11月22日 湯煙の思い出




今日の分の仕事を終え、荷物をまとめていると同僚が声をかけてきた。

「おい、今夜飲みにいかね?」

「悪い、家で嫁さんが待ってるんだよ」

「ヒュー、お熱いこって」

茶化す彼に苦笑いを向けながら、僕は机の上のペットボトルを手に取り、蓋を緩めた。

「ありゃ、まだそれ飲んでんのか?」

「ああ、嫁さんが体にいいから、って入れてくれるんだよ」

ペットボトルは、海外のミネラルウォーターのものだが、中身は毎日妻が入れてくれる、特別な水だ。

「前にもらったときも言ったが、酸っぱくてあまり飲めなかったぞ」

「ま、健康飲料だからな・・・僕も無理には薦めないよ」

うっかり薦めでもして、気に入られたら困る。

僕はペットボトルに口をつけると、残った水を一口含んだ。

口内を潤す水は、どこまでも甘い。

同僚は自分の椅子の背もたれに背を預けると、続ける。

「あーあー、俺も嫁さん欲しいなー」

「欲しけりゃ結婚すればいいじゃないか」

「相手が居ればね。・・・なー」

「何だ?」

「今度、お前ん家遊びに行ってもいいか?」

「・・・まあ、別にいいけど」

「本当か!?よしっ!」

おそらく、ユカに会えると思ってテンションが上がっているんだろう。

妙にはしゃぎだす同僚を見ながら、僕は苦笑した。

―もう、何度か会っているのにな。

ペットボトルの中で、水が揺れた。











彼女と出会ったのは、僕がまだ学生の頃だった。

留年してしまった年の冬休みに、僕はバイクであちこちを旅行していた。

その道中で、僕はよく言えば秘湯、悪く言えば寂れた温泉宿にたどり着いた。

そしてその温泉宿の混浴の露天風呂、夜空の下で僕達は出会った。











電車を乗り継ぎ、駅からしばらく歩いた場所にあるマンション。

その一室の玄関の鍵を開き、扉を開けながら僕は声を上げた。

「ただいまー、ユカ」

「お帰りなさーい」

キッチンから、彼女が応える。

キッチンを覗くと、なべを前にした彼女が、何かを煮ていた。

「もうすぐご飯できるますど、どうします?」

こちらを向くと、エプロンを押し上げる大きな鞠二つが、彼女の動きによって揺れた。

「あぁ、じゃあ先にご飯にするよ」

「はーい、わかりました、あなた」

僕はネクタイを緩めながら、部屋の奥へと入っていった。











白状すると、僕は彼女に一目惚れした。

彼女のほうも、それなりの好意を僕には抱いていたらしいが、突然の告白には戸惑っていた。

無理もない。

後の彼女の言葉によると、今まで幾人もの男性と肌を重ねたことはあったらしいが、僕ほど真剣な男は初めてだったそうだ。

当初、僕はその温泉宿を一晩で後にする予定だったが、二日、三日と滞在し、彼女の元に通い続けた。

そして三日目の夜。

彼女は僕の告白を受け入れてくれた。











じっくりと煮込まれたビーフシチューに、カリッと揚がったカツレツ、新鮮な野菜のサラダ。

それが今夜のメニューだった。

「おぉ・・・うまそう・・・」

「どうぞ、召し上がれ」

テーブルを挟んで座り、僕はスプーンを手に取った。

「いただきまーす」

シチューを掬い、口へ運ぶ。

口内に濃厚な味わいが広がり、市販のルーを使っていない、手の込んだものだということが一瞬で分かった。

「はぁ・・・うまい・・・」

「うふふ、お粗末様」

テーブルの向こうで、彼女はにこやかに微笑みながら、僕を見つめていた。











彼女が僕を受け入れ、僕たちは結ばれた。

本来ならばそれでハッピーエンド、とするべきなのだろうが、問題が一つだけあった。

それは、彼女がこの温泉宿から離れることができないということ。

そして、僕の旅費に限界があるということだった。

彼女がバイクに乗れるのならば、すぐにでも一緒に東京へ帰るつもりだった。

僕に金が十分にあるのならば、このままこの温泉宿で暮らすこともできた。

しかし彼女はバイクに乗ることはできず、僕には金がなかった。

大学を辞め、この温泉宿に住み込みで働くことも考えたが、彼女はこの地にあなたを縛り付けたくない、と首を振った。

八方塞りのまま、日が刻々と過ぎていった。

そして年が明け、そろそろ東京に戻らなければならなくなった頃、一人の女が温泉宿に訪れた。

女の名は・・・確か、由香と言ったか。

女は僕と同い年くらいだった。

染めた髪も髪型もファッションも、似合ってはいるのだろうが彼女とは比べるまでもなかった。











風呂場で、黙々と頭を洗う。

日々のストレスは彼女が癒してくれるが、頭皮への疲労はシャンプーによるマッサージでしか取れない。

彼女は、あなたが禿げてもあなたを愛している、と言ったが、僕としては十分な頭髪のある状態で老後を過ごしたい。

そのためにも、日々のシャンプーには気合が入っていた。

シャワーで泡を洗い流し、頭皮にシャンプーが残らないよう丹念に湯をかける。

ガラガラガラ

「背中、流しましょうか・・・?」

風呂場の戸が開き、彼女が声をかける。

「ああ、お願い」

「はい、失礼します」

心なし風呂場の椅子を前に移動させ、彼女が入れるだけのスペースを作る。

彼女は風呂場に入ると、床に膝を下ろしタオルを手に取った。

石鹸をこすり付けて泡を立て、僕の背中にあてがった。

そして、優しく背中を擦り始める。

「痛くないですか?」

「ああ、ちょうどいいよ」

強すぎず弱すぎず、ほどよい心地よさで彼女の握るタオルが背中を洗っている。

やがて背中全体を洗い終えると、ユカは僕の体の前面に手を伸ばしてきた。

無論風呂場には彼女が前に回れるほどのスペースはない。

だから、彼女は僕の背中に抱きつくようにして、僕の前面を洗っているのだ。

彼女の肌が密着し、僅かに低い彼女の体温が、僕の背中を通じて感じられる。

背中に付いた石鹸の泡が、彼女の乳房によって塗り広げられていく。

「ねえ、あなた・・・」

一通り胴体を洗い終えると、彼女は肌を密着させたまま耳元で囁いた。

「このまま、お風呂で・・・」

「駄目だ」

「え?」

きょとんとした顔の彼女に、僕は続けた。

「いつも言ってるだろ?『ありのままのユカを愛したい』って」

「・・・そうでしたね」

彼女は微笑みながら身を離すと、タオルを僕に向けて差し出した。

「それじゃあ私の背中、流してくださいますか?」

「ああ、いいよ」

僕はタオルを受け取った。











その計画を思いついたのは、僕だった。

一日中露天風呂に居座り、女が入ってくるのを待つ。

こんな地方の温泉宿に、温泉以外の目的で客が来るとは思えない。

女を待つのは苦痛ではなかった。

むしろ、彼女と語り合うことができるので、待つという感覚さえなかった。

寒くなったら肩までつかり、のぼせそうになったら上半身を寒空に晒す。

湯に体を浸したまま、僕は女が来るのを彼女と待っていた。

昼過ぎ、女が露天風呂に入ってきた。

僕は女から視線をそらし、できるだけ離れるよう湯船の隅へと移った。

女が湯船につかり、しばしの時が流れる。

―いい湯ですね。

女が言った。

―ああ、いい湯ですね。

僕は応えた。

―もしかして、お一人ですか?

―ええ、まあ。

―そうですか、あたしも一人なんです。

距離を置いたまま、僕と女の対話が始まる。

他愛のない、どこを通ってきたかとか、どの温泉がよかったとか、そういうつまらない話だった。

―それで、次はどちらへ向かう予定なんですか?

―僕は、一応○○の方へ。

―ああ、奇遇ですね。あたしもなんです。

行き先が同じだと喜ぶ女の姿に、僕は反吐が出そうだった。

旅費がほとんどないから、僕と同行してたかろうとする魂胆が見え見えの、実に吐き気のする女だ。

怒鳴り散らして湯船から上がり、とっととこの場を後にしたい欲望を押さえ込み、僕は応えた。

―ああそうだ、もしよければご一緒に行きませんか?

―え?いいんですか?

―ええ、旅は同行者が多いほうがいいでしょう。

このクソアマめ、と叫びたくなる衝動を堪え、あくまで紳士的に振舞う。

―僕は鶯の間なんで、何かあったら来て下さい。

―じゃあ、後で行きます。

―それでは、そろそろお先に失礼します。

湯船から上がり、露天風呂の出入り口へと向かう。

男がいたため女の全身に満ちていた緊張感が、解けた。

その瞬間、彼女は女に襲いかかった。







互いの体を洗いっこし、幾度も唇を重ね合わせ、幾度も互いの体を愛撫する。

たっぷり一時間は掛けて風呂から上がると、僕たちは寝室へと向かった。

寝室にあるのはダブルベッドと、大きなビニールプールだった。

「それじゃああなた、先に入ってて」

ビニールプールの脇に膝を付き、ユカは僕が先に中に入るよう促した。

「いや、一人じゃもしものことがあったらいけないから、先に君から入るんだ」

「ええ、でも・・・」

「頼むよ・・・ユカが後で困っている姿を見たくないんだ・・・」

「分かったわ」

ユカはビニールプールに向き直ると、顔をその中に突き出し、大きく口を開いた。

僕は彼女の体を抱えると、囁いた。

「さあ、いいよ」













女の姿が、湯の中に一瞬消える。

しかし、すぐさまめちゃくちゃな勢いで突き出された手足が、水面を突き破り、飛沫を散らした。

―が・・・!ごぼっ・・・!

空気を少しでも吸おうと、醜くゆがんだ女の顔が水面から現れ、そのたびに彼女の手が引きずり戻していく。

やはり、彼女の力だけでは足りないようだ。

僕は湯船に入っていくと、女の側へと移動した。

何を勘違いしたのか、女は僕に向けて手を差し伸べてきた。

突き出された女の手を踏みつけ、その腹の上に馬乗りになる。

そして、女の首に手をやると、優しく押さえ込んだ。

揺れる水面越しに見える女の顔が、見る見るうちに絶望の色に染まっていく。

女が大きく口を開き、大量の泡が吹き上がってきた。

肺の中の空気が抜けていき、代わりに彼女が女の中へ入っていく。

呼吸器を満たせば消化器へ、消化器を満たせば血管へ。

少しずつ、少しずつ、彼女の体が女に浸透していく。

いつの間にか女の身体は動かなくなっていた。

醜くゆがんでいた顔も、今では安らかな寝顔のようにも見える。

どれほどの時が立っただろう、水面下の女、いや、彼女が目を開いた。

澄んだ瞳が僕をまっすぐに見上げ、にっこりと微笑んだ。













大きく開いたユカの口から、彼女が溢れだす。

ユカの体隅々まで浸透していた液体が、ビニールプールの中へ注ぎ込まれていった。

ビニールプールの中に彼女が満たされていくに連れ、僕の腕の中の肉体が、硬く、軽く乾いていく。

力を込めすぎぬよう、しかしうっかり取り落とさぬよう注意しながら、僕は急速にミイラ化しつつある肉体を支えた。

せっかくあの日、温泉宿で手に入れた容器だ。

うっかり落として割ったりしたら、新しいものを手に入れるのは困難だ。

やがて僕の腕の中の肉体がかさかさに乾ききり、ビニールプールを彼女の体が四分ほど満たした。

ビニールプールを満たすユカの体が、波うち、ゼリーのような質感の人間の体を形作る。

「どうですか、あなた」

「ああ・・・綺麗だよ、ユカ・・・」

彼女の問いかけに、僕はうっとりと声を漏らした。

容器に収まっていたときより、その身体は少しだけ縮み、体つきもスレンダーになっていた。

しかし、その滑らかな表面は水晶のようで、その透き通った身体は何者と比較するのもバカらしくなるほど美しかった。

「じゃああなた・・・来て・・・」

彼女の招きに応じ、僕は容器を壊さぬよう床の上に横たえると、ビニールプールの中へ入っていった。

互いに互いを抱き寄せ合い、唇を重ねる。

胸に触れる小ぶりな乳房や、背中に触れる腕。彼女の表面は、ゼリーのように弾力があり滑らかだった。

微かに開いた唇の間から、彼女が入り込み僕の口内を優しく撫でていく。

舌に触れる彼女の身体は甘く、いかなる飲み物をもってしても成せぬほどの潤いを、僕にもたらした。

僕は彼女自身を貪り、彼女は僕の口内を貪る。

互いに貪りあうような、情熱的な接吻をしている間に、僕のペニスは硬く熱く勃起していた。

「あら・・・?」

心地よい弾力のある彼女の腹部を圧迫するペニスの感触に、ユカは僕と唇を重ねたまま声を漏らした。

「ちょっとキスしただけなのに、毎晩毎晩こんなにして・・・会った時から変わっていませんね・・・」

笑みを含んだ声で言いながら、彼女は掌でペニスを一撫でした。

つるりとした滑らかな質感と、ほどよい弾力がペニスを刺激する。

「んん・・・!」

「うふふ・・・可愛い・・・」

声を漏らして全身を震わせた僕の姿を楽しむように、何度もユカはペニスを撫で擦った。

亀頭やカリ首、裏筋が、動きによって微かに波打つユカの体により、丁寧にくすぐられていく。

こそばゆさを伴った快感に、僕の興奮は否応なしに高まっていった。

やがて心臓の鼓動にあわせ、ペニスが大きく脈打ち始める。

断続的な甘い刺激が、僕を射精に追い込みつつあった。

「ふふ、まだ駄目です」

手を離し、彼女が言った。

突然の愛撫の中断に、僕は目を見開いて彼女を見た。

「お風呂でのお預けの仕返しです」

目の前にある彼女の顔が、いたずらっぽくウィンクしてみせる。

彼女にとっては、ほんのいたずらのつもりなのだろうが、僕からすれば苦しい責めだ。

甘い彼女の体により口はふさがれている。

(ごめんなさい)

僕は目で訴えた。

「・・・うふ、冗談ですよ」

ユカはそう告げると、僕のペニスを掴んできた。

そしてそのまま、掴んだ掌が融解し、液状化して僕のペニスを包み込んだ。

ゼリーのような弾力の液体に、一部の隙も無く包み込まれている。

まさに、溶けたゼラチンにペニスを突きいれ、そのまま冷やし固めたとしか表現しようの無い感触に、僕の全身が硬直した。

「さあ、一杯出してください」

そのまま、ペニスを包み込む流体が、うねうねと蠢き始める。

「ん!?んん〜〜〜!」

口の中の彼女の一部が舌を絡め取り、歯茎を押さえ込んで、声を出させないようにしている。

それでも、ペニスを嫐る彼女の体の感触が消えるわけではなく、僕は快感に意識を翻弄されていた。

異常なまでの粘度を持つ液体がペニスに絡みつき、ペニスを中心とする渦を巻く。

彼女のもたらす刺激に、僕の意識がはじけた。

「んんっ!!」

腰が躍り、手足が硬直し、白く濁った液体が彼女の体へと注ぎ込まれていく。

断続的に噴出する精液が、彼女の流体の流れに混ざり、彼女の体を白く濁らせていく。

そして、たっぷりと精液を吐き出し終え、僕の全身から力が抜けた。

「あらあら・・・こっちの量も、会った時と変わってませんね・・・」

ペニスを包み込む粘液を解除し、掌の形に整形しなおしながら、彼女が手を掲げた。

向こう側が透き通って見えていた彼女の手は、手首から先が真っ白に濁り、彼女の体内の粘液の動きに合わせて蠢いていた。

「それでは、最初のときの頃のように、全身を包み込んで上げましょうか?」

手の中をゆっくりと流れていく精液を見ながら、ユカが呟いた。

いつもなら、彼女が僕の腰にまたがり、ペニスや肛門を含む腰周りを包み込むだけなのに。

「答えて下さい、あなた」

不意に、口の中の彼女の体が引っ込み、長いキスが終わった。

これは、答えろということだろうか?

「ええと、その・・・お願い」

「・・・はい、わかりました」

腕を伸ばし、彼女は僕を抱擁した。

その腕に力がこもり、僕の体と接する彼女の表面が、押しつぶされて広がっていく。

広げられた粘液は、僕の体を包み込むように、全身に行き渡っていった。

やがて、僕の身体は顔を残して完全に彼女に包まれていた。

「ああ・・・こうするのも久しぶりですね・・・」

「うぁ・・・ああ・・・」

彼女の言葉に合わせ、全身がざわりざわりと細かに波打ち始める。

「ん?あら、頭にフケが少し残ってますよ・・・取っておきますね」

「うわぁ・・・!」

頭皮を直接くすぐられる感覚に、僕は声を上げた。

「それに首筋も、少し垢が残ってますし・・・」

「ああ、ああ・・・!」

「背中も・・・タオルぐらいじゃちゃんと洗えないんですね・・・」

「ひぃぃぃ・・・」

風呂場で、たっぷり一時間は掛けて洗いあった体を、彼女は事細かに検分し始めた。

「右手、あまり洗えていませんよ?」

「あ、おへそのゴマ。取っておきますね」

「うふふ、脇に少し汗を掻いていますね」

洗い残した垢や、よく洗えていない場所を、彼女の粘体が舐めるように掃除し、綺麗な場所も細かく探る。

その繊細なユカの動きに、僕の興奮は再び高まりつつあった。

「さ、最後はここですね」

頭の先から足の裏まで、文字通りに検分し終えた彼女は、最後にペニスに向かった。

全身をくすぐられたせいで、ペニスはすでにはちきれんばかりに膨張し、亀頭も赤黒く充血していた。

「さっき擦ってあげたときにだいぶ落ちましたけど、まだ少し垢が残ってますね・・・」

「ぁひぃっ!」

根元から亀頭へ、みっちりと詰まったゼリーの中を分け入るように舌に似た質感の何かが、ペニスを這い登ってくる。

「ああ、やっぱりここの段差の部分に、垢が溜まっていますね・・・」

カリ首を、密度の高い粘液が探りまわり、甘い刺激を生み出す。

「亀頭はそこまで汚れていませんけど・・・ああ、先から汁がどんどん溢れてる・・・」

冷静に言葉を連ねながら、ユカは自身の体を蠢かせた。

粘液が亀頭に絡みつき、鈴口から溢れだす先走りを舐め取っていく。

言葉が僕を嫐り、刺激が僕を追い詰めていく。

「これじゃあいくら拭ってもきりがありませんね。これならお風呂でしっかり洗ってあげればよかった」

「あぁ・・・あぅ・・・」

「聞いてますか、あなた?返事もできないぐらい、感じているんですか?」

普段の丁寧な言葉遣いそのままだが、彼女の言葉に異質なものが混ざり始める。

「お風呂場ではああ言ってましたけど、実は体を綺麗にされるのが嫌なんじゃないんですか?

本当はこうやって、おちんちん掃除してもらうのが楽しみじゃないんですか?」

粘液が密度と圧力を増し、ぐりぃ、と亀頭が押しつぶされる。

「あひぃぃぃっ!?」

一際強い刺激に全身を電流が走り、一瞬で達してしまう。

がくがくと腰が震え、彼女に包まれた怒張から精液が噴出する。

「あら、もう漏らしたの・・・」

自分の体を白く濁らせていく精液を見ながら、彼女はポツリと呟いた。

しかし、その口調とは裏腹に、ペニスに触れる彼女の身体は嵐の海のように波打っていた。

生み出される細かい襞がペニスに絡みつき、強弱をつけた締め付けがペニスを弄ぶ。

「あぁぁぁ・・・!」

「そんなに喜んで・・・それほど嬉しいのなら、もっとしてあげます」

ユカの体が不規則に蠢き、更なる刺激により再び絶頂へと強制的に押し上げられる。

「あぁぁ、ひぃぃぃぃ!!」

射精直後の責めは、もはや苦痛と言ってもよかった。

頭を振り、声を上げ、全身を震わせて、僕は少しでも絶頂から遠ざかろうと、快感を遠ざけようとした。

だが、ペニスどころか全身を包む彼女の身体は、そんな僕を包み込み、その表面を優しく波打たせ、心地よさを僕にもたらした。

僕を包み込むユカの全てが、僕を絶頂直前に捕らえたまま離さなかった。

「うぁぁぁ、ぁああああっ!!」

「うふふ、あんまり気持ちいいんでしょうね、あなたのだらしのない顔・・・。

私が今までお相手してきた男性の中でも、一番情けない方ですよ・・・」

彼女が言葉を連ねるに連れ、僕を包む彼女の体の層が薄くなり、腰の上に塊が生じる。

塊はやがて人の形となり、まるで僕と騎乗位で繋がっているような体制になっていた。

「温泉宿の露天風呂に囚われたまま、何人もの男性たちの相手をしてきた淫靡な女の夫としては、ふさわしい顔ですね・・・!

本当に、あなたは私みたいな淫らな女と結ばれて、さぞかし幸せなんでしょうね・・・!」

人の形を成す彼女が腰の上で跳ね、僕を包む彼女が全身をゆるゆると擦る。

人の形を成すユカが、上半身を倒し僕の目の前で囁く。

「さあ、私の旦那様の、もっと無様な顔を、見せて下さい・・・!」

ユカが強く腰を叩きつけ、ペニスが一気に締め上げられ、全身を包む膜が細かく痙攣する。

彼女の全てが、僕を絶頂に押し上げた。

「あぁぁ!ユカぁぁぁぁっ!!」

思わず目の前のユカを抱きしめ、絶叫と共に精液を放っていた。

ペニスの脈動と心臓の鼓動が一致し、まるで血液がペニスから出て行くような錯覚を覚える。

そして、その錯覚が正しかったかのように、射精が終わると同時に意識が遠のき始めた。

「・・・ぁあ・・・あ・・・ユカ・・・」

腕の中の、生温かい粘液の塊を感じながら、僕はかすんでいく意識の中どうにか呟いた。

「・・・あいして・・・るよ・・・」

辺りが、急に暗くなった。











荷物をまとめ、温泉宿を後にする。

来るときは一人だったが、帰りは二人だ。

―それじゃあ行こうか、ユカ

彼女を包む容器の名前で、僕は彼女を呼んだ。

―ええ

彼女は小さく頷くと、僕について歩き出した。

―でも・・・本当によかったんですか・・・?

―ん?

駐車場へ向かう道すがら、彼女がポツリと漏らした。

―私みたいな、淫靡な女で・・・

―君だから、いいんだよ

短く答えると、僕は続けた。











目を覚ますと、心配そうな顔をしたユカが僕の顔を覗き込んでいた。

「だ、大丈夫ですか・・・?」

すでに容器の中に入り込んでおり、彼女の胸で大きな二つの鞠が揺れた。

「ああ、大丈夫・・・」

微かな頭痛とかなりの疲労感はあるが、他に問題はない。

「その・・・さっきはごめんなさい・・・」

「ん・・・何が・・・?」

「ええと、その・・・私、興奮しちゃって・・・変なこと口走って・・・」

「ああ、あのこと。別に気にしちゃいないよ、君の言うとおりだからね」

「え・・・?」

僕は手を伸ばすと、彼女の頭を優しく撫でた。

彼女自身が染み込んだ頭髪一本一本が、滑らかに掌に触れる。

「君に犯されて、だらしのない顔をして・・・君の知る中でも、一番情けない男なんだろうね・・・。

それでも君の言うとおり、君と結ばれて幸せだと思ってる」

「あなた・・・」

腕を伸ばし、彼女の背に回して抱き寄せ、その耳元で、今度ははっきりと囁いた。

あの日、温泉宿を後にした時と、全く同じ言葉を。

「愛しているよ、ユカ」

「・・・」

腕の中で、小さく彼女は頷いた。






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