妖魔貴族に花束を 第二話
妖魔貴族に花束を
第二話 反撃は地獄だぜフーハハァー!
注!
ご都合主義デス
主人公最強属性デス
gdgdデス
それでもよければスクロール↓
マルガレーテとエミリアが揺籠の部屋から退出して数分……。
ムポッ!!!
粘音を立てて、搾精肉槽から腕が突き出てくる。
ゾンビ映画で墓から手が突き出てくるシーンによく似ている。
「う…く……」
槽の縁を掴み、整一が這い出てくる。
それに対し、なぜか『淫魔の肉』は無反応。
何故なら『淫魔の肉』はすでにコアを破壊され、活動を停止しているからだ。
当然、整一の仕業である。
確かに整一は廃人と化していた……が、そこから回復し『淫魔の肉』を破壊、生還を果たした。
というのも、整一には廃人に陥った精神とは別にもう一つの人格を持っており…強力な自己催眠と言った方が正しいが…それを使って元の精神を回復させたのだ。
ちょっとやそっと練習した程度で出来る芸当ではない。
「まさかマジで役に立つとは……」
この時ばかりは整一も、あの最悪父兄に感謝した。
「さて……」
全裸のまま考え込む整一。
去り際のマルガレーテの口ぶりを聞く限り、どうやらこの城には他にも拷問にかけられている…又はかけられそうな人々が居るようだ。
これでも整一には人並みに正義感はあった。
彼らを助けずに逃げ帰る?
否!
一人でも多く……そして確実に助ける。
本来なら一旦帰って準備するなり対人外専門部隊に知らせるべきなのだろうが、その間に何人犠牲になるか分からない。
さらに言うなら、信じてもらえないかも知れない。
信じてもらえたとして、ここの淫魔達が今度死んでしまうかもしれない。
こんなことをされながらも、整一はこの城に住む淫魔達のことにまで考えを回していた。
それ以前に帰る方法も不明だ。
まずは……。
「服だな」
全裸のままだと防御力が無いだけでなく、何かを保管しておく場所すら無い。
服を探すため、気配を消し警戒しながら部屋を出る。
しかし、陰茎丸出しで行動とは格好がつかない。
「たく……これならあの時の方がマシ……」
父『さあ、次はホワイトハウスに忍び込んで大統領の椅子にこけしを置いて来るのだ!』
整『渡米する金よこせや』
「……………」
いや、やっぱり今の方がモチベーションを保っていられる。
ちなみに本当にやらされたのは秘密だ(本当に犯罪だからネ)。
結果CSIとOSSとFBIから正体不明な伝説のテロリストと認定されてしまっている訳だが……。
「……」
『聞こえるか?セイイチ1。こちらAWACSスカイアイだ』
脳内AWACSが通信してくる。
『あぁ、よく聞こえるぞスカイアイ』
『よし、服および荷物を見つけ次第図書室を探せ。魔道書を探し出し、使うべきモノを選べ』
『分かっているさ、魔族の図書室に魔道書があるのは王道だからな。セイイチ1、エンゲージ!』
整一は戦闘機じゃ無いって?
愛嬌ってやつさ。
無言で城の中を進んでいく。
勿論淫魔から隠れながら。
数十分後、廃棄場のような場所に無造作に放置されている服等を発見。
学ランを着て、荷物の中から最低限必要だと思われるものをポケットに突っ込む。
次は図書館だ、と気合を入れ直したとほぼ同時……。
「あれ?ニンゲン……?」
下級淫魔に発見されてしまう。
「ちょ…ちょっと待って……」
「いただきまぁす♪」
整一の制止の言葉など一つも聞かず、翼を伸ばす下級淫魔の少女。
「チッ」
それを回避しながら舌打ちして、一気に走り寄る。
「…え?」
整一の速さに魔術を発動するどころか反応すら出来ず、下級淫魔は立ち竦む。
ドスッ!
鳩尾への的確な一撃により、声も出せず気絶させられた……。
「ふぅ」
溜め息をつき、額の汗を拭う。
疲労からではなく、見つかったという焦りからだ。
『油断し過ぎだセイイチ1。隠密行動に徹せよ』
『了解スカイアイ。これより図書室を目指す』
下級淫魔を縛り部屋の隅に隠すと、整一は一路図書館を目指した。
しばらくダンボール箱に隠れる蛇のように隠密行動に徹して移動していると、図書室は案外呆気無く見つかった。
というかデカイ。
蔵書は万を越えるのではなかろうか?
この中から目的のブツを探し当てねばならないのだ。
しかもこの城の奴らには見付からないように……。
「骨が折れそうだ……」
心底嫌だ……という声音で呟いた。
なんとなしに近場の本をとり、開く。
英語に近い言語であるためなんとか読めた。
「………マジか」
整一は、今ほど神に感謝した瞬間は無かった。
「マルガレーテ様」
つかつかと歩み寄ってきたエミリアはマルガレーテに声をかけた。
「あら、どうしたの?」
自室にて読書をしていたマルガレーテは、エミリアに振り返る。
結局気分が乗らず、拷問はやめたのだ。
「敵襲です。男が一人」
「侵入者かしら?」
「不明です。存在を確認した時はすでに城内に……」
エミリアの言葉を聞き、無邪気な笑みを浮かべるマルガレーテ。
「そう。今その方は?」
「すでにベルミンク姉妹が迎撃に……。なんと指令を下しましょうか?」
「そうね…好きなようになさい。捕らえて飼うもよし、その場で吸い尽くすもよし」
「了解致しました。では、そのように―」
マルガレーテの指示を受け、エミリアは素早く出て行った。
「………」
マルガレーテは微笑んだまま読書を再開した……。
「Nice Kill!…って、殺してないけどな」
アルメール・ベルミンク、アルビーネ・ベルミンクと交戦した結果、二人を失神させた整一。
二人を紐で縛りながら溜め息をついた。
すでに数十の淫魔と戦闘し、全てを一時的とはいえ行動不能にしている。
隠密行動はもう不可能。
立ち上がりながら口を開く整一。
「それよりそこのお前、天井に黒衣は目立つぞ」
「!」
天井に張り付いていた黒衣の女が整一の後方に降りる。
「驚いたな。いや、流石と言うべきか…」
くのいち……そう、くのいちだ。
「不詳、この整一背中にも目が付いておりますので」
おどけながら振り返る整一。
「ふん。しかし、すでにお前は私の間合いに入っている」
いかにも腕の立ちそうなくのいちサキュバスは、静かに整一へと歩み寄っていく。
「なあ、辞めないか?俺別に戦いに来た訳じゃ…」
何十回目になるか分からない制止の言葉を出す整一。
「問答無用」
しかしくのいちは、整一の台詞を遮ってしまう。
「五条すばる、参……!」
しかし、すばると名乗ったサキュバスは最後まで台詞を言えなかった。
すでに背後に回った整一の手刀に首筋を一撃されたからだ。
すばるはどさりと床に落ちた……。
「百里の道を行く者は九十九里で半分と思え。自分の射程が相手の射程より長いなんて誰が決めた?敵を射程に捉えた時こそ十分に警戒しろ。それ以前にヒトの話は最後まで聞けよ」
紐で縛りながら説教臭いことを言う整一。
すばるは失神しているのだから誰も聞いてなかろうに……。
すばるを廊下の隅に転がすと、再び溜め息をついた。
大分進んできたが目的の地下牢は未だ発見出来ていない。
次々襲い掛かるサキュバスは直接戦闘能力こそ整一の足元にも及ばないが、一々淫気を放っているし数も多く予想よりずっと疲労が溜まる。
小学生のような外見の幼女などは気絶させるだけで相当罪悪感があったりするから厄介だ。
……そろそろ挫けそう。
そんな整一を狙い、ピンクの触手……いや、舌が襲い掛かってきた。
「うおわっ!?」
情けない声を上げながらも、人間離れした反射神経でなんとか回避する。
「あらぁ、よく避けたわね」
「舌は無ぇよ舌は……」
つくづくサキュバスには人間の常識が通用しないな……とウンザリする整一。
「でも、そう何度も避けられるかしら?」
「……だから俺は戦いに……」
整一の言葉を聞こうともせず再び舌を伸ばすサキュバス。
「…ったく。避けなきゃいい訳だろうが」
「え?…!」
舌を掴み引っ張り寄せると、鳩尾に膝蹴りを一撃。
舌サキュバスも失神した。
やはり直接戦闘ではサキュバスはかなり弱い。
「悪魔は人間より滅茶苦茶強い印象があったんだけどなぁ」
どうでもいい事を一人ごちる整一。
そろそろ紐も少なくなってきたのでこのサキュバスは自身の舌に拘束されてもらうことにした。
それが終了するとほぼ同時……。
「見ぃつけた♪」
再び別のサキュバスが現れた。
直接戦闘能力が低い上、戦力の逐次投入と言うもっともしてはいけない戦術の愚を犯しているあたり淫魔は『戦闘』に関しては弱いようだ。
しかし、今回は勝手が違った。
視線の先にいたのは、やはりメイド服姿の美しいサキュバス。
―ただ、これまでとは雰囲気が違う。
釣り目気味の可愛らしいお嬢様タイプのサキュバス。
―その雰囲気?オーラ?は今まで戦ってきたサキュバスとは一線を画す。
「見付かった……」
非常に美しい金髪がくるくるとドリル状にカールしているのが特徴と言えば特徴か。
「貴方が侵入者ね。早速だけど捕まえちゃうわよ?」
「……チョココロネ食いたいな…」
「…ヒトの髪型で食べ物思い出さないでよ」
「あ、いや、悪い。で、何だって?」
「だから、私…このメリアヴィスタが貴方を捕まえてマルガレーテ様に献上するのです」
メリヴィアスタと名乗ったメイドが可愛らしく言う。
それに対し整一は大声を上げる。
「だが断る!俺の最も好きなことの一つは自分が強いと思っている奴にNoと言ってやることだ!」
ドギャァァァァァァン!!!!!という効果音がしそうな台詞を吐き、メリヴィアスタを指差す。
「そんなこと言っていられるのも今の内ですよぅ?中級以下のサキュバスならまだしも、私のような上級サキュバスは身体能力だけでなく高い魔力も持っているのです」
「……まさにファンタジー」
やれやれと首を振る整一。
「一寸待ってくれ」
「命乞い?」
「まぁ、そんなところ。黙ってマルガレーテの所まで通してくれないかな?」
「愚問じゃないの。駄目よ」
「うぅ、やっぱりか……。だがなメリアヴィスタさんよ、俺ら人間は臆病だからあらゆる事態に対応出来るように色々考えていたりするんだよな」
真剣な表情を浮かべる整一。
「たかが人間の浅知恵ではどうにもならないと思いますよ?」
「出来ればマルガレーテの所まで温存して置きたかったんだがな……」
スッと懐から切り札を取り出す整一。
「なんですか?それ。そんなモノ使った所で私には勝てませんよ」
「やってみねぇと分かんないと思うがね」
ふと、ノイエンドルフ城の雰囲気が変わる。
「!」
エミリアはそれを感じ取り、その正体を探るべく配下に命令を下そうとした……が、念話所か翼も尾も出せなくなっている。
「やられましたね……」
若干の焦燥と悔しさが滲んだ声を漏らすエミリア。
マルガレーテでもなければ分からないだろうが……。
エミリアはこの城に発生した事態に正確に把握した。
―ボロフスキーの縛め―
遠い過去、ロシア人の偉大な魔術師ボロフスキー・ロジェンコフが創り出した、淫魔など魔術系統魔族に対する人間の切り札。
魔族による魔術(淫気を含む)や人間とかけ離れた器官(翼、尾、触手等)を封じ込め、完全に使用不能にする魔術。
魔術生物なら行動が著しく制限されてしまう。
発動したなら、術者が死亡又は意識喪失、魔法陣の消去を行なわない限り術者の指定した使用範囲内が半永久的に効果下に置かれる。
魔力の無い者でも魔法陣に血液を垂らせば発動出来る、魔族にとっては危険すぎる魔術。
この魔法陣の掲載された魔道書は150年前からこの城の図書室に保管されていた筈だ。
つまり侵入者はそれを手に入れてから暴れだしたということだ。
ここまで考えエミリアは侵入者の大きな矛盾に気付いた。
本気でこの城を陥とす……またはマルガレーテの暗殺を考えているなら入手した時に発動させればいいはず。
なぜ今の今まで温存していたのか……。
最後の連絡だとメリアヴィスタと交戦を開始したらしい。
ギリギリまで使うことを躊躇っていた?
なぜ?
何にせよ自分も出た方が良さそうだ。
もしかしたらだがこの男、メリアヴィスタを降すかも知れない……。
「これで最後だな……。おらァ!」
整一は生傷だらけの体で少年を魔法陣に投げ込んだ。
地下牢に捕まっていたショタからお兄さん……イイ男に至るまで全員を自宅まで送ったのだ。
方法は至って簡単。
催眠術でこの城であったこと等を忘れさせた後、空間歪曲魔術(これも魔道書で調べた)を使い自宅まで飛ばす。
戦闘はというと、人間を舐めきっていたメリアヴィスタが整一に懐に飛び込まれて呆気無く終わった。
それでもある程度攻撃を受けた分損害はある。
まだ無視出来るレベルではあるが。
もしあれで十分警戒されていたら死んでたかも……。
「ふう。一旦休憩しよう……」
ここ数時間断続的に行なっていた戦闘(しかも相手を殺さないように……だ)と、巨大な城を上に下にと移動を繰り返した結果、体には乳酸がこれでもかと溜まっている。
集中力も散々な状態と言わざるを得ない。
兎も角、作戦第一段階は無事終了。
次はマルガレーテと接触し、説得。
「ヴァー、なんだって俺はコンナコトしてんだ……」
簡単な話だ。
Happy endを望んでいるから。
悪魔だから悪、とか人間だから助ける…じゃなくて………。
だから淫魔だって殺さないし人間を助けた。
これでも本当に駄目なら……自分の知っている人達に危害が加えられるなら腹を括って戦うしかないだろうが、最後の一秒まで努力を忘れる訳にはいかない。
自分でも呆れてしまう程のお人好し。
まぁ、世の中に一人はこんな人間がいてもいいだろう。
十分ほど休み、呼吸を整えると再び歩き出す。
今度は上に向かって進んでいく。
当主の間というのは上の方にあるのが基本だ。
最低限の警戒は怠らずに進む。
「……!」
通路の先から人影が向かってくる。
背筋が総毛立つまでの圧迫感。
その人影は……。
「エミリアさん……だったっけ?」
整一は落ち着いた声で言う。
「!!…貴方は……」
当然エミリアは困惑した。
確か彼は死んだ筈だ。
彼女の主人直々に手を下した筈なのだから。
「はは、地獄の底から蘇って参りましたよ」
芝居がかった動きで言う。
「……ならば、地獄までもう一度エスコートしてさしあげます」
まさに疾風。
整一は制止の言葉を発する前に防御に移行するしかなかった。
「ぐあっ!」
「!」
鈍い音と共に整一の腕にエミリアの回し蹴りが受け止められる。
常人ならそれだけで粉砕される一撃を耐え切った。
骨にヒビくらいは入ったかも知れないが……。
「いってぇ」
うぅ、と呻く整一。
「……あなた、本当に人間ですか?」
「これでも一般人のつもりですが」
整一は困ったように答えた。
「……何時までもつでしょうか」
それには返さず、さらに追撃をかけるエミリア。
「俺もそこまで馬鹿正直には受けないさ」
小さく呟くと、迫るエミリアの拳に軽く手を沿え軌道を逸らす。
フワリという感じでエミリアの拳はあらぬ方向に向けられ、完全に隙だらけになる。
「!」
整一ならば十分エミリアに攻撃できる隙だ。
だからエミリアも攻撃を受ける覚悟をしながら、体勢を立て直すのに全力を注いだのだ。
しかし、整一からの攻撃は一切なかった。
「ちっ」
「!?」
整一の舌打ちとエミリアの困惑が交差する。
しかし、そこで止まるエミリアでもない。
さらに鋭い拳を撃ち込む。
整一がそれをさばく。
即座に体勢を立て直し、追撃。
さばく。
攻撃。
さばく。
攻撃。
防御。
攻撃。
さばく。
攻撃。
さばく……。
たった数分だが、凄まじい攻防が展開される。
そして、何度となくエミリアに隙が出来ても整一は攻撃に至らなかった。
「……何を企んでいるのですか?」
ふと、整一に尋ねる。
「……特…には」
若干息を切らせながら答える整一。
「…まあ、正直に答える訳がありま…!」
エミリアの言葉を遮るように突撃してくる整一。
姿勢はかなり低い。
慌てて下に対する防御を行なうエミリア。
「残念!」
「!?」
意に反し下からの攻撃は無く、気付いた時には整一の拳はエミリアの顔面に迫っていた。
成る程顔面を狙うならばこれまで攻撃を控えていた理由も分かる……が、あまりにも素人過ぎる。
顔面への攻撃は見た目の派手さに反しダメージはそれ程でもない。
ここまで渡り合える者の攻撃としては稚拙過ぎる。
そこでさらに整一の攻撃が変化した。
エミリアの顎に向けて真横から鋭い一撃が突き刺さった。
「あ……っ」
脳が揺さぶられ、ガクリと崩れ落ちるエミリア。
さらにあっと言う間に縄で縛ってしまう。
あまり暴れると自らの力で自らの間接を破壊してしまう縛り方だ。
「っつ……!まさか最初から殺すことを除外していたとは……」
「っはぁ……」
縛り上げたエミリアの横にグッタリと座り込む整一。
「ここまでする貴方の目的はなんですか?ただ人間を助けるだけならここまでする必要はありません。我々を殲滅するつもりなら殺してしまえばいい……」
「話せる相手とはまず話し合うのが俺のジャスティス!つまりあんたらに人間殺さんように説得するのが目的。つまりマルガレーテに説教!」
ぐっ!と拳を握り締める整一。
目を丸くして整一を見るエミリア。
「……そんなことをしようとしたのは貴方が始めてです」
「じゃないかなと思っている」
苦笑しながら言う整一。
「……マルガレーテ様は今自室にいらっしゃいます。マルガレーテ様の部屋は……」
「ちょ……俺にそんなこと教えていいんか?」
「ここまで来られたことに敬意を表して……です。もし……貴方がマルガレーテ様を説得できたなら、もう一度お会いしたいものです」
「その時は喜んで」
整一はエミリアの言に甘え、マルガレーテの部屋へと向かった……。
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