Succubus狂想曲第一楽章




皆さん、朝の洗顔はどのように行なっているでしょうか。

起きてすぐ顔を洗う。

着替えてから洗う。

他にも色々とあるでしょう。

私は起きるとすぐに洗面台に行き、歯磨きをして洗顔をします。

口内と顔をスッキリさせてからその日の活動を開始する訳です。

当然鏡を見るので、その時異変に気付きます。

寝癖や唾液の跡、顔についた線等皆さんにも経験があるものと存じます。

しかし、人類史上起きたら翼と尾の生えた少女になっていた人物など私が初めてではないでしょうか。

しかも絶世です、傾国です。

これはあれでしょうか、私の赤恥である欲求が何故か発露したのでしょうか?





Succubus狂想曲

第一楽章 狂気の始まり







「お前……絹見…なんだな?」

兄さんの声で私は我に返りました。

「えぇ、そのようですね」

自分の声が案外落ち着いているのに驚いてしまいました。

それ以前に困惑こそしているものの恐怖や嫌悪は全くありません。

これは……歓喜?

私はこの姿になって嬉しいと感じているようです。

「おい、この背中の羽って……」

兄さんに言われ、意識してみました。

「ホンモノのようです」

神経が繋がっているようで自在に動かせます。

尾も同じであり、好きなように動かせます。

……尾の先にある穴も自分の意思で開け閉めが出来るようですね。

ナカは粘液で適度に湿った肉の壷になっています。

「内臓を自分の意思で動かす……といった感じでしょうか」

尾の内壁を蠢かせることが出来るのに気付き、我知らず呟いてしまいました。

「………?」

「どうした?」

「あること」に気付いた私はそんなに怪訝な表情を浮かべていたのでしょうか?

兄さんが心配そうに顔を覗き込んできました。

「いえ、体内……有体に言ってしまうと膣とか子宮を自分の意思で動かせるんです」

「……は?」

兄さんの表情はこれでもかと気の抜けたモノでした。

まあ、こんな時に女性器の名を言われたらそういう表情にもなるでしょう。

「ちょっと確認してもらっていいですか?」

好奇心から私はパジャマのズボンを脱ごうとしました。

「なっ…なに言ってるんだよ!」

兄さんは慌てて私の手を掴みます。

「何を慌てているのですか?」

「いや、何というか……」

兄さんの顔が若干赤くなっているのに気付きました。

「……まさか、照れているのですか?」

「だってな……お前……」

まあ、見た目だけなら美少女ですしね。

しかし……。

「兄さん、中身は私ですよ?」

「そうだけどよ……」

肝心な時はヘタレですね兄さん……。

「じゃあいいです。自分で確認しますから」

「なにぃ!?」

兄さんの手を素早く払い、自らの秘所に触れてみます。

まさかこのようなカタチで「女性」に触れることになるとは……。



クチュ……



「んう…?」

女唇に触れると、それ自身が意思を持つように内部へ引き込もうとします。

それに抗わず、指を膣内へと進めてみることにしました。



ニュル…



指は何の抵抗も無く膣に吸い込まれていきます。

「すごいです……無数の襞が触手のように絡みついてきますね」



クチュ…ヌチュ…



然程指を動かしていないにも関わらず、粘液のたてる水音がします。



ニュグ…ニュグ…ニュグ



「まるで…ハァ…ポンプのよ…ンッ…ですね。かなり自由に動かせます」

指の腹で蠢く膣壁を撫ぜる度に微弱な電流のような快楽が体に走り、我慢出来なくなってきます。

もう少し……もう少しで……。

「ぐぅっ!」

「え?」

ドサッと言う何かが落ちるような音と兄さんの呻きが耳に入り、私は動きを止めてしまいました。

達する寸前なのですが…。

仕方無しにそちらに視線を向けると……。



ビュクッ!ドクドクッ!ゴポゴポ……



「――――………!!!」

兄さんがしりもちをついて声にならない呻き声を上げながら射精していました。

ズボンにまで精液が染み出て……ってこれは尋常な射精ではないですよ。

「兄さん?そんなに溜まっていたのですか?」

「んな訳……ねぇだろが!」

兄さんは若干虚ろな目で私を見上げ、ぜえぜえと肩で息をしながら答えました。

どうやら持ち直したようですね。

「それにしてもどうしたんですかね?それ程私の自慰は扇情的でしたか?」

それにしたって見ただけで射精というのは物理的に有り得ませんが。

どんなに強力な兵器でも見せただけで敵を撃破出来ないのと同じですね。

その場合欲情と抑止力が重なるような気がします……。

閑話休題。

「いや、お前がオナニー始めたら突然……こう…なんと言うか…空気がピンク色になったみたいな感じで……」

「それは美少女が性的な行為をしたら広がる固有結か……」

「違うわ」

私の場をほぐそうとした冗談は完全に着地点を失いました。

せめて最後まで聞いてくれたっていいじゃないですか。

「だるくなければ聞いてやれたかもな」

そう言うと兄さんは、はあぁぁと疲れたような溜め息をつきました。

いいえ、本当に疲れているようです。

「物理的にピンク色になった感じだな。吸い込むたびに体力ごと吸い出される感じだった」

なんですかそれ。

「それより兄さん」

「なんだ?」

「早く着替えて頂けますか?その…」

「………なんだよ?」

「あぅ…なんでも無いです…」

その、何故か精液の匂いに……凄く…そそられてしまうのです……。

食欲にも似た原始的な…貪欲な欲求が湧き上がるのです……。

「そ…そうか。まあ、確かに着替えた方がいいよな」

私の不穏な雰囲気に気付いたようで、兄さんは少し慌てたように立ち上がります。

私は欲情を振り払うように洗面台に向かい合いました……。

いったい私は何になってしまったのでしょうか……。



「それにしてもこの姿…父さんと母さんになんて説明しましょう……」

居間にて兄さんと向き合って座っています。

テーブルなので椅子にです。

「確かに……。と言うかお前、その姿に何の心当たりもないのか?」

兄さんは呆れたように私を眺めます。

「……やはりアレでしょうか?」

「…あんのかよ」

私は昨日のことを『何一つ包み隠さず』話しました。

「つまり興奮抑えるために出かけたらバーローwwww的展開を経て結果何食わぬ顔で帰ってきたのか」

兄さんが前奏の展開をたった一行で表してくれちゃいました。

「そう言う事ですね」

「バッカ野朗!」

「!?」

私が何でも無いように返事をすると、兄さんは語気を荒げました。

とてもご立腹のようです。

「そう言うことはさっさと知らせろ!本当に死んでたらどうするんだ!」

「あ…あの」

物凄い剣幕で兄さんが怒鳴っています。

「無事だったからよかったがそれはただの偶然だろうが!」

「に…兄さん…私のこと…心配してくれているのですか?」

「当然だろうが」

兄さんは怒ったままですが、私の顔に自然と笑みが浮かんでしまいます。

「ありがとうございます」

「!?な…ナニを突然…」

兄さんは顔を真っ赤にしてそっぽを向きました。

「いえ、最近兄さん私に素気なかったので嫌われたのだとばかり……」

兄弟である訳ですし、兄さんは社会人、私は高校生。

当然と言えば当然ですが、寂しかったのも事実です。

「そんな訳ねえだろが」

嬉しくて自然に笑顔になってしまいます。

やはり家族は仲良いのがいいですね。

家族と言えば……。

「父さんと母さん遅いですね」

「……そう言えばそうだな」

兄さんと二人顔を見合わせます。

「「…」」

同時に立ち上がり、無言で両親の寝室へ向かうと……。



「あぁ!あなたぁぁ!イイのぉ!もっとぉ!」

「ぐうぅ!」



「「ぐふっ……!」」

二人で吐血してしまいました……。

親の性交って子にとって見たくないモノランク堂々の一位ですよね。

「なんなんですか?アレ」

ゲンナリした表情を浮かべてしまいます。

「何って…ナニだろ」

兄さんもゲンナリしています。

誰が上手いことを言えと(ry



声をかける訳にもいかず、私たちは居間へと戻りました。

「テレビでも見てるか」

兄さん、棒読みですよ。

テレビではアナウンサーが深刻な表情を浮かべていました。

『現在信濃市遥地区では……』

「お?この辺じゃないか?」

「ですね」

『多数の男女が性交に耽っており……』

「「!?」」

テレビ画面はほぼ全面がモザイク処理されており、ピー音が音声を満たしています。

『人間だけでなくあらゆる種類の動物が発情しており……』

「「………」」

私が自慰をした結果兄さんが射精をして、同時刻両親が性交を行い、そして外では全生物が……。

ここまで来て無関係とは思えないですね……。

『バイオテロの可能性も考えられ……』

「バイオテロだってよ……」

兄さんが感情の感じられない声で言いました。

これ、私のせいですよね……。

「………どうやって止めれば…」

「知るか」

うぅ、兄さんが薄情です。

とは言うものの、それも当然の反応ですね。

その後、この騒ぎが収まるまで……約半日、私と兄さんは終始無言でした……。

バイオテロと言えば……「モンスター百覧」に「H‐virus」というのがありましたね。

私に打たれた注射は……。

………まさかですよね。



「なんだお前、悪魔になっちまったのか!戸籍どうするよ」

「「はい?」」

父さんの言葉に私たち兄弟(兄妹)は絶句してしまいました。

なんだかすっごく軽いのですが……。

「軽すぎるだろ親父!お袋もなんとか言えって!」

兄さんが怒ったように…実際怒っているのでしょう…母さんに矛先を向けました。

「え?私は全然OKよ?と言うか娘が出来て嬉しいわ♪」

語尾に音符がついてそうな勢いで母さんは微笑んでいます。

「確かに戸籍は重要だわね。性転換手術を受けて転向したことにしましょう」

「nice idea!」

母さんの提案に、やけに発音よく父さんが返しました。

いい歳こいてウインクしながら親指立てないでくださいよ二人とも。

「…………………………」

兄さんは呆れてもう何も言えないようです。

服が肩からずり落ちています。

トラウマ製造から約半日。

何でも無いように居間に現れた両親に私は事実と憶測を交えた説明を行った結果、上記のやり取りが発生しました。

この二人、順応早すぎな気がします。

「お前も!そんな体でいいのか!?」

「え?」

兄さんが私に矛先を向けました。

確かにそれが一番の問題ですものね。

ですが、私の気持ちはすでに決まっています。

「私は……」

この姿でいてみたい。

しかし、私はそれを口に出来ませんでした。

午前のこともあり、このわがままを優先してよいのか迷ってしまったのです。

「……元の姿に戻る方法が分からないですし……」

だから誤魔化しの言葉しか出てきませんでした。

「………まあ…そうだな」

私の内心の葛藤が暗い声音に還元され、それを勘違いした兄さんは困惑した返答をよこしました。

居間に沈黙が降り注ぎます……。

「ともかくしばらくはその体でいるしかないな。ある日突然戻るかも知れんしな!」

父さんの言葉には繕おうとしたわざとらしさが多分に含有しており、居間の空気を一層重いものに変える以上の効果はありませんでした……。



その日の夜、私は散歩をしようと思い、玄関に向かいました。

「おい、どこ行くんだ?」

背後からの兄さんの声。

「少し気分転換に散歩してきます。今夜は月が綺麗なようですし」

嘘ではありませんが全てでもない理由。

私は今自分がどうしたいのかハッキリさせたいのです。

そう思った時月が見たいだなんて、少々気取り過ぎでしょうかね?

「放蕩癖ここに極まれり…だな」

「かも知れません」

今の私に、兄さんの言葉を否定することは出来ませんでした。

「気をつけろよ。羽とか見られないように。あと、最近物騒だからな」

「はい」

兄さんの心遣いに、自然と笑みで返事が出来ました。



夜空はどこまでも黒く、しかしどこまでも澄んでいました。

午前にあった騒ぎは完全に鳴りを潜め、閑静な町並みが続いています。

私は始まりとなったあの林間コースに来ています。

夜になると完全に闇に沈み、夜目に慣れていなければ木にぶつかってしまうかも知れません。

枝葉に隠れて月もまともに見えません。

まるで私だけの世界のよう……。

前々から中二病の気が激しかった私ですが、悪魔になってから余計に酷くなったような気がします。

あぁ、やはり私はどこか頭のネジが何本か外れているようです。

今の状況を楽しんでいます。

悪魔になったことを喜んで、あまつさえこの姿で居たいなどと……。

本来なら元に戻りたいとか思う筈なのですがね。

しかし、この姿でいられる正当な理由が全く見当たりません。

これまで折角周囲に対しては常識人でいたのにここで変態にジョブチェンジするのも抵抗がありますし……。

そんな下らないことをツラツラと考えていた時でした。

「!?」

背後に気配が現れたのを感じた時には、地面に引き倒されていました。

「大人しくしろよ、お譲ちゃん」

下卑た薄笑いと鈍く光るナイフ。

ひょろっとした頬のこけた男がナイフを突き付けてきました。

「暴れんな!その可愛い顔に怪我したくないだろ?」

人相の悪いもう一人の男が私の腕を押さえました。

「!?」

喉の奥で空気が鳴るような悲鳴を上げてしまいました。

恐くて動くことなんて出来ません。

相手は二人の成人男性。

それなのにこちらは普通の女性程度の力しか出ないというのはどう言う事ですか!?

こんな時に限って翼も尾も動かない……。

んー!んー!と、唸るような声しか出せません。

恐ろしい!

他者に生殺与奪を握られるということがこれ程の恐怖だとは……!

「なんだコイツ?コスプレしてるぜ」

「悪魔かコレ?ははっ!確かに似合ってるぜ」

二人のブ男がゲタゲタ笑いながら私の手足を縛り上げ、猿轡をしました。

「まさか本当にここにヒトが来るとは思わなかったよ。ホントに不運だったなお前」

最悪です、こんな時に限って……。

兄さんが折角注意してくれたのに……。

「おいおい、悪魔は退治しねぇとな」

「おうよ」

しかもこんな脳みそが軽そうな奴らに……!

「ほれ、ご開帳」

「!!」

ズボンとパンツが一緒くたに下ろされ、服もたくし上げられました。

人相の悪い男が私の乳房に汚い手を伸ばしてきます。

「でけえな。彼氏に揉んでもらったのか?」

私は目を瞑ってしまいました。

これ以上見ていたくありません!

こんな奴らが初めてだなんて……。

涙が浮かんできます。

ゴツゴツした硬い手の平が私の乳房を乱暴に捏ね繰り始めました。

気持ち悪い……。

「なんだ、もう濡れてるじゃねぇか。襲われて興奮したのか?」

「んぐっ!」

ひょろっとした方が秘所に指を突っ込んで、無粋にかき回してきます。

吐き気すら催してきます。



ぐちゃぐちゃ……ぐちゅ…



「うへ、指に絡みついてくる」

ヒヒヒ、と頭の悪そうな笑い声が下半身から聞こえてきます。

「こりゃ上玉だな。いいもん拾ったぜ」

「んぐぅ!」

乳房が握り潰さんばかりに揉まれ、痛みに表情を歪めてしまいます。

「あぁー、我慢出来ねえ。先にヤルわ」

ひょろっとした方の下卑た期待を隠さない声と共に、ジッパを降ろす音が響きました。

「んだよ、早ぇよ」

「うっせ」

そして秘所に触れるおぞましい感触。

「んぐー!んぐー!」

「うっせぇよ!静かにしやがれ!」

私は必死に暴れようとしましたが、人相の悪い方が私の頬を張りました。

パシン!という軽い破裂音に反し、頬の痛みは鋭いです。

「そうそう、大人しくしてりゃ気持ちよくしてやるよ」

楽しそうな男の声が降ってきます。

これが支配者と被支配者……。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!



…………殺してやる。



絶対にコロシテヤル。



その時、どこまでも黒いナニカが私を満たしました。

恐怖に染まっていた筈の心がスッと冷め、私は目をゆっくりと開けました。

視界には人相の悪い方の男が締まりの無い表情で乳房を揉んでいます。



ズグッ



まだ濡れきっていない膣にひょろい方の男の陰茎が進入してきました。

「おぉ!…な…ぎっ!?」

入れた時は歓喜の声を上げた男でしたが、すぐにその声は苦痛のそれに変わりました。



ゴボッ…!ゴボッ…!



「がァっ…!止まらな……ぎィィィ!」

異常な量の射精が私の胎内に断続的に放たれ始めました。

自らで相手に与える快楽の量を制御でき、しかも相手の精神をも弄れる。

もし、ある程度私が精神を弄っていなければこの男は挿入しただけで許容範囲を超えた快楽で廃人になっていたでしょう。

こんな人間離れをしたコトが児戯に等しく出来てしまいます。

でも、私はそれを当然と受け止めました。



ビュクッ!ビュクッ!ビュウゥゥゥゥゥッ!



「――――………!!」

本来なら数秒で終わるはずの射精が事実上無限に続く。

狂ってしまえばただの快楽ですが、狂えないから快楽と苦痛がごちゃ混ぜですね。

ひょろっとした男は今頃至極間抜けなカオをしていることでしょう。

見えないのが残念です。

「お…おい、どうした?」

今更人相の悪い方が私から離れてひょろっとした方に向かいました。

視界が開け、その光景が見えました。



ビュクッ……ビュクッ……!



「ぎ………ご……」

元からこけていた頬は一層こけ、体は痩せ細り、顔色はすでに土気色。

目口は見開き、唾液も涙も垂れ流し。

すでに虫の息でありながら私の腰を必死に掴んでさらに腰を突き出して射精しようといます。



なんと無様!

なんと滑稽!



猿轡さえなければ声をあげて笑っていたことでしょう。

主導を握ったと思っている者を弄ぶ快感。

最高……です……。

私が恍惚に震え、さらに膣を締め上げると面白いように射精する男。

私にとって目の前の二人はもう嬲るための玩具でしかありません。

「なんなんだよ!どうしたんだよ!?」

後退りしながら頭の悪い発言を続ける人相の悪い男。

でも逃がすのは癪ですね。

何の予備動作も無く、特別力を使ったという訳でも無く、しかし私は男をここから逃げられなくすることが出来ました。

「うわあァ!……ぐァ!?」

逃げようとした人相の悪い男は踵を返して走り出しましたが、透明なナニカにぶつかって、顔を押さえてその場に蹲りました。

ドーム状に展開した透明な壁は何人たりとも私の意志無くして出入りを出来なくしたのです。

それすら歩くのと同じく自然と出来る異常な事態。

楽しい!楽しい!!楽しい!!!

人相の悪い男は無様に涙を流しながら此方を呆然と見ています。

「――――!!!」

もうそろそろひょろっとした方の命が終わりをむかえそうです。

でも、このまま射精だけで殺すのも芸がありませんね。

精を吸って色々出来るようになっていますし、一つ実験をしてみましょう。

翼を意識して広げてイメージを送り込むと、成る程思った通りのカタチになります。

そう、巨大な鎌へと……。

ふふ、これ憧れてたんですよね。

素早く奔らせ、男の右腕を斬りおとします。

「ぎ…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

右腕が付け根から喪失し血が噴き出すと、男は狂ったように絶叫しました。

なんだ、まだ結構元気ですね。

私は翼で自らの拘束を解くことにしました。

いつまでも縛られたままは嫌ですからね。

「っと…ふう」

男と対面座位になるカタチに起き上がります。

男は情けない表情で泣き叫び、トクトクと射精を続けています。

肩から血を濁流と流し、射精をするしか無いなんて……なんて哀れなのでしょうか。

「クスクス」

自然に笑みが零れてしまいます。

目を細め、笑顔を隠さず、膣をゆったりと蠕動させ、男を観察します。

何か言っていますね。

「如何したのですか?」

金魚が空気を吸うように必死に動く男の唇に耳を寄せてみます。

例え犯罪者とはいえ命は命。

最期の言葉くらい残す権利はあるでしょう。

「た…すけ…て」

男の命乞いの声が私の耳朶を打ちました。



「あ…」



折角そうなるまいとしていたのに、私は我慢が出来なくなってしまいました。



「あは……」



私はその瞬間、コワレテシマッタノデス。



「あははははははは!」



狂った、それでいて愛らしく、妖艶で、気品のある哄笑。

それが自分の笑い声だと気付くのに一瞬の間が空いてしまいました。

「いいでしょう、その苦痛から解放して差し上げます」

さらなる苦痛で上書きをして……ですが。

私は今、これまでで最も優しい笑みを浮かべていたことでしょう。

両翼を振るい、男の指を、手首を、二の腕を、肩を、足を、ふくらはぎを、ももを、バラバラに切り裂いていきます。

真っ赤な血が周囲に飛散し、私も男もアカクアカク染まります。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「気持ちいいですよ……とても」

男の悲痛な絶叫と、私の蕩け、甘えた声が重なります。

私は今、一人の人間の命を犯しているのです。

すでにショック死する筈の男を、脳神経を犯して強制的に生存させる。

死すら主導権を握り、生き物としての尊厳を末端まで侵し尽し、犯し尽くす。

人間では絶対に味わえなかった快楽。

正当な理由など必要ありません。

このような至上の悦楽が味わえるのなら常識やモラル等捨て去ってしまえばよいのです。

「あぁ、申し訳ありません。余りにも気持ちよかったので忘れていました。今解放してあげますから」

「ひいっ……いぎっ………や…め…」

「さようなら」

私は笑みを崩さぬまま、男の首を斬りおとしました。



びゅくっ…びゅくっ……………



「んっ…、まだ出るのですか?」

生命の残り火のように、二、三回死体が射精します。

それを最後に、完全に活動が終わりました……。

陰茎を引き抜きながら立ち上がり、もう一人の男へと視線を向けました。

「ひィィ!」

情けない悲鳴を上げ、尻餅をついたまま後ずさります。

「逃げるのですか?自分から襲っておきながら」

「あ…あ…あぁぁぁぁぁぁぁ!」

「!」

近付こうと一歩踏み出すと、人相の悪い男は裏返った叫び声を上げ、ひょろっとした方が持っていたナイフを拾ってこちらに突っ込んできました。

彼は自らの命を守らんと全生物の持つ当然の権利を行使した訳です。



それなら、私も私の持つ権利を行使させて頂きましょう。



「…え?」

私の翼に両手首を切断され、立ち止まってキョトンとしてしまう男。



―強者は弱者を玩具に出来るという―



「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

手首が地面に落ち、切り口から出血を始めると同時に男は本格的に悲鳴をあげ始めました。

その姿を見て、ゾクゾクと背筋に快感が走ります。

そのまま翼を広げ、男を包み込みます。

翼の内側の繊毛で服の上からですが、全身を嬲ることにしました。

「痛いばかりじゃあ申し訳ありませんからね」

他意の無い、本心からの言葉ですよ。

「――――!!」

翼で愛撫を始めて一秒ももたず、男は射精を始めました。

声にならない絶叫と恐怖に染まったカオが私の嗜虐心を煽ります。

「でも、やはり気持ちいいばかりではいけないですよね?」

「あぎっ!?ぎゃぁぁぁぁ!」

ねっとりと愛撫を続けながら、そのまま翼を締め付けていきます。



ゆっくり……ゆっくり……強く……強く……



体を押し潰されながら、男は射精を続けます。

抵抗すら許さず、圧倒的な力で相手を支配する悦び。

私は、それに完全に酔ってしまいました。

「いいですよ、その表情。もっと苦しんで、もっと私を楽しませてください」

男の頬を撫ぜ、声をかけます。

私が触るだけで面白いように男の射精量が増えます。

もう喉が涸れたのか、ひゅうひゅうと変な音でしか息をしていません。

ミシミシと骨が軋み、内臓が潰れ、でも翼に拘束され身動き一つ取れない男。

見るも無残な姿を見て、私は絶頂を迎えていました。

「ふぁ…はぁ……」

さざなみのように続く絶頂の余韻に浸りながら、私は男と目を合わせました。

絶対的な恐怖に怯えた目が、必死に助命を叫んでいます。

でも、助ける必要なんてありませんよね?

貴方達が招いたことなのですから。

「ありがとうございました、とても楽しかったです。それでは、さようなら」



グシャッ!!!



柔らかいものが潰れる音と同時に、男は赤黒い肉塊へと変形しました。

翼を広げると、男の成れの果てが湿った音を立てて地面に落ちました。

それを一瞥した後、翼や尾を収納し結界を消します。

今夜の舞台はこれで終わり。

いくら気持ち良くても、無関係なヒトにまで迷惑をかけるのはマナー違反ですからね。

兄さんも心配しているでしょうし、帰りましょう。



私は化け物になってしまいました。



でも、悪くないですね。




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