骨の髄まで




彼がどうやってそんな美しい女性と知り合ったのかとか、どうやってホテルに誘ったのかとか、そんなつまらない話は割愛させていただきたい。

とりあえず、ありがちな成り行きで、このような行為に及ぶことになったのだと思ってもらいたい。



ここまで起こったことで唯一言及する価値がある話題というと・・・ホテルに行く前、喫茶店でのことくらいだろうか。

その女性はアイスクリームを食べていた。彼が初めて勃ったのはこの時だった。

アイスクリームを食べていたくらいでなぜ彼が勃ったのかって?

・・・これは、少々特殊な性癖を持っている人にしか理解できない感情であろう。

アイスクリームがその女性の口の中に入っていって、その柔らかそうな舌の上で融けていく様子。

そのアイスクリームが呑み込まれ、くちびるにそっと舌が這う様子。

そしてその女性がまた口を空けた時に、唾液がつうっと糸を引く様子。

彼にはそれがたまらないのだ。

釘付けになってしまった視線はどうにか外の景色にそらすことができたが、釘のように固くなってしまった一物はいかんともしがたかったのである。

それを見透かしたかのようにその女性が意地悪く、

「私としたくなったんでしょ?」

と言いながら舌をペロッと出したところで、彼は早くも先走ってしまった。

いくら舌に特殊な興味を持っているとはいえ、これくらいのことで漏れてきてしまうとは・・・彼は期待と恐怖の入り交じった不思議な感覚にとらわれるのであった。



さて、話をホテルに戻そう。

後からシャワーを浴びながら、彼はまたその女性の舌を思い浮かべていた。

あんな舌が自分の体を這ってきたらどうなるだろう。あんな舌に絡めとられるキスってどんなだろう。

またもや勃ち始めたものを危なく処理してしまいそうになる。



彼がシャワーから出てくると、既にその女性はベッドの中にいた。

おそらく既に一糸まとわぬ姿で自分を受け入れる体勢に入っているのだろう、と彼の期待は膨らむ。

しなやかな体のラインが妖しげな起伏を形作っている。魅力的な裸体が拝めるに違いなかった。

そっと彼もベッドに入る。

いつも他の女性とする時のように髪を撫でると、その女性も他の女性と同じように少しずつ体を寄せてきて、他の女性と同じようにくちびるを欲しがるのだった。

そして彼が、これまたいつものように、そのくちびるをゆっくりと奪うと、その女性は少し気持ち良さそうな声を出しながら彼の身に腕をまわしてきた。



いつも通りなのはそこまでだった。



初めてその女性の裸体が彼の体に触れた瞬間、彼は異変に気付いた。



これは肌ではない!



舌だ!



そんな馬鹿な、という気持ちも起こるが、そのような迷いすら舐めとられてしまうような妖艶な愛撫に、彼はもだえるしかなかった。

ぬらぬらと体にまとわりついてくるその手も、その足も、形のいい胸も、ふくよかなお腹も、感触はまるで舌そのもの。

早い話が、人の形をした巨大な舌にしゃぶられているのである。

何がなんだかわからずにされるがままになっている彼に、その女性は言う。



「どう?私の肌、気持ちいいでしょ。体ぜんぶを使って、あなたのことを舐めてあげる」



その女性が両手で彼の首筋を舐め上げる。そのまま彼の体に抱きつけば、彼は全身を舐められるような感覚に思わず喘ぎ声をあげるのである。

両足で彼の下半身を愛撫する。股間を中心に、丹念に足を絡ませれば、彼の下半身の高揚はもはや止めることができないのである。



そして、ぬらぬらとした両ももが彼のペニスを挟んで上下運動を数回・・・



どぴゅっ・・・びゅるるるるるる・・・



まだセックスは始まったばかりなのに、もうイカされてしまった。

射精がなかなか止まらない。彼はぐったりとベッドの上に伸びる。



「ああん。おいしい」



舌なめずりをするその女性。

彼はここで、自分の発射したものが既にこの世から消えてしまっていることに気付くことができなかった。

ここで気付いていれば・・・いや、気付いたところでもはや、彼に選択肢はなかったのかもしれない。

舌のようなその肌の感触の虜になってしまった彼は、愚かなことに2度目に挑もうとするばかりだったのである。



2度目の愛撫はさらに激しかった。

全身が舌と化したその女性は、四肢を彼の股間に、脇に、全身にまとわりつかせ、体の隅々まで舐めつくす。

あるいは横から、あるいは馬乗りに、あるいは全身で挟むように、彼の体をぐにゅぐにゅと咀嚼する。

放心状態でされるがままの彼は、時折どくどくと射精をする。



射精をすると、一時的に興奮が引いて意識がはっきりと戻ることがあった。

自分の置かれた状況が、少し見えてくることがあった。

どうやら相手は通常の人間ではないらしい、ということにも薄々気付いていた。

気付いたところで、もうどうしようもないのである。

自分に覆いかぶさっているその女性の体と、自分の体の間に、まるで唾液が糸を引くように、ぬらぬらとした液体が光っているのが見えた。

これは汗ではない。ローションか何かをつけているわけでもない。

このままでは何かまずいことが起こる、ということくらいは感づいていた。

しかし・・・



「おいしいわ・・・もっと味あわせて・・・」



にちゃにちゃと糸を引く女性の裸は、一瞬戻った彼の理性をまた呑み込んでしまう。

「おいしい」とはつまり・・・



「そうよ。私の肌は舌でできているの。あなたのことを、全身で味わうことができるの。このまま、あなたの形が無くなるまで舐め続けてもいいのかしら・・・?」



もうこのままどうなってしまってもいい。

彼はそう思うようになっていた。

もはや彼の心まで絡めとってしまったことに気付いたその女性は、明らかに声を上ずらせながら言うのだった。



「そう・・・それなら・・・骨の髄までしゃぶりつくしてあげる」



体と体がこすり合わさるたびに、その女性の体から流れ出る液体ーもう「唾液」と言っても良いだろうかーは量を増していく。

ぐちゃぐちゃと唾液まみれになった彼の体に、その女性はさらに唾液を塗り付けていく。



「あなたの体が溶けてくるのがわかるわ・・・あなたのエキスが私の体に染み込んでくるの・・・」



その女性は、自分の体から分泌される唾液状の液体で、相手の体を消化して吸収することができた。

獲物はもう、快感の中で肉体をゆっくりと溶かされて、糧となるしかないのである。

それはその女性の食欲だけではなく、性欲も同時に満たすこととなった。

自分の腕の中で相手が消化されていくことがこの上ない快感なのだ。



「あああぁっ。もっと・・・もっととけて・・・私に食べられて・・・ああああ!」



興奮すればするほど、女性の体から大量の唾液が分泌される。

2つの体の間には、糸を引くどころか、まるで口から涎をだらだらと垂らすかのように止めどなく液体が流れ始めた。

彼の肌はだんだんとふやけていく。

液体と化している部分もあるかもしれないが、そんなことはわからない。

とにもかくにも、彼は、消化されつつあることを悟った。

そして、最期の快感を得るべく、彼はおもむろに動き出す・・・



今までされるがままだった彼が、起き上がってその女性を押し倒したのだ。

一瞬驚いたような顔をしたその女性は、彼が覆いかぶさってきたのを感じると、か細い声で言った。



「挿れて・・・もう・・・あなたのことが飲みたいの・・・」



彼は迷わなかった。

既に消化されつつある彼は、それでも本能のままにその女性の陰部とおぼしき部分に自分自身を挿れるのであった。

その中は・・・陰部の心地よさと、口内の心地よさとが混じり合ったような、と言えば良いのだろうか。

女性器のような締め付けとともに、フェラチオを感じさせるその動き。

彼は自分が次第に崩れていくのを感じた。



ぐちゅ・・・ぐちゅ・・・ぐちゅ・・・



射精するたびに体が崩れていくような不思議な感触だ。

その女性の、舌のようなお腹の上で、あるいはお腹のような舌の上で、アイスクリームのように融けていく自分の体を見て、彼はますます激しく射精する。

彼の一部は既に膣に飲まれていたが、それ以外の部分は舌の上で液体となって少しずつ女性の体に吸収されていた。

形を成さなくなってもなお、彼には快感だけが残されていた。

女性の柔らかな舌の全身の上で液体と化して吸収されながら、最期の快感を味わうのだった。



そして、その女性の体は一枚の舌となって彼を嚥下するように闇に消えていった。






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