堕粘姫ジェシア・アスタロト アナザー




 これは、あるべきはずだったもう一つの話。

 異界の者が来たらの話である。



 そんな混乱の中、健太はなんとか恋人が待っているはずのテーブルまで戻ったが――

「さ、早苗……ちゃん……」

「あぁ……ン。はぅ……あ、あああぁぁぁぁぁぁ……!!」

 しかし、すでに手遅れだった。

 早苗の体は数体の粘液女に絡み付かれ、艶めかしい愛撫を受けていたのだ。

 粘液の手がヌルヌルと白い裸体に這い回り、スライムが膜状に裸身を包む――

 その粘体の表面はぞわぞわと脈打ち、覆い包んだ早苗の肉体にこの上もない快楽を与えていた。

「ふふっ……」

「あははは……」

 そんな風に早苗を弄びながら、粘状女達は艶めかしく笑う。

「そ、そんな……」

「あぁぁぁ……ん、んん……ふぁ、あぁぁぁぁぁぁ……!」

 早苗はすでに理性を失ってしまったらしく、与えられる快感のまま甘い声を漏らすのみ。

 目の前に立ち尽くす恋人――

 絶望感にとらわれ、俯いた健太の耳に凄まじい叫びが届いた。

「我が友サラマンダーよ!舞踊れ!!」

 その理性を持つ叫びに健太が顔を上げると眼前を凄まじい勢いで炎が駆け抜け、早苗を弄んでいた粘状女達を全て消し去った。呆然としているといきなり何かに腕をつかまれ。驚いて暴れると

「暴れるな。今度捕らわれると助けれんぞ!」

 とさっきの声が諌めるように言う。落ち着いて振り向くと日焼けしたけ褐色の肌の青年がもう片方の腕に呆けた表情の早苗を掴んでいた。

「全てを助ける事はできんからな。とりあえず目に付いて恋人みたいだから助けたが迷惑だったか?」

 青年に問いかけられて首を振るう。

「だったら、暴れるな。ガルーダ、外へ」

 鳴き声がしてよく見ると青年が膝立ちに立ってるのは鷲の翼と頭部を持った四足獣だった。

 ガルーダが降り立ったのは正門前の広場。二人を降ろすと青年は素早く園内に戻る。健太は呆けた表情の早苗を揺するが与えられる快感がすさまじいのか、ぼんやりとしたままだった。



「・・・ひどいな」

 下から聞こえる快楽の声に顔をしかめながら呟きまわりを見ると視界内に回転する円形の建造物が見えその頂上の箱の中に一組の男女がいるのを発見しそちらに向かう。



「ねぇ! 琢海くん、上!」

「あ、ひぃぃ……ッ!!」

 二人は自分達のいる観覧車内に視線を戻し、そして真上を見上げて絶句した。

 天井の部分から、じゅくじゅくと染み出し始めるピンクの粘液。

 この観覧車内にまで、とうとうスライムが侵食してきたのだ。

 だが、次の瞬間全て蒸発した。驚く二人は扉が壊れる音に気付いて振り向く

「はやく、こっちに」

 ガルーダに乗った青年が手を差し伸べる。混乱する二人に苛立ったように

「死にたいのか!」

 と、叱責する。二人は顔を見合わせると青年の乗るガルーダに乗った。粘液が伸びるように襲い掛かるが青年の放った炎に焼かれた。

 

 その頃正門前には新たな女性が現れた。健太は早苗を守りように前に立ち

「誰だ?」

 と、聞くがそれに応えず。

「助けられた人ね」

 と言うと胸前で印を結び、

「結界!!」

 と叫ぶ。光が素早く走り大遊園地を取り囲む。

「これで、このわけの解らないものは逃げられないわ」

 信じられない事が次々と起こって健太は何が本当かわからなくなったが、とりあえずさっきの青年とこの女性は自分たちを助けてくれるだろうことは理解できた。



 琢海と優花を救った青年は園外に向いつつも、下を見ていた。その視界内にある男性が近くにいた女性を粘液女の方に突き飛ばしたのを見た。男性はそのまま逃げ出し女性は粘液女に包み込まれる。

「ちっ」

 舌打ちして、

『あんな男性は見捨ててもいいでも女性は未だ助けられる』

 素早く判断すると、

「すまん。二人ともしっかり捕まっとけ」

と言うと一気にガルーダの羽を閉じさせ急降下した。そして炎の精霊の業火で周りの粘液後と粘液女を消滅させその女性を救い上げ、急上昇で離れる。粘液が集い粘液女と名って見上げる。

 

 園外では

「こっちにくる?」

 健太がうごめき盛り上がる粘液に恐れる。そして襲い掛かるように向ってくるが・・・

 バシッ!!

 激しい音と共にはじき返される。

「え?」

 驚く健太に女性は微笑み

「だから結界を張ったって言ったでしょ」

とあっさり言う。

「お〜い」

上空からガルーダが舞い降りる。

「これだけが助けられる限界だな」

「そう・・・よね」

「?なにかあるのか」

「地下に逃げた人がいるの、なんとかできないかしら」

「・・・解った。何とかなるかもしれない、あんま使いたくないが。とりあえず地下に行かないとな。ドラゴン召喚」

 その声の魔法陣が現れそこに現れたのは現実に存在しない筈の巨大な土竜(もぐら)

「ちょっとこれでどうするんですか!」

「仕方ないだろ、あいつ呼ぶのに精神力温存しなきゃならないんだから!時間がないから行くよ」

 土竜が穴を掘って潜るとその穴の中に飛び込む。健太と琢海は互いに顔を見合わせた。



 階段を下り、地下通路を駆ける勇二。

 しかし、この地下にもスライムはじんわりと侵食してきた。

 どっぷりと天井に塊を作ったスライムが、まるでトラップのようにだらりと垂れてきたのだ。

「う……うわっ!」

 勇二の頭上から垂れてくる大量のスライム――それを浴びたのは、背負っていた女性だった。

 皮肉なことに、危険から守っているはずだった女性が盾となった形で、スライムの直撃を受けたのだ。

「ぐっ……しまった……!」

「や……、やだぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 女性の悲鳴が、静かな通路へと響く。

 スライムは女性の背中へとかぶざり、そしてねっとりとその体を覆い包み始めたのだ。

「あ……! やだ、やだぁ……!」

 勇二の背で女性は身を激しくよじり、そのまま床へと落下してしまった。

「くそ……! なんてこった……!」

 床の上に転がる女性の体に、スライムはじゅるじゅると群がっていく。

 その肢体はどっぷりと粘液にまとわりつかれ、しゅうしゅうと衣服を溶かされ――

「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 そして全身を粘液に絡め取られ、女性は甘い喘ぎを漏らし始めた。

 全裸のままスライムに包まれてしまい、もはや理性を失ってしまった様子だ。

 もう救いようのない状態になってしまったことは、一目で分かった。

「くっ、くそ……ッ!!」

 青年は怒り任せに、壁を強く殴り付ける。

「畜生、なんで……!」

 女性を救えなかった悔しさが、勇二の身を焦がしていた。とそばの壁が、ボコッと音を立てて壊れる。と同時に

「全てを一つにする者。異端の精霊。混沌精霊カオス。邪悪なる物を裁け!」

 と声がすると同時に。鎧を身に纏い剣を携えた人影が現れた。その人が下が立った場所の粘液は黒くなって動きを止める。人影は女性に取り付いた粘液をその剣の一撃で黒い死骸にすると同時に消し飛ばした。そして女性を投げ飛ばす。慌てて瀬戸勇二は女性を受け止める。そこでようやく壁の方向を向く

「ここはカオスが抑えてくれる。さっさと撤退するぞ」

 褐色の肌の青年に不信感を覚えたがそれでも粘液よりはましだと判断し女性を背負いその穴に入る。

「アスカ、ベヒモス」

 光の鳥が現れ。壁が大地によって修復する。

「さ、さっさともどろ」

 歩いていく青年に慌ててついて行くと園前広場に出た。地面の穴も修復される。

周りにはほかに二人の男性と四人の女性がいたが女性は三人はぼーとした表情だった。



 地面に浸みこんで三人を襲おうとしたジェシアだったが追いつけず結界で弾き返され諦め、地表に戻り正門から出ようとした。



「うわ」

「ど、どうするんですか?」

 正門に近付いたジェシアに気付いて怯える男性達。ジェシアが正門を抜けようとする瞬間。

「攻撃結界、炎龍神!」

 ジェシアを巻き込むように炎が吹き上がり瞬時に消滅させる。

「こんな事もするだろうと思って事前に用意してたの。他は結界で出れないしね」

 結界を張った女性はあっさりと言う。

 そして救出した男性は集中していた、男性を中心に光の魔方陣が浮かび上がる。

「バハムート零式!」

 光が弾ける。光が収まって目を開けたが何も変わってない。

「失敗?」

 不安そうに聞くが、男性は不敵な笑みを浮かべていた。



 衛星軌道上では異変が起こっていた。いきなり漆黒の者が現れたのだ。それはまるで卵にいるように丸くなっていた。そして目を昇、瞳はルビーのような緋色。尾、首、手、脚をほぐすように伸ばし、首をもたげ咆哮する。そして地球を見下ろす。その目には

ジェシアが映っていた。



 男性は右手を翳すと

「テラフレア!!」

 手を振り下ろしながら鋭く叫ぶ。



 その声に答えるように、漆黒の者―バハムート零式―は口を開け光を集める。そしてその集まった光を放つ。

その光は真っ直ぐに園内に降り注ぎそのエネルギーは建物内、地下、物陰にいるものも含めジェシア全てを消滅させた。

 光が収まった後。人のいない遊園地が残り『何もなかった』と言われても信じられるような状況だった。

 地下から現れたカオスは青年の声に応じて何処かへ去っていった。

 呆然とした女性たちにそれぞれ上着を着せ、女性は

「精神龍鱗。精神よ安定し、落ち着け。精神安定」

 を、使う。理性が破壊され光と焦点を結んでいなかった瞳に光が戻り焦点を結ぶ。女性達は上着だけを着た姿とさっきの恐怖を思い出して一切に騒ぐ宥めて落ちつかせるのに数分掛った。

「あの助けてくれて、有難うございます」

 上着を着ただけのポニーテールの女性は、恥ずかしがりながらも礼を述べると、他の人も礼を言ってないのを思い出しそれぞれ礼を述べて頭を下げる。

「それで貴方方の名前は?」

 ポニーテールの女性が聞くのに

「教える気はない」

「今日の事は忘れた方がいいわ」

 と言って去っていった。その後黒塗りのヘリ2機。重々しいローター音を響かせ、ゆっくりと高度を下げながらヘリは、園内上空へと侵入してきた。そのまま空中で側面ドアが開き、漆黒の装備に身を包んだ人影が次々に眼下へと降下していく。ヘリ1機につき4人ずつ合計8人が降りた。が一斉に怪訝な表情をし、その後園前にいる七人に気付き事情を聞く。



 それから数時間後、某国某所のとあるビルの一室で、一人の女性が窓から聖夜の街を見下ろしていた。派手なイルミネーション、ざわめく街並み、静謐とはほど遠い夜。少し前に起きた惨劇を、聖夜を楽しむ大多数の人間は知るよしもない。



「……」

その女は、上から下まできっちりと軍服を身に纏っていた。腕章に軍帽、特別にあつらえた女性用の将校服。良識に反し、室内でさえ深く被った軍帽そこからは、綺麗な金髪が覗いていた。瞳はブルー、睫毛は長く、北欧系の整った顔立ち。一見した人は、可憐な麗人だという感想を抱くだろう。しかし彼女のことを知っている人間は、もっと別の渾名で彼女を呼んでいた。『鉄の女』当然、正面切ってそう呼ぶ命知らずなどいない。彼女こそが、『化け物狩り』組織のトップである女性だった。





「……報告です、カーネル・ガブリエラ」

 長官執務室のドアが、静かにノックされた。

「……入れ」

「はっ……!」

 若いオフィサーは素早く入室し、その部屋の主に対し敬礼する。それに対するカーネル・ガブリエラの返礼は、彼女らしくない緩慢なものだった。それも、このような状況では仕方ない。そう察しながら、オフィサーは報告書を読み上げる。

 

「――とのことです」

「その二人の事は」

「は、今回の事について考えるからに我等の敵ではなく、かと言って味方でもなく、独自に行動しているものではないかと。元犯罪者か組織を脱退したものかとの考えが」

 手を上げて制す。

「違うわね」

「は、違うとは?」

「元犯罪者か組織を脱退した者と言うのがね。その二人見つけなさい。どんな手段を使っても構いません。ただし戦力になるようなものですから決して殺さずに生かして連れてきなさい」

「は、もう一つ報告が偵察部から、衛星写真が届いております。解像度が低いので、確認はやや困難ですが……この噴水前に、この事件の中核とおぼしき女が捉えられています」

「ふむ……」

 オフィサーから渡された大判プリントの写真に、カーネル・ガブリエラは視線を落とす。粘液で埋まった大通り。噴水前にたたずんでいるのは、ドレス姿の禍々しい美女。一目見て分かる、間違えようもない異様な女間違いない。こいつは女王七淫魔の一人。堕粘姫ジェシア・アスタロト。

「報告は以上です」

「確かに報告を受け取った。下がれ」

「はっ……」

オフィサーは退室した。



「……」

 オフィサーが退室した後も、彼女は窓脇で立ち尽くすのみ。きらびやかな聖夜の街を見下ろしながら、深く静かに思案していた。ここ最近、淫魔の活動があまりに激しすぎる。魔界からの流入数が増えているのは確かだが、しかし昨今の事件の頻発は、あまりにも異常だ。その挙げ句に、女王七淫魔の出現。

「いったい、何が起きている……?」

 いや、むしろこれから、本格的に何かが起きるのか?浮かれ騒ぐ聖夜の街を見下ろしながら、カーネル・ガブリエラは静かにたたずむのだった。



「なんだと?堕粘姫ジェシア・アスタロトがやられただと?」

 部下の報告に魔王は思わず立ち上がる。

「馬鹿な。あやつは女王七淫魔の一人だぞ。たかが人間ごときに」

「ですが、我が使い魔からの報告です間違いありません」

 平伏しながら言う部下に退室を命じ、部下が退室したのを確認し魔王は玉座に座る。

「まさかジェシアを倒すものがいるとは・・・」

 と呟くのであった。






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