花仙境にて 『山海民口伝』より
一面のユリの花を背に、彼女は立っていた。
彼女の目の前にあるのは門。既に閉ざされてしまった門だ。
閉ざしたのは、彼女自身だった。
これから先、この門を開くことはあるだろうが、その先に『彼』はいない。
理解してしまったのだ、道士の言葉を。
ある町の、大きな商家に一組の男女が招かれていた。
一人は青い道服を纏った女で、顔を横倒しの三日月と二つの黒丸から成る笑顔の面で覆い、青黒い長い髪を垂らしていた。
もう一人は十二、三ほどの利発そうな少年で、名を陽樹といった。
「これはこれは、道士様にお弟子様。ようこそいらっしゃいました」
客間に通された二人に、待ち構えていた商家の主、条が恭しく頭を下げた。
「この度は旅の道中、お忙しい中わざわざご足労頂き・・・」
「挨拶はそのぐらいでよい。本題に入ってもらおう」
用意された椅子に腰掛けながら、青服の道士が先を促した。
「はぁ、それでは・・・」
条の話をまとめると、最近息子の相鉄の様子がおかしいということだった。
十日ほど前からぼんやりとすることが多くなり、この二三日は自分で食事さえ取れないほどだという。
「何か、心当たりは?」
相鉄の部屋に通され、ぼんやりと椅子に腰掛けるだけの青年の様子を確認すると、道士は条に問いかけた。
「さぁ・・・十日前に芝居を見に行ったことぐらいですか・・・」
「そうか、ふん・・・」
道士は部屋の中をぐるりと見回した。
相鉄の趣味なのか、白ユリや松の鉢植えが幾つも部屋の中に並べられている。
それを除けばごく普通の部屋だ。
「陽樹、こういう場合の原因は何だ?」
「はい、多くの場合狐狸や死霊といった化生が原因だと思います」
道士の側に控えていた陽樹が、彼女の問いに答えた。
「うむ、良く覚えていたな・・・それで、お前には何か見えるか?」
「えぇと・・・すみません先生、何も・・・」
「安心しろ、わしも見えん」
「あの・・・息子は元に戻るのでしょうか?」
きょろきょろと左右に顔を振る師弟に、条は不安を覚えた。
「あぁ、安心しなさい。今夜はわしと陽樹で息子さんを見張るからな」
「はぁ、そうですか・・・」
面に描かれた笑顔が自信満々に見えたが、条の心には不安が残っていた。
やがて、夜が訪れた。
打ち合わせ通り道士は条の屋敷の敷地を見回り、陽樹は相鉄の寝室で見張りをすることとなった。
部屋の扉には、外から閂が掛けられている。
陽樹は薄暗い部屋の中、椅子に座って床に就く相鉄を見つめていた。
陽樹には人の吉兆や体調などを、靄という形で見ることが出来た。
だが、今の相鉄からは何も感じられない。
恐らく、彼をたぶらかしている化生は外から来るものなのだろう。
外では師匠の道士が見回っているので、化生は彼女が相手してくれるはずだ。
(でも、ちゃんと見張っていないと・・・)
陽樹は気を引き締めて椅子に腰掛けなおすと、相鉄の寝顔を注視した。
彼の視界の外で、鉢植えの白ユリが小さく揺れた。
『・・・つさ・・・そ・・・さま・・・』
温かなまどろみに身をゆだねていると、いつものように小さなささやきが聞こえてきた。
途切れ途切れの囁きは、彼の名を呼んでいた。
闇の中、彼は寝台から身を起こすと、声の呼ぶまま足を踏み出した。
『相鉄様・・・相鉄様・・・』
目を開く必要は無い。
開いても闇のせいで何も見えないし、そもそも勝手知ったる彼の部屋だ。
それに加え、彼は声の主を信頼していたからだ。
『相鉄様・・・相鉄様・・・』
一歩、二歩と足を進めるにつれ、甘い香りがふわりと彼の鼻をくすぐった。
そして次の瞬間、彼の瞼を透かして、強い光が彼の眼を射った。
両目を開くと、彼の目の前に立派な門が門扉を開いているのが彼の視界に入った。
辺りは柔らかな陽光に包まれ、門の向こうには色とりどりの花が咲き乱れる庭園があった。
そして、花の咲く庭園を背にする人影があった。
「あぁ、白仙・・・」
門の向こうで微笑む、白いゆったりとした着物に身を包んだ美女の名を、彼は呼んだ。
「お待ちしておりました、相鉄様」
門より足を踏み入れた相鉄の胸に飛び込むと、美女―白仙は甘い声で囁いた。
「夜になるのが待ち遠しかったよ・・・!」
「私もです、相鉄様・・・」
言葉を交わすと、どちらからとも無く二人は顔を寄せ、唇を重ねた。
互いに互いの唇を舐め、啜り、貪った。
着物に焚き染めた香の香りか、彼女の香りかは分からないが、甘い香りがふわりと彼を包み込んでいった。
「ん・・・んむ・・・」
「んん・・・ん・・・」
しばしの間接吻を楽しむと、二人は名残惜しげに唇を離した。
「ふふ、相鉄様・・・焦りは禁物ですよ・・・?」
着物の下で屹立する相鉄の分身を軽く擦りながら、白仙は眼を細めた。
がくん、と衝撃が陽樹を襲った。
高いところから落ちる錯覚を受けて眼を開くと、陽樹は始めて自分がうたた寝していたことに気がついた。
「あ、危ない危ない・・・」
完全に眠っていたことを誤魔化すように、陽樹は独り言を言った。
「見張りなのに寝てたら、先生に怒られ・・・」
陽樹の言葉が不意に途切れた。
彼の視線は、空っぽの相鉄の寝台に釘付けになっていた。
「しまった・・・!」
彼は椅子から立ち上がると、部屋の扉に飛びつき目一杯押してみた。
だが、閂が掛かっているせいで、扉はびくともしなかった。
「外じゃない・・・?」
陽樹は振り返ると、目に力を込め、寝台を注視した。
寝台の上に小さくなった靄がわだかまっているのが見えた。
陽樹が見ている靄は、人の居た跡を示すものだった。
長い間一箇所に止まれば靄は大きくなり、通り過ぎた程度ならば靄は小さくなる。
靄は寝台から溢れだすと部屋を横切り、窓際の鉢植えの傍まで一直線に続いていた。
そして、鉢植えの台の側で靄は途切れていた。
「・・・・・・えーと・・・」
陽樹は首を捻った。
靄の示すところによると、相鉄は寝台から起きると、まっすぐ鉢植えの方へ向かい、その場で消えてしまった。
しかも、相鉄以外の者の動きは見えない。
陽樹は師匠の道士と共に、幾多の化生を見てきたが、痕跡を残さず人を攫う化生など見たことが無かった。
「見間違い、かな?」
陽樹は己の目を疑いながら、目に力を込めて鉢植えの側へ歩み寄って行った。
不意に、彼の鼻を甘い香りがくすぐる。
瞬間、目の前が真っ白になった。
「え?」
気がつくと、陽樹は奥に花が咲き乱れる門の前に立っていた。
開け放たれた門扉を見上げると、掲げられた表札が目に入る。
そこには黒々とした字で、『十升園』と記されていた。
『ここは花仙境です』
と相鉄に、白仙は二人が初めて会った日に言った。
彼女が言うには、彼の部屋に置いてあるユリの鉢植えを通じ、この庭園と彼の部屋を行き来できるようにしたらしい。
「ん・・・んちゅ・・・んぅ・・・」
鼻から漏れると息を頬に感じながら、唇を吸い、唾液を啜る。
場所を庭園の中に置かれた長椅子に移し、相鉄は再び白仙と唇を重ねていた。
互いに手を背に回し、抱き寄せ合い、身体を密着させながらの激しい接吻だ。
「んむ・・・ん・・・」
白仙の滑らかな掌が、相鉄の着物の袂に差し入れられた。
すべすべとした掌が、彼の胸板をやさしく擦っている。
「ん・・・ちゅ・・・」
相鉄は彼女に応えるように、胸元に掌を差し入れると乳房を優しくつかんだ。
掌に収まる程度のそれを、やわやわと揉んでやる。
すると、肩に回した腕の中で、白仙の身体が小さく震えた。
「ぷちゅ・・・ん・・・」
お返し、とばかりに白仙の掌が動き、彼の腹筋から胸板までを撫で上げた。
ぞくぞくと震えるような快感が、彼の背骨を伝い上がった。
「んん・・・!」
ぶるりと身体を震わせると、相鉄は乳房から手を離し、愛撫を返した。
決め細やかな肌と肉を隔てた微かなあばらの感触を味わいながら、脇腹へと優しく撫で擦った。
稚拙な愛撫であったが、白仙の身体は悦びに震えた。
上手になりましたね。
白仙の唇が、言葉を放つように動く。
相鉄は彼女の言葉を読み取ると、唇の動きで返した。
白仙のおかげだよ。
彼の応えに、彼女は唇を笑みの形にした。
いつの間にか二人の着物は肌蹴、両の手で愛撫を交わしていた。
相鉄の掌が乳房を揉み、太ももを擦る。
白仙の手が背中を撫で、下腹部を弄る。
やがて相鉄の指先が、彼女の柔らかな繁みの奥に触れた。
そこは既に湿り気と熱を帯びており、彼の指先に興奮を伝えた。
同時に、白仙の指もまた相鉄の分身に触れていた。
すべすべとした掌が、熱く脈打つ肉棒をそっと包み込んだ。
「ちゅ・・・ちゅぶ・・・ん・・・ちゅ・・・」
互いの興奮を高めるべく、二人は手を動かした。
指先の湿り気を塗り広げ、柔らかな彼女の形をなぞる。
強すぎず弱すぎず気をつけながら、軽く表面を擦る程度に手を上下させる。
互いの刺激に、二人は奥から愛液を溢れさせ、先端から先走りを漏らした。
相鉄は溢れた愛液を指先にとると、繁みと亀裂の境にある小さな突起を軽く擦った。
白仙はもれ出した先走りを掌で受けると、肉棒全体に塗り広げるように撫で回した。
「ん・・・!」
口付けと愛撫により高まっていた相鉄の興奮が、屹立への強い刺激に弾けた。
びくん、と腰が跳ね上がり、渦巻く興奮が彼を絶頂に押し上げた。
「んん・・・!ん・・・んむ・・・」
掌を丸め、亀頭にかぶせるようにして、白仙は迸る精液を受け止めた。
やがて射精の勢いが収まっていき、止まった。
「ん・・・ぷはっ、はぁはぁはぁ・・・すまない、白仙・・・」
唇を離すと、相鉄は荒く息をつきながら、先に達してしまったことを謝った。
彼女はそっと精を受け止めた手を着物から抜き取ると、優しく微笑んだ。
「構いませんよ、相鉄様・・・それより・・・」
掌についた相鉄の精を一舐めし、彼女は続けた。
「奥で続きをなさいませんか・・・?」
しばしの逡巡を経て、陽樹は『十升園』に足を踏み入れた。
彼を迎えたのは、無数のユリの花だった。
赤、黄、白、と色とりどりのユリが、見渡す限り一帯に咲き誇っていた。
ふと、彼は咲き乱れるユリの向こうに、一軒の家があるのに気が付いた。
あたり一面のユリの花畑と相まって、家はとても小さく見えた。
(あそこに誰かいるかも・・・)
そう考え、陽樹が足を踏み出そうとしたその時。
「ねえ、あんた誰?」
彼の背後から声が掛かった。
陽樹の背後に立っていたのは、髪を団子状にまとめた少女だった。
こざっぱりとした動きやすい着物に身を包み、袖を捲り上げている。
「え?えぇと・・・」
彼女は返答に窮する陽樹を、爪先から頭頂まで数度見ると、口を開いた。
「もしかして、白仙様に招かれたの?」
「え、あ、うん・・・」
白仙様、というのが誰のことか分からなかったが、陽樹は肯定を返しておいた。
「おかしいわね・・・白仙様は今、男の人と一緒に寝室へ行かれたところだし・・・」
少女は口元を覆い、眉根を寄せてしばし黙考した。
陽樹の背中に冷や汗が浮かんでくる。
「・・・・・・あぁ、そうか」
不意に、少女はぽんと手を打った。
「あんた、名前は?」
「あ、陽樹・・・」
「アタシは陽花」
少女はそう名乗ると、陽樹の側に一歩近づいた。
「ねぇあなた、立ち話もアレだからどこかで座らない?」
「あ、はい・・・」
にぃ、と笑みを浮かべる少女の言葉に、彼はろくに考えず応えた。
「お家は白仙様がいらっしゃるから・・・こっちね」
陽花は陽樹の手をとると、ユリの花が咲く庭園へと導いていった。
白仙の住処に案内され、寝室に通されると二人は着物を脱ぐのももどかしいといった様子で、寝台に倒れこんだ。
唇を重ね、愛撫を交わしながら、互いの帯を解き着物を脱がせていく。
やがて二人は一糸纏わぬ姿となると、身体を重ね合わせた。
「さぁ、相鉄様・・・」
白仙の囁きに、彼は己の逸物を彼女の秘所にあてがうと、腰をゆっくり突き出した。
控えめな彼女の繁みの奥の女陰は十分に濡れており、彼の分身を柔らかく受け入れる。
「どうぞ、ご自由に・・・」
覆いかぶさった相鉄の耳元で、白仙は囁いた。
彼女の言葉に突き動かされるように、相鉄は腰を引いた。
情欲の証にぬめる彼女の膣が、引き抜かれていく肉棒に絡みつき、留めておこうとするかのように締め付ける。
柔肉に刻まれた襞が、愛液に滑りながら肉棒の表面を擦っていった。
「ぐ・・・うぐ・・・!」
己の分身より伝わる甘い快感に、相鉄は歯を食いしばり息を漏らしながら耐えた。
彼女と初めて会ったばかりのころは、女陰に触れられるだけで達してしまい、交わりどころではなかった。
それが白仙の教授もあって、彼女を楽しませる程度までになったのだ。
彼女の教授に応えるためにも、少しでも耐えなければ。
「く・・・!」
気を抜けば達しそうになるのを堪えながら、彼は腰を突き出した。
一度肉棒を受け入れた膣が、再び押し入ってきた逸物に歓喜を示すようにして絡み付いてきた。
それはさながら、みっしりと肉の詰まった容器に挿入しているかのような感触であった。
「あぐっ・・・!」
膣壁を抉りながら、分身を深く深く沈めていく。
屹立に纏わり付く柔肉は、肉棒の所有権を主張するかのごとく、滲み出す愛液を擦り付け、絡みついた。
「んっ・・・」
張り出した亀頭のエラが敏感なところを擦ったのか、白仙は声を漏らす。
同時に、膣全体がきゅっ、と窄まった。
「・・・っ!?」
突然増した締め付けに、彼の肉棒から稲妻の如く快感が迸った。
そして腰に力を込める間もなく、彼は絶頂に押し上げられた。
膣の一番深くまで沈められた肉棒が脈打ち、精を放つ。
迸る精を逃すまいとするかのように、肉壷は彼の逸物を締め上げた。
「あ・・・あうっ・・・!」
「あぁ・・・熱い・・・」
身を震わせながら射精する相鉄の背に手を回しながら、白仙は小さく囁いた。
やがて彼の全身から力が抜け、膣の締め付けに負けて半萎えの肉棒が秘裂から吐き出された。
「・・・っはぁ、はぁ、はぁ・・・」
相鉄は、崩れ落ちそうになる身体をとっさに操り、彼女の横に倒れこんだ。
彼女に応えるためだ、とか言ってほんの一突きで達してしまった、彼自身が情けなかった。
だが、慙愧の念を上回る快感と興奮が、彼の身体を満たしていた。
「相鉄様・・・次は、私が上になります・・・」
仰向けで荒い息をつく相鉄に、白仙は言った。
「ちょっと・・・待って・・・」
絶え絶えに、彼は応えた。
外で一度、ここでもう一度。
立て続けの二度の絶頂で、若いとはいえ相鉄の身体は休憩を欲していた。
「・・・そうですか・・・ならば、いつものように・・・」
白仙はそう言うと、寝台から身を起こし、立ち上がった。
そして寝台から離れていくと、窓際の鉢に活けられたユリの花を一本抜き、戻ってきた。
「それでは、よろしいですね?」
白仙の問いに、相鉄は小さく頷いた。
彼女は目を細め、唇を軽く舐めると、ユリの花を彼の股間に近づけた。
そして、折り重なる花弁の中に、萎えた彼の陰茎を挿し入れた。
乾いた、つるつるとした感触の花弁が、彼の肉棒を包み込む。
「参ります」
彼女の短い言葉と同時に、花弁の感触に変化が起こった。
汗を掻くかのように、花びらが粘液を滲ませ始めたのだ。
花弁の変化はそれだけに止まらない。
粘液によりぬめりを帯びた花弁が、動き始めた。
「うぐ・・・ぁ・・・!」
ユリの花弁の、粘液を肉棒へ擦り付けるような動きに、相鉄は声を漏らした。
ぬちゅり、ぬちゅり、と花弁が蠢動するたびに、強烈な快感が彼の脳に注ぎ込まれていく。
「・・・もう、十分ですね・・・」
白仙が、ユリの花弁の中で彼の分身がいきり立ったことを確認すると、そう言った。
相鉄は背筋を反らして身悶えするばかりで、彼女の言葉には応えなかった。
だが、白仙には彼がなんと応えるか分かっていた。
彼女は薄く笑みを浮かべたまま、手の中のユリの花を引いた。
「ひぃっ・・・!?」
ずじゅり、と粘着質な音を立てながら、ユリの花弁の中から屹立が姿を現した。
肉棒はユリの蜜にまみれ、彼の興奮を表すかのように小さく揺れていた。
白仙はユリの花を傍らに置くと、寝台の上で膝立ちになった。
そのまま彼女が相鉄の腰をまたぐと、彼女の秘所から愛液と精液の混ざった粘液が、太ももを伝って垂れてくる様が見えた。
「相鉄様・・・」
「白・・・仙・・・」
互いに名を呼び交わすと、二人は手を伸ばし指を絡めた。
そして、白仙が腰を下ろし始めた。
薄く口を開いた膣口に、膨れ上がった亀頭が触れ、飲み込まれていく。
「あ・・・あぁ・・・!」
敏感な肉棒の表面を包み込んでいく、彼女の膣の感触に彼は声を漏らした。
体勢を変えたせいか、彼女の膣内の感触はだいぶ変わっていた。
柔らかさな細かい繊毛が、膣の内面にびっしりと生え、かすかに蠢いて彼の屹立を刺激しているのだ。
それに加え、膣全体も肉棒を扱くかのように、ゆっくりと蠕動していた。
「うが・・・ぁ・・・!」
「あぁ、相鉄様・・・!」
白仙は上体を倒し、彼に覆いかぶさるようにしながら彼の唇に吸い付いた。
柔らかな彼女の唇が、彼の口内から唾液と呻き声を啜り上げる。
同時に、彼女の女陰もまた彼の肉棒を吸うように締め付けた。
「んぐっ・・・!」
繊毛が亀頭やカリ首、裏筋をくすぐり、強烈な刺激をもたらす。
背骨を駆け上ってくる快感と眼前の白仙の美貌が、相鉄の意識を再び押し上げた。
「っ・・・!」
相鉄の全身が強張り、細かい痙攣と共に彼の肉棒から精液が迸った。
一滴も漏らすまいと、膣が彼の逸物を締め上げる。
そして繊毛がその表面をくすぐり更なる快感を与え、精液を搾り出そうとする。
「・・・っ!・・・っ!!」
強烈な快感に、彼は身悶えと共に叫びをあげようとした。
だが、白仙が唇をふさいでいるせいで、叫びは外へは漏れなかった。
白仙が唇を貪る。
唾液を啜り、悲鳴を飲み込み、唇の感触を刻み込ませる。
白仙が屹立を貪る。
精液を啜り、肉棒を締め上げ、繊毛と襞の感触を刻み込ませる。
「っ・・・!っ・・・!」
絶頂の間に快感と興奮が注ぎ込まれ、強引に絶頂が引き伸ばされる。
搾り出される精液は、もはや快感ではなく苦痛でしかなかない。
だが、彼にはもはや止める事が出来なかった。
「・・・!・・・・・・!」
彼の手足から力が抜け、痙攣が徐々に治まっていく。
やがて相鉄の視界が、暗くなっていった。
ユリの花が咲く庭園の中、地面がむき出しになった広場に置かれた長椅子に、陽樹と陽花は並んで座っていた。
「それでね、白仙様ったら葉奪破さまの呼び出しが掛かると急に真っ青になるのよ」
「へぇ・・・」
生返事を返す陽樹であったが、彼女は楽しそうに言葉を連ねている。
「いつもは『あの丸太、いつか切り倒す』って言ってるくせによ?白仙様が花仙に成れたのがホント不思議よね」
「ふぅん・・・」
何を言っているのかは良く分かっていないが、彼は陽花の愚痴に付き合っていた。
しかしその一方で、彼はこの場から逃げ出す隙を探していた。
「それでね・・・って、あんた聞いてる?」
「え!?あ、うん・・・」
陽花は一瞬の隙を目ざとく見つけ、陽樹を問いただした。
「全く・・・せっかく白仙様が連れてきた相手なんだから、しっかりしてよね」
「ごめん・・・」
「・・・まあいいわ・・・それより・・・」
長椅子の上に置いていた陽樹の手の上に、不意に陽花が掌を重ねた。
彼女の突然の行為に、陽樹はどきりとした。
「何のために、白仙様があんたを連れてきたか分かる・・・?」
陽花が尻をずらし、陽樹に身を寄せながら問いかけた。
「さ、さぁ・・・」
艶めく彼女の唇の動きに、陽樹の目は釘付けになり、考えることが出来なくなっていた。
彼女のかすかに甘い香りが彼の鼻をくすぐり、彼の身体にしなだれかかってくる。
「それはね・・・」
「条の息子を見つけるためだ」
二人の背後から、陽樹には聞き覚えのある澄んだ女声が届いた。
弾かれるように二人が振り返ると、長椅子のすぐ後ろに人影が一つあった。
青い道服に、長く波打った青黒い髪。
道服の胸元を押し上げる豊かな乳房に、白磁の如きそろい肌に包まれた手。
そして、その顔を覆うのは二つの黒丸と横倒しの三日月から成る笑顔が描かれた、光沢のある面だった。
「全く・・・ユリの花を通じて、この庭園と行き来が出来るようにするとはな・・・」
「せ、先生・・・!」
突如現れた師匠に、陽樹は裏返った声を上げていた。
「陽樹、何かあったらわしを呼ぶよう言っていたはずだが?」
平坦な調子の声であったが、道士の静かな怒りに陽樹は首をすくめた。
「まぁいい、お説教は後だ・・・それよりそこの小娘」
「はひぃっ!?」
不意に向けられた仮面の笑みに、陽花が縮み上がりながら声を上げた。
「貴様の主人の居場所を教えろ」
主君である白仙を守らねば、という思いが彼女の脳裏を掠める。
だが、ぶるぶる震える彼女の指は、ユリの花の向こうに建つ家屋を指し示していた。
「あ、あっちです・・・」
目の前の、二つの黒丸と横倒しの三日月から成る笑顔に、陽花は震え声で応えていた。
「そうか・・・ふん」
陽花の指した先を一瞥すると、彼女は鼻を鳴らした。
高く鼾を掻く相鉄の隣に、白仙は横たわっていた。
「・・・・・・」
逞しいとは言いがたいが、それでもがっちりとした男の身体を、彼女は無言で撫でていた。
胸板に這わせていた指が、鎖骨、首筋へと上っていき、顎に至る。
彼女は顎に添えた指に力を込めると、自身の方へ相鉄の顔を傾けた。
そして、彼の薄く開いた唇に、白仙は自身のそれを近づけていった。
と、そのとき、不意に寝室の壁が崩れた。
壁にあいた大きな、陽光が室内に差し込んだ。
「・・・・・・何っ!?」
白仙が顔を向けると、壁の穴に人影が立っているのが目に入った。
青い道服に身を包み、笑顔の奇妙な面をつけた女だ。
「・・・何者ですか」
侵入者に向けて、寝台から降りながら白仙は鋭く問いを放った。
「条の使者だ。そこにいる、相鉄について話しに来た」
青服の道士の返答を聞きながら、白仙は脱いだ着物に手を向けた。
すると着物はふわり、と舞い上がり、彼女の腕に袖を通していった。
「・・・断る、と言ったら・・・どうなさいますか?」
「ふん、そう喧嘩腰になるな」
寝台に立てかけてあった杖を握り、構える白仙に向けて、道士は軽く手を振って見せた。
「わしは単に話をしに来ただけだ。取り返すだとか、貴様を成敗するなどとは言っておらん」
「・・・・・・」
道士の言葉に、彼女は軽快の表情を崩さなかった。
「そこにいる相鉄は貴様に心を奪われ、ろくな立ち振る舞いも出来ぬほどの腑抜けにされておった。
貴様が手を引いて相鉄を元に戻すのならば、このまま相鉄と共に帰ろう。
ただ、それだけだ」
「・・・・・・せっかくのご提案ですが、お断りします」
道士の言葉に、白仙はそう応じた。
「ほう?なぜだ」
「相鉄様と私は、愛し合っております」
片手で杖を構えたまま、白仙はもう片方の手をそっと胸に当てた。
「確かに、私はユリの化生たる花仙です。が、あの方への想いは本物です。ですから、相鉄様から手を引くわけには参りません」
「それでも連れて帰る、と言ったら?」
道士の問いに、白仙は胸に当てていた手を杖へ移した。
「・・・門を閉ざし、この十升園で相鉄様と共に暮らします」
そしてしばしの間をおくと、付け加えた。
「永劫に」
「・・・・・・なるほど、なるほど・・・良く分かった・・・」
道士が、笑みの描かれた面を上下に軽く揺らしながら呟く。
「貴様がどれだけその男を好いておるか、良く分かった」
納得したような頷きを止めると、道士は続けた。
「だが、相鉄は連れ帰らせてもらう」
「・・・・・・っ・・・!」
道士の放った言葉に、白仙は短い囁きで応じた。
直後、彼女の構えた杖の頭から、小さな若葉が芽吹く。
芽生えた若葉は瞬間的に広がり、枝を伸ばし、新たなる芽をつけながら、爆発的な勢いで成長していった。
広がる枝が道士を包み込み、取り囲み、青い道服を緑の奥に隠していった。
「このまま、庭園の土の中に埋めさせてもらいます」
ぎちぎち、と音を立てながら癒着していく枝の塊にむけ、白仙は言った。
「私達の愛を阻んだ、あなたが悪いのですよ・・・」
『私達の、愛だと?』
くぐもった声が枝の塊の中から響いた。
圧死したはずの道士の声に、白仙は戦慄を覚えた。
瞬間、道士を包む枝葉が爆ぜた。
破片の多くが、飛び散るよりも先に燃え尽きていく。
「これまでのように会えなくなる、というだけで相手を閉じ込めて、愛だと?ふん、笑わせる」
飛び散った枝の欠片が、灰も残さず燃えている中、道士は先ほどと変わらぬ様子で立っていた。
「人は脆い。化生に匹敵する年月を生きるだけで、人の魂は削れ心は疲弊し、狂う」
軽く、道服をはたく。
「それどころか、いかに広い場所であっても、永遠に閉じ込められているという事実だけで容易に狂気に至る」
と、彼女は足をゆっくり踏み出した。
「魂が削れ心が砕け、狂ってしまった相手を世話するのも貴様の愛なのかもしれん。だが、狂わせるような目にあわせるのは、愛なのか?」
一歩、一歩と距離を詰めてくる道士に、白仙は中途半端に枝が伸びた杖を握ったまま、身動き一つ取れなかった。
「それに貴様が相鉄を愛しているのなら、これから先人間に化けてでも、一輪のユリに身を落としてでも会うことは出来たはずだ。だというのに、思いつきもしなかったな」
手を伸ばせば届く距離に至ると、道士は足を止めた。
「それでは一つ聞こう」
彼女の目前に、二つの黒丸と横倒しの三日月からなる笑顔が浮かんでいた。
「貴様は、相鉄を愛しているのか?」
一面のユリの花を背に、彼女は立っていた。
彼女の目の前にあるのは門。既に閉ざされてしまった門だ。
閉ざしたのは、彼女自身だった。
これから先、この門を開くことはあるだろうが、その先に『彼』はいない。
理解してしまったのだ、道士の言葉を。
「・・・・・・」
手を掲げ、指を広げると彼女は門扉に触れた。
本当に彼を愛しているのならば、すぐさま門を開き、人として彼の側に行くことが出来るはずだった。
だが、手は門扉の感触を伝えるばかりで、門扉はびくとも動かなかった。
当たり前だ。
人ごときに身をやつしてまで、追う気が無いからだ。
「・・・・・・」
知らぬうちに両の目から溢れた涙が、頬を濡らしていた。
彼女は掌を門扉から離すと、涙をそっと拭う。
そして閉ざされた門扉と、その向こうに消えていった男に向けて口を開いた。
愛しい人に別れを告げるために。
愛しい人への想いを断ち切るために。
「さようなら・・・私の・・・・・・好きな人・・・・・・」
人を愛することが出来なかった彼女の囁きは、門に打ち砕かれ、虚空に消えていった。
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