吸血鬼の告白




「・・・話があるんだけど、今から私の部屋に来てくれない?」

最近、何かに思い悩んでいた僕の恋人――古谷朱音――がそう言ってきた。

“部屋に呼ぶくらいだ、別れ話ではないだろうけど”と僕――神代誠――は考えながらも不安になった。

僕たちが付き合いだしてもうすぐ二年が経つ。彼女が「話がある」と言ってきたのはそんな日だ。



自分の彼女からの相談事を無碍に断るわけも無く僕は彼女と共に部屋に向かった。

部屋に着いてもなかなか話を切り出さない朱音だったが・・・

「私、今まであなたに黙っていたことがあるの。」

―――やがて、こう話し出した。

「信じてもらえないかもしれない。でもお願い、聞いてほしいの。」

「・・・わかった。でも、どうしたんだ? 急に改まって・・・。」

彼女の雰囲気に影響され、自然と僕の表情も硬くなる。

「・・・・・。」

「・・・・・・私、実は吸血鬼なの。」

(・・・・・・・ぇ?)

予想外の告白に僕の頭はついていかず一瞬思考が停止する。

「やっぱり信じてもらえない?」

どうやら、よほど怪訝な顔をしていたらしい。彼女がそう聞いてくる。

「いや、さすがにいきなりそんなことを言われても普通は困ると思うけど・・・。」

「やっぱり、そうだよね・・・。」

段々と思考が追いついてきた。冷静な考えが浮かぶようになってくる。

「吸血鬼ってあれだよな。人間の血を吸ったりっていう・・・。」

「そう、映画とかに出てくる吸血鬼。あれをイメージしてくれればいいよ。」

(嘘だとも思えない。だけど信じられるような話じゃないよな。)

「・・・ごめん。やっぱり簡単に信じられるような話じゃ――」

僕は続く言葉を発することができなかった。

彼女の眼がいきなり赤く輝き、続けて朱音の身体を光が包む。その光に眼がくらんだ。

光が落ち着き、段々と視力が回復する。

「一体何が・・・。」

何が起きたか分からず、そう呟きながら朱音をみる。僕はそこで息を飲んだ。



目の前にいるのは確かに『朱音』だ。

僕が好きな彼女の長く艶やかな黒髪が今は銀色に染まり、彼女の眼――日本人にしては薄い色をしていた――は今やルビーのように赤く輝いている。

そして口から牙のようなものが見えるのは気のせいだろうか。

他にも着ている服がさっきとはまるで違う。

今日の彼女は白に近いスカートと茶色いブラウスを着ていたはずだが、今の服はそれらが黒く染まり、上に短めのマントのようなものまで羽織っている。

『朱音』であることに間違いはないが、さっきまで話していた朱音とは絶対に違う『何か』。

僕はそう思わざるを得なかった。

だが、その朱音であるはずの『何か』は、いつにも増して・・・

「これなら、信じてもらえるよね。」

僕の思考を彼女の言葉がさえぎる。

眼の輝きもそうだが、『朱音』の纏う雰囲気が“彼女は人間ではない”と僕に伝える。

「ああ・・・・信じるよ・・・。」

最初のような疑念はもう無い。無いのだが・・・

「・・・・・。」

「・・・・・。」

二人の間に沈黙が落ちる。

突然の出来事で、僕の思考は再び停止する。何を言うべきか思い浮かばない。

「やっぱり、怒ってる? こんな大事なこと今まで黙ってて・・・。」

何も言わない僕を怒ってると思ったらしい。

「・・・ごめんなさい。許してなんて言えないよね。

 でも、どうしても言えなかったの・・・。」

そう言って彼女は泣き出してしまう。僕はそんな彼女の姿に胸が痛んだ。

「ごめん、怒ってるわけじゃないんだ。誰だって人に言えない秘密ってあると思うし。」

朱音を落ち着かせるのには、しばらく時間がかかった。

「ありがとう・・・・・。でも、やっぱり嫌だよね。

 自分の恋人が人間じゃなくて化け物だったなんて・・・。こんな姿・・・嫌だよね。」

僕は彼女の明るい笑顔が好きだった。

辛いことがあっても、彼女の笑顔を見ると元気が出たから。

だから、そんな朱音が悲しむ姿をどうしても見たくなかったのだろう。

ほとんど無意識のうちに叫んでしまった。



「そんなことは無い!! 今の姿だってとてもきれいだ!!」

正直な気持ちだった。二年近くも付き合ってるんだ、彼女とは寝たこともある。

その時にそんな“気持ち”を伝えたことは勿論あった。だが、これほど強く思ったことは今までに無かった。

「この姿が・・・きれい?」

僕は叫んだことが恥ずかしくなり、顔を背けてしまう。

「本当に綺麗だと思う? 私のこと怖くない?」

彼女が聞いてくる。僕はそこで今の行動を振り返る。

背けた顔を彼女に向け、今度は落ち着いた声でしっかりと答えた。

「ああ、きれいだよ。それに、朱音は朱音なんだろ?」

「うん・・・、でも・・・。」

「それなら、僕の気持ちは変わらない。」

そして一拍空けて僕は言う。

聞き間違をさせない為ゆっくり、そしてはっきりと。

「好きだよ、朱音。」

「っ誠!」

朱音の顔に笑顔が戻り、そして僕に飛びついてきた。

座って話をしていたので、勢いに耐えられず彼女に押し倒されてしまう。

彼女の唇が僕のそれに重なる。彼女の唇はいつもと同じだった。

だが、さっきから口元に見えていた白いものは本当に牙だったようで、キスのときに唇に当たる。

「ありがとう、誠! 

 拒絶されるんじゃないかってずっと怖かったの!」

今まで言ってくれなかったのは、それが不安だったのだろう。

「でも、実はここからが本当に聴いてほしかった事よ・・・。」

「最後まで聞くって言っただろ?」

僕を押し倒したままの姿勢で朱音が聞いてくる。心なしか、再び厳しい表情に戻っていた。

「私たち吸血鬼には寿命がないの。生きようと思えばそれこそ永遠に生きられるわ。

 でも他の生物には寿命がある。これってどういうことか分かる?」

何となくは想像がついた。

「周りのみんなは死んでいくのに、自分は死なない。年も取らない?」

「正解。気にしてない同属も多いけど、私には耐えられなかったの。だから――」

不老不死だからこそ味わう苦痛。これはどうやら本当にあるらしい。

そんな事を考えていたら、続く彼女の言葉を聞き逃しそうになった。

「――私と永遠を生きて欲しい。」

「・・・・・永・・・遠を・・・?」

よく理解はできなかったが、朱音の顔が眼に映った。

僕の上に乗る彼女はまた辛そうな目をしている。昨日までの彼女がしていた目と同じだった・・・。

『人間をやめろ』と言外に言われているようだと僕は理解した。

だが、答えを出すのは案外早かった。



理由は簡単だ。さっき言った通り『朱音の事が好き』だからさ。

「さっき言ったろ。“君が好きだ”って。」

朱音の顔が喜びに染まる。

さっき笑顔さえまだ本当の笑顔じゃなかったと感じられるほど、僕にはその笑顔が輝いて見えた。

「ありがとう! 誠!」

彼女が再びキスをしてくる。今度は舌を絡められるほど深く。

「わ、わかったから少し落ち着けって!」

「えへへ。ごめんね、つい嬉しくて。」

顔を離して僕に謝る彼女。

「でも、永遠にって一体どうすればいいんだ? やっぱり血を吸うとか?」

「ううん、それだけじゃないの。

 人間を眷族にするときはね、その人間の血と精気を吸血鬼の体内で練り合わせて、そこから作った体液をまた人間に戻すの。」

「血は分かるけど、精気に体液・・・? つまりどうすればいいんだ?」

「精気は、精液から取り出すの。・・・つまりセックスするのよ。」

(・・・ぇ?)

どうやら僕の思考は三度目の思考停止をしたようだ。

「体液については、あとのお楽しみにね。」



ボーっとしている僕のズボンに彼女の手がかかり、あっという間に脱がされてしまう。

情事に関しては受身なことが多かった朱音には珍しく、積極的だ。

今までは自分の正体について負い目を感じていたのかも知れない。

「まずは起たせないとね。」

そういうなり、彼女は僕の肉棒を手で刺激してくる。

「うっ、く。」

いきなりの刺激に僕は声を出してしまう。

「ふふ、気持ちいい? すぐに起たせてあげるからね。」

言葉の通り、僕の肉棒が起つまでそれほど時間がかからなかった。

「そろそろ、いいかな。フェラチオって今までしてあげた事なかったよね。」

「いいのか? 今までは・・・」

「うん、今までしてあげられなくてごめんね。」

彼女の口が僕の肉棒をくわえ込む。今までしてもらったことが無いだけに新鮮な感覚だ。

時々チクっと尖った物が当たり、その不定期な感覚に声が出てしまう。

「あ、牙が当っちゃうかな。痛い?」

彼女が口を一端離し、上目遣いに聞いてくる。

「いや、どちらかと言うと気持ちいいかも・・・?」

その言葉に彼女は微笑み、またフェラを再開する。

「うっん。ちゅる、じゅる。プハッ!



こんな感じでいいのかな? ねぇ誠、気持ちいい?」

彼女が一度顔を離し、僕に聞いてくる。

「ああ、気持ちいいよ。朱音。」

「誠って先っぽとか弱かったもんね。んっ、ちゅぅ!」

朱音の積極的で献身的なフェラに僕の限界はすぐに訪れた。

「もう・・・でそうだ!」

「いいよ。そのまま出して。」

そう言うなり、彼女は舌の動きを早めてくる。

さっきのことを思ってか、浅く咥えているときには態と牙を亀頭に擦り付けているようで、時々鋭い快楽が走る。

僕は“口の中に出す”ことに魅力も感じたが、それはまずいと思い朱音の顔を離そうとする。

しかし、彼女は顔を僕のペニスを咥えたまま離そうとしない。

「う、ああ!!」

びゅるる! びゅっ!

遂に耐えられなくなって彼女の口の中に精を放ってしまった。

(やっちゃった・・・。)

軽い罪悪感もあったが、射精後の余韻に浸ってしまう。

「気を使ってくれるのは嬉しいけど、さっき言ったでしょ?

“血と精気を体内で練り合わせる”って。それに、男の人の精液って美味しいってママから聞いてたしね。」

「え? 精液って苦いんじゃ・・・? それにママ?」

「ううん、血と一緒で甘露だったわよ。吸血鬼が淫魔に近いせいもあるけどね。

あ、私が吸血鬼なのはママの遺伝なの。男の吸血鬼って実は居ないしね。」

(吸血鬼といえば、ドラキュラ伯爵のイメージが強いせいか男の方が先に頭に浮かぶんだけどなぁ・・・。)

僕には軽い衝撃だった。

と言うか、淫魔ってやっぱりあれのことだよな・・・。

「さって、情事の最中に別のこと考えるの禁止! 早くしないと今取り込んだ精気が無駄になっちゃうじゃない。」

そこで僕は考えを中断した。まあ、このことは後で聞けばいいだろう。

「ああ、でもそんなに連続には・・・。」

そう言ってから僕は気づいた。僕のペニスはさっき一回出したにも関わらず硬さを保ったままだ。

しかも、普段より大きいんじゃないだろうか。

「そろそろ効いてきたかな? 実はさっきキスしたときにね、媚薬をちょっと盛っちゃった。」

「び、媚薬!?」

「そうそう。魔族特性の媚薬だから人間界のとは比べ物にならないよ。

新しい眷族を作る時って結構精気要るから、たくさん出してね。」

僕はなんだか不安になってきた。

「朱音、それって・・・。」――「えい!」

僕が抗議するより、彼女が動くほうが早かった。

「ああぁぁ!!」



軽い掛け声と共に彼女が僕のペニスを撫で上げる。

最初に触ってもらったときとは比べ物にならない快感が駆け抜ける。

もしかしたら朱音は責めるほうが実は好きなのかもしれない。

段々とテンションが上がっているのは気のせいでは無いだろう。

「じゃぁ、そろそろ直にいくよ。・・・ふふ、期待してるみたいだね。」

どうやら彼女にはばれてしまったようだ。

手で撫でられただけで情けない声を上げてしまった僕だが、次の快楽に期待もしているということを。

朱音はスカートを脱ぎ、僕の腰の上に跨った。

さっきまでフェラをしているときに自分も弄っていたのか、彼女の準備もいいらしい。

彼女の腰が僕のペニスの真上で一度止まる。

「じゃあ、行くよ?」

「ああ。」

僕は震える声で答えた。

ずぷッ!

そんな音が聞こえた気がした。そして、僕の視界は真っ白に染まる。



「・・・・・・あっぁぁぁぁ!」

激しい快感に、本の数秒だが意識が飛んでいたようだ。自分の叫び声で意識が戻される。

しかし意識が戻り、現状を理解したところで、再び視界いっぱいに白い火花が爆ぜた。

どくん! どくどくどくっ!

「あっぐ!?」

ペニスからすごい勢いで精液が撃ちだされていく。

今度は意識を失ったりしなかったが、その代わり快感を休むことなく感じる。

「あ、ごめん。ちょっとやりすぎたかな。

 手加減したつもりだったんだけど。」

媚薬の効果もあるのだろうが、彼女の膣は恐ろしかった。

人間の姿の時でも相当の名器だったが、本来の姿に戻ってさらに感じる快楽が増していた。

口や手での愛撫も気持ちよかったが、それと比べても桁違いの快楽である。

「朱音・・・。気持ちいい・・・。」

彼女が少し緩めてくれたのか何とか喋れるところまで回復する。

「ごめんね、誠。まだ早かったみたい。

 そうだ! 代わりにこんなのどうかな?」

そう言って僕の体を少し起こす朱音。

「・・・こんなのって?」

意識も大分回復した僕が彼女に尋ねる。

朱音はそう言うが、彼女自体に変わった動きは見られず、ただ微笑んでいるようにしか見えない。

しかし次の瞬間、僕は背中や脇に違和感を覚えた。



「う、あぁ!」

それが快感だとすぐに理解し、また声を上げてしまう。

朱音が羽織っていたマントがいつの間にか大きく広がり、彼女ごと僕を包み込んでいた。

「どう、私のマントは?」

「全身舐められてるみたいで、・・・気持ちいい・・・!!」

「大抵の吸血鬼なら誰でも自在に操れるマントよ。

内側は私の舌の感触を再現してみたんだけど、気に入ってくれたみたいね。

じゃあ、もう一回私の中に注いでもらおうかな。」

そして、彼女のマントが蠢きだす。そして、朱音の腰も。

だが今回はさっきのような強烈なものではなく、どちらかと言うと包み込まれているみたいでとても心地いい。

「なんか、ゆっくりだな・・・。」

「えへへ。あんまり強烈なのばっかりでも辛いかなっと思って。

 誠はまだ人間だしね。私の本気は誠が私の眷属になってからよ。」

愛撫はゆっくりだったが、全身を舐められる快楽に僕は恍惚としてしまう。

特に背中を大きく舐め上げられたときは、足の先から頭まで快感がゆっくりと登っていく感じがして、僕は体を震わせる。

「あん、誠! 動いちゃダメ。私まで感じちゃう。」

朱音は口ではそう言うものの、その感覚が気に入ったらしく、マントに何度も僕の背中を舐め上げさせた。

そうして、すぐに限界は訪れた。

「朱音、また・・・出すぞ。」

「うん、一杯だして。」

どぴゅ! ドクンどくん!

三回目とは思えないほどの精液が彼女の膣内に注がれていく。

今度は朱音の顔を見ながら射精を行う。僕の精を受けて、彼女も軽く達したようで表情が緩んでいる。

「朱音、やっぱり可愛いな。」

「っ・・・!」

僕の言葉を受けて、朱音が一瞬驚いたようだが、すぐにマントで目隠しをされてしまった。

髪が銀色になっているからか、顔が真っ赤になっているのはよく目立った。

いつもと立場が逆でも、本質的には何も変わってないようだ。



体が段々と重くなってきた気がした。

ただの射精後の倦怠感か、精気を吸われているからなのかの区別は付かないが、少なくとも恐怖は感じない。

だが、朱音の表情がまた厳しいものになっていることに気が付いた。

「さて、誠・・・。今からあなたの血を吸うことになるけど、本当にいいのよね?

 今ならまだ・・・――」

僕は最後まで彼女に言葉を聴かなかった。

朱音と繋がったまま、気だるい体に力を入れて起こし今度は僕からキスをする。

「こっちだって結構恥ずかしいんだから、もう言わせないでくれよ。」

彼女の顔に笑顔が戻る。僕はそこで油断してしまった。

せめて事前に説明して欲しかったと後になって思った。



最初は朱音がキスをしたいのだと思った。だが、違ったようだ。

次に彼女が僕の体を支えてくれるつもりだと思った。だが、違った。

三番目に彼女は僕抱き寄せるつもりだと思った。正解だと思った。

朱音が僕の首筋にいきなり牙

――さっきまではただのチャームポイントくらいにしか思ってなかったアレだ――

を突き立てるまでは。



献血が趣味だという友達がいた。なんでも血を抜かれるのが快感らしい。

あの時は軽く流したが、今は何となく分かった気がする。これと献血とを一緒にしていいのかは分からなかったが。

僕は朱音に噛まれ快楽を感じていた。

自分ではない大きなものの一部になる、という満足感。

自分の中の大事な何かが流れ出ていく、どこか心地いい喪失感。

魂が吸い出されるような感覚。

同時に彼女と繋がっている下半身からは、もう出ないと思っていた精液が打ち出されていく。

媚薬の効果だったのかもしれないし、人間としての最後の本能だったのかもしれない。

僕はその快楽の中で少しずつ意識を失っていった。



死因は分からない。失血死かもしれないし、ショック死かもしれない。

別の要因かもしれないが、これだけは言えた。

―――僕は死んだらしい。





口の中に暖かく、そして甘い感覚が広がる。

最初は夢だと思った。死ぬ直前に見ている夢だと。だが――

「そろそろ、起きて欲しいな。誠。」

彼女の声が僕を覚醒させる。僕はハっとなって眼を覚ました。

「いやん。乱暴に吸っちゃ嫌よ。」

朱音のおどけた様な声が聞こえてくる。

段々と落ち着いてくるに従って僕は現状を理解し始めた。

口の中に広がる感覚。それは彼女の母乳だった。

どうやら、僕は彼女のオッパイから母乳を飲まされているらしい。

「『お楽しみ』って言ったでしょ?」

朱音は楽しそうに笑った。

血と精気から練り合わせて作る“体液”、それは母乳のことだったようだ。



見れば、彼女のオッパイはいつもより一回り大きく張っている。

ゆっくり僕の口内に母乳が注がれる。

「僕はあれから・・・?」

「ダメよ、今は飲んで。吸い取った分、全部返してあげるから。」

無理に喋ろうとしたら彼女に止められる。

だが、朱音は僕が母乳を飲んでいる間にいろいろと説明をしてくれた。



彼女の説明によると、僕は既に人間ではなく彼女の『眷属』になったらしい。

最後の吸血のことは嬉しさの余り勢いでって事らしく、心臓が一度止まると教えることも忘れていたようだ。

(まぁ、結果は同じだったかな。)

一度自分が死んだという実感もあったのだが、僕はのんきに考えた。



他にも知りたいことがあったので朱音の母乳を全部飲み終わったあとにいろいろと聴いてみた。

「やっぱり、吸血って僕もしなくちゃいけないのか?」

「ううん、『眷属』って実は吸血鬼とは違うの。

 『眷属』は普通に人間の食事で生きられるし、傷の治りも吸血鬼並よ。

 寿命は主である吸血鬼、つまり私が死ぬまで。

 『眷属』は昔人間の恋人ができた吸血鬼が二人で永遠を生きるために考えた呪いみたいな物なの。」

「って事は朱音は吸血が必要なのか・・・?」

「私は必要よ・・・。我慢すれば数年は持つけど、でも『眷属』がいれば我慢も不要! なんせ、いくら吸っても死なないからね!!」

彼女は満面の笑みを浮かべた。それは僕の好きな彼女の笑顔。

今まで血が必要になったときのことも気になったが、彼女の笑顔が見れたことに僕は満足し聞かないことにした。

その代わりに僕は彼女の言葉に答える。

「なるほど・・・それなら確かに“呪い”だな。」

――苦笑いを浮かべながら。

「何言ってるの。これからたくさん私とセックスできるのよ?

 血を吸われながら、すごく気持ちよさそうな顔して死んでた、ま・こ・と君?」

僕はその言葉に肩を一度すくめ、今度は笑顔を浮かべて答えた。

「それを言われると痛いな。」





その日、夜が明ける前に一つ不安になって彼女に聞いてみたことがある。

「そういや、吸血鬼って太陽は大丈夫なのか?」

「そんな迷信、本当なわけ無いでしょ?」

との事だ。

勿論、彼女と昼間に出かけたことはある。あるのだが。

(なんか、すごく・・・理不尽だ・・・。)

僕はそう思った。





THE END




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