最後の一人




「うん・・・綺麗だよ・・・」

僕はそう答え、嘆息を漏らした。

地面から盛り上がる根や、葉を茂らせた枝を描く曲線が、彼女の足を、手を思わせる。

幹を覆う樹皮が、艶やかに月光を照り返す葉の一枚一枚が、彼女の肌を思わせる。

美しい。

心の底から、僕はそう思っていた。

「・・・本当か・・・?」

信じられない、という面持ちで彼女が聞き返す。

「私は・・・本当は樹なのだぞ・・・?樹の化け物なのだぞ・・・?」

「それでも、綺麗だ」

「・・・ありがとう・・・」

彼女は小さく言うと、枝を二本、僕のほうへ向けて伸ばした。

枝は優しく僕を、幹から覗く彼女の顔へと抱き寄せた。

そして、どちらからともなく、自然に唇を重ねた。

「・・・」

触れた彼女の柔らかな唇が、僕の唇を強く吸う。

負けじと僕も吸い返し、やがて舌を伸ばしあい、絡み合わせた。

「・・・ん・・・」

さらさらとした、かすかな甘い香りを含んだ彼女の唾液が、かすかにざらついた舌によって僕の口内に擦り込まれる。

「・・・ん・・・ん・・・?」

ふと彼女が、何かに気が付いたかのように目を開く。

細い枝が一本、僕と彼女の幹の間に差し込まれ、僕のペニスをまさぐる。

「・・・ぷはぁ・・・接吻だけで、こんなに大きくして・・・」

彼女の言うとおり、僕のペニスははっきりと分かるほど屹立していた。

「ここも、こうして欲しいのだな?」

しなやかな枝が、布越しにペニスを軽くなで上げる。

木の枝ではあるが、紛れも泣くそれは彼女の身体の一部だ。

その事実が、僕に与えられる快感をぞくぞくしたものに高めていた。

また、彼女も興奮してきたのか、頬に赤みがさしていた。

「ふふ・・・硬いな・・・」

そういうと、新たな枝が伸びてきて僕の衣服にその先を引っ掛けた。

僕は彼女の意図を悟り、衣服のボタンをはずし、ベルトを緩めて彼女が脱がせるのに任せた。

やがて僕から衣服を脱がせると、枝は僕の手足に巻きついてきた。

蝶を捕まえるかのようにやさしく締め付け、そっと僕の体を持ち上げる。

「それでは・・・ニオコマドの掟にのっとって、私の真の姿で婚礼の儀をはじめる・・・」

彼女が喜びに震える声で言うと、彼女の露出した胸部より下の、樹木の幹の部分に縦に亀裂が入った。

亀裂は左右に広がり、その鮮やかなピンク色の内部をあらわにしていく。

「・・・・・・」

僕は言葉を失っていた。

整った彼女の顔からなだらかな丘陵を描く乳房、そしてその下に開いた女陰を連想させる亀裂が作り出す、美しいラインにだ。

「ニオコマドの掟では、男と女の交わりをもって二者を夫婦となす」

彼女の言葉と、月明かりを照り返す粘液のせいか、繊維質のはずの亀裂がひくひくと蠢いて、僕を誘っているかのように見えた。

「お前は、この私の姿を美しいと言ってくれた」

僕の体を支える枝に力がこもり、彼女のほうへと僕を近づけていく。

顔が接近し、彼女が潤んだ瞳で僕の目をのぞきこむ。

「だから、この姿のまま交わってくれるな?」

その問いに、僕は小さくうなずいた。

「・・・ありがとう」

そう言うと、僕の腰を覆う枝が位置をずらし、屹立したペニスを露出させた。

そして、膨れ上がった亀頭が彼女の亀裂に接近し、触れた。

「うぁ・・・」

予想以上の亀裂の柔らかさに声を上げるが、枝は構うことなく僕の身を幹へと寄せていく。

粘液にぬめる亀裂に、亀頭、カリ首、幹、とペニスが次第に飲み込まれていく。

亀裂の内部は、植物のような繊維質ではなく、完全に柔らかな肉の感触をペニスに伝えていた。

まるで、彼女自身と交わっているような・・・

「どうだ、私の中は・・・?」

その彼女の問いに、この亀裂が本当に彼女の膣であることを、僕は悟った。

彼女の膣は、僕のペニスを貪欲にくわえ込み、離すまいと心地よく締め付けていた。

「すごく・・・いい・・・あぅ!」

賛辞の途中で、不意に膣の内部が蠢き、僕の言葉を中断させる。

膣内部の粘膜は、ペニスを根元から先端へと扱くように圧力を変化させて、僕に痺れるような快感を与えたからだ。

「本当に・・・嬉しかった・・・」

枝が僕の体を幹に押し付け、抱き合うような形になる。

「一緒に・・・森を守る方法を考えたことが・・・」

ペニスを舐るように襞が波打ち、表面を刺激する。

「ニオコマドの掟に・・・理解を示してくれたことが・・・」

亀裂が更に大きく広がり、ペニスの根元どころか、玉まで飲み込んでいく。

「私の夫に・・・なってくれるといったことが・・・」

枝が解け、大きく広がった亀裂の中へ腰を、太ももを、足を押し込んでいく。

「そして・・・私の本当の姿を知っても・・・」

うねり、波打つ粘膜が下半身全体を包み、脳が解けるような快感を注ぎ込んでくる。

「美しい、と言ってくれたことが・・・」

枝の一本が僕の頭を捕らえ、強引に彼女の顔へと引き寄せる。

「本当に・・・嬉しかった・・・!」

枝に力がこもり、唇を重ね合わせた。

彼女の舌が僕の口腔に侵入し、粘膜を撫で、くすぐる。

彼女の言葉と、口内の彼女の舌と、下半身を包む彼女の粘膜の感覚が、僕を絶頂に押し上げた。

「・・・!!」

腰の奥で渦巻いていた興奮が、快感が、粘液のほとばしりとなって尿道を駆け上り、彼女の体内へ放たれる。

精液を受けた彼女の胎内は、喜びに震えるように粘膜をうねらせ、なおも精液を搾り取らんとペニスを刺激した。

その刺激を受け、更に精液が放たれる。

「・・・!・・・!!」

「・・・!・・・・・・!」

無言のまま、貪りあうかのように唇を重ね合わせたまま、しばしのときが過ぎる。

そして体内の精を注ぎ尽くしたせいで、僕の体中から力が抜け、二人の唇が離れた。

疲労により急速に薄れ行く意識の中、彼女の声が耳に届いた。

「ありがとう・・・カモガワ・・・」

















柔らかな座席が、飛行機のエンジンの振動を受けて揺れ、全身を加速の圧迫感が襲う。

僕の右手にある窓からは、すさまじいまでの速度で景色が流れていき、はるか下のほうへ小さくなっていく様が見えた。

「・・・」

手の中にある、親指ほどの大きさの気のみを弄びながら、僕は小さくなっていく飛行場や街の姿を眺めていた。

やがて意を決し、左側に顔を向ける。

「・・・あの、先輩・・・」

「・・・」

先輩は無言で顔を覆い、座席に深く埋まっていた。

「先輩・・・どうしたんですか・・・?」

「・・・」

しばしの沈黙があった。

「街を歩いてたらね」

「はぁ」

「街を歩いてたらね、いかにもそれっぽいお店の前でおばちゃんがボクを呼び止めたの。

『べりーやんぐがーる、べりーせくしーがーる、のっといくすぺんしぶ、おんりーてんだらー』って。

それでボクそのままそのお店に入って、薄暗いところで座って待ってたの。そしたらね・・・」

先輩は顔を覆ったまま鼻を啜り、続けた。

「呼び込みやってたおばちゃんが入ってきてね、ボクのまえにしゃがみこんで、ボクのずぼんをおろしてボクのかめさんとこんにちわーって」

「分かりました先輩、分かりましたからもういいです」

啜り泣きを始める先輩をなだめ、視線を窓のほうへ戻す。

そこにははるかに密林が広がっており、僕が歩いて回ったのがほんの一部分でしかないことを痛感させた。

そしてあの密林のどこかに、彼女がいるのだ。

「・・・」

広大とはいえ、開発に伴いいつかは消えていくであろう密林と、いつかはいなくなってしまうであろう彼女のことをふと思った。

あの後の、一緒に日本へ来ないかという僕の問いに、彼女は『いいえ』と答えた。

『あなたの気持ちはすごく嬉しいけど、私はこの森で、この森が私だから、一緒に行くことは出来ない。その代わり―』

日本で育てて欲しい、と一粒の種をもらった。

水と光が十分にあれば、ロシアでも育つと彼女は言った。

「・・・」

僕はその種を掌中で弄びつつ、小さくなっていく密林に目を落としていた。

あの密林のどこかから、彼女はこの飛行機を見ているのだろうか?

そして僕に思いを馳せてでもいるのだろうか?

「それでね、こんどはね、おばちゃんとあばあちゃんが『肛門ペニス同時攻めだぁーッ!』ってまえとうしろからぼくをさんどいっちしてね」

耳から入ってくる先輩の泣き言を完全にシャットアウトし、僕は密林と彼女に別れを告げた。

(さようなら)

密林の風景が、雲海の下へと消えていった。

おそらく、もう二度と訪れないであろう密林の景色が。






この娘さんに搾られてしまった方は、以下のボタンをどうぞ。




アナザー一覧に戻る