PANDORA
「いや、異常は特にないみたい」
僕はそう告げると通路から手を伸ばし、扉の四方に伸びるはしごの一つに手をかけた。
部屋の隅に、作業着が脱ぎ捨てられているがそれだけしかない。
たぶん安全だろう。
しっかりと金属製の棒を握り締める。
「よっ･･･と」
軽い掛け声と共に、僕は足場代わりの通路内の突起を蹴った。
ちょうど雲梯にぶら下がる要領で、天井に取り付けられた梯子にぶら下がる。
「どうだ、新」
開いた扉の奥から、竜彦の声が届いた。
「いや･･･別に異常はないみたい･･･」
腕への負担を堪えながら、竜彦に応える。
「とりあえず･･･床に下りるね･･･」
そう言いながら、僕は壁に向かって梯子の横棒に手を掛けた。
その瞬間。
ぎぎぃ がちゃん
音を立てて、天井の扉が閉まった。
「え？」
首をねじり、すでに閉まってしまった扉に顔を向けながら、僕は間抜けな声を上げた。
がん がん がちゃがちゃ
扉が向こう側から激しく叩かれ、取っ手が小さく揺れる。
竜彦が開けようとしているのだろう。
だが、扉にはロックがかかっているらしく、びくともしない。
ウィィィィ･･･ン
小さな音が、頭上から生じる。
顔を上に向けると、梯子が取り付けられている金属のフレームに、小さな穴が等間隔に開いていた。
そして、さっきの音はこの穴が開く音だったのか、と僕が理解するよりも早く、僕の真上にあった穴から何かが噴出した。
ぶっしゅぅぅぅぅっ
「うわ！」
突然噴き出してきた霧状の何かに、僕はとっさに『両手で』顔を庇った。
しまった、と思う間もなく浮遊感が全身を支配し、直後、鈍い音と共に全身に鈍痛が走った。
「がはっ･･･！」
鈍痛に大きく口を開き、悲鳴にもならない呼気が漏れる。
とっさに受身を取ったせいか、頭は打たずに済んだ。
それでも数メートルの高さを落下した衝撃が消えるわけでもなく、背中や腰、そして尻を痛みが支配していた。
「あが･･･ぐ･･･」
歯を食いしばり、痛みを懸命に堪える。
背筋はじんじんと熱を持ち、腰骨の中を無数の蟻が走り回るかのように苦痛が渦巻く。
痛い、痛い、痛い！
「ぐ･･･く･･･」
少しでも痛みが引くのを待ち、早いとここの部屋を出て竜彦とエリに合流しなければ。
痛みから気をそらすために、懸命に別なことに意識を向ける。
ぶしゅぅぅぅぅ
天井の穴からは、まだ噴出は続いている。
霧状になった液体のせいか、甘い臭いが部屋中に立ち込めていた。
「ぐぅ･･･く･･･」
じっとしていると、次第に痛みが引いてきた。
歯を食いしばる力も緩み、うめき声も小さくなっている。
軽く手で腰を擦ってみると、鈍痛がする程度で、耐え難いほどの苦痛は引いていた。
「あつっ･･･たたた･･･」
床に手をつきながら、身を起こす。
どうやら打ち身程度で、骨折などの重傷は負っていないらしい。
とりあえず僕は、外傷がないかどうか、手で触って確かめることにした。
「あつつ･･･ひっ！？」
突然全身に、電流めいた快感が走った。
特に何ということはしていない。
ただ、傷がないか確かめるために手を動かしたせいで、シャツの生地が乳首を軽く擦っただけだ。
だというのに、乳首から生じた快感は全身を駆け巡り、一瞬とはいえ腰の痛みをかき消すほどだった。
「･･････」
恐る恐る、服の上から胸に触れてみる。
すると、下着と作業着の上からでも分かるほど、僕の乳首は硬く膨らんでいることが分かった。
それどころか、軽く触れただけだというのに再び快感が全身に走った。
「ひぃっ！？」
声を上げて一瞬のけぞり、そのせいでまた乳首が下着と擦れる。
「うわぁっ、ひぃっ！」
僕の一挙動ごとに、衣服の生地が僕の乳首を撫で、堪えがたい快感を生じさせた。
僕は快感によって身悶えし、そのたびにまた乳首を布が擦りたてる。
「うわぁっ、あぁっ！！」
もはや乳首どころか、背筋や腕を包む作業着の裏地さえもが、異常なまでの快感を生み出している。
すでにペニスは大きく膨れ上がり、僕の身悶えに合わせて脈打っていた。
加速度的に膨れ上がる快感に、僕の意識は次第に追い詰められていき、やがて限界に達する。
「ああっ、ああぁぁぁぁーっ！！」
部屋の真ん中で仰向けになり、大きくのけぞりながら下着の中に射精する。
屈辱的ではあったが、射精の開放感と衣擦れの心地よさが、些細な屈辱を押し流してしまった。
「はぁ･･･はぁ･･･」
床の上に転がったまま、僕は荒く息をついていた。
射精直後のおかげで身悶えは収まったが、ペニスは精液にまみれた下着に包まれ、その感触によって屹立していた。
今はまだ心地よい、といった程度だが、やがてまた先ほどのように衣擦れによって身悶えしながら射精するだろう。
そうなる前に手を打つ必要がある。
「はぁ･･･はぁ･･･」
僕は荒い息をつきながら、作業着の腰に手を掛けた。
ゴムを広げ、ゆっくりと押し下げる。
粘ついた体液にまみれた下着の布地が、勃起したペニスを擦っていく。
ぬるついた布地が、膨れ上がった裏筋を刺激し、亀頭に粘液を塗りつけていく。
「うわ･･･あぅ･･･」
ぐちょぐちょと粘つく体液の感触に、僕は声を漏らした。
少しずつ少しずつ、ゆっくりとズボンを下げているのに、与えられる快感にまた射精しそうになる。
僕は唇をかみながら射精を堪え、快感に耐えながらズボンを下ろし続けた。
やがて、ペニスが作業着の拘束から逃れてまろび出た。
「ひぃうっ！？」
ペニスが大きく揺れた瞬間、空気が纏わりつくような感触が僕を襲った。
体温より低い、ひんやりとした空気がペニスに絡みつき、精液や先走りにまみれたそれを刺激するのだ。
「そ、そんな･･･ひぃっ！」
ペニスが脈打ち、そのたびに空気が意識を持っているかのように、淫猥にペニスに絡みつく。
幹をくすぐり、裏筋を撫で上げ、亀頭に絡みつき、全体を擦りたてる。
そよ風さえも吹いていない室内だ。ペニスに絡み付いてくるのはただの空気のはず。
しかし、もたらされる快感はとても大きく、部屋に立ち込める甘い香りと相まって、まるで経験豊富な女性が何人もペニスを嬲っているような錯覚を覚えた。
「あぁ･･･いぃ･･･！」
快感に身悶えし、
空気が、衣服が、僕を次第に追い詰めていく。
高まる興奮によって、ペニスの脈動と身悶えが大きくなっていく。
それによって、空気の責めは一段と激しさを増していった。
「うわぁ･･･あぁ･･･！」
大きくのけぞり、叫び声と共に精液を放つ。
噴水のように精液が宙を舞い、勢いを失って僕の体に降り注いだ。
「ひ、ひぃぃぃっ！？」
皮膚を打つ精液の雫の感触が、爆発的な強さの刺激を生み出し、快感が全身を駆け巡る。
その快感が、空気による責めを後押しし、更なる射精を強要した。
精液を噴出すればするほど、空気は淫らにペニスに絡みつき、衣服は肌を撫で上げ、降り注ぐ雫は僕を責め立てた。
エスカレートしていく快感に、僕は声を上げた。
「うわぁ･･･あぁ･･･！」
身悶えするたびに動く指や顔にさえ、空気が絡み付いてくる。
呼吸のたびに鼻や口から出入りする空気が、口腔と鼻腔をくすぐり、気管をなぞり、肺を弄ぶ。
ペニスの感覚は全身の快感に飲み込まれ、射精しているのかどうかさえ分からなくなってきた。
ただ、全身に降り注ぐ雫の感覚だけが、まだ射精が続いていることを教えてくれていた。
もはや僕は呼吸し、もがき、射精するだけの人形と成り果てていた。
「あぁ･･･あ･･･」
やがて、意識が朦朧としていき、体が縮んでいくような錯覚を覚え始めた。
まるで、全身を削りながら射精しているかのように･･･
「うぁ･･･ぁ･･･」
本当にそうなのならば、それほど嬉しいことはない。
一秒でも早く、この心地よい地獄が終わること。
ただ、それだけが僕の望みなのだから。
「ぁ･･･ぁ･･･」
<Air END>
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