていた。二人が今行っているのは、明らかに男と女の交わり…。だが、それにしては二人の見た目はあまりにも違いすぎた。



 一人は小柄で幼子のような少年。大きな瞳の童顔で、まだ小学校の高学年。髪を首もと辺りまで伸ばしたその容姿は一見すれば女の子とも見紛うほど。



 もう一人は少年よりずっと年上の少女。切れ長の眼と腰まである長い黒髪が印象的。高校生とはいえ背が高くスマートでありながら程よく肉の付いた早熟な身体は実年齢以上に彼女を大人びた容姿に見せている。 



 そして彼女は他にも普通の少女とは違う特徴を持っていた。 濡れた唇の間から覗く歯は八重歯だけが獣のように長く鋭い。そして、一糸纏わない小柄な少年とは違い、裸体の上に黒い大きなマントを羽織っている。



マントを着た少女は小柄な少年をベッドの上に押し倒し、その上に身体を重ねる。長い黒髪をサラサラと靡かせ、組み敷いた少年の顔を熱い視線で見つめる。



「ねぇ…、気持ちいい?」



少女は小さな声で問いかける。下の少年は何も応えずに息を荒げたまま、自分を見下ろす年上の少女を恍惚とした目で見つめる。

すると、マントの少女は顔を降ろしていき、くっきり浮き出た彼の鎖骨をなぞるように舌を這わせていった。



「………ぅ、」



身体を巡る刺激が思わず小さな喘ぎ声になって口から漏れる。

マントの少女は眼を細め、その声を頭の中でリピートする。何度も、何度も…

そのうちに舌は肩を離れて少年の小さな胸へ……。



「ひゃ……!! やだ……!! く……くすぐったいっ!!」



円を描くように周囲をなぞり…、それからだんだんと中心に向かって渦を描いてゆく…。

胸を這う彼女の舌と、彼女が動くたびにサラサラと皮膚を撫でていく長い黒髪の感触に酔い痴れ、されるがままの少年は伸ばしていた膝を折り曲げ荒い息を漏らした。

外側から中心へ白い皮膚が唾液で濡れていく……。



やがて、舌は少年の乳首に達すると隙間無く唾液を塗りつけ、硬くなった乳首を舌先で転がすように弄んだ。

 マントの少女がそのまま顔を離すと舌先と乳首の間に粘液の糸が伸び、すぐに途切れる



「おねえちゃん……やめて……。 僕、恥ずかしいよ……」



小柄な少年は涙を浮べて、上擦った声で言う…。でも少女は彼のそんな姿が可愛くて、益々、嗜虐心を露にしていく。



「本当は気持ちいい癖に何故そんなことを言うの……? 君は私が嫌いなの………?」



「ち……ちがうよぉ…、おねえちゃんは…好きだよ……。で…でも…こんなのって……。」



「好きなんでしょう…? ならいいのよ……。 男の子と女の子はみんなこういうことをするのよ…。だからおとなしくしなさい……。」



「で……でも…、でもぉ〜〜っ!!」



半ベソをかいている彼の顔を見て少し申し訳ない気がしたが、それでも彼を弄ぶことへの欲望には敵わない…。これは私自身の本能なんだ、だからしょうがない…



少女は言い訳するように、心の中で自分に言い聞かせる。



私は吸血鬼なんだから……。



「私に口答えするなんて…、いつからそんな悪い子になったの…? お仕置きしてあげるわ……。」



マントの少女は言う…。そしてベッドの隣の棚に置いてあったナイフを手に取った。 

そして、小柄な少年の首筋に冷たい刃が押し当てられる。



彼の顔は青ざめ身体は小刻みに震えていた…。



「や……やめて……っ!!」



「ふふ…怖いのね…? でも怖がってる顔も可愛いね…。」 



マントの少女はその大きな胸と柔らかい二の腕で彼を圧し包むように抱きしめる。

そして刃を首筋に付き付けたまま、少年に顔を近づけていく。



少年は恐怖のあまり目を閉じ、少女もうっとりと目を閉じ…、薄紅色の二つの唇が重なりあう……。



「ぅ……っ!!」



少年が味わう始めてのキス。彼は小さな声を漏らし身体を硬直させる。

だが、やがて少年の身体から力が抜けて震えは段々と収まってくる…



そして、マントの少女はゆっくりとナイフを皮膚の表面に滑らせた…。

少年の身体が一瞬強張り、やがて首筋から紅い雫が滲み始める…。

マントの少女はすかさずその傷口に口を寄せ、流れ出る血を舐め取っていった。



「んぁ……、ぁあ……!!」



彼女の唇と舌が首筋を這う感触に少年はとうとう耐えかねて大きな喘ぎ声を上げ始める。

皮膚の表面に汗の玉が滲み、縮こまっていた股間が硬くなり始める。

マントの少女がそこに手を伸ばして、指先で撫でる。

まだ、自慰行為すら知らなかった純朴な少年はその刺激に身を捩りながら悶えた。



「は……、あぁ………あああ…っ!!」



思わず彼の手が圧し掛かる少女の腕を掴み引き剥がそうとする。

しかし、相手は細身の少女とはいえ年齢も体格も違いすぎる。少年の抵抗など気にもかけずマントの少女は夢中で血を啜っていた。



「ぁ……あけみ……、おねえ…ちゃ…んっ!!」



小柄な少年は小さな声で口走る……。



するとマントの少女……、あけみと呼ばれた少女は彼の身体を抱き上げ、羽織っていた黒いマントで包み込んだ。



小柄な少年は絡みつく布によって拘束され身動きが取れなくなった。



「感じてきたのね、ナオトくん……。もっと気持ちよくしてあげるわ。」



明美は頬を赤く染めながら血を啜り続け、その成熟した肉体をうねらせマントの中で小柄な少年の身体を絡めとっていった……。



「あ……、あぁ……あああああ!!」



明美の手が少年の身体を優しく愛撫する。柔らかな乳房や腕、太腿を少年の身体に絡ませ、彼女は全身で彼の身体を味わった。

まだ性に目覚めてもいない彼にとって、激しすぎる少女の行為は暴力にも等しかった。

彼女の指が少年の身体を這い回り、彼の心をどんどん狂わせていく。彼がどんなに喘いでも明美はただ一心に少年の身体を貪り続けた。



こうして少年はたった一晩で、ファーストキスと精通、そして童貞消失を迎えたのだった。







12月24日



「あら…? 有沢さん、まだ残っていたの? 今日くらいは早く帰ってもいいのに…。」



「前園先生…。」



いつものように図書室の閉館近くまで勉強していると、同じく遅くまで残っていた担任の前園彰子が話しかけてきた。今年度の初め、この学校に赴任してきたばかりの若い女教師だ。



「もうすぐ受験ですから…、できるだけ勉強に時間を使いたいんです。」



「それでまたこんな時間まで勉強? 真面目なのはいいことだけど、貴女は成績も優秀なんだし、そんなに思いつめなくてもいいんじゃないの…?」



先生は母性的な笑みを浮かべ、やれやれといった表情で私を見る。こうしてみると改めて美人だと感じる。

 彼女の年齢は24で外国人とのハーフらしく、灰色の瞳とウェーブの掛かった茶色の長い髪が特徴。縁なしの眼鏡が理知的な印象を与える。おっとりしたお姉さんといった雰囲気とその見事なプロポーションで男子生徒からの人気も高い。



「こんな、うら若き可憐な少女が折角のクリスマスに一人身とはねぇ……、時代の冷たさを感じるわ。本間君とは何か予定は無いの…? 付き合い始めたばかりじゃない…。」



「あいつなら今頃バイトに勤しんでますよ…。まったく、大切な時期なのに遊んでばっかりなんだから…。 それより先生はこんなところに居ていいんですか…?

先生こそ若くて綺麗なんだから恋人との約束くらいあってもいいと思うんですけど…。」



「私…? うふふっ!! 残念ながら私も男っ気が無いの。だからあんまり人のこと言えないかもね。」



「えぇ? そんな…、先生すごく綺麗なのに勿体無い…。」



「わざわざ、私の心配までしてくれてありがとう…。でもね…、人生の先輩として言わせてもらうけど貴女はもう少し勉強以外のことにも積極的になった方がいいと思うわよ? 命短し恋せよ乙女っていうでしょう…? 熱い思いがあるなら胸の内に秘めているべきじゃないの。女に生まれたからには本能の赴くままに行動するべきよ。遠慮するなんてつまらないじゃない…。」



恋愛について熱っぽく語る先生はどこか無邪気で子供っぽく見えた。普段は大人の魅力を振りまく彼女が時折見せるこんなあどけなさも人気を裏付けているものなのだろう。

でも、私はそんな先生の言葉も腑に落ちないまま黙りこくっていた。



「…………。」



「ま、今はわからなくてもいいわ。まだまだ若いんだし…。

さて…と、そろそろ閉館時間よ。お子ちゃまはさっさと荷物纏めて帰った帰った!」



私は勉強道具をまとめて鞄に突っ込むと、すっかり人気が消えた校舎を後にした。彰子先生は校舎の玄関に立ち、校門に向かう私の背中を見送る。

 その時、薄く紅を塗った彼女の唇が不気味に微笑んでいたことなど知る由もなかった。





電車から降りたその先の喧騒で、ようやく私にも今日がクリスマスなのだということが認識できた……。 

駅前の商店街ではどの店でもクリスマスのセールを実施中で、家族連れやカップルで大賑わい。



街は色とりどりのイルミネーションで飾られ、あちこちのスピーカーからクリスマスソングが流れてくる。

 

私…、有沢明美はそんな光景を横目に早足で帰路を急いだ。別に、帰っても何もすることなんて無いし、恋人と待ち併せているわけでもない。ただ、単にこのお祭ムードの街の空気から逃げたいだけだ。

 

「ふう……。」



私が一人暮らししているマンションの一室、自分の部屋に戻ってくるとようやく身体の力が抜ける。

同時に、重い倦怠感に襲われて私は仰向けにベッドに倒れた。



ぼんやりと天井を見ながらふと、昼に友人が話していたことを思い出した。



“今日、部活が終わった後、××高校の人たちとコンパやるんだ。明美もこない?”



私がその申し出を断わると。その子はあからさまに残念そうな顔をしてたっけ。

“あけみはカレシ一筋だもんね〜” とか “あなたはカワイイからきっと盛り上がるのに”とか…。



くだらない……。



 正直言って私はそういうのは苦手だ。私なんかが行っても、かえってムードを下げてしまうのは目に見えている。大体、可愛い女の子がいるだけでそんなに盛り上がれる男っていうのは何なんだろう…。



私は、ベッドに寝そべったままリモコンでテレビを付けた。当然ながらどのチャンネルもクリスマスの特集ばかり。しばらく、タレントの面白くも無いトークを惰性でぼんやりと眺めていたが。そのうち、ばかばかしくなってテレビを消した。



「寝よ……。」



ベッドに向かう途中で、ふと、私は“カレシ”の顔を思い浮かべてみる。 いつもニコニコしてて、私に構わず、取るに足らないことをさも面白げに話しかけてくるヤツ。



本間和宏……



私が暗い顔をしてるとすぐに話を振ってくる。正直、ちょっと暑苦しい。

ああいうのをカレシというのだろうか? だいたい、クリスマスに彼女をほっぽり出してバイトにいそしむのは流石にどうかと思う。



私は大きな溜息をつく……

あいつのことを考えた後はいつもこうだ。



「でも…。」



わかってはいる…。



あいつはとても不器用なヤツだけど私のことを真剣に想ってくれているんだって。 



きっと私にプレゼントでも買うために、バイトをしているのだろう。

あいつはそういう奴だ。



 悪く言えばお節介、よく言えば面倒見がいい…。

始めはそんなアイツの性格を鬱陶しく思っていた。でも、最近はそのお節介があいつのいいところなんだということがわかってきた。 



 なんだかんだいっても、わたしはバカみたいに元気なあいつの姿に元気を貰っていたんだとつくづく思う。



だから……



 最近、私もあいつの想いに応えてやろうかと考え始めている。あいつと付き合って、普通のカップルになるのも悪くないかもしれないって……。



だけど……、同時に思うのは…、 たとえ、そうなったとしても今の生活に感じる空虚さはきっと拭えないだろうということ………。



なぜなら私は普通じゃないからだ……。



私は、部屋の隅にあるクローゼットを開け、そこに掛かっていた衣服を一着取り出す。漆黒の布地で出来たそれはコートでもなければ毛布でもない…。



黒いベルベットの大きなマント…。

私が着れば肩から踵まですっぽりと覆い、裾を少し後ろに引き摺る…。



どこかで売っていたものではなく、自分で生地を買って作った手作りだ。

クローゼットには、他にも自分で作ったマントが何着かある。

裾が腰くらいまでのもの……、色違いのものがいろいろ……



これこそが私の秘密だ……。私は吸血鬼なのだ…………、



偽者だけど………。



私はれっきとした人間……、でも、実にくだらないことだが私は自分の正体が吸血鬼なのではないかと思っている。

運動は不得意ではないが強い日差しが苦手…。



肌はなぜか他の子達よりも白い……。

そして、なにより……、この長くて鋭い八重歯…。

数ある歯の中で生まれつきこの二本だけが異常に長い。

小学生の頃はこれが原因で虐められたこともあった。



それに、身体の特徴だけではない。



実際、私は吸血鬼という架空の存在に対して、憧れ以上の何かを抱いていた…。

それはもう病的な程に…。

 

子供の頃から映画とかで吸血鬼が血を吸うシーンを見るとものすごく興奮したのだ…。

そういう映画を観るときはいつも、血を啜る吸血鬼の方に自分の姿を当てはめていた。 大抵、吸血鬼は男だったけど…。



そのうちに、そういう映画を観るだけじゃ飽き足らなくなって、自分も吸血鬼になってみたいと思うようになった。



中学生から高校生の最初くらいの時には、黒いサテンやエナメルの生地を買ってきて自分でマントを作るようになった。



そして、毎晩暗い部屋の中で裸の上に黒マントだけを羽織って、その姿を鏡に写しながら楽しんでいたのだ。



その頃から皆より成熟が早く、背の高さや胸の大きさはクラス一だった私…。



そしてこの犬歯のような八重歯のおかげもあり暗い部屋で鏡を見ると、本当にセクシーな女吸血鬼になれたみたいだった…



そして私はそのうち、姿を真似るだけでは飽き足らなくなった。



誰かを襲いたくなったのだ……。





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腕の中にあるマントをぎゅっと握る。



今持っているこの一着は特別。 

なぜなら、あの子を襲ったときに着ていたから………。



私は、ある男の子の顔を思い浮かべた。ちょうど3ヶ月前に別れた、小さな少年の顔を……。



ナオト……、桐原直人…



少し前まで隣に住んでいた私より7つも年下の少年。11歳で地元の小学校の5年生。

私に良く懐いていて、前からしょっちゅう家に遊びに来てた男の子だ。



どういう事情があったか知らないけれど、両親がおらず兄と二人で暮らしていた。

兄の方は学校に通っていなかったが実にしっかり者で2人分の生活費と弟の学費を工面する為に良く働きに出ており、下校した後一人になる直人を私が預かることが多かった。



最初は私の部屋にあるTVゲームが目的で遊びに来るような感じだったが、色々と話をするうちに私達はだんだん仲良くなっていった。



私にとって直人はまるで弟のようだった。親が何度も離婚と再婚を繰り返し、虐待された結果一人暮らししている私と同じで、直人と彼の兄もやはり親と色々あったようだった。



母性愛に飢えていたのか、直人はとても私に懐き、私も彼のことが愛おしくなっていった。



しかし、最初は直人に対し姉のように接していた私だが、彼と付き合ううちに私は彼に対して友愛とは違う別の感情を抱き始めていた……。



私は、このずっと年下の少年を男として見る様になっていったのだ。



私は、躊躇いながらも彼を最初の獲物にすることを決めた。

今年の夏の終わり頃、その子は私の提案で家に泊まることになり…



私は自分の醜い欲望を彼にぶつけた……

偽りの吸血鬼を演じて、直人の寝込みを襲ったのだ…。



私に気付いて目を覚ました直人の顔は今でもまじまじと思い出す…。



私はマントを広げてみせて言った・・・。



(あなたは私の餌よ。これからたっぷり可愛がってあげる。) 





嫌がって暴れるその子を押さえつけているとき私はゾクゾクした。



今、私は吸血鬼になって男の子を襲っているんだと、それまで以上に実感できた。



あの子を襲ったのは殆ど衝動的にだった。あの子が可愛くてしょうがなくて…



今思うと、軽率な行動だったと改めて感じる。あの時の私は欲望に身を任せて後先のことを考えていなかった……。



今まで優しかったお姉ちゃんが急に襲い掛かってきて、直人はきっと私に裏切られたと思ったに違いない。



でも、その恐怖と悲しみに歪んだ姿があんまり可愛いからまた襲いたくなって



もう、抑えきれなくて私はひたすらあの子を犯した。狂おしく激しく…、あの子の綺麗な身体を汚した……



抱きしめて身体じゅうを撫で……、



おっぱいを顔に押し付けてあげたり……

キスをしてあげたり……、

首筋やうなじを舐めてあげたり・・・。



直人は可愛い声を上げながら悶えて、あの穢れの無い小さな身体が汗と私の唾液で淫らに汚れる……





そして、私はあの子の肌をナイフで切り裂き、滴り落ちる血を味わった…。



あの、胸が締め付けられるような背徳感………



禁断の果実を味わうような興奮に身を焦がす私……………



あの子の肌を伝う血の鮮烈な赤が目に焼きついて離れない………。



直人が抵抗をやめて私に身を委ねたとき、彼が私を受け入れてくれたのだと思った……。



私もあの子が誰よりも好きだったから嬉しかった。



あの子が私の初恋………。



でも、あの子は私の元から去ってしまった・・・、

あの夜以来、あの子は私を意識してかしなくてか避けるようになっていった。

話す機会も無くなり私達は段々と疎遠になっていった。



私は直人に問い詰めてみたけど、あの子は適当にはぐらかすばかりで詳しいことは話してくれなかった。 今まで、私には何だって話してくれたのに………



そして、私に対する態度が変ったのは直人だけではなかった。彼の兄も私を厳しい目で見ることが多くなり、あれ以来私のところに直人を預けようとはしなかった。



間違いない…、直人があの夜のことを兄に話したのだ。



それから暫らくして、私には何の挨拶も無いままあの兄弟は別の場所へと引っ越していった…。





私は後悔した…。

こうなったのは私のせいに違いない。

あの夜のことがきっかけで、あの子が私を嫌いになってしまった……。

無理も無いことだ…、高校生の私が小学生の直人に関係を迫るなんて、とても正気の沙汰じゃない。おかしいのは私なんだ……。





私は悩んだ…。

私は悩みぬいた末、過去の自分を捨てる決心をした。

しばらくして、同じクラスの男子が私に告白してきたとき。私は始めてOKを出したのだ。 



それが和宏…



以前から男に告白されることはよくあったけど男に興味なんて無かったから断っていた。 

でも、その時は違った。



彼を選んだことに理由は無いが、何か変るきっかけが欲しかったのかもしれない。



幸いにも、あいつはとても気さくで優しい人だった……。荒れていた私をとても穏やかに慰めてくれた。



和宏と一緒なら私は変れる……。



そう…、付き合い始めた頃はそう思っていた……。







だけど…………







あいつと、過ごす日々が続くたびに……、私の中にいる吸血鬼が再び目覚め始めてきた…。



「和宏……、私…………。」



最近、あいつを見ながら邪な感情が込み上げてくることが多くなった。



今まで抑えてきた衝動がだんだん和宏に向き始めている…。

私はなんて見境がないのだろう…、結局男なら誰でもいいのか…



和宏とのセックスの時に、このマントを着てみようかと考えたこともある。



正直に私の性癖を伝えて…、



吸血鬼としてあいつの血を……



でも、いまだにそんなことは出来ていない。 あいつが私の奇妙な趣味を受け入れてくれるか自信がないから…。



マントを羽織りながらの奇妙なイメージプレイ。 

それも、血を見るほど激しいSMを交えて…。 



物静かで清純なイメージを振りまいていた私にそんな異常性癖があることを知ったらあいつはどう思うのか…。



あいつだって男だ…。 第一印象で私が好きになったのだとしたら、失望させてしまうかもしれない……



もしそうなったら………、あいつは私の元から去ってしまうかもしれない…。



「そんなの………、嫌…………。」



あの子の時のように、大切な人がまた私の前から……。



何よりそれが怖くて、私は自分の嗜好を言い出すことが出来なかった。

その時、さっきの彰子先生の言葉を思い出す。



“女に生まれたからには本能の赴くままに行動するべきよ。遠慮するなんてつまらないじゃない…。”



そんなの無理…っ!! 私はその結果がどういうものか既に思い知ってしまったんだもの。

私の本性はとっても忌まわしいものだ…。 だから、どんなときも清楚に振舞って周りを欺き続けなければならないんだ。



私が本性を見せたら、私の周りから誰も居なくなってしまう…。 そんなのは嫌……!!



でももう疲れた…、違う人間を演じるのがとてももどかしい……。



気を紛らわす為にいくら勉強に打ち込んでも、もう胸が張り裂けそうで耐えられなくなる。



幾度と無く胸が痛む………、そんなとき、私は決まって直人のことを思い出す……。





あの子をオモチャのように乱暴に扱う私…。



何の抵抗もせずに、私に弄ばれるだけだったあの子…。



でも…、あの子のそんなところが堪らなく愛しくて、行為が終わった後には、私はあの子の耳元で愛の言葉を囁いた…。



行為中は、あの子を傷つけることに異常なまでの興奮を覚えるのに、終わった後

傷だらけの彼を見ると、途端に罪悪感が込み上げてきた…。



だから、私はあの子を抱きしめながら何度も謝った…。 



泣きじゃくる私を、あの子は優しくなだめてくれたっけ………。



思えば、私が素直に泣き顔を見せることが出来たのはあの子だけ…。



申し訳なくて、血が滲んだあの子の皮膚を舐めてあげると…、

そのまま、身体中を舐め…、やがてお互いの舌を絡ませあって…。



「あぁっ………!」



いつの間にか、あそこが濡れていた。 



やっぱり忘れられない…。 あの日の刺激はあまりに激しすぎた…。





私は、枕に顔を埋めた。誰も見ていないのに涙を見せないように泣きじゃくった…。



本当は弱いのに強がりばかりする私を表すような癖……



「直人くん………、貴方は今何をしてるの……?



ごめんなさい……謝るわ……。 おねがい…………もどってきて…………



このままじゃ…………、私…、壊れちゃうよ……………。」



こんな夜は、さっさと更けてしまえばいい。そんな風に思いながら私は目を閉じた。





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夜も更けて、そろそろ日付が変わろうとしていたころ。

いつ現れたのか、窓の外では キィ…キィ… という不気味な鳴き声を上げて何匹かの蝙蝠が飛び交っていた。



そとのき鍵を閉めたはずの部屋の窓が開き、風が部屋に吹き込んだ。そして、月明かりを纏った人影がベランダに降りてくる。

窓から差し込む月明かりに浮かび上がったその姿は女性だった。



女は着ているドレスの裾を靡かせながらゆっくりと寝ている私に近づいてくる。

私のそばまで来ると、起こさないように優しく私の顔に手を添えて、寝顔を見つめた



「ふふ…、可愛い子……。」



女は、目を細め私の寝顔を愛しげに見つめた。



「貴女には素敵なプレゼントをあげましょうね…。聖なる夜に相応しい、最高の悪夢を……。」



すると、女は顔を近づけ、寝ている私の唇を舐めてきた。



「ん…ふぅ…。」



寝ているにも関わらず、突然の甘い刺激に思わず声を漏らす私。



女は私の唇を自らの唾液で濡らすと、半開きになった私の口を塞ぐようにキスをしてきた。



「ん…! んんん…、ぷはっ……!!」



私が息を吐くと同時に、女は私から口を離した。 私は寝汗をかき真っ赤にした顔で、目を開いた。



「うふふ…、メリークリスマス。」



「………っ!!」



私は、目の前にある美しい顔を見て絶句した。



女はルビーのように紅い瞳で私を見つめ、唇を妖しく歪ませる。



 ゾクリとした…。その笑みあまりの恐さに、あまりの艶やかさに…。



顔立ちは20代半ばくらい。半開きにした目は睫が長く、少し垂れていて大人っぽい色気があり、紅くてぷっくりした唇が印象的。 誰かに似ている気がするが…、頭がぼんやりして思い出せない…。とにかく凄い美人…。



 しかし、その顔立ちはあまりに整っていて、かえって人間味を感じさせなかった。



「あ……貴女は…、誰なの……?」



「私の名は、レイリア・マテイ。はじめまして、有沢明美さん…。」



レイリアと名乗ったその女の姿は何もかもが奇妙だった。羽衣みたいに長くて大きなショールを腕に巻き付け、胸元を大きく開き豊満なバストが半分露出している。そんな露出の多い上半身に対して、下は足元までを隠す豪華な黒いドレスだった。何枚もの布とリボンで構成され大きく裾を引き摺った、まるで御伽話の舞踏会に出てくるような豪華なドレス。

日本の、こんな郊外の住宅地で見かけるような衣裳ではない。



今の季節にも、この部屋にもそぐわない雰囲気を全身に纏う女性。

少なくとも、聖なる夜に子供たちに夢を運ぶ聖人ではないことだけは確かだ。





私は夢でも見ているの………?



これが、夢か現実かなんてわからない。これから自分の身がどうなるかもわからない。だが、一つ確実に感じることがあった。



今、私は……、この人から逃れられない……… 



こわばっていた身体の力が抜けた。怖くて身体が震えるのに動けない。動こうと思わなかった。



「物分りのいい子ね……。そういう子は好きよ…。」



女の顔がふっと緩む。そして布団をめくると、私のナイトウェアのボタンを上から順に外していく。

私は抵抗しなかった……。



ボタンを全て外し、女はナイトウェアをはだけた。私の胸が露になる。



とても、怖い筈なのにそれ以上に胸がドキドキする。



腹の下の辺りが熱くなる…。



「怖がらなくていいわ…。私はあなたの願いを叶えてあげるために来たのよ…。」



女は、私の背中に腕を回し優しく抱き起こしてくれた。



シュルル…、シュルシュルシュル……



すると彼女の着るドレスがひとりでに蠢き始め、リボンが解けて私の身体に巻きついてきた。



「あ……、あぁ…!!」



リボンが触手のように動き、私のナイティを脱がして裸にする。そしてシュルシュルと心地良い感触でドレスの黒い布地が私の下半身を包みこんできたのだ。



「さぁ…、私に身を委ねて…。」



女が優しい表情で囁くと、彼女の腕に絡み付いていたショールがフワフワと伸びてきて、私の両腕に絡みついた。 四肢の自由を奪われた私…、でも彼女の優しい顔の為か不思議と恐怖は感じなかった。



黒い布に絡め取られ、顔以外はだんだん黒い繭に変ろうとする私を、女は自らの胸に抱きしめる。



温かい…。 押し付けられる胸、私を抱きしめる腕、身体を包むドレス…、



甘く、優しい感触が私を包み込んでいる……。



なんだか……、とても懐かしいような……。



「悩みがあるんでしょう? あなたの彼のことで……。」



女が耳元で囁いた。私は催眠術にかかったような虚ろな瞳で、うわごとのように応えた



「はい……。」



「そう……、辛いわよね………。」



女は、口を私の耳元から首もとに移すと、首筋を、つぅっと舐め上げた。



「あぁ……っ!!」



私の身体がピクリと震える。



「相手に嫌われたくないから自分を隠す………。

やりたいことがあっても我慢する…………。

あなたはそうやって仮面を被りつづけてきたのでしょう……?」



「あ……わ……、わたし……は……………」



耳の近くで囁かれる言葉。 それは呪文のように私の頭にこびりついてくる。



「大丈夫………、我慢する必要なんて無いのよ…。

欲しいものが目の前にあるなら迷わずに奪ってしまえばいいの……

貴女にはそれができる力があるのよ。 欲しいものを全て手に入れることができる力がね………。  貴女は気付いていないだけ…。だから私が目覚めさせてあげるわ……。

貴女の心の奥底に眠っている、本当の貴女の姿を…… 」



彼女の手が私の頬を掴み、顔を少しずつ近づけてくる。

目を細めて、唇を半開きにして、美しい顔が目の前に迫る。 

私もそれにつられるように目をとろんとさせ、口元の力を緩める…。



やがて重なり合う二つの唇……、相手が同じ女ということに妙にドキドキする。



柔らかい唇が、お互いの唾液を塗り付けあいながら交じり合う…



どこか切ない味…。心の奥底に眠っていた欲望と悦楽の記憶が蘇る。



やがて、そのまぐわいは口のみならず体中に広がる。



私はいつのまにか自分から手を伸ばし彼女を求めていた。



「あぁ……もっと………、もっと気持ちよくしてください………。」



「ええ……、わかっているわ……。 あけみ……。」



レイリアは口を大きく開くと長くて鋭い二本の牙が覗く。



吸血鬼……



妖しく光るその牙を見た瞬間、私は恐怖とともに大きな期待感と興奮を覚えた。

吸血鬼に襲われる…、長年夢に見続けてきたことが現実になろうとしている。



「怖いのは最初だけ…、貴女もすぐに闇の魅惑に酔い痴れることになるわ。」



女は私を抱きしめ、首筋に口付けをするとそのまま鋭い牙を突き立てた。

私の首筋に激しい痛みが走る。私は身体を強張らせたが痛みは徐々に消えていき、

代わりにじんわりとした熱い感触が首元から全身へと広がっていく…。



熱い……、身体がすごく熱い……



熱病にかかったように頭がぼぉっとして、意識が遠のいていく……

やがて私はそのまま気を失った……







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気が付くと、私は一人ベッドの上に横たわっていた。



布団ははだけてないし、ナイティも脱いでいない。 あのレイリアとかいう女の人の姿もそこには無かった。



壁の時計をみるとまだ午前1時を過ぎたばかりだ。



「夢……?」



ベッドから起き上がって端に座る。そして、自分の首筋を指でなぞってみた。



「あ……!!」



滑らかだったはずの細い首筋に確かに二つの窪みがあり、かさぶたになっている。



そして、同時に他にも違和感があることに気が付いた。 



手を見てみると爪がマニキュアを付けたみたいに真っ赤になり、獣のように鋭くなっている。



そしてなにより……、電気を消して暗いはずなのに、部屋の隅々まで良く見える。



私は弾かれるようにベッドから起き、鏡を見た。



「夢じゃ……なかった……。」



そこに映る顔は今までの私の顔じゃなかった。

口には、二本の尖った牙。元々、長かった八重歯が更に鋭くなっている。

連日の勉強疲れでできていたクマがきれいに無くなり、ニキビも消えている。

それに肌は血色がいいが少し白くなったように感じる。



しかし、一番変わったのは目だ。

ルビーのような真っ赤な目。あの女の人と同じ……。



「私……、吸血鬼になっちゃったんだ……。」



吸血鬼は鏡に映らないとも聞いたことはあるが…、今の私を表すには吸血鬼という表現が一番しっくりくるだろう。



身体が震える…。でも、吸血鬼になったことが怖かったわけでもないし、絶望したわけでもない…。 



これはむしろ……。



「ふ……ふふふふ………。」



鏡に映った自分の口元が歪む。それは、あの時、あの人が見せたのと同じくらい

妖しく、艶やかな、微笑みだった。



そうだ…、私はずっとこんな風になりたかったんだ……。  

だから……、私の身体に大変なことが起こったのに…、

こんなに嬉しいんだ…………。

…………………………………

ふふふ……。



洗面場から部屋に戻ると、私はベッドの隅に何かが置かれているのを見つけた。



真っ赤なリボンが付けられた贈り物の箱。 



私はすぐにリボンをほどき、包装を破いた。 



プレゼントを開けることがこんなにわくわくするのは何年ぶりかしら…。



 箱の蓋を開けると、それはきれいに畳んで箱の中に収められていた。



「わあぁ…………!!」



私は目を丸くし、頬を紅くして満面の笑みを浮かべながらそれを取り出し、まじまじと見つめた。

 それは、皺一つ無い新品のマントだった。立て襟で、表地は黒く裏地が紅い正真正銘のドラキュラマント。 安っぽいタブも付いていない。材質はわからないが手触りはシルクのように滑らかで、手で掴むと流麗な襞ができる。



 今まで自分で作ったマントなんかより数段上の代物。 



ましてやデパートとかで売っているパーティー用のグッズなんかとは比較にならない高級で立派なマントだ。



表地は黒いが、月明かりを反射して鮮やかな光沢ができている。



裏地の赤は血のように鮮烈で、ヌルヌルと濡れているような生白い光沢が印象的だった。



「素敵……。」



私は早速、このマントを羽織ってみた。



首前で紐を少し緩く結び、襟を立てる。



着てみると、マントはちょうど私の踵の辺りまで長さがあった。



裾を掴んで身体を包んでみると、首から下の部分はすっぽりと納まった。



間違いなくこれは私の体型に合わせて作られたものだ。



私は嬉しくなり、鏡の前でマントを広げたり閉じたりした。



裾を掴み両手で思いっきり開くと、バサァッ、と心地良い音を立て、翼のように大きく広がった。



そこから、自分の身体を包むように翻すと同じく心地良い風切り音を立て、流れるような襞を作りながら私の身体にぴったりと巻きついた。



肌に触れるツルツルした感触がとても気持ちいい。



「ありがとう、美人のサンタさん……。」



自分の身体をギュッと包む。



「最高のプレゼントだわ…。」



右手でマントの裾を持ち、身体ごと回転させて思いっきり翻す。



ぶゎさああぁぁ〜〜〜〜!



ほぼ水平に近い角度でマントが大きく広がり、部屋全体を巻き込むくらいに翻る。



風圧で壁のポスターが揺れ、机の上の書類が飛び散りカーテンがフワッと開いた。

私は、そこから見える夜景に目を向け、マントを着たままベランダに出る。

高いから風が吹いているし、マントの下にはナイティと下着しか着ていない。



それなのに全然寒くないし、帰るときに凍えた風すらも気持ちよく感じる。



「うん…、きっと大丈夫……。 飛べる……。」



靴を履き欄干に足を掛ける。普段なら怖くて絶対こんなことはしない。

でも、今の私は自分の中に目覚めた力を信じている。 

深く息を吸い込んで、私は、ベランダから宙に身を躍らせた…。





両手でマントを開くと、それは吹き付ける風の流れを受け止めるように大きく広がった。

マントは水に浮くように地面と水平に拡がり、私の身体も浮いていた。



「やった……。すごい……。」



不思議な感じ…。鳥のように飛ぶのとはわけが違うことはわかるけど……。



例えるなら水に浮いてるような感じ。



でも、手足は全然重くないし下に引っ張られる感じもしない。 



マントと共に身体自体が軽くなって風船のように浮き上がっているような感じだ。



「宇宙遊泳みたいにどっかを蹴らないとこのまま動けなかったりして…。

それとも、泳ぐみたいに手足を動かさなきゃならないのかしら?」



しかし、その必要はなかった。試しに回ろうとしてみると実にすんなりとその場で回転できた。次に宙返りも試してみた。どこにも足を掛けていないけど、動きをイメージして身体を後ろに逸らすだけで視界が反転し、縦に一回転した。

マントはその動作に追従するように曲線を描きながら回転し、身体がもとの状態に戻ると、再びゆっくりと広がる。 水中で布を引っ張るような動きだ。



「翼ってわけじゃなさそうね……。」



空には、満点の星。 その中に楕円形の月が浮かぶ。



もっと高く上がってみよう…!



マントを翼に見立てて、両腕を思い切り振り下ろす。 すると、私の身体はぐんぐん上昇し、たちまちマンションの最上階を追い越した。



「わぁ〜〜〜っ!! あははははっ!!」



私はマントをはためかせ思いのままに宙を舞う。大きく宙返りしたり、一気に下降しては再び舞い上がったり…。体中に感じる風がとても気持ちいい。



「街のほうに行ってみよう。」



私は町のほうに目を向けて宙を蹴った。 バサバサッとマントの心地いい風切り音を響かせ、どんな鳥よりも速く飛んだ。

ベッドタウンが広がる丘陵地帯を飛び越え、遠くに見える都心のビル郡を目指して飛んでいく。



電車を使っても一時間以上はかかる首都圏まで、あっという間に着く。夜遅くてもクリスマスだけあって多くの人影がある。地面に降りるわけにはいかないだろう。私は駅ビルの上まで上がり、屋上の縁に降り立った。拡がっていたマントが静かに私の身体を包む。



見下ろすと沢山の人が見えた。会社帰りの人や夜遊びの若者たち。そしてやはりカップルが多い。



 「うふふ……、こんな風に見下ろすのってなんだか快感♪」



皆、浮かれた顔をしている。でも、私は今あなたたちなんかよりずっと幸せな気分なのよ…。こんな素敵なプレゼントを貰ったんですもの…。



見えもしない群集に見せ付けるように思い切りマントを広げる。こうしてると、なんだかとてもいい気分……。 まるで、下に見える人々の上に立つ女王様になったような………、今までに無い優越感。



そのとき、下の人ごみの中に見知った顔を見つけた。



「あれは……、確か直人のお兄さん……。」



桐原直人…、一年前に私の元から離れていってしまった子だ。  

私にいつも親切にしてくれて……、仲良くしてくれた子……、可愛い子……



直人の兄は仕事の帰りだろうか、彼は綺麗に包装された大きな箱を小脇に抱えバスに乗り込んだ……。



引越し先がどこなのかは聞いていないがおそらく彼の行き先は新しい家…。

ならそこには、直人も……。



ドクン……、



心臓が一回大きく鼓動したような気がした…。私は、紅い瞳を今まで以上に爛々と光らせ、 マントを広げて宙に飛び立った。







_________________________





夜には人通りの無い町外れの住宅地。その一番奥にあるこじんまりとした一軒家が現在、桐原兄弟の住居だった。兄の桐原義治が契約社員として入社した企業の古めの社宅であり

会社や駅からも遠く所々にガタが来ているようだったが、2階建て2LDKの一軒家は兄弟二人が住むには十分すぎる広さであり、今の不況下で身寄りも無い非正規社員に与えられる住居としては破格の規模に違いなかった。



2階の部屋で直人は小さなストーブの前で丸くなって兄の帰りを待っていた。



「ただいま!! 直人〜、夕飯買ってきたぞ、いるか?」



「あ、兄ちゃん!! お帰り〜!!」



直人が玄関に駆けて行くと、義治は抱えていた箱を自慢げに見せびらかした。



「直人、これなんだと思う?」



「それって!! もしかしてXB○x36○?!」



「ソフトも買ってきたぞ。驚いただろ!! 会社からボーナスが出たんだ!! この家もそうだけど本当にいい会社に拾ってもらったと思うよ。なにしろこの不況下でも急成長している凄い会社だもんな。」



「良くわからないけど凄いや!! ありがとう兄ちゃん!」



二人は笑いあいながら2階に上がっていく。義治は机を出して買ってきた料理を並べ、直人は早速、ゲーム機の箱を開けにかかった。



「ゲームなんて久しぶりだよ!! このソフト、2が出てたんだ。明美おねえちゃんの家にあったのは1だったし……。」



そこまで言って、直人はしまったと思った。兄の方を振り返ると、彼は手を止めて表情を硬くしていた。



「直人…、あの子の話はもうしない約束だろ? まだ忘れられないのか…?」



「兄ちゃん…、でも…、明美おねえちゃんは悪い人じゃないよ…。

あのあと、僕にもちゃんと謝ってくれたんだよ…? すごく泣いてた……。」



「確かに…、悪い子じゃなかったと思う。でもいけないことをしてしまったんだ。それはもうお前にもわかるだろう…?」



「で……でも…、兄ちゃんも前に付き合ってた女の人と…。僕も明美おねえちゃんは好きだったし、それに……すごく気持ち良……。」



「直人っ!!!」



大声で怒鳴る義治。直人はビクッとした



「何度言ったらわかるんだ!! お前はまだ早すぎるんだよ!!!

その首の傷だって、すごく危なかったんだぞ。

頼むから兄ちゃんをこれ以上困らせないでくれっ!!」



そのまま、黙りこくる二人。暫しの沈黙の後、義治は直人に話しかける。



「ごめん、怒鳴って悪かった……。あんなこと、忘れろって言っても無理だよな…。」



「兄ちゃん……、僕もごめん…。 ご飯食べようよ。せっかく買ってきたのに冷めちゃうよ?」



「そ…そうだな……、食べようか、直人。」



あの日のことは兄弟二人の間にも未だに暗い影を落しているようだった。しかし、今まで2人で必死に生きてきた彼らの絆は堅く。お互いに心を支えあっていたのだ。



義治は料理を皿にとりわけ、二人で食事の挨拶をしようとした。

だが、ちょうどその時、部屋の明かりが音も無く消えた。



「直人君…、やっとみつけた……。」



私は、家の向かいにある街灯の上に立ち、突然の出来事に戸惑う兄弟を見下ろした。すると、直人が私に気付いたようだ。 こっちを指差して兄にすがり付いている。



ああ、そうか…。私の目が光っているのね……。



マントを広げて、2階のベランダにフワリと飛び移ろうとする。

義治も気付いたらしく、必死の形相で窓の鍵を閉めて、カーテンを閉じた。



また、邪魔をする気なのね…!!



私はその窓をにらみつけた。



ガシャァァンッ!! バリバリバリッ!!



「うわぁぁっ!! 兄ちゃんっ!!」



「直人っ!! 伏せるんだ!!」



窓ガラスが粉々に弾け跳び、カーテンが破れる。

大破した窓から、私は部屋の中に降り立つ



「直人クン……、だめじゃない…お姉ちゃんに何も言わずに出て行っちゃうなんて……。」



「え…、明美おねえちゃん…っ!? ひ……ひぃぃっ!?」



直人は気付いたようだ。しかし私の姿を見るなり、顔を真っ青にして腰を抜かしてしまった。私のこの姿を見て、あの夜の事を思い出したのだろうか…。だが私が彼に近づこうとすると、義治が直人を庇うように立ち私を威嚇してくる。



「あ……有沢!! お前っ、一体何のつもりだ!! 直人に近づくな!!

少しでも手を出したら俺がただじゃおかないぞ…!!」



敵意を剥き出しにした目で私を見る義治。 

うるさい男ね…… 静かになさい……!



紅い瞳で彼の目を見つめる…。

すると、義治は突然動かなくなった。 戸惑っているようで目をきょろきょろさせているが首から下が石になったように動かない。



「ふ〜ん……。」



こんなこともできるんだ…。だんだん“力”の使い方がわかってきたわ。



ふふふふ……



“我慢する必要なんて無い”か…。 そうよね……



目の前に私の大切な子がいて……、それを邪魔しようとしてる憎らしい男がいる。



なら、やることは決まっているわね。

本能の赴くままに行動するとしようかしら…。



「あ…、ああ……」



「うふふ…、無駄よ。その拘束はあなたの力で解くことはできない。」



男の目に恐怖の色がはっきり見える…。 掴んだ頬から身体の震えが伝わってくる。 この私に対して恐れを抱いているんだ。

実際に襲う相手の反応が、私が本当に人外の者になったことを自覚させる…。



ああ……なんて…………、 なんて心地がいいの…………。



立ち尽くしている男に近づく。 ふぅん……、顔はまあまあかしら……

私は男の頬を片手で掴み、目の前まで引き寄せた。良く見れば、兄の義治も直人と良く似た顔立ちをしている。

唇が触れ合いそうなほど顔を近づけ、男の目を紅い瞳でじっと見つめる。



ふふ……、そうだ、せっかくだからこの男も頂いちゃおうかしら…?



もう片方の腕でマントを広げ彼の肩に掛ける。大きなマントは私とこの男の二人を包んでもまだ余りあるボリュームだった。私はマントの中で彼のズボンのファスナーを下ろし指を入れた。



「あぁ…!! な…なにを……!!」



股間を弄って男のペニスを引き出そうとする。でも、恐怖で縮こまっていた筈のそれは、私が触っているうちに硬くなってきて、なかなか取り出せない。



まったく…、これだから男って……。 



和宏と初めてセックスしたとき、彼のあまりの不器用さに閉口したときのことを思い出して私は溜息をつく。

面倒だからベルトごとズボンを引きちぎった。青年の股間が露になる。



あら…、もう先走り液で先端が濡れている。本当に節操なしね。



「さっきまでの威勢はどうしたの…?

年下の女の子に弄ばれて感じるの? いやらしい……。」



硬くなったサオに指を絡ませてゆっくりとしごき上げる。ほどなく彼の息遣いが激しくなり、目が虚ろになってくる。



ほぉら、もうさっきまでの恐怖を忘れちゃった……。



バカな男……



手の動きを速くする。 溢れてくる先走り液をサオ全体に塗りつけながら勢い良くしごく。 ほらほら……、ヌルヌルしてどんどん気持ちよくなるわ…



「ああ……、ああああ〜〜〜〜〜っ!!」



情けない声を上げる青年…。 私が、この手で……、この男を快楽で狂わせているんだ……



うふふふ……、



私はペロリと舌なめずりした。男をいたぶるのがこんなに愉しいなんて…。



「女に辱められる気分はどぉお…? とっても屈辱的じゃなくて?」



片手でなおも彼のペニスをしごき続ける。でも、出させてあげない…

出るか出ないかのギリギリのところで、射精の直前の快感だけをいつまでも味わわせる…。

 イキたくてもイけないもどかしさに彼は喘ぐばかり。



「あらあら…、随分興奮してるのねぇ? 

おかしいわね……、私から直人くんを守るんじゃなかったの? 腕力の劣る女の子にいいように弄ばれて……

そのみっともない姿を弟の前に晒しているというのに…。

もしかしてあなた…、痴態を晒すと興奮を覚える性質なのかしら?」



私は顎を掴んだ手に力を込め、そのまま彼の身体を突きとばした。

義治は仰向けに倒れるが、さっきまで私が触っていた為に硬くなったペニスがぴんと真上に立っている。

私はマントを身体に巻きつけると、倒れた彼の元へ歩いていった



「そんなに屈辱を味わいたいなら、私がやってあげるわ。」



私は靴を脱ぎ、露出した股間を足で踏みつけた。



「ほら……、どうかしら……?

女の足で踏まれるなんて恥曝しもいいところね……。

あなたにとっては御褒美なんでしょう? うふふふ……。」



「ぎゃぁ……っ!! はあぁっ!!」



黒い靴下越しに、親指で肉棒の付け根をぐりぐりと刺激する。彼のペニスがびくん、びくん、と震えて興奮していることがわかる。



「ふふ……、踏まれて本当に感じてるのね……この変態男…。

あなたの様な男が、直人君を守るだなんて笑わせるわね…。

私の脚の下でのたうち回るのがお似合いよ!」



私はさらに脚に体重を乗せ、股間を踏み躙ると彼はまた歓喜の悲鳴を上げた。

この苦しそうな、気持ち良さそうな声…、感じてきちゃう

じゅるり…、やだ、涎がでてきた……



まもなく、身体を覆う刺激に耐えかねて義治は屈服の証を無様に漏らした。



どびゅるるるる〜〜〜〜〜っ



筒先から勢い良く白い液体が放出される。おそらくは、普段この男が一回の射精で出す量の倍近く。



「ふふふ…、どうやら貴方のお兄さんもようやくおねえちゃんのことを気に入ってくれたみたいね。 ねえ、直人くん?」



直人に向かって優しく微笑む。彼は地面に腰を落としたまま、まるで信じられないものを見たような目で私達の方を見ていた。



尊敬の対象だった兄の醜態を見てしまったからか…、私の変貌振りを見てか……、



まあ、どちらにしても……。



その、呆然とした顔はとてもカワイイわ……。



手に付いた精液をペロリと舐める。 おいしい……。



義治の顔を見ると、なんとも情けない顔になっていた。弟の目の前でみっともない姿を見せたから? そんな感傷に浸る資格があなたにあると思ってるのかしら。

私は膝立ちになると、横たわる彼の髪を掴み、無理やり身体を起こさせる。

そして、耳元で囁く。



「ねえ…、あなたはそんな醜態を晒してもまだ直人のことを守れると思ってるの?」



「ひゃっ!!」



男の身体がビクンと跳ねる。 耳に私の息が吹きかかったからね…。下衆な男。



「思っているのかと……、私は質問しているのよ……?  おわかり……?」



長い爪のある手で彼の顎をクイっと持ち上げ……

熱っぽい口調で、わざと息が吹きかかるように、ついでに耳たぶに唇が触れるように、囁く。



義治は、身体をビクビクさせながらコクリと小さく頷いた。



「ふぅ〜ん? そうなの………。 それなら……。」



私は彼の服に手を掛け、そのまま力任せに破いた。



ポロシャツも下着も破き捨て、彼を裸にする。



寒いからか怖いからか彼はさっき以上に震えている。



どうやら、あなたは震えることしかできないみたいね……。



私は義治の背中の方に周り、後ろから彼の身体をマントで包みこみ抱きしめた。



それだけで彼は喘ぎ声を漏らし、鼓動が速くなる。

 

抱きしめただけでこんなに感じるなんてね…。でも、同情するわ……。



このマントの感触って不思議なの。この真っ赤な裏地、ウネウネと動いていてまるで女の子のアソコみたい。

この中に全身を包まれたら気持ちいいのも無理は無いものね…



彼を抱いたまま向きを変える。私が動くとマントも揺れて、男の身体をさわ…、

さわ…、と撫でる。



ふふふふ……、また震えている…。 さぞや気持ちいいんでしょうね……。

あなたもなかなかカワイイわ……。



そんなにこの感触が気に入ったなら……。 存分に味わって狂ってしまうがいいわ……。



左手で彼をマントで包んだまま、右手でマントの裾を掴みペニスに巻きつける。亀頭の先だけを出し、マントの上からペニスを握りしごき上げた。



「あああぁ……!!!」



さっき、大量に精液を漏らしたばかりなのに、またペニスがはちきれんばかりに硬く、大きくなる。 



こんなことはもう造作もないわね…。



「気持ちいいのはわかるけど、今出したら大変なことになるわよ?

前を見てごらんなさい。」



「へぁ…?」



私の責めに酔い痴れていた彼は、我に返って前を見る。そして、自分が今どういう状況に置かれているかを理解したのか、私の腕の中でもがき出す。



いま、彼のペニスは、へたりこんでいる直人の顔の前にある。さっき、抱いたまま向きを変えたのだ。 直人は恐怖に引きつった顔のまま、目の前にあるペニスから目を逸らせないでいる。

つまり、私の責めに耐えることができなければ……



「大切な弟の顔を、汚すつもり?」



「あ…、あああ………だめ……やめて……!!」



あらあら……、その情けない懇願の仕方は何なの?

男らしさなんて微塵も無いのね……、 気持ち悪い……。



「この子を守りたいなら、耐えてみなさい……。

さっき、沢山出したばかりだし……、出来るわよねぇ……? くす……。」



さっきと同じように、男のペニスをしごく。でも今度はさっきよりもずっと気持ちがいいはず。 



クチュクチュ…、ぐちゅ、ぐちゅぐちゅぐちゅ……



「あ……ひゃっ!! あぁぁ……、あぁぁあああ!!!」



私の腕と胸に、そしてこのマントの真っ赤な裏地の感触にいつまで耐えられるかしら?

私の腕から逃れようと必死でもがいているけど、所詮無駄なこと。

このマントの中から逃げられると思っているの?



彼のペニスは、これ以上ないくらい怒張し、先端から透明な液をとろとろと垂らしながらビクビクと脈打っている。 それでも射精に達しないのは大したものね。



「良く耐えるじゃない……。 少しは直人君のことを大切に思っているみたいね。認識を改めるわ…。 でもね……。」



そんな感情は、所詮一時的な薄っぺらい物よ。 絶え間ない誘惑と、強大な快楽の前ではいとも簡単に折れてしまう。



「私の牙を味わって、理性を保っていられるかしら?」



私は大きく口を開けた。ついさっき手に入れたばかりの鋭い牙を剥き出しにする。



「………っ!! ぁ……ああ……、わああぁっ!!」



直人の悲鳴が暗い部屋に響き渡る。私の牙を見て相当驚いたようね…。

貴方の悲鳴はとても聞き心地がいいわ…。でも、今は少し黙っててちょうだい……



「ぁ……!? かは…………?!」



直人は突然声が出なくなって喉元を押さえる。



ふふ…、そう…、それでいいわ。 ちょっと声が出ないようにしてあげたの…

少し苦しいでしょうけど、もう少しの辛抱よ……

私がこの男を………



「この男を喰らうまでの辛抱よ……!!」



大きく口を開け、牙を剥き出しにする。

いよいよ、この男の血を…、これで本当の吸血鬼に……



私は彼の首に噛み付き牙を突き立てる。



「あ…ぎゃああああぁぁ!!!」



ゴクッ、ゴクッ



喉を鳴らしながら男の血を飲み込む。一口、一口を味わうように…

義治は腕の中で暴れるが、今の私なら押さえ込むのに何の苦労も無い。



おいしい……



怪我をしたとき自分の血を舐めたことはあるが決して美味しいものではなかったと記憶している。 しかし、今啜っているこの男の血は本当に美味しい。

あの鉄のような味が、今では極上の甘みに感じられる。

粘度のある血を舌の上で転がすと、うっとりした気分になる…。

むしゃくしゃしたときに隠れてお酒を飲んだこともあるけど、この血の味はあんなものとは比較にならないくらい私を酔わせる……。



今私が飲んでいるのは、この男の命そのもの…。きっとどんな極上のワインよりも芳醇な命のエキス…。



「あぁっ!! あああああああっ!!」



男が身体をガクガクと震わせる…。吸っている私が気持ちいいように、吸われているこの男も気持ちいいのね……。



ふふふ………



なら、一緒にイキましょう…。大切な弟の敵であるこの私といっしょに…。

このマントの中でね…!!



ザワザワザワワッ!!



マントが激しく脈動する。赤い裏地は粘膜のような感触に変わり、義治の身体を舐め上げる。 この動きは私が思ったとおりの動き。

今の私にはマントが手足のように感じられ、自由に動かすことができる。



さあ…、とどめをさしてあげる…



紅い裏地であなたの身体を下から上へ舐め上げるように……



まるで、オチンチンを呑み込んだ膣の中のように……



あなたの身体を……、極上の布の感触で撫で上げる……



優しく激しく……、とてもゆっくりと……



さあ…、私の中に堕ちていらっしゃい……



深い深い快楽の泥沼に……、どこまでも深く引き摺り込んであげる!!





顎に思い切り力を込めて、牙を一気にねじり込む。



グスッ! ググッ



指に力を込め、尖った爪を彼の身体に食い込ませる。



「あぁっ!! ひぃやああああああ……!!!」



どびゅびゅびゅびゅ〜〜〜っ!! どくどくどくっ!!



義治のペニスから、放尿のように精液が吹き出る。

白い奔流は直人の顔に真正面からぶつかり、まだ幼さが残るあどけない顔を汚した。 直人は思わず顔を背け、手をかざして兄の精液を防ごうとする。

しかし、噴出す白濁液の勢いは衰えることなく、飛び散って直人の髪や服までも汚していく。



「あははっ!! イっちゃったわね! 弱い男!!

必死で我慢してたみたいだけど、あなたの意思なんて所詮その程度だったみたいね!!」



「あぁ………………、かはぁ…………。」



精液を出し尽くし、義治の足の力が抜ける。

私が腕の力を少し緩めただけで彼は腰を落とし力なく地面に横たわった。

虚空を仰ぐ目に光は無く、口から涎を垂らしながらわけのわからない呻き声を漏らす。 散々、搾りつくされたペニスは細く縮こまり先からは快感の名残をポタポタと滴らせていた。



「なんて無様な姿なのかしら…、私の大切な物を奪おうとしたあなたにはお似合いの末路ね…。」



私は横たわる男の腹を思い切り蹴りつけた。彼は苦しそうな嬉しそうな喘ぎ声をあげて芋虫のように身体をくねらせる。 どうやらもう痛みと快感の区別もつかないみたいね…



「結構、簡単に壊れちゃうものね…。 もう、あなたに用は無いわ。」



ブヮサァッ



マントの片方を拡げると、その生地の表面から何匹もの蝙蝠が飛び出した。蝙蝠たちが義治の身体に群がると、彼はくすぐったそうに声を漏らす。やがて、蝙蝠たちは彼の身体を持ち上げると、窓の外へと運び去った。



「あぁ……お兄ちゃん……、や……やめて…! やめてよ…!!」



「うふふ…、私の目的は貴方なのよ…直人君。邪魔なゴミはお外に捨てちゃいましょう。

適当な所に放り出して凍死でもしてもらうわ。」



私が紅い目を輝かせ、直人に詰め寄る。



「直人くん………」



「ひっ!!」



直人は身体を縮こませる。精液にまみれた顔のまま、私を恐怖に満ちた目でみつめる



ああ……、直人……  私の愛しい子……。 



もう手放さない…。 これでようやく、私の物になるのね……



「かわいそうに………、あの男の汚らしい精液で汚れてしまって……」



マントを揺らし、ゆっくりと直人に歩み寄る



「ぃ……いや……、こないで……おねえちゃん……」



声を震わせ、今にも泣き出しそうな顔で怯える直人…

この前、私が彼を始めて襲った時と同じ……。 いえ……、今の貴方の顔はあのとき以上に恐怖に歪んでいる。



かわいい……、 なんて可愛いの… 直人……



他の誰にも貴方を渡すものですか……。

直人くん…、もう二度と貴方を失うつもりはないわ……

貴方は私のものよ……、私だけのもの……!!



直人の顔をがっしりと掴み、



「ナオトくんのお顔…、私が綺麗にしてあげる……」



れろっ



直人の顔に舌を這わせ、こびりついた精液を舐め取る。

女の子みたいなショートヘアを掻き上げながら、小さくてかわいい鼻から、マシュマロみたいに柔な頬、うなじにおでこまで、味わうように丹念に舌を這わせる…。



「ぁ……ぁあ……、ぃや……ぁぁ……」



直人のほっぺ…やわらかくて………おいしい……



一年前と同じ………



これだわ…………、私はこの感じが欲しかったの………… 



直人の身体を引き寄せ、唾液で汚れた顔を私の胸に埋める。

この子の震えが体中に伝わってくる…。 



直人の身体をマントで包み込む。義治にやったように犯すためではなく…。

優しく…、やわらかく……、守ってあげるように……

君の冷えた身体を温めてあげる……



「ぁ…………。」



直人の小さな身体を抱きしめ、頭や背中をやさしく撫でてあげる…

すると直人の震えが収まってくる…。恐怖がゆっくりと薄れてきているんだ…。



私はほっとした……… だけど………



安心してきたら、なんだか意地悪したい気分になってきちゃった……



直人のズボンを下ろし、パンツの隙間に指を潜り込ませる…。



気を緩めかけていた直人が、一気に身体を強張らせる。



胸の隙間から不安げな顔で私を見上げる…



ふふふ……、やっぱり弱気な顔が一番可愛い。



痛いのは最初だけよ………



すぐに気持ちよくなるからね………



わずかに薄い毛が生えかけた股間を指先で触ると直人の身体がピクンとする。

触れているうちに先っぽからだんだんと熱い汁が染み出してくる。



「ふふ…、相変わらずイケナイ子ね…。怖がっているように見えても体は正直だわ。」



指先で直人の包茎オチンチンを撫でながら、首筋に唇を触れさせる。

直人の身体がぴくっと反応する。 



そのまま、うなじ、耳の裏へと唇を滑らせ、舌先で舐める。 直人は身体を痙攣させながら熱い息を漏らした。



やっぱり、君も憶えているのね……。あの淫らな夜を……



「今ならもう、あの時と違ってちゃんと感じられるわよね……?」



尖った牙で直人の耳たぶに甘く噛み付く。



「ひゃ………っ!」



「ねぇ、もうオナニーは覚えたんでしょう…?

普段何をオカズにしているの…? 明美おねえさんにきかせてよ…。」



私は直人の身体を仰向けに床に押し倒すと、馬乗りになり服に手を掛け引き裂いた。 



「一人ぼっちの君と仲良くしてあげたでしょう? 友達だった私を捨てて逃げちゃうなんて……、ひどいわ……。

私に対する裏切りよ。その罪は君の身体で贖ってもらうからね……。」



服を破き去ると、まさしく幼子のような未熟な身体が寒空の下に晒される。 首筋にはあのときに付けたナイフの傷がまだ残っている。



「うふふ…ふふふっ!! あの夜のことは今での昨日のように思い出すわ…。

この傷は君と私の絆よ。」



首筋に顔を寄せ、その傷に沿って舐め上げると、直人は可愛い声を漏らしながら顔を真っ赤にして、涙をぽろぽろと流した。



「直人くん、さっきも聞いたけど…、何をオカズにしてるの?

ひょっとして……、おねえちゃん?」



直人の目の前まで顔を近づけ、怯える瞳を紅い目で捕らえる。



「ぁ……、あうぅ……っ!!」



「ねぇ……、おしえてよ…。」



紅い瞳の魔力が少年の心を篭絡する。彼の心はだんだん私の意思に侵されてゆき嘘をつけなくなる…。



「あ……明美…ぉねえちゃん…です……。」



「そう…、うふふふ……!!」



私は直人の股の辺りを優しく撫でながら問いかける。



「じゃぁ…、あのときの続きをしようか……

君もずっと待ち焦がれていたんでしょう…? 私に…、また犯されたかったのでしょう…?」



「ぇ…あ……、そ……それは……、そんなこと……。」



「あらぁ…、嫌なの……? じゃぁ止めちゃう…?」



「あ……っ!!」



彼の下半身から手を離そうとすると、直人は途端に切なそうな顔になる。



ふふふ……



私は意地悪く笑いながら直人を見つめる……。

今の私にはこの子の感情が手に取るようにわかるのだ…。彼の中で醜い欲望がゆっくり鎌首をもたげてきている。兄の心配などそっちのけで、私と火遊びすることに興味を持ち始めている…、

 あの無邪気な子が、この3ヶ月ですっかり性欲に目覚めてしまったようね…、うふふふ…。



「また私と遊びたいの…? ねぇ…そうなの直人君……?」



「そ……そんな…ぅぅ、ぁ…ぼ……ぼくは……。」



「ん〜〜? なぁに? はっきり言ってくれないとわからないよ?」



「う…ぁ、お…おねえちゃんと……、ぁ……遊び……。」



ふふふ……、葛藤してる、カワイイ…。兄のように身体を使って陥落させるのは簡単。

でももう少し……、焦らして焦らして…、自分から私の中へ堕ちてくるように…。



「何して遊ぼうか…、君の身体中にチュ〜してあげようかなぁ。

 君のオチンチンをお口に咥えて、くちゅくちゅ……なめなめ……。

 気持ちよさそうでしょう…? 」



「あ…、ああ……!! おお…おねえちゃ…ん……!! ぼ……ぼ……僕…僕に……、」



うふ…、ふふふふ……!



「僕にエッチなことしてぇぇぇ…っ!!」



直人はとうとう私の胸に縋り付いてきた…。純朴だった少年が盛りの付いた思春期の男へと変る瞬間だ。



「あはははっ!! いいわ…、お望みどおりにしてあげる!!

闇の快楽を君の身体にも刻んであげるわ……。 君ならきっと病みつきになるはずよ!!」



直人のパンツを無理やり引き千切り、素っ裸にする。

私は直人の胸にしゃぶりついた。乳首を舌先でつつきながら、小さな胸をちゅぅっと吸い上げる。直人は身体を仰け反らせるが離さずに両胸をねぶりまわす。



「ああぁ〜〜〜っ!!!、あぁはあああぁぁっんぁぁっ…・!!!」



そのまま、薄い胸板や、その上にくっきりと浮き出た鎖骨に沿って丁寧に、執拗に舐め上げ口付けする…。喉を甘噛みし、首筋から肩のラインへなぞる様に舌を這わせ唾液を塗っていく……。

そして腕を上げさせ、脇の下に滲む汗を舐め取る。



「ひゃああぁぁん!!」



直人は私を手で押しのけようとする。 

あらあら…、そんな力でどうにかなると思ってるのかしら

本当はもっとやって欲しいくせに、嫌がるフリなんておやめなさい…。



直人が無理やり上体を起こそうとするのを見計らって、私は素早く直人の背中に腕を回した。そして、そのまま直人を抱き上げ、私の身体で受け止めた。



シュルシュル……サワサワサワ………



「あぁっ!! ひゃああぁん………。」



暴れる直人をマントの裏地で思い切りくすぐってあげた…。

子供の敏感な肌には刺激が強すぎるかしら?



「このマントは気持ちいいでしょう? もっと味わっていいのよ?」



シャリシャリ……サワワッ、 ゾワゾワ…………シュルッ、シュルルル……



「ひっ!! ぁ…、ぁああん……あああぁ……、やああぁぁ………っ!!!」



ふふふ……、直人の感じてる声…、カワイイ……女の子みたい…。



もっと包んであげる……、あの時みたいに、このマントの中で一緒にイきましょう……



私はこのマントを使って直人を責めたてた。

不思議なのは手を使って揺らしているだけなのに、このマントはまるで手足の一部のように自在に動かすことができることだ。



紅い裏地が直人の背中を満遍なく舐め上げる…。



このマントの着心地は不思議だわ…、黒い表地は皺一つ無く柔らかで独特の光沢を放っている、紅い裏地はサテンよりも滑らかで、濡れているわけでもないのにヌルヌルするような感触。まるで粘膜みたい…。



直人の身体を這うたびに、



グチュグチュ……、ヌメヌメ……、 と音が聞こえてくる…。



この妖しい感触のマントは着ているだけで私を淫靡な気分にさせてしまう…。私の心の奥底に眠る吸血衝動をどんどん燃え上がらせる……。



あぁ……、すごい…。 襲っている私までおかしくなりそう……



もっと……、もっとこの子を犯したい……。

頭から足先まで……、血の一滴まで……奪ってしまいたい………。





私の興奮もピークに達しようとしていた…。



心臓がドクドクと鼓動し、汗の雫が何本も伝い落ちる……。



直人から感じる温かくて柔らかい男の子の肌…、しょっぱい汗の味…。

それら全てが私を嗜虐の悦びに酔わせていく……

初めて直人を襲った日の、狂おしい情欲が疼き出す…。



身体を包むマントがざわざわと蠢きながら、この子を襲えと私に訴える。

牙がこの子の血を欲しがっている…。



直人が欲しい……、直人を食べてしまいたいっ!!



私は自分の腰を直人の股間の上に持ってくると、固くなった彼のペニスを指で掴みその先っぽを割れ目へと導いた。



「ぁ………、っ!! ………っ!!!!!!!」



くちゅ……、 くちゅ……、ぐぐ………っ



直人のペニスは濡れそぼった陰唇を掻き分けながら奥へと衝きこまれていく。



「前の時もココはまだだったわよね。 覚悟しなさい直人くん……。 君の最後の純潔を奪ってあげる………!!」



「ああぁ…、ああっ!! いやああああっ!! 」 



腕の中で直人の体が跳ねる。

逃がすものですか……、このマントからは絶対に出してあげないわ……



私はマントで直人の身体を離さないようにしっかりと包み込む。

私の膣が蠢くたびに、目に涙を溜め、涎を垂らし、快楽に打ち震える直人は拘束されたままどんどん絶頂に引き上げられていく。



さあ、イきなさい…。あなたは私の物よ!!



最初はゆっくり、そしてやがて激しく、私は腰をグラインドさせ夢中で直人の小さな肉棒をしゃぶりつくしていく…。



「んぁあああぁん……っ!!」



ビクゥ…っ!! ビクビクビク……ッ!!



直人はもう抵抗する意思を失ったようだった。ただただ私の責めに身を任せ、腕の中で狂ったように身体をくねらせる



そろそろ頃合ね…、そう思うと私はとうとう直人の首筋を見据え牙を剥き出しにする。



さあ…、体中の血が煮えたぎっている今が一番の飲み頃……

君の血をいただくわ…!!



長い髪を振り乱し、大きく口を上げて首を反らせる私。そして、一気に首を振り下ろす。

猫のように腰を曲げて直人と繋がったまま、私は彼の首筋に牙を深々と打ち込んだ。



ガシュゥ…ッ!!



「……っ!!!」



直人の悲鳴はもはや声にならなかった。牙を勢い良く刺し込んだ途端、血が噴出し、私の顔を汚したがそんなことは構わず夢中で紅い血を飲み込んだ。



ゴクッ、ゴクッ…、ジュル…ジュルジュル……、ジュジュルルル〜〜〜



かっと開いた目から涙を流し、口からは涎を垂らし、直人は身体を襲う暴力的な快楽に身を焦がす…。

ビクン、ビクン、と身体を震わせ、彼はとうとう絶頂に達した…。



どびゅるる…っ、ずびゅずびゅずびゅるるるぅぅぅ……!!!



「っ!!! っ?!……っ!!! ;っっっ!!!!!! ;;!!◎っ!!!」



人間の物とは思えない悲鳴を上げて、一際大きく震えたあと、直人の股間からと精液と血が混じったピンク色の汁がドクドクと流れ出て、私の中へと流れ込んでいった。



彼は高圧電流を流されたように白目を剥いてビクビクと震えたが、やがて死んだように体の力が抜けた……。





「はぁ……、はぁ………」



直人の身体を抱きしめたまま、私は肩を落とした…。

マントは私の汗と直人の体液でぐっしょりと濡れてしまっていた。



直人は私の腕の中で動かないまま……、もしかしたら気を失っているのかもしれない。

私もまだ、胸がドキドキしてる……

久しぶりの…、しかも、狂おしいまでに求め続けていた直人との蜜月…



「直人……………、私………。」



耳元で彼の名を呟く……、聞こえているかわからないけど……

何か言葉をかけなければいけないような気がした…

でも、その言葉を見つける前に私の肩が震えだす……。



「ふふ……、うふふふ…………。」



この状況でこんな気分になるのはいけない気もした、 だが抑えようと思っても我慢できず、とうとう私は湧き上がる感情を解き放った。



「あはははっ!!

あ〜〜〜っはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」



血塗られた牙を月光に晒し、

私は自分の中を満たす、今までに無い充足感と優越感に歓喜の声を上げた。



「ふふ…、く……ふふふ…、直人……。 

気持ちよかったわ……すごく…。 それに……嬉しい………。

とうとう君を……私の物にできたのだもの………。」



一年前、直人を襲った後に感じた心を掻き乱すような罪悪感が全く感じられない。



今、私の心を満たすのは美味しい血の味と直人を手に入れた喜びだけ……



直人を傷つけたこと、彼の兄を狂わせてしまったことに対して何の負い目も感じない。



ただ、私は今までに無い興奮に打ち震えていた…。



そして、同時にそれは私が完全に人間でいることをやめ、悪魔になったことを意味していた…。



ぐったりとした直人を私は床の上に優しく横たえる。



「ちゃんと感じてくれたね………。 

ありがとう…、もう休んでいいからね……………。」



直人の額にキスをしたその時、後ろからパチパチと拍手の音が聞こえた。



「素晴らしいわ…。初めて人を襲ったとは思えない……。」



そして、私の後ろで聞き覚えのある声がした。



私が振り返ると、割れた窓の外にあの人がいた。



私にこのマントをくれたあの女の人…、レイリア・マテイ。 月を背にして、大きなドレスをゆらゆらと靡かせながら、見えない椅子に座るような体勢で空に浮かんでいた。彼女が肩と腕に巻いたショールが天女の羽衣のようにふわふわと空に広がっていて、その姿はまるで女神様のようにも見える。数匹の蝙蝠が彼女の頭上を飛び交う。 その人の姿は暗闇の中で圧倒的な存在感を放っていた。



「レイリア…さん………。」



「明美…、あなたは生まれ変わったわ。もう立派なヴァンパイアよ…。」



にっこりと微笑む彼女。 立ち姿はとても大人びているのに、その笑顔はどこかあどけなくて少女のようだった。



「でも、まだちょっとやり方が荒っぽいかしらね…。この男だってまだまだ使い道はあるわ…。一回で捨てるなんて勿体無いじゃない。」



みると、彼女のドレスから何本かの太いリボンが伸びて下に垂れ下がっている。そしてその先には。



しゅるる……しゅるしゅる…  さわさわ…しゅるるる〜〜〜



「は…っ ひゃっ!! はあぁぁぁ〜〜〜〜!! 」



さっき、蝙蝠たちに連れて行かせたはずの義治が吊り下げられ、幾本もの装飾布に身体を絡められていた。



「ふふ…、ほぉ〜ら、もう一回イきなさい。」



黒いリボンが彼のペニスにシュルルと巻き付き、上質な布の感触で扱き上げると



「ぅあああぁぁ……っ!!」



ぶびゅるる……、どくどくどく……。



身体をビクビク痙攣させ、布の中に精液を放つ青年。彼はそのまま身体を反らしてぐったりとぶら下がっていた。



「7回目ね…、貴女がその子を焦らしてくれたおかげで、こっちもじっくり味わうことが出来たわ…。」



触手のように動くリボンが義治の身体を軽々持ち上げると、水中を漂うクラゲのようにスカートを靡かせ、彼女は降りてきた…。

さっきはわからなかったが、黒一色と思われたドレスの内側からは、私のマントの裏地と同じような赤色のパニエが何枚も覗いてゆらゆらと揺れている。ドレスをあれだけ膨らましているからには内側で相当な量の布地が重なり合っているに違いない。



ふわりと着地する彼女。同時にリボンが青年の身体を解放し床の上に転がすと、彼はまだピクピクと震えていた。



「吸血鬼は高貴な存在よ。食事の跡をそう無闇に残していくものではないわ。」



息を呑んで彼女に向き合う私。

さっきは驚きのあまり、彼女にされるがまま身を預けてしまったが、今は違う。聞きたいことが山ほどあるのだ。



「レイリア……あなたは、何者なの……? どうして私の名前を? それに直人のことも……。」



「あら? いきなり質問攻め?」



彼女は困ったような顔をする。



「あ……、ご…ごめんなさい……。まだ、心の整理ができてなくて……。」



「ふふ…、それはそうよね。 あんな、燃え上がるようなセックスは中々見れないもの。私もまだ胸がドキドキしてるわ……。」



私は顔がカァッとなった。 この人はずっと見ていたんだろうか…。義治や直人に掛けたサディスティックな言葉や変態プレイの数々も。 

自分がやったこととはいえ誰かに見られるのはやはりちょっと恥ずかしい…。



「貴女は……なんで私を吸血鬼にしたの? あのマンションには私以外にも沢山の人が居る。 私に年齢の近い女の子も沢山いたはずよ。

その中からなぜ私を…?」



すると彼女は少し目を細め、ゆっくりした口調で話し始めた…。



「私は、最初から貴女に会うためにあのマンションへ行ったの…。

貴女を…、私と同じ夜の住人として迎えるためにね……。」



「なぜ…? 私はあなたのこと知らないわ…。私とあなたに何か関係があるの?」



「あるのよ…明美。 貴女は私に何度も会った事がある。 もちろん話したことも……。 

私達、吸血鬼は素質のある人間女性を同族として迎えることもあるの。貴女はその有力な候補として注目していたの。そして私は貴女がそれに値するかをここ数ヶ月見極めていたわ…。

 判定は文句なしの合格よ。でも貴女の生活や態度を見てるとね、やはりちょっと生真面目すぎると思ったの。まずはもっと自分の本能に素直になってもらおうと、今夜のことを企画したのよ」



「え………?」



私の心の中でなにかが噛みあった気がした。 目の前にいる女性には良く見ると確かに面影があるように見えるが…。 



「まさか……。」



彼女は、にっこりとやさしく微笑むと、片手で懐から何かを取り出した。みるとそれは見覚えのある縁なしの眼鏡。



「私のこの目の力はちょっと強すぎてね、普段はこの眼鏡を掛けて抑えないといけないの。顔を合わせる男達に片っ端から惚れられても困るしね…。」



彼女がその眼鏡を掛けると、学校で見慣れた美人女教師が姿をあらわした。



「前園…彰子先生……。」



「素敵なクリスマスになったでしょう…? 有沢明美さん…。」



「あなたも、吸血鬼だったのね……。」



「そうよ。 前園彰子というのは偽名なの。レイリアというのが本当の名前だけど私達、吸血鬼は人間の前で真名を名乗ることは無いのよ。」



彼女は足元で苦しみ続けている男に軽く目配せして言った。



「さっき味わってみたけど中々上玉の男ね、初めて血を啜る相手にしては中々いいチョイスよ…。

 そこの可愛い男の子も中々良質な血と精を持っているようね。貴女がその子に目を付けたのは偶然かしら。ふふふ……。」



紅く長い爪をした指を口元に当てて彼女は笑う。見た目も仕草もまさに吸血鬼…。私の記憶にある彰子先生のイメージとは明らかに異なる筈なのに、その姿はとても様になっていてまるで違和感が感じられなかった。



「私、たまたま都心のあのビルの上に飛んできて、偶然この男を見かけたのよ。 貴女には最初から、私がこの家に飛んで来るってわかっていたの?」



「ええ…。貴女は気付かなかっただろうけど、血を吸った時に暗示をかけたのよ。 あの街に来るように、貴女の無意識に働きかけたの。 

貴女なら近くにくればこの男に気付いてくれると思ったわ。私はあらかじめこの兄弟の居場所を調べていたし、血を吸った相手の行動をある程度操るのは造作も無いことよ。」



私が都心に来て、直人を見つけ、この場所で男と直人を襲うことまで、全ては彼女の計算の上…。私は面食らってしまった。自分の気持ちの赴くままにやっていると思っていたことが、全部彼女が演出したことだったなんて…。



「先生も、誰かに血を吸われて?」



「いいえ、違うわ…。」



彼女は私にその艶やかなドレス姿を見せるようにくるりと一回転させて言った。



「私は純粋な吸血鬼よ。両親ももちろん吸血鬼…。つまり、生まれたときからこうなの…。 それに…、私はもう300年以上生きているわ。」



私は驚きのあまり言葉が出なかった。あの彰子先生が吸血鬼で、それも私なんて話にならないくらい長く生きているだなんて。



「私達はとてもゆっくり年を取るけど、魔力が充実してくると見た目の年齢を自在に変えられるようになるの。私はこれくらいの容姿が気に入っているんだけど、その気になれば貴女と同い年くらいの女の子にもなれるわよ。」



「血は……、吸ったことあるんだよね。 どれくらい………?」



「そうね……、数えるのは止めたんだけど…、小さいときから良く吸ってるし、世の中が乱れた時には一日に何人も襲うこともあったから…、一万人近くはいるかしらね…。

男を幅広く誘惑するにはこの年代くらいの容姿が丁度いいの。大抵の男はイチコロよ、ふふ……。」



彰子…、レイリアは屈託の無い笑顔で笑った。



格が違う…。私はそう思った。

私はレイリアの方に向き直ると、そのまま地面に膝をつけ直人に向かって跪いた。



「先生…、いえ……レイリア様……。 

私なんかにわざわざこんなに素敵な力を与えてくださって光栄です……。

でも、あなたに吸われたっていうことは、私はもうあなたの物なのでしょう?

私、覚悟は出来ています…。 あなたの命令には何でも従うわ……

もう、今までみたいに無礼な言動も慎みます………。

この身体も心もあなたに差し上げます…。 これからは…、私があなたの……。」



最後の言葉を発する前に、レイリアが私を制止した…。



「ちょっと……!! お願いだからよしてよ。 そんなの貴女には似合わないわ……。 レイリア様なんてのもよして!! 呼び捨てでいいわよ。」



「で…でも…、貴女は本物の吸血鬼でしょう? 私みたいな偽者じゃない……。

確かに今は貴女と同じようになったけど、私の血を吸ったのは貴女なのよ……。

どう足掻いたって貴女の方が吸血鬼として上じゃない…。」



「違うわ…、そういうことじゃないの……。はぁ…面倒ね……。

いい? 貴女は私の奴隷になんかならなくていいの。 ていうか、なって欲しくないわ…。明美は今までと同じ明美のままでいて欲しいの。 私に媚び諂う貴女なんて見たくないわ……。」



「そんなこと……。」



そんなことできるはずがない……。

私にとって吸血鬼という存在は本当に特別なのだから。



「私、レイリアの物になってもいいんだよ……? 貴女になら……私のことどうされようとも構わない………。」



「それは、自分より長く生きた吸血鬼である私への礼儀のつもり……?

なら必要ないわ。私に認められて吸血鬼になったということは貴女も私と同格になれたって意味なのよ?」



「え……、ええ…? 私が貴女と同じ? だって私まだ成り立てだし、二人しか血を吸っていないのよ…?」



「確かに、吸血鬼になりたての子はそこまで偉くないわ。でも、人間の女が吸血鬼に認められるというのことは、潜在的な魔力などにおいて私達と同格になる素質を秘めているということでもあるのよ。そこさえ抑えれば、魔力なんて何人もの血を吸う内にどんどん高まっていくものよ。 まぁでも、その中でも貴女は特別といえるかもね…。

せっかくだから話してあげるわ……、私が貴女を吸血鬼に変えようと決心した理由をね。」



レイリアは一回深く息を吸い込んでからゆっくり話しだした。



「さっきマンションで言ったでしょう? 貴女の中に眠る物を呼び起こすって…。

血を吸ったのはそのきっかけを作るため…。 貴女のその力は私が与えた物じゃない。もともと貴女が持っていたものなのよ…。」



「この力が私の…? 信じられない……。私、今まで空を飛んだことなんてないし、誰かに催眠術をかけたこともないわ…。」



「確かにね…、でも思い出して…、貴女は学校でいつも注目の的だった。何人もの男子が貴女に告白してたわよね? 貴女の細かい仕草や言動は周りの男たちをまるで催眠術にかけるように惹きつけるのよ。」



「それは…、私の外見に魅かれたからでしょう? 男って容姿さえよければバカみたいに寄ってくるものじゃないの?」



「えぇ、確かにそれだけなら何も不思議ではないわ…。でもね、貴女は気付かなかったかもしれないけど、男子だけでなく女子の中にも貴女に魅了された子達がいたのよ。それも、かなりの数…。」



「え……?」



それは知らなかった…。

確かに、こんな暗い性格のわりに、私に構ってくれる友達は多かった気がするけど、まさかそんな魂胆があって付き合っているなんて思わないし…。



そういえば、私の髪の手入れがなってないとかいって、頼んでも無いのによく髪を梳いてくれる子とか、やたらと私に触ってくる子とかがいた気が……。



「女子と男子の両方にモテる子なんてそうはいないわよね…。 確かにそういう人もいるって言えばいるわ。 でも、貴女の場合はなにか違うの…。

貴女は確かに容姿がいいけど、皆から頼りにされるしっかり者というわけではなかったし、天真爛漫というわけでもない……。 だけど貴女には言葉では言い表せない、不思議な魅力があったの……。 どういうわけか、貴女の周りの人達は貴女の一挙手一投足に惹かれてしまうのよ。 

吸血鬼であるはずの私も例外では無かったわ……。 私は最初、貴女に興味を持って近づき…、そして段々と心惹かれていったの……。」



いつしか、レイリアの目はうっとりと私を見つめていた。心の底から私を求めているような目…。私は思わずその瞳に吸い込まれそうな気分になった。



「吸血鬼はね…、相手を魅了する魔力を持っているの…。獲物を引き付けたり、血を吸う時に暴れさせない為のものよ。私は貴女にそれと同じものを感じたの。

吸血鬼すら魅了してしまう強力な魔力を無意識に放っている貴女を放っておくワケにはいかないと思ってね、監視の為にあの学校に教師として赴任してきたのよ。」



前園彰子先生…、変な時期に赴任してきたとは思っていたけど、最初から私が目的だったなんて思いもよらなかった。 



「ふふ…、実を言うと夏に貴女がその男の子を部屋に連れ込んで襲うところも蝙蝠に変身してこっそり見させてもらったの。

驚いたわ…。貴女には確かに素質があったけど、まさか人間の状態であそこまで吸血鬼らしく振舞えるなんて。 貴女がその子を犯す光景を見たとき、私の心は完全に貴女に奪われてしまったのよ……。」



「…………………。」



あのときは必死に吸血鬼を演じているをしているつもりだったけど……

まさか本当の吸血鬼のお墨付きまで貰えるとは、気恥ずかしいというか……



「ふふ…、私はすっかり貴女の虜になってしまったわ…。若くしてここまでの素質を備えた女の子が吸血鬼になったらどうなるのかとっても興味があったの。実際、今日の貴女の立ち回りは思った以上のものだったわ。今まで私は何人もの女の子を吸血鬼として迎えたけど、私をあそこまで興奮させてくれたのは貴女が初めてよ…。



貴女をただの奴隷にするなんてもったいないと思ったわ。 だから私と対等な吸血鬼として貴女を迎えるために今夜のことを計画したの。 ちょっと家の都合で遅くなってしまったけどね……。これが、今回のことの全貌よ。 」



レイリアは一回、長く目を閉じた後、私の方に視線を向けた。



「こんな姑息なマネをする私のこと、嫌いになっちゃたかな?」



少し申し訳なさそうな顔で微笑むレイリア、しかし、私は目を輝かせて彼女に言い寄った



「そんなことあるわけないじゃない…。どうして嫌いになるの?

貴女は私の願いを叶えてくれたのよ……。最高の気分よ……!!」



私はレイリアに歩み寄り、彼女の目をまっすぐ見つめた。同じく私を見つめる彼女は少し驚いたような顔をしていた。



「私は本当に吸血鬼に憧れていたの…。 

きっかけは昔見た映画なんだけど……。

そのときから、私はずっと吸血鬼に魅せられてきたの。

素敵な吸血鬼に血を吸われてお仕えしたいと本気で願ったわ…。



そんなことはありえないって、頭ではわかってたけど……

でも、どんなに大きくなってもその気持ちを抑えることはできなかったのよ。

吸血鬼の真似事をしてたのもその願いの裏返しみたいなものよ……。



なんて…説明したらいいのかわからない………

きっと理屈じゃないのよ…、私の心がそうなっているとしか……。

とにかく、吸血鬼っていうのは……私の中で特別なの…………。



だからね、嬉しいんだよ…。あなたが…本当の吸血鬼で……。

あなたが私の部屋に現れて私の血を吸おうとしたとき……

心の底から…、貴女の物になりたいって思ったの……。」



私は溢れ出る感情に身を任せ、長い間、心の内に秘めていたものを全て吐き出すように言葉を紡いだ。 



「でも、それだけじゃない…。直人…、私…あの子に会いたかった…。彼には酷いことばかりしたけど、あの子の前でだけは本当の自分になれた気がしたから……。



彼が私を避けるようになってとても悲しかったわ……。

私の部屋で貴女が言ったとおり私はずっと仮面を被り続けてきた。とても…つらい日々だった……。 自分を隠してばかりで…、つらすぎて…、私はもうすこしで完全に自分を見失うところだった……。



 そしたら、貴女が来てくれた……。そして、私の仮面を壊してくれたのよ。

我慢する必要なんて無い…、本能の赴くままに行動する…、そのための力を与えてくれたのは貴女だわ、レイリア…。



このことが、どんなに嬉しかったかわかる?

レイリア、私を救ってくれた貴女に本当に感謝しているの……。もし、貴女が私を欲しがっているならこの身体も心もあげる覚悟があるわ。」 



私の言葉に黙って耳を傾けるレイリア…



「明美…………。」



今まで黙っていたレイリアはぽつりと声を漏らした



「私、こう見えて結構適当な性格でね、貴女を吸血鬼にしたのも結構軽い気持ちだったのよ……。 吸血鬼にしたことも最初は嫌がるんじゃないかって思ってたの…。 まさか、そこまで喜んでくれるなんて……。なんだかかえって申し訳ない気分になっちゃうわ。」



「くす…っ、彰子先生だった時から思っていたけど、やっぱり貴女って可愛い…。

黙ってれば大人っぽくて美人なのにね…。」



私はレイリアに抱きついた。彼女はちょっと驚いたが表情を緩ませて、私を抱き返して背中を撫でてくれた。





「私…、立派な吸血鬼になれるかな……。」



「なれるよ……、絶対。 明美は特別だもの……。」



レイリアは私の腕を解くと、私の顔を見た。



「人間から吸血鬼になって間もない子はね…、大抵は未熟なはずなのよ。

少なくとも私が今まで血を啜った子達はそうだったわ。

魔法の使い方なんてわからないし、吸血も下手で血の味にも最初は抵抗を示すものよ。それ以前に、人を傷つけて、その血を吸うことに対しても強い抵抗がある。

当然のことよ。人間の頃の習慣や道徳をいきなり棄てるなんて無理なことだし、

中には良心の呵責に耐え切れず自ら命を絶ってしまう吸血鬼もいるのよ。

でも、貴女は違った…。」



直人の目に妖しい光が灯る…、それは一見、おとなしい彼女が内に秘めている吸血鬼としての本能を垣間見せているようだった。



「あんなに欲望を剥き出しにして、獲物に対して残酷な仕打ちを与える子なんて私は見たことが無いわ…。貴女は吸血鬼として初めて人を襲うことに何の躊躇いもないばかりか、楽しんですらいた。さっきの貴女は下手な吸血鬼以上に吸血鬼らしかったわ……。

 それに、貴女は吸血鬼として目覚めてからいきなり空を飛んだ上に、この男の心に働きかけて金縛りにした。 暗示はまだしも、空を飛ぶのってとても難しいのよ。ある程度魔力が充実して、それをちゃんと制御できなければ出来ない芸当なの。私でもちゃんと飛べるようになるまで十数年かかったっていうのに、貴女は当たり前のようにそれをやってのけた…。

貴女にはもともと大きな魔力と、それを必要なときに意識せずに使いこなせるセンスが備わっているのよ…。」



レイリアは片方の手で私の頬を撫でながら、もう片方の手で私の髪をかき上げ、熱っぽい視線で私を見つめる…。



「人を惑わせる美貌…、明晰な知性…、生まれ備わった強大な魔力…

そして、内に秘めた残酷な本能…。 これほどの魔性を持って生まれた子を私は他に知らないわ。

 明美…、貴女はまさに悪魔の落とし子よ。闇に生きる運命の下に生まれてきたとしか思えない……、うっとりしちゃうわ………。」



レイリアはそのまま顔を近づけ、私にキスをしてきた。私は驚くこともなくその口付けを受け入れ、彼女の柔らかい唇を味わった…。ほどなくして唇は離れ、レイリアはまた私をトロンとした目で見つめる…。



「明美…、いろいろ教えてあげる……。 血の吸い方……、誘惑の仕方…

獲物の悦ばせ方……。魔法の使い方もね……。

今度、一緒に誰かを襲いましょう……。私がちゃんと手解きしてあげるから……。」



「まぁ……、吸血鬼のお姉さまが直々に? 光栄だわ。」



「でもその前に…、今夜は貴女が欲しいわ……。」



「私もそんな気分よ……、レイリア…。」



彼女と私は、熱い口付けを交し合った。お互いの牙に舌を這わせ、私はマントで、彼女はドレスで互いを包み、愛撫しあう…。 シュルシュルと布が擦れあう音が耳に心地いい。



「あぁ…、ん……いいわ…。このドレスとマントに包まれるだけですごく気持ちいい…。」



「私達吸血鬼にとって、身に纏う衣服は力と気高さの証…。同時にこれは相手に快楽を与える強力な武器でもあるのよ…。」



レイリアは説明しながら、明美を自分の装飾布で撫で回す。



「吸血鬼はね、マントやスカートのような布を媒介にして獲物の精気を搾り取ることができるのよ。貴女にあげた物は私のドレスと同じ特別製よ。黒い表地は上級淫魔の黒髪を織り合わせて作った生地を使っているの。それも、髪質のいい処女の髪だけを厳選した希少品よ。

赤い裏地はその生地に上質な搾精淫肉を染み込ませたものでひとたび包まれれば、男はたちまち精を迸らせ身体が干乾びるまで悶えぬく…。

妖魔貴族でも滅多に手に入れることができない高級品よ。貴女にはこれを着こなすだけの資質があると見込んで特別に用意したの。」



「ん…ぁん…そうなの…、なんだかよくわからないけど……、そんなに凄いものなのね……。 でも、それなら貴女のドレスの方が凄いんじゃないの? 随分膨らんでるけど、その下ってマントの裏地と同じ搾精淫肉とかいうのが何枚も重なっているんでしょ…?」



「あら…、目敏いのね…? じゃぁ、後学のために少し見せてあげましょうか…。」



そういうと、レイリアはドレスからリボンをシュルシュルと伸ばし、床に転がっていた義治の身体を巻き取っていった。



「ぅ……うぁぁ……っ!!」



「もう十分休んだわよね…? 私達と一緒に楽しみましょう…ボウヤ。」



ドレスの端を優雅に摘みあげるレイリア。黒い表地の下には搾精淫肉を染み込ませたパニエが何枚もの層を作っている。そのどれもが グチュグチュ……ウネウネと蠢いて、表面から粘液を滴らせている。それはもはや布地では無く肉襞そのものだった。毒々しい赤色の襞がドレスの内側でグネグネと蠢き、まるで巨大な女陰のようにも見える。



「さぁ…、この魅惑の搾精ドレスの中へいらっしゃい……。」



「ひぃ……、ひゃああああ…、た…助けて…!! たすけて〜〜!!」



リボンに絡め取られ、彼の身体は段々と肉のドレスの中へ引き摺りこまれていく…。

足先が入るや否や、何枚もの肉襞がその先端から下半身をジュルジュルと舐めながら覆いこんでいった。



「うふふ……、ふっふっふっふ…っ!!」



自らのドレスの中へ沈み行く青年を見て歪んだ笑みを浮べるレイリア。これがあの母性的で誰に対しても優しい女教師の本性だと思うものがいるだろうか?

 だが、少なくとも明美から見れば、残酷に獲物を貪る彼女の姿はこの上なく美しく見えていた。



ぐねぐね……  ぐちゅるぐちゅる……、ジュルジュル…、じゅるる……



じゅばじゅば……、じゅるるるる……!!



「あがぁぁぁぁっ!! ぎゃ…、し……し…しぬぅぅぅぅっ ぅあああ!!!」



じょばばっ どばどばどば……!! びじゅるるるる……!!



ウネウネと蠢くドレスの中から顔だけを外に出され、それ以外は全身ドレスの中に引き込まれた青年。



肉のパニエは大小さまざまな襞となって彼の身体を舐め上げたり、触手に形を変えて巻きついたりして、彼の身体から容赦なく精を搾り取っていく。



「うふふ…、これがドレスの本当の使い方よ…。牙とは違い、血だけではなく精液もたっぷり搾り取ってしまうのよ。」



「精液を…?」



「そうよ…、精液は血以上にエネルギーが含まれたとても希少なご馳走よ…。

私はこうやって男の苦しむ顔を見ながら搾り取ってやるのが大好きなの…。」



肉のドレスは、その形が示すとおりレイリアの生殖器に相違なかった。布を通して獲物の精を啜るのは吸血鬼のだれもが使う技だが、この複雑なドレスを自在に操ることが出来るのはレイリアのような限られた者だけだった。彼女は布に染み込ませた搾精淫肉をも自分の身体の一部として操り、このドレスの中に何人もの男を包み込んで精を搾りつくしてきたのだ。



「あぅぅ…、んぁああああああっ!!」



身体を包む快楽の奔流に揉まれ、どんどん命の源を搾り出される彼の視線の先ではレイリアが淫らな笑みで見下ろしていた。自分は今、このあまりに美しい悪魔に食われようとしているのかと思うとそれが奇妙な倒錯感に変って益々、興奮させられる。



それこそがレイリアの狙いでもあった。顔だけを外に出すのは、レイリアが獲物の男に対し自分という女に犯されていることを実感させる為の演出。より激しい興奮と悦楽を与える為の恐ろしい遊びなのだ。



「いい顔よ…ボウヤ、うっとりしちゃう……。もっとその心地良い悲鳴を聞かせて…。」



グチュグチュグチュ……



「ひぁぁぁぁぁっ!!」



「もっと溺れて…、苦しみながら必死に悶えてちょうだい……。

うふ……ますます濡れてきちゃう……。」



グニュグニュグニュ……、じゅる…じゅる……!!



「ぁ……、かはっ!! ぁぁ……っ!!!」



目に見えて弱ってきた青年、やがてその頭すらもドレスの中に沈んでいく…。



「レイリア……、とても愉しそう…。私も早くこのマントを試してみたいわ…。」



「ふふ……ならば…、あの子を包んでおあげなさい…。」



レイリアが腕を伸ばすと、ショールがするすると伸びて、部屋の真中辺りで倒れている直人の身体に絡み始める。



「あぁ…いやだ…、いやぁぁ!!」



さっきまで気絶してた直人も意識は戻っていたようだ。

どんどん引き摺られて来る少年。明美はマントを大きく広げ近づいてくる彼を覆いこもうと待ち構えている。裏地の搾精淫肉は彼女の意思に応えるようにジュクジュクと波打ち、明美が既にその扱いを心得ていることを物語っていた。



「うふふふ…、流石よ明美。 存分に吸っておやりなさい。その搾精淫肉のマントの餌食になった獲物は肉体が滅びても魂はいつまでも捕らえられ続けるの。私のドレスも同じよ。私達が持つ永遠の命のおこぼれを与えて好きなだけ飼い殺すことができるわ。」



「ふふ……、それってつまり死ぬまで苛めても大丈夫って事ね? 直人君は小さいから手加減してたけど、これで遠慮なく可愛がってあげられるわ…。」



「や…やめて〜〜!! おねえちゃん…、引っ越したのは仕方なかったんだよ……!!

ちゃんと謝るから許してぇ!! 

お……お願いだから、僕を食べないでぇぇぇっ!!

んぁ……、ああぁぁん……・ や…、やあぁぁぁぁ!! 」



私の搾精マントに包まれて悶えぬく小さな少年…。彼は快楽の泥沼に落ちていきながらも私を裏切ったことに対して必死に弁明していた。



でも、許してあげるつもりなんてない……。罰として私の血肉に変えて、絶対逃げられないようにしてあげるわ。



私は彼を抱いたままレイリアの胸をつかんで強い力で揉み始め、彼女は私の太腿に手を伸ばして撫で始めた。



「あ……あぁっ!! あけみ……、いい……すごくいいわ…………、ぁっ!」



「はぁ………、いいわ……、精を貪りながらのセックス………こんなのはじめてよ……。」



黒いマントの中で私達は乱れに乱れた…。お互いを激しく求め合い…、身体中が濡れてしまうほどに交わりあった…。



そして、女吸血鬼達の餌食になった哀れな少年達は、兄はレイリアのドレスの中で、弟は激しく交わる私達の間で悶えながら何度も何度も精を搾り取られ、やがて身体が枯れるまで私を楽しませてくれた。



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これが、私が吸血鬼として行った最初の“食事”。

それ以来、私はすっかり闇の魅力に取り付かれ、男の子達をどんどん毒牙にかけていった。



今日は誰の下駄箱にこのラブレターを入れようかしら…?






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