回収指令




人通りの多い通路を進み、目的のドアにたどり着く。

バアル・ゼブブは身だしなみを整えると、『帝国 日本支部事務室』と掲げられたドアを軽くノックした。

『どうぞ』

「失礼します」

くぐもった返答に応じながら、彼女はドアを開いた。

彼女の目の前にあるのは、カウンターとその向こうに並ぶ幾つもの事務机、そして向かいの壁に設けられたもう一枚のドアだ。

「朝お電話差し上げました、『月を見る者』のベアトリス・ゼブーブルグです。先日スペンサー中将から請け負いました、仕事のレポートの提出に参りました」

カウンターに着く職員にそう言うと、職員は手元の書類を確認した。

「・・・かしこまりました、支部長室へどうぞ」

「ありがとうございます」

カウンターの職員に一礼すると、バアルゼブブはカウンターを迂回し、事務机の間を通り抜けて『支部長室』と掲げられたドアの前に立った。

そして、再びノックする。

『あいよー』

「失礼します」

くぐもった気の抜けた返答に、彼女は律儀に応じながらドアを開いた。

扉の奥にあったのは応接用のテーブルとソファ、そして大きな机だけが置かれた殺風景な部屋だった。

「やあ、待ってたよ」

机に向かっていた二十代半ばほどの男、エリオット・スペンサーが笑みを浮かべながら立ち上がった。

「腰眼か誰かが来ると思ってたけど、君は・・・」

「先日より『月を見る者』に所属しております、蝿型淫魔のベアトリス・ゼブーブルグと申します」

軽く頭を下げながら、バアル・ゼブブは以前登録に使った名前を名乗った。

「ベアトリス・・・あぁ、バアル君ね。君の事は何度か三人から聞いてたよ」

あっさりと彼女の本名の一部を呼びながら、スペンサーは手を差し出してきた。

何のための登録なのか、と主人達に毒づきながら、バアル・ゼブブは笑顔でスペンサーの手を握った。

「まぁ、座って・・・ところで、三人は?」

「心労のためか体調を崩して、現在自宅で療養中です」

「そうか、それは大変だね」

三人の心労の元凶は軽く応えながら、バアル・ゼブブの向かいに座った。

「では、こちらがご依頼なさった器具と本に関するレポートです」

「あぁ、ありがとう」

スペンサーは差し出された紙束を受け取ると、ぱらぱらとめくり始めた。

「ははは、なかなか辛辣だな・・・でも、参考になるよ」

苦笑いを浮かべながら、彼はレポートを読み進めていった。

そして一通り目を通すと、テーブルの上に紙束を置く。

「いやはや、ありがとう。実に参考になるよ」

「・・・ありがとうございます」

主人達の容態を思えば素直に喜べないが、バアル・ゼブブは返答した。

「それで、仕事が終わってすぐで悪いんだけど・・・一つ仕事を請けてくれるかい?」

財政難にある『月をいるもの』にとって、スペンサーの申し出は飛びつきたくなるほど魅力的だった。

だが、彼女は真情を隠しながら尋ねた。

「はぁ、内容にもよりますが・・・」

「簡単な仕事だよ。『大図書館』の機密情報持ち逃げした馬鹿の一団から、記憶媒体を取り戻すだけだ」

彼は立ち上がると、部屋の奥の机の上から書類を手に戻ってきた。

「一団の人数も所在も把握してある。後は襲撃を仕掛けるだけなんだけど・・・どう?」

「・・・なんでまた、そのような仕事をあたしに?」

その程度の任務なら、やり遂げる自信と戦力はあった。

だが、その事実を見抜いたスペンサーに、バアル・ゼブブは微かな不審を抱いた。

「いや、前にやってもらった仕事のレポートを読んだんだけど、あれ一人で片付けたでしょ?」

「・・・・・・」

「純正淫魔と一対一で戦って、相手の魔力切れを狙うような戦法を取るなんて、よっぽどの実力が無い限り無理だと思ってね」

「・・・なるほど・・・」

声に微かな殺気を混ぜながら、彼女は低く呟いた。

「まぁ、私は別に君の正体がなんだっていいんだけどね」

彼女の放つ殺気をあっさり受け流しながら、彼は手にした書類をテーブルの上に置いた。

「本来ならばこれは私のサインを入れて、『帝国』のしかるべき基地に送らないといけない書類なんだよ。その提出期限があと数時間。

君が請けるのであるなら、この仕事を『月を見る者』に回してあげても良いんだけど?」

「・・・報酬は?」

「無論、相場にあわせて払うし、責任は私が負おう」

彼は書類の向きを揃えると、バアル・ゼブブに向けて差し出した。

「さて、どうする?」

「・・・・・・分かりました」

彼女は小さく応えると、書類に手を伸ばした。





















町外れの廃屋に、四つの人影があった。

三つは男のもので、窓際や扉の側に立ち、手にした拳銃を弄ったり不安げにきょろきょろしていた。

そして部屋の中央では、女が床の上に腰を下ろして目を瞑っていた。

「・・・おい、本当に追っ手は来てないのか・・・?」

窓際に立っていた男が、不安げに声を漏らした。

その一言に、ドアと壁にそれぞれ寄りかかっていた二人の男が、じろりと視線を向けた。

「だから安心しろって言ってるだろ?」

「そうだ、こっちには淫魔が一体いるし、半径数キロ内に入ればすぐに分かるよ」

部屋の中央で瞑想を続ける女を示しながら、ドアにもたれ掛かる男は続けた。

「後は約束の時間が来るまで、迎えが来るのを待ってりゃ良いんだ」

「そ、そうだよな・・・」

窓際の男が、安心するように幾度も頷いた。

彼らが『銅の歯車』を出奔してから既に二日経つ。

それも、『銅の歯車』どころかその上層組織、『人界大図書館』にまで関わるほどの機密情報を携えてだ。

暗号化されているため、彼らはその内容までは知らなかった。

だが、『大図書館』の傘下に収まらない魔術組織は、ことごとくその情報を欲しがっていた。

それこそ四人で分けても、ちょっとした島ぐらい買えるほどの金額を支払ってでもだ。

彼らは現在、情報の買い手である組織の一つと接触の約束を取り付けていた。

「・・・・・・」

四人のリーダー格である、壁にもたれ掛かる男はそっと時計を確認した。

約束の時刻まで、あと数時間。

あと数時間待てば『HY-04』と記されたディスクと引き換えに、新たな身分と莫大な金が彼らのものになるのだ。

(どうか、何も起こらないでくれよ・・・)

彼は胸中で、これから過ごす生涯で最も長い数時間が平穏であることを祈った。

「ん?・・・クソッ・・・」

窓際の男が、声をあげながら手を振った。

「どうした」

ドアにもたれ掛かる男が、問いを放つ。

「いや、虫が入ってきて・・・」

「虫ぐらいでうろたえるな」

仲間の一喝に、窓際の男は肩をすくめた。



ぶぅぅぅぅ・・・ぅぅぅぅぅ・・・



部屋の中に、虫の小さな羽音が響く。

気に障るほどではないが、それでも静かな室内では大きく聞こえた。





うぅぅぅ・・・うぅんうぅぅぅぅぅ



不意に、虫の羽音が途切れた。

それと同時に、部屋の中央に座る淫魔が目を見開いた。

「どうした・・・?」

すっくと立ち上がる彼女に、壁にもたれる男が問いかけた。

だが、彼女は応えない。

無言で目を見開いたまま、右に左に頭をめぐらす。

そして―

「あぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁあああああああっ!!」

叫び始めた。

叫び声は高く低く、波のようにうねりを繰り返しながら彼女の喉から迸った。

「っ!?」

突然の絶叫に、三人の男が耳をふさぐ。

「あぁぁぁああああああぁぁぁぁっ!!」

淫魔は叫び声を上げながら窓際の男に近づくと、その肩を強く押した。

衝撃に男の身体がよろめき、倒れ伏す。

「何を・・・!」

「あああああぁぁぁぁぁあああああっ!!」

男の問い掛けに応じることなく、淫魔の身体から絶叫と共に甘い香りが放たれた。

発情を促し、思考を蕩かす淫魔の催淫芳香だ。

「うぅ・・・?」

男達の意識に靄が掛かり、ズボンと下着の下で肉棒が屹立していく。

「ぁぁぁぁぁぁああああああっ!!」

淫魔は床に倒れ伏す男を足で仰向けにすると、そのズボンに指を掛け下着ごと引き千切った。

屹立した男のペニスが、ぼろんとまろび出る。

彼女はスカートをたくし上げると、下着を下ろすのももどかしいかのように、ショーツの柔らかな生地を引き裂いた。

すると興奮に愛液を滴らせ、緩く口を開く形のいい秘裂が露になった。

「あぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁっ!!」

絶叫を続けながら、彼女は二三度自身の膣を指でかき回すと、倒れ伏す男の身体をまたぎ、腰を下ろした。

屹立したペニスが、女の膣に飲み込まれていく。

「うわぁ・・・あが・・・!」

「ああああぁぁぁぁぁぁあああああっ!!」

淫魔の絶叫に、男が漏らした呻きが混ざった。

彼女の膣は興奮にぐっしょりと湿り、柔らかな膣肉はペニスを刺激するべくもぞもぞと蠢いていた。

飢えた肉食獣の如く、膣内の襞が男のペニスに絡みついた。

亀頭から根元までが、膣肉の蠕動に晒される。

「あっ・・・がぁぁぁ・・・!」

亀頭、裏筋、カリ首は言うに及ばず、皮膚の凹凸や血管の盛り上がりさえもくすぐるような膣の責めに、彼は身体を仰け反らせながら悶えた。

腰が淫魔の身体を持ち上げ、膣の奥深くに陰茎が入り込んでいく。

すると、膣穴の奥深くで待ち構えていた子宮口が、男のペニスの先端、亀頭に深く刻まれた鈴口に吸い付いた。

「ぐぁ・・・あぁ・・・!」

「ああああぁぁぁぁあぁあああああっ!!」

溢れ出していたカウパーを啜り上げられる刺激に、彼の意識は一気に絶頂に達した。

膣の締め付けを押し返すようにペニスが脈動し、尿道を煮えた興奮が駆け上っていく。

「あぁぁぁ・・・!」

短い声と共に、精液が鈴口から迸った。

射精の開放感と快感が、彼の精神を満たしていく。

淫魔の子宮口は一滴も漏らすまいと、亀頭を半ばまで覆い噴出する精液を啜り上げる。

その刺激に、更なる射精が促された。

「うぁぁぁ・・・あぁぁ・・・」

「ぁぁぁぁああああああぁあぁぁっぁああああっあぁっ・・・がはっ!!」

男にまたがる淫魔の叫びが途絶え、咳のような音と共に赤い飛沫が口から飛び出した。

長時間の絶叫に、声帯が切れたのだ。

「あがっ・・・がはっ・・・はあっ・・・!」

しかし彼女は使い物にならない喉から更なる絶叫を搾り出そうとし、絶叫の代わりの咳が幾度も出た。

咳をつくたびに膣が収縮し、男の陰茎を揉み立て刺激を与えていく。

「うぁ・・・あぁ・・・!」

「あぁぁ・・・がはっげほっ・・・あぁ・・・ごほっ・・・!!」

断続的に続く淫魔の絶叫に、長時間の射精により弱った男の低いうめきが混ざった。





「う・・・うぅ・・・」

壁にもたれ掛かっていた男が、うめき声と共に軽く頭を振った。

部屋を満たす甘い催淫芳香は彼の意識に桃色の靄をかけているが、完全に動きを封じるには至っていない。

「クソ・・・」

いまだ手足の脱力感は抜けないが、それでも大分ましにはなった。

彼はゆっくりと壁から離れると、ふらふら左右に揺れながら窓際で交わる二人に歩み寄って行った。

「ぁ・・・がはっ・・・ごほっげほっ・・・!」

「・・・ぁ・・・」

咳と共に血の飛沫を撒き散らしながら跳ねる淫魔と、その下でほとんど動きを失ってしまった男。

二人の側にたどり着くと、男は手にしていた銃を淫魔の後頭部に向けた。

そして、引き金を引く。

乾いた破裂音と共に淫魔が背筋を逸らし、軽く全身を痙攣させ倒れこんだ。

ごどっ、という重い音と共に、赤い液体が彼女の頭部から流れ出していった。

「っはぁはぁはぁ・・・」

あたりに立ち込めていた甘い芳香が消え去り、男の意識に掛かっていた靄が消え去った。

ズボンの下では、まだペニスが痛いほどの勃起しているが、じきに収まるだろう。

「おい、大丈夫か?」

彼はその場に屈みこむと、淫魔に搾精を受けていた男の頬を軽く打った。

男は低いうめきを漏らすと、視線を彼のほうへ向けた。

衰弱はしているが手遅れにはならずに済んだらしい。

「い、一体何が・・・」

ドアのところでへたり込んでいた男が、目を押さえながら立ち上がった。

しかし、その問いに答えるものは誰もいなかった。

不可解な淫魔の行動に、二人が疑問符を浮かべている時だった。



ぅぅぅぅぅ・・・



どこからともなく、うなるような音が響いてきた。

「・・・・・・」

壁を背にしていた男が軽く合図すると、ドア側にいた男が銃を手に歩み寄ってきた。

そして、床に倒れ伏す男を背に、辺りに視線を向けた。

緊張に掌が汗ばみ、口内が乾いてくる。

(どこからだ・・・?)

顔をどこに向けても、音は一様に同じ大きさでどこから放たれているのか分からない。

緊張感とプレッシャーに、二人の意識が押しつぶされそうになっていく。



ばがん!



突然、大きな物音が幾つも生じた。

一つは窓が開け放たれた音。

一つはドアが開け放たれた音。

一つは天井板が抜け落ちた音。

一つは床板が突き破られた音。

そして、四つの音の後にくぐもっていたうなるような音が、大音量で部屋に飛び込んできた。



ぶぅぅぅぅぅうううううううう!!



真っ黒な、黒煙のような塊が窓、ドア、天井、床から部屋に入り込んでくる。

黒煙は部屋を満たすと、一息に男達を包み込んでしまった。

「「うぁあああああっ!!」」

顔を、皮膚を包み込む黒煙に、二人は絶叫を上げた。

同時に、二人は黒煙と音の正体を理解してしまった。

黒煙は、無数の蝿がまとまって飛んでできる、一つの群れだった。

先ほどから聞こえていた音は、蝿達の立てる羽音だった。

「ぐぁああああ!」

「あぁっ!あああっ!!」

二人は叫び声を上げながら、腕で顔を庇い、床を転がって蝿達を払おうとしていた。

だが、異変が生じた。

二人を囲む黒煙の中から、白く細い女の腕が何本も生えてきたのだ。

腕は男達を床に押さえつけると、顔から腕を引き剥がし、動きを封じていく。

「や、やめ・・・!」

言葉を紡ごうとした男の口を、新たに生じた細腕が押さえた。

「・・・!」

くぐもった低いうめき声を漏らす彼の全身に、蝿が纏わりついていく。

蝿は衣服の裾から、襟首からどんどん入り込んでくる。

そして体の表面を、その細い脚で這い回るのだ。

「・・・!」「・・・!!」

無言のまま、身体を這い回る蝿の感触に、二人の身体が身悶えする。









やがて、ドア側に立っていた男の方では感触に変化が起きていた。

下着に包まれたペニスは、淫魔の催淫芳香と蝿の脚のくすぐったさによって屹立していた。

怖気を帯びたくすぐったさを生み出す、繊毛の如き蝿の脚の感触がつるつるとした、弾力あるものに変わっていたのだ。

まるで、分厚いゴムのようなものに。

「・・・!」

ペニスを包み込む柔らかな物体は、ペニスとの接触面を蠕動させて快感を生じさせていた。

いつの間にか物体からはさらさらとした液体が滲み出しており、ペニスの扱きを滑らかにしていた。

「・・・っ・・・!」

ペニスを包む物体のスムーズな動きと、全身をまさぐる蝿のくすぐったさに、彼の意識が無理矢理高められていく。

無数の蝿に対する嫌悪感が、異様な興奮に上塗りされていき、いつしか意識の外へ追いやられていった。

そして、彼にはペニスを包む物体の感触と、全身のくすぐったさだけが残された。

ペニスを包む物体が、締め付けを次第に強めながら責めを加速させる。

「・・・っ・・・っ・・・!」

短い声を上げながら身悶えするが、全身を押さえる細腕がそれを許さない。

拘束されていると言う事実が、彼に更なる興奮を与える。

ペニスを包む物体は、すでにペニスの脈動を止めかねないほどの力でペニスを締め上げていた。

だが、それでも彼の屹立は締め付けを押し返し、蠕動による愛撫を受けるたびに歓喜の震えを起こしていた。

「・・・っ!」

急に勢いを増したペニスの脈動に、物体が愛撫を強める。

絶頂を控えて敏感になったペニスが、容赦の無い会館に晒された。

やがて、彼の意識に限界が訪れた。

「・・・っ、っ!」

短い苦鳴と共に、彼の身体が小さく跳ね、精液が物体の内側に迸った。

精液を受け止めた物体は歓喜に打ち震え、ペニスをやわやわと揉み立てながら白濁を吸収した。

人外のもたらす快感と、射精しながらのペニスへの責めに、彼はいつものゆうに数倍の精液を放ち終えると、全身を脱力させた。

「ふぅ・・・ふぅ・・・」

唯一ふさがれていない鼻の穴から、荒く深く呼吸をする。

だが、彼の僅かな休息は十数秒と続かなかった。

「っ・・・!?」

ペニスを包み込む物体の感触が、変化し始めたのだ。

分厚いゴムのようだった物体の、つるりとした表面に細かいこぶが生じてきたのだ。

こぶは等間隔に、ペニス全体を満遍なく覆うように生え揃った。

先ほどと変わらぬ柔らかな感触に、しこりを感じさせるこぶの存在がアクセントを添えた。

そこまで彼が認識したところで、射精直後で血液が抜けたペニスが揉まれた。

ぞくり、と背筋を快感が這い登り、肉棒が充血していく。

そして、いきり立ったペニスを物体は再び揉み立て始めたのだ。

「・・・っ!!・・・っ!」

先ほどとは違う快感に、彼の身体が反り返り、身悶えを起こす。

射精直後の敏感なペニスは苦痛に近い刺激を受けているが、物体には責めの手を緩める様子は無かった。

「・・・っ!」

熾烈な物体の責めに、彼の意識が再び押し上げられていく。

そして、先ほどより短い時間で彼は絶頂に達した。

鈴口が大きく開き、精液が物体の奥へ再び迸っていった。

「・・・っ・・・!」

射精を終えると、物体の動きはしばしの間止まる。

だが、それは次なる搾精に備えての変化を起こすためだった。

「・・・・・・!」

ペニスを包む物体の感触に、こぶよりさらに細かな粒々が加わっていくのを彼は感じていた。







一方壁を背にしていた男は、床から無理矢理引き起こされ、自分の下半身を見させられていた。

彼の下半身には、蝿が数匹群がっていた。

ただの蝿ではない。

体長三十センチほどの、女性の上半身を頭部があるべき場所から生やした異形の蝿、所謂ハエ娘だ。

一匹が彼のペニスを女性の上半身で抱きかかえ、残る数匹が太腿や脚にしがみついていた。

ペニスに抱きつく一匹が、己の身体を竿に擦りつけながら、亀頭に舌を這わせた。

「んぐ・・・ぐ・・・」

口をふさがれ、くぐもったうめき声を上げながら、彼はもたらされる快感に耐えていた。

しかし、先ほどの淫魔の催淫芳香の効果もあるせいか、彼の興奮はじわじわと高められていくばかりであった。

「ぐ・・・んむ・・・」

「・・・・・・」

顔をしかめ快楽を堪える男の顔を、ペニスを抱く蝿が舌を這わせながら見上げていた。

彼女はにぃ、と淫靡な笑みを浮かべると、自身の身体を上下に揺すってペニスを扱き始めた。

「ぐ・・・!」

細い二本の腕が竿を締め上げ、小さくとも存在感を放つ二つの乳房とその先端の屹立が、裏筋を刺激する。

そしてペニスへの扱きにあわせ、脚にしがみつく蝿達も同じように身体を揺すり始めた。

「ぐ・・・うぅ・・・!」

下半身を包み込む柔らかな感触に、彼の興奮は否応なしに高まっていく。

下半身にこすり付けられる幾つもの小さな乳房が、彼の脳に快感を刻み込んでいく。

「うぐ・・・うぐ・・・!」

低いうめき声を漏らしながら、彼は必死に快感を追い出そうとしていた。

襲い来る射精感に苦悶の表情を浮かべる男の表情を見上げると、蝿は嘲りの表情を浮かべ、軽く亀頭に歯を立てた。

米粒ほどの小さな前歯が、鋭い刺激をペニスにもたらす。

「っ・・・!?」

突然の強い刺激に、彼の意識が乱れ、興奮が爆発した。

ほとんど噴き出る、といってもよいほどの勢いで、尿道から精液が迸った。

そのほとんどが亀頭に歯を立てる蝿の顔面に命中し、辺りに撒き散らされていった。

「・・・!」

突然の射精に、彼女は驚き混じりの笑みを浮かべながら尿道に吸い付き、後から後から溢れて来る迸りを啜り始めた。

そして、撒き散らされた精液を彼の脚にしがみついていた蝿たちが争うように舐め取り、飲み干していった。

「・・・っ!」

性器に群がる無数の舌と、尿道を啜られる快感に、彼の射精が引き伸ばされていく。

そして、ペニスの根元が痛みを訴え始めた辺りで、ようやく射精がとまった。

「・・・・・・♪」

ペニスにしがみつく蝿は、鈴口から尿道に残る白濁を啜り取ってから口を離した。

彼の放った精液のほとんどを収めた彼女の腹は、心なしか膨れているようだった。

「♪・・・♪」

口元をぬぐい終えると、蝿は羽を震わせて宙を舞い、彼の眼前に自身の腹を突き出した。

すると、彼女の大きく膨れた腹の先端にある窄まりが、広がったのだ。

奥に溜まっていた粘液が溢れて滴り落ち、その奥の様子が彼の目に晒される。

彼女の腹部の内側には、肉が詰まっていた。

幾重にも襞が折り重なった、鮮やかなピンク色の肉の穴だった。

襞と襞の間には分泌された粘液が満たされ、彼が見ている間にも穴の縁から溢れ出していた。

「♪」

蝿は突き出していた腹部を下に向けると、そのまま羽根を操って身体を落としていった。

男の屹立したペニスが、蝿の穴の縁に触れる。

「んぐっ!?」

亀頭に触れた粘膜の柔らかさに彼が驚くが、蝿は降下をやめない。

自信の体長ほどはあろうかというペニスが、徐々に彼女の腹部に飲み込まれていく。

膨れ上がった亀頭が、折り重なった襞を一枚一枚掻き分け、奥へ奥へと沈み込んでいった。

波打つ肉壁がカリ首を刺激しながら、押し入ってくる肉棒を受け入れる。

「んぐ・・・!」

襞の一枚一枚が竿に絡みつき、亀頭をくすぐっていくその感触に男は声を漏らした。

その刺激は、先ほど射精していなかったら挿入と同時に絶頂に達しそうなほど強いものだ。

だが、蝿の体内はただ緩く締め付けているだけで、蠕動すらしていなかった。

この折り重なる襞が動いたら、どれ程の快感になるのか。彼には予想も着かない。

「うぐ・・・うぅ・・・」

「♪」

断続的に遅い繰る刺激を堪えているうちに、蝿の体内に彼の肉棒が全て収まった。

蝿は、緩やかに締め付ける内壁の感触を堪える男の表情に笑みを浮かべた。

そして、ずるり、と内壁が動いた。

襞がペニスの根元から先端へ、ゆっくり蠕動していく。

その動きは、まるで蝿の膣の外から手で扱かれているような感触だった。

「!!」

強い刺激に仰け反る彼を、第二、第三の蠕動が襲う。

圧力を増した襞のリングが、幾重にも連なって彼の屹立を刺激した。

「うぐ・・・!ぐ・・・!」

全身を女の細腕で押さえ込まれながらも、彼は歯を食いしばって快感の波を本能的に堪えていた。

だが、それも無理な話だ。

冷静だったならば数えることが出来たであろう程度の、襞の締め付けはその箇所を増し、もはや内部に納まるペニスをもみくちゃに嫐っていた。

折り重なる襞の一枚一枚が、舌のように滑らかに蠢動し、彼を押し上げていく。

「ぐ・・・うぅ・・・!」

短いうめき声を漏らしながら、男は絶頂に達した。

腰が跳ね上がり、二度目の射精にも拘らず凄まじい勢いで精液が迸る。

蝿の膣は一滴も漏らすまいと入り口を窄め、ペニスを締め上げて白濁を一滴残らず受け止めていった。

「・・・っ!・・・っ!」

「〜♪」

放たれる白濁液に、蝿は満足げな表情を浮かべていた。

やがて射精の勢いが収まり、膣の蠢動が穏やかなものになっていく。

蝿は男の射精が終わったことを感じ取ると、再び羽を震わせて、穴からペニスを引き抜いた。

自身の放った精液と、蝿の粘液に濡れる半萎えの肉棒が、空気中に晒される。

「・・・ふぅ・・・ふぅ・・・」

激しい刺激からようやく解放されると、男は脱力して息をついた。

しかし、すぐさまこの間断が休息などではないことを彼は悟った。

「♪」

別な蝿が、羽根を震わせながら宙に舞い、彼の腰の上で高度を下げ始めたのだ。

丸く膨れた腹部は、彼のペニスに向けてまっすぐに向けられており、半萎えの肉棒は脚にしがみつく蝿の手によって真上に向けられていた。

蝿の腹部の先端から粘液が滴り落ち、男のペニスを濡らす。

「・・・っ・・・!」

男は声に鳴らない悲鳴を上げると同時に、柔らかな肉棒が蝿の体内に再び沈み込んでいく。

折り重なる襞と、その間々に並んだ柔らかな突起が、彼のペニスを刺激した。

否応なしに血液が彼の肉棒に集められ、屹立していく。

「っ!うぐぅっ!」

必死にもがこうとするが、彼の身体を押さえる細腕は身じろぎすら許さなかった。

そして、ある種の恐怖さえ抱いている彼の肉棒を、蝿は責め立ててた。

突起が襞が、彼のペニスに纏わりつき、撫で、擦っていく。

必死の抵抗も空しく、強烈な快感は彼を翻弄し、あっという間に絶頂に押し上げた。

「っ・・・!」

小さな喘ぎ声と共に、脈打つペニスから精液が放たれた。

襞が蠕動し、突起が震えて彼のペニスから更なる精液を搾り出そうと刺激が加えられる。

彼はただ快感に身悶えしながら、蝿に再び精液を注ぎ込んだ。

「・・・っふぅ・・・ふぅ・・・」

粘着質な音を立てながら、蝿の膣からペニスが引き抜かれる。

彼は必死にふさがれていない鼻で呼吸しながら、僅かな休息を味わった。

「♪」

だが、それも数秒のことだ。新たな蝿が、自身の膣口を広げながら男に跨っていった。

「ぐ・・・ぅ・・・!?」

グネグネと、先ほどの二匹より遥かに柔軟に蠕動する、つるりとした内壁が彼のペニスを包み込んだ。

襞も突起も無いが、その蠢きは彼を着実に射精へと追いたてていく。

そして、あっという間に絶頂に達した。

「・・・!」

男は蝿の柔軟に蠢く肉穴に、たっぷりと精液を注ぎ込んでいった。

蝿は男の射精が終わるのを感じると、すぐにペニスを膣から引き抜き、次の蝿に座を譲った。

「・・・・・・」

男には、もはや抵抗する気も失い、新たな蝿に自身の分身を任せた。

疲弊しきったペニスが、蝿の体内で力を取り戻し屹立していく。

そして、蝿の体内をしばし楽しむと、精液を放った。

「・・・」

蝿たちが入れ替わり立ち代わり、ペニスを体内で責め、精液を搾り取っていく。

もはや男には射精の回数も、相手の胎内の違いも、それどころかなぜここに自分がいるのかさえ分からなくなっていた。

「・・・」

うつろな目で荒い呼吸を繰り返しながら、ペニスへの刺激に震え、精液を放っていく。

蝿達は、最期の一滴まで精液を搾り取るつもりのようだった。















「『現場に到達した時には、既に男性二人と淫魔一体が死亡。残る一人の男性も激しく衰弱しており、救命隊の治療を受けるも死亡。結果、交戦無く目標物の回収に成功』・・・」

バアル・ゼブブの向かいに腰掛けたスペンサーが、淡々と手にした報告書を読み上げていた。

彼は手にした紙束を応接用のテーブルに置くと、短く息をついた。

「なるほどね・・・情報の報酬を巡って殺し合いが起き、淫魔が三人を搾精した。しかし最後の一人が力を振り絞って淫魔の頭を撃ち抜き、結果的には相打ちで全滅・・・と言うことか」

検死結果や、報告書に添えられた現場の写真からの推測を、スペンサーは口にした。

「はい。恐らくその通りだと」

返答を返すが、無論嘘だ。

周囲数キロの生命体を監視できる淫魔がいることは、スペンサーの用意した資料に書かれていた。

その淫魔がいる限り、並の人間や淫魔では近づくことさえままならなかっただろう。

だが、生物を見張っているとは言っても、羽虫一匹にさえ目を光らせているだろうか?

変身した淫魔ならば不自然に大きい魔力で見破られるが、バアル・ゼブブならばただの蝿に身体を分割することが出来る。

そして、分割して創った蝿の一匹を奴らの潜伏先へ送り込み、淫魔の脳に忍び込ませた。

その後は、バアル・ゼブブによる一方的な蹂躙だ。

「ふぅん・・・なら、そうなんだろうね」

スペンサーは数度頷いてみせると、スーツの懐から一枚の小切手を取り出した。

既に額面も署名も記されたものだ。

「じゃあ、お疲れさん。これは今回の報酬だ」

彼は手にした小切手を差し出しながら続けた。

「これからもよろしく頼むよ、ベアトリス・ゼブーブルグ君」

「・・・こちらこそ、よろしくお願いします」

差し出された小切手を、バアル・ゼブブは受け取った。






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