犬壺




巫壺、壺毒などと称される呪術がある。

最も簡単な壺毒は、何匹もの毒虫を一つの壷に入れることから始まる。

毒虫たちは壷の中で殺し合い、最後の一匹になるまで争い続ける。

術者は、最後に残った一匹を使って、壺毒の術を執り行うのだ。

そして、石一族という術士の一団があった。

石一族が使うのは壺毒であった。

その技術は天下に並ぶものが居らぬほどで、一時期は時の皇帝が石一族を側に置くほどだった。

だが石一族は時代の流れと共に衰え、その数を減らし、今では一人だけとなってしまっていた。

そして石和真は、石一族最後の術士であった。

「・・・・・・」

彼は、家の庭の一角で地面を眺めていた。

視線の先にいるのは、犬であった。

だが、犬は首までを土の中に埋められていた。

「ハァハァハァハァ・・・」

犬が荒く息をつきながらぎらぎら光る目で、目と鼻の先におかれた肉片を見つめていた。

無理も無い。和真が犬を庭に埋めたのは三日前のこと。

今、この瞬間まで犬は飲まず食わずであった。

「ハァハァハァハァ・・・」

首を捻り鼻を突き出しながら、犬は肉片に少しでも近づこうとしていた。

もはや犬には、肉しか見えていないようだった。

「・・・頃合かな・・・」

和真は懐から短刀を取り出すと、犬の伸びきった首筋に刃を埋めた。

そして、刃を動かして首の骨と骨の隙間を断ち切った。

「ギャヒィ・・・」

短い鳴き声と共に、犬が動きを止める。

犬は、死んだようだった。

「よしよし・・・」

和真は犬が息絶えたのを確かめると、短刀を犬に突き立てたまま周囲の土を注意深く掘り始めた。

短刀が傷口を広げぬよう抉らぬよう、注意しながらだ。

今回の仕事に必要なのは、犬の血なのだから。











夜、一人の男が自宅で眠っていた。

美男でも偉丈夫でもなんでもない、取り立てて平凡な男だ。

その印象に違わず、彼は実生活でも平凡だった。

役人ではあるが後が怖いので賄賂は受け取らず、そこそこの金は持っていたが盗賊が怖いので質素で目立たない生活を送っていた。

そんな男が、自室の寝台で鼾をかきながら眠っていた。

「んご・・・ぐぅ・・・」

と、彼の鼾に混ざり、寝室に窓の外から小さな音が届いた。

何か硬いものが、壁に当たったような音だ。

しばしの間をおいて、窓枠を乗り越えて赤い液体が寝室に流れ込んできた。

窓の外には、液体を注ぎ込む者の姿は無い。

それもそのはず、液体は壁と窓枠を乗り越えて、寝室に侵入しているからだ。

「ぐぉ・・・ふひゅう・・・」

男が数度の鼾を繰り返すうちに、人一人が横になれるほどの広さの赤い水溜りが床の上に現れていた。

水溜りは表面を軽く波打たせると、寝台に向かって流れ始める。

そして、寝床を支える脚を伝って、寝台によじ登り始めたのだ。

赤い液体は布に染み入ることなく、布団の上で塊を成していく。

やがて鼾を掻く男の側に、人の頭ほどの大きさの赤い塊が出来上がった。

「んごご・・・ひゅ・・・」

液体はその表面を軽く波打たせると、枝を伸ばし、男の手足を押さえ込んだ。

「ぐご・・・ふひっ!?」

手足に触れたひんやりとした何かに、男が目を覚ました。

「な、何だこれは・・・!?」

寝台にうずくまる赤い塊と、それから伸びる数本の枝。

彼の理解を超える状況に、彼は戸惑いの声を上げていた。

「く・・・誰・・・!?」

助けを呼ぼうとした口が、新たに伸びた枝によりふさがれる。

枝の先は大きく広がっており、空気抜きの僅かな穴を残して完全に男の鼻と口をふさいでしまっていた。

「んご・・・!?」

くぐもった叫び声が液体の奥から漏れるが、部屋の外までは届かない。

液体は男を完全に押さえ込んだことを確認すると、移動を始めた。

人の頭ほどの赤い塊が、男の腰の上に乗ったのだ。

布越しに触れる塊の質感は、まるでひんやりとした煮凝りのようだ。

男の寝巻きに、塊からにじみ出した赤い液体が染み入っていく。

やがて、彼の寝巻きは血でも浴びたかのように真っ赤に染まっていた。

「・・・!」

不意に男の表情に、驚愕の色が浮かぶ。

彼が身に纏う寝巻きが、もぞりと動いたのだ。

正確に言えば、彼の寝巻きを染める液体が動いたのだ。

ぐっちょりと湿った赤い寝巻きが、もぞりもぞり、と彼の肌をなでていく。

寝巻きの粗い布地は液体が柔らかく包み、彼の肌に触れるのは滑らかな感触だけだった。

「・・・!・・・!」

くすぐったさを多分に含んだ心地よさが、彼の肌を這い回る。

その感触はあたかも、巨大な一枚の舌に全身を舐められているかのようだった。

ぬるぬるとした柔らかい刺激に、寝巻きの下で彼の分身が屹立していく。

すると、赤い寝巻きは屹立した彼自身も擦り始めた。

硬くなった肉棒を掴み、ゆっくりと上下に扱く。

竿の表面に浮き上がった血管をなぞり、膨れた亀頭をくすぐる。

「・・・・・・っ!」

赤く染まった寝巻きのもたらす快楽に、男は身体を震わせながら達した。

尿道を押し開き、白濁した粘液が寝巻きの内側へ放たれた。

寝巻きに染み入る赤い液体は、迸った精液を受け止めると、塊の奥へ吸い上げていった。

「・・・ぅ・・・ぅぅ・・・」

赤い液体がうねる感触に、彼は声を漏らした。







赤い塊は精液を一通り啜り終えると、さらに自身を男の寝巻きへ染み込ませた。

しかし、彼の寝巻きは既に十分に濡れており、液体は布団に染み入ることは無かった。

そのため彼の身体と寝巻きの隙間に、すでに染み込んでいた液体が押し出されていく。

ひんやりとした液体が、彼の身体を包んでいった。

粘度の高い液体に包まれていく感触は、まるで泥濘に身を沈めていくようであった。

やがて、液体は寝巻きの襟首や裾から覗く手足にまで這い登り、彼の全身を包んでいった。

「・・・ぅ・・・」

寝台の上に横たわる、人の形をした赤い塊が小さな声を漏らした。

空気抜きの穴こそ開いているものの、彼の全身は完全に赤い液体に包まれていた。

液体は彼の体温を吸って人肌に暖められ、彼にある種の心地よさをもたらしていた。

「・・・!?」

不意に、彼の股間部分を包む液体が動いく。

温もりを備えた泥の塊が、彼の陰茎を玉を揉んだのだ。

一度の射精により萎えた肉棒が、竿を擦り亀頭を揉み張り出したエラをなぞる液体の動きに、硬さを取り戻していく。

温もりと心地よさと微かな恐怖。それらが混ざり合った奇妙な感覚が、彼の内で芽生えた。

液体は再び勃起し始めた肉棒を確認すると、揉む動きを扱く動きに切り替えた。

しかし、先ほどのようにただ扱くだけではない。

今度は肉棒と液体が触れる面に、凹凸が生じていた。

波打つ粘液の凹凸は、締め付けを変えながら彼の屹立に纏わりつき、絡みつき、ひと扱きごとに形を変えていった。

あたかも、極上の名器を持つ女に突き入れているかのような感覚に、男の興奮は再び高まっていった。

そして、一際強い締め付けと共に、波打つ液面が肉棒を擦った。

彼の意識が限界を迎え、滾った欲望が迸る。

「・・・っ!」

口元を覆う液体の下で、彼が声を上げた。

くぐもった小さな叫びと共に、彼の寝巻きの下で液体に包まれた肉棒が、脈打ちながら白濁を放つ。

びくん、びくんと断続的に放たれる精液は、すぐさま液体の生み出す流れに乗って拡散し、消えていった。

彼には、その精液を運搬するための液流さえもが快感であった。

やがて断続的な数度の噴出を経て、ようやく射精がやんだ。

同時に、いつの間にか強張っていた男の全身から力が抜けた。

しかし、休息は長くは続かなかった。

「・・・っ!?」

彼の睾丸を弄ぶように、粘液が動き始めたのだ。

少しだけ縮こまった皮袋が引き伸ばされ、その中に納まれた二つの睾丸が、優しく転がされる。

睾丸を包む液体はあくまで優しく、それでいて逃がさぬほどの力を加えていた。

睾丸をつぶされるかもしれない、という思いが一瞬彼の胸中を走る。

だが、液体はこりこりと睾丸を軽い圧力を加えたまま転がすばかりで、潰す様子は無かった。

ただ睾丸を転がされる、ぼんやりとしたもどかしい刺激がもたらされるばかりだ。

「・・・・・・・・・」

彼の胸中にわだかまっていた恐怖が、次第に興奮へと変わっていく。

彼の股間から届く微かな痛みが、次第に快感へ変わっていく。

いつの間にか彼の肉棒は液体の中で屹立し、ゆっくり脈打っていた。

だが、液体は肉棒を刺激することなく、淡々と睾丸を弄っていた。

先ほどまでとは違う鈍い快感が、彼の腰の奥で渦巻き始めた。

玉袋を包み込む液体が、肉棒の時のように表面を波打たせ、緩急つけた愛撫を加えてくる。

「・・・ぐ・・・!」

大きな快感が、液体の蠢動に合わせて寄せては返す波のように彼を襲ってくる。

だが、波状の快感はいずれも射精に至るほどのものではなかった。

快感と興奮が彼の体奥で蓄積され、行き場を求めて暴れる。

「・・・ぐ・・・く・・・!」

彼の興奮は中途半端に昂ぶり、天井に当たったかのようにそれ以上の高みに登れなかった。

液体の中で、睾丸が転がされる。

引き伸ばされた玉袋の皺を、波打つ液面がなぞっていく。

繊細な粘液の動きに彼の射精感は、狂死しかねないほどに高まっていった。

(出したい・・・!)

射精の欲求が、彼の意識を支配していく。

たった数文字の言葉が、睾丸を転がし、皺をたどられるのにあわせて膨れ上がっていく。

もはや彼の肉棒は、射精するかのような勢いで脈を打っていたが、その先端から溢れるのは先走りばかりだ。

「・・・ぅっ・・・!」

びくん、と彼の身体が痙攣し、肉棒が大きく脈打つ。

だが、彼の動きにあわせて液体も動き、屹立には何の刺激も与えられなかった。

もう少しで届きそうだった射精が遠のき、絶頂直前の快楽が男の意識に押し寄せた。

「・・・ぅぅ・・・」

いつまで経っても訪れぬ絶頂に、男はいつの間にか涙を流していた。

口元を押さえる液体が無ければ、恥も外聞も無く射精を求めて哀願の叫びを上げていただろう。

だが、赤い液体は彼の口を覆ったままであった。

睾丸に圧力が加えられ、力を逃がすように転がされた。

「・・・・・・っ!」

その瞬間男の中で何かが壊れ、赤い口枷の下で彼は叫び声を上げた。

外に声は届かないが、届いたとしても野獣の如き絶叫の内容を聞き取れる者はいない。

だが、男は『射精したい』と言う一念を、思いつく限りの言葉で懇願しているつもりだった。

赤い液体が、叫び声にぶるぶると震える。

そして、怒張を包み込む液体の表面に、凹凸が生じた。

「っ!?」

根元から発生し、肉棒へ登っていく凹凸の絡みつくような感覚が、彼の意識に稲光のように強い刺激を注いだ。

尿道の内側を、滾った白濁が駆け上っていく。

そして、凹凸がエラを乗り越え亀頭を包み込むと同時に、鈴口が大きく開き精液が迸った。

「っっっ!!!」

ようやく訪れた絶頂を、男は歯を食いしばり背筋を仰け反らせながら受け入れた。

がくがくと全身が痙攣し、煮えたぎった精液が噴出していく。

赤い液体は、放たれる精液を受け止めると液流を生み出しながら全体へ広げていった。

肉棒の根元から先端へと移動していく波状の凹凸が、更なる快感を生み出す。

浮かび上がった血管を、粘液が擦っていく。

膨れ上がった裏筋を、凹凸がなぞってていく。

張り出したカリ首を、襞がくすぐっていく。

破裂しそうな亀頭を、液流が撫でていく。

肉棒へもたらされる快感が、彼の興奮を高めていった。

やがて、彼の全身を包む液体もまた、蠢動を始めていた。

脇腹をなぞり、膝裏をくすぐり、胸板を擦り、背筋を撫でる。

全身を嫐るような液体の動きが、男を戻ることの出来ないほどの高みへ押し上げていく。

「っ!っ!っ!」

口枷の下で荒い呼吸をつきながら、男は耳の奥で早鐘のように打つ心音を聞いていた。

それは数里の距離を全力で駆け抜けたとしても、まだ足りないと思えるほどの早さだった。

全身を包み込む赤い液体が蠢動し、その度に精液が小便のように流れ出ていく。

「っ!っ!っ!」

やがて射精と射精の間が無くなり、男が自身の名前さえも忘れてしまい、液体と自身の区別がつかなくなっていった。

そして―

「っ!っ!っ・・・・・・!」

男の心臓は突然止まった。











そして、和真は自宅の庭で、手にした壷に土を注ぎ入れていた。

壷の中には赤い液体が溜まっており、乾いた土を一掬い入れる毎に液体は土に吸われていく。

淡々と土を壷に注ぐ彼の顔には、何の感慨も浮かんでいなかった。

犬の血から作った壺毒、犬壺は、あの役人を殺すためだけに創ったものだ。

外傷や毒を使った跡を残さず、病か何かで突然死したように見せかけて殺すという、仕事のためにだ。

そして仕事が終われば片付ける。ただ、それだけだ。

そもそも、あの役人がなぜ狙われたのか、仕事を依頼したのが誰なのかも、彼には興味が無い。

賄賂を受け取らぬ頑固な彼を邪魔に思った上司か、彼の椅子を狙っていた部下か。

もはや彼にはどうでもいいことだった。

「・・・・・・よし」

土を壷に詰め終えると、彼は壷を庭の穴に置き、土をかぶせる。

十分に壷が土の下に隠れると、彼は地面を踏み固めた。

これで、犬壺の片付けは完了だ。

「・・・・・・さて、と・・・」

彼は小さく呟くと、家に向き直った。

今回の仕事で、より大きな町に引っ越すための金が溜まった。

彼の夢の実現のための、第一歩だ。

和真は引越しの準備をするため、家に入っていった。






この娘さんに搾られてしまった方は、以下のボタンをどうぞ。




アナザー一覧に戻る