亡きアリシア
彼女の眼下にあるのは、いくつかの人影と作業台。
人影は薄汚れた作業着に身を包んだ男達のもので、作業台の上にあるのは瞼を閉ざし、腹腔を開かれた幾人もの男女だった。
だが、横たわる男女の腹の中に納まっているのは細かな機械部品やケーブルばかりで、血や肉は一滴たりとも存在していない。
それもそのはず、ここは『人形工房』の作業室の一つで、眼下の台に横たわっているのは修理中の人形だったからだ。
人形は、単純な会話や繰り返し作業を得意とする、人型の単純作業用機械である。
『大図書館』や『銅の歯車』、旧『バビロン帝国』といった組織で使用されている人形の全てがここで作り出され、修理され、部品へと分解されていく。
そして彼女の名は、アリシア・エーフェルディ。
ここ『人形工房』の団長、ゼペット・オルフェンの妻にして作品たる、淫魔人形だ。
作業台に横たわり、腹腔を晒す人形の体内に手を突っ込み、部品を抜き取る。
今までの間に取り外した部品に比べ、彼の手にあるその部品はいささか黒く焦げているように見えた。
「こいつか・・・」
部品の型番を調べ、傍らに並べてあったスペアの部品から同じものを選び出す。
そして、それをしかるべき箇所に装着した。
「よし・・・と」
人形に接続された機器の値が範囲内に収まったのを確認すると、彼は息をついた。
これで部品を組みなおせば彼の担当は終了。
調整といった細かい仕事は、次の係の仕事だ。
時間的にもこの人形を組みなおしたところで、本日の業務は終了といったところだろう。
時計を確認しようと顔を上げた瞬間、隣の作業台で人形の統制をしている同僚と視線が合った。
「・・・・・・」
無言で小さく天井のほうをさす同僚に従い、視線を上げる。
すると、この作業室の天井付近に渡された通路の真ん中に、青いドレスに身を包んだ女が立っていた。
腰ほどまでの金髪に、白く透き通った肌の整った顔立ちをした女だ。
この『人形工房』に勤めるものなら誰でも知っている、アリシア人形である。
彼は視線を同僚へ戻すと、ゆっくりと一つ頷いて見せた。
そして、修理中の人形へ意識を戻す。
今日は彼らの、お楽しみの日だ。
「はあ、今日もよく働いたな」
「ああ」
作業員二人が、通路を歩きながら言葉を交わす。
「全く、朝から晩まで働きづめで、休みはろくになし」
「団長殿は何を考えているんだか・・・」
愚痴を言い合いながら、二人は通路の奥へ、人気の無いところへ進んでいく。
「ホント、このお楽しみが無かったら、俺辞めてるよ」
「俺もだ」
やがて二人の足が、一つの扉の前で止まった。
扉には『相談室』と記されたプレートが貼り付けてある。
彼らは手垢に薄汚れたドアノブに手をかけると、扉を開いた。
その向こうには、ちょっとした教室ほどはあろうかという広さの部屋があった。
天井には数本の蛍光灯が並び、ばらばらなペースで明滅しながら染みの付いたコンクリートの床を照らしている。
「・・・待っていました」
部屋の中、一脚だけ置かれた椅子に腰掛けていた女が、二人に向けて声をかけた。
青いドレスに、長い金髪。アリシア人形だ。
室内に足を踏み入れながら、後ろ手に扉を閉める。
「今日は、俺達だけか?」
「はい、そのようですね」
アリシア人形は椅子から立ち上がりながら、二人を迎え入れた。
「それで・・・本日はどのようなお悩みを?」
「言わなくても分かってるだろう?」
男の二人がにやにやと下卑た笑みを浮かべ、片方が彼女の問いに応えた。
「・・・分かりました」
彼女は二人の側まで歩み寄ると、薄汚れた床に膝をついて屈みこんだ。
両手を伸ばし、二人の作業着のズボンのチャックを下ろした。
金具と布の奥から、磯の香りにも似た生臭い香りが溢れだす。
彼女は迷うことなく、口を開いたチャックの奥に手を差し込み、下着の隙間から半ば勃起したペニスが引き出された。
「では、お二人の不満を解消します・・・」
彼女は言葉と共に、両手で左右一本ずつペニスを握ると、ぐにぐにと彼女は揉み始めた。
関節に継ぎ目がある、硬質な印象を受ける掌ではあるが、その感触は人の肌に匹敵するほど柔らく、吸い付くような感触を二人に与えた。
幹を揉み、亀頭をするような彼女の手の動きに、二人のペニスが剛直へと変化していく。
そしていつしか、二人の鼻息も屈んでいるアリシア人形の耳に届くほど荒いものになっていた。
「おい・・・口でしてくれ・・・」
我慢できない、といった様子で左側の男が彼女に命ずる。
「はい・・・」
アリシア人形は静かに答えると、右手でペニスを弄りながら、左手のペニスに顔を寄せた。
形のよい唇が開かれ、赤黒く膨張し、先端から先走りを滴らせる亀頭が口内へと入り込んでいった。
「うぉ、おお・・・!」
亀頭を包み込んだ、アリシア人形の口内粘膜の感触に、彼は声を漏らしていた。
発音を円滑にし、口内の有機素材部品を保護するための分泌液が、舌によってペニスに塗り付けられる。
舌先は幹に浮かんだ血管やカリ首の段差、鈴口から裏筋へ連なる筋を的確になぞっていた。
自分の手や、オナホールなどでは決して味わえないような絶技に、彼は一瞬で追い上げられた。
「おお・・・おぉ・・・うっ・・・!」
アリシア人形の頭を両腕で抱きかかえ、喉の奥へとペニスを深く突き込む。
瞬間、ペニスが一回り大きく膨張し、その先端から熱された白濁が噴出した。
粘つく精液が、彼女の喉奥を汚していく。
「ああっ・・・ああ・・・はぁ・・・」
「なんだ、もうイったのか?この早漏が」
アリシア人形の規則的なストロークをペニスに受け、先端から先走りを溢れ出させながら、右側に立つ男があきれたように口を開く。
左側の男は、彼女の口からペニスを抜き取りながら応えた。
「いや・・・これホントすごいって・・・」
「ああ、じゃあ後で入れさせてもらうよ・・・おい」
「はい」
ようやく解放された口で、右側の男に彼女は応えた。
「今度は俺のを下に入れさせろ・・・お前は?」
「いや、俺はちょっと休憩」
「そうか・・・じゃあ、仰向けに横になれ」
「はい、分かりました」
彼女はペニスから手を離すと、男の命ずるまま何のためらいも無く、染みの浮かんだコンクリートの床に横になった。
そして膝を曲げ、両足の裏を床につけ、股を開く。
「よしよし・・・」
彼はアリシア人形の足の間に膝を突くと、股間を覆うドレスのスカートを捲り上げた。
青い手触りのよい生地の下から、シルクの下着が覗く。
それを脱がすのももどかしい、といった様子で、男は下着を剥ぎ取った。
両足と腰を繋ぐ関節の継ぎ目の間に、薄く口を開き桃色の粘膜を覗かせる器官が付いていた。
男が指を挿しこみ左右に開くと、透明な粘液がとろりと溢れ出した。
「うわ・・・エロ・・・」
「・・・・・・」
己の秘所が男達の視線に晒される感覚に、彼女は何の感慨も覚えていなかった。
膝でにじり寄り、彼女の腰を抱え上げると、男は亀頭を女陰の入り口に添えた。
「よし・・・入れるぞ・・・!」
腰を突き出すにつれ、亀頭に彼女の器官の温もりとぬめりが絡み付いていく。
「お・・・おぉ・・・」
驚くほどの柔らかさとぬるつきに、思わず声を漏らすほどの心地よさがペニスに与えられるが、射精には至らない。
それどころか彼は物足りなさを覚え、更に奥へ奥へとペニスを突き入れていった。
やがて彼の腰と彼女の腰が密着し、亀頭にこりこりとした弾力のある何かが触れた。
「く・・・!」
子宮口が亀頭に触れた感触に精液を漏らしそうになるが、彼は歯を食いしばって耐えた。
しばしの間その姿勢を維持し、射精間がおさまるのを待つ。
「・・・よし・・・」
男はそう漏らすと、ゆっくりと腰を前後に降り始めた。
膨れ上がった亀頭が、絡みつく膣壁の襞を押し開き、女性器の内側を抉っていく。
幹からカリ首、亀頭へと潤滑液にぬめる襞が纏わりつき、膣内から引き抜かれていくペニスを止めるかのように絡み付いてくる。
「う・・・ぐ・・・!」
襞の一筋一筋がもたらす快感に、彼の食いしばった歯がぎりりと音を立てた。
うっかり気を抜けば射精してしまいそうな快感を、彼は必死で堪えていた。
だが、懸命にゆっくりと腰を前後させる男を見つめるアリシア人形の目は、どこまでも無感動なものだった。
強いてそこに浮かんでいる感情を読み取るとすれば、早く終わらないだろうか、といったものだった。
「く・・・う・・・ぐ・・・!」
もたらされる快感と、彼自身の限界のために彼の背筋や膝ががくがくと震えだす。
「く・・・ぐ・・・うぅっ・・・!」
そして腰を一際深く突き出し、短く苦鳴を漏らすと、彼は絶頂に至った。
限界まで膨張し、脈打っていたペニスから精液が迸る。
「うぉ・・・おぉ・・・!」
短い喘ぎ声と共に、彼女の膣奥がどろどろの粘液に満たされていく。
射精の勢いと量は、彼の快感とぎりぎりまでの我慢によるものか、膣口から僅かに愛液が溢れだすほどであった。
やがて、彼の興奮が収まり、射精が終わる。
「・・・っがはっ・・・はぁ、はぁ・・・」
「へえ、意外と頑張ったな」
どっかりと床に腰を下ろし、荒く呼吸する男に向けて、休憩していた男が声をかけた。
「はぁ、ああ・・・どうだ・・・使うか・・・?」
体を離したせいで男のペニスはアリシア人形の膣から引き抜かれ、ぽっかりと口を開いたそこからは愛液と精液の混じったものが垂れ流されていた。
「・・・いんや、止めとく」
「そうか」
「今度は・・・俺は胸でしてもらうか・・・」
男は彼女の腹をまたいで腰を下ろすと、ドレスの胸元に手を掛け、引いた。
青い布地の縁から、二つの柔らかな球体がまろび出る。
「ほら、胸で挟んで気持ちよくしろ・・・」
「はい」
アリシア人形は男の求めに応じて、怒張したペニスを自身の胸ではさみ、両手で乳房を圧迫した。
掌と同じ、吸い付くような感触の表面素材に包まれた乳房が、掌以上の柔らかさでもってペニスを包み込んだ。
そして、彼女は両手でもって乳房を強くもみ始めた。
「うぉ・・・すげ・・・」
このままペニスが取り込まれるかもしれない、という錯覚を覚えるほどの乳房の柔軟さに、彼は短く声を漏らした。
彼女の両手の動きにあわせ、乳房は自由自在に形を変える。
その動きはペニスにまで伝わり、刺激が快感を生んでいた。
「おぉ・・・ぉ・・・」
不意に、彼を包み込む乳房の感触に変化が生じた。
連続する乳房への摩擦に、表面素材保護のための潤滑液が分泌され始めたのだ。
胸の谷間が汗ばんだようにしっとりとし、ペニスの滑りをよいものにしていく。
「うぉ・・・おぉ・・・おぉ・・・!」
「・・・・・・」
座って休憩していた男が、うらやましげに相棒の背中を見ている。
汗ばみ蛍光灯の光を照り返す相棒の背中、漏れる声、ぬちゅぬちゅという粘液音。
それら全てが彼の疲労を消し去り、性欲を掻き立てていた。
「よし・・・俺ももう一回・・・」
呼吸を落ち着けた彼は、再び彼女の元ににじり寄ると、屹立したペニスを膣へとねじ込んだ。
ついさっき放ったばかりの生温かい自身の精液と、アリシア人形の分泌した潤滑液が、膣壁と共にペニスへと絡み付いていく。
「うわ・・・おぅ・・・」
一度射精し、休憩を挟んで興奮を冷ましたというのに、二度目の挿入は彼に大きな快感をもたらした。
「く・・・う・・・」
小さく喘ぎ声を漏らしながらも、ゆっくりと腰を前後に振る。
腹の上に相棒がまたがり、胸をアリシア人形が揉みしだいているせいか、膣壁が小さく動いていた。
だが、彼にとってはその動きは非常に大きなものに感じられた。
深く深くペニスを挿し入れれば、ペニスを錐揉むように襞が蠢く。
ペニスを抜き去るときは、膣壁越しに優しく掴まれているかのように締め付ける。
「お・・・お・・・!」
意識が飛びそうなほどの快感を堪えるように、彼はアリシア人形の太ももを掴むと、力任せに握り締めた。
数度の腰振りによって、彼はまたしても限界に追い詰められつつあった。
「ぐぉ・・・おぉ・・・!」
胸にペニスを挟ませている男が、呻くように声を漏らした。
彼は手を伸ばすと、アリシア人形の後頭部に掌を回し、ぐいと引き上げた。
「先っちょ・・・咥えろ・・・!」
「・・・はい・・・」
命ぜられるまま、胸の谷間から突き出た亀頭を唇に挟み、鈴口をちろちろと舌先でくすぐる。
彼のペニスの先端から脳髄へ、電流が走った。
「おぅ・・・ぉご・・・出る・・・出る・・・!」
「だ、出すぞ・・・出すぞ・・・!」
二人の男が、同時に声を漏らす。
そして―
『うぉぉぉおおおおおっ!!』
全く同時に絶頂に至った。
射精の瞬間ペニスが跳ね上がり、唇から亀頭が外れ、アリシア人形の顔面へ精液が迸る。
一際深くペニスが叩き込まれ、密着した子宮口めがけて精液が叩きつけられる。
高まりきった興奮が二人の精液を煮え立たせ、彼女のもたらした快感がその量を増させていた。
「おぉ・・・うぉ・・・」
「ぐぉ・・・あぁ・・・」
短い喘ぎ声を漏らしながら、二人はたっぷり射精し続けた。
やがて、二人の体から力が抜け、床に崩れ落ちる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
二人分の吐息が、人気の無い部屋に響いていた。
上等な調度品が並ぶ広い部屋で、一人の禿頭の老人が机に向かい書類に目を通していた。
と、彼の耳朶をノックの音が打った。
「入りなさい」
「失礼します・・・」
聞きなれた声と共に扉が開く。
彼が視線を上げると、部屋の入り口に青いドレスを纏った女が立っていた。
ドレスの所々には濡れたような染みや汚れが付き、顔には不安げな表情が浮かんでいる。
「今日は、何人だった?」
「・・・二人です」
「悩みの内容は?」
「・・・娯楽の不足による・・・欲求不満、です・・・」
「解決法は?」
「私自身の体でもって、不満を解消しました・・・」
「またか・・・はぁ・・・」
老人は机に肘を突いて指を組むと、深く深くため息をついた。
「・・・彼女ならば、そんなことはしなかっただろうな」
「・・・すみません・・・」
アリシア人形は小さく応えると、両手の指先を触れ合わせながら軽くうつむいた。
その姿に、老人は突然両手で机を叩き、立ち上がった。
「だから、なぜそういう真似をするんだ!」
指をむけながら、老人が大声を上げる。
「ひ・・・」
「アリシアとは外見以外全く似ても似つかないくせに、どうしてそう細かい動きはそっくりなんだ!」
突然の大声に恐怖の色を浮かべる彼女に向けて、彼はまくし立てた。
「アリシアになりきるのならなりきれ!なりきれないのなら、全く別のものになれ!どっちかにしろ!」
「ご・・・ごめんなさい!ごめんなさい!」
目に涙を浮かべ、懸命に謝るアリシア人形。
謝る彼女の姿に、彼の歯は食いしばられていく。
「この・・・!・・・もういい・・・」
不意に彼の放っていた怒気が消え去り、彼は崩れ落ちるようにして椅子に腰を下ろした。
「行け」
「え・・・しかし・・・」
「いいから行け・・・」
「・・・かしこまりました」
彼女は老人の命ずるまま、一礼すると扉のほうに向き直り、微かに右足を引きずりながら歩き始めた。
「・・・ん?・・・待ちなさい」
老人が彼女を呼び止めた。
「はい、何でしょう?」
「右足、どうした?」
「・・・悩みの解決中に、過剰な負担が掛かったせいで、右股関節に異常をきたしております」
「なぜ言わなかった」
「損傷率二%未満なので、定期メンテナンスまで問題ないかと・・・」
「損傷があれば言うように命じていたはずだ」
「・・・すみません」
両手の指先を触れ合わせ、顔をうつむかせてそう言った所で、彼女は自身の失態に気が付いた。
「メンテナンス室に行きなさい。後から私も行く」
だが、彼女に飛んできたのは罵声や怒号ではなく、命令だった。
「はい・・・」
彼女は深く頭を下げると、今度こそ部屋を後にしていった。
「・・・はぁ・・・」
老人は背もたれに体重を預けると、深いため息をついた。
(なぜ、こうなったのだろう・・・)
彼、『人形工房』団長、ゼペット・オルフェンは胸中で自問した。
五十年前の事故で、彼は妻のアリシアを喪った。
彼女を蘇らせるために、四十年の歳月と自身の持ちうる技術の全てを投じて作り上げた、アリシア人形。
姿かたちと、細かな動作こそアリシアによく似ていたが、その性格は彼女とは似ても似つかなかった。
外見や仕草が似ているせいで、アリシアが蘇った錯覚を幾度も覚えた。
だがその度に、彼女はアリシアではないことを直後の言動で確認させられた。
失敗作だと粉々に壊そうにも、その外見と声が彼の意志を挫いた。
もはや彼には、自分からアリシア人形がアリシア人形でないことを確認するため、日々彼女を詰ることしかできなかった。
「なぜ、こうなったんだろうな・・・」
ゼペットは、部屋の天井に向けて呟いた。
「お前ともう一度会いたかった。ただそれだけなのにな・・・アリシア・・・」
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