Succubus狂想曲第三楽章




「ん………ふぅ。ちんことかただの排泄器官じゃないですか、常識的に考えて」

突然の賢者モードすみません。

でも延々何十時間も性交すれば普通こうなりますよね?

グポッと粘液的な音を立て、清家の陰茎が私の中から抜けていきます。

髪の毛の先から爪先まで精液でドロドロな私と心なしか痩せた清家。

…………やり過ぎちゃいましたね、文字通り……。

しかも時間を弄って何度も……。

私が乾いた笑みを浮かべて困っていると、清家がさながらゾンビのように口を開きました。

「てめ……限度……ってものが……」

超ごめんなさい。





Succubus狂想曲

第三楽章 イージス・システムとは同時多数に対空目標の追尾、攻撃が可能なシステムであり元はソ連海空軍のミサイル飽和攻撃から航空母艦を護衛するために米海軍が開発した……



場所は私の部屋。

時間は朝の5時少し過ぎ。

清家は呆然とした表情で私を見ていました。

「そんなこと有り得ない……。本当にそれだけか?」

「何度もお話した通り……としか言いようがありません」

私が元々一般人であったことや、変態した理由と思われる出来事はすでに話してしまいました。

隠す必要も無いですし。

「だいたい人間の…特に男性からの淫魔化と言うのはだな……」

清家が言うには女性が淫魔化するよりも男性のそれはなりにくいモノで、大概はC級……下級淫魔になるそうです。

どんなに素質があっても男性ではB級……中級以上にはまずならないとか。

そんなこと言われたって困ってしまうわけで……。

「それ以前にその注射ってのが分からん。多分それが最初の引き金だったんだろうが……それにしたって二段階に淫魔化なんて聞いたこと無いしな……」

ベッドに腰掛けると、何やらぶつぶつ呟き始める清家。

顎を摘んで険しい表情を浮かべると絵になりますねぇ。

自分は元々男のはずなのですが、男性を格好いいと感じて欲情するのに全く躊躇いが無いです。

元からの変態性なのか淫魔化による精神への影響なのかは知りませんが。

「それで、結局私はどのくらいなのでしょうか?下級?中級?上級?それとも女王級とかいっちゃったりしますか?」

ふと疑問に思い、そんな質問をしました。

すると、清家はゆっくりと私に視線を送りました。

「なぜ女王級を知っている……?」

「……!?」

一般人がなぜ……と言うのを聞いて、私の方が驚いてしまいます。

「本当にいるんですね、ソレ」

「……は?」



「……と、言う訳でとあるインターネットのサイトからの知識なのですよ」

コンピュータを起動させながら清家に説明をばさせていただきました。

「そんなサイト、存在するのか……」と再び愕然としていましたが……。

はてさて、「モンスター娘百覧」は……と。

……………………。

文字化けしてる……。

しかもお気に入りの中でそれだけ不自然に……。

「なんだ、これ?」

「…………なんでしょう」

何か前までなかった「ナニカ」が其処から感じられます。

なんと言うか、「穴」が開いていたのを無理矢理塞いだような感じ。

クリックすれば黒い画面に赤や青や紫やもう原色を中心とした無秩序な配色の文字化けだらけ……。

しかもスクロールした画面の上から下までビッシリと。

二人揃って絶句してしまいます。

「なんだ……これ」

しかし、清家の声は単純にその異様さに驚いているだけではありませんでした。

「馬鹿みたいな魔力だ。いったい何のためにこんな……」

「魔力?」

どこぞのRPGでなら聞けそうな、でも最近とても身近になった単語が清家の口から漏れます。

「馬鹿みたいってどういうことですか?」

変な感じはしますけど明確には何が起こっているか分からないです。

「純度もそうだが量もバケモノだ。なによりそれを無害なカタチでこのパソコンに定着させているということが……」

「すみません、もう少し具体的にお願いします」

情けないのですがなんとなく「感じられる」だけで、具体的なことはちんぷんかんぷんです。

「具体的に……?そうだな……えー」

清家も困ってしまいましたね……。

「電力に換算したらどうなりますか?」

テキトーに分かりやすそうな具体例を出してみました。

「…………今人類の使ってる量の数十年分くらいは余裕じゃないか?」

「なんですかその出鱈目な量は」

そんなモノがなんで私のパソコンなんかに……。

「問題はそこじゃない。いや、量もそうなんだが……」

「え?」

清家が静かにパソコンに触れました。

「さっきも言っただろ?それだけのチカラを周囲に全く影響させず、ただここに「有る」というカタチで固定させている……ってことだ」

「それはつまり……爆弾の炸裂を周囲に拡散させずにそこに停滞させる……みたいな感じですか?」

なんだか自分で言ってて訳わかめな説明ですが……。

「そうだな……いや、うん…まぁ、そんな感じだな」

説明したいけど出来ないというもどかしさ。

ああもう背中が痒くなってきます!

「とにかく、普通これだけの量がこれだけの純度で密集していれば何かしら周囲に影響を与えるものなんだが……それが全くない。俺もここを開くまで全く感じられなかったしな」

しかも、と清家は私を見ながら言葉を続けます。

「この魔力はお前のものとよく似てる。いや、多分お前がコレをやった」

「私ですか!?」

自分を指差しながら声を荒げてしまいます。

「静かにしろ」

「す…すみません」

まだ朝の5時でしたね……。

「春休みにここ一帯を襲った淫気と、一昨日と昨日のお前の淫気と魔力、そしてここにある魔力は全く同じだ。多分」

多分がつくのですか

「全部推測だよ。お前に関するデータがあまりにも不足してる。俺が未熟ってのもあるが……な」

清家は再びパソコンに向き直りました。

「空間転移の式に似てる気がするが……。規模も違うし、何だろう。起動させてみないと分からん」

清家はそう言ってパソコンの頭を撫で回します。

……空間転移……?

「あの、清家……」

ふと私はとある仮説を思いつきました。

「なんだ?」

「魔界は存在するのですよね?」

「あぁ。それがどうした?」

なにを当然のことを、という表情で清家が振り返りました。

「そこはこの世界にとって平行世界みたいなモノなのではないですか?」

腕組みしながらさらに質問を重ねます。

「そういうことにはなってるがな。実際は分からん」

「で、行き来には空間転移を使うんですか?」

「まぁ、その応用だが……。あ!そういうことか!」

清家も気が付いたようですね。

「魔界がこの世界と繋がりが強い平行世界だとすると、この強力な空間転移用の魔力は……」

「繋がりの弱い平行世界を繋ぐ転送装置か」

なるほど、と頷く清家。

つまり私はそのサイトを見たいがために無意識の内に平行世界をパソコンの中だけで繋げた……と。

なにやってんの私!?

「…………これほど壮大な魔力の無駄遣いもないな」

「言わないでくださいよ……」

グッタリと肩を落とすしかありませんよ……。

「人間の頃から無意識とは言えここまで魔力があるんだからな。A級……上級なのも頷ける」

「……」

上級淫魔とやらは人類の総合使用電力量を余裕で供給できるのですか……。

と、そう言おうとした時、清家はふと考え込む表情を浮かべました。

なんとなく話しかける時期を逸してしまいましたよ。

しばらくして、清家の唇から小さく息をつく音が聞こえてきました。

「そのうちまた放課後、ちょっと付き合ってくれないか?」

再び逢瀬のお誘いですか。

「今度はナイフ無しでお願いしますね」

小首を傾げ、少し笑って冗談を飛ばします。

「そう何度もお前と殺りあう度胸なんか無い」

清家はそれに苦笑を返しました。

まあ当然ですね。

「じゃあ俺は帰る」

窓から身を乗り出しながら清家は言いました。

「朝ごはんくらい出してもいいですよ?」

「お前……いきなり俺が出て行ったらお前の家族が驚くだろ」

一般人なんだろ?続ける清家。

まぁ、そうなのですが……。

「また、学校でな」

そう言うと、清家はさっさと行ってしまいました。

「……はい、学校で」

なぜか私は、もう誰もいないのに窓際に小さく言葉をかけていました……。





あれから数日はやけに平和な日々が続いています。

夜の散歩は清家に「ふざけるな!」と言われたのでお預けですが……。

さて、朝の教室HR前の時間。

「おい、絹見」

竜司が私の前の机に逆向きに座りました。

「なにか?」

私としては前のこととか欲求不満もあって、あまり人と話したくなかったので声が若干不機嫌になってしまいました。

しかし、竜司は気付いていないのか無視しているのか話を続けます。

「今日から部活再開だろ?先輩にはお前のこと知らせてあんのか?」

「…………あ」

これまたすっかり忘れていました。

脳内も現実も「革命」が起こり過ぎて近くが本当に見えなくなっていますね。

まったく、ヨシフの筆髭野朗も吃驚ですよ。

「ったく、そんなモンだと思ってたわ。ま、何とかなるとは思うけどな」

「うぅ、また厄介事が増えてしまいましたよ……」

グッタリと机に沈み込んでしまいますよ?

「おはよう。……おい、絹見はどうしたんだ?」

「おっす清家。こいつなら今日の放課後に思いを馳せてるはずだぜ」

頭の上から低い清家の声が聞こえてきました。

仕方なく顔を上げると、清家が怪訝そうな顔をして私を見ていました。

「おはようございます」

「おはよう、絹見。どうしたんだ?」

「……今日から部活が再開じゃないですか」

「あぁ、お前は所属してるんだったな。何部だ?」

「ミリ研です」

鞄を自分の机に置きながら聞いてくる清家に、答えました。

「………みりけん?」

「ミリタリー研究会の略だよ」

疑問符を浮かべる清家に竜司が補足します。

「まあ平たく言えば戦争オタクの溜まり場ってことで」

「戦争……」

竜司の説明で清家は私を複雑な表情で見てきました。

どーゆー意味ですか。

「コイツは結構詳しいぜ。ただ何の役には立たないけどな」

「サバゲーしかしない竜司に言われたくないですけどね」

「まだ体が鍛えられる分部屋に引篭もるお前よりマシだよ」

「私だってサバゲーやりますよ!」

「的じゃねーか」

「ぐぬ……」

全くもってその通りなので言い返せません……。

何回か参加させてもらったサバゲーでは大概真っ先にやられていましたからね……。

それでもバトルロイヤルで開始1時間は粘れるのですよ?

「サバゲー……ね」

なんとも言えない目で清家が見下ろしてきます。

「なんですかその目は」

「いや、何でも」

なんというか、「危ない思想っぽいもんな」的な言葉が滲み出てきている気がするのですが?

「で、それのどこに机に突っ伏す理由があるんだ?」

「この私の存在自体が現在悩みの種だったりする訳ですが」

「あ…あー、そういうことか」

それだけで清家は思いっきり納得しました。

いえ、いいのですけど。

「ま、頑張れ」

「無責任な」

私の膨れっ面に、清家と竜司の笑い声が重なりました……。



それからしばらくして。

「よし、じゃあ始めるか」

お昼の体育館裏に、清家の声が響きました。

「こ…こんな所でなんて……わ…私……」

私は体を抱きしめ、しなを作って泣きそうな声で清家に訴えます。

もちろん目は少し潤んでいます。

「……………………何雰囲気作ろうとしてるんだ。ただの魔力測定だろうが」

「はいはい」

顔を赤くしてたじろいだ清家でしたが、けっこうあっさりと立ち直ってしまいました。

まあ私も全然そういう気はありませんでしたし。

…………ほんの少し期待したのは内緒ということで。

さて、なんで私たちがここにいるかと言うと、本日の放課後に清家の所属する組織で検査するそうなのですが、それまでにある程度私の力を把握しておこうという清家の提案があったからでした。

私がどれだけ把握しきれているかを調べるという面もありますし、私に断る理由もなかったのでホイホイついていった訳です。

「じゃあこの缶目掛けて攻勢魔術を撃ってみてくれ」

「りょーかいしました」

破棄されていた机の上に置かれた空き缶に人差し指を向け、かなり弱く設定した魔術を射出しました。

(そーっと、そーっと)

感覚としては恐る恐る指で弾いた感じでしたが……。



グォババババババ!!!!!バッガァァァン!!!



「「!?」」

人差し指から発射された紅色の光は空き缶どころか机とその周囲の地面を抉り蒸発させて、上空に反り返って体育館の天井に直撃して屋根の半分以上を吹き飛ばしちゃいましたよ!?

光はそのまま空高く消えてっちゃいましたけど……大丈夫ですかね……?

「な……なんだぁ!?」

「爆発!?」

「消防だ!119!」

「ミサイルでも降ってきたのか!?」

当然人も集まってきちゃう訳で。

私と清家は目を合わせて頷き合いました。

「逃げるぞ!」

「りょーかいしました!」

私は急いで清家に続きました……。



「あー、ビックリした。体育館壊れちゃったみたいね」

避難先の校庭にて、南雲さん。

「ビーム砲受けたとかなんとか誰か言ってたぞ」

同じく竜司。

「びーむ?」

「あぁ、なんか赤いビームが下から体育館に命中したとか」

「なにそれ?」

「さぁ。ガセだろ、どう考えても。なぁ、きぬ……絹見?」

竜司が私の背中に声をかけましたが、私はそれに全く気付けませんでした。

(どう言うことですか!?あんなに大威力だなんて聞いてませんよ!)

私は小声で叫ぶというなんとも器用な真似をして、清家へと抗議を行っていました。

(それはこっちのセリフだ!空き缶に向かってって言っただろ!)

対する清家も負けてはいません。

(空き缶に向けましたよ!出来る限り弱くして!)

(じゃあなんだよアレ!範囲魔術並みだろうが!)

(知りませんよ!私は魔術なんて全然知らない素人ですよ!?)

(だからって…!ん?素人?もしかして……単純な制御ミスか……?)

私の言葉に、清家は神妙な表情を浮かべました。

(制御……ミス……?)

なんだかとっても続きが聞きたくなくなる単語を清家は発しました。

それってつまり……。

(私がチカラを使いきれていない……と?)

(そう考えるのが自然だと思うぞ。今まで意識的には全く使ってない部分を使うから大なり小なり体と精神が戸惑ってるんだろう)

「……」

つまり私がどうにかしなくちゃいけない訳ですか。

とは言え私一人で解決出来そうにもないですがね。

「おい、絹見!」

「はい!?りゅ…うじ……。吃驚させないでくださいよ!」

(私にとっては)突然後ろから声をかけられ、飛び上がるほど驚いてしまいました。

「聞いてないお前が悪いんだろ?ったく。午後の授業と部活は無しだと。とりあえず明日から休みで危険が無ければ来週から学校再開」

「あ…あぁ、はい。ありがとうございます」

犯人としてはかなり心苦しいのですが……まさか言う訳にもいきませんしね……。

清家が目で「それなら早めに行くぞ」と語っていました……。





「で、どこまで行くのですか?」

あの後一旦帰宅し、家族に出かけてくると連絡して学校で待ち合わせて現在に至ります。

清家に先導され、郊外へと向かって歩いています。

「あと少しだ」

そう言う清家の顔は少し沈んでいるように見えました。

もしかして……清家……。

「あの……昼のアレ、私がいけないんですからね。清家は別に……」

「……?」

「えーと、あの、兎に角気にしないで……」

「……っふ」

私が言葉を選んでいる間に、清家は口元を歪めて噴き出しました。

「ははは!何勘違いしてるんだ?」

「……へ?」

「昼のアレは確かに俺が言い出したのがいけなかったが死人は出なかったし、お前の今抱えてる問題点を発見出来た訳だしとりあえずはプラスだ。俺は気にしてないからお前ももう気にするな」

ペシペシと清家は私の頭を軽く叩きました。

「はい……分かりました……」

元男と考えれば気持ち悪いこの上ないはずなのですが、「こういうこと」をあまりされたことのない私としてはなんとなく嬉しいです。

頬が赤くなっていくのが自覚出来ました。

って!これじゃまるで純粋な乙女みたいじゃないですか!

私は男性から淫魔になったただの変態なのです!

そんな、普通に男性に恋焦がれるなんて絶対気のせい気の迷い心の病気です!

ブンブン頭を振って誤魔化している間に当初の疑問を思い出しました。

「じゃあなにか別の悩み事でもあるのですか?」

「あー、ちょっと……な」

「あー!見つけた!」

と、そこにちょっと高めの女性の声が響き渡りました。

「ヴ……」

「へ?」

声の方向を向くと、白衣に眼鏡をかけた赤毛の三つ編みの背の低い女性が私たちを指差していました。

「遅いよ清家君!で?そのスゴイ娘ってどこ!?」

ズイズイと清家に詰め寄っていきます。

「ちょ……ちょっと待ってくれ博士」

清家がどうどうと両手を前後に動かしながら言いました。

博士……?

「!」

その女性は私に気付くと、じっとこちらを見詰めてきました。

「………………」

その表情は恍惚と言うかうっとりと言うか……。

「あの……」

私が恐る恐る声をかけると、慌ててずれた眼鏡をかけなおして表情を引き締めました。

「うぇ!?あ、この娘が清家君の言ってた淫魔の娘かな?」

「あぁ、コイツが……」

「東郷 絹見です。初めまして」

自己紹介して、頭を下げます。

「初めまして、キース・ニミッツよ。キースって呼んでね」

キースと名乗った女性はニッコリと笑って握手してきました。

「キースさん……ですか」

「えぇ、よろしくね、絹見ちゃん」

その光景を清家は若干困ったように見ていました。

どうしたのでしょうか?



キースさんの自己紹介の後、私たちは郊外の小屋にやって来ました。

「あのー、もしかしてこれの中にはカモフラされたエレベーターとかがあって地下の研究施設にご案内……ってことじゃ……」

「ピンポン大正解」

私の疑問にキースさんは笑顔で人差し指を立てました。

「ま、王道だな」

肩をすくめながら清家が付け加えました。

「それじゃ、研究施設にごあんなーい」

まさに私が言った通りの様式美。

地下に降りれば白い壁の通路のお約束の秘密基地。

「ここが俺たちの組織の関東支部本部だ」

「……そう言えばちゃんと名前聞いていませんでしたね。なんて組織なのですか?」

そう聞くと、清家は苦笑を顔に浮かべました。

「やめとけ、守秘義務が増えるだけだ」

「そうですか……」

ちょっと残念ですね……。

「二人とも!早くぅ!」

キースさんに呼ばれ、私たちは早歩きで向かいました。

連れて行かれた場所はラボ7と示された研究室でした。

「ここが博士の研究室だ。主に魔術装甲服を開発してるんだが……」

清家は渋い表情を浮かべています。

「?」

その真意が分からず、私は首を捻ってしまいました。

「それじゃ検査始めるから、そっちの部屋に入って」

「あ、はい」

キースさんが示した部屋は、真っ白で大きな窓が一枚あるだけの箱でした。

『この部屋は自動で魔力を測定出来る部屋でね。淫魔や搾精生物の等級を計るためのものなの』

キースさんの声がスピーカーから流れてきました。

「じゃあ少し魔力を放出した方がいいですか?」

『うん。あ、あんまり出し過ぎないようにね。清家君から話は聞いてるから』

「……はい」

今度は本当に慎重に……ジェンガの下がスカスカになった状態で上の部分の両端を引き抜く時並に……少しずつ魔力を放出していきます。

しかし、始めて数秒もしない内にキースさんが静止の声を上げました。

『ストップ!ストップだよ絹見ちゃん!』

「え?はい……」

『一気に出し過ぎだよ、絹見ちゃん。もう少しソフトに……』

「あの……これ以上ゆっくりと言われても……」

『…………』

窓の向こうで愕然とした表情を浮かべる二人が見えました。

それからしばらく窓の向こうで清家とキースさんが口論する様子が見えました。

どうやら消音してあるらしくこちらから会話の内容は伺い知れませんが。

しばらくして清家が肩を落とし、キースさんが満面の笑みを浮かべました。

『絹見ちゃん、出てきていいよ』

「あ、はい」

部屋から出ると、椅子に座るように促されました。

「絹見……」

「なんですか?」

清家が疲れた表情で私を見下ろしてきました。

「嫌なら嫌って言えよ?」

「はぁ…」

なんのことでしょうか?

そんな清家にキースさんは人差し指を突きつけました。

「清家君は余計なこと言わなくていいの!さて、絹見ちゃん」

「はい」

「正直に言って絹見ちゃんの魔力を制御するのは現段階では不可能なの」

「……え?」

呆然としてしまいました。

不可能……?

「外部的には…ってこと。本来はここの道具を使って抑制する予定だったんだけど、現在ここの保有する如何なる魔術や魔具、呪いをもってしても絹見ちゃんの魔力を抑えることは出来ないの。それだけ強大で抗魔力も高いのよ。絹見ちゃんの努力しだいでは何とかなるかも知れないけど……」

そこで一旦キースさんは話を切りました。

そして、本当に真面目な表情をして私を見てきました。

「私たちもボランティアでやってる訳じゃないのよ。だから、制御を手伝う代わりに貴女のそのチカラ、私たちに貸して欲しいのよ」

「……それは私になんのメリットも無いように感じますが?」

私の返しに、キースさんはフッと息を吐いて話を続けます。

「貴女の性癖は教えてもらったわ。殺人快楽症なのでしょう?」

「……はい」

言葉で表されるととっても病的な性癖です。

「なら私たちは貴女に遊び場と玩具を提供するわ。それはヒトに害成す人外や外道。貴女の趣向に合っているんじゃなくって?」

「私は貴方たちの手の平で踊ればよいと……?」

別にそれでもよかったのですがね。

ほんの少し気に入らないのも事実ですから。

「とんでもないわ、私たち人類は形振りかまってられないのよ。人類程度簡単に滅ぼせるような存在が淫魔にはいる。でも貴女ならそれに対抗出来るかも知れないの。私たちは今、貴女のご機嫌を伺ってなんとかして味方に取り入れたいってこと」

キースさんが弱弱しく微笑みました。

「これは懇願なの。私でも清家君でもいい、なれと言うなら肉奴隷になるし跪けというなら足を舐めてもいい」

「……モノは言い様……ってやつですね」

キースさんの言を遮って溜め息を吐きます。

「そこまで言うならいいですよ。チカラの使い方と玩具で充分です」

心配そうな表情で私たちを見守っていた清家もやっと安堵の息を吐きました。

「そう?よかったぁ……」

はぁぁ、と盛大に溜め息を吐くキースさん。

そんなに緊張していたのですか?

「じゃぁ早速……」

「?」

キースさんが部屋の奥に引っ込むと、清家はあーぁ、みたいな感じの表情を浮かべました。

「あの……清家?」

「博士の悪い癖と言うかなんと言うか……。まぁ、承諾しちまったんだから諦めろ」

じゃあ、と清家は部屋を出ていってしまいました。

「?」

私が首を傾げていると、キースさんが両手いっぱいに何かを抱えて戻ってきました。

戻ってきたキースさんの持っていたモノは……。

「これはね、バインドをほぼ確実に打ち消せる装甲服。これは魔術的な隠密性がかなり高いんだ。で、こっちは対触手用でこれは快楽遮断型」

超フリフリのピンクや真っ黒なフワフワやピチピチな水色、水着やチャイナやドレスや鎧や軍服、挙句の果てには服というのもおこがましい紐まであります。

「さ…さぁ、ど…どれから試してみようかしら……?」

ここに来る時の清家の落ち込みはこれかぁ!?

「は…はは……」

ハアハアハアハアとMADな瞳のキースさんを前に私は唇を引きつらせました。

こうして私は数時間に渡って着せ替え人形と化したのでした……。



「はぁ、疲れた……」

グッタリと肩を落として歩く私と苦笑している清家。

現在私たちは地上に戻って帰宅している最中だったりします。

「ご愁傷様。ま、後は明日明後日だな」

「……」

明日になったら組織の「本部」へと出向くそうで。

そういう意味では学校が休みになったのはありがたいかも知れません。

かなり早く起きるように言われているのですが、そんなに遠いのでしょうか?

そんなことをつらつらと考えながら歩いていきます。

そう言えばお昼から何も食べていないのでお腹が空きましたね……。

「清家……少しいいですか?」

「なん…!?」

尻尾で清家の陰茎を撫で上げると、ビクンと体ごと跳ね上がりました。

あっと言う間に限界まで硬くなる清家の陰茎。

すごく美味しそうな「匂い」が私の本能をくすぐります。

「ちょ……っと、待て!」

「ひぅ!」

尻尾を急に握られたら変な声が漏れてしまいました。

敏感です……。

「はぅ…。なんですか?」

尻尾に来る刺激で自分の目が少しトロンとし始めました。

「いきなり過ぎるだろ。それにここは道路のど真ん中だ」

すでに広がりつつある翼やうねる尻尾を見て、周囲を警戒する清家。

でも、それは杞憂でしかありません。

「大丈夫ですよ。不可視の障壁張りましたし、魔力とか淫気とか漏れないようにしてありますから」

清家の正面に回って背中に腕を回します。

すでに清家は私の眼に魅入られ、呼気が荒くなっています。

「だから……ほら」

ギュウって抱きついて清家の首筋でゆっくりと深呼吸すると、オトコのニオイが肺を満たしていきます。

ニオイだけじゃやだ、もっと清家を感じたい。

そう思って私は、首筋にチロチロと舌を這わせました。

清家の味にちょっぴり汗の味が混じってドキドキします。

「ひぃっ!きぬ……っ!やめ……っ!」

ほんの少し舌先で突くと、体ごとビクッビクッと跳ねる清家。

性に敏感になっている私の体は、目敏く清家の射精を感知しました。

「もう出てしまったのですか?首、舐めただけなんですけど」

清家の耳元で囁きます。

「…………」

でも、目を硬く瞑って俯く無言の清家。

「あの、気持ちよくなかったですか?」

そんなことないですよね?

気持ちよく出してくれましたよね?

下から清家の顔を覗き込みます。

でも、清家は発情させられて震えながらも、そっぽを向いてしまいました。

「私と性交するの、そんなにやですか?私のこと嫌いになりましたか?」

「!?」

私の疑問を聞いて薄目を開けた清家は、私の顔を見て目を見開きました。

「清家?どうしたのですか?」

私の淫気による異常な高揚を耐えている清家が、苦しそうに口を開きました。

「……なんで…お前が泣きそうな顔してるんだよ」

「え……?」

途切れ途切れで今にも消えてしまいそうな清家の声。

それに気がつかされると、もう駄目でした。

じわりと盛り上がる涙と、対照的に下がる眉。

なんで?

なんで私泣いているのですか?

「あぅ?なんで?私……?」

ぽろぽろと零れる涙の粒に私はすっかり困惑してしまいました。

拭っても拭っても止まりません。

「お…おい、絹見……」

「来ないでください!」

清家から離れて後ろを向きます。

なんでなんでなんで!?

この前は清家が泣き叫んだって発狂したって続けられたじゃないですか。

今更怖気づいたのですか私は!?

「うっく…ひっく…」

暗い夜道に私の泣き声だけが虚しく響きます。

「………………」

滑稽ですね。

なんで襲った方が泣いているのか……。

「おい、絹見」

「………」

謝ろう、そう思ったときに清家が口を開きました。

「別に嫌じゃないんだが……その、恥ずかしくて……」

「!」

嫌じゃない。

このたった一言に私がどれだけ救われたでしょう。

パァ、と頬が緩んでしまいました。

「じゃぁ、いいですよね」

「い…いや、だから恥ずかし……!」

清家の前に跪き、ズボンとパンツを下ろして陰茎を露出させます。

すでに射精した精液の匂いが流れてきます。

「それではいただきます」

ペコリと頭を下げて、それから屹立している陰茎へと舌を這わせます。



ペチャ…ペチャ…チュ…

ドク…ドク…ドク…



「う…あぁ…」

一舐めする度に清家は蕩けた呻き声を上げて精液を漏らしてくれます。

途切れることなく、淡々と……。

「ん…美味しいですよ」

コクン、と精液を一塊飲み込んで一息吐きます。

「もう少し……いいですか?」

立ち上がって抱きついて、囁きます。

「……………」

今度は小さくですが、清家は確かに頷いてくれました。

清家の背中が痛くないように翼を地面に敷きます。

傍から見れば真っ黒い繭みたいに見えることでしょう。

「ほんばん、いきますね」

喋り方が幼くなるのが自分でも分かります。

「いっ……!がっ……」



ドクッ!ドプッ!ドプッ!



膣口が触れただけで清家は盛大に精液を漏らしてしまいます。

この前から変わらないので気にせず腰を降ろして胎内へと陰茎を迎え入れます。

「ッ!」

声にならない嬌声を上げて、涙と唾液をこぼす清家が可愛くて、キュッ…キュッと内臓を締めて攻め上げます。

「暖かい。気持ちいい。しんやぁ」

自分が出しているとは信じられないほど甘い声で鳴いて、腰をゆっくりとグラインドさせます。

でも、前みたいに清家が狂ったりしないように調整はしますよ。

月が空の頂点が来るまで、私はこの甘美な精を味わい続けました……。





翌日

現在私たちは太平洋上空を飛行中です。

C‐17なんて豪勢な機体を保有しているということはかなり大きな組織なのですね……。

改造してあって貨物室にも窓がついていますが。

と言うか……。

「なんでこんなのと一緒に行かなければならないのかと……」

貨物室には私と清家とキースさん、そしてチェンタウロ。

私はその砲身に腰をかけています。

「急なことでコレしか手配出来なかったんだ。我慢しろ」

キューポラに腰掛けている清家がそう言い返してきました。

そう言いますがね……。

なんでヘタリアの装甲車なんかと……。

「歩兵援護用のため大量に配備するんだとさ」

「歩兵なんか持っているのですか?」

私の疑問に答えたのは清家ではなく椅子に座っているキースさんでした。

「これでもウチは案外強力な戦力を持ってるんだよ。歩兵戦闘車とか装甲車とか持ってるし」

「IFVとAPCだけですか?MBTやSPGは保有してないのですか?」

「普通の淫魔相手に戦車や自走砲はoverkillでしょ」

「じゃあチェンタウロはどうなのですか?」

コイツも105mmなんて戦車並みのモノ積んでいますけどね。

「お前みたいなの相手じゃ戦車だって辛いだろ……」

「…………」

清家の言葉に私は黙るしかないのですが……。

「そう言う事。ま、絹見ちゃんが現れる前から戦車導入案は出てるんだけどね」

あっさり言いますけど維持費とか燃料代とか弾薬代とか考えたらとんでもないお金が必要なのですが……。

「なんだよ?」

「いえ、清家もその組織の一員なのですよねって」

「……下っ端だけどな」

私の疑問の意味が分からず、若干困惑している清家。

「下っ端なんかじゃないよ?清家君は第二特殊戦術魔導隊に所属してる上級ハンターなんだから」

キースさんが笑いながら付け加えてきました。

「一人でB+CLASS……中級と互角に戦えるバケモノだけで編成された部隊でね。その中でも中の上くらいの実力はあるんだよ」

対人戦闘能力もあるしね〜、と楽しそうなキースさん。

「そうなのですか。エリートですか?」

「エリートだね」

二人でニヤニヤ顔を清家に向けると、照れているのかそっぽを向いています。

あー、なんか可愛いなぁ。

そのまま照れる清家を鑑賞しようとした矢先、清家が窓の外を指差しました。

「おい、見えてきたぞ」

「!」

小さな窓から見えたのは青い海上と灰色の円盤……て。

「メガフロートですか!?」

しかもすっごい大きい!

「最大幅23km、最大収容艦艇60隻、航空機は170余機。各種防御火器装備の半没可能海上要塞「ホワイト・アーク」。私たちの組織の本部よ」

あぁ、こんな非効率的な施設、秘密組織でもなければ使いませんものね。

しかも名前が「ホワイト・アーク」(白い弧)って、中二病全開……。

「……今、失礼なこと考えなかった?」

「キースさんの気のせいですよ」

キースさんはふうと溜め息を吐き、苦笑を浮かべました。

「ようこそ、「united.force.」へ」



バケモノじみた巨大メガフロートの端にある飛行場に着陸したC‐17から降りると、まさに軍事基地といった施設群が視界いっぱいに広がります。

「またでかくなってるな……」

「清家君はあんまりココこないからねー。分からないよね」

後ろで二人がなにやら言っていますが、今私はエプロンに並んでいるF‐4とかF‐14とかを眺めるのに忙しくて聞いていられません。

まさかホンモノが見られるとは!

それも1機2機じゃなくて何機もズラリと並んでいるなんて……!

感涙モノですよ……!

「おーい、絹見、行くぞ」

「あ、はーい」

清家に呼ばれたので、仕方なくA‐10の横を通って着いていきます。

飛行場を離れ、内部へと移動。

船っぽい内装です。

階段とか急角度ですし。

「昨日はちょっと足らなかったからね。ココなら十分な量の装甲服があるから」

「あ…あはは……」

キースさんの言葉に私は愛想笑いをするしかありませんでした。

あれ以上とか何百着ですか……。

そして着るのですか、私。

どう見てもコスプレにしか見えないアレらを。

恨めしげに清家を見ると、そっぽ向いて知らん振りです。

後でたっぷり埋め合わせしてもらいますからね。

「あ、そうだ、俺、隊司令部に顔出してきます」

「は〜い。絹見ちゃんは私が預かってるから」

そう言って清家はそそくさと行ってしまいました。

あいつぅ……。



ここもラボ7ですか。

ズラリと並んだ、ロボットのような重厚なモノからコスプレ用にしか見えないモノまで多種多様な魔術装甲服。

「……?」

その中になにやら厳重に封印された服がありました。

鋼鉄の箱に魔術式が書かれています。

「これは……」

「あ〜、それね。それはちょっとやめといた方がいいと思うわ」

キースさんがそれを見て渋い表情を浮かべました。

「マトモなものじゃないから」

「?曰付きですか?」

「うん、それはね……」

キースさんは言いにくそうに目をそらしました。

「……魔術絶対防御を目指した装甲服なのよ。装着者の魔力を防御に回してどの属性のどんな魔術も効かないようにしてあるの。ただ回復魔術も通さないし、防御のための魔力量も膨大なモノになっちゃったの。C−からA−CLASSの淫魔だと魔力どころか生命力まで回さないと駄目でね、テストパイロットは全員衰弱して死者も出たわ。少なくともこの魔力強制吸収をなんとかしないとマトモな使用は不可能よ」

強制吸収って……。

「でもその研究も予算がおりないから無理なのよね。私たちの組織って淫魔だけを相手にしてる訳じゃないから」

「そうなのですか」

「そうよ〜。海賊とか非合法武装組織全般に対処するのが目的だから」

なんだか傭兵みたいな組織のようです……。

「新しい艦を開発したから予算がそっちに……ってちょっと!」

「なんですか?」

封印を解いて装甲服を引っ張り出してみました。

真っ黒なレオタードのようなモノに前後にスリッドの入った長い腰布。

肩と腰の左右、手につけるであろう装甲然とした部品。

そして装甲化されたブーツ。

あと真っ黒な丸い物体。

「……これ着てみてもいいですか?」

「絹見ちゃん!?私の話聞いてた!?」

何言ってんの!?とキースさんは目を剥いてしまいました。

まぁ、当然ですよね。

「いいじゃないですか。もしかしたらオーバーロード気味の私の魔力ならなんとかなるかも知れませんよ?」

「うーん……」

腕組みをして考え込むキースさん。

「確かにそうかもしれないわね……。うん、やってみよう!」

若干の不安を目に揺らしながらも、キースさんは気丈にそう言いました。

さて、どうなりますかね?

Side out



Side sinya

絹見、博士と別れた後、俺は宣言通り所属している特戦魔の司令部へと向かっていた。

事実、挨拶くらいはして置かないといけないし、まさか絹見の着替えを鑑賞する訳にもいかないしな。

そんなことしたら理性(と命)がどれだけあっても足りやしない。

………………。

昨夜のことを思い出すと体が火照って仕方ない。

全く、厄介この上ない……。

と考えてみたものの、あれが「普通」の淫魔だったら今俺がこうしていることはない。

それ以前に廃工場の時に発狂させられてそのままだったはず。

俺が今「普通でいられる」ということ自体が絹見の淫魔としてのレベルの高さを示しているだろう。

そんなことを考えていると、見覚えのある人影を発見した。

「あ、ダフ隊長」

「あん?シンヤじゃねぇか!」

ダフィータ・ゴームレー中佐。

200cmなんとする長身の浅黒い肌の男性。

第二特戦魔の隊長で俺の上司にあたる人だ。

「お前もここに来てたのかよ!」

豪放磊落に笑い、俺の背中をバンバン叩いてくる。

「げほっ!は…はい、ついさっき」

咽ながら返事を返す。

「学校はどうした学校は」

「今日は休みです」

「そうか。ま、休みなら仕方ねぇな」

ダフ隊長に連れられ、缶コーヒーを買って埠頭にやって来る。

大小の軍艦が並んでいるが、俺には正直見分けがつかない。

飛行機は見ていたようだが、絹見なら分かるんだろうか?

「お、あれ、完成してたんだな」

「?」

隊長の視線を追うと、そこには全長300mはありそうなのっぺりとした船が浮かんでいた。

いつだか博士が言っていた新しい戦艦だろうか……。

「あれが完成すれば「帝国」を追い越せるとか開発局の連中は息巻いてたけどな」

十数隻の護衛を引き連れて港を離れていくその船を眺めながら苦笑する隊長。

「………」

「………」

しばらく二人とも無言でコーヒーを胃に送り込む作業を続ける。

「……どうだ?シンヤ、学校は」

どこか言いにくそうに聞いてくる隊長。

聞きにくいなら言わなければいいのに……。

「……普通ですよ。昨年と変わりません」

去年と同じ、判を押したような同じ答え。

ただ、声は去年より不機嫌であることは間違いない。

「そうだよな。まぁ、もう少しなんだしハイスクールライフを楽しめ……」

「隊長」

俺は隊長の言葉を遮った。

「なぜ俺は学生ゴッコをしなくちゃならないんですか?俺がいれば二特戦魔の戦力だってプラスになります。それに……」

「シンヤ」

今度は隊長が俺の言葉を遮った。

「お前はまだ子供だ。確かに生い立ちは普通と違うかも知れんが今はまだ子供なんだ。だから……な」

そのくらい分かっている。

俺だって分からない訳じゃない。

隊長や皆が好意で俺に「普通の生活」をさせてくれていることくらい……。

でも……。

しばらく気まずい沈黙が続く。

隊長が何か言おうとこちらを向いた瞬間、辺り一帯に轟音が鳴り響いた。

「あれは……スホーイ?ホーネットにドラ猫まで……今日は演習でもあるのか?」

隊長が目を細めながら上を仰ぎ見る。

矢印のように編隊を組んだ戦闘機が次々と沖に向かっている。

「おいおい、艦隊まで総動員じゃねえか。本当に何があったんだ?」

確かに戦艦まで動き出している。



そして響き渡るサイレン……。



「隊長……」

「俺は司令部に行ってくる!お前は待機だ!」

「はい!」

隊長が建物に消えていくのを確認し、インカムを取り出して作動させる。

「博士、聞こえますか?博士!」

『――――――……………』

「!?」

ただ雑音だけが流れてくる。

何が起こってるんだ?

『―――だ!いそ………』

「!」

そのノイズの合間を縫って聞こえてきた声。

それに耳を澄ます。

『CIWS、control open!SAM、salvo!』

「!」

背後からの轟音に振り向くと、次々とミサイルが発射されるのが目に入った。

敵襲か……!?

ミサイルが戦闘機の後を追うように空に消えてから数分後、再びインカムから声が響いた。

『――迎撃失敗!総員衝撃に備えぇ!』

反射だけで頭を抱えて伏せる。

次の瞬間、さっきのミサイルと似た噴射音と、爆発音。

熱風が頭の上を通り過ぎていく。

『被害箇所確認急げ!』

『第三埠頭にて火災発生!一部で浸水も起こっています!』

「おい!無事か!?」

作業着の中年男性が肩を叩いてきた。

「はい!大丈夫です!」

「そうか!すまんが消火作業に手を貸してくれ!」

「はい!」

銃砲撃音、爆発音の続く中、怒鳴りあって意思疎通を図る。

その間にもインカムからは戦況らしきものが聞こえてくるが、どれも事態が悪化していることしか伝えていない。

いったい何者がこのW.A.に攻撃を仕掛けたのかすら分からないまま事態が推移していく。

『レーデルライト隊全滅!カッナ隊後退!』

『第二艦隊42%壊滅!CIWS損傷率85%!』

『ラッセル隊壊滅!』

『第三艦橋大破!』

『オメガ1イジェークト!』

『重巡「アドミランテ・グロスヌイ」より入電!「ワレ操舵不能、ワレ操舵不能」』

『…………』

ホースを炎に向けながらインカムに耳を澄ます。

その時、機械の起動音がどこからか響いた。

『司令!』

『どうした?』

『第七ハッチが開いています!』

『なにぃ!?』

「第七!?」

すぐそこの大型ハッチが開いていくのが見下ろせた。

本来なら大型の垂直離着陸機……確かティルトローター機とか言っただろうか……の発着に使われるハッチだ。

噛み合わせになっている装甲二枚が開き、エレベーターが上がってくる。

しかし、そこにあったのは航空機でもなければ新兵器の類でもなかった。

そこに居たのは……。

「絹見!?」

サッカーコート程ありそうなエレベーターにポツンと一人、真っ黒な変な姿で何か巨大なモノを担いで立っていた。

もしかしてアレ博士の魔術装甲服か?

バサリ、と二対四枚の翼を広げ、あっという間に空へと上がっていく。

おいおい、まじかよ……。

Side out



ry:kinumi

ドン、と音速の壁を後方に置き去りにしてさらに加速していきます。

『絹見ちゃん、相手は魔術対応防御持ちの艦艇だからね。無理しちゃだめだよ!』

「了解しました」

インカムからのキースさんの忠告に頷き、前を見る。

なんでも術式自体を機関に組み込んだ実験無人艦が暴走したということです。

元はと言えば、現在の「淫魔との関係を保つため、また魔術師の実験、各種事件の目撃者処理による民間人などの多少の犠牲は仕方ない」という考え方に対抗するため(「united.force.」の発言力強化のため)に開発された艦らしいのですが、開発を急ぐあまりにA.I.が未熟なままロールアウトして強すぎる魔力の影響を受けて艦が暴走しているのだそうです。

実体弾すら弾く魔術障壁に加え現代戦闘艦として最高の能力もあたえた結果、非ステルス機や少数の艦艇、潜水艦、当然の如く淫魔も接近不可だとか。

そこでキースさんの開発したこの「高圧縮魔力砲『クォックス・ジャベリン』」と私の過剰気味の魔力の出番と相成った訳です。

この「クォックス・ジャベリン」、見た目は対物ライフルを二回り大きくしたようですが術者の魔力によって威力が変動というモノですから使い勝手はある意味最悪ですね。

計算上なら魔術装甲に魔力が吸われている私でもグスタフ砲並の威力が発揮出来るとのこと。

要塞攻略とかに役立ちそうなことで……。

『こちら空中官制機「アイアン・デパート」。接近中の淫魔に告ぐ、その先は現在戦闘区域であり危険だ。すぐに迂回せよ』

渋くてとてもイイ声がインカムから聞こえてきました。

どうやらAWACSまで出張っているみたいですね。

「キース・ニミッツ博士から「高圧縮魔力砲」による攻撃を指示されました!最適な砲撃位置への誘導お願いします!」

『貴官の所属と名前は?』

「あー……」

どうしようかと一瞬迷ったのですが、本当のことを言うことにしました。

嘘ついても仕方ないですしね。

「東郷 絹見と言います。所属はありません、民間人です」

『民間人?』

管制官が怪訝そうな声を出します。

当然ですよね、民間人では。

「はい。魔力測定で適正有りをもらったので出撃しました」

面白そうだったから……とは口が裂けても言えませんね。

『……分かった。出来る限り遠距離から砲撃を実施せよ』

一瞬の間の後、ハッキリとした管制官の声が耳に響きました。

「了解です!」

『これよりデータを送る』

管制官の声から一拍おいて、脳内に直接情報が流れ込んできました。

それを確認したら、大声を出してしまいました。

「敵は1隻じゃないのですか!?」

乱れきった陣形の味方を示すアイコンの中に悠然と佇む敵を示すアイコンは輪形陣を組んだ8つ。

中心に馬鹿みたいに大きいのが1つと中型のが7つ。

『実験艦「アルテミス」他護衛艦7隻だ。「アルテミス」さえ叩けば他も黙る』

「分かりました。いきます!」

「クォックス・ジャベリン」を構え、魔力を流し込みます。

壊れないようにゆっくりと……。

『軸線上の各機は退避!退避だ!』

友軍機が退避したのを確認し、引き金を引きます。

「発射!」

銃身に魔方陣が現れ、重低音と共に赤黒い光が水平線に向かって飛んでいきました。

数秒後、遠雷のような爆発音が響き、黒煙が立ち上がりました。

『護衛艦「バリー・ボーンズ」、「ノックス」消滅!「デポンズ」、「カクタス・ネーベル」、「フェイカス」轟沈!』

「アイアン・デパート」が戦果を教えてくれたのですが、肝心の旗艦の名前が出てきません。

「外れましたか……」

『違う。「アルテミス」の障壁に弾かれて拡散したのが幾つか護衛艦に命中したんだ。「アルテミス」障壁に被害を確認。いけるぞ!』

「分かりました、攻撃を続行します!」

「アイアン・デパート」の言葉に励まされ、第二撃の用意を開始します。

『なんて威力だ……。巡洋艦を消し飛ばしやがった……』

『こんなこと出来る淫魔がうちにいたのか……』

呆然とした声が漏れるように戦場に流れて一拍。

『あの娘に負ける訳にはいかないわ!「レッド・カチューシャ」突撃よ!』

『『了解!』』

『淫魔に負けてられるか!「グラディウス2」!「ブルー・スカイ3」!続け!』

『了解!』『ラジャー!』

『こちら第三艦隊旗艦「ズモセベンテ」。船乗りの意地だ!第三艦隊前進!』

なんだか前線では熱いドラマが展開されているようです。

嫌いじゃないですよ、こういうの。

「第二射……!」

再び発射しようと「クォックス・ジャベリン」を構えた時でした。

ドン!という破裂音と共に「クォックス・ジャベリン」の本体が壊れました。

焼け爛れた銃身が虚しく海面へと落ちていきます……。

「……キースさん、二発は撃てませんでした」

『嘘っ!?』

「これより近接航空支援に移ります」

『ちょっと絹見ちゃん!待っ……』

キースさんの返事は待たずに敵艦隊へと接近していきます。

異空間に仕舞っていた真っ黒の球体……杖をとりだしました。

手にすると、長く伸びて太さも増していきます。

槍のカタチを基本に、装飾のついた私の「杖」。

これからはこれが武器です。

「あれ……ですか」

味方の、キーロフ級重原子力ロケット巡洋艦を先頭にした艦隊。

上空には一世代前の戦闘機や淫魔達が必死に対空砲火を回避しています。

そして、その砲火の原因。

護衛に残っているズムウォルト級が2隻。

これもやはり無人ですね。

そして300m超の艦体を持つ巨大艦「アルテミス」。

ズムウォルト級の船体を細長くしたような艦体の中央にピラミッド状の構造物が1基。

その前方に左右2基ずつ計4基のAGS砲台。

他にはVLSと大量のCIWS、RAMが装備されているのが見えますが、まだ何か隠し持っているのでしょうか……?

そう思って睨んだ瞬間、「アルテミス」の後部、斜面になっている舷側に次々と細長い長方形の穴が開きました。

そして真っ黒な三角形の影がそこから飛び出してきました。

『「アルテミス」UCAVを射出。トウゴウキヌミ、君を狙っている』

「!」

「アイアン・デパート」がそう言った時にはすでに無人機のウェポン・ベイから発射されたAAMらしきものが私に迫っていました。

翼から分離した30cm大の4つの球体……砲台から攻勢魔術を発射し迎撃します。

紅いレーザーのようなものが断続的に発射され、AAMを撃墜しました。

その時はすでにお互いに超音速まで加速してドッグ・ファイトに突入していましたが。

無人機だから動きに遠慮が全くありません。

もし有人だったらGで中の人は大変になっていたことでしょう。

でも……。

「はい、1機め」

ヘッドオンして1機を翼で真っ二つにします。

「2機、3機、4機……」

さらに砲台で3機を撃墜。

「ほらほら、早くしないと全滅しちゃいますよ?」

無人機相手に挑発までしてしまいます。

それを聞いたからではないでしょうが、残る機体は私を包囲して全方位から突っ込んできます。

「その程度ですか」

落胆の溜め息が漏れました。

やっぱり「生き物」と殺しあった方が面白いですね。

翼で全機切り裂いてさっさと終わらせてしまいます。

そうして、「アルテミス」に向き直ろうとした時でした。

『ミサイルアラート!』

「!」

全く油断していたとしか言いようがありませんでした。

「アルテミス」から発射されたミサイルが急接近し、背中に命中しました。

「うぁっ……!」

凄まじいショックに一瞬息が出来ず、呻いてしまいました。

爆煙の中から脱出し、「アルテミス」を探します。

『トウゴウキヌミ!無事か!?』

「アイアン・デパート」の心配そうな声がノイズ混じりにインカムから聞こえてきました。

「えぇ、大丈夫です」

目は据わり、声は低くなっています、私。

『……トウゴウキヌミ?』

「アイアン・デパート」の怯えた声も今は気になりません。

「これより「アルテミス」を沈めます」

「杖」を「アルテミス」に向け、魔力を収束させます。

「逃げないと巻き込まれますよ」

『全機緊急退避!特大のが来るぞ!』

私の邪悪な声を聞き、残存戦力は全て踵を返して「アルテミス」から全速力で離れていきます。

「アルテミス」や護衛艦から私に向かって一斉に対空ミサイルが発射されましたが、もう避ける必要もありません。

全部消しますから。

「いい加減、沈んでください」

一言呟いて、魔力を解放しました。





その日、ツァーリ・ボンバーを遥かに凌ぐエネルギー放射が太平洋上で観測された……。





Side Keith

私の研究室で清家君が絹見ちゃんを説教している。

「馬鹿!危ないだろうが!なんだあの爆発!」

「落ち着いてください清家。爆風とか衝撃波とか危ないモノは全部上に逃しましたし、ちゃんと味方にはシールドを……」

「そう言う問題じゃない!あれだけの魔力を放出したら全世界規模で確認出来ちまうだろうが!」

「そ…そんなこと言われても……」

清家君も素直に心配だったと言えばいいのにひねくれてるよね。

しかも本人も気付いてないから相手にも絶対に伝わらないという徹底ぶり。

ま、私には関係無いけどね〜。

「博士、どうぞ」

「あ、ありがとう」

職員に渡された書類に目を通す。

さすがに今回はことが大きくなりすぎて「人界大図書館」だとか「バビロン」、「銅の歯車」、「帝国」といった大きな組織には言い訳しなくちゃいけない。

特に「帝国」と「バビロン」には念入りに言い訳しないと「新兵器」を見に来るなんて言われちゃうかも知れないしね。

まさかたった一人の淫魔がやったとばれたら何言われるか。

これでも艦艇や航空機、車両は淫魔撃破にかなり有効……と言うか、大型兵器を投入すれば人間と淫魔の多少の力の差など埋めてしまえるのは近代になってからのハンターや魔術師の常識だ。

「アルテミス」は以前にS class……女王級が遊園地を襲撃した時に確認された魔力量の1.3倍(暴走してからは2.1倍だけど)を出力してみせた。

これで人類も戦艦クラスなら十分S classの淫魔に対抗出来ることが証明された……はずだったんだけどね。

で、絹見ちゃんが「クォックス・ジャベリン」発射時に0.7倍。

最後に測定不能。

全く、やってくれちゃうものね。

これでまた私たちが他の組織に物を申せる可能性が遠のいちゃったなぁ。

ま、あのままだったら「アルテミス」の巡航ミサイルあたりで「H.A.」の方が沈んでただろうから絹見ちゃんには感謝しないといけないんだろうけど……。

で、彼女はいつまで私たちの味方でいてくれるのかしら……ね。



















あと(ry

まずは謝辞から。

十二屋さん、資料を提供していただき本当にありがとうございました。

あんなに素敵な資料を頂いたのにあまり出せず申し訳ありません。

精進いたします。

で、こっから余談。

今回かなり軍事色が強く、やっぱりエロ薄い訳ですが、単純に作者の趣味です。

そしてこれからも軍事色は多分なくなりません。

仕様と思って諦めるか読み飛ばすかしていただければ幸いです。

エロ、増やせるよう努力します。

誰か本当に文才をくださいこの哀れな戦艦に!

すみません取り乱しました。

では最後にこんな稚拙な作品を載せてくださったとろとろさんと読者の皆さんに感謝を。

次回、絹見達が真っ赤に染まります。




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