女王の野望




偶然かもしれない。この場所に僕が居るのは。

あるいは必然なのかもしれない。この場所に僕が来てしまったのは。

いずれにせよ、今の僕に当てはまること、それは――。



―――――――――――――



「あ〜あ、世界なんか終わってしまえよ」

こんな物騒なことを呟く僕は皇帝歌(すめらぎていか)。何をもって名前の一文字目なんかに『帝』と付けたか知らないけど、どうせ洒落とかその辺りなんだろう。お陰で学校ではわりととばっちりを受けたりしている。

わりと軟弱な、線の細い体。特別頭が良いわけでもない。いわゆる普通か、平凡以下と呼ばれる身体スペック。そんな僕に『皇帝』なんて名前が付くなら糸色望と別ベクトルで虐められるのは目に見えているわけで。Mに目覚めたわけでもない僕にその虐めはわりとボディブローやローキックのように地味に効いてくるわけで。

しかも携帯ニュースを開けば世界は危機ばっかり。平和?何それ美味しいの?現実から魂遊離してんじゃないの?と言いたくなるような記事ばかりが並んでいて。税は上がるし働く時間のわりに給料は上がらないとかこれから就職する時代に入る前にハードル上げちゃってどうするの、という感じで。

世界を見ても身勝手に暴走する人が数多いるみたいで、しかも思うようにならない現実。



そして――この天気。

「天気予報は今日も嘘つきかよ……」

晴れてた筈の街路樹から滴り落ちる、幾粒の水滴。

これだけの悪条件が揃ってれば、いっそ世界なんざ滅びてしまえとか思うのも無理ないよね?ね?

……まぁ同意を求めてもしょうがないので、とっととビニール傘をパクって(注:学生にとっては日常茶飯事とはいえ犯罪です)帰宅するとするかな……と、学校から一気に外へ飛び出した――?



足元に地面の感触が?

あれ?と思う僕が視点を下に向けると、そこは強引にほじくり返され、壊されたコンクリートの穴が。明らかに、人一人か二人が抜け出てこれるぐらいの――!

「わあぁぁぁぁごっ!」

自由落下運動を始める僕の体を何とか地面の上で留めようとした僕は――コンクリートの地面に顎を見事にぶつけ、意識だけを地上に置いてきてしまった――。



――――――――――――――



ぴちゃぴちゃ……

「……んん……」

何だろう……股の辺りに変な感じがする……。何か生暖かくてヌメヌメしたものが僕の棒と玉を包み込んでにゅぐにゅぐしているような……――!?



「――んわぁっ!」

目を開けると、僕の股間に無心にむしゃぶりついている女性がいた!ズボンとパンツはいつの間にか脱がされていて、冷たい湿った土の感触が僕のお尻から伝わってきている!

慌てて目の前の女性から離れようとした僕だったけど、

「ひゃうぅっ!」

彼女の口の中で、玉袋が揉みほぐされるっ!まるで優しく手で揉まれるかのような舌使いに、僕はへなへなと、全身の力が抜けてしまった……。

そんな僕の様子を見て、彼女の瞳が笑った――気がした。

そのまま彼女は、僕の逸物と袋を口の中で器用に弄び始めた。

「んんっ……」

棹に舌を巻き付けながら、ぺろぺろと上下させていく。その度に分泌される唾液が、僕の棒に膜を塗っていく……。

「ひぃ……ぁぅっ……」

血が、さらに逸物に流れ始めた。少しずつ、彼女の口の中で巨大化してくるのが分かる。彼女の目が、さらに細められて――!?

「……ふぁぁっ!」

彼女が顔を前後させてきた!塗りつけた唾液が潤滑剤となって、ぬめぬめぬらぬらとした感覚を僕の逸物から流し込んでくる!口から出された玉袋も、彼女の片手によってもみもみと握られ、その度に僕は体をビクビクと震わされてしまう……。

「……」

彼女の動きが……止まった?先端が相変わらずくわえられたままだけど……!



「――ひぃひぐぅっ!?」



か、彼女の、彼女の舌が僕の小さな出口をちろちろと舐め始めた!舌に比べて何十分の一の大きさでしかない入り口に捩じ込むように執拗に舐めてくる!

「く、くぁっ!?」

同時に歯では、弾くようにエラの部分を執拗に擦っている!皮に包まれていた敏感な部分を、触れられなかったその裏側を、ほじくり返すようにコツコツと歯で弄くっている!

ぴく、ぴくと砲台が微振動を始めた。すでに砲弾の準備は調ったらしい。すぐにでも放ってしまいたいという脳の命令を、僕は辛うじて残っている力と理性で食い止めていた。今ここに出したら、いけないような気がして――!

必死で衝動を押さえている僕は、だから気がつかなかった。股間にむしゃぶりつく彼女、その目が明らかに僕を見て妖艶に笑っていた事に――!



「――ひびゃあぁぁぁぁっ!」



彼女の舌が、僕の出口を貫いた!まるで蛇のように、僕の尿道にまで一気にズボッと侵入する!そのまま一気に内壁を擦りながら引き抜いた!同時に玉袋がやんわりと握られ――!



「みゃああああああああっ!」



どびゅるるるるるるぅ〜っ!どくっ、どくっ……。そんな擬音が聞こえそうな勢いで、僕の砲台は彼女の口内にありったけの玉を発射した!

「――はぁっ……ぁぁっ……ぁっ……」

解放感と屈辱感の入り交じった呼吸をする僕を赤ら顔で見つめながら、彼女は僕の精液をこくこくと飲み干していく。

ああ……満足そうだ……。

頭が働かない僕の目の前で、子猫のように目を細めた彼女は、まるで狩りの成果を親に見せるように、ゆっくりと口を離した。鈴口から、エラから、唾液の橋が二重に三重に、蜘蛛の巣のように架かる。

「ふふん……」

そのままの体勢で、体を丸めて――彼女は動かなくなってしまった。

「……」

わけが分からない。

穴に落ちて、目が醒めたらちんぽをしゃぶられていて、そのままいろんなことをされて――出しちゃった。彼女の口の中に。

そして目の前の彼女は、それを全部飲み干しちゃって……。

「!?」

よく見たら、彼女の体には身に付けるものが全く無かった。つまり真っ裸で、僕のぺニスを口にしていたのだ!そしてそのまま背中を天井に向けて丸まっているのだ。

「あ……ああ……」

今すぐにでも逃げ出したい気分だった。でも、逃げ出す場所を見回して探しても、結論は天井にぽちっと開いた穴から地上に上がらないと無理だ、っていう悲しいものだった。

……っていうかあそこから落ちてよく無傷だったね、僕……。不幸中の幸いに呆れるやら悲しいやら。

兎に角、動かなきゃならないのは分かってはいるんだけど、僕は何故か、目の前にいる女性の事が気になっていた。あれだけの事をされたのに、それでも……どこか気になっていた。

大体高校生か大学生くらいの外見で、髪の毛は微妙にウェーブがかかった黒の長髪。別にどこにでも居そうな、不細工ではないが特徴の付けようがない顔。汗でしっとり濡れた背中から、ふくよかなお尻にかけて描かれる艶かしい曲線は、服がその情景を隠すことが無い分、生々しいまでに目に焼き付けられる。

重力の影響で地面に向けて垂れる乳房は、A〜Bといったところ。肌は土にまみれて分からないけど、日の光に当たっていないかのように白がちだった。

と――?

ピクン

彼女が動き出した?目を瞑ったまま、背中がピクピクと動き始める。でも変だ。背中以外のところは全く動いていない……。

彼女の背中は、まるで心臓が脈打つようにゆっくりと上下していた。これで肩が動いていたら、呼吸をしていると思えたんだろうけど――!?



びくんっ!びくんっ!



「なっ!あぁあっ!?」

呼吸なんかじゃない!彼女の中にいる何かが、彼女の背中を突き破って出ようとしている!?内側から突き上げられるように、ぼこん、ぼこんと膨らむ背中。神経が通っていてもおかしくない筈なのに――彼女自体は全く反応していない!?

「……ぁん……ぁぁん……」

……声?何処からか、曇った声が響いてくる……何か膜に覆われているような……まさか!?

どくんっ!どくんっ!

「……んはんっ……んはんっ……」

彼女の体の中から、背中が大きく盛り上がる度に、外に声が洩れ出している……。やがて、びりっと何かが破れるような音と、ぶちぶちと繊維を引き千切るような音が響いた。

一瞬の静寂――!



ぶしゅぅぅぅうっ!

「んはぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



背中が大きく引き裂かれ、中から何かが飛び出してきた!まるで蛹から出てくる蝶のように――。

「あぁはぁぁぁぁぁ……」

肌に触れる空気の感触に身悶えをしながら艶やかな産声をあげているそれは、彼女と同じような外見をしていた。いや、下手をしたら彼女よりも美しかった。

粘液のような羊水にまみれた髪はつややかに光り、手足は絹糸で織られたかのように繊細。顔は彼女のそれをさらに魅力的にしたような感じになっていた。

見とれそうになった僕は、次の瞬間には我に返ることになった。

彼女の背中、そこからトンボのような羽根が一対生え、さらに髪の間からは先端がくし状になった触覚らしきものがピョコンと生えていた。

さらに、彼女の尾てい骨からは、まるで昆虫の腹部のようなものが、ぷっくりと膨らんでいたのだ!

「あ……ああ……あああ……」

このおぞましいとしか思えない光景に、僕の体は完全にすくんでしまった。理解を超えてしまっていた。目の前で、確かに人間だった彼女が、いきなり人外に脱皮してしまったのだ。絶対にあり得る筈の無い光景。それが目の前で起こっている――。

「……んふ?」

空気に慣れたのか、僕の存在に気付いた女性だったものが、僕の方に目を向けた。思わず彼女と目が合ってしまう僕。

「あ……あひ……」

でもそれはもはや人間の目じゃなかった。どこまでも澄み切った――真っ黒な瞳など、人間では持ち得ない。

「ひひゃ……ぁ……?」

僕は逃げようと体に力を入れようとした。けど、その途端に、僕の体から力が抜けてしまう。何が起こったのかを考えようとした次の瞬間――僕を耐えられないほどの強烈な睡魔が襲った。

「ふふ……」

僕を見て、笑顔でいるだけの女性だったもの。僕が最後に見たのは、その笑顔と、背中でプルプルと震えている羽根――。



―――――――――――――



…………。

何だろう。

甘い香りがする……。

体の中に入ってくる……。

頭の中がぼおっとする……。

ずっとこのままでいてもいい、なんて思えて……。

腕に、足に、むにゅむにゅとした感覚が――?

「………ん?」

あれ?僕は一体……!?



「目が覚めた?」



「――あ……」

ゆっくりと開いた瞳に最初に映されたのは、粘液がねっとりと付いた女性の顔だった。幽かに目に掛かる茶色の前髪から、肩まで延びた後ろ髪の先端から、深い黒色の瞳を守る睫毛から、ふくよかな薄桃色の唇の端から、人間では到達し得ない美しさを誇る顔から――顔のあらゆる場所から粘液が、僕の体にポタポタと落ちてきていた。

その両腕と両足は、僕の両腕両足をしっかり押さえつけていて、少し動く度にぬるぬるとした感覚とむにむにとした肌の感触を僕に伝えてくる……?

肌?肌の感触?

そこで僕は違和感を覚えた。僕の目に映る彼女は、非常に綺麗で……じゃなくて……肌の色が、どこかおかしい気がしたんだ。暗闇だからそう見えるのかもしれない。そんな筈はない。目の前の彼女が、彼女の肌の色が青色な筈なんて無いんだ――そう強引に思い直して、再び彼女の方に顔を向けると――。



ちゅ……



「!!!!!!!」

女性がいきなりキスを僕に対してしてきた!まるで軟体動物のような柔軟性をもって、彼女の唇が僕のそれに吸い付いてくる!

気付けば手を押さえ付けていた筈の腕が、脇の下から背中に回されている!肌に付いた粘液が、僕の背中から肩甲骨、首筋にかけて塗り付けられて、じんとする感覚が僕の中に満ち充ちていく……!

「!?」

突然ぐいっと顔が押し付けられたかと思うと、僕の唇を割り開いて彼女の舌が入り込んできた!

「んんっ!」

いきなりの出来事に驚いた僕は、歯を噛み締めて侵入を防ごうとした……けど、顎に力が全く入らず、歯を動かすことすら出来なかった。力が入らないのは顎だけじゃない。腕も、脚も、全身の力が完全に抜けてしまっていた。あるで、目の前の彼女に全て預けるかのように……。

「……んんっ……」

彼女はそのまま、僕の口の中で舌を縦横無尽に蠢かせ始めた。唇の裏、歯の表裏、親不知の痕、舌の表も裏も、口内粘膜が全て彼女の唾液と入れ替わるかと思ってしまう程に、彼女は入念に僕の口の中を舐め回し、唾液を送り続けていた。

「んんむんっ!」

そのまま彼女は、僕の舌に彼女のそれを巻き付けてきた!まるで植物の蔦のように、僕の舌の周りを彼女の舌がぐるぐると巡りながら唾液の支配する領地を広げていく……。

味蕾に直接塗り付けられたそれは、蜂蜜やメイプルシロップと比べるのが失礼なほど甘く、舌先からそのまま体の中に染み込んでいくかのようだった。さらに、舌がぐにゅぐにゅと僕の舌を締め付け、ぞぞぞ……と舌の裏を筋に沿ってゆっくりと這い上がる。それを『キモチイイ』と、僕の脳は判断していた。

僕の視界には火花が何度も走り、最早彼女の顔すら判別出来ない有り様だった――いや、判別なんてする気すら無くなっていたんだ。

白い世界の中で、彼女が微笑んだ――そんな気がした次の瞬間!



「んんん〜っ!」



す、吸われるっ!舌が、舌が彼女に吸われるぅ〜っ!

まるで掃除機みたいだ!口の中のあらゆる物が、彼女の口の方に吸い寄せられている!まるで魂すら吸い取られてしまいそうな快感に、僕の逸物は完全に怒張しきっていた!ぴく、ぴくくと、今にも出してしまいそう――。



「………ふう」



――あれ?出される前に終わっちゃった……。股間の僕は不満そうにぴくぴくと動いているけど……正直、僕の上半身は完全に力が抜けてしまっていた。

背中から、お腹から、彼女の纏う粘液が僕の体に染み渡っていって、体から力を奪ってしまっているような……。

ふわ……と、辺りを漂う、花の蜜のようなスッとする香り。それを嗅いでいると、どこか頭がぼぉっとしてきて……。体の感覚も、どこか鈍くなってきて……。

「ふふふ……」

青い肌をした目の前の女性が、僕を見て笑っている……僕……何か変なのかな……?

「皇帝がこんなに簡単に堕ちるなんてね……何て幸運なのかしら……」

こうてい……?僕の事……?

「これで……永年の私の夢が……遂に!」

目の前の女性は、僕の事を皇帝と呼んでいるみたいだ……?それで……夢?

「ふふふ……そろそろね……さぁ目覚めるのよっ!」

彼女が目の前で、大きく手を叩くと……――!?



「――っ!?」



僕は、事態の異常さにようやく思い至ったのだった。

目の前で僕を高圧的に見下している、青い肌の女性。その前髪の間からは天まで伸びるような触覚がつい、と立ち、その幽か下にある瞳は赤色。さらに背中をつき破るように生えている、皮膜に覆われた羽根。羽根蟻のようなそれは、風が吹いたわけでもないのに、まるで自分で意思を持つかのように前後に動き、鱗粉をちらちらと撒き散らしている。

――人間じゃない!

「!!!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

僕は彼女から逃れようと必死で全身に力を入れようとした。でも、僕の体は彼女を押し退けるほどの力を発揮することは無かった!力が、全く入らないのだ!

「無駄よ。貴方の体は、もう私の虜。いくら貴方が願ったとしても、私がそれを良しとしない限り、指一本だって動かせはしないわ」

自分より小さな彼女の両手両足に押さえ付けられているのに、押し返す事の出来ない自分。その間にも、僕を押さえ付けている濃い青色の肌からは、ぬるぬるとした粘液が分泌されて体全体に塗り広げられていく……。

「ひぅっ……ぁぅ……くはぁんっ……」

柔らかな肌……まるでマシュマロかパフパフのように柔らかい肌が、ぬるぬるとした物を僕に塗りつけていく……まるでキャンパスみたいだ。僕の体に、彼女が淫らな色をつけていく、それがたまらなく気持ち良くって……僕の股間が、ひくっ、ひくっと蠢き始めた。

息を吸う度に、彼女の毒々しいまでに甘い香りが、僕の体を彼女色に染め上げていって……もう、僕の体が言うことを聞かなくなってる……でも、このままでも――!?

「!!!!????」

ぶんぶん、と辛うじて動く首を大きく横に振った!ダメだ!為すがままにされちゃダメだ!相手は化け物なんだ!そのままにしていたら、僕がどうなっちゃうか分からない!でも、きっと悪い結果になるに違いない!

「ふふふ………」

目の前の蟻女が笑う。まるで足掻く虫をいたぶる人間のような笑みだ。

「……さぁ、もうあきらめちゃいなさい。私に全て委ねちゃいなさい。貴方はもう逃げられないのよ?」

悪魔の誘いを口にしながら、彼女はさらに僕の体に彼女の体を擦りよせだした。粘液を擦り広げながら、彼女の小振りな胸が、柔らかなお腹が、僕の臍からだんだん上の方へと、蛞蝓のように這っていく。本来なら気持ち悪い筈のその感触が、何故か今の僕には気持ち良かった。彼女の胸から、腋から、羽根から、臍から、あらゆるところから発される彼女の香りは、僕の心の中から嫌悪感と、抵抗する気を少しずつ磨耗させていく……同時に、僕の逸物を、小さいながらも砲台へと変形させていく。さらさらした鱗粉が、僕の粘液まみれの肌を優しく覆っていく……。

ぬるぬるした粘液は、僕の体をまるで産湯のように包み込んで、寒さを感じさせなくしてくれている。逃げたいと感じさせない、母親のような暖かさ……それが魔性の罠であっても……!

「ッ!!」

まただ!また為すがままにされてる!何とか逃げないと……なんとか?



………あれ?どうして僕は抵抗しているんだろう……。そもそも、何で僕は彼女から逃げようとしていたんだっけ……?



「……はぁぁ……」

ジンジンと体から伝わってくる快感が、僕の思考を乱してくる中、僕はどうして抵抗しているかを考え直してみた。

えっと……逃げたいと思ったのは……何かイヤなことがあったからで……何がイヤなんだったっけ……?目の前にいる彼女に嫌なことされたとか……?

(ぬりゅっ)

「……んはぁん……」

ああ……きもちいい……そんな筈無いよね。こんなに気持ちイイコトしてくれてるのに………。だとしたら……なんで……?

ぼおっと考えていた僕は、目の前に彼女の股間が有ることにも、それが僕の顔に迫ってきているのにも全く気づかなかった。

ほわぁ……

「……れ?」

気付いた瞬間、その'唇'は僕の唇と鼻に大胆なキスをしてきた!

「――むっ!」

「ほらほらぁ……どうしたのかしらぁ?私から逃げるんじゃなかったのかしらぁ?」

わざとらしく、股間の唇を押し付けてくる蟻女。僕はとっさに口を閉じようとしたけど、軟体動物のようなそれは僕の口にぐちゅりと押し入ってきて、閉じることも出来なかった。それだけじゃなくて、僕の顎にも、もう力が入らなくなってきている。段々とだらしなく開いてくる口に、彼女はさらに体重をかけてきた……。

「んむぅ……んぐぅ……むむん……」

鼻も彼女に覆われた僕は、呼吸が苦しくなってもがいたけど、彼女の唇が離れる気配はなかった。逆にもがくことで酸素が使われて、頭がだんだんぼおっとしてくる……。

ほわぁ……

(……あ……)

僕の中に、空気が流れ込んでくる……彼女のお股から、甘い空気が……。一息吸う度に、僕の中が変わっていく気がする……。僕が、僕を忘れていくような……。

「ふふふ……『皇帝』が無様なものね……でもいいの。もうすぐ……」

目の前で彼女が何か呟いている……でも、その意味が分からない……。

「……?」

あれ……僕の口の中に、何かが……?

ぼやけた視線を一瞬より戻すと、彼女の股間が少し離されて、中から何か管みたいなものが生えて、それが僕の口の中に……少しずつ入っていく……?

ぷちゅっ、と音がして、その管は舌の上に何かを吐き出してきた。僕の舌が感じた刺激は、そのまま頭の中に伝えられて――。



「んふん………」



………あまぁい………。

蜂蜜とメープルシロップに砂糖を極限まで溶かして、さらに何重にも煮詰めたような甘さが、味蕾から脳に直接伝えられる……。口の中で、彼女の管がぐにゅぐにゅと踊って、蜜をあちこちに塗りたくっていく……それがたまらなく気持ち良い……。

「ふふふ……どうかしら?女王の産み出す蜜の味は……?」

じょおう……?女王……彼女は女王なんだ……何のだろう……?

ぐにゅん

「!!んぐんんっ……」

考えようとする僕の思考をかき消すように、アソコから生えた管は僕の喉の奥に入ってくる!駄目ぇ!無理っ!そんなのが口に入ったら、息が苦しく……

にゅるんっ

「んおんっ……?」

……ならない?それどころか、管が奥に入れば入るほど、息が今までより楽になっていくような……。それに、

「んむんんっ……」

管が、食堂や臓器の内壁を擦って進んでいく感覚が……堪らなく気持ちがいい……。



「んふふ……不思議でしょお……?どうして気持ちいいのか、どうして苦しくないのか……ふふっ……私の蜜は、人間の体に入ると、その体を少しずつ変えていくのよ……そう、私達のようにするために、ね」

私達……?私達って……?

「ふふふ……。今に分かるわ……」

目の前の女王の管が、食堂や腸壁、胃壁に蜜を塗りつけ流し込んでいく……。

体の隅々までを犯されているその感覚が堪らなく気持ち良くて、僕の股間の砲台は発射可能とばかりにぴくぴく蠢いていた。

「………?」

でも、出る気配はない。数回脈打って……ただそれだけだ。相変わらず股間の球には何かが溜められて、次第に重くなっていく感覚すらあるのに……。

「ふふふ……出したい?」

女王が僕に聞いてくる。でも、僕は正直、分からなかった。考えられないのだ。気持ち良さが邪魔をするのもあるけど、それだけじゃない。全く射精欲求が沸かないのだ。まるで、その感情すら気持ち良さに勝手に置き換わってしまっているかのように……。

ぴくん、と股間の逸物は出したいと主張した。けど、僕の心はその叫びに全く反応しなかった。僕自身も、全然反応できなかった。

相変わらず、意識はぼやけたままだった………。

「ふふっ。じゃあ、貴方がどうしたいか、私が教えてあげるわ」

女王の声が、どこか遠くの世界から響く……。

しゅるん

「……?」

何かがお腹の辺りを滑って、股間に近付いてくるような………。

「ふふふ……」

女王は僕を見て笑っている……何が可笑しいんだろう……?

焦点を一瞬戻すと、女王様の中からもう一本の管が出ている……?それが僕のお腹を滑って、段々と足の方に近付いていくのか――!?



ぐにゅん

「!!んんっ!」



管が大きな口を開いて、僕の肉棒と玉袋を一気にくわえ込んだ!同時に、まるで掃除機のように猛烈な勢いで、その二つが吸い上げられていく!

何故かたぷん、たぷんと揺れている玉袋がむちむちの肉壁に圧され揉まれ、中に溜まっているらしい液体が押し出されていく――!

「んんんんっ!」

僕の逸物が、いよいよ細かく揺れ始めた!天空に突き抜ける階段を昇るが如く、確かな勢いを伴って液体が飛び出ようとしている――!

だけど……出ない。出したいと思うのに、体が思うように働かない!出そうで出ない、いわゆる寸止めの状態で保たれている!

「んんっ……んんんっ!」

僕は管に押し付けるように腰を揺らし、突き出した。けど管もそれに合わせるように動くだけで全く変わる気配すらない!

出したいのに……出したいのに……。

出したい……。

だしたい……!



ダシタイ!



「なぁんだ、出したいんじゃないの。じゃあ、お望み通りにしてあげるわね」

女王が小馬鹿にした口調でそう僕に告げた、次の瞬間――!?



びゅくびゅくびゅくんっ!



「!!!!!!!!!!」

ぼ、僕の逸物が、突然速く脈打ち出した!それに連動するかのように、包む管がぐにゅぐにゅと蠕動を始め、玉袋を揉み解す!袋に溜まっていたものは全て、一気に根元に雪崩れ込み、そのまま天上にまで押し上げられて――っ!



「んんんん〜〜〜〜っ!」

びしゅびゅるるるるるぅぅぅ〜っ!どくんっ!どくんっ!



――溜め込んでいた精液を全て放った僕の視界は、全て光の中に呑まれていった……。





「…………」

解き放たれていた僕を見下ろしながら、女王は心底嬉しそうに僕へと呟いた。

「貴方には女王をやってもらうわ。感謝なさい?貴方の思うままに世界を操る力を得るのだから」

口へと入り込んだ触手の根元が、ぽっこりと膨らんだ。そのまま、管はどくっ、どくっと脈動してその物体を僕の顔の方へと前進させていく。

これは……?

「これは私の卵。私達の種族はこれを他の生物に産み付けることで繁殖するの。産み付けられた卵はそのまま体と融合して、産み付けられた生物自身が卵になるのよ。そして……」

ぐももんっ、ぐむん、ぐむぬん

管の膨らみが、僕の口を通り過ぎ、喉を圧迫しながら体内へとどんどん潜り込んでいく。内壁が圧迫される感覚に、僕は精を何度も漏らした。

「……産み付けられた子は、他の雄を犯して精液を体内に摂取すると、そのまま蛹になるの。そして暫くすると……皮膚を突き破って私達の眷族になるのよ。どう?素敵でしょ?」

女王様は嬉しそうにそう口にすると、ぐにゅぐにゅと両の管を動かした。その不思議で淫らな感触に、僕の体も喜びで震え、精を盛大に発射した。

「貴方には、特別な卵を産み付けてあげるわ。私と同じように、卵を作り、産み付けることが出来る女王蟻の卵よ」

体の中に入った管の先端が、ぷるぷると震え始めた。膨らみの先端が、ついに到達したのだ。出口の穴に体を押し付ける卵に沿うように、先端は大きく口を開いていった。そして――。



ごぽぉ……ん



卵が、ついに産み落とされた。そのまま、僕の体に溶け込んでいく……。

次第に圧迫感が薄れていく……。

体の感覚が、さらに遠くなっていく………。

「ふふ……、さぁ、新たなる女王に生まれ変わりなさい」

女王は、その細い体で僕を軽々と持ち上げ、自分が抜け出した巨大な殻へと近づいた。



卵を植え付けられ身動きが出来なくなって、彼女の全身から発散されるフェロモンで思考力まですっかり抜け落ちてしまった僕は、女王の為すがままに脱け殻の中へとそのまま入れられてしまった。

ぐにゅん、ぐにゅん

脱け殻の内部は、まるで生きているように蠢く桃色の肉と、たぷたぷに溢れ返った粘液で満たされていた。僕はその中に、埋め込まれるようにゆっくりと沈み込んでいく……。

つん……くにゅ……

「――?」

何か、細長い管が、僕のお臍をつついている……?何をするんだろう――ッ!?

シュルルッ!ぐにゅんっ!

「――っ!!」

わ……一気にお臍の中に入ってきて――!?

にゅぐ……にゅぐん……ぐにゅ……

「―――!!!!!!」

ひ……広がってる、お臍の中で、管が、僕の中に広がってるよぉ!まるで命綱のように、ぼくをしっかりとつなぎとめて、離さないようにしていく……。

びゅくん……びゅくん……

あ……気持ちよかったんだ……いまの……。おちんちんから、もらしちゃった……。

びゅるん……びゅくっ……どくん……

あ………おへその中から……なにかが入ってくるよぉ……。あたたかいえき体が、からだの中にしみわたってぇ……くだも、ぼくのなかに広がっていって……きもちいい……。

びゅるんっ……どくん……どくん……

びゅくん……びゅくん……とくん……

あ……くだがくしゅくしゅにこすれて……きもちいい……。

このくだも……ぼく……?

……あれ……?ぼくをつつむにくも……ぼく?

え……ぼ……く?

ぼくって……。



……ぼくって……わたし?



とくん……どくぅん……とくん……

……くだが……ぼく……わたしのなかにとくん、とくんってなにかをながしこんでくる……。



ぼ……わたしのからだがぽかぽかとあたたかくなっていく……。

わたしは……わたしは……。



――――――――――――――



人の上半身を失った女王蟻の巨大な脱け殻……。その体積の大半を占める蟻の腹部が、どくん、どくんと再び脈打ち始めた。生命を感じさせる重く粘っこい音は、洞窟の中の時を動かす。

人の胴体のような形をした部分は、脈とは別のリズムでまるで呼吸をするように、膨れては萎んでいる。内包する少年と一体化するために、少年の脈に合わせて動いているのかもしれない。

ぶしゅ、と音がした。少年が入れられた、脱け殻の入り口、そこを覆う肉の膜が、分泌する蜜を盛大に吹き上げる。同時に肉片が幾つか吹き飛んだ。

ずず……と膜を引き伸ばす音と一緒に、その穴からは何かがせり上がっていく。膜越しに見えるその姿は、少年のようで――完全に少年では無かった。

ぶちん、と膜が破れ、粘液にまみれた全体像が露になる。腰から上を蟻の体から出したそれは、魔性の美を持つ女性の――化け物だった。

濃紺色の髪は腰の辺りまで伸び、ラバースーツでも着ているかのような青い肌が女性の理想体型を型どる。胸は豊穣を示すがごとく巨大で、抱き締めたらそのまま相手を永遠に埋め込んでしまえそうなほどだった。

そして、額の辺り、髪の毛の間を突き抜けるようにぴょこん、と立った触覚が二つ。それらは脱け殻だったものの内部で分泌された蜜によって濡れ、艶かしく光っていた。

ぴきぴき……と音を立てて、甲殻が皮膚を覆っていく。腰回りから、少しずつ、まるで体を侵食するかのように。

しなやかな指先は、手の甲を覆うのみ、胸元と顔は覆われることすらなかったが、それ以外の部分は、全てを隠してしまうように固い甲殻に包まれていく……。

そして背中からはさらに甲殻が突き上げ、ピリピリと皮膜が張られていく。数刻後、そこには巨大な、一対の羽根が生えていた。

脱け殻だったものは、今や女性の下半身と化した。ここに、新たな女王蟻が誕生したのである。



――――――――――――――



(………あ………)

いつの間にか……私は意識を手放していたらしい。そして今も、私の意識はぼんやりとした空間を漂っている。

(………あ………あ………)

私は声を出そうとした。でも出せなかった。声帯がまだできていないのか、それとも別の理由で声が出せる状況に無いのか。

(………あ………?)

そもそも私達に、声などという非効率的な媒体による意思疏通をとる必要はない筈だ。とるとしたら……そう。やがては娘となる人間を誘い込むときだ。

(………あ………あ………)

徐々に体に心地好い感覚が広がっていく。手が、脚が、羽根が、尻尾が、自分のものとして実感できるようになっていく……。

(………あぁあんっ………)

尻尾の先端から、何かが体を出そうと必死になって動いている。私は、尻尾の先端に――蠢く何かに思いきり力を入れた。



――じゅぽぽぉんっ!

「んはぁぁああんっ!」



尻尾から現れたのは、子供の腕ほどの太さがある産卵管だった。それがシュルシュルと私の方に伸ばされていく。私はその管を口に含んで、表面を舐め回した。ややむずむずする感覚が、私の中に広がる。紛れもなく、私の体だ。



「……んはぁ……ん」

私は腹部の辺りに意識を集中させる。女王から受け継いだ、非常に巨大なお腹の中には、これから人間に産み付けていく卵が次々に産み出されていく。生物の体に入れなければ、本能だけの小型蟻にしかならない卵。とこん、とこんと小さな脈動を繰り返している。この卵は、私の中に有る限りは孵化することもなく、ただ眠りの時を過ごしているのだ。



「……ふふふ……」

黄金色の甲殻に覆われたその下には、艶かしい濃い青色の肌。額から飛び出る、二本の触覚は、各地に散らばる蟻娘達に、共通のテレパシーを送ることが出来る。背中に生えた羽からは、高濃度のフェロモンと洗脳効果のある鱗粉を放出して、人間をこの地下に呼び寄せる事が出来る……。

「………ふふふ………ふふふふっ………」

呼び寄せた人間に、次々に卵を産み付けて、私の眷族にしてしまえば、いずれ地上は私達の天下に――。



「………ふふふ………ふふふふふふっ………ほほほほほほほっ!」

私は高笑いを挙げながら、羽根をはためかせ風を作った。風に乗せ、フェロモンと鱗粉を外へと運ぶためだ。それらは穴を出て、人の集う場所へと範土を広げる。

この場合――最も近い場所にあるのは、私と所縁があったように思われる、さして新しくもない学舎。

まずは、近くにあるその学舎から支配してやろう……学舎を拠点とする征服プランを、私は早々に実行する事にしたのだった………。





fin.





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