PANDORA


とりあえず、入ってみよう。

僕はそう決心すると通路から這い出て、扉の下のはしごに足をかけながら下りた。

床へと降り立ち、頭を左右にめぐらせてみる。

何の変わり映えもない、さっきの部屋と全くおんなじ部屋だ。

 

ぎりぎりぎり がちゃん

 

僕の背後でついさっきくぐった扉が、音を立てて閉じた。

辺りが静まり返る。

しばらくの間ぼんやりと立っていたが、何も起こらない。

このままじっとしていても埒が明かない。

とりあえず手当たり次第に扉を開いて、出口を探すことにしよう。

 

「・・・よし」

 

僕はそう決断すると、一歩足を踏み出した。

 

カチ

 

小さな、本当に小さな金属音が、足元から生じた。

 

ウィィィィ・・・ン

 

前後左右、そして上下の壁から、かすかなモーター音が響いた。

 

「え?え?」

 

左右に視線をめぐらせて見るが、音源になるような物は何も見当たらない。

いや、あった。

部屋を縦横に走る金属製のフレームに、等間隔に小さな突起が生えていた。

突起の大きさは小指の先ほど。

先端には小さな穴が開いている。

そこまで認識した瞬間、穴から何かが迸った。

 

ブッシュゥゥッ!

 

白いものが、部屋のいたるところから僕に向けて放たれ、僕の体に纏わりついてくる。

 

「うわっ!」

 

とっさに顔を庇い、腕で飛んでくる何かを払う。

作業着の袖にへばりついたのは、極細の糸だった。

しかも糸に粘液がついているのか、糸自体が粘つくのか、払い落とそうとしても糸は落ちない。

それどころか・・・

 

「な、何だこれ!?」

 

作業着の、糸がへばりついた部分の生地が急速にもろくなり、崩れて糸ごと床へと落ちていく。

しかし糸の噴出は止まず、崩れ落ちた作業着の穴をふさぐかのように、更に僕にあびせかけられる。

 

「く・・・わ・・・!」

 

崩れ落ちる作業着をとっさに手で押さえるが、手の中で生地が細かく崩れていく。

やがて作業着どころか、靴や身に着けていた下着までもが崩れ去り、僕は一糸纏わぬ姿になっていた。

それでも糸の噴出は止まない。

僕の体を、糸が覆っていく。

糸一本一本が非常に軽いためか、重さは全く感じなかった。

しかし、糸が肌に触れる感触は、確実に存在していた。

 

「た、助け・・・あうっ・・・!」

 

さっきの部屋に戻ろうと向きを変えると同時に、全身に触れる糸が蠢いた。

背中や肩はもちろん、手足や腹、そしてペニスにまで糸は纏わりついている。

それらがいっせいに蠢き、全身をくすぐったのだ。

 

「あぅ・・・く・・・」

 

くすぐったさを堪え、一歩足を踏み出す。

 

ざわり

 

「うぁぁぁ・・・」

 

全身を苛むくすぐったさに足が萎え、僕は糸が積もった床の上へと倒れこんだ。

床に積もった糸はクッションのように優しく僕を受け止めると、その衝撃を甘い刺激に変え、全身へと送り込んできた。

 

「ひぁ、あぅうう・・・」

 

腋、太もも、膝、乳首、ペニス、首筋。

それらをいっせいにくすぐられたかのような快感が発生する。

 

「いぃ・・・いぃ・・・!」

 

綿よりも軽く、温かな糸が全身を包み込み、もがくにつれて次第に強く絡み付いてくる。

ぬめる糸の表面は、各々が包み込んだ場所を優しく締め付けていた。

そして、特にペニスに絡みつく糸の刺激が、僕に一際大きい快感を与えていた。

 

「うぁああ・・・あぁぁ・・・」

 

糸は同程度の強さで巻きつき、僕が勝手にもがいているだけだというのに、僕には緩急をつけて全身絡みつき、僕の動きにあわせて優しくきつく締め上げているようにしか思えなかった。

 

「ああ・・・ああっ・・・!」

 

とうとう堪えきれず、僕は全身に絡みつく糸の中に精液を放っていた。

ただでさえ粘つく糸に、異質な粘つきを持った粘液が加わり、ペニスを包む糸の感触が変化する。

 

「うわああ・・・ああ・・・!」

 

ぬるぬるとした糸が、ペニスに絡みつく感触に、僕は声を上げながらのけぞった。

すると、いかなる力加減によるものかペニスに纏わりつく糸が、その締め付けを一際強いものにした。

ぎちぎちと精液まみれの糸が絡みつき、天にも昇るかのような快感が生じる。

 

「ひぁぁああっ・・・!」

 

あっという間に二度目の射精が始まる。

僕自身の体液がしみこんだ糸の中へ、更なる精液を注ぎ込みながら、僕は全身を跳ねさせた。

そのたびに糸の締め付けが変化し、更なる射精を促す。

射精は一度目より長く続いたが、やがて止まった。

 

「うわぁあぁ・・・いぃ・・・もっとぉ・・・」

 

口から喘ぎ声、ペニスから射精の残滓と先走りを漏らしながら、僕は糸の中で寝返りを打ち、床にこすりつけるように腰をゆっくりと振った。

そのたびに、全身を包み込む糸の感触や締め付けが変化し、甘く拒みがたい快感が生じた。

 

「ひぃぃっ・・・!」

 

ペニスから、精液が迸る。

 

 

 

そして、どれほどの時間が経ち、何回射精しただろうか。

すでに僕は体力を使い果たし、指先すら動かせないほど疲弊していた。

糸の中に放っていた精液は、糸の隙間を伝わり全身をべちゃべちゃと湿らせている。

だというのに、ペニスは精液まみれの糸の中で大きく膨張し、その脈動によって糸がペニスを擦りたてて快感を生じさせていた。

 

「あぅ・・・あぁ・・・」

 

射精には至らない、鈍く緩やかな快感が延々と続く。

時折、何かの拍子に大きくペニスが脈打ち、糸がペニスを擦りたてる。

 

「ああ・・・!」

 

そのたびに僕は声を漏らし、鈴口から体液を滲み出させながら、小さく果てた。

 

「あ・・・ああ・・・」

 

しかし終わりはない。射精ともいえない体液の排出のさなかにも、ペニスは脈打ち続けている。

ペニスが脈打ち糸がペニスを擦って、甘い快感が生じた。

もう、ここから出られなくてもいい。

このまま、ずっとこの温かな繭に包まれてれば、僕は満足だ。

 

 

 

 

<Threads END>

 



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