最後の一人
「ば・・・化け物・・・!」
僕は小さくそう叫ぶと、すくんでいた足を懸命に動かし、身を翻して木々の中へと飛び込んでいった。
人間ならまだしも、あんな化け物の夫になるなんてごめんだ・・・!
ひねった足首はまだ全快していないためか、地面に足の裏が触れるたびにかすかな痛みを発していた。
でも背後から近づきつつあるであろうニオコマドの恐怖のほうが、足首の痛みに勝っていた。
「はぁはぁはぁ・・・!」
荒く息を吐きながら、記憶の中の地図の通り、生い茂る木々を掻き分けつつ走る。
「はぁはぁはぁ・・・!」
走りながら後ろを振り返り、枝の間から差し込む月光に照らし出された獣道を見やる。
彼女の姿は見えず、足音は聞こえない。しかし、ついてきていない、というわけではない。
「はぁはぁはぁ・・・!」
足首の痛みが次第に膨れ上がり、耐え難いものになりつつある。
太ももや脛、腹や心臓に鈍痛にも似た疲労が蓄積されていく。
止まりたい。
でも、止まるわけには行かない。
「はぁはぁはぁ・・・!」
もうすぐで『聖地』を抜け、さらにもう少し進めば人里に出られる―!
そう思った瞬間、僕の足元が掬われ、バランスを崩した。
「!!」
声にならぬ声を上げつつ、急速に接近する地面に向けて反射的に手を突き出す。
手首に鋭い痛みが走り、僕の身体は地面に転がった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
足首が激痛の叫びを上げ、両脚が疲労を訴える。
耳の奥でゴウゴウと血液の流れる音がし、噴き出す汗が全身を冷たく濡らす。
限界だった。足首の痛みがなかったとしても、もう走れないだろう。
それでも僕ははいつくばった姿勢のまま、『聖域』の出口へ向けて這い進もうとした。
と、僕の耳に植物の葉が擦れ合う音が届く。
「やはり・・・口先だけなのだな・・・」
首だけをひねって背後に視線を向けると、そこには一糸纏わぬ姿のままの、人間の格好をしたニオコマドが立っていた。
彼女は傍らに生えた巨木の幹に手をつき、悲しげな瞳を僕へ向けていた。
「あんなに・・・あんなに世話してやったのに・・・」
無意識のうちに僕は仰向けになり、肘と腰で後ずさるようにして彼女から距離をとろうとした。
しかし、数メートルも進まぬうちに、僕の背中に木の幹が触れる。
逃げ場を失った僕の無様な姿を見たくないというかのようにに、彼女は軽く目を閉じた。
「お前に・・・もう私の夫になる気がないというのなら・・・ニオコマドの掟にのっとり、お前を裁く」
再び彼女が目を開くと、そこに悲しみの色はなく、無感情なガラス玉のような瞳が現れた。
「ロデス・コデス・アデス・オルテス」
彼女の唇が滑らかに動き、なんともいえない言葉が紡ぎだされる。
そしてその言葉に答えるかのように、僕の背後にある樹木の幹が震えた。
「・・・その者を縛れ」
彼女が低くつぶやくと、樹皮を突き破って生えた新たな枝が、僕の全身を拘束する。
「あ・・・が・・・」
全身を締め上げられる苦痛に、僕は声を漏らした。
次第に意識が朦朧としていき、視界がかすんでいく。
「ふん、締め上げられているというのに、ここをそんなにして・・・」
いつの間にか僕の側に立っていた彼女が、手を伸ばして僕の股間を撫でる。
ズボンと下着の布越しに、彼女の指が膨張しきった僕のペニスに触れた。
「夫になると言ったと思えば逃げ出して、化け物といったかと思えばこんなに膨らまして。全く、お前は口先だけだな」
そう言って、彼女は嘲笑した。
その間も彼女の指は休むことなく動き続け、朦朧としていく僕の意識にくすぐったさを含んだ快感を送り込み続けた。
裏筋を軽くなぞり上げ、カリ首をなぞり、亀頭をぐりぐりと擦りたてる。
片手の、たった数本の指が生み出す動きは複雑かつ滑らかで、着実に僕を追い詰めていく。
手足を苛む痛みが次第に小さくなっていき、ペニスへの刺激が僕の意識を支配していく。
そして、限界に達する。
「あぅ・・・」
ペニスを脈打たせながら、生温かい精液が下着の中に放たれる。
吹き出た粘液がペニスに絡みつき、ねっとりとした不快な感覚を脳へ伝える。
「もう漏らしたのか」
若干のあきれを含んだ彼女の声が、僕に浴びせかけられる。
「ほんのちょっと擦ってやっただけだというのに・・・我慢弱い上に、口先だけとは・・・全く、お前のような男が夫でなくてよかった」
腰周りを締め上げる蔓が緩み、新たに伸びてきた枝がズボンをおろしにかかる。
抵抗しようと身をよじるが、射精の余韻のためか身体に力が入らない。
あえなく僕は下半身を夜風にさらすことになってしまった。
「なんだこれは」
ここ数日間全く抜いていないためか、僕のペニスはまた屹立していた。
「自分の精液を絡みつかせて、ギンギンに膨らまして・・・あぁ見るのもいやだ」
蔑みの含んだ声で、彼女が言い放つ。
「お前なぞ、これで十分だ」
言葉と共に、僕を拘束する蔓の間から新たな蔓が姿を現す。
それは他の蔓と異なり、表面を滑らかな表皮と粘液が覆っていた。
表面を覆う粘液が月明かりを反射し、ぬらぬらと照っている。
「行け」
短く彼女が命じると、蔓は僕のペニスに巻きついてきた。
「う、うわ・・・」
火照ったペニスの表面に、蔓が粘液をこすり付けるように蠢く。
粘液越しに滑らかな蔓の表皮がペニスを締め付け、僕は小さく声を上げていた。
蔓の動きは先ほどの彼女の指よりも、はるかに柔軟に動き、僕の脳へ快感を注ぎ込んでいく。
幾重にも巻きつけられた蔓が一気にペニスを締め上げて、僕にまた限界が訪れた。
「ぅあ・・・!」
意識が一瞬はじけ、ペニスの痙攣と共に白濁液が蔓の隙間から溢れ出ていった。
僕の呼吸が落ち着いたところを見計らって、彼女が口を開いた。
「ふん、蔓にいじられて身悶えして・・・お前は気持ちよければ何でもいいのか?」
植物に弄ばれて、射精してしまったという事実を指摘される。
「く・・・う・・・」
屈辱感が僕の心中を占めていたが、その一方で心地よさもあった。
「どうせお前のような男ならば、気の節穴を見ただけでも欲情するのであろうな?ほれ」
目の前の地面を突き破り、背が低く太い幹の木が姿を現す。
枝葉はなく、滑らかな樹皮が表面を包んでおり、幹の中ほどに穴が開いていた。
縦長の、ちょうどペニスを差し込めそうな大きさの穴で、内部から溢れ出す粘液のせいか、ひくひくと蠢いているかのように見えた。
僕の鼻腔を、甘い香りがくすぐる。
「ふん、やはりな」
彼女は、硬度を取り戻した僕のペニスを見下ろしながら続けた。
「お前は穴があれば何でもいいようだな」
彼女の言葉に答えるかのように、ペニスが脈動する。
「そんなに入れたければ・・・」
目の前の木が、その高さを増し―
「入れてやる・・・!」
彼女の言葉と共に倒れこみ、寸分たがわず僕のペニスを飲み込んだ。
瞬間、ペニスをすさまじいまでの刺激が襲う。
粘液にまみれた穴の内部は、起伏に富んだ襞に覆われていた。
そしてその襞の一つ一つが固いものや柔らかいものなど、様々な種類に分かれていた。
穴の大きさも、思っていたよりわずかに小さく、結果ペニスを襞が適度に締め付けていた。
「あ・・・うああ・・・」
「どうした?気持ちよすぎて言葉が出ないのか?」
気持ちいい。
彼女の手や、先ほどの蔓とは比べ物にならないほど気持ちよかった。
適度な締め付けと粘液にまみれた襞のもたらす感覚は、すばらしかった。
でも、それだけだ。
別に襞が蠢いているわけではないし、締め付けが変化するわけでもない。
ましてや、僕を絶頂に導くように動くだなんて、もってのほかだ。
「・・・う・・・」
小さくうめき声を漏らしながら、僕は身をよじらせる。
しかし枝によって腰どころか、ほぼ全身が固定されていた。
「ん?もしかして腰を振りたいのか?」
ニオコマドが、僕を見下ろしながら言う。
「お前はただ、木の穴に突っ込んでいるだけだぞ。だというのに腰を振って、たっぷり出したいのか?」
彼女の言葉に、僕はせがむような気持ちで何度も頭を上下に振った。
「そうかそうか、だったら振るといい」
下半身を押さえ込む枝が緩み、腰が自由になる。
僕は腰の解放と同時に、猛然と下半身に力を込めた。
幹を突き上げるように腰を持ち上げ、力を抜いて腰を落とす。
幹が固定されているため、必然的にペニスは穴を出入りする。
腰を持ち上げると、穴の内側の襞がペニスの侵入を阻むかのように密着し、亀頭や幹の表面を擦りたてる。
腰を下ろせば、抜けていくペニスを引きとどめようとするかのように、波打つ襞の表面がカリ首に引っかかっていく。
「・・・く・・・う・・・」
「ははは、一生懸命に腰を振って。まるで盛りのついた犬だな」
侮蔑の言葉が放たれるが、僕は反応も返さず腰を振った。
いや、興奮のあまり反応が返せなかったというべきか。
弄ばれて、射精させられていたのに比べ、自分から腰を振るということが、ここまで興奮するとは思わなかった。
周囲から景色が、音が、身体を締め付ける枝の感覚が消えていき、ペニスにまとわりつく襞の感触だけが意識を支配していく。
心臓の鼓動が加速し、腰の動きも早くなっていく。
そして一際高く腰を持ち上げると同時に、意識がはじけた。
「うぁ・・・!」
手足が細かく痙攣し、三度目の射精が始まった。
「ああ・・・ああ・・・!」
射精にあわせてペニスが脈動し、ペニスの表面に襞がまとわりつく。
その刺激が更なる快感を生み、精液を体奥から導いた。
「出てるぞ出てるぞ、三度目とは思えん量だ」
絶頂に全身を貫かれている僕に、彼女が声をかける。
「手伝ってやろう」
「!?あああああっ!!」
彼女の言葉に反応し、ペニスを包む穴が蠢いた。
深々と突き立てられたまま動かないペニスに代わって、襞が上下に動き始めたのだ。
射精が続いていたが、とっさに僕は腰を落とそうとした。
しかし、それは再び絡み付いてきた枝によって阻まれた。
「ほれ、遠慮するな」
彼女の声に、上下に小刻みに動いていた襞が、回転し始める。
「うぁあああああ!」
脳髄に叩き込まれる快感に、僕はただ叫び声を上げ、精液を噴き出すしかなかった。
「声まで上げて、そんなに嬉しいか」
「ああああっ!あがああああっ!!」
尿道を精液が通り抜けていく感覚は、もはや激痛と化しており、睾丸も鈍痛を訴えている。
しかしペニスを嬲る襞は、僕の意識を絶頂の域に持ち上げたまま、下ろすことを許さなかった。
興奮と、ペニスへのわずかな刺激を頼りに、脳が射精の命令を下し、睾丸から精液が搾り出される。
「ほらほら、もっと出していいんだぞ?遠慮するな」
「あああああ!!」
脳内を稲光が走り、意識が蝕まれていく。
もはや射精しているのかどうかさえ分からなくなってきた。
でも、一つだけはっきり分かることがある。
彼女は、ニオコマドはもう僕を放すつもりはない。
このまま、僕の命が尽きるまで。
「ぁあああああっ!ああ・・・!」
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