狐壺 『山海民口伝』より
狐壺とは、巫壺の一種である。
口の小さな壺に肉を一つ入れ、山中に埋めるところから狐壺の製作は始まる。
数日間山中に壺を埋めておくことで、肉の臭いに狐が引き寄せられ、壺の口に鼻先を突っ込むのだ。
だが壺の口が小さいため肉を食べることは出来ず、狐はただ涎を垂らすことしか出来ない。
その後壺を掘り出し、然るべき儀式を執り行うことで狐壺は完成する。
(『山海民口伝』より)
「陽樹、明日一日わしは出かけることになった」
とある街に着いた翌日、外出先から戻ってきた青服の道士は、陽樹に向けてそう告げた。
「出かけるって・・・お仕事ですか、先生?」
「あぁ、この街随一の豪商である、岳商人からの直々の頼みだ」
陽樹の問いに、二つの黒丸と横倒しの三日月からなる笑顔の面が、小さく頷いた。
岳商人は行商としてこの街に流れ着き、ここ数年で店を構えるどころか、他の商人を追い落とすほどの勢いで財を成した人物である。
それどころか彼の勢いは留まることを知らず、近々他の街でも商売を始めるという噂さえあった。
「何でも岳の商取引に使っていた荷馬車が、道端の祠を壊してしまったらしい。そのせいで夜毎に狐の化生が現れるそうだ」
青服の道士は、椅子に腰を下ろすと続けた。
「とりあえず、明日は祠まで様子を見に行くことにする。話はつけておいたから、お前は岳商人の屋敷で留守番だ」
「はぁ、分かりました・・・」
道士の言葉に、彼は頷いた。
「それで・・・首尾は?」
「あぁ、ちゃんと依頼した・・・」
「そう・・・こっちも準備は万端・・・」
「全く、子供一人ぐらいどうにでもなるというのに・・・」
「何言ってるの・・・そもそもの原因はお前にあるというのに・・・ほら」
「あぐっ・・・!」
「こんなんじゃ、私の飢えは癒せないわよ」
「す、すまん・・・」
「謝らなくていいわ・・・お前はちゃんと私の求めに応えてくれたんだから・・・」
「あ、あぁ・・・」
「ふふ、それじゃあ、また明日・・・」
翌朝、日が昇って間もないうちから、道士は陽樹を連れて宿を出た。
そして、弟子を岳商人の屋敷に預けると、そのまま街を出て行った。
岳商人の言葉に従って道を進み、北へ北へと向かって行く。
いくつかの丘を越え、川を渡り、街から離れていく。
やがて道の幅が狭まり、人がすれ違うことが出来る程度になったところで、件の祠とやらにたどり着いた。
「これか・・・」
岳商人の言葉通り、何かがぶつかったように一部分が欠けた祠を観察する。
経年による磨耗と苔によって、刻まれた文字はいくらか読みにくくなっていた。
だが、それでも何が刻まれているかは分かる。
「ふん・・・岳の奴、狐が現れるといっていたが・・・」
ここに刻まれているものは旅の安全を願うものだ。
化生を封印したり、神を祭ったりするものではない。
「こいつは、嵌められたな」
立ち上がりつつ、道士は来た道を振り向いた。
折り重なる丘のせいで街は見えないが、どこにあるかは分かる。
どうやら道士を嵌めた何者かの目的は、自分と陽樹を引き離すことにあったらしい。
「全く、何者かは知らんが、灸を据えてやらねば・・・」
道の遥か向こうにある街を見据えながら、道士は続けた。
「最も、街まで戻ってからの話だがな・・・」
道士の背後で、巨大な殺気が膨れ上がっていた。
「それでは何か御用がありましたら、どうぞ言って下さい」
陽樹を客間まで通した召使は、一礼すると部屋を出て行った。
「・・・・・・」
妙に広い部屋に一人で取り残され、彼はなんともいえない居心地の悪さを味わっていた。
この場に先生がいれば、過去の話を聞かせてもらうことも出来たが、今は仕事に出ているためいない。
「・・・ねぇ・・・」
椅子に腰掛けようかどうしようか迷っていた陽樹の耳に、女の声が届いた。
はっとしながら彼が振り返ると、閉まっていたはずの部屋の扉が薄く開き、茶色の髪を結った女が顔を覗かせていた。
「ちょっと、いいかしら・・・?」
「え・・・あ、はい」
陽樹の言葉に、女は扉を押し開いて入ってきた。
細面の、切れ長の目をした美人だった。
決して豪奢ではないがそれでも上等な着物を身に着けている所を見ると、どうやら岳商人の奥さんかごく近しい人らしい。
「あなたが・・・陽樹って子?」
「あ、はい」
彼女の問い掛けに、陽樹は頷いた。
先生が教えていたのだろうか。
「そう・・・ふふ」
女は扉に手をかけると、軽く開きながら続けた。
「ちょっと、付いて来てくれる・・・?」
「・・・・・・はい・・・」
ふわりと彼の鼻をくすぐった甘い香りに、陽樹は無意識のうちに返答していた。
前を進む女の背中を追って、長い廊下を進み、階段を下りていく。
不思議なことに、どこかから話し声や物音は聞こえるが、召使を始めとする屋敷の人間には誰も会わなかった。
やがて二人は地下にある倉庫にたどり着くと、その奥へ入っていった。
「ふふ・・・ここよ・・・」
倉庫の奥の壁にかけられていた絵を捲ると、その影に大きな穴が空いていた。
「さあ、入って・・・」
女の言葉に従い、陽樹は穴に入っていった。
穴の中は広々としており、ちょうど広い部屋を真ん中から壁で仕切ったような造りになっている。
天井には明り取りと空気抜きの穴が開いており、部屋の中心には大きな寝台が一つ置いてあった。
そして、寝台の上には男が一人転がされていた。
「あぁ、この間のがまだ残っていたわね・・・ちょっと待っててくれるかしら?」
女の言葉に、陽樹は無意識のうちに頷いていた。
「いい子ね・・・」
彼女は微笑むと寝台に向き直り、着物の帯に手をかけた。
しゅるり、と衣擦れを立てて着物が肌蹴、薄暗い室内に彼女の裸身が浮かび上がった。
肌は透き通るように白く、細身の身体に良く映えていた。
「うぁ・・・あぁ・・・」
失神していたように横たわっていた男が、女の裸身に身を捩じらせながらうめき声を上げた。
「ふふ、安心して・・・お前の役目はもう終わりよ・・・」
男に向けて語りかけながら、女が寝台に乗った。
そして彼の頬に手を添えると、瞳を覗き込んだ。
「だから最後に、たっぷり食べてあげる・・・」
そう囁くと、彼女はがばと男に覆いかぶさり、唇を貪った。
ぐじゅ ずぢゅ
水音が響き、女の舌が縮こまる男のそれに絡みついていく。
「んぅ・・・!」
男が逃れようと小さくもがくが、女は男の身体に跨ってその動きを抑えた。
そしてそのまま、男の口内に溜まった唾液を啜り上げる。
じゅず ずじゅるるるる・・・
粘着質な音と共に、男の身体が震えた。
ただの口付けだというのに、彼の興奮が昂ぶっていく。
「ん・・・ん?」
自身の両足の付け根を押し上げる肉棒に、女は気が付いた。
数度男の唇を啜ってから、彼女はようやく唇を離した。
「ふふ・・・もう最後だからって、そんなに張り切って・・・」
二人の唇を繋ぐ唾液の糸もそのままに、彼女は笑みを浮かべた。
「もう少し楽しもうかと思ったけど・・・いいわ、食べてあげる・・・」
女はそう言いながら、男の屹立を探るように腰を動かした。
彼女の両足の付け根は、すでにぐちょぐちょに濡れており、滴る粘液が肉棒を濡らしていた。
やがて、女の秘裂が男の膨らみきった亀頭を探り当てると、ずぶずぶと飲み込んでいく。
「ふぁ・・・」
「ふふ・・・」
肉棒が飲み込まれていくに連れて、男が呆けたような声を漏らす。
女は笑みを浮かばながら腰を沈めていき、彼の陰茎を根元まで飲み込んで止まった。
「んっ・・・ふっ・・・奥まで・・・」
目を閉じ、微かに眉間に皺を寄せながら彼女は呟いた。
そしてその姿勢のまま、ゆっくりと腰を円を描くように回す。
ぐじゅ・・・ずじゅ・・・
時折、二人の両足の付け根から水音が響き、投げ出された男の足が小さく跳ねる。
「あぐっ・・・うぅ・・・」
男の声が小さく漏れるが、女は黙々と彼の顔を舐め、首筋に唇を這わせ、彼の皮膚を味わっていた。
女の唇が、舌が触れるたびに、男の手足が小さく痙攣する。
そしてどれ程経っただろうか。
女は不意に、大きく腰を揺すった。
「ふぁ・・・!」
短い声と共に、男が一際大きくその身体を悶えさせた。
同時に、男の陰茎を咥える亀裂から漏れ出す粘液に、白いものが混ざり始めた。
「うぉ・・・おぉ・・・!」
声と共に男の身体が震え、女陰から覗く陰茎が大きく収縮する。
赤く染まった肉の穴と、そこに突き刺さる肉の棒。
ある種の猟奇的な雰囲気さえ感じる男女の交わりから、なぜか陽樹は目が離せなかった。
「あぁ・・・あぁ・・・うぅ・・・」
「ふふ・・・まだまだ・・・」
男の声が弱まり始めたころ、女が唇を離してそう呟いた。
その瞬間、女の容姿に変化が生じた。
茶色の頭髪を掻き分け、二つの茶色い三角形が姿を現す。
腰と尻の境目辺りから、茶色の紡錘形をした毛の塊が三本生じる。
数瞬後、男の上に跨っていたのは、狐の耳と尾を生やした女だった。
「んぁ・・・あぁ・・・!」
女が上体を起こし、小さく声を上げる。
彼女の腰の動きは既に跳ねるほどになっており、粘液を掻き回す音が部屋に響いていた。
激しい勢いで女陰から出入りする肉棒と、その上でばたばたと暴れるように揺れる三本の尾に、陽樹の目は釘付けになっていた。
「ぁあ・・・ぁ・・・が・・・ぁ・・・」
小さな悲鳴のような声を最後に男の声が途切れ、数度手足を痙攣させるとそのまま弛緩していった。
しばし遅れて、背筋を反り返らせていた女の全身が脱力する。
「・・・・・・・・・っはぁ・・・美味しかったぁ・・・」
背を向けたまま、女がそう呟いた。
彼女が膝を伸ばし、男の上から立ち上がると、女陰から萎えた陰茎が粘液に塗れたまま抜けていった。
「ご苦労様・・・っと・・・」
脱力し、横たわる男の身体に手をかけると、そのまま寝台の端へと押しやった。
何の抵抗も無く、男は床へ落ちていった。
「次は・・・ふふ・・・」
寝台の上で、女が肩越しに振り返りながら軽く唇の端を吊り上げた。
彼女は妖艶な笑みを浮かべたまま寝台の上を移動し、床に降り立つと、その三本の尻尾をゆっくり揺らしながら、陽樹の側に歩み寄った。
「さぁ・・・これでここには私達だけ・・・」
その場に屈み、彼と眼の高さをあわせながら、彼女は囁く。
陽樹は女の一言一言や視線、暗がりに浮かび上がるその裸身に、精神と身体の自由を奪われていた。
「後は、任せなさい・・・ふふ・・・」
淡い桃色の舌が唇を軽く舐めた直後、彼女は陽樹にその顔を寄せてきた。
柔らかな、湿った舌が彼の頬を這う。
「・・・!」
「ふふ・・・美味し・・・」
突然の行為に強張る彼にも構わず、彼女は二度三度と彼の顔を舐めていく。
陽樹の頬や鼻梁、目蓋から唇までが、女の唾液により濡れていった。
そしてその行為により、着物の下では未成熟な彼の分身は痛いほどに屹立していた。
着物の襟元が広げられ、露出した首筋を女の下が這っていく。
「あぁ・・・!」
彼は無意識のうちに上ずった声を漏らしながら、彼女の腕の中に導かれていった。
「ん・・・捕まえた・・・ふふ・・・」
少年のうなじを舐め上げると、彼女は腕の中に納まる小さな身体に向けてそう言った。
だが、陽樹は初めての興奮と緊張により何も聞こえておらず、ただぶるぶると身体を震わせているだけだった。
「うふふ・・・」
初な彼の反応に笑みを浮かべながら、女の両手が少年の着物に掛けられる。
帯が緩められて着物が肌蹴、少年の皮膚と女の肌が触れ合った。
しっとりとした潤いと、上質な絹織物を思わせるきめ細かさを持った彼女の肌の感触に、陽樹の身体が大きく震える。
すると彼女の両掌が、彼の緊張と震えを治めるかのように、ゆっくりと彼の上体を擦り始めた。
右手が腰から脇腹を通り、背中から肩口、二の腕へと抜けていく。
左手がうなじから首筋、浮かんだ鎖骨を経由して、薄い胸板から鳩尾を抜け、腹に円を描く。
一方腰より下では彼女の三本の尾が、その柔らかな毛並みで彼の肌をくすぐっていた。
二本が左右の太腿を撫で、残る一本が内股をなぞる。
「・・・!・・・!」
二つの掌と三本の尾が彼の身体を這い回るのにあわせるように、陽樹は身体を小さく痙攣させながら、ぽかんと開いた口から声にならぬ嬌声を漏らしていた。
茹でた蛸のように赤く、熱を持った彼の顔を這っていた女の舌が、不意に離れた。
そしてすぐさまその耳を、形のよい彼女の歯が軽く噛んだ。
「・・・っ!?」
突然の刺激に彼の背が反り繰り返り、がくがくと大きく痙攣した。
そして、しばしの間を置いて、陽樹の全身から力が抜けた。
「・・・まだ、出ないのね・・・」
陽樹の股間を包む下着に指を差し入れ、未だ固さを保つ肉棒を確かめながら女がそう呟いた。
「まぁ、それはそれで楽しみもあるわ・・・」
女はそう続けると、脱力しつつも興奮に顔を歪ませ荒く息をつく陽樹の体を抱え上げ、寝台の側に歩み寄った。
寝台の上に彼の身体を横たえ、その側に彼女も添い寝した。
「ふふ・・・あなたはこのまま・・・ここで飼ってあげる・・・」
露出する彼の肌に指を這わせながら、女が囁く。
「毎日毎日・・・ちょっとづつ、ちょっとづつ食べながら・・・飼ってあげる」
女が身を寄せ、陽樹の細い腕にその乳房を押し当てながら続けた。
「永遠に、ね・・・」
「それは困るな」
天井に空いた明り取りの穴に、透き通るような声と共に何者かの影が落ちた。
「っ!何者!」
寝台に横たわっていた女が、尾の毛を逆立たせながら跳ね起き、誰何の声を上げた。
「何者?ふん、名乗るほどの者ではないな・・・」
微かな含み笑いの混ざった声にあわせ、白く細い指が明り取りの穴の縁に掛けられる。
「ここの主人、岳商人に狐退治を頼まれた者だ」
言葉と共に、明り取りの穴が引き裂かれ、強引に押し広げられる。
土埃と共に天井が崩れ、薄暗い室内にさんさんと輝く日の光が差し込んだ。
「ふん、やっと見つけたぞ・・・狐め」
穴の縁に立つ青服の道士が、二つの黒丸と三日月から成る笑顔の面でもって、穴のそこの女を見下ろしていた。
「そんな・・・お前は、私の尾で・・・」
「尾?あぁ、これのことか。あまりわしの邪魔をするから、焼かせてもらった」
呆然と呟く女に、道士が袖に収めていた何かを投げてよこした。
焼けて縮み、臭いを放つ黒焦げの塊が、寝台の上に落ちた。
「・・・それで、少々話があるのだが・・・」
呆然と自身から切り離した尾の成れの果てを見つめる女に、道士が声をかけた。
「貴様がそこの陽樹を返し、人を襲わないと約束するのであれば・・・このままこの街を離れてもよいのだが?」
道士の提案に、女は黒焦げの塊から眼を離し、顔を上げた。
その視線には、確かな憤怒が宿っていた。
「・・・お断り、よ」
「ほう?」
女の返答に、彼女はさも意外といった様子で声を上げた。
「私は狐は狐でも、巫壺の狐・・・私の飢えが癒えれば癒えるほど、私は福を授けるの・・・私の飢えを癒すためにね・・・」
寝台を降り、床の上に立ちながら彼女は両手を広げ、続けた。
「この屋敷も、使用人も、財産も、健康も、商売の成功も、私があの男に授けてやったものよ!私自身の、飢えを癒すために!
だというのに、『人を襲わないと約束しろ』?馬鹿馬鹿しいにも程があるわ」
「・・・成る程、どうしても人は襲う、というのだな・・・」
「当たり前よ」
腕を組み、鼻を鳴らしながら彼女は応えた。
「ならば仕方ない。岳商人との約束もあるしな」
道服の懐に手を差し入れながら、道士は続けた。
「貴様を始末させてもらう」
そう言いながら取り出した彼女の手には、薄汚れた小さな壷が乗っていた。
「それは・・・!」
壷を眼にした、狐の尾を生やした女の表情が、驚愕に彩られる。
道士は片手で壷を保持したまま、もう一方の手を広げ、壷の上にかざした。
「ま、待って・・・!」
「それではさらばだ」
恐怖と絶望と驚愕の混ざった声を上げる女に向けて、道士は淡々と告げた。
「精神の巡りが合えば、またその時に」
直後、壷が爆ぜ割れ、その中に納まっていた黒い塊が一瞬のうちに燃え上がった。
女が掲げた指の先で、壷の中身が炎を上げ、灰も残さず燃えていく。
「―――っ!!」
そして、最後の一片さえもが空中で燃え尽きていくと同時に、女の身体が滲み、空に溶けていった。
「とまあ、このように何者かが呪物を仕込んでいたようだ」
砕けた壺の破片を卓の上に広げ、青服の道士は岳商人を前にそう言った。
「これは狐壺という巫壺の一種で、一時的な繁栄をもたらす代わりに際限なく贄を要求するという悪質な代物だ」
道士の解説に、岳は心当たりがあるのか顔を強張らせていた。
だが、彼女は彼の様子に気が付かない振りをしつつ、言葉を連ねていく。
「最初のうち、狐壺は食い物や若い男女を求めるが、やがて貴様の肉を求めるようになる。
地下の隠し部屋には人の骸があったから、もうじき貴様に手を掛けるところまで来ていたのだ。
間に合ってよかった」
「・・・・・・・・・それで・・・」
道士の説明を聞き遂げたところで、岳はようやく口を開いた。
「その・・・狐壺というものが、私に商売繁盛をもたらしていたとすれば・・・それが失われた今、私はどうなるのだ・・・?」
「さあな。貴様に真の商才があるというのならば、この繁栄はこれからも続くだろうな」
「そうか・・・・・・」
岳は椅子の背もたれにもたれ掛かりながら、力なくそう答えた。
「さて、狐の化生退治も終わったことだし、わしはそろそろこの街を出るとしようと思う」
椅子から立ち上がりながら、青服の道士は続けた。
「無事だったとはいえ、わしも弟子も狐壺に襲われている。これ以上この街にいては、何が起こるかわからないからな」
「・・・・・・」
岳は無言ではあったが、道士の言葉は届いているようだった。
「それではさらばだ、岳よ。星辰の巡りが合えば、またその時に」
岳からの答えは無かった。
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