PANDORA
「ええい、こっちだ!」
僕は声を上げてはしごをよじ登り、取っ手に手をかけた。
自信はない。しかし信じられるのは僕の袖の番号だけだ。
扉が開くのももどかしく、スライドした隙間から身をねじ込む。
通路を這い進み、766の部屋の扉の取っ手を握った。
がちゃ ぎぎぎ
音を立てて扉が開き、薄暗い通路に光が差し込む。
「ここは・・・」
一見、何もない普通の部屋だ。
犠牲者の衣服も、生臭い臭いも、何もない。
しかしトラップがないとは限らない。
だが、確かめようにも靴はないし、そもそも時間がなかった。
「・・・よし」
僕は一つ呟くと、通路から出てはしごに足を掛け、床に降り立った。
数歩進み、何も起こらないのを確認する。
「よし・・・竜彦!」
開きっぱなしの通路に向けて、僕は声を上げた。
「こっちの部屋は何もない、安全な部屋みたい!」
「分かった!それじゃあ、俺は後から行く!お前だけでも先に逃げてくれ!」
「そんな!竜彦も一緒に」
「バカ野郎!俺が抑えなきゃ、お前も俺もここで終わりだ!」
僕の声に、竜彦は怒鳴った。
「お前だけでも先へ進め!そして、ここから脱出するんだ!」
「竜彦・・・」
音を立てて扉が自動的に閉じ始め、隙間が狭まっていく。
「いいから早く行け!俺に構うな!だから―」
竜彦の言葉は、扉によって遮られた。
「・・・」
竜彦を助けに行くべきかどうか、一分ほど迷った。
しかし、今から僕が行った所で扉を押さえること以外にできることはない。
それに、こうしている間にも向こうの部屋の扉が破られ、竜彦はエリに襲われているかもしれなかった。
「・・・仕方ない」
僕は竜彦に心の中で礼と別れを言いつつ、扉に背を向けた。
とりあえず、次の部屋に移ることにしよう―
かちり
踏み出した右足から、小さな音がした。
「え?」
視線を下げてみると、右足は床を走る金属のフレームを踏んでいた。
足をずらしてみれば、金属のフレームに小さな円形の溝が彫ってあった。
まるで、小さなスイッチが床から突き出ていて、それを僕が踏んでしまい元に戻らなくなったようにも見える。
ぶぅぅぅぅん・・・
「!?」
低い振動音と共に、プラスチック板の向こうで輝いていた照明が消える。
「な、何・・・?」
左右さえも判らなくなるような濃い闇の中で、僕は顔を左右に振った。
と、不意にプラスチック板に光が点った。
「っ!」
目を射る眩さに、目に痛みが走る。
しかし、強引に目を開いてみると、様変わりした部屋の様子が目に入った。
何もない、金属フレームとプラスチック板によって構成された、壁と床と天井は変わらない。
ただ、そのプラスチック板の奥で輝く光の色が変わっていた。
ある板の奥では緑に、ある板の奥では赤に。
さっきまで白一色だった光が、板ごとに様々な色を放っていた。
「え・・・?」
不意にある板の光が弱まり、別な色の光が点る。
別の板でも同様に、光の色が変わっていく。
ゆっくりとした色の変化は、次第に速度を増していった。
「え・・・?え・・・?」
戸惑っている間にも、光の変化は加速し、めまぐるしいほどの速さで色が変わっていた。
色調と光の洪水が、目を通じて意識になだれ込んでいく。
「っ!?うぅ・・・」
突然足から力が抜け、その場に手をついた。
床に目を向けても、床は床で光を放っている。
目を逸らそうにも、視線は釘付けになったかのようにびくともしない。
光が色が光が色が、意識を埋め尽くしていく。
「っ・・・」
やがて、僕の意識は沈んでいった。
声が、聞こえる。
「よく寝てるね」
「よく寝てるよ」
「このぐらいの仕掛けに気が付かないなんて間抜けだね」
「間抜けだからこのぐらいの仕掛けに引っかかるんだ」
「これじゃあ出られても三問目が限界だね」
「これじゃあ槍を見つけても乗っ取られるね」
「くすくす」「くすくす」
がんがんと鐘を鳴らすような頭の痛みと二つの声に、僕は目を開いた。
「うぅ・・・」
「あ、目を覚ましたよ」
「うん、目を覚ましたね」
うすらぼけた視界に、ようやく焦点が合う。
目に入ったのは、剥き出しの蛍光灯とコンクリートの天井、そして仰向けに横たわる僕の左右に座り僕を見下ろしている、作業着姿の二人の少女だった。
二人とも褐色の肌に赤い髪で、年は僕よりちょっと下ぐらい。そして、双子なのか同じ顔をしていた。
一人は髪をアップに結っており、もう一人は一本のお下げに編んでいる。
どうやら僕は、下着姿でどこかのベッドの上にいるらしい。
「おはよう」
「目が覚めたね」
「・・・ええと・・・っ!うぅ・・・」
しようとしていた返事や質問が、不意の頭痛によりかき消される。
「後遺症だね」
「すぐに直るよ」
女達が、顔をゆがめる僕をくすくすと笑った。
やがて、彼女らの言葉どおり頭痛が治まっていく。
「何か聞きたいことは?」
「答えたり答えなかったりするけど」
「ええと・・・」
まだ僅かに痛む頭を抱えながら、僕は問いを口にした。
「あなた達は・・・」
「あたしはラウラ」
髪をアップにしたほうが名乗る。
「わたしはローラ」
髪を一本のお下げにしたほうが名乗る。
「ここはあたしの部屋」
「あなたがいたのは複合型実験施設。私達はそこを監視していたの」
「それで一人になったあなたを、あたし達が隙を見て連れ出したの」
「質問できるんだから、私達のいうこと分かるよね?」
「くすくす」
「くすくす」
ラウラとローラの声が、僕に状況を把握させる。
「それで・・・なんで僕を・・・」
「ただ、システムの更新のため新たな人員が必要だから」
「それと、たまたまあなたが一人きりになったから」
「ただそれだけ」
「簡単でしょ?」
くすくす、と笑いながら、二人がベッドの両端に腰を下ろす。
「それじゃあ早速」
「楽しみましょう」
二人が僕にしなだれかかってきた。
「え・・・いやその・・・」
「あらあら、助けてあげたのに」
「わたし達がいやなのかしら?」
「ここでは倫理観もプライドも捨てたほうがいいわよ」
「でも、どうせすぐに自分から捨て去るんだろうけど」
言葉を切ると、ラウラがぼくの両頬に手を添え、自分のほうに向けさせて唇を重ねてきた。
「んっ!?んん・・・」
とっさのことに驚き、ラウラを払おうとするが、シャツの襟元からローラが手を差し入れ、優しく乳首を弄くった。
柔らかなラウラの唇と、繊細なローラの指使いに力が抜けていく。
「ん・・・んん・・・」
ラウラは情熱的に僕の唇を吸い、緩んだ隙間を広げて舌を挿し入れてきた。
彼女の舌が僕の歯茎を撫でる度に、ぢゅぷぢゅぷと僕とラウラの唾液が音を立てて混ざり合い、溢れ出して滴り落ちる。
「あらあら、姉さまも新さんも仲良くして・・・うらやましいわ」
ただただ唇を重ね続ける僕らに、ローラおどけた調子で言う。
「ほら新さん、姉さまばかりじゃなくて、わたしの手技も味わって」
ローラが、言葉と共に乳首を摘む指に力を込め、こりこりと転がす。
同時に、開いたほうの手がシャツの裾を捲り上げて、あらわになった僕の脇腹を優しく撫でた。
乳首への火花散るような強い刺激と、脇腹をくすぐる甘い刺激が、同時に脳へ届けられる。
柔らかく優しいラウラの接吻と、相反した二種類の刺激を生み出すローラの手技。
その二つに、僕の興奮は否応なしに高まっていった。
「あら・・・新さん、もうここをこんなにして・・・」
ローラが自身の肘に当たる、膨張しかけの僕のペニスに手を伸ばす。
「じゃあ、姉さまより先にいただくわ」
パンツを腰から引き下ろし、硬度を増しつつあるペニスに指を這わせた。
ペニス全体を優しく掴み、親指の腹で亀頭をくりゅくりゅと円を描くように擦る。
「んんっ!?」
彼女の淫靡な手の動きに、一瞬にしてペニスが屹立する。
しかしローラは手の動きを休めることなく、鈴口からにじみ出した先走りを潤滑液に、更に強く亀頭を擦ってきた。
先走りでぬるついた親指の腹が、亀頭を通じて疼痛を伴った快感をもたらす。
「んぐっ!?んん〜〜〜っ」
あまりに強い刺激に、僕はもがいた。
しかし、ローラは体重をかけて僕の体を押さえ、ラウラは両手で強く僕の頭を抱えなおし、僕の動きを封じた。
更に、ラウラが止めとばかりに僕の口中へ、深く深く舌を突き入れる。
挿し込まれたラウラの舌は、彼女の唾液にまみれ少しざらついていた。
そのざらついた表面が、蛇のように僕の舌に絡み付いてきた。
「んん・・・」
柔軟に蠢くラウラの舌に、甘い陶酔が僕の意識を包み、僕の体から力を奪っていく。
「あらあら、姉さまの舌で大人しくなって・・・わたしも負けていられないわ」
ローラが、言葉と共に親指の動きを止め、ペニスを握りなおす。
ペニスはローラの手技によって、あふれ出した大量の先走りにより濡れていた。
彼女は無造作にも見える手つきで、ペニスを扱き始めた。
だが、すぐに無造作に見えたのは誤りだと悟った。
ペニスを握る力を微妙に変化させ、指を微かに蠢かせていたのだ。
幹や裏筋などそこまで敏感ではない部分は強く、亀頭やカリ首は僅かに優しく、そして時折力を変化させていた。
「んん・・・!ん・・・!」
単調な上下運動ながらも、複雑に蠢く掌の感触に、僕はうめきを漏らした。
興奮が高まり、あっという間に追い詰められていく。
「新さん・・・もうすぐ出るのね・・・?ペニスがビクビクしてる・・・」
僕の限界を見抜いたかのように、ローラが口を開く。
「我慢しないで・・・一杯出してね・・・姉さま、お願い」
ローラの言葉に、ラウラが深々と舌を押し込んでくる。
舌は僕の舌ともつれ合い、口腔の粘膜を存分に刺激した。
同時に、ローラも開いた手を水をすくうようにくぼませて、亀頭を包み込むように重ねた。
加えられた手首の捻りが亀頭を擦りたて、裏筋を揉み解す指と相まって強い快感を生み出した。
「んぐっ、んんんんん〜〜〜っ!」
一気に押し寄せてきた快感に、僕は全身を震わせながら射精していた。
噴き出る精液が、ローラの掌を強く打ち、指の隙間から漏れ出す。
「あら、あらあら・・・すごい勢い・・・」
熱を帯びた目で、ローラは射精が収まるまで手を蠢かせていた。
やがて射精の勢いが鈍くなり、終わると同時にラウラが唇を、ローラが両手を離した。
「見て、姉さま・・・」
「あら、どろどろ・・・」
ローラの両手にへばりつく、大量の僕の体液にラウラが声を上げた。
「ちょっと頂戴・・・」
「だめよ、わたしの」
ローラは両手を顔に寄せると、ぴちゃぴちゃと音を立てながら掌に舌を這わせた。
彼女のピンク色の舌が唇の間から出て、掌や指に絡みつく精液を掬い取り、口内へと消えていく。
そのあまりに淫靡な光景に、僕の視線は釘付けになった。
「あぁ・・・あぁ・・・」
ラウラが大きく開けた口から涎をたらしつつ、残念そうな声を上げた。
「・・・姉さまも舐めたかったら、そこにあるじゃない」
掌を舐めるのを中断し、ラウラに向けていう。
ラウラの目は、ローラの痴態によって屹立しなおした僕のペニスに向けられた。
ペニスには、あまりに激しかった射精の残滓が全体にこびり付いている。
「そうよね、忘れてたわ・・・」
ラウラは熱に浮かされたように、僕の腰の横へ移動した。
そして、僕の股間に覆いかぶさり、精液まみれのペニスに舌を伸ばした。
「うぁ・・・!」
温かい、荒い鼻息がペニスをくすぐり、柔らかな舌が僕のペニスを舐め回す。
ラウラの舌のざらつきは、さっきまで口で存分に味わっていた。
しかし、射精直後で敏感なペニスには、その僅かなざらつきが何倍にも強く感じられた。
もはや痛みといってもいいような刺激が、ペニスに襲い掛かる。
「はぁ、おいしかった・・・」
一通り掌を舐め終えたローラが、ふうと息をついて、口を開いた。
「新さんの精液舐めてたら、だんだん興奮してきたわ・・・ほら・・・」
作業着のズボンを下ろし、股間部分に染みの生じた白いショーツを晒す。
汗の臭いに混じって、微かに甘い香りが僕の鼻をくすぐった。
「本とは弄りたくてしょうがないんだけど・・・せっかく新さんがいるんだし・・・」
言葉を連ねながら、ローラがショーツに指をかけて下ろす。
「ちょっと、相手してね・・・」
「あぁっ、あああっ・・・んぶっ!?」
剥き出しの彼女の秘部が、僕の顔の上に下ろされた。
褐色の太ももに挟まれたローラの女陰は、興奮のためか大きく広がり涎をたらすようにして、ねっとりとした粘液が溢れ出させていた。
僕の鼻腔に、南方の花を思わせる濃密な甘い香りが叩き込まれた。
「あぁ・・・新さん、いい・・・」
僕の顔面に秘部を押し付け、腰を左右に振りながらローラが声を漏らす。
「ん・・・んぶ・・・んん・・・」
ラウラは、ペニスの表面に残っていた精液を舐め終えたのか、いつの間にか僕のペニスを咥えていた。
歯を立てぬよう大きく口を開き、舌で裏筋を擦りながら強く吸い、頬肉で亀頭を挟んでくる。
先ほどのキスのときとは異なる、技巧ではなく単純な力技による口技だった。
だが彼女の口は非常に柔らかく、ローラの秘部と合わせて僕を追い詰めていった。
「あぁぁぁぁ・・・ん・・・」
ローラが腰を強く押し付け、ラウラが一際強くペニスを吸った。
一瞬で限界が訪れ、絶頂に達する。
「ん、んぐぅぅぅぅっ!!」
全身を反り返らせ、二度目の精液を放つ。
「ん!?んんっ!!」
口内に溢れ出した精液に驚いたのか、ラウラが声を漏らした。
ラウラの喉の動き、そして精液を嚥下する口内の動きが、更なる射精を僕に促した。
「あぁっ、あぁっ、新さん・・・」
顔面に押し付けられるローラの秘部からも、彼女の興奮を示すように愛液があふれ出ている。
ラウラとローラ、彼女らの全てが、僕の興奮を掻き立てていた。
「んんっ、んん・・・」
興奮によるものか、単に息が詰まっただけなのか、僕の意識が遠のき始めた。
だが、ペニスはラウラの求めに応じ、口腔が蠢く度に精液を放ち続けている。
「んぐ・・・」
やがてペニスから精液を漏らしながらも、僕の意識は沈んでいった。
軽い頭痛を覚えながら、僕は目を開いた。
「目が覚めたね」
「よく休めた?」
シャワーを浴びたのだろうか、バスローブ姿のラウラとローラが、体から湯気を上げながら僕に声をかけた。
「楽しかったよ」
「よかったでしょ」
僕に向け、二人が情事の感想を口にする。
「君の事、あたし達がイェーナさんと上に言ったら、一緒に働けるようにしてあげるって」
「その代わり新さん、わたし達の相手をするって約束できる?」
「で・・・できます・・・」
頭痛を堪えながら、僕は二人の言葉に答えた。
「それはよかった」
「三人じゃ、仕事はきついし」
「女ばかりじゃ、楽しくない」
「よかったよかった」
「くすくすくす」
「くすくすくす」
「・・・・・・」
竜彦は、僕だけでも外に出られるようにと願って僕を送り出したはずだ。
外に出られたとはいえ、こんな自分を売るような出方は、彼の望んだ形ではないだろう。
(竜彦・・・ごめん)
内心竜彦に謝る。
それでも僕はあの部屋から出られたことを喜んでいた。
例えこれが、悪魔との取引だったとしても。
僕は、嬉しかった。
「くすくす」
「くすくす」
ラウラとローラの笑い声が、部屋の中に響いていた。
<To Be Continued>
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