妖魔貴族に花束を 第四.一話 とある退魔士の自覚




時系列としてはアイアンクローの数分後。

場所はエミリア邸の食堂。

整一と歩夢が向かい合って座り、その二人の横……テーブルの端にマルガレーテが座り、その後ろにエミリアが控える。

「ノイエンドルフ城を制圧してマルガレーテを説得した……?」

淫魔ハンターや魔術師が聞けば、何を阿呆な事を、と切って捨てるようなことを呟くように言った。

「まぁ、な」

整一は困った、という表情で頷く。

「それがどれだけ出鱈目だか君は理解しているのか!?」

ガタン!と大きな音をたて、立ち上がる歩夢。

その目は怒っているような、尊敬しているような、複雑な色を宿している。

対する整一は、淫魔やら魔術やらが存在することすら最近まで知らなかったのにそんなこと言われても……と頭を掻く。

「理解していないからこそ厄介なのでしょう?」

諦念に満ちた声でマルガレーテが言う。

それをムッとした表情で見る歩夢。

「確かに君は『そういう』人間だが……」

「ちょっと待った委員長」

「……なんだい?」

「『そういう』ってどういうことだ?」

怪訝な表情を浮かべ、疑問を呈する整一。

「……てっきり浩介さんが説明していると思ったのだが……まだだったか」

歩夢はふう、と溜め息をつき、椅子に座りなおして一拍置いてから説明を始めた。

「そもそも城島家……もっとも、名を何度と無く変えているから純粋には違うんだが便宜上そう呼ぶよ。城島家は遥か昔から退魔の家系でね、私の宇垣家……あぁ、こちらも名を何度も変えているから便宜上だよ……それは城島家の分家の一つなんだ。他にも忘れ去られてしまった退魔の家系はまだ幾つかあるんだが…これは話の本筋ではないね」

整一に話を咀嚼させてから続きを話す。

「城島家の一族は現代に至るまで退魔を行ってきた。当然、科学の発達していなかった過去に人類は魔に対して己の力に頼って戦うしかなかったんだ。当然犠牲は大きかった。だから昔の人は考えたのさ、『バケモノより強いニンゲンを造ろう』ってね。ここまで言えば分かるんじゃないかな?」

「「「……」」」

整一はもとより、マルガレーテもエミリアも絶句している。

「人間の執念とは実に恐ろしいと思うよ。数百年に渡って魔術的な遺伝子改造は続いたんだ。そうして出来上がったのが私と整一君、君だよ」

歩夢は無表情のまま話を続ける。

「ほとんど呪いと言ってもいい。君は普段深層心理でリミッタをかけているからそこまでじゃないけど、本気を出せればまずこの世界で君が殺せない生物はないよ。相手の存在自体に『殺す』という概念を流し込むんだから。それに加えて抗魔力や身体能力はすでに『生物』としての枠を超えている。ただ、それを開花させるための努力は必要だったようだがね」

整一の表情はすでに困惑を通り越して呆れだ。

「驚いたね、俺は魔王だったのか」

「なるほど、上手い例えだ。ただ、君の場合『殺す』ことに特化しているから『殺人鬼』の方が合っていると思うよ」

歩夢の言葉を聞いて、しかめっ面になる。

「ハンターとしては究極ね」

マルガレーテの表情には気分が悪い、と大きく表れている。

「じゃあ委員長も?」

「いや、私はそこまでではないよ。だから君がそれを知るまでの護衛兼お目付け役になっていた訳だよ」

「そうか……委員長は全部知ってたのか……」

「……」

整一の声は決して明るくない。

「委員長……」

「……なんだい?」

「ありがとな」

整一の口から出た言葉は罵倒や拒絶ではなく、感謝だった。

「……!?」

「今まで委員長にずっと守られてたんだな」

「い…いや、実質監視役の方が正しい……」

「でも何も知らない俺を守ってくれてたんだろ?ほんとにありがとう」

「……気にしないでくれ。私も君と友人でいることに不満はないんだ」

整一の言葉にはにかんだ表情で返す歩夢。

「ちょっと待ってもらえるかしら?」

そこにマルガレーテが声をかける。

蚊帳の外に置かれていたからか語気が若干強い。

「なんだい?」

「そうだとしたら私たちは今頃整一に血祭りに上げられているのではないかしら?」

言いながら本人もそれは無い…という表情を浮かべている。

「うぅん、言った通り整一君は自分の意思とは関係無い所でリミッタをかけているし無自覚だった。なにより整一君の性格がコレだからね。多分自覚していたとしても結果は変わらなかったと思うよ」

歩夢の説明も、形式以上の意味は無い。

「なんにせよ、それを自覚していない内にそれだけのことが出来るってことか」

予想以上だよ、と苦笑する歩夢。

当の本人は、肩を竦める以外感情を表さなかったが……。









第四.二話 夜にKを付けた話





「…………」

自室のベランダから夜空を眺める。

ここ数日の展開があまりにも滅茶苦茶過ぎていい加減頭痛とか胃痛とかが併発しそうな整一である。

階下では整一の両親、宇垣家、そしてノイエンドルフ家が話し合いを展開している筈だ。

ノーブル・ロードと人間の同盟など、史上初めてと言っていいため、両者とも細かいすり合わせを行うとのこと。

何も知らない整一は居ても邪魔になるだけだと、追い出されてしまったのだ。

「……はぁ」

諸々の感情を込めて溜め息をつく。

「それは何に対しての溜め息かしら?」

「……終わったのか?」

カラカラと窓を開け、当のマルガレーテがベランダへと降りてくる。

「えぇ」

小さくコクリと頷くマルガレーテ。

どうも雰囲気が変だ。

「……どうした?」

「………」

整一の質問にもどこか上の空だ。

「……ねぇ整一」

「だから何だよ」

スッと、整一を見るマルガレーテ。

「私のナイトになってもらえないかしら?」

「……?」

ないと…ナイト…内藤?



―knight

1、騎士(王又は君主に仕え、土地を与えられた武士)

2、勲爵士,ナイト,(baronetの次位でsirの称号を許される)

3、(チェス)ナイト(馬の首の形をした駒)



「人間将棋ならぬ人間チェスか。他には誰が参加する……すまん、冗談だ」

不貞腐れたように頬を膨らませてこちらを可愛らしく睨むマルガレーテに、素直に謝る。

「こちらに居る以上、私も大っぴらに力を使えないのよ。分かるでしょう?こちらに来た原因は貴方なのだから貴方が責任を持って私を護りなさい」

いつもの調子が戻ったのか、命令口調だ。

「…………」

それに対し、整一は無言。

「エミリアに護衛を頼めばいいのだけれど、人間との友好の証にするのもいいかと思っただけよ、深い意味は無いわ。それに、貴方は私に「人間を殺すな」と翻意を懇願しただけで対価を十分に払っていないのよ?本来ならその生命全てでも払いきれないのに、私の好意だけで………」

無言の整一に、早口で捲くし立てる。

しかし、整一が無言なため、段々語気が弱くなる。

「だから……その……ど…どうしても嫌と言うのなら無理強いはしないけど……」

最後の方は、これがノーブル・ロードと称される者の言葉かと思うほど弱々しいモノとなる。

「……ふっ」

そのあまりに貴重な光景を前に整一は表情を緩める。

「あーっはっはっはっはっはっは!」

「な…何よ!何が可笑しいのよ!?」

ポカポカと整一の胸を叩くマルガレーテ。

「いや、すまん、まさかそんな風に言われるとは思ってなくてな」

目尻に浮かんだ笑い涙を拭いながら謝る整一。

「そんなこと言われなくたってこっちに引きずりこんだのは俺なんだからさ、出来ることはやってやるよ」

微笑みながらそんなことを言う整一。

「当然でしょ!」

フンッ、と腰に手を当ててそっぽを向くマルガレーテ。

その頬が若干朱に染まっているのは見間違いだろうか?

「OK、ナイトでも侍でもなるよ」

「では、跪いてもらおうかしら?」

「……早速なんのプレイだ」

「茶化さないで」

やれやれ、と片膝をつく整一。

マルガレーテはいつの間にか西洋剣をもっており、両手で持ちながら整一の肩に刀身を当てる。

「マルガレーテ・ノイエンドルフの名に於いて、汝、城島 整一を我がナイトに命じる」

「城島 整一はマルガレーテ・ノイエンドルフのナイトになることを誓う」

二人を月の光が照らす。

魔術的な契約も、なんの強制力もない言葉だけの誓い。

しかし、マルガレーテには、とても特別なモノに感じられた……。









第?話 予告編





とある日



「侵入者!数は4!」



アルプスは



「正門と裏門に二人ずつ……か」



戦場となる!



「なんでこんな時に限って……いや、こんな時だからこそ……か?」



「ブローニングでも用意するかい?当たれば上級といえどミンチに出来るよ」



「マルガレーテ様をお守りすることが私の使命です」



「整一達だけに任せて待っているなんて出来ないわよ。私も行くわ」



「なぜ人間が淫魔に協力している……?」



「沙亜羅待って!罠だ!」



「……協力しようなんて言う訳?信じられるわけないでしょ!」





「まさか…こんなカタチで再会するなんて……な」



―姉上―





妖魔の城「俺」、「僕」に続く非公式IFストーリー!



「なんなのよコレ!」

「ザク○ラッカー。いいから投げろ」



鋭意製作中!

調子こいてスンマセン。




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