告白 月夜の夢




私は、孤独だった。

生まれつきの無愛想な性格と、人付き合いの悪さのせいで、小学生の頃は虐めの標的にされていた。

私が大きくなるに従い虐めはなくなり、いつの間にか憧れにも似た視線が寄せられるようになった。

しかし、それも私が持っているという『神秘性』によるものなのだろう。だれも、私に近づこうとはしなかった。

おかげで私には人気があるらしいが、友達はいない。

私は、孤独だった。





その日、私はいつものように下校していた。

誰とも言葉を交わさず、ただ一人でだ。

家に帰っても両親はいない。今年の春から二人とも海外に出ているからだ。

夕闇に沈んだ家に帰り、電気をつける。

着替え、夕食を作って食べ、風呂に入って、机に向かう。

テレビは両親が出てってからずっと見ていない。

学校では友達がいないので、話す相手がいない。

家に帰っても家族がいないので、話すこともほとんどない。

「・・・・・・」

手に握ったペンが止まり、机の上にそっと置く。

私は椅子に体重を預けると、天井へ目を向けた。

「寂しいな・・・」

そっとつぶやく。

「友達が、ほしい・・・」

「そうか、欲しいのか」

視界の上のほう、私の背後から、何かが私の視界に入り込んできた。

「!!」

「ああ落ち着け、わしはそこまで怪しいものではない」

巫女装束に身を包み、青黒いまっすぐな髪を腰まで垂らした女が、その白くほっそりとした手を振りながら言う。

ただし、その顔は陶磁器のようなお面に覆われており、目を模した黒丸と吊り上がった三日月形の口が、不気味な笑みを浮かべながら私に向けられていた。

「わしの名はメエズ=ギャレリオン、魔術師だ。お前の願望に応えて、ここまでやってきた」

「・・・・・・ど、どこから・・・」

淡々と続けるメエズ=ギャレリオンに、私はやっとのことで声を絞り出した。

「『どこから入った』という意味ならば、そこの窓から入ったと答えよう。開いておったのでな。

『どこから来た』という意味ならば・・・まあ、中国とでも言っておくか」

メエズ=ギャレリオンはそう言うと、滑るようにして私に接近してきた。

一瞬で距離を詰め、身構えた私の顎を、ほっそりとした手が掴む。

「うぐ・・・」

「一つ聞きたい。お前の『友達が欲しい』というのは、お前自身の真の願望か?」

「な、何を・・・」

「ほんの思い付きなどではなく、お前の心からの望みかどうかを聞いておる」

身を寄せ、装束を押し上げる乳房を密着させながら、メエズ=ギャレリオンは続けた。

「答えよ」

「・・・そ、そうよ・・・私の、心からの・・・望み・・・」

「・・・ふむ、良かろう。それだけの願望があれば十分だ」

メエズ=ギャレリオンは手を放し、私を解放した。

私は床に崩れ落ち、咳き込んだ。

「ごほっ・・・ごほ・・・」

「その前に、わしも少し試したいことがあるからな・・・」

見上げる私の目の前で、メエズ=ギャレリオンが髪をかきあげる。

彼女の頬から首までの間に継ぎ目はなく、滑らかな肌が続いていた。

「お前に力と知恵をやろう・・・どう使うかは、お前の自由だ・・・」

彼女の広げられた五本の指が、私の顔に接近し









目を覚ますと、メエズ=ギャレリオンの姿はなかった。

窓が開け放たれ、カーテンが夜風にはためき、机の上に私は突っ伏していた。

「・・・」

とりあえず身を起こし、窓を閉めてカーテンをかけなおす。

時計を見るとそう遅い時間ではなかったが、私は寝ることにした。

気が付いたら寝ていて、その上あんな夢を見てしまうだなんて、疲れているのに違いない。

幸い、明日の予習や課題はすでに終わっている。

今日ぐらい早めに寝ても、何の問題もないだろう。

明日の準備をし、ベッドに入って毛布をかける。

最後まで点していた、枕もとの電灯を消すと、薄暗い闇が部屋を包み込んだ。









薄暗い、地下道を思わせる石畳の広間に、男達の姿があった。

大柄な者、小柄な者、引き締まった肉体を持つ者、贅肉のついた者、痩せた者、まだ幼いといえる者、老人といってもいい者。

年齢も体格も違う、様々な男達の姿があった。

ただ、皆一様に一糸纏わぬ裸身を晒し、何かを取り囲んでいた。

異様な熱気と声、そして粘液と肉体のぶつかり合う音が私の耳に届いていた。

私が男達の中心を覗こうとしたためだろうか、人の垣根が崩れ、中央にいる者があらわになる。

それは私だった。

男達と同じように裸身を晒し、石畳の上に座り込んでいる。

周りに立つ男達は、私に向けてそのいきり立ったペニスを差し出し、私は嬉々とした表情でそのうちの一本にしゃぶりつき、残るペニスを撫で擦っていた。

男の人のペニスなんて、遥か昔に父さんと一緒に風呂に入ったきり、実物は見たことがない。

しかし、私に向けられるペニスはどれもこれも屹立し、赤黒い亀頭を膨らませていた。

私の顔は上気し、ペニスを吸うことによって頬は滑稽なほどに変形していた。

両手は蝶のように男達のペニスの間を行き来し、触れるペニスを複雑に指を動かして刺激していた。

ペニスを掴み、亀頭を親指の腹で擦り、残る四本の指がペニス全体を揉み立てる。

私の手の中で、ペニスが熱を持ち、大きく脈打つ。

しかし男が限界に達する前に、手を離すと、別なペニスへと手を伸ばしていった。

ペニスの先端から溢れだす透明な液体により、私の両手はべとべとになっていた。

そして、私の側に立つ少年のペニスに、粘液まみれの私の手がかぶさった。

「うう・・・あうっ」

ほんの少し、私が指を蠢かせてやるだけで、まだ大分皮を被ったペニスは痙攣と共に白い粘液を吐き出していた。

粘液は放物線を描きながら飛び、私の胸に降り注いだ。

「ふふ・・・」

私はペニスを口から放し、妖艶な笑みを浮かべながら少年を一瞥し、別な男のペニスへ手を伸ばした。

こちらも同じように刺激するが、先ほどまでとは違い、ほんの少し長めに刺激した。

男が限界に達し、ペニスを脈打たせながら精液を放った。

「ふふふふふ・・・」

体に降り注ぐ粘液に笑みを深めながら、次から次へとペニスを刺激し、射精させていく。

熱を持った体液が顔に、胸に、髪に張り付き、体温と興奮を高めていく。

男達の垣根が蠢き、射精をせがむかのように新たな男が垣根の内側へと寄っていく。

何十回射精させただろうか、男の一人が私の脇に手を差し入れ、床から立ち上がらせた。

そして床の上に寝転がった男の上へ、ゆっくりと下ろしていく。

私は当たり前のような顔で、横たわる男の一際大きいペニスに手を伸ばすと、それを掴み、自分の性器へと誘導していく。

私の性器は大きく口を開いて、湯気を立てそうなほどの熱を持って、愛液を滴らせていた。

男の巨大なペニスが膣口に触れ、何の抵抗もなく私の中へ飲み込まれていく。

「あはっ・・・かは・・・」

内臓を押し広げられる感触に、私は悦びに顔をゆがめながら声を漏らした。

開かれた口に、別な男が無言で寄って、ペニスを押し込んだ。

一瞬息が詰まるが、すぐにどうすべきかを思い出すと、私はペニスに舌を絡めた。

先端から溢れだす粘液が、ほのかな塩味を舌に刻みつけながら喉へ流れ落ちていく。

両手をさまよわせると、誰かのペニスがそれぞれに触れた。

熱を発する硬くて柔らかい肉棒に指を絡めると、それぞれ扱き上げながらペニスを吸い、腰を振る。

「ん、ん・・・ん・・・?」

右の腋に、熱いものが差し込まれた。

誰か我慢できなくなったものが、私の腋で処理しようとしているのだろう。

面白い。

私は汗にまみれ、滑りの良くなった腋でペニスを挟むと、左の腋を広げてみせた。

すぐに誰かが己のペニスを挟ませる。

腰を振る動きと、ペニスを扱く動きに合わせて、両腋を締めたり緩めたりする。

男と私の汗が混ざり合っていく。

「ん・・・?」

不意に背中を押され、前かがみの体勢をとらせられる。

尻が持ち上がり、腰の動きが封じられて肛門があらわになる。

男達の誰かが、私の背中にへばりついた精液を掬い取り、肛門に塗り込み始めた。

精液にまみれた指が、乱暴に括約筋を広げて腸に侵入する。

私は男の意図を悟り、肛門を緩めて男の指を受け入れた。

指による刺激に、腸内に粘液が分泌され、男が塗りこんだ精液と混ざり合い、ぬめりを生み出す。

やがて男の指が引き抜かれると、代わりに熱く指より太いものが挿入された。

ペニスだ。

肛門はペニスを受け入れると、きゅっと締まってペニスを逃がさぬようにし、腸はペニスを奥へと誘うような蠕動を行って、ペニスを刺激し始めた。

無論、私がやっている。

二人の男に挟まれ、ほとんど身動きが取れなくなった私は、変わりに膣や腸を動かすことでペニスを刺激している。

「ぐ・・・!」

私の下に横たわる男が、声を漏らしながら射精する。

沸騰したかのような精液は、私の膣を蹂躙し子宮へと押し入っていった。

精液の熱さに思わず、私は唇と腸と両手の指、そして両腋を締めていた。

『おうっ!?』

急な刺激に男達は声をそろえて上げ、全く同時に精液を放っていた。

全身に、ねっとりとしたゼリー状の白濁液が降り注ぎ、私の肌に上塗りされていく。

体の内外に注がれる精液の感触に、私は恍惚としていた。

やがて射精が収まり、私の舌にいる男以外のペニスが私から離れていく。

だが、すぐに別なペニスがそれぞれの場所に新たに当てられた。

新たなペニスをすぐに咥え、掴み、はさみ、受け入れ、先ほどと同じように刺激する。

一人一人違う反応を見せながらも、私の一際強い責めに、男達はほぼ同時に精液を放っていた。

粘液が体に降り注ぎ、肌を染め上げていく。

新たなペニスがあてがわれる頃には、私はこつを掴んでいた。

下にいる男のペニスは、もう少し味わっていたいから、刺激を弱くし射精させないようにしよう。

右手に納まるペニスは、年齢によるものか少し柔らかい。もう少し強く握って、強く刺激してやろう。

左腋のペニスは大きさや皮の感じ、そしてそちらから聞こえる息づかいからすると少年のもののようだ。もう少し優しくしてやらないと、あっという間に達して、暴発してしまうだろう。

ペニスの大きさや硬さ、その脈動から男のことを分析しながら、一人一人に合わせて責めを変え、皆を同時に射精させる。

時折見える下の男は、数回射精をお預けさせたためか、その体格に似合わない懇願するような視線を私に向けてくる。

私は全身に男達の精液を受けながら、膣の締め付けを緩めて、脈打つ下の男のペニスを絶頂から遠ざけた。

嗚咽とも、苦悶とも、随喜とも取れないうめき声が、彼の口から漏れた。

男達が、入れ替わり立ち代わり私にペニスを刺激させ、精液を浴びせかける。

待ちきれないとばかりに、精液にまみれた髪を手に取り、自身のペニスに巻きつける男もいた。

肛門に挿入する男の間に割って入り、精液を潤滑剤代わりに、背中にペニスをこすりつける男もいた。

足の裏を舌で舐め、唾液にまみれたそこにペニスをこすりつける男もいた。

一度肛門で搾り取ってやったペニスや、足の裏にこすり付けられたペニスを、幾度となく口で咥えた。

しかし、そのいずれも、誰も私には何の嫌悪感もなかった。

むしろ、そんなにしてまで快感を求める男達の姿が、ひどく滑稽で、それでいて私の興奮をかき立てた。

やがて男達が一人、また一人と力尽き、床に座り、寝転がり、休憩を取っていく。

私にペニスを刺激させる者の姿が、次第に減っていく。

最後の一人の射精を口で受けると、彼はへなへなと床に座り込んでしまった。

いや、最後の一人ではない。もう一人いた。

私は、視線を下のほうへ向け、膣内でペニスを屹立させる男に向けた。

いかつかった彼の表情は崩れ、涙と鼻水、涎をたらしながら何事かを懇願するように声を上げていた。

私は口の端を吊り上げると、私の体から彼へと垂れ落ちていた精液を両手で掬い取り、啜りこんだ。

一人一人僅かに味の違う精液が混ざり合い、生臭さを含んだ芳醇な味わいを醸し出していた。

「・・・ふう・・・」

私は精液を飲み干すと手のひらを舐め、残った精液を味わった。

そして右手の小指に至ったとき、その先端に自信の犬歯を突き立てた。

鋭い痛みと共に、指先に穴が開いて血液が溢れだす。

「うふふ・・・」

私は小指の先端を男の胸に当て、ゆっくりと動かし始めた。

何を描くべきかは分かっている。

大きな丸に、四角と三角。内外に出入りする何本もの線に、渦巻きと点。

彼の胸に、複雑な模様が出来上がっていく。

「おい」

不意に私の肩に手が置かれ、いつの間にか全裸の私から引き離される。

男達が横たわる中心に、私は全裸で大柄な男の上に跨っていた。

その全裸の私を、別な私が見ていた。

肩に置かれた手をたどり、背後を振り向くと、二つの黒丸と横倒しの三日月によって構成された、陶磁器の仮面めいた顔の女が立っていた。

「メエズ=ギャレリオン・・・!」

私は、彼女の名を口にしていた。

「あれは、呪法バンコースだ」

黒丸の目を全裸の私に向けながら、彼女が口を動かすことなく言う。

「その昔、サキュバスどもが男から搾り取れるだけ搾り取ろうという目的で、とある術を改変することによって生み出された術だ」

全裸の私は、嬉々とした表情で男の胸に指を這わせている。

「あの術がなぜ廃れたのかを、お前の夢で確かめさせてもらっているところだ・・・さあ、来るぞ」

模様が描きあがり、私は広げた手のひらをその上に重ねるた。

赤い模様が一瞬輝き、膣内で男のペニスが一際大きく膨張する。

「はぐっ・・・」

肺を突き上げるペニスに、私は呼気を漏らしながら膣を締めた。

「うおおおおおおっ!?」

男が、絶叫と共に射精を始める。

脈打つペニスが、数十回分のお預けを喰らったお返しとばかりに、精液を私の体内に噴き出し始めた。

数度の射精により、子宮どころか膣までもが精液で満たされ、膣口から逆流していく。

「ああ・・・」

勿体無い、と思うと同時に膣の更に奥、子宮口が大きく開いて彼の亀頭を咥えこんだ。

放たれる精液が子宮で受け止められ、子宮が膨らんでいく。

「おおおおおおっ、ああああああっ!!」

男は絶叫を上げつつ、射精を続けている。

すでにその量は1リットルを超えているのに、射精の勢いは収まるどころか、増すばかりであった。

心なしか、見下ろす男の顔がやつれているように見える。

いや、本当にやつれている。

体内の水分を全て精液として出そうとするかのように、彼の体が次第に細っていく。

「おおおっ・・・ああ・・・」

彼の声も力を失いつつあった。

そして彼と同じように、私もかなり危ない状況に陥りつつある。

膣がペニスをがっちりと締め付け、子宮が亀頭を咥えて離さない。

それによって、男の放つ精液はすべて私の体内に溜まっている。

私の子宮は逃げ場を失った精液により、膨れ上がってきていた。

今はまだそこまでないが、腹が臨月の妊婦のようになり、それを超えて破裂してしまうのは目に見えていた。

ペニスを離さないと、死んでしまう。

頭では理解していても、膣の中で脈打つペニスと注ぎ込まれる精液の熱さ、そして苦悶の表情で声を上げる男の姿が、私にそれをさせなかった。

射精は収まる気配を見せず、代わりに男の体が縮んでいく。

手足を縮め、己の血肉を精液に変えて放っている。

すでに私の腹は臨月を迎えた妊婦どころか、用事が一人入っているといってもいいほどの大きさになっていた。

突き出た腹の向こうに、男の顔が隠れていく。

「あはぁ・・・いっぱいぃ・・・」

内臓を圧迫する子宮により、浅くしか呼吸ができない。

血流が押さえられ、どんどん爪先の感覚がなくなっていく。

でも、血の流れと呼吸が止まる前に、腹が破裂してわたしは死んでしまうのだろう。

死んでしまい、こんな快感はもう得られないのだろう。

もう、二度と。

「そんなの・・・やらぁ・・・」

もっと生きたい。もっと生きて、この快感を味わい続けたい。

私は、強く願った。

そのとき、背中と尾てい骨の辺りに軽い衝撃が走った。

新たな感覚が生まれ、何かが背中と尻から生えている。

その何かが大きさを増すに連れ、腹の張りが緩み始めた。

子宮が、その内壁から精液を吸収しているのが分かった。

破裂寸前だった腹は、見る見るうちにその大きさを減じていき、代わりに背中と尻の感覚が大きく、重量感と共にその存在を主張し始めていた。

張り詰めた腹の皮膚は、伸びきって弛むことなく元のウエストを再現する。

背中の感覚も、尻の感覚も、伸びた皮膚が元に戻るのも、すべて精液を摂取しているためだと、直感で分かった。

子宮内の精液はすでになくなり、ペニスに更に精液を放つよう要求するかのように蠢動していた。

男の身体はすでに新生児ほどの大きさになっている。

短く、頼りない手足を弱々しく動かしながら、不釣合いなほどに巨大なペニスから精液を放ち続けている。

皮膚が筋肉が血管が神経が血液が毛が骨が、精液に変換され、尿道を駆け上り私の子宮に注ぎ込まれる。

やがて彼の姿はもう、人間とは言い難いものになりつつあった。

人のペニスを備えた、何もかもが未熟な肉塊。

生物の発生を逆回しにするように、その体が単純な形になり、細胞数が減少していく。

そして本体を失ったペニスさえもが、自身を精液に変えながら射精し続けていた。

根元から幹が縮んでいき、子宮内に亀頭だけが残る。

亀頭も見る見るうちに縮んでいき、精液へと溶けていく。

そして、彼を構成していた最後の細胞が精子と化し、私の子宮内壁へ飲み込まれていった。





「終わったか」

床の上に座り、ぼんやりと虚空を見上げる私を見ながら、メエズ=ギャレリオンがつぶやいた。

「こうしてみると、男を飼って精液を搾り続けたほうが、よっぽど安定した供給を受けられるし、何しろ総量が多いな」

虚空を見つめる私の背中からはこうもりのような翼が生え、尻と腰の間からは細長い円錐形の尻尾が生えていた。

どちらとも、ぬらぬらとした粘液に包まれて、肌色の表面をてらてらと光らせていた。

「さて、これでお前は擬似とはいえ、サキュバスになれる」

メエズ=ギャレリオンが、言葉を続ける。

「このままわしがあそこにいるお前を連れて行けば、お前はまた元のように生活できる。お前が、あそこにいる自身を受け入れれば、お前はサキュバスになる」

何を言っているのかは分からない。

でも、これが変わることができるチャンスだというのは分かった。

「さあ、選べ」

「私は・・・」

私は、変わりたい。

今までのような、孤独な私はもういやだ。

どんな方法でもいい、私は人に囲まれたかった。

だから―

「私を、受け入れる」

私は、選んだ。







気が付くと、体が火照っていた。

粘液にまみれた裸身を、ほのかな風が撫でるたびに心地よい涼しさが感じられる。

肩甲骨の中心と、尻と背中の中間辺りに、重量感と慣れない感覚があった。

二枚の翼と、尻尾だ。

顔を向けると、少しはなれたところに巫女装束の誰かが立っていた。

青黒く長い髪に、陶器のお面のような黒丸と横倒しの三日月でできた顔。

メエズ=ギャレリオンだった。

彼女の側に私の姿はなく、私はこの場所にただ一人であった。

「わしはもう去るが、そこでその体になれるといい」

彼女はそういうと、私に背を向け歩き始めた。

「それではさらばだ。星辰の巡りが合えば、またそのときに」

青黒い髪が、闇の中へと消えていった。

「・・・・・・」

私は少しふらつきながら、石畳の上に立った。

首をめぐらせば、力尽きて転がる男達の姿がいくらでも目に入った。

「ふふ・・・」

翼を広げ、尻尾を掲げる。

今までにはなかった感覚だが、どう力を入れれば動くのか、私には分かっていた。

そして、もう一つ。新たな感覚が私の中にあった。

「うふふ・・・ふふ・・・」

体のどこでもない場所に力を込めると、体にへばりついていた精液が剥がれ、虚空へ持ち上がった。

精液の雫がまとまり、球状の固まりになっていく。

両手に乗るほどの塊を、私は頭上より、両手が届かぬほどのところへ掲げた。

そしてゆっくりと回転させながら、塊から幾本もの枝を床に水平に伸ばす。

枝が伸び、分かれ、交差し、形を成していく。

何を描くべきかは分かっている。

ついさっき、私に全てをささげてくれたあの男。

あの男の胸に描いた、呪法バンコースの図形。

空中に、大量の精液を用いた巨大な図形が描きあがっていく。

私は描きあがった図形に向けて両手を構え、意識を集中した。

瞬間、図形が輝き、その下に横たわる男達に光が降り注いだ。

「うわあああああっ!?」

力尽き、完全に萎えていた男達のペニスが、すべて元のペニス以上に勃起している。

「あははははっ!」

何が起こったのかわからない男達の上げる声を背景に、私は笑った。

手始めに、側に転がる男の側に屈んだ。

仰向けになり、天井に向けて屹立するペニスに手を伸ばすと、それを掴み扱いた。

手がほんの一回上下するだけで射精が始まり、噴き出す精液が私や男、床の上に降り注ぐ。

「うわああ、あああああ!?」

いつまでも射精し続けるペニスを扱き、精液を搾り出し続ける。

やがて彼の姿が縮んでいき、ペニスに飲み込まれ、ペニスさえも消えていった。

男が精液に溶けていったのを確認すると、私は次の男の側に屈んだ。

ペニスを掴み、上下に扱く。

ただし今度は、動きに緩急をつけて、握力を微妙に変化させながらだ。

刺激の変化にペニスは喜びの脈動をし、絶叫する主を溶かして精液として放つ。

先ほどの男よりももっと早く、彼を精液にすべて変えてしまうことを目指して、ペニスを扱く。

一人、また一人と精液に溶かしながら、私は様々なことを学んでいった。

どのように力を込めれば男は感じるか、

どこを刺激すれば男は感じるか、

足で扱くにはどうすればいいか、

膝の裏や脇で感じさせるにはどうすればいいか、

翼で刺激するにはどうすればいいか、

尻尾をどう巻きつけてやればいいか、

ペニス以外の全身を翼で包み、射精に至らせるにはどうすればいいか、

男の肛門を指や尻尾でほじり、イかせるにはどうすればいいか。

全身を使った男の責め方を、私は一人一人使いながら、覚えていった。

そして、最後の一人のペニスが私の翼の間で溶けていった。

私は床の上にできた精液溜まりの真ん中に座り込んでおり、白濁粘液が翼の間からそこへ滴り落ちていった。

床が凹状になっているのせいか、液面は座った腰にまで達していた。

「うふふふ・・・あはははは・・・」

男達だった巨大な精液溜まりを掬い取り、水浴びでもするように全身に浴びせかける。

ほのかに残る男達の体温が心地よい。

「あはははは・・・」

掬い取った精液に口をつけ、啜る。

ほのかな苦味の混ざった粘液が、喉に絡まりながら胃へ落ちていく。

精液に浸った膣が大きく口を開き、子宮が精液を啜り始めた。

尻尾の先に開いた針で突いたほどの穴が大きく広がり、精液を吸っていく。

翼が垂れ、液面に触れてその表面から精液を吸収する。

数十人分の肉体によってできた精液が、私の中へ吸い込まれていく。

取り込まれた精液が、物質とは違った形で、私の中に蓄えられていく。

やがて精液溜まりはその大きさと深さを失いっていった。

私は石畳に残る粘液を、這い蹲り舌で嬉々としながら舐め取り、すべて飲み込んだ。

「ふう・・・」

最後の一滴さえも舐め取った後で、石畳の上に仰向けに横たわった。

「ああ・・・おなかいっぱい・・・」

一人になってしまったが、私の中には何十人もの男達がいた。

私は、安堵感と満足感を味わいながら、まどろみに身を任せた。









目覚まし時計のアラームに目を覚ます。

背中に触れているのは石畳ではなく、柔らかなシーツ。

目に入る景色はどこかの地下室ではなく、私の部屋。

体の中にあるのは満足感や安堵感ではなく、不安と孤独。

ただ、翼と尻尾の感覚だけがそのまま残され、あの夢が現実であることを物語っていた。

「ああああ・・・!」

身を焼くような孤独と人恋しさが、全身を苛む。

もう、誰でもいい、誰かに抱きしめて欲しい・・・!

(だめ、だめよ・・・)

ここは夢ではない。

だれかれ構わず抱きしめてもらえば、きっと大変なことになる。

私が意識をこらせば、翼が小さく縮み、尻尾が体内へ埋没していく。

これで、人目は気にせずに済む。

孤独も、人恋しさも、どうにか堪えられそうだ。

私は、異常をその体に抱えながら、いつものように登校した。

そしていつものように過ごそうと思ったが、時が経るに連れてそれが無理だということを悟った。

男子生徒が側を通っただけで、体が熱くなる。

女子生徒とすれ違うだけで、彼女を押し倒しそうになる。

欲望に震える体を強引に押さえつつ、私は品定めをするような目で、クラスメイトを見ていた。

相手にするのなら誰でも良かったが、私の人間としての理性がそれを妨げている。

もはやほとんど意味がないが、初めての相手は慎重に選びたかった。

やがて、私の目に一人の男子生徒が止まった。

彼ならば、初めての相手としても十分だ。

ノートの切れ端に記された文字を確認し、小さく折りたたむ。

教師が黒板に向かった瞬間を見計らい、私は前の席に座る男子生徒の背中をつついた。

差し出された手のひらに、折りたたんだ紙を渡す。

紙に記した文章はこうだ。

『放課後、私の家に来て』






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