Succubus狂想曲前奏




初めまして、東郷 絹見と申します。

「きぬみ」と読み、絹の布を見てその良し悪しが分かるように世の中の善し悪しが分かり、正義を愛するような人間になって欲しいということからこの名が付けられたそうです。

よくこの名前、一人称と敬語から美男子を想像される方がいらっしゃいますが、残念ながら私は世間一般の男子平均を大きく逸脱した容姿ではありません。

良くも悪くも……。

身分は一般男子高校生二学年です。

今年の4月からですが。

しかし、物語とは得てして奇妙な始まり方をするものです。

私の物語も、この平々凡々な春休みから始まりました。



「ふぁぁ……」

自室で欠伸をしても教室と違い誰からも注意されないので、私は存分に欠伸をしました。

今日はとみに過ごし易い日です。

太陽は適量の光で我が国日本を照らし、その恩恵を預かり「春眠暁を覚えず」を実行している方も数多いことでしょう。

まぁ、もう昼過ぎですが。

新学期まであと一週間を切ったものの、高校二年生は一年生や三年生と違い気張ることもないのでこうも穏やかな心でのほほんとしていられる訳です。

存分にのほほんとしましょう。

両親と兄も今頃居間で昼寝をしているでしょうし。

さて、のほほんついでに皆さんは春と言ったらなにを思い浮かべるでしょうか。

上記の「春眠云々」でしょうか?

それともお花見でしょうか?

出会いと別れの季節である春。

私は……。



性欲の春でしょうか。



人間年中発情していますが、春と満月には特別感じ入るモノがあります。

私も一般男子。

しかも性人の異名を誇る思春期真っ只中の年頃。

人並みには性欲があるので自慰に耽ることも多々あります。

そして人間には様々な性癖があります。

陵辱、SM、純愛……。

ちなみに私は自身をSでもMでもないと自負しております。

それ以上に救えない性癖を有しているので……。

簡単に言うと、人外萌え…でしょうか。

悪魔や吸血鬼に代表される人型でありながらヒトあらざる者達が精や命を玩び搾取する……そんな一般的嗜好からは若干逸脱したものに興奮するのです。

しかし、そこで終わらないのが絹見クオリティ。

私は男として攻められるより人外として攻めたいという願望を持っているのです。

……できればアルク○イドや菊池秀○キャラのような人外の中でもバケモノのように凄まじい存在になってみたいと……。

自覚したときは愕然としました。

簡単に言えば女性化願望ですから。

自分がこんな特殊性癖を持っているなんて家族や親戚、友人には絶対に明かせません。

当然そのような趣向のエロは数少ないので、男性受けの人外もので我慢すると言う訳です。

そのような嗜好すら少ないのに……。

ともかくとして、そのようなモノを描いたり書いたりする方がこれ以上減らないように願いたいものです。

そんな数少ない嗜好を満たしてくれるのがインターネットの中に存在する個人サイトだったりします。

最近のお気に入りは『モンスター娘百覧』。

痒い所まで手が届く充実のラインナップで、ここ数ヶ月の履歴はこのサイトで一杯です。

未成年禁止?

………妄想と現実は区別出来るのでどうか出入り禁止だけはご勘弁を。

罪悪感からか、私は十分もしない内に…当然自慰もせずに、コンピュータをシャットダウンしました。

「……はぁ」

欲求不満なのか勃起は収まらず、内心のモヤモヤも消えません。

「……」

どうせ今日は暇。

ならばこのうららかな気候に任せて昼寝をするのもいいでしょう。

私はそう思い、ベッドに横たわりました。

「……………」

眠れません。

先程の興奮が燻り続け、眠るまでに精神を落ち着かせてくれません。

「少し……歩いてきましょうか」

敢えて独り言を呟き、私は外出しました。

こんな不安定な気分の時は人がたくさんいる場所ではなく一人になれる場所がよいと思い、私は自然公園の隅にある林間コースへと向かいました。

若干薄暗く歩きにくいためあまり人気の無い場所であり、案の定今日も誰もいませんでした。

そう思ったのですが……。

「……だ。誰にも……なよ」

「了解です……さん」

「………?」

何やら人の話し声。

しかもさらに林に入った本格的に人目のつかない場所。

無意味な好奇心に突き動かされた私は、声の方向へと歩を向けます。

そこに居たのはラフな格好をした二人の女性。

片方が大きめのバスケットに黒くて角ばった箱を入れる瞬間でした。

なんでしょうか?

その時、私の注意はその箱に向けられており、後ろから近付く気配に全く気付けませんでした。

ボグッ!

「!」

後頭部に強烈な打撃!

木の棒か鉄パイプか……。

仰向けに倒れた私の視界に凶器は映りませんでしたが……。

「ちょっと、見られたわよ」

「ちっ、面倒な」

妙齢の女性と思しき声。

彼女達は何をしていたのでしょうか。

だんだん意識が朦朧としてきて、思考すら覚束無くなってきます。

「調度いい、これを使う」

「ちょっ…と待ってください!改良型は実験すらまだなんです!人間に投与したらどうなるか……」

「男だ、ゾンビになるだけさ。死体が残るよりゾンビになってもらった方が捜査も難しいだろうよ」

「そうね、主任に賛成するわ。なにより覗き見ってのが気に入らないし」

貴女達はゾンビだのなんだのとかなり物騒な会話をしていますがね。

「悪いが君は処分だ。運よくナニカに成れたらまたいつか会うかもしれないが……男だからまず無理だろうね。じゃあ、さよなら」

首筋にチクリという痛覚が走り、私は一気に意識を闇へと沈められました…………。



「う……くっ」

体を起こすと、周囲はすでに暗くなっていました。

「さっきのは……夢?うっ!?」

ささやかな願望を口にした途端、後頭部の鈍痛が自己主張を始めました。

夢では無いようです……。

「突然殴るとは穏やかじゃないですね……」

首に手をやると、なにかが刺さったような跡……。

「!」



『男だ、ゾンビになるだけさ。死体が残るよりゾンビになってもらった方が捜査も難しいだろうよ』



私は慌てて体を探りました。

まさか本当にゾンビになるなんてことは……。

全く異常はありません。

いつものつまらない平凡な体です。

腐敗も無ければ食人欲もありません。

…………。

とりあえず帰りますか…。



「ただいま帰りました」

「おう、遅かったな」

兄さん……五つほど年上の兄、幸孝……が出迎えてくれました。

私と違って文武両道かつ容姿端麗な兄は、憧れだったりします。

「はい、少し遠出し過ぎたようです」

「お前少し放蕩癖みたいなのでてきたな」

兄さんは苦笑しながら言いました。

確かに私はふらりと出かけることが多いですが、放蕩癖とまではいかないと思うのですが……。

「まあいいか。もう飯出来るぞ」

「あ、はい」

こうして私は一瞬の非日常から離脱しました。

した筈だったのです……。



翌日、私は若干の違和感と、素晴らしく清々しい気分でもって目覚めを迎えました。

いつものまどろみは変わりませんが、まるで生まれ変わったかのような爽快感が身を包んでいます。

春効果でしょうか?

しかし、違和感があるのも事実。

体のバランスが取れないような……。

まあ、顔を洗えばスッキリするでしょう。

私は真っ先に洗面台へと向かいました。

あぁ、兄さんが先に使っていますね。

「もういいぞ絹……見……?」

「?」

私を見た兄さんはなぜか絶句の表情で固まりました。

そんなに寝癖がひどいのですか?

「絹見……?」

なぜか兄さんは疑問形で私の名を呼びます。

「なんですか?」

怪訝に思いながらも返事をすると、今度は顔色を真っ青にしました。

私だと認識することすら困難な寝癖なのですか?

「あの、兄さん、いい加減退いてくれませんか?顔と歯を洗いたいので」

「お…おう」

変に上ずった声で答えながらギクシャクと移動する兄さん。

それを横目で見ながら洗面台の前に立ちました。

鏡に写った私はいつもよりなんだか小さくて…………?



ありとあらゆる美の形容を使っても形容出来そうにない美貌は、誰もが躊躇無く膝をつくであろうと思える程です。

雰囲気はまさに支配者と言ってよく、彼女に「死ね」と命令されれば誰もが自らの命を奉げるでしょう。

腰まで波打つ闇を溶かしたような漆黒の髪は濡れているかのように艶やかです。

並べれば宝石の方が色あせるであろう真紅の瞳を据えている目は、どこと無く私の目に似てボーっとしています。

それが人外の美貌の中に違和感無く溶け込んでいます。

そんな容姿に合わせるように体躯も見事です。

妖艶でありながら清楚……いえ、形容することすらおこがましく感じてしまいます。

スラリと細く締まった体に、大きめの、柔らかそうな乳房が重力に逆らってツンと上向きで装備されています。

肌は陶器のように滑らかで、皺も染み全く見当たりません。

そして背中には漆黒の大きな翼と、尾?にはしなやかな同じく漆黒の尾が……。





誰ですか?コレ。





Succubus狂想曲

前奏 ひょんなことから淫魔

















―あとがきと言う名の戦果報告―

はじめましての方はじめまして。

久しぶりの方はお久しぶりです。

撃沈しても赤Pの出ない超大和型です。

「妖魔貴族に花束を」の続きを期待していた方(そんな奇特な、あるいは心の広い方はいらっしゃるのでしょうか?) 申し訳ございません。

そちらも諦めず続けますが、この「Succubus狂想曲」も力を入れて書かせてもらいます。

ずぶの素人なのに二作同時というのには理由があります。

実は前々から思っていたのですが、意外なことに(そうでもないですか?)攻め側の主観で描かれる話って少ないのです。

所謂主人公のモノローグによって書かれる性的描写の多い話は大概受け側で話が進みます。

主人公が攻め側である場合、多くは第三者的視点なのです。

少なくとも私の知る限りはそうでした。

勿論、そうなるのには理由があるのでしょうが、私はあえてこのような「攻め側の主観」に挑んでみたいと思います。

そういう訳でこちらは性描写をかなり多めに盛り込みたいと思います。

後はTSとバケモノと軽いノリのエロとアクション&バイオレンスを目指すつもりです。

何分若輩ですので、矛盾や不快感もあるかもしれませんがその辺はスルーか「読まない」で対応してください。

では、次から本編ですので出来れば楽しんでください。




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