PANDORA
「ええい、こっちだ!」
僕は声を上げてはしごをよじ登り、取っ手に手をかけた。
自信はない。しかし信じられるのは僕の袖の番号だけだ。
扉が開くのももどかしく、スライドした隙間から身をねじ込む。
通路を這い進み、112の部屋の扉の取っ手を握った。
がちゃ ぎぎぎ
音を立てて扉が開き、薄暗い通路に光が差し込む。
「ここは・・・え?」
目に入ったものの存在が理解できず、思考が停止する。
目に飛び込んだのは、緑色の柱。
部屋のほぼ中央、床から天井まで伸びる緑色の、紐状の何かを幾本も生やした柱だった。
と、柱から生える紐状の何か、つまりは触手の一本が、僕のほうに伸びてきた。
「・・・!」
しまった、と思ったときにはすでに遅く、僕の右手首につるりとした表皮が絡みついた。
「くっ・・・!」
太さは人差し指ほどで、しっとりとしているが、振りほどこうにもびくともしない。
どうにか逃れようとしているうちに、一本、また一本と新たな触手が僕の体に向けて伸びてくる。
やがてあっという間に、両手足と胴に触手が絡みつき、僕の体が抱え上げられた。
「く・・・竜彦!」
「何だ!」
僕は、触手に通路から引き出されながらも、背後の開きっぱなしの扉に向けて叫んだ。
「こっちは罠だ!逃げるなら、反対の部屋に逃げて!」
「罠!?分かった、助けに行く!」
「いや、こないで!」
自動的に扉がスライドし、徐々に隙間が狭まっていく。
「頼むから、竜彦だけでも逃げて!」
「そんな・・・」
「僕はもう助からない!だから・・・」
逃げて、と続ける直前、通路の奥、竜彦のいる部屋の扉が閉まった。
触手は僕を部屋から引きずり出すと、本体である柱の近くに引き寄せた。
近くで見てわかったことだが、柱もまた人差し指ほどの触手がたくさん寄り集まってできていた。
柱を成す触手の一部が解け、床に平行になるよう棚状に触手を編み上げる。
ちょうどキノコの一種である、サルノコシカケのような外見だ。
本体は棚の上に僕を乗せると、更に触手を伸ばして僕の周りを囲んだ。
「・・・うぅ・・・」
体を拘束する触手と、その倍の数の触手が僕を取り囲むという風景に、僕はおぞましさを覚えた。
しかし触手たちは何をするわけでもなく、ただ先端を左右に揺らしながら、何かを待っている様子だった。
―ぽとっ
不意に頬に、何かが滴り落ちる。
冷たくはない。ただ、異様なまでにねっとりした液体だ。
とっさに、僕は顔を天井に向けた。
「・・・!?」
そこにあったのは、柱の半分の太さはあろうかという触手の束だった。
ぬらぬらと壁の照明を照り返す触手の束が、僕の真上にあった。
「な・・・」
声を上げようとした瞬間、触手の束が見えない巨人によって絞られたかのように捩れた。
どぼどぼどぼっ・・・!
触手が分泌していた粘液が、僕の全身に音を立てて降り注ぐ。
一瞬で僕の前身は粘液まみれになり、異様なまでに甘ったるい臭いが鼻腔を支配した。
「うぇ・・・うわっ、何だこれ・・・!?」
薄く開いた僕の目に、ゆっくりと崩れていく作業着が入った。
まるで、粘液に布の繊維が溶けていくかのように。
しかし、触手は布が溶けるのが待てないらしい。
一気に僕の体に触手が群がり、ズボンの裾や袖口、襟首から入り込んで、形を残していた作業着を完膚なきまでに破壊した。
続けて、僕の体を濡らす粘液をその表面に塗りたくり、僕の肌に更に擦り込むかのように動き出す。
「うぁ・・・ひぃ・・・!」
胸といわず背中といわず、頭の先から足の裏まで、触手たちが身を擦りつける。
無論、僕のペニスにも触手は群がっており、粘液とその動きによってペニスに血が送り込まれていく。
海綿体の充血により、ペニスが大きく、硬さを増していく。
股間に群がる触手のうち一本が、勃起しつつあるペニスに気が付き、その身をペニスに巻きつけた。
そして、軽く上下に扱き始める。
「あぅ!うう・・・!」
締め付けこそ手には劣るが、僕の掌よりよっぽど柔らかい触手の上下運動に、僕の腰が震える。
裏筋を圧迫しながらカリ首を刺激しつつ扱き上げ、亀頭を撫でつつ幹を擦り下ろす。
優しく、繊細な締め付けでありながら、ダイナミックな触手の動きによって、僕は次第に追い詰められていった。
「ああ・・・もう・・・!」
限界が訪れ、拘束されながらも全身を震わせ、僕は絶頂に達した。
噴出した精液が、僕の体に群がる触手たちに降り注いでいく。
しかし射精が始まってもなお、触手たちの動きは止まらない。
「うぁあああ・・・あああっ・・・!」
ペニスに巻きつく触手が変わらぬテンポでペニスを扱き、写生中のため敏感になったペニスに与えられる強烈な刺激に、僕は悲鳴交じりの喘ぎ声を上げた。
やがて、強引にいつもよりずっと長く続かせられた射精が終わり、僕の全身が弛緩する。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
荒く息をついている間も、触手たちは体をまさぐり続けている。
変わらぬ刺激ではあるが、もはや僕にとっては苦痛だった。
「もう・・・やめ・・・ひぃっ!」
懇願の声を無視するかのように、柱から更なる触手が解け、僕に群がってきた。
先行組の触手から場所を奪うように割り込み、後から来た触手を押しのけるように体を這い回る。
蛇の群れに突き落とされたかのような感触に、僕は悲鳴を上げた。
無論、ペニスでも触手の陣取り合戦は始まっている。
三本の触手が互いに押し合い圧し合いしながら、その身をペニスに巻きつけて触手玉をつくり、ゆっくり上下に扱いていた。
少しでもペニスに広く触れようと触手が巻きつけば、別な触手がその隙間を押し広げながら割り込む。
傍目には動きがゆっくりになっているが、触手玉の内部ではすさまじいまでの快感をもたらすうねりが生じていた。
「うぁぁああああっ!!あぁぁぁぁっ!!」
僕は苦痛を通り越した快感に声を上げ、身悶えしていた。
視界が激しく明滅し、意識がぐらぐらと揺らぐ。
だが、射精したばかりのせいかなかなか絶頂に達しない。
そんな地獄を、僕は体感していた。
「うぁああ、あぁ・・・う・・・?」
肛門を這い回っていた触手の一本が、不意に僕の肛門にその先端を埋めた。
すると、その触手に続くかのように、いっせいに複数の触手が肛門へと群がった。
「うわぁあぁぁっ!」
体内への異物感に、反射的に括約筋を締め、更なる触手の侵入を拒む。
しかし、すでに入ってしまった触手はじりじりと奥へもぐりこんでいった。
「うわぁ・・・あぁ・・・」
腹の中で動く異様な異物感に、背筋が凍っていく。
しかしその異様な感覚が、僕の体奥に射精前のあの渦巻くような感覚をもたらしていた。
「あぅ・・・うぅ・・・」
触手は、腸内を探るようにしながらゆっくりと奥へ進んでいく。
その動きの一つ一つが、ペニスを内側から刺激し、僕を絶頂に追いやっていった。
射精したい。
この地獄に、かりそめとはいえ区切りをつけたい。
射精への欲望が巻き起こるが、同時に全身が弛緩し、肛門が緩んだときへの恐れも沸き起こる。
肛門に触れている触手は、五本か六本か。
とにかく、それだけの数の触手が一度に肛門にもぐりこめば、確実に裂ける。
なんとしても、それは避けたかった。
ペニスを包む触手玉の内部が、大きくうねる。
「う・・・ぐ・・・」
ぎりり、と音を立てて奥歯を噛み締め、射精を堪える。
少なくとも、肛門によってくる触手たちが諦めるか、その数を減らすまで射精してはいけない。
じゅぶ・・・ぶぢゅ・・・
なかなか射精しない僕に業を煮やしたかのように、触手たちの動きが大きくなる。
あるものは細かく震え、あるものは粘液を分泌し、あるものはより強くその身を僕に押し付けてきた。
「ぐぐ・・・ぅ・・・」
顔を左右に強く振り、襲い掛かってくる快感を振り払う。
しかし、触手たちの動きは次第に僕を追い詰めていった。
「うぅ・・・あぐ・・・・・・う・・・?」
不意に、腸内で蠢く触手の動きが変わった。
腸壁を探りながら、奥へ奥へと進んでいた触手の先端が、不意に腸壁の一部を圧迫し始めたのだ。
ちょうど、ペニスの付け根の裏側辺りを圧迫すると同時に、前身を電流が走る。
「あうぅっ!?」
肛門がすぼまり、ペニスの先端から精液が噴き漏れる。
軽い絶頂に全身から力が抜けかけるが、意識を総動員して踏みとどまった。
しかし―
ぐちゅ・・・ぶぢゅ・・・
「あぁうっ!」
触手の先端が、続けて幾度も腸壁を刺激する。
そのたびに、僕は軽い絶頂を迎え、僅かながらの精液を漏らした。
そして、その微かな量の精液を奪い合うかのように、触手たちが亀頭に群がり、ひしめき合う。
「ああっ、ああぅ・・・!」
腸壁への刺激と、亀頭でひしめく触手、そして全身を這い回る触手達が、僕の心を削っていく。
皮膚を触手が愛撫するたびに、全身が萎えていく。
ペニスでひしめく触手の動きに、体内の欲望が膨れ上がっていく。
腸壁を触手が突付けば、意識が揺らぐ。
「うぐぅ・・・がぁぁ・・・!」
もはや、肛門を突付く幾本もの触手に対する恐怖は掻き消え、快感を存分に貪いたい、という欲求が意識のほとんどを占めていた。
(ああ・・・もう・・・!)
心の叫びと同時に、幾度目になるか分からない責めが始まった。
ぬちゃ、と音を立てて、全身を這い回る触手が蠢く。
ぐちゅ、と音を立てて、ペニスを包む触手達がうねる。
そして、腸壁が圧迫され、腰の奥から全身に快感が走る。
僕の心中で、恐怖と快感の天秤の傾きが、音を立てて変わった。
「あああああああっ!!」
叫び声を上げて、射精を堪える一切の努力を止め、意識のすべてで快感にむしゃぶりつく。
激しい鼓動と共に、尿道を精液が駆け上り、辺り一体に音が届きそうな勢いで噴出する。
快感に伴う痙攣で全身が硬直し、触手による拘束をものともせず背筋が反り返る。
精液が触手玉の中に注がれるたびに、触手達が精液を奪い合い、震え、蠢いた。
射精のたびの肛門がひくひくと動き、緩んだ瞬間を見計らって触手達が腸内に押し寄せてくる。
「ああああああぁぁぁぁっ!!」
射精にあわせて触手が蠢き、その刺激が引き金となって更なる射精が起こる。
もはや、何もかもが心地よかった。
肌を這い回る触手も、ペニスを包む触手も、腸内で暴れまわる触手も、尿道を刺激するどろどろの精液も、体内で激しく痙攣する前立腺も。
全身が、快感を貪っていた。
「あああっ!うわぁぁぁぁぁっ!んぶっ!?」
絶叫を上げていた口に、触手が絡み合って束になった物が押し込められる。
触手は僕の口の奥、喉へ潜り込むとそのまま食道を下っていった。
同時に、肛門に挿入されている触手の束も、腸を逆行して奥へ奥へと進み始めた。
「んぐ!?んん!!」
消化器官を侵略されているという事実に、ぐらぐらするような興奮を覚え、射精の勢いに拍車がかかる。
触手の束の表面が波打ち、腸壁と食道を内面から刺激する。
「んんん!んんんーーっ!!」
もはや射精の勢いは小便のようで、僕の全身を吐き出すほどであった。
やがて腹の中で、消化器官を蹂躙しつくした二本の触手の束が合流した。
膨れた消化器官の中が、ペニスを包む触手玉の中が、全身に絡みつく触手達が、いっせいに蠢く。
「んぐぅぅぅぅっ!?」
一度に全身から押し寄せてきた激しい刺激と快感に、僕の意識は爆ぜ、薄暗い闇へと沈んでいった。
目を覚ますと、あたり一体が暗かった。
口と肛門をふさぐ触手の感覚も、全身を包む触手の感覚も未だある。
どうやら、ここは触手の柱の中らしい。
全身を異様なまでにねっとりとした粘液が包み込み、それを擦り込む様に触手達が蠢いている。
心地よい。
ただ、それは快感をもたらす心地よさではなく、安心感を覚える心地よさだった。
見ることも話すことも動くことも、そして、考えることさえも放棄したくなるような心地よさ。
ずるり
触手が大きく蠢き、腕の感覚が消滅する。
だが、痛みはない。
快感もない。
ただただ、心地よい。
ずるり
両足の感覚が消失する。
ああ、眠たくなってきた。
ずるり
腰の感覚を失いながら、僕は不意に襲ってきた眠気に身をゆだねた。
ずるり
首から下が消滅し、僕の意識は再び沈んでいった。
もう、浮かび上がることがないであろう、深い、深い、闇へ。
ずるり
<Eaten END>
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