Another-Battle of The Lust Demon's Castle






『淫魔と人間は敵同士――出会ったら、戦いになるのは当然だろう』

 精を吸い尽くした人間の言葉――それはなぜか、メイの心にずっと残っていた……



 侵入者のうち3名――男二人と、女一人が捕まり、侵入者騒動は少しずつ鎮静化に向かっている……

 そのうち、男二人を捕獲、あるいは処理をしたメイには、後日多少のお褒めの言葉をもらえるかもしれないが、特にメイに欲しいものはない。

ただ今は少しでも早く戻って、眠りたい気分だ。

(ボクとあの人もそうなのかな……)



 メイが虜にした人間の青年――

 メイを命に代えても助けようとしてくれたあの人と自分も――また、敵同士でしかないのか。淫魔と人間は――



『――いつまでも人間が淫魔の獲物だと思うな』



 獲物と狩人の違いでしかないのか……

 それを覆すことは決してないのだろうか……

「ううっ……頭痛くなってきちゃった……」

 メイは頭を抱えながら、自分の部屋の前へ戻り――

扉を開けた時だった。



 ――ぱんっ! ぱんぱんっ!

 クラッカーから景気の良い音が鳴り、色とりどりの色紙ふぶきがメイの前に起こり、

「「――おかえり(なさいですぅ)っ!!」」

 聞き覚えのある男と少女の声が部屋に響き渡った。

 メイが呆然として、周囲を見渡すと――

 彼女の部屋は一段と華やかになっていた。

 色紙の輪をつなげて作った装飾品があちこちに飾られ、窓の上には大きな紙が張られて『―怪我完治おめでとうマイちゃん&出世街道まっしぐらメイちゃん。おめでとうパーティーー』と書かれている。

「へっ……?」

 メイが呆然としていると、待っていてくれたマイちゃんとあの人が、にっこりとした笑顔で迎えてくれた。

「今日は大変だったみたいだね。帰ってきたマイちゃんから聞いたよ」

「ようやく帰ってこれたら、メイちゃんがいないですから、心配したですぅ……怪我とかないですか?」

「あっ、う、ウンっ! 大丈夫大丈夫っ! そ、それでこれは――」

「ん? ああ。メイが帰ってきたら、苦労をねぎらわなきゃと思ってさ。マイちゃんと二人で頑張って作ったんだ」

「どーですか? 結構綺麗にできたと思うですが」

 何の屈託もなく迎え入れてくれる二人を見て、メイはどこかで心が温まるものを感じていた……

 けれど、どこかでメイは心が締め付けられるのも感じる……

 今日、彼女は彼以外ではあっても、彼と同じ人間を殺した。

 そして、目の前にいる彼を独り占めにする為に、記憶操作をして、彼の恋人さんを忘れさせている……

 今更ながら、忘れていた罪悪が、圧し掛かってくる。

「ど、どうしたんだ? な、何か悪いことしちゃった?」

 何も知らずに、彼はメイを見て言う。

「う、ううんっ! 違うの……これでいいのかなって……ボク、淫魔だし。キミは……人間だし。それにボクは――」

「いいんだよ」

 彼は、ニッコリ笑っていった。

「あの時は――僕が決めたことだから。後悔してないよ」

 優しい言葉に、メイの心がドキッとした。

 人間なのに、淫魔じゃないのに、そんなこと全く関係なく――メイは、彼を格好良いと思ってしまった。



「……それに、諦めたわけじゃないし」

「ほぇ?」

「い、いや、何でもない何でもないっ!」

 彼の呟きに、メイが首をかしげていると――

「メイちゃんメイちゃん」

 マイが、メイに告げ口する。

「この人間さん。意外と、レジストが強いみたいです。途中からメイちゃんの魅了と記憶操作の魔法、無効化されてたみたいですよ」

「ええっ!?」「しーっ!!」

 驚くメイの横で、秘密にしているように言う彼――どうやら、マイの言っていることに間違いはないようだ。

「じゃ、じゃあ……どうして……」

 正気にさえ戻っていれば、いくらでも逃げるチャンスはあったはず……

 それなのにずっとここに残っていたのは――

「メイちゃんに夢中だったのは、魔法の力だけじゃなかったってことですよっ♪」

 マイが大したことでもないように言う。

 その言葉を受けて、彼も顔を赤くして目線を逸らしていた。

「……そ、そーなの……?」

 じゃあ、みんな分かっていて、全部分かっていて彼は――メイと一緒にいたってことなのか……? 恋人さんが心配だと思いながらも、もし彼がいなくなったらメイが処罰を受けると思って……

「人間の恋人さんも、催眠術にかかったフリをして脱出方法を探してるみたいですぅ。しかも恋人さんに下手に動くより機会を狙った方が良いって、尻に敷かれてるとこマイちゃん聞いちゃいました!」

「……ううっ」

 秘密にしているのがバレて、かなり困り顔になっている……

 ただ一方で――メイは心が軽くなるのを感じていた。

 記憶を消されていたわけでも、洗脳されていたわけでもない。本心から彼は――メイを大切に思ってくれていたのだ。

 けれど――



「――ふっふっふっ♥ そーかそーか。ボクから逃げようって、そんなことばっかり思ってたんだー?」

 ついつい、意地悪な気持ちが湧き上がり、彼を虐めたくなってしまう。

 メイのおっぱいで、彼の体も心も虐めてあげる。

それが彼女の最大の愛情表現なのだ。

 メイのそんな姿を見てか、彼もびくりっと体を震わせる。

「えへへっ♪ そっかぁ〜ホントに、心の底からボクのこと、好きになってくれてたんだぁ〜っ♪ へへっ♪ でもぉ――」

 ――ふにゅっ♥ ふにゅふにゅっ♥

 メイは彼に抱きつき、最大の武器であるおっぱいで彼の心を折り始める。いつもどおり、彼は「ああああ……っ」と恍惚の表情を浮かべていた。

「もーっちょっとおしおきが必要みたいだねっ♪ 今日は一晩中、ずーっと虐めてあげるから、覚悟しておけぃっ♪ あははっ♪」

 心にもない言葉――本心は一つ、愛しい彼と結ばれること――



「メイちゃんっ! ずるいです〜っ! マイちゃんも混ぜてくださぁい!」

「うんいいよっ♪ 今日は二人で、獲物クンをいじめちゃおっ♪」

 

 彼の恋人を助けてもいいかもしれない。

 彼と一緒にこの城から出てもいいかもしれない。

 そうしたら、本当の五分と五分だ。

 彼の争奪戦には、負けるつもりはない。



「か、勘弁してくれ〜っ! い、いつか死んじゃうよっ!」

 彼の泣き言にメイはたった一言、甘えるような声で言った。

「ダ・メ♥ キミはず〜っとボクだけのものなんだからっ♥」



 難しいことは分からない。

 これから先のことは分からない。

 けれど――



 淫魔メイは、人間を愛し。彼もまたメイを愛している。

 種族が違っても、たとえ本来は獲物と狩人という関係でも――

 こんないびつな愛があってもいいじゃないか。



 メイは今日も、哀れで愛しい獲物クンとどんなプレイをするか、そして彼とどんなセックスをするかを、喜んで考えるのであった……



−END−




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