科学部による生態観察報告書 調書1アンフィスバエナ
「自然の中で、寒さや暑さ、雨や風、そして危険から身を守るためには、緊急の避難所いわゆるシェルターを作るのが一番である。雨の中、野外で濡れたままでいたら恐らく風邪にかかってしまうだろう。日常の暮らしならともかく、医療機関の無い大自然の中では、たかが風でも命取りになりかねない。そのためにも雨風をしのぐ避難所が必要なのである。
シェルターを作る際には、まず周囲をよく見渡し、利用できるものを探そう。大きな木、立ち木を利用して差し掛け小屋を作っても良いし、あそこにある洞窟を利用するのも良いだろう。洞窟をシェルターにする場合はサソリや蛇などが潜んでないか、丁寧に奥まで確かめる事。また、シェルターは……」
僕は今、鬱蒼と生い茂る森の中で、同じクラブの先輩に大自然を生き抜く術を教わっていた。
と言っても僕はワンダーフォーゲル部の部員でもなく、ましてや二人でキャンプに来ている訳でもない。
ほんの数時間前までは、こんな樹海の様な所とは無縁の都会にある学校に居たのだから。
では、僕と先輩は何故こんな所に居るのか。
それは1時間前、僕たち科学部が学校の校庭でテスラコイルの実験をしていた時、何の前触れも無く突然テスラコイルが暴走してしまう。
暴走したテスラコイルが何度か閃光を発し、辺りが強烈な光に包まれて、気が付くと僕たちはこの森の中にいた。
「では、頼んだよ」
さっき起こった事をぼんやりと回想していると、先輩が声を掛けてきた。
「……え？何ですか？」
「え？じゃないよ、私の話を聞いてなかったのかね？」
「すみません……」
「まあ良い、君にはあの洞窟を調べてきて欲しい」
先輩が右前方にある洞窟を指差した。
「危険な生き物が潜んでないか奥まで丁寧に調べてくれ給え」
「はい、分かりました」
僕が返事をすると先輩は満足そうに頷き、森の中へと歩いて行く。
「先輩、何処へ？」
「焚き火するための柴を集めてくる」
「一人で行動するのは危険では？」
「それは……いや、すぐに戻ってくるから心配無い」
そう言って先輩は森の中へ行ってしまった。
仕方が無いので僕は洞窟の中を調べる事にした。
洞窟の中は入り口から光が漏れる他は真っ暗である。
足元の地面は乾いた溶岩で、しかし凹凸が無く歩きやすかった。
流れる空気は湿っていて暖かい。
携帯電話の明かりを点し、洞窟を調べていると、程なくして二股に分かれた道が現れた。
「ん？これは……」
股の部分の岩壁に妙な絵が描かれていた。
上半身が人間の女性で下半身が蛇の姿の、いわゆるラミアと呼ばれる想像上の生物である。ただこのラミアは普通のラミアと違って、尻尾の先が目の無い蛇の頭になっていた。
二つに分かれた道の、左の方にまずは進んでみる事にした。
少し行くと奥は行き止まりで危険な生き物はいなかった。
一旦壁画の辺りまで戻り、今度は右の道に入る。
十数メートル程進むと、青い蛍光色の明かりが見えてきた。
「誰か居るのだろうか？」
近づいて調べてみると、発光する見たことの無い植物が、洞内の岩壁をまばらに覆っていた。
更に歩くと隧道は終わり、天井の高い広場のような場所に出た。
広さは、学校の体育館位だ。
さっき見た発光する植物が、壁や天井をびっしりと覆い尽くしている。
「……」
そして広場の中心に、上半身が美女で下半身が蛇の怪物が鎮座していた。
人を見かけで判断してはいかん、と子供の頃祖父が言っていた。
その教えを怪物にまで適用するのなら、彼女は心優しく、大人しい性格なのかもしれない。
現に彼女からは敵意や害意をまったく感じなかった。
彼女は敵かどうかを決めかねていると、彼女が微笑みながら近くまで這って来た。
僕は彼女の人好きのする微笑みに騙されて、つい警戒を解いてしまった。
その瞬間、彼女が僕に抱き付き首筋に噛み付いた。
「い、痛い!?」
咬み傷からそっとぴりぴりとした感覚が体中に広がって、手足が痺れてきた。
目がかすみ、意識が朦朧とする。
(これは毒？でも、何だか気持がいい……)
夢見心地でぼんやりしていると、びりっ、と布の破れる音がして胸元が外気にさらされる感覚がした。
ハッと気付くと、僕の服を彼女は楽しそうに、びりびりと破っていた。
(やめろ、やめてくれ)
「はぁ…はぁ…はっ…はぁ…」
慌てて止めようとしたが、体が動かず声も出なかった、口から漏れるのは弱々しい息遣いだけだった。
僕を裸に剥き終わると、彼女は先の割れた舌で唇を舐めた。
彼女が意地悪そうに笑いながら、しゅるしゅると僕の体に蛇の胴体を巻きつけていく。
(こいつ、蛇なのに温かい)
僕の体は首から足の先まで、彼女の尻尾に隙間無く巻きつかれ、柔らかく温かな肉に包み込まれた。
柔らかく彼女の尻尾が僕の身体を絞めて、ぼやけた視界の中、そっと顔が迫ってくる。
「は…んむっ」
ちゅく、じゅる……
彼女の唇が、上から覆いかぶさるように口を塞いでくる。
それと同時に、長くて幅の広い舌が口の中に押し込まれ、ドロドロと生暖かい唾液が流し込まれた。
「ん、こく、こく、こく……」
たまらずに、僕は彼女の生臭い唾液を飲み干す。
彼女は嬉しそうに瞳を細め、先の割れた舌を蠢かせ口の中をまさぐった。
歯列と歯茎をチロチロとくすぐるように舐め、ダラリと動かなくなった僕の舌を、舌先でこね回し絡めとる。
ぺちゃ、ぴちゃぴちゃ、ぬちゅぬちゃり。
(キスって、気持ちいい、頭がボーっとしてきた)
頭の中が蕩けて、下半身に血が集まっていく。
ソレに気付いた彼女は、僕の口から唾液を啜り、口を離した。
しゅる、しゅるしゅるしゅる。
足元で何かが擦れる音がして、僕の顔の横で目の無い蛇が鎌首をもたげた。
(奇形の蛇……いや、これは彼女の尻尾か)
彼女は僕の頭を掴み、鎌首をもたげた尻尾を顔の前に近づけた。
にちゃ……
彼女の尻尾の先が粘着質な音を立って、くぱぁ……と大口を開けた。
歯はまったく無く、透明な唾液が柔らかそうな口の中で糸を引いている、真っ赤な口の中が驚くほど鮮やかに見えた。
(僕を食べる気なのか？まだ死にたくない、でも……この変な気持ちは、何だろう？)
彼女はもぞもぞと身じろぎして、僕の下半身を巻いている尻尾を緩め、顔の前から尻尾を遠ざけた。
ぱくっ。
僕の下半身が彼女の口内へ飲み込まれ、腰から下がぬめっとした感触に包まれる。
(僕、食べられてる……気持ち……)
とぷっ、とぷとぷ……
僕は下半身を包み込む暖かく柔らかな感触に、我慢できずに射精した。
「は、はぁ、はっ、はぁ、はぁ……」
むぐ、むぐ、むぐ、むぐ、
射精の余韻で荒い息を吐いていると、彼女の尻尾の口が僕の体を飲み込みながら、とぐろの隙間に潜り込んできた。
むぐ、むぐ、むぐ、むぐ、
胴、胸、肩、と上半身に巻きつけた尻尾を緩めながら、僕の体を呑み進んでいく。
射精したばかりで敏感な身体を、蠕動する粘膜で揉まれ再び勃起する。
むぐ、むぐ……
頭が彼女の口内に飲み込まれ、僕の体はゆっくりと食道を通り、胃の中に納まった。
狭い胃の中に閉じ込められた僕は、胃壁から染み出してくる胃液に包まれ、ドロドロになりながら、胃の運動に身をゆだねた。
にゅぐ……にゅぐ……にゅぐ、にゅぐ、にゅぐ、にゅぐ……
胃壁が僕の体を洗うように蠕動し、徐々に全身がジンジンしてきた。
(ねむい……僕は……もう……)
頭の先から足先まで、温かく柔らかな胃粘膜に包まれながら僕の意識は溶けていった。
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